『The Covers』 NHK BSプレミアム 2018.9.23 再放送(ゲスト:グループ魂) 感想

TV Program:

『The Covers』 NHK BSプレミアム 2018.9.23 再放送(ゲスト:グループ魂) 感想

 

MC:リリー・フランキー 池田エライザ、ゲスト:グループ魂 Char

NHK BSプレミアムにて月1で放送されているこの番組。ラテ欄に‘グループ魂’とあり急いで録画。どうも8月放送分の再放送のようでした。番組H.Pを見ると7月はクレイジー・ケン・バンドだった模様。くっそ~、見逃して残念。この番組は月一だからつい見逃してしまうんだよなぁ。

ゲストのグループ魂は元々、劇団「大人計画」のメンバーを中心に結成され、もう10年以上も活動をしているそうだ。活動は年に合わせても1週間程度ということで、パンク・バンドと称しながら細く長くやってますと自虐的に話していました(笑)。過去にテレビで何度か観た印象は遊びの延長みたいな感じで、失礼ながら完全にイロモノとして見ていましたが、この日観たグループ魂はなかなかどうして立派なもん。演奏も上手いし、立ち居振る舞いも完全にバンド。ちょっと見直しました。ちなみにメンバーを列挙すると、阿部サダヲ、宮藤官九郎、皆川猿時、村杉蝉之介、三宅弘城、小園竜一、富澤タク。それぞれ破壊(=阿部)とか暴動(=宮藤)とかバイト君(=村杉)といったバンド・ネームも付いとります。

今回のテーマは昭和のアイドルってことですが、年齢的に1980年前後ですね。カバーしたのはチェッカーズの『哀しくてジェラシー』と渋谷哲平の『Deep』。どっちも良かったけど、『Deep』の方がカッコ良かったかな。クドカンがテンポを倍にしてごまかしましたって言ってたけど、全然パンクの王道って感じで良かったですね。ただもう元歌の渋谷哲平の映像が…。リリー曰く「インベーダー・ダンス」を含めてのインパクトが強烈過ぎて、やっぱ破壊力では元歌だなと(笑)。

トーク・コーナーではメンバーの好きなアイドル遍歴が披露されて、エライザさんが終始引き気味だったんだけど、港カヲルこと皆川猿時が「(渡辺)美奈代もいいけど、エライザもいい」と言った時のエライザさんのド引き具合が最高でした(笑)。

番組は中盤からゲストが登場。赤い彗星と同じ綴りのレジェンドChar。常人の3倍で弾くチャーさんです。流石NHKということで若かりし頃の映像が流れるんだけど、これが20才そこそことは思えない色気で、何でも当時はセックス・アピールが強すぎるってことで出入り禁止になった場所もあったとか。セックス・アピールが強すぎるってどういうことやねん(笑)!で、その「男が一度は言われてみたい言葉(←リリー談)」を持つチャーさんがその場で持ち歌『気絶するほど悩ましい』をアコースティックで披露。これがまた大人の色気満載で、思わずあのエライザさんが「女性ホルモンが出た」と仰ったぐらいなもんで。てことで皆チャーさんの唄よりもエライザさんのその一言にやられちゃいました。ハイ、もちろん私もです…。つーかエライザさん色っぽ過ぎ!そのくせ下ネタには引き気味で、私お酒飲めないんです…みたいなウブなところも見せやがる。こりゃおっちゃん通ってまうやろっ!

歌に戻って、チャーさんとグループ魂のコラボ。『チャーのフェンダー』と『チャーのローディー』のメドレーです。勿論、途中でコント挟みます(笑)。『チャーのフェンダー』っていうのはチャーさんのローディーの気持ちを歌った曲で、『チャーのローディー』はローディーに対するチャーさんの不満を歌った曲。どっちもグループ魂の持ち歌です。これがカッコ良かった。最初にも書いたけど、グループ魂のバンドとしての力量が、えっ!?こんなだっけ?っていうぐらいこなれてて、チャーさんと共演しても全然違和感なくやってける。活動期間は年に1週間程度と言うけど、みんな好きで結構練習してんだろうな~って微笑ましくなりました。ていうかクドカン、ギターうめー。それにやっぱ細身の人が上下タイトに黒でバシッと決めて、足広げてギター鳴らすってのは絵になるねぇ~。クドカンがカッコよく見えた(笑)。阿部サダヲにしたって、本職でもこれだけシャウト出来る人いませんぜ。

