Fairytale of New York/Pogues 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Fairytale of New York』(1987年)The Pogues
(ニューヨークの夢/ザ・ポーグス)

 

12月です。クリスマスです。皆さんはクリスマス・ソングと聞いて思い浮かべるものはありますか?僕が真っ先に思い浮かぶのは「レリッ、スノ~、レリッ、スノ~、レリッ、スノ~♪」ですね。映画『ダイハード2』のラスト、ジョン・マクレーンとホリーが再会する印象的な場面でかかるこの曲の正式名称は『Let It Snow』。歌詞の内容は恋人との別れを惜しむ気持ちを、文字通り「Let it snow, Let it snow, Let it snow(雪よ降り続いて」という言葉で表現しています。1946年に米国で作られ、以来多くの歌手により歌い継がれています。『ダイハード2』ではフランク・シナトラだったかと思います。

日本で言うとやはり山下達郎の『クリスマス・イブ』でしょうか。「きっと君は来ない~」ですよ(笑)。でもこの歌はここがミソ。最後に「叶えられそうにない」と歌うように恐らく君は来ないのでしょう。でももしかしたら来るかもしれない。君に会えるんじゃないかと。そういう期待を微かに持っている。そういう弱々しい歌なのだと思います(笑)。でもみんな、そういう経験ありますよね?この微妙なニュアンスを言葉で説明せずに曲全体の雰囲気で響かせる山下達郎さんは流石です。

世界的に最も有名なのはやはりジョン・レノンの『Happy Cristmas(War Is Over)』かもしれません。お金持ちにも貧しい人にも、どんな人種の人にも、もっと言えばクリスマスなんて知らない人にも等しくクリスマスは訪れる。だからもう戦いなんてやめようよ。そんな歌ではないでしょうか。「Marry Cristmas」の後に「and Happy New Year」と続くところがいいですね。この言葉が加わることで肯定感や希望が増してくる。光がポッと射してくるような気がします。

今お話しした3曲はいずれも超有名曲。けれど今から紹介する曲をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。ザ・ポーグス(Pogues)の『ニューヨークの夢(原題 Fairytale of New York)』です。ザ・ポーグスはアイルランド人ボーカリスト、シェイン・マガウアン(Shane MacGowan)を中心にロンドンで結成された、アイルランド民族音楽とパンクロックを融合したアイリッシュ・ロック・バンド。なんのこっちゃ分からないと思いますが、北欧やなんかの酒場でアコーディオンとかフィドル(バイオリンのこと)とか首から下げた太鼓なんかで賑やかに音楽を奏でる場面ってのをたま~にテレビで見かけませんか?あれですあれ。通常のバンド編成プラス、あーゆう感じという具合に想像していただければよいのですが、ま、この曲を聴いてもらうのが一番ですね(笑)。

さっきわざわざアイルランド人ボーカリストって述べましたが、それには理由がありまして、この歌は所謂ストーリーテリングの手法が用いられているんですね。で登場人物がニューヨークへやって来たアイルランド移民なわけです。冒頭、酔っぱらって留置場へ入れられた男はそこにいる先客の老人が「The Rare Old Mountain Dew」を歌っているのを耳にします。これはアイルランドの地名が沢山出てくる歌で、男は、あぁこの泥酔してぶち込まれた老人もアイルランド人だなと悟るわけです。そして「あれはクリスマス・イヴだったな」とちょっとばかり昔を思い出すのです。

若い頃に男は愛する女とアメリカに移民してきます。男には夢があり、女にも夢があった。男は格好よく女は可愛らしかった。この辺りがさっき言ったアイルランド音楽っぽい賑やかな雰囲気で奏でられます。しかし現実はそう上手くは行かない。2番の歌詞では年老いた二人が、こんなになったのはお前のせいだと互いに口汚く罵り合います。そうそうこの歌はデュエットです。シェイン・マガウアンとこの時のポーグスのプロデューサー、スティーヴ・リリー・ホワイト(←U2やデイブ・マシューズ・バンドなんかを手掛けた当時の敏腕プロデューサーです)の奥さん、カースティー・マッコールが女性部分のボーカルを担当しています。このデュエットというか掛け合いが素晴らしいんですね。二人とも登場人物にぴったりの声。ミュージカルみたいでテンポよく、ちょっと芝居がかった感じがとてもいいのです。で最後のヴァースでは落ち着きを取り戻した二人がぽつりと本音を語り合う。語り合うって言ってもそんなハッピーな話じゃないんですけど、老境にさしかかった二人の関係がね、決して感動するとかっていうんじゃなく、でも心に響くんですね。まぁこの辺は実際に聴いてもらって人それぞれ、年代によって、性別によって、環境によって思うところは色々あるんだと思います。

ところで、この曲はコーラスのところでもアイルランドの有名な曲が出てきます。ニューヨーク市警の聖歌隊が歌う『Galway Bay』です。だからこの人達もアイリッシュなんだというのが分かるわけです。要するに、多くのアイルランド人が新天地を求めてアメリカ大陸にやって来るものの、実際にはそんな簡単にいい職にありつける訳じゃなく、あるとすれば危険な仕事ばかり。だから警察官もアイリッシュが多かったらしいのです。僕たち日本人にはなかなか分かりにくい所かもしれませんが、日本でも入管法の議論がなされていて、まぁはっきり言って移民ですよね。そういう意味では今後この曲の世界は僕たちにとっても真実味のある曲になっていくのかもしれません。

少し話が逸れましたが、本当に素晴らしいクリスマス・ソングです。ちなみにこの曲はイギリスでは国民的なクリスマス・ソングらしく、毎年この時期になるとチャートに上がってくるそうです。まるで達郎さんの『クリスマス・イブ』ですね。日本でもこの歌を好きな人はたくさんいて、グーグルで検索すると僕みたいに、というか僕以上に上手に語っている人が沢山いて、ホントに愛されている歌なんだなと。僕は何年か前にラジオでこの曲を聴いて、以来、毎年この時期になると必ず聴いています。もっと多くの人にこの歌が行き渡っていくといいなと思っています。