アークティック・モンキーズの『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい

その他雑感:

アークティック・モンキーズの新作、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい。最初聴いた時はこりゃまた厄介なのが来たぞ、しょーがねぇなという感じだったんだけど、何回か聴いてるとこれは凄い作品だなと。もうしばらく聴いてからちゃんとレビューを書くつもりですが、とりあえず今の感想を。

この作品、あまりにも一般的なロックンロールのフォーマットから離れているから賛否両論のようだけど、理屈は抜きにしてカッコいいんだからそれで済ませてしまえばいいんじゃないだろうか。

ヴィンテージSFというか古いんだか新しいんだか分からないサウンドと、これまた近未来小説か歴史小説かとでも言うような相反する要素を詰め込んだブッ飛んだ歌詞。これがとんでもなく素晴らしい。

この訳の分からなさを正しいと思わせる説得力はどこから来ているのか。こういう訳の分からないラジカルな音楽が王道を行くロック・バンドから出て来たのが嬉しい。

サマソニに来る Pale Waves がよい

サマーソニック:

サマソニに来る Pale Waves がよい

 

ちょっと気が早いが、サマソニで来る知らないバンドに目を通しとこうかな~ってことで色々聴いていたら、スゴイのにぶち当たった。UKの新人バンド、Pale Waves(ペイル・ウェイブス) である。最初に聴いたのが『Television Romance』って曲でこれがスゴイのなんのって。何がスゴイかってまんまThe1975や~ん。てことで最初聴いた時は思わず笑ってしまいました(笑)。

ただ何回も聴いてるとこれが良くって、この曲はズバリThe1975がプロデュースしてるってことだからそういう雰囲気にはなってるけど、この曲自体が魅力的なフックがあってホント良く出来ているのだ。他にも色々『The Tide』とか『Heavenly』とかどれもThe1975のお株を奪うキャッチーさ。誰が書いてんのか分からんけど、このメロディは癖になるぞ。ゴス系メイクの女の子の透明感ある声もポイントやね。まだEP盤しかリリースしてないみたいで、しかもLP!だそうです。

Pale Waves が来るのがノエルの日、大阪で言うと2日目だ。ちょっと行けるかどうか怪しくなってきたけど、恐らくマウンテン・ステージの初っ端、Pale Waves とこちらはガレージなDream Wife(ドリーム・ワイフ)と続くUK新人バンドは見ものだ!

前途ある若者の未来を奪っちゃいけない

その他雑感:

 

悪質タックル問題で、当事者の大学生が記者会見を開いた。なんで学生が一人で会見しなくちゃならないんだ、大学は、周りの大人は何をやってるんだ、ということに尽きるんだけど、この学生が思いの他ちゃんとしていて驚いたのは僕だけじゃあるまい。逆に言うと、これだけ精神的に落ち着いた聡明な学生が、あんな酷いことをしてしまったという事実が恐ろしい。人はいとも簡単に洗脳されてしまうのだ。

事実は消えないが、立派な会見だったと思う。事件を起こしてからこの日まで、彼がどういう日々を過ごしてきたのか。推して量るべきかなである。

アメフトに人生を賭けた青年に、「二度とアメフトをやることはない」、「その資格はない」と言わせてしまったのだ。オリンピックで沢山メダルを獲ることよりも、今しなくてはならないことは。答えは出ていると思う。

彼にはいばらの道が待ち受けているだろう。日大アメフト部だってどうなるか分からない。そこにいる部員の多くがアメフトをするために日大へ入り、アメフトに人生を賭けた青年達だとすると、勿論、彼らもつらいだろうが、その矛先は件の青年に向かうこともあるだろう。人生は長い。もう二度と彼や他の部員や被害に遭った関学生の未来を奪っちゃいけない。今度こそ、彼らを導いてあげられる大人や友人たちが周りにいてくれることを願ってやまない。

鳥谷選手、連続試合出場の件

野球のこと:

鳥谷選手、連続試合出場の件

 

僕は父の影響で子供の頃からタイガース・ファン。子供の頃はタイガースの成績に一喜一憂していたけど、ある程度年を重ねてからはあまり入れ込むことは無くなってきた。多分大人になって、批評的なものの見方が出来るようになってきたからだと思うんだけど、そういう意味でもチームそのものより、選手個人を応援する気持ちの方が年々強くなっているような気はする。藤浪ガンバレ!とか上本ガンバレ!とか(笑)。そういや2003年の優勝も2005年の優勝もそんなにしゃかりきになって見てないもんな~。ま、好きは好きなんだけどね。

