Coloring Book/Chance The Rapper 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Coloring Book』(2016年)Chance The Rapper
(カラリング・ブック/チャンス・ザ・ラッパー)

 

普段はラップを聴かないけど結構好きです。僕はやっぱり言葉が気になるし、通常のポップ音楽よりラップとかヒップ・ホップの言葉の方がライムが転がって、気の利いたアクセントがあって、リリックが溢れて断然面白いやって思うことが時々あって、じゃあなんでラップ聴かないのっつったら、まあ単純に英語のリリックに全然ついていけないからで(笑)。なので、日本語のカッコいいラップがありゃ誰か教えてください(笑)。

それにラップって過去の楽曲とか社会とか時代背景とかいろんなことが重なり合って(←そーです、ラップは知性なのです)、そういうのにもついていけないってのもあるし、でもたまにそういう意味性とかリリックが全然分からなくても直接心に響いてくるのがあって(これはラップに限らずどんな音楽にも言えるんだけど)、言葉なんか分からなくたって直に音楽として伝わってくるものがある。まあそういう直接心に響いてくる音楽を大雑把にソウル・ミュージックって言い切ってしまえば、チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』もソウル・ミュージックのひとつなのかもしれない。ていうか僕にとってはもうまるっきりソウル・ミュージックです(笑)。

そりゃネットで歌詞を検索して和訳を見りゃ、へぇ~、そんなこと言ってんだってそれはそれで感心するし、どっかのライターが書いたレビューなんか読んでると、このアルバムにはピーターパンに出てくるウェンディが出てくるんだけど、そのウェンディはチャンス・ザ・ラッパーの故郷である全米一治安が悪いとされるシカゴ、ウィンディ・シティとかかっているとかで、そういうのが同じくシカゴ出身の先輩ラッパーであるカニエ・ウェストの昔のアルバムでも引用されてたとか、まぁ他のヒップ・ホップ音楽と同じようにそんなような背景が山ほどあるみたいだけど、そんなことは当然こっちはなんも分かんない(笑)。でも分かんなくてもそれで通用するというか、とにかく聴いてて幸せな気持ちになるっていうか、家人が寝静まった夜に聴いてたりすると、もうソファに座ってられなくて、立ちあがって踊りだしてしまうっていうか、まぁ実際恥ずかしながら踊りだしてしまうんだけど(笑)、要はそういうポジティブなエネルギーがこのアルバム(←正しくはミックス・テープって言うらしいです)には溢れるようにあるってことです。ま、そんな日は興奮してなかなか寝付けなかったりするんですが(笑)。

YOUTUBEで彼のライブ映像なんかを見ると本人も周りもみんな楽しそうで笑いながらラップしてるし、そりゃ『Same Drugs』をみんなで一緒にシンガ・ロングする映像を見てたらうらやましいし、ホント美しい光景だなって思うけど、もし僕がそこにいて英語なんか分からなくても、同じように美しい光景だなって、心が打たれて一緒に歌っている気分になるんじゃないかなぁって。あ、後から知ったけどこの歌、とってもいい歌詞です。

ラップってのは僕の解釈だとブルースというか、うまくいかない事とか、つらい事やな事をはっきりとそんなのクソ食らえだぜみたいに言ってしまったり、世の中そんなのおかしいじゃねぇかっていうようなことに反逆したりっていう怒りとか憤りっていう割とネガティブな声を力に変えていくっていうイメージがあるんだけど、このアルバムに至ってはそうしたネガティブな声を感じないというか、そりゃ歌詞をちゃんと見ていけばそういうのもあるのかもしれないけど、とにかく僕が感じるイメージとしては、祝福とか喜びとか生きていることを讃えている、ただそこにいることを讃えている、そんなポジティブな光がめいっぱい放射されていて、彼は音楽は売らない主義とかでCD化はされてないし、無料でダウンロードできて、僕ももっぱらYOUTUBEで聴いているんだけど、そういう彼の態度っていうのかな、要は子供たち、みんな聴いてくれみたいな彼の果てしない陽のパワー、ビッグ・バンみたいな陽性の力が伝わってくる、スマホで聴こうがなんだろうがちゃんと伝わってくる、それはやっぱ感動的な事なのです。

あと音楽的なところで言うと随分ラップのイメージとは異なっていて、ボン・イヴェールの『22,A Million』なみに声にエフェクト利かせまくってるし、ラッパ隊もきらびやかで、ゴスペルもふんだんに出てくる。ラップっていうと一定のリズムを延々ループさせてそこにリリックを乗せていくっていうイメージだけど、このアルバムはメロディもあるしポップ・ソングでいうサビみたいなのもある。それにトラックはメチャクチャカッコイイ!!僕がソウル・ミュージックだなんて言ったのはそんなところにも起因するのかもしれないけど、その場合、普通はラップとはみなされないらしくて、でもこのアルバムは、っていうか流石にチャンス・ザ・ラッパーっていうくらいだし、やっぱちゃんと自他ともにラップとして成立してしまっているところが実はスゴイところらしいです。らしいですってこんだけ書いておきながらなんですが、これも後から知ったことなので(笑)。

