Sacred Hearts Club/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sacred Hearts Club』(2017) Foster The People
(セイクレッド・ハーツ・クラブ/フォスター・ザ・ピープル)

 

2014年以来、3年ぶりの3rdアルバム。僕はいつかこの人達は他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないかと思っていたんだけど、アルバム・リリースに先駆けて公開された3曲(『Pay the Man』、『Doing It for the Money』、『SHC』)が、凄くポップな作品だったので、こりゃ遂に来たぞなんて勝手に思っていたら、いやとんでもない、他愛ないどころかすんごいアルバムでした。

サウンド的には1枚目、2枚目を通過した今の彼らの集大成となるようなアルバム。マーク・フォスターのDIY的な1st、そしてバンドとしての実質デビューとも言える2ndからの道筋がしっかりと見えるようなフォスター・ザ・ピープルの最新型であり、同時に今成し得るロック音楽の最新型のひとつの形とも言える作品だ。

ヒップ・ホップ色が強くなったのも今回の特徴だ。前作にもラップ調のボーカルがあったけど、今回はそれを更に推し進めたような恰好。1曲目の『Pay the Man』や最後はリーディングになだれ込む#10『Loyal Like Sid & Nancy』、ゆったりとした#2『Doing It for the Money』などなど。全体的に見ても言葉の切れ味は更に鋭く、リリックがどんどん転がっていく様はめちゃくちゃカッコイイ。

曲もいいし歌詞もいいしボーカルも最高で何より圧倒的なサウンド・デザイン。ライナー・ノーツにはサポート・メンバーから正式にバンドに加わったアイソム・イニスの力が大きいとか、今回は外部とのコラボレーションが沢山あったとか色々書いてあるけど、そういう個々の事情だけじゃなく、ここに来てバンド全体のクリエイティビィティが一気にスパークしたってことなんだと思う。

で僕がスゴイなと思うのは、そういう風に色んな音楽形態を採用して難しいことをやってるんだけど、最終的にはポップなところへ戻ってきちゃうってとこで、この辺のバンドとしての大らかさというかバランス感覚は大したもんだと思う。

ただ歌詞を見ていくと、やっぱ世界がやな方向へ進みつつあるっていう現実認識があって、そこに対する彼らの意志表示が今回のアルバムなんだなという感じはする。それは「Don’t be afraid」であったり、「See the light」といった表現が何度も出てくるところもそうだし、全体として不穏な世界へのレジスタンスという意味が込められているんじゃないかと。「心の中のオオカミは死んじゃいない」と歌われる『Pay the Man』が1曲目に来るのもその意志の表れなんじゃないだろうか。

でそのレジスタンスは最終曲の『Ⅲ』でイノセンスに着地して、それは#4『SHC』で「Do you want to live forever?」と歌っていた迷いが、『Ⅲ』で「I want to live in your love forever」に変換されるっていうところとも繋がるんだけど、ひとしきり踊った後に訪れるこの物語性というのはやっぱ感動的だ。このアルバムには明確なストーリーは無いけど、聴き終わった後に感じる余韻が良質の映画を見た後のようにぼんやりとしてしまうのはきっとそういう物語性に起因するのかもしれない。

 

1. Pay the Man
2. Doing It for the Money
3. Sit Next to Me
4. SHC
5. I Love My Friends
6. Orange Dream
7. Static Space Lover
8. Lotus Eater
9. Time to Get Closer
10. Loyal Like Sid & Nancy
11. Harden the Paint
12. III

Supermodel/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Supermodel』(2014) Foster The People
(スーパーモデル/フォスター・ザ・ピープル)

 

新しいアルバムが出たら、自動的に買ってしまうバンドがあるけど、フォスター・ザ・ピープルもそのうちのひとつ。この人達はまず間違いないだろうという感じ。難しく言うと、表面的なキャッチーさだけではなく、何かしらの奥行を感じさせるということかな。といっても今回で2作目なんだけどね。

1stがマーク・フォスターの才覚のみで作られた作品だとしたら今回はバンドが前面に出ている。1st後に多くのライブをこなし、バンドとしての練度を固めていったのには勿論理由があっての事で、それはもうこのバンドでやってくんだという意思表示に他ならない。彼らは1stの取っつきやすいエレクトロ・ポップでブレイクした訳だけどマーク・フォスターの野望はもっと遠いところにあるのだ。

アフロ・ビートやサイケデリア、フォークといったスタイルを縦横無尽に採用し、更にその向こうへ突き抜けようとする態度がここにある。ようやく手に入れたバンドのダイナミズムが向かう先はどこ?それは遠くにかすかに見える光に向かって何とか前へ進もうとする意志。ここには混沌と言う言葉だけでは片付けられない切迫感がある。彼らは世界はこのままでもいいとは思っていないのだ。その分厚い壁をなんとかしてぶち破るべく選んだのは紛れもないロックンロール。

サウンドはより緻密によりダイナミックに。バンド・サウンドが前面に出ているとはいえ、全体を通してせわしなく繰り出されるエレクトリカルや細かなフレーズは流石。マーク・フォスターはブレイクするまでに紆余曲折を経たキャリアの持ち主。その細かなプロデュース力は裏方に回っても相当な力を発揮しそうだが、彼が選んだのは自分たちの言葉で、自分たちの声で、自分たちのサウンドで道を切り開いていくこと。そのサウンド・デザインには凄みさえ感じる。

1stの時からそうだが、彼らは自分たちの音楽的バックボーンをしっかりと持っている。最新のスタイルを纏ってはいても、綿々と続くロックやポップ音楽の伝統を意識している、というかどうあっても意識してしまうようにも思える。僕がこの人達は間違いないと感じるのは、もしかしたらそういうところから来てるのかもしれないし、変則的でありながらもこのアルバムから感じる王道感はそんなところにもあるのかもしれない。いつか他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないか。ただ王道と呼ぶには最後にバシッと決めてほしいところ。冒頭3曲の勢いと、その流れで突き進む#8『ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン』に至るサイケデリックな熱量に比べ、最後の3曲はもう一押し足りないかなという気もする。

彼らは音楽の、バンドのマジックを信じて疑わない。僕は少なくとも#3『アスク・ユアセルフ』冒頭のギターリフにはそのマジックがあると思う。

 

1. アー・ユー・ホワット・ユー・ウォント・トゥ・ビー?
2. アスク・ユアセルフ
3. カミング・オブ・エイジ
4. ネヴァーマインド
5. シュードロジア・ファンタスティカ
6. エンジェリック・ウェルカム・オブ・ミスター・ジョーンズ
7. ベスト・フレンド
8. ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン
9. ゴーツ・イン・ツリーズ
10. トゥルース
11. ファイア・エスケイプ

12. カシアス・クレイズ・パーリー・ホワイツ [ボーナス・トラック]