忘れたら ごめんなさい
ポエトリー:
「忘れたら ごめんなさい」
朝早く、ほうぼうからトングを手にした人々が集まる。品定めして、名物の大きめのクロワッサンから売れていく。今朝思いついたことは噛りかけ。できることは今ないです。
ここまで来ることができたのは、スピードに乗って空を仰いだことがあるからで、たとえこんな日でも何にしようかと迷うのことの方が、大切だと思ったから。
けれどそのスピードとは裏腹に、トングは大きめのクロワッサンすら掴めずに、手首から先はほどなく、恋しくなるほどふがいなく、記録も何も残らない。
帰り道の商店街を過ぎた辺りから、不意にロケットにでも乗って何処かへ行きたい気分がして、でもそれが望めないから、せめて通りの向こうの高台へジャンプする、気持ち。雲の水分をひと煮立ちして蒸発させれば、水素ロケットぐらい作れるんじゃないか、そんな気持ちで。
パン屋で焼かれる大きめのクロワッサンと普通のクロワッサン。手間はどちらがどうで数はどちらが多いのだろう。などと思いながら、注文した食パン一斤分ならトングは要らないから、たぶん夕方には取りに行ける。
ベーコンやトマトをはさんだらきっとおいしい。でも夕方にはまだ時間があり、今日は午後からひとが来るから、うっかり忘れたらごめんなさい
2025年4月
時
ポエトリー:
「時」
よどみなく消える、時間は
良いときも悪いときも
見さかいなく
わたしたちの舟はゆれる
岸が離れていても近くても
水草に手が届くなら
それが安心
いつからかわたしたちは
困り果てた顔をする
自由だからか
不自由だからか
しかし確かに
訪れるものがある
その日が来るとしたら
きっと今朝のように寒い日かもしれない
それは鉢に薄い氷が張るようなとても寒い日
それは水草の間に花が咲くようなきらびやかな日
一番小さなしあわせがわたしたちを満たすとき
時間はわたしたちだけのものになる
それが行って過ぎるまで
2025年2月
そのひとりとして
ポエトリー:
「そのひとりとして」
外から溢れて
中に入るものがあるなら
わたしはそれを無為にできない
そのひとりとして
訪れるというより
迎えるもの
今日の日、明日の日しか
出口はないのだから
器用に折りたたんでしまえたものが胸元にあって
いつしか取り出す
そんな未来
想像することはタダだから
その受け皿として
わたしは在る
2025年4月
Make ’em Laugh, Make ’em Cry, Make ’em Wait / Stereophonics 感想レビュー
Never Know / The Kooks 感想レビュー
適温
ポエトリー:
「適温」
心の糸がもつれている
すべてをスタンダードに戻したい
鍵穴は壊れてしまった
雨音は数え切れない
地道にいきたい
仮にスペースがあっても
もう小躍りしないで
ゆき過ぎる
その事自体に罪はない
しかしそれを無条件で受け入れるなんて
今のぼくには若さが足りない
夕暮れはもたつきながら春の様相
セーターの毛玉をほつきながら
ぼくは適温を探している
2025年3月
SABLE,fABLE / Bon Iver 感想レビュー
尺
ポエトリー:
「尺」
ある日、
わたしの中でひとが飛び出し
あることない事
わめいている
人間の仕様には大小様々あって
わたしもそのうちのひとつだが
時には嘆き、時には喜び
人には言えぬ物差しで成り立っている
時折、
勢いあまって飛び出すことがあるにはあるけど
ひとにはひとの尺があるのだと
夕べ知り合ったひとが
やはり飛び出しくだを巻く
正直なところ
わたしはそれを信じていない
信じていないが
そういうものがあるということを念頭に
どうやらものを考え、ひとと話をし、くしゃみをしているようだ
抑えきれぬ感情よりむしろ
平穏無事に行かせようとするもの
その限りにおいて
多分、未来は明るい
2025年4月
大きな心
ポエトリー:
「大きな心」
どんなひとにもふさぎ込んでしまう夜が
あるに違いない
そのころぼくは大好きな彼女と
キレイな花を
花を摘んでいる
悲しい顔は
繰り返さなくたっていい
ぼくには大きな
心があるのだ
どんなひとにも天に登る
そんな夜があるに違いない
そのころぼくはイヤなことだらけを
何度も何度も思い出している
悲しい顔は
繰り返さなくたっていい
人には言えない
ことがらがあるのだ
ときどき小さな花を届けてくれるきみが
友だちでほんとうによかった
悲しい顔は
繰り返さなくたっていい
人には言えない
ことがらがあるのだ
悲しい顔は
繰り返さなくたっていい
ぼくは大きな
心を持つんだ
2025年3月