This Is Why / Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『This Is Why』(2023年)Paramore
(ディス・イズ・ホワイ/パラモア)
 
 
6年ぶりの新作。振り返れば、バンド名を冠した2013年のアルバム『パラモア』は全米1位になり、そこからのシングルでグラミーも獲り、さぁしばらくはこの調子でと思いきや、そこに安住せずサウンドを一新。その次の『アフター・ラフター』(2017年)ではカラフルなポップ路線へ舵を切り、さらにヘイリー・ウィリアムスの2020年のソロ作『ペタルズ・フォー・アーマー』では更に目一杯方向転換。実験的でミツキばりのダークな世界観という極端な振れ幅でしたが、そうした取り組みを経ての本作は、キャリアを総括する現時点での最高傑作と言ってよいのではないでしょうか。
 
特にソロとはいえ、メンバーがほぼ参加した『ペタルズ・フォー・アーマー』での成果が大きいかなとは思います。あそこでそれこそビッグ・シーフがやりそうなレディオヘッドばりのサウンドとか、ビリー・アイリッシュやミツキのようなダークさ。初期からのファンには不評だったとは思いますけど、ああいう挑戦をやり切ったことで、新しいパラモアとしての骨格が再構築されていったのかなと思います。
 
もともと良いメロディーを書く人たちでしたけど、パラモアにしか出せないオリジナリティ、例えば、#4『C’est Comme Ça』はポップなフックで耳に残るインパクトを残しつつ、ヴァースの部分は低いトーンのリーディングという、普通ならいびつな構成をごく自然な形で落とし込める能力を得たというのは非常に大きいです。その上で、音楽性云々には言及しなさそうな普通の音楽リスナーが喜ぶキャッチーさはちゃんと保持したままというのは理想的な進化ですね。
 
言葉もうまい具合に転がっていて、今まではこんなに韻を踏んでた印象はないのですが、言葉の載せ方ひとつとっても練度が上がっているような気はします。切ない#5『Big Man, Little Dignity』もホントいい曲でそのまま終わってもよいのでしょうけど、アウトロで冴えたアレンジが何気なくサッと入ってくる。ホント、隅々まで目の行き届いた丹念なアレンジだと思います。
 
若くして人気が出たバンド故にいろいろな苦労があったようですけど、へこたれずに前を向き続けた、何かにおもねることなく探求心を持ち続けた。バンドのアイデンティティーもしっかり積みあがって、いいバンドの一つから、他に比類のないバンドになったのではないでしょうか。

Petals For Armers/Hayley Williams 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Petals For Armers』( 2020年) Hayley Williams
(ペタルス・フォー・アーマーズ/へイリー・ウィリアムス )

へイリー・ウィリアムス、初のソロ・アルバムだそうで。とはいえ共同プロデューサーがパラモアのテイラー・ヨークで今回最も多くの曲でへイリーと共作しているのがパラモアのサポート・メンバーであるジョーイ・ハワードで、パラモアのドラマー、ザック・ファロもいくつかの曲でドラムを叩き、ある曲ではPVの監督までしちゃってる。てことで、もうこれパラモアやん!!

だいたいパラモアってメンバーが結構変わってるでしょ。出たり入ったりもあるけど、全く同じメンバーで続いたの何枚ある?っていう感じで。だからこのへイリーのソロ作もですね、現行パラモアメンバーが何人か加わっているってことで、それはもうパラモアの新作ってことでいいんじゃないすか。

だいたいソロでやろうかって時に、自分のバント・メンバーに声かけますかね普通(笑)。ホントこの人たちの人間関係はよくわからん。ま、そういうよくわからん人間関係がパラモア的ってことでしょうか。

肝心の曲の方ですけど、これだいぶイイですね。特にへイリーのボーカル。このアルバムはここが聴きどころじゃないですか。結構いろんなタイプの曲がありましてですね、「Leave It Alone」とか「Roses/Lotus/Violet/Iris」なんかはレディオヘッドみたいな雰囲気ですし、「Creepin’」や続「Sudden Desire」はダークでビリー・アイリッシュみたいな低音ですよ。

と思いきや「Sudden Desire」のコーラスでは「サドゥン、デザァイヤー!!」って待ってましたのいかにもへイリーなシャウトも聴けるしですね、パラモアの前作で見せたカラフルでサビではリリック跳ねてる「Dead Horse」もあるし、マドンナみたいな80’s感たっぷりの曲「Over Yet」もあって、メロウでオルガンな「Why We Ever」もいいですよ、後半の転調もぐっと来ますし。