それにしても真剣にプレイして、コントにまで付き合うチャーさんは素敵っす。阿部サダヲこと破壊にチャーハン、チャーハンって言われても全然気にしないんだもんな~。そうそうトークでチャーハンが、いやチャーさんが彼らはクレイジー・キャッツとかドリフみたいで今時こんなバンドいないから好きだみたいな話をして、そういや昔はちゃんとしたバンドの音楽コントって結構あったよなぁって。グループ魂は技量にも優れているし、なんてったって舞台俳優だからパフォーマンスはバッチリ。1週間と言わずもっと沢山出てくんねぇかなと思いました。そういや天下のチャーさんのギタープレイに割って入る村杉蝉之介ことバイト君のブルースハープもカッコよかったぞ!

ラストはグループ魂の新曲「もうすっかりNO FUTURE!」。加齢についての歌だそうです。「セックスレス・ピストルズ」って歌詞が最高(笑)。そういやちょっとまえに最近の日本人はなかなかオッサンになれないっていう記事があって、かくいう私も一向に貫録無くて、逆に若いですねなんて言われて図に乗ってますが、昭和のオッサンみたいにしっかりとしたオッサンになれなくても、彼らのようなバカ中学生みたいなオッサンもそれはそれで素敵だなと思いました。

番組の最後はいつものスナックを舞台にしたミニ・コーナー。ミッツ・マングローブ率いるオネエ・トリオによるカバーです。今回はテーマにちなんで中森明菜の「ミ・アモーレ」。これがまた上手いんよね~。いつもながら聴き入ってしまいました。そして聴き入りつつもつい目をつむって聴いてしまう私でした…(笑)。

Eテレ『日曜美術館~北大路魯山人X樹木希林~』 感想

TV Program:

Eテレ『日曜美術館~北大路魯山人×樹木希林~』 2017年8月6日放送(2018年9月23日再放送)

 

北大路魯山人は美にこだわる。
洗濯物の干し方ひとつで怒鳴り込む。

樹木希林さんは言いました。

 「どうでしょう、
  魯山人の美を理解できた人はひとりいたかどうか。」

希林さんは司会の井浦新さんに尋ねます。

 「あなたに理解者はいますか?」

井浦さんは口ごもります。
(ちなみにこの人はいつも口ごもります。それがとてもいいと思います。)

 「すぐには名前が出てこないです。」

希林さん、

 「そういうもんじゃないですか。
  人にあまり期待してもらっては困ります。」

 

いやぁ、やられました。お婆ちゃんのアフォリズムやね(笑)。人と人は本来わかり合えないもの。欲張っちゃいけませんね。たまに分かってくれていると感じた時には、ラッキーぐらいに思っておけばいい。そういうことでしょうか。

番組の最後の方で、希林さんにとって人生は「持って生まれた綻びを繕っているようなもの」と仰っていました。ふむふむ、生きるとは何かを積上げていくものかと思っていたけど逆か。穴ぼこを埋めていく作業。なるほど、確かにこっちの方がしっくりくるな。ただ私の場合は持って生まれた綻びだけじゃなく、今も進行形であちこち破れちゃってますが(笑)。

てことで、私も死ぬ間際には、沢山のツギハギだらけの布っきれになっていたいなぁと、そんな風に思いました。

Let’s Go Sunshine/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Let’s Go Sunshine』(2018)The Kooks

 

出ましたクークス。4年ぶりです。えらい待たせたね~。かなり前に前作(『Listen』 2014年)の続編みたいな感じでレコーディングを始めていたらしいけど、これは今すべきことじゃねぇって一旦白紙に戻したそうだ。で仕切り直し。じゃあこれぞクークスってのを作ろうじゃないかって出来たのが本作だ。