ラップらしからぬと言えばリリックも断然そんな感じで、前述のとおり僕はラップをあんまり知らないから偉そうなことは言えないけど、ラップってどっちかっつうとドギツイ言葉が出てきて攻撃的というかマッチョなイメージがあったりするんだけど(←どーも偏見でスミマセンッ)、このアルバムに出てくる情景ってのは全然そういうんじゃなくて、そりゃ『Summer Friends』みたいに友達がいなくなったりいい話じゃないことがいっぱい出てきたりするんだけど、そういうのが怒りに転化されるんじゃなく、日本にいて平和で自分も含めて身近な人が銃で撃たれてっていう世界とは無縁の僕みたいな人間にでも凄く自然に入ってくるというかスッと馴染んでいく表現になっていて。だからシカゴで生まれ育ったことは彼のアイデンティティーに大きく関与しているわけだけど、だからと言って暴力的になってかないっていうか、やっぱゴスペルであったり語弊があるかもしれないけど『Summer Friends』の美しさ、祈りに向かって行くというような美しさというようなものがあって、あんまり共感って言葉は好きじゃないから使わないけど(笑)、そういう部分も親子程年の離れた青年から僕は教えられたような気がして。そしてそれはやっぱり日本にいてもある種のリアリティが感じられる、よりよいベクトルへ向かう力になり得るものだと僕は思うのです。

ラッパーっていうととかくイメージがよろしくなくて、ドラッグとか暴力的な事とかがついて回るというか、実際チャンス・ザ・ラッパーも子どもの時にラッパーになりたいなんて言うと随分怪訝な顔をされたらしくって。でも当然ラッパーに知性は必要だし、社会的な貢献や影響も大きいし、なんだったらオバマ大統領(当時)に会ったりすることもあるんだぜっていう。そういうラッパーとしての地位向上というか意識を変えていくんだっていう意味合いもあってチャンス・ザ・ラッパーって名前にわざわざしたとかで、そこにもやっぱ彼の気概を感じられるし、音楽的にだって通常のラップではない新しいことにチャレンジしたり、音楽をフリーで提供するってやり方も、これはメジャーと契約しなくたって出来るんじゃないかと思って実際にやってしまって革命を起こしてしまっているし、そうした切り開いていくイメージが、一番最初の、何も知らないまま彼の音楽をYOUTUBEで初めて聴いた時に感じた、なんじゃこりゃ!?すげー、すげーよっ!!っていうどんどん溢れてくる陽性のパワーにも繋がってて、やっぱこの光の源はここにあんだよ、うんうん、っていう感じで。だからラップとかヒップ・ホップとかそんなカテゴリー云々じゃなくて大げさかもしれないけど『Coloring Book』は今この時代に光を差すような、人々の背中を押すような、時代とか世代とか性別とか国境とか人種とかを超えて、音楽を道具って言ったら怒られるかもしれないけど、実際に人々が前を向いて歩く力になり得るホントに素晴らしいアルバムだと僕は心から思うのです。

なんかひとりで盛り上がってますが、チャンスさんのことを知ったのは実はほん2、3週間ほど前のことでして…。なのでなんだ今頃知ったのか、っていうツッコミは自分で自分にしておきます(笑)。あとこのアルバムは色んな人が参加しているので、まだチャンスさんの声とごっちゃになってますってツッコミも一応(笑)。それとこういう音楽は子供たちや嫁さんのいる休日のリビングでかけたいなぁって思うので、僕個人としてはやっぱCD出して欲しいです…。わ、言うてもうた(笑)。

 

1. All We Got (feat. Kanye West & Chicago Children’s Choir)
2. No Problem (feat. Lil Wayne & 2 Chainz)
3. Summer Friends (feat. Jeremih & Francis & The Lights)
4. D.R.A.M. Sings Special
5. Blessings
6. Same Drugs
7. Mixtape (feat. Young Thug & Lil Yachty)
8. Angels (feat. Saba)
9. Juke Jam (feat. Justin Bieber & Towkio)
10.All Night (feat. Knox Fortune)
11.How Great (feat. Jay Electronica & My cousin Nicole)
12.Smoke Break (feat. Future)
13.Finish Line / Drown (feat. T-Pain, Kirk Franklin, Eryn Allen Kane & Noname)
14.Blessings (feat. Ty Dolla Sign, Anderson .Paak, BJ The Chicago Kid & Raury)