Jaime / Brittany Howard 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Jaime』(2019)Brittany Howard
(ジェイミー/ブリタニー・ハワード)

 

アラバマ・シェイクスのソングライターでありボーカリストのブリタニー・ハワードの初のソロ・アルバム。彼女はアラバマ・シェイクス以外のサイド・プロジェクトでも活動しており、ようはやりたいことが沢山ある人なんだろう。しかしまぁ進化が止まらない。アラバマ・シェイクスの1st『Boys & Girls』(2012年)からはだいぶ遠いところまで来たぞ。あの素晴らしい2nd『Sound and Color』(2015年)を経て、ハイブリッド感が半端ない。

『ジェイミー』というタイトルは彼女のお姉さんの名前だそうだ。小さい頃に病気で亡くなった姉の名をタイトルにしての自身のセクシャリティーやアイデンティティーにまで踏み込んだ非常にパーソナルなアルバム、というのがもっぱらの情報だ。30才になったのを機にもうここで吐き出さざるを得なくなったということらしいが、なるほどこれだけの重量感はシンプルなバンド・サウンドでは支えきれないわな。

一応そういう大まかな流れはあるとして、アルバム全体の印象としては一つの物語を追うというよりもある特定の場所で起きた個々の出来事を追っていくという展開で、だから彼女の中で土地というのは大きな要素を占めているのかもしれない。彼女のこれまでの人生、というより場所についての歌なのかも。個人的な体験に基づくリリックではあるが、案外そうした印象を受けないのは多分その辺りが原因かも。ていうかこれぐらいの距離感を持てたからこそのアプローチ。

こういうのんって#6「Short And Sweet」みたいにシンプルにポロロ~ンっとやってしまいがちなんだけど、そうじゃなくてガッツリ今風の、それもピコピコした感じじゃなく、それこそ『Sound and Color』で得たバンドなんだけどコズミックな、例えば由緒ある教会に最先端のアートが飾ってあるみたいな、場末の酒場なんだけど最新鋭の器材と音響施設が整っているみたいな、よく分からないけど凄く前を向いているというそんなサウンドでやりきっちゃうという威勢の良さがあって、このアルバムでは#6「Short And Sweet」が最初に出来た曲らしいけど、同じようにポロロ~ンっとやってしまわずにどんどん表現のアプローチが伸びていくっていうのは、それは冒頭で述べたブリタニーさんの個性にも繋がってくんだろうけど、なんにしてもよく分からないエクスペリメンタルという言葉がこのアルバムを聴いて少しは分かったような気はする。でもやっぱりこのリリックはポロロ~ンじゃもたないよな。

 

Tracklist:
1. History Repeats
2. He Loves Me
3. Georgia
4. Stay High
5. Tomorrow
6. Short And Sweet
7. 13th Century Metal
8. Baby
9. Goat Head
10. Presence
11. Run To Me

Sound and Color/Alabama Shakes 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sound and Color』(2015)Alabama Shakes
(サウンド・アンド・カラー/アラバマ・シェイクス)

 

デビュー作だった前作は古く良きアメリカ、場末の酒場が似合いそうなヴィンテージ・ロック。僕もそういうのは好きだし、彼らはこれからも変わらずそんな渋い音楽をやってくんだろうなって勝手に思っていたけど、それはとんだ見込み違いだった。変わらないどころか物凄い進化を遂げてしまっている。それも何がどうというより全部まるっと進化しちゃってて、2枚目でこんなになっちゃうなんて全然想像できなかった。ヴィンテージはヴィンテージでも最新鋭、ハイブリット感満載のスーパー・ヴィンテージ・ロック・アルバムだ。

とりあえずギターの音がすんごくて、ビンビンと弦の振動が伝わってきそうな臨場感。それでいて音はクリアーで聴きやすいし、要するに分かる人にだけ分かりゃいいというのではなく、誰が聴いてもこりゃ凄いやって音になってる。僕んとこのミニ・コンポでこれだから、いいオーディオだとどんなことになるのやら。くうぅ~、立派なオーディオで聴きてぇ~。

ドラムとベースもよくて、何がいいって手数はうんと少ないのにここぞの時にはグイグイッとたまらんフレーズを持ってくる。こういう感じはちょっと初めて。で、さらに記名性を高めているのがキーボードとビブラフォン。1曲目からビブラフォンで始まっちゃうし、こりゃなんか雰囲気違うぞ感が満載。1曲目だけじゃなく、全編に渡ってキーボードとビブラフォンがいいアクセントになっていて、最後の曲のキーボードなんてホント最高である。

さらにもう一つ忘れてならないのが、ストリングスだ。でもよくあるそれっぽい大げさなやつじゃなくて、なんかギターとかキーボードとか他の楽器と同じ扱いで、でもこれがギターです、これがストリングスですってわけじゃなく、最初からそこにあったみたいな馴染みのよさ。#7『Guess Who』なんてこれしかないという感じですんごいことになってる。名曲です!

名曲といやぁさっき言った1曲目『Sound & Color』だってビブラフォンで静かに始まったかと思いきや後半は宇宙ぽく広がっちゃうし、2曲目の『Don’t Wanna Fight』はブリタニーさんの祈るようなボーカルが素晴らしくて、4曲目『Future People』もボーカルとバンドの掛け合いがめちゃくちゃカッコイイ!ほんでもって続く5曲目『Gimme All Your Love』も後半に凄い山場が待ってるし、アルバム後半にもさっきの『Guess Who』を始め、『The Greatest』に『Shoegaze』に『Miss You』に『Gemini』にエレピぴろろ~ん♫の『Over My Head』に(って全部やん!)名曲盛りだくさんで、いや、大げさじゃなくてホントに全編すごいっす!

で、最後にこれは絶対触れておきたいブリタニーさんのボーカル。前作もジャニス・ジョプリンみたいで凄かった。勿論それだけでも凄いのに今回はしっとりとなっちゃたり、裏声使っちゃったり、シャウト一辺倒だったのがこんなに変わるかってぐらい表現の幅を広げている。ほんと素敵なボーカリストになったもんだ。

とにかく最初に言ったように全部がまるっと凄いことになっててびっくり。さらに凄いのはこれが全米チャートで№1になったってこと。そりゃこんだけ凄いアルバムだから、評価されるのは分かるけど、だからと言って全米№1になるかって話。アラバマ・シェイクスも凄いけど、これをちゃんと聴き分けるアメリカのリスナーも同じように凄い。ちなみに僕の個人的な2015年ベスト・アルバムはこれですっ!

 

1. Sound & Color
2. Don’t Wanna Fight
3. Dunes
4. Future People
5. Gimme All Your Love
6. This Feeling
7. Guess Who
8. The Greatest
9. Shoegaze
10. Miss You
11. Gemini
12. Over My Head