アルバムはイントロ(←このイントロが最後にいい感じでリプライズされる)があって2曲目『Kids』で始まる。僕はクークスを表す際、ついUKギターバンドの雄とかUKギターロックの系譜なんて言ってしまうんだけど、この『Kids』は正にそんな感じ。リアム・ギャラガーのソロ作(『As You Are』 2017年)に入ってそうな雰囲気で、間奏のタンバリンもリアムが叩いてんじゃねぇかって(笑)。ただ大きく違うのはバンド感。そりゃソロ1作目のリアムとは比べぶべくもないけど、このバンド感は流石というか、今回はルークのソングライティングに重きを置いたアルバムだという情報が頭にあったけど、それプラス、バンド感。ルークのソングライティングも含めて、バンド感がすっごく前面に出ていると思います。

例えば#5『Fractured and Dazed』。曲がまたいいんだけど、バンドがそれをしっかり下支えしている。ルークの作った曲に寄り添っているというか、派手さは無くても全体が塊としてガッ来る感じが一体感があってとてもいいのです。またギターのヒュー・ハリスがいつもながらバックで実にいいフレーズを奏でてます。この人は前へ前へっていうギタリストではないんだけど、実はクークス・サウンドの肝はこの人なんじゃないかというぐらい毎回いい仕事をしています。ちなみにこの曲は終わったと思ったらまたドゥンドゥドゥドゥドゥンッて始まるところも最高だ。

このアルバムはとにかくメロディがいいんだけど、初期からのファンにはちょっとスピードが物足りないかもしれない。でもよ~く聴いて欲しい。#7『Four Leaf Clover』なんてどうです。心が走ってませんか。メロディはとても綺麗だけど心がつんのめって走り出している。音は成熟しているけど、心は切羽詰っている。この曲はキャリア12年を経たクークスの一つの到達点と言っていい名曲じゃないでしょうか。ルーク節の「んまぁい~ん♪」(←mind のことです)も聴けるし(笑)。

アルバムはここで前半の区切り。LPで言うところのA面終了やね。後半はレトロな#8『Tesco Disco』、#9『Honey Bee』で気分転換。『Honey Bee』なんてオールディーズ感満載で面白いね。#11『Pamela』はアルバム唯一のスピード・ナンバー。クライマックスへ向けてここらで一回ギアを上げてこうかって曲。こういう感じはお手の物。テンポ・ダウンしてまた加速していくところなんかも流石のクークスです。

#13『Swing Low』はロッカ・バラード。この曲で終わってもいいぐらいのゆったりとしたいい曲。けど、その流れを引き継いでく#14『Weight of the World』が輪をかけて素晴らしいです。シンプルなのにこの奥行き。ワンフレーズのコーラスなのにものすんごい情感。ポール・マッカートニーかっちゅうぐらいの素晴らしいメロディやね。出だしのピアノといい中盤からのトランペットといい、アレンジも最高だ。

最後の曲は#15『No Pressure』。前曲の余韻から入るイントロのギターがいい感じ。前々曲、全曲で胸がいっぱいになったところで、最後に軽やかな曲を持ってくる構成も抜群だ。まるでミニシアターで観る青春映画のエンドロールみたい。この曲もいいメロディだ。

これぞクークスという意気込みで始まったという創作。その目論みは大成功。クークスのアルバムはどれも好きだけど、これまでの魅力をギュッと恐縮したような本当に集大成のようなアルバムになっていると思います。曲はいいし、バンドはいいし、けど全15曲のボリュームを感じさせない軽やかさ。よいメロディにはノスタルジーが宿るっていうけど、このアルバムにもセピア色の写真を見るようなよいメロディがいっぱい詰まっている。これが売れなきゃどうせいっちゅうような素晴らしいアルバムです。

 

Track List:
1. Intro
2. Kids
3. All the Time
4. Believe
5. Fractured and Dazed
6. Chicken Bone
7. Four Leaf Clover
8. Tesco Disco
9. Honey Bee
10. Initials for Gainsbourg
11. Pamela
12. Picture Frame
13. Swing Low
14. Weight of the World
15. No Pressure