ただ今までのパラモアと比べると瞬発力というか一気に持っていく感は低いです。僕も最初はピンときませんでした。でもその分じっくりと染み込んでいくというか、やっぱそこはへイリーのボーカルですよ。実に多彩に歌い分けてる。それもわざとらしくなくごく自然にね。

こういう歌い方聴いてるとこの人は伊達にここまで生き残ってきた人じゃないんだなと、なんだかんだ言いながらへイリーは本物だなぁ、流石だなぁと改めて思い知らされます。このアルバムでの彼女の表現力はホント素晴らしいです。

あと曲調というかサウンド・デザイン含めてですね、詞は100%へイリーなんでしょうけど、メロディはどこまで関与しているのか、多分今回で言うとテイラー・ヨークやジョーイ・ハワードがメインなんでしょうけど、全体の雰囲気とか曲全体の響かせ方ですよね、多分方向性についてはへイリーがタクトを握ってると思うんですよ。パラモアの前作『アフター・ラフター』の変わり様もそうでしたけど、じゃあこっちへ行こうっていう判断、その辺は本当に抜群の感を持ってるなと思います。

ここにきてこういうしっかりとしたアルバムを出せたのは大きいと思います。へイリーさん、個人的にはカウンセリングを受けたり結構大変な時期を過ごしたようですけど、パラモアの前作『アフター・ラフター』でああいう方向転換をして、で今回は更に違う雰囲気のこれ。サウンド的にどうこうではなく、へイリー・ウィリアムスとしての、或いはパラモアとしての骨格がよりがっしりと積み上がってきたなという感覚はありますね。

Track list:
1. Simmer
2. Leave It Alone
3. Cinnamon
4. Creepin’
5. Sudden Desire
6. Dead Horse
7. My Friend
8. Over Yet
9. Roses/Lotus/Violet/Iris
10. Why We Ever
11. Pure Love
12. Taken
13. Sugar On The Rim
14. Watch Me While I Bloom
15. Crystal Clear

Paramore/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Paramore』(2013)Paramore
(パラモア/パラモア)

 

2005年デビューのパラモア、4枚目。このバンドは結構メンバーの出入りが激しいようで、結構ゴチャゴチャしとります。まぁ10代で組んだ田舎のバンドが一気に名声を得てスターダムにのし上がっていくってぇと、そりゃ我々には分からないいざこざがあったりもするでしょう。ボーカルのヘイリーさんはルックスもイケてますから、コマーシャルな部分で随分振り回されたのかもしれませんなぁ。

ただそんな中にあってもずっとパラモアとして活動していく芯の強さ、そんでも負けねぇぞ、っていう心意気がこのバンド、ていうかヘイリー・ウィリアムスの魅力でして、このアルバムは特にそんな心意気満載なのでございます。

で、このアルバム。タイトルからも分かるようにかなり力の入ったアルバムです。収録曲はボーナス・トラックを含めるとなんと19曲!結果から申し上げると、全米1位!全英1位!シングル・カットされた『Ain’t It Fun』ではなんとバンド初のグラミー賞「最優秀ロック・ソング賞」を獲得!ってことでこのアルバムは自他共に認めるパラモア最強の代表作と言えるのではないでしょうか。

まぁとにかく曲がいい!よくもまぁこれだけキャッチーな曲を揃えたなと。メンバーの出入りが激しくて、結曲誰がメインのソングライターかよく分かりませんが(ヘイリーさんは全ての作詞と一部の作曲)、いくらメンバー変更があろうといつも変わらずキャッチーな曲があるってことは、やっぱヘイリーさんの見立てが良いってことでしょうか。

ホント馴染みのいいメロディばっかで#4『Daydeream』なんて散々歌われてきた青春ロックなんですけどグイグイ来る感じがドラマチックでとてもいいんです!#9『Still Into You』や#13『Hate to See Your Heart Break』なんてかわいかった頃のテイラー・スウィフトが歌ってそうだし(今もかわいいですが(笑)、カントリーの頃って意味ね)、#19『Escape Route』のイントロなんてアジアン・カンフー・ジェネレーションじゃねーか(笑)。インタールード的な小品も含めて、ちょっとこれはって曲ないです、ホントに。

