ピカソと日本美術-線描の魅力- 感想

アート・シーン:

『ピカソと日本美術-線描の魅力-』 和泉市久保惣記念美術館

 

この展覧会では浮世絵に代表される日本絵画のコレクターでもあったピカソの絵と、彼に影響を与えたであろう日本絵画が並列して陳列されている。まあ僕にとっては解説文を読んでふむふむといった程度のもので、その関連性についてはよく分からない。当時は日本からも多くの芸術家がかの地を訪れピカソと交流をしていたそうなので、お互いに影響を与え与えられというところがあったというのは想像に難くないところだろう。

この展覧会ではピカソの多くの下書きやデッサンが展示されている。メモ程度のものであっても写実的な描写はない。ほぼ全てが僕たちのよく知るピカソのへんてこな絵の下書きばかりだ。あぁ、そうか、なんとなくピカソは感性を頼りにへんてこな絵を描いていたとばかり思っていたが、そこに至るまでには何百何千の下書きをしているのだ。この下書き、自分の中にあるイメージを確認するためなのか、徐々に固めていくためなのか、結局のところは分からないにせよ、彼の試行錯誤を見るようで面白かった。ずっと見ていると彼の中の何か決まり事というか美しさの基準が見えてくるような気もしてくる。ま、そんなことは一切分かりっこないんだろうけど、そんな気がするだけで僕は満足だ。なんにしても思いつきで描いているわけではないのだ。

ピカソの特徴として静物よりも人物画の方が圧倒的に多い。今回もほとんどが人物画だ。例のごとく一見本人とは似ても似つかぬデフォルメした人物画。けれどちゃんと違うんだな。例えば、2枚並べて展示してあった「女の半身像」と「男の胸像」は同じ手法、色味で描かれているけれど、印象は全く異なる。ということはつまり、2枚ともちゃんとモデルその人を描いているということだ。あんなデフォルメした絵を描いてはいてもちゃんとその人を描いている。だから多分よく似ているんだと思う。きっとその人の本質を言葉ではなく絵で見抜くんだろうな。ピカソのデッサン力が凄いのは有名だが、つまりは観察力が尋常ではないということだろう。

ピカソの場合、とかく造形に目が行きがちだけど、色使いも抜群だ。同じ色合いの濃淡とかはみ出し具合とか混ざり具合とか。僕はやっぱこっちの方に圧倒される。さっき述べた「女の半身像」と「男の胸像」もそうだし、「赤い枕で眠る女」とかホントきれいだ。デッサン力は磨けても色の感覚はそうはいかない。これはもう天性のものだろう。

また、『博物誌』なるものに描いた挿絵が何枚も展示されていたのだか、そこに描かれた動物とか昆虫が実に見事。人物画とは対照的に非常に細かく描きこまれている。といっても写実ということではなく、生き物の生命力や躍動感を前面に出した力強く精密な絵。ピカソの違う一面が見れてとても良かった。

今回の展覧会は久保惣記念美術館の35周年記念特別展。それにしてもこれだけのピカソの絵が一地方都市の美術館に集められたというのが驚き。関係者の皆さんの熱意の賜物。この展示会を開催するため奔走したであろう皆さんに感謝。よいものを見せてくれてありがとうございます。

最後に。僕がここを訪れた日、たまたま近くの中学校が校外学習に来ていた。学芸員と思しき方が学生達に説明をされていて、それがとても的確だったので僕も一緒になって聞いていた。ちょっとラッキー。学芸員さん、ありがとう。

 

2017年11月

 

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