Free All Angels/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Free All Angels』(2001)Ash
(フリー・オール・エンジェルズ/アッシュ)

 

今年出たアルバム『Islands』(2018年)が凄く良かったのだが、実はアッシュを長い間聴いていなかった。と言ってもその前のアルバム自体が久しぶりの作品だったようで、なんだ僕のせいでも何でもないやと開き直っているところでございます。ところでアッシュといやぁこの『Free All Angels』(2001年)。せっかくなんで久しぶりに棚から出して聴いてみました。

こりゃもうベスト・オブ・アッシュやね。ヘビーなロックチューンにスローソング。これでもかと言うぐらいいい曲が沢山詰まってます。でまた改めて聴くと構成が素晴らしい。スローソングの後には間髪入れずスピードナンバーを入れてきたり(#10『Sometimes』の後の#11『Nicole』)、シンセや打ち込みを挟んでみたり(#4『Candy』)、ストリングスなんてのもあるわで(#7『Someday』や#12『There’s a Star』)ホントに飽きさせない展開。曲間がほとんど無く、すぐ次の曲に移るとこなんかも正にベスト盤の様相だ。

1曲目の『Walking Barefoot』からして最高やね。夏の終わりの切ない感じが凄く出てて、初っ端にこれ聴いて何とも思わない人はもうロックなんて聴くんじゃねぇって感じ(笑)。そうそう、このアルバムのイメージはやっぱ夏なんだけど、特にちょうど今の季節、夏の終わりがぴったりはまるアルバムです。ちょっぴり寂しい感じがよく出てる。この曲なんて「we’ve been walking barefoot all summer」っていう歌詞ですからもうそのまんまですね。

その後#2『Shining Light』、『Burn Baby Burn』とヒット曲が続くあたりもう完全にベスト・アルバム扱い。ていうか曲良すぎ(笑)。今年の『Islands』もホントにフレッシュなソングライティングで、ティム・ウィーラー、アラフォーのクセにスゲェなと思ったが、この時20才そこそこのティムは当然ながら勢いがあってキレキレでございます。そう言えばこのアルバムはティムさん以外のメンバーが作った曲も入っていて(#6『Submission』、#9『Shark』)、それもいいアクセントになっている。ていうかアクセントどころかすげぇカッコイイ!この頃のアッシュはホント無敵だ。

このアルバムはさっきも言ったとおり夏、というか夏の終わりを感じさせるアルバムでそれがギターロックに良く合っているのだけど(ギターロックとは真夏のイケイケではなく、ちょっぴり切ない夏の終わりのことなのだ)、それに拍車をかけるのがスローソング。#7『Someday』もいいけど、ここはやっぱり#10『Sometimes』。「さ~むたいむ、さぁぁぁ~たいむ」って繰り返しているだけやのにこの切なさはなんなんでしょうか。アルバムを締める最後の#13『World Domination』も完全に夏の終わり。誰もいない海岸を一人で歩きたくなります。

日本盤にはこの後ボーナストラックとして#14『Gabriel』が。長尺のヘビーなナンバーで、次作の『Meltdown』(2004年)へ繋がるような曲。この時点で次作は意識していなかったろうけど、この辺のナチュラルさ加減も当時のアッシュのマジックを感じます。そういやゆったりした#7『Someday』の後に来る#8『Pacific Palisades』も見事やね。全編サビのCMソングのような曲で、サッと始まりサッと終わる。俄然キャッチーなこんな曲をアルバムの中盤にサラッと持ってくるところも神がかってますな。

 

Track List:
1. Walking Barefoot
2. Shining Light
3. Burn Baby Burn
4. Candy
5. Cherry Bomb
6. Submission
7. Someday
8. Pacific Palisades
9. Shark
10. Sometimes
11. Nicole
12. There’s a Star
13. World Domination

日本盤ボーナストラック
14. Gabriel

ミツキとペール・ウェーヴス

洋楽レビュー:

ミツキとペール・ウェーヴス

 