そんなグッド・メロディが、パラモアはなんつってもエモ・パンクですから(←これも分かるようでよく分からん形容ですが)、タイトな演奏で畳み掛けるようにハード・ロッキンするわけですよ。そりゃあいいに決まってるじゃあないですか!しかも歌詞が勝気でいい!例えばグラミー獲った#6『Ain’t It Fun』なんて日本風に意訳すりゃ、夢を抱いて田舎から東京に一人でやって来た女の子が、「面白いと思わない?誰も頼る人がいないなんて!」、「ぜって~メソメソ、ママに電話なんかしないし」っていう歌で、私みたいな40過ぎのおっさんが聴いてもグッと来るわけですよ。#4『Daydreaming』なんて「私は昼も夜も夢見てる」っていう歌詞ですからやっぱパラモアはとことんエモいのです。

ただまぁヘイリーさんには悪いですけど、このバンドは出たり入ったり、これからもしちめんどくさいことが起きるんじゃないかと思ったりもして。そんでもってその度に「上等じゃねぇか!」ってまた立ち上がるっていうようなパターンを繰り返すと。もうそういうの込みのパラモアってことでいいんじゃないでしょうか(笑)。

 

1. Fast in My Car
2. Now
3. Grow Up
4. Daydreaming
5. Interlude: Moving On
6. Ain’t It Fun
7. Part II
8. Last Hope
9. Still Into You
10. Anklebiters
11. Interlude: Holiday
12. Proof
13. Hate to See Your Heart Break
14. (One of Those) Crazy Girls
15. Interlude: I’m Not Angry Anymore
16. Be Alone
17. Future

 (日本盤ボーナス・トラック)
18. Native Tongue
19. Escape Route

After Laughter/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『After Laughter』 (2017)  Paramore
(アフター・ラフター/パラモア)
 
 
パラモア、4年ぶり、5枚目のアルバム。前作が全米1位になって、シングルがグラミー獲ってってことで順風満帆かと思いきや、なんか大変なことが起きてたみたい。なんと金銭が絡むメンバーの脱退劇があったようで、ボーカルでソングライターのヘイリーさん、かつてないほど落ち込んだご様子。歌詞を読んでると、ネガティブな言葉が出てくる出てくる。PV観てても渋いエモ姉さんだったのが、メンバー揃ってパステルカラーの衣装着ちゃってるし、もうヤケクソかえ?なによりなんじゃこのサウンドは、全然エモくないやん!
 
とうことで驚くことなかれ、今回はシンセ・ポップ感満載です。いや~ん、やめてぇ~!全然エモくな~い、ドラムがドゥルンドゥルン言ってな~い、とお嘆きのあなた。確かにパラモアの魅力はエモ・パンクと称されるハードでタイトな演奏にヘイリーの大谷翔平ばりの剛速球ボーカル。それがテイラー・スウィフトみたいなシンセ・ポップになっちゃってるんだからがっくりするのもそりゃあ分かりますよ。私だって最初はそおだったんですから。しかし心配することなかれ。何度もよ~く聴いてると、なかなかいいじゃないですか。勝気なヘイリー姉さんのエモい歌詞とフレンドリーなメロディ、パラモアの真骨頂は結局そこなんです!
 
先ず1曲目、タイトルからして『ハード・タイムス』ですから、こりゃ今回の自己紹介みたいなもんですな。しかしヘイリーさん、ハード・タイムスだからと言ってへこたれません。早速2曲目『ローズ・カラード・ボーイ』で出てきますねぇ、エモい歌詞が。
 
  ~ 私は笑いたくない時には笑わない ~
 
これですよあーた。戦う女はそうこなくっちゃ。ちなみにRose-Colored Boyってのは楽天的な男って意味らしいです。こっちが落ち込んでる時にあんたみたいな楽天家には付き合ってらんねぇってことなんですが、それでもちょっとうらやましいなんて気持ちも垣間見えたりして。付け加えて言うとヘイリーさん、それでも頑張りますなんていたいけな言葉は吐きません。落ち込む時は徹底的に落ち込む。だから笑いたくない時は笑わねぇ。そんな感じですかね。バカ姉さんです(笑)
 
