アート・シーン:
プーシキン美術館展ー旅するフランス風景画 in 国立国際美術館
前々から行きたいと思っていたプーシキン美術館展。ようやく足を運ぶことが出来ました。僕が行ったのは展覧会が終わる最後の週。平日、10時のオープン前に行ったのですが、駆け込みなのかエライ行列。こりゃ参ったなと思いつつ、けれど中に入ると思ったより広くって十分ゆっくりと観ることが出来ました。
展覧会は全6章からなり、17世紀から18世紀の宗教画の背景に書き込まれた後景を風景画の源流と考え、そこから風景画としての始まり、自然へ接近、パリの様子、そして20世紀に至る新しい風景画までを年代順に追って観てゆきます。
第1章は宗教画や神話のおまけみたいな感じだから、風景画として目を見張るという程のこともないかな。本展覧会の醍醐味は風景画をメインとして描かれ始めた第2章からになります。僕個人としても、宗教画の背景はやはり写実的というかそれっぽく描かれているのだけど、やはりそれは風景画の前段階。それよりも作家のフィルターを通して本格的に描かれ始めた第2章からの風景画は作家それぞれの個性というフィルターを通している分、個性的で決して写実的ではないんだけど、だからこそのリアリティーがある。それに景色そのものは21世紀の日本にいる僕には馴染みのないものだけど、それでもやっぱり例えば、冬の朝ってこういう景色だなぁとか、そうそう薄暗くなり始めた夕方はこんな感じだよなぁとか。そう思わせるのは多分ノスタルジーというか僕の中にある景色が喚起されるからで、なるほど音楽と一緒でよい絵画にもノスタルジーは宿るんだなと、そんな風に思いました。
この展覧会には著名な画家の絵も沢山あって、僕はこの日初めてルノワールの絵を直に観ました。で、初めて直に観て思ったこと。例のごとくルノワールってホワ~ンとしたタッチなんだけど、不思議と描かれている人と人との関係がハッキリ見えてしまう。向かい合っている人同士の愛情の加減まで見えてくるというか、つまりは写実というのは実は心象であるということなんでしょうか。加えてルノワールの絵は観る側が補完する部分かかなりあって、そういう意味でも余力があるというか、スケールの大きい絵だなぁと思いました。
あとルノワールの後ぐらいに展示されていた、ピエール・カリエ・ベルリーズって人の「パリのビガール広場」も個人的には好きだな。斜め上からの俯瞰で描かれた絵なんだけど、画家のクセに遠近感や斜めの具合がちょっとビミョーで、多分そんな上手くないんだろうなって感じがして、でもなんか愛嬌があって良かったです。
個人的な好みで言うと、今回、アルベール・マルケっていう人の絵が好きになりました。穏やかで優しい絵。明確な輪郭があっても主張しない所がいいんだけど、今回展示されていた絵は2枚とも彼が住んでいたアパートの窓から描いた景色らしく、そういう彼の視点が少しだけ感じられる所もまたちょうどよいバランスで。きっと描いていた時は作家自身の心も落ち着いていたんだろうなって気がしました。
続いて第4章はパリ近郊、著名な画家の絵が沢山出てきます。その初っぱながモネの「草上の昼食」。あれっ?モネって意外とザクッザクッて描く人なんだ。この絵は試行錯誤を繰り返し、完成までに年月を要したらしいけど、なるほど確かに統一感はないな(笑)。それに風景画っていうより人物がグワッと前に出ていて、風景に溶け込んでいない。でも全体として観ると構図は抜群で力強い。後の解説文を読んで納得しました。この絵はモネ、26才の時の絵なんだそうな。どおりでキャンバスからはみ出すような情熱がほとばしってます。
でその後に僕らがよーく知っているモネの絵が出てくる。あー、もう「草上の昼食」とは全然違う。全然ハッキリ描いてない。なのにちゃんと人とか花とか全部分かる。それに今回も思った。モネは自然という継続していく生命を描きたかったじゃないかなって。やっぱモネは時間を描きたかったんじゃないかな。
第4章には他にもセザンヌがあって、あー、やっぱセザンヌは自己主張激しいなとか(笑)、ピカソがあって、あー、やっぱピカソはこういう風に見えてしまうからしょーがねぇなぁとか(笑)、あとマティスやゴーガンもあって結構な密度です。
続いて第5章、第6章と風景画が益々充実してくるこの辺も最高に楽しい。なんか全然その通り描いてないんだけど、返ってリアリティーがあるというか、画家それぞれの表現の仕方というか見え方が個性的でとても愉快だ。中でも僕が断トツに気に入ったのはアンドレ・ドランの「港に並ぶヨット」。ヨットハーバーの風景でオレンジとかあって割りと暖色な派手な絵なんだけど、印象としては全然派手じゃなくて、そこに差し込む海の白色とヨットの帆の白色がまたいいバランスで、構図も距離感も抜群だなぁと。これはずっと観ていられるなって、そんな絵です。
そうそう、やっぱ気に入った絵って持って帰りたい(笑)。家に飾って眺めていたい。眺めれば眺める程色んな発見があるのを知っているから、持って帰りたい(笑)。なんかホントに買ってしまう大金持ちの気持ちが分からんでもないなって思いましたが、でもやっぱそれって悪趣味だよな(笑)。
で最後に待ってました。今回の僕の最大のお目当て。アンリ・ルソーの「馬を襲うジャガー」です。なんか接近して行ったら思わず笑ってしまいました。やっぱ凄い愛嬌あるこの絵。やっぱ巷で言われる通り、技量的に優れている訳ではないんだけど、不思議な魅力があって、ルソー自身もこれが描けた時には、描けたぞーっとか、オレは描いたぞーっていう達成感がきっとあったんじゃねぇかっていう。実物を観て、それぐらいこれ以上もない絵だと思いました。
でこの絵は真ん中に白馬とその首に巻き付くジャガーが据えられているんだけど、この白馬がどう観てもど真ん中で、例えば横からスーッと観ていって正面に来たらそこに白馬がビシッと来る。でまた動くと中心から外れる。でまたふらふら~っと観て白馬の正面に来るとビシッと来る。ホントに音が聴こえるぐらいビシッと来る(笑)。これがだからどうなんだという訳でもないんだけど、なんか楽しくって嬉しくって僕は何回も行ったり来たりしてニヤニヤしていました(笑)。
今回、この大阪は中之島にある国立国際美術館に初めて行ったんだけど、地下のわりに意外と広くて、結構な人出だったにもかかわらず、最後までストレスなく観ることが出来ました。流石、国立やね。それにここらはビジネス街でもあるから、昼時には安くて美味しそうな飲食店が沢山並んでいて、そういう意味でも楽しいです。また来るときには、その辺もちゃんと調べてから来ようかな(笑)。