タワレコ・オンラインで注文していたミツキとペール・ウェーヴスの新譜が同じ日に届いた。ペール・ウェーヴスはキャッチーなシングルを昨年から立て続けにリリース。今年のサマソニにも出演し、新人にも関わらず幕張のマウンテン・ステージをほぼ満員にしたという期待のバンドである。ゴスメイクで一見キワモノ的なイメージだが、ボーカルのヘザーはよく見ると整った顔立ちでその点も人気に拍車をかけている模様。僕もYouTubeで彼女達の曲を何度も聴いて、デビュー・アルバムを心待ちにしていた一人だ。

一方のミツキは名前から察せられるように日系の米国人で、大学在学中にファースト・アルバムを自主制作でリリース。その後もコンスタントに新作を発表し、4枚目のアルバム『Puberty 2』では数々の主要メディアの年間ベスト・アルバムに選出されるなど、所謂ミュージシャンズミュージシャンと言われるような、同業者からも非常に高い評価を得ているアーティストだ。ちなみに大学時代に知り合ったパトリック・ハイランドとすべての楽器を2人で演奏し、ミキシングやマスタリング、ジャケットまでを2人だけで行っているという。

アルバムが届いたその日、先ずはテンションがグッと上がるポップ・ソングだろうということでペール・ウェーヴスから聴いた。歌詞カードを開きながら聴き始めたのだが、どうも勝手が違う。どうやらこの歌詞が曲者のようだ。簡単に言うと歌詞がキツイ。全てヘザーの恋愛体験に基づく歌詞なのだそうだが、思春期特有の生々しさがあってその鋭利さがとっても痛々しいのだ。声の感じとか曲の親しみやすさは初期のテイラー・スウィフトっぽくて、実体験を基にした歌詞なんてのもテイラーと同じなのだが、テイラーが外に向かって開放していくのに対し、ヘザーは内気で繊細な感じがモロに出ていて、それが聴いてるこっちにまでリアルに響いてきてしまうのだ。

その日は夜遅かったのでペール・ウェーヴスは前半までにして、今度はミツキの新譜を聴いた。ミツキのアルバムも上手くいかなかった恋愛に関するアルバムだ。けれどこっちは何故か聴いているこちらに落ち着きをもたらしてくれる。僕は彼女のアルバムを聴くのが今回が初めてなので、いつもそうなのかはよく分からないが、彼女は曲とは一定の距離を保っているようだ。まるで演劇とか映画を観ているような気分。恐らくは繰り返し聴くことでその物語はまた違った印象を投げかけてくるのだろう。

当初の印象ではキャッチーなペール・ウェーヴス、情念のミツキ、というイメージだったが、歌詞を見ながら聴いてみるとこちらから距離を詰められるのは以外にもミツキの方で、ペール・ウェーヴスは生傷を見せられるような痛々しさがありました。どっこい、ミツキにしてもある程度まで近づくとそれ以上は近寄らせてもらえないのだろうけど、この試聴レベルで聴いていた時の印象と歌詞カードを手にちゃんと聴いてみた時の印象がそれぞれ全く逆になってしまうというのはなかなか面白い。

といってもこれは初見の印象。共に別れをテーマにしたアルバムがこれから聴き込むつれてどう印象を変えていくのか。それも楽しみな対照的な2枚のアルバムでした。

落語番組の決定版!Eテレ「落語ディーパー」が面白い

TV Program:

落語番組の決定版!Eテレ「落語ディーパー」が面白い

 

月曜の23時からEテレで放送されている「落語ディーパー~東出・一之輔の噺(はなし)のはなし~」がすごく面白い。近年落語ブームということで「落語ザ・ムービー」のような落語に関する番組があったけど、これはその決定版という感じ。落語に興味はあるけど余り馴染みがない人にとっては持って来いの番組だ。