3曲目『トールド・ユー・ソー』のフックはこれ。
 
  ~ 「だから言ったのに」って言いたくない。だけどみんな「だから言ったのに」って言いたがる ~
 
これですよ、これ。これが畳み掛けるドラムと印象的なギター・リフに乗って何度も叩き込まれるんだからシビレルぜっ。ちなみに原文は、『I hate to say I told you so / They love to say they told me』。I hate ってのがいいね。こらあ名言やわ。あー、オレもオカンに「あんた、だから言うたやん」ってよう言われたなぁ。ちょっと違うか…。
 
続く4曲目は『フォーギヴネス』。最後のコーラス、『許すことと忘れることは違う』ってのはいいフレーズやね。男はドキッとしちゃいます。5曲目は『フェイク・ハッピー』。結局みんな作り物の幸せを楽しんでいるだけでしょ、っていうどんだけダウナーな曲やねん!って感じですが、ここでヘイリーさんは宣言します。
 
  ~ 私は自分の口より大きく口紅を引く ~
 
どうです、これ?私は男だからよく分かりませんが、それでもなんかよく分かるような気がします。ちょっと私、このフレーズにグッときちゃいましたね。でこの曲、中盤に パラッ、パラッ、パッ、パッっていうコーラスが入るんですが、これが起承転結の転に当たる感じでまたいいんです。
 
続いて6曲目。これもちょっと切ないです。『夢を持ってるならしっかりグリップして / 誰かに持ってかれちゃダメ / 夢見ることは自由だけど、失うものがどれだけあるか私には分からなかった』。フックでそんなようなことが歌われます。26才の女子がそんなこと歌うんですね。切ないです。でもとても美しい曲です。
 
さあここで来ますよ、極上のポップ・チューンが。パラモアの魅力は色々あるんですが、最大のものはやっぱキャッチーなメロディ。そういう意味では7曲目の『プール』がこのアルバム随一ではないでしょうか。サビの背後で鳴るリフがまた水中にいるみたいでいい感じ。歌詞はこんな感じです。『私は今、水の中 / 肺には空気が無い / けれどしっかり目を開いている / 私はあきらめている / あなたはつかまえることのできない波 / けど私は生きてる限り何度でも飛び込むわ』。
 
次いで8曲目『グラッジズ』。皆さん、お待たせしました、ドラムがドゥルンドゥルン言ってますよ!ここに来てこれまでのパラモアを彷彿させるタイトでパンクな曲だ。サビでは、『we just pick up, pick up and start again / ‘Cause we can’t keep holding on to grudges』とリリックが跳ねてます。サビ前に一旦ブレイクして、フッー!と合いの手が入るところがまた最高!個人的にはこの6~8曲目辺りがこのアルバムのハイライトかな。
 
そして真ん中で絡めとられたと歌う9曲目と変則的なメロディの10曲目と続き、11曲目はゲスト・ボーカルによるリーディング。ここは正直かったるいかな。そしてラストにグッとくるいい曲で終わります。『テル・ミー・ハウ』。息も絶え絶え、『あなたをどう感じたらいいの?』ってここでも切ないです。最後に前向きになるってのはお決まりかもしれませんが、そういう事もなく混沌としたままアウトロのリーディングへ。切ないトラックに消え入りそうな声で『私は霧の中で踊っている』と囁くリーディング。ヘイリーさん、最後まで落ち込みっぱなし。ホント、正直な方です。
 
ただまあこんだけ暗い歌詞にもかかわらず、うっとおしくならないのは僕が英語を解さないからというわけでもなさそうで、やっぱそこはヘイリーの声の力強さ、彼女も含めたバンド全体にポジティブな意思の力があるからではないかなと。この最初は面食らうカラフルなサウンドでさえ彼らのへこたれない意志表示だとすれば、それはハナから否定できるものではなく、かえって彼らの真骨頂、前へグイグイ突き進む持ち前のエモーショナルなロック魂ではないでしょうか。
 
とにかく、サウンドに色んな変遷があるにせよ、彼らには力強いメロディと聴き手に最短距離で届くヘイリーの声があればそれでいい。確かに今までとは毛色が違うけど、今回のアルバムもいいですぜダンナ。エモくない、って聞かないのは勿体ないっ!
 
 
 
 1. Hard Times
  2. Rose-Colored Boy
  3. Told You So
  4. Forgiveness
  5. Fake Happy
☆6. 26
★7. Pool
☆8. Grudges
  9. Caught In The Middle
 10. Idle Worship
 11. No Friend