あっちはひらいて こっちはとじている

ポエトリー:

「あっちはひらいて こっちはとじている」

 

あっちは翅がひらいて飛んでいる
こっちは翅がとじている
耳を傾けると
少しずつ音がして
うううん、虫の声じゃない
台所で母と子どもが話している時のやつ

あっちは虹が架かって
こっちは虹が途切れている
団地の端っこには金網がずっと続いていて
そこを乗り越えたりしなかったりして遊んだ記憶
けど誰もどこにも行かないやつ

ぼくたちが住む棟の向かい側には
そこにだけ大きな広場があって
覚えたての自転車でぐるっと一周をした
ブレーキのかけ方がよく分からなくて
煉瓦の花壇に何度もぶつかった

お母さんが三階から呼んでいる
あれ、じゃあこっちの音は?
首を傾けると
翅がひらいて飛んでいるのと
翅がとじているの
更にはもうひとつ増えて
モーターが走る音
誰かが駆け出している

 

2024年1月

川べりで

ポエトリー:

「川べりで」

 

違わないことを歌にして
君は陸と戦った
川べりで

コンクリートが剥き出しになっていた
それでもかまわないよと
君はほうぼうから集めた貝殻に耳を当て
熱心に人々の声を聞いていた

観察することが一番大事さ
それが口ぐせの
荒野へ向かう旅人のような格好で
使い古しのリュックには
いつも真新しいハンカチが複数枚あって
集めた貝殻の縁を
きれいになぞるのが常だった

もう二度としくじったりしないよう
心を込めて丹念に
君は陸と戦った
言葉はリュックに入れて
心は共にあった

 

2023年1月

Me Chama de Gato que Eu Sou Sua / Ana Frango Eletrico 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Me Chama de Gato que Eu Sou Sua』(2023年)Ana Frango Eletrico
(ミ・シャマ・ヂ・ガト・キ・エウ・ソウ・スア/アナ・フランゴ・エレトリコ)

25才で3枚目のアルバムだそうです。ブラジルでは大層な人気だそうで、音楽以外にもアート本を出すなどマルチに活躍している才能溢れる方のようです。2023年のベスト・アルバム選のあちこちに顔を出すものだから気になって聴いたのですが、おったまげました。最高じゃないですかこれは。ブラジリアン・ブギーなんて言葉もあるみたいですが、なんせすごくゆるくていい感じです。彼女の甘いんだけど、まるで言うこと聞かなさそうな声もなんかいい。

あと国民性ですかね、根底にユーモアとか陽気さが流れているような、いやサンバみたいな楽しい感じではないんですけど、ゆる~くボーっとするみたいな気楽さがいいです。でも音楽としちゃイケイケで攻めてます。唯一英語表記の#5『Boy of Stranger Things』なんて転調してシャウトですからカッコいいのなんの。でも基本的にはオシャレ感満載のアルバムですね。

このオシャレ感、なんか聴き覚えあるなぁと考えたら渋谷系ですね。あの時のピチカートファイブとかフリッパーズギターみたいなセンスの塊みたいなオシャレ感。パァ~パァ~っていう女性コーラスとか管楽器がふんだんに使われている点なんかもまんまそうだし、サンプリングをかなり多用しているところなんかホント渋谷系。加えてフレンチポップのフワフワした雰囲気もあるから、ほんとにオシャレ。あと言語的な面白さ、これはポルトガル語ですかね、耳当たりが妙に心地いい。ポルトガル語と日本語って相性よいのかな。

とても気に入っているので、彼女の過去作も聴いていますが、それも最高です。来日公演してくれないかな。

Black Rainbows / Corinne Bailey Lae 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Black Rainbows』(2023年)Corinne Bailey Lae
(ブラック・レインボウズ/コリーヌ・ベイリー・レイ)

 

どうしちゃったんだいコリーヌ・ベイリー・レイ!ということで7年ぶりの新作でまたまたやってくれました。前作の『The Heart Speaks in Whispers』(2016年)もそれまでのオーガニックなサウンドからの急展開がありましたが、今回はその比じゃないですね。またまたやりたいようにぶっ飛んでます。いいぞ、コリーヌ・ベイリー・レイ!!