まずその日の放送回でフィーチャーされる噺があって、あらすじが紹介されます。そしてその噺にまつわる背景なんかが語られて、この語られてっていうのが堅苦しくなく、出ている出演者が若い落語家ばかりで我々と同じ目線で語ってくれる。ていうか若いから当たり前のように同じ目線になってしまう。例えばあんな噺は堅苦しくて嫌だとかそういう類の話がポンポン出てくる。落語といやぁお年寄りというイメージで、僕が密かに毎週録画している「日本の話芸」(同じくEテレ、土曜の午後にやってます)だって、出てくる演者は超ベテランばかりだし、やっぱ若い演者が今の感覚で喋るってのは大きいと思います。

この番組のいいところがもう一つあって、それはその回の噺を過去の名人が演じているVTRが流れるところ。しかも一人だけじゃなく対照的な二人の名人の映像を流してくれたりする。例えば9/10放送回だとテーマは「鼠穴」。昭和の大名人三遊亭圓生と僕らでも知ってるあの立川談志の映像が流れる。圓生の方は江戸ッ子のパリッとした語り口で談志はご存じのとおり破天荒な濃ゆ~い語り口。「鼠穴」は困窮した弟に3文しか貸さない吝嗇な兄が出てくるんだけど、圓生だと江戸っ子だからキャラとしては50両でも100両でも貸しそうだと。一方の談志は本当に貸しなさそう(笑)。で貸さないのには理由があるんだけど、談志だとその理由も敢えて言わずに憎んでくれて結構っていう背景が普通に成立してしまう(笑)。だからどっちがいいとかではなく、私はこっちが好みですみたいなトークがあって、この辺は観ていてとても面白かったですね。あと余談ですが、前述の「日本の話芸」で以前桂福團治による「鼠穴」があって、なんでも上方落語の「鼠穴」は珍しいそうですが、凄く生活感があって、妙なリアリティーというか迫力がありました。

あともう一ついいところ。番組にはホームページがあってそこで落語の動画が公開されている。第1回(8/30放送)は桂米團治の「地獄八景亡者戯」(この回の上方落語と江戸落語の違いのトークも面白かったです)。第2回(9/3放送)は番組出演者でもある柳亭小痴楽の「明烏」。第3回(9/10放送)は先ほど話した「鼠穴」でこちらも出演者である春風亭一之輔。いつでもどこでも気軽に観れるのでホントお勧めです(※但し、公開期間があるので注意)。

出演者は春風亭一之輔、柳家わさび、柳亭小痴楽、立川吉笑、俳優の東出昌大、雨宮萌果アナウンサー。一之輔を筆頭に皆さんキャラが立ってます。あと俳優の東出さんの知識とか落語愛がすんごくてびっくりします。番組H.Pによるとこのあと、「粗忽長屋」 9/17(月)、「居残り佐平次」 9/24(月)と続くようなので、今からとても楽しみです。

天声ジングル/相対性理論 感想レビュー

邦楽レビュー:

『天声ジングル』(2016)相対性理論

 

1曲目、やくしまるのアカペラから入って一気にバンドがなだれ込む感じがいい。余計なギミックは必要ない。これはもうただのバンド。そこにやくしまるの声と絡みつく永井のギターがあれば僕なんかはそれだけでほころんでしまう。

新体制になって2作目。彼らの個性が明確になってきた。やっぱ前作はかつての残り香がそこかしこに漂ってたし、まだまだ手探り状態だったのかも。新しいリズム隊。ガンガン行ってる。これこれ、これくらい思い切りやってくれなきゃ。

ソングライティングはすべてやくしまる。今までは他のメンバーだって曲を書いてたはずなのに、これでいくということはもうそういうこと。明確に方向性がバッチリ出ててスゴクいいんじゃないか。ただまぁやくしまるのソングライティングの不安定なこと。素人みたいなライミングや安易な横文字になんじゃこりゃと思いつつも、時折ソロ・ワークで見せたようなキレキレのソングライティングを見せたりもするもんだから、ワザとなんだかもうなんのこっちゃよく分からないんだけど、ただ今回はこの隙だらけな感じに好感を持ってしまえる妙な説得力があって、なんでそう思えるかっていうとそこはやっぱりバンドとしての音像がくっきり形作られたからだろう。いわゆるロック・バンドにはせーのでドッと出てくる勢いというかゴチャゴチャした感じがあって、細かいことは横に置いとける潔さがある。いつも以上に矢面に立ったギターにドンドカ派手なドラムがあって踊りだすベース・ラインがあって裏方に徹するキーボードがあってっていうはっきりしたバンド・サウンドが未完成なソングライティングだってお構いなしに凌駕してゆける。いや隙だらけだからこそ力を持ちえるのだ。ということでやくしまるさん、やっぱりワザとなんだろか?

ただ新体制云々は別にして、5枚目というそこそこキャリアを積んだ中でこういうしっかりした力強いアルバムを出せたということはとても意味があったんではないかなと。バンドとしての体制がここでもう一回がっちり積み上がって、それはつまりこのバンドとは何かということなんだろうけど、ただ単純にバンドとしてステージに立った様がちゃんと目に浮かぶようになったというのは、やはりここでまた一つ階段を上がったという認識でいいのだと思う。実はもっと過大評価していいのかもしれない。

 

Track List:
1. 天地創造SOS
2. ケルベロス
3. ウルトラソーダ
4. わたしがわたし
5. 13番目の彼女
6. 弁天様はスピリチュア
7. 夏至
8. ベルリン天使
9. とあるAround
10. おやすみ地球
11. FLASHBACK

雨はまだ降り止まず

ポエトリー:

『雨はまだ降り止まず』

 

雨はまだ降り止まず
天気予報は嘘つき
てんでばらばらの太陽
お使いから帰らず

愛しい人は今日もお休み
愛用の枕はへこみっぱなし
正しい事を言うくせに
嘘ばっかし
お酒の力も借りて
今日もお休み

エコーは響かない
思えば若葉の頃
巡り合わせの糸を断ち切る事に精一杯の
欠片拾い集める術はなく
眠たげな眼差しは回り続け
光を求めて立ち尽くす雨

思い出の貝殻を拾い集め
海へ漕ぎ出す夢
見たっけ
目を閉じて
大海原に乗り出した私たちは
風の赴くまま
頼りない帆を上げ
白い波を越えていった

今新しく夜明け
いつまでも変わらない二人は
愛用の枕をへこませたまま
今日も新しい一日を
精一杯ループした

 

2018年6月

Junk of The Heart/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Junk of The Heart』(2011)The Kooks
(ジャンク・オブ・ザ・ハート/ザ・クークス)

 

同年デビューのアークティック・モンキーズよりも売れた1st。全英№1となった2nd。ということで、いやがおうにもハードルが高くなるクークスの3rdアルバム。ところがどっこい、期待をよい意味で裏切る素晴らしい作品となった。何がいいって、気負いことなく自然体の中から生まれてきたかのような落ち着いたポップ感が素晴らしい。シングル向けの派手な曲もなければ、過度な演出もないのだけど、その分楽曲のよさが際立っており、掛け値なしのクークスの底力が見事に発揮されている。

‘I wanna make you happy’と歌う表題曲からM3まで続く良質のポップ・メドレーの軽やかさ。そして本作で唯一アッパーな「Is it me」の後半におけるヒロイックな畳み掛け具合は流石である。

これまでのような若さに任せたスピード感がなくとも、曲の力だけで聞かせてしまう圧倒的な楽曲の良さ。すなわちそれは当たり前のことではあるが、ロック音楽といえども結局はソングライティングと的を得たサウンド・デザインにかかっているということだ。とくにどうということのない他愛のないポップ・ソング。しかしその錬度は恐ろしく高く、時の経過にも十分耐えうる作品である。これまでのイメージをするりと脱却した彼ら。もうどこへでも行けそうである。

 

Track List:
1. Junk Of The Heart (Happy)
2. How’d You Like That
4. Taking Pictures Of You
5. F**k The World Off
6. Time Above The Earth
7. Runaway
8. Is It Me
9. Killing Me
10. Petulia
11. Eskimo Kiss
12. Mr. Nice Guy

なんと言っても#8。間奏のギターソロがメチャクチャかっこいい。そこから、ラスサビではなく最初のヴァースに戻って盛り上げるところがニクイぜ。このスピード感こそがクークス!!