元々ソングライティングには長けた人なので、恐らく初期のようなソファに寝っ転がってギターをポロロンな穏やかなアルバムは作ろうと思えば作れるはず。なのにこうもグイッと舵を切るのはなんなんでしょうか。チャーミンングな見た目に騙されますが、コリーヌさん、やるときゃやります。それにしても刺激的なアルバムや!

まぁ7年の間にはそりゃいろいろありますから、世間的にもBLM運動があったり#Me Too運動があったり、そういう中で、特にブラック・カルチャーに関しては芸術家チームとも関わりがあったりで随分と影響を受けた、そこでの活動が今回のアルバムに繋がったとのアナウンスもありますから、そう考えると今回の振り幅も合点がいきますけど、なんてったってギターかき鳴らしてのシャウトもありますから。可憐なコリーヌさんがここまでするとはさすがに想定外です。。。

彼女の一番のストロング・ポイント、いいメロディと甘い声というところはちょっと横に置いといて、サウンドでもって、世界観でもって、音楽全体で勝負していく、その心意気がビシビシ伝わってきます。タイトル曲の『Black Rainbows』なんて彼女、歌ってないですから(笑)。それでもいーんです!これがコリーヌ・ベイリー・レイの作品だという強さがこのアルバムには焼き付いていますから。

#9『Peach Velvet Sky』でのローラ・ニーロのような変幻自在のボーカルを聴いていると、あれだけの声を持っていながら彼女にとってそれは音楽を構成する要素の一つに過ぎないのだと。最終曲『Before the Throne of the Invisible God』に至っては音楽の中で混じりあい、完全に楽器の一部と化している。忘れかけていたが、アーティストにとって創作とは全身全霊をかけた芸術作品なのだ。いや~、それにしてもコリーヌさん、音楽を楽しんでますな~。

Guts / Olivia Rodrigo 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Guts』(2023年)Olivia Rodrigo
(ガッツ/オリヴィア・ロドリゴ)

 

評判がいいのは知っていた。でも二十歳の女の子ですから、聴くこともないかなと思っていたのですが、各媒体による2023年のベスト・アルバムに出てくるわ出てくるわで、日本の『ロッキンオン』誌ではなんと1位。ということで、じゃあちょっと聴いてみるかと。で、ビックリしました。タイトルどおりガッツ溢れる作品で、昔のパラモアを彷彿させるエモいロック・アルバムでした。

基本的に彼女のファン層は多くがティーンエイジャーなのだと思うのですが、評価も高く年配にも好まれているというのは、僕もそうですけど90年代を思わせるオルタナティブ・ロックですね、アラフィフ世代にとっては親しみのあるガッツリとしたロック音楽が基盤にあるからです。若い世代にとっては新鮮なのだろうし、それに彼女が世に出た『Driver’s License』のようないわゆるサッド・ガールな曲もちゃんと入っていますから、単調にはならずちゃんと強弱のついた、年間ベストに選ばれるのも分かる、ポップでありつつ彼女の哲学が詰まったいいアルバムだと思います。

驚くのはソングライティングをダニエル・ニグロって人と二人だけで行っている点。ビリー・アイリッシュの兄妹コンビじゃないですが、彼女自身にもその能力があるっていうことですからどんだけ凄いねんという話です。特にリリックですよね。勿論恋バナがメインになるのですが、同世代だけでなく幅広く支持されるということは、ただ単にそれだけではとどまらない何かがあるということ。

この辺は彼女が愛するテイラー・スウィフトにも通じますが、’私の話’が’皆の話’になってしまう歌詞の奥行、恋バナに収まらない普遍性でしょうね。いい年をした僕でもこの歌詞にはグッときます。パラモアのヘイリー・ウィリアムスやテイラーなどの系譜に連なる、新しい世代を代表する語り手でもあります。