てことで鳥谷の連続試合出場記録。あれはやっぱよくないよなぁ。鳥谷はこの10年以上、タイガースの主力として活躍し、去年は2000本安打も打っている。彼の魅力は何と言ってもしぶとい打撃。確かにタイトル争いに絡むような打率は残さないけど、相手投手に球数を投げさせ四球を奪い取っていくというスタイルは、メジャー・リーグでは大きく評価される能力。あちらではいくら打っても四球が少なく出塁率の低いバッターは例えホームランキングに輝いても評価されないのだ。てことで強打者でもないのにいつも最多四球を争う鳥谷は非常にチーム貢献度の高い選手なのだ(ちなみに現役選手の通算出塁率は内川や阿部といった強打者を抑えてなんと鳥谷が第1位!)。

その鳥谷があえいでいる。セカンドへのコンバートや半レギュラーのような扱いに苦労した影響もあるかもしれないが、ここまで打率は1割台。それでも連続試合出場を続けるために、9回の守備だけ、或いは試合の趨勢が決まった後の代打として毎試合出場している。これは時折顔を出す日本のプロ野球の内向きでネガティブな部分だと思う。

長年、鳥谷を応援してきた身として、彼の価値を貶めるような起用法は止めて欲しい。鳥谷はまだやれる。ことに貧打にあえぐタイガースでは貴重な戦力だ。一度休養をして、連続試合出場などという余計な足枷は解いて、心身ともにリフレッシュした状態で再びグラウンドに戻って来て欲しい。それが子供の頃からタイガース・ファンの僕の願いです。

シンクロニシティーン/相対性理論 感想レビュー

邦楽レビュー:

『シンクロニシティーン』(2010)相対性理論

 

ガチャガチャした初期衝動丸出しの1st、気だるい変化球の2ndを経て、バンド全体のクリエイティビティが一気にスパークした印象を受ける3枚目。オープニングのイントロからして明らかに違う。スタイル云々ではなくもう音からして全然。あ、相対性理論、来たな、って感じ。

特に目を引くのがやくしまるのボーカルで、かつてのぶっきらぼうなものから一転、曲調に合わせて表情を変えており、早速1曲目の『シンデレラ』では3パターンの声音を用いている。独特の声だけに結構なインパクト。この覚醒感はなんだろか。

どちらかと言うと故意的に感情を抑えた人工的なトーンだったのが、ここに来て急に魂が宿ったというか、あぁ、生身の女性なんだなと。要するに自覚的になったということか。前作までのボーカル・スタイルはともすればイロモノ的な危うさを孕んでいたので、このアルバムでのボーカリストとして目覚めは大歓迎。やっぱやくしまるさんは放たれるべし。

ソングライティングの冴えも素晴らしく、語呂合わせだとか押韻に重きを置いたリリックへの取り組み方自体はそんなに変わらないのかもしれないが、そこに意味性が加わってきているのは敢えてなのか偶然の産物なのか。どちらにしても曲を書き続けていればこういう時も訪れる、という時が訪れたかのような神がかったソングライティング。この切れ味はもうこの時だけのものだろう。

バンドの演奏も素晴らしく、前作までは猫を被ってたのかどうかは知らないが、このバンドの売りであるギター・リフも力強く、遠慮がちだったドラムも今回は随分と畳み掛けている。『チャイナアドバイス』や『マイハートハードピンチ』のグルーブ感は白眉。こりゃやっぱバンド全体が覚醒したのか。

独特の世界にとどまりたい意志と外の世界に飛び出したい意志とのせめぎ合いが、ギリギリのバランスで平衡を保ちえた故に生まれたアルバム。この緊張感は意図的に出せるものではない。てことでこの後、やくしまるとギタリスト以外のメンバーがごっそり入れ替わってしまうのだが、それも頷ける完成度。第一期相対性理論の集大成と言える作品だ。

 

1. シンデレラ
2. ミス・パラレルワールド
3. 人工衛星
4. チャイナアドバイス
5. (恋は)百年戦争
6. ペペロンチーノ・キャンディ
7. マイハートハードピンチ
8. 三千万年
9. 気になるあの娘
10.小学館
11.ムーンライト銀河

雨煙

ポエトリー:

 

『雨煙』

 

こんにちはと言って君の横を過ぎるのを

今日は疲れたから黙って通る

横目に見る

君の長考

君の長い睫毛は放牧され浜茄子の頃湯に溶ける

胃が痛いのは期待感の表れ

罠をかけ君の足首を掴みたい

 

現在進行形で重ね着をする幾つもの災いを

今年の冬は特に寒いからねと簡単に済ませる横着が

目覚ましく発達する

分かっているならちゃんと前を閉めて

出掛ける時は喉を潤してから行きなさい

白湯で

 

それでも瞼が凍りついてしばらくは歩けない

あの日渋滞など気にせずに強引に線引きをされた魂が幾つも空を舞った

覚えていないけど

 

風の強い日の雨の降り始めにも似て

リュックサックのサイドポケットは少し濡れている

 

 

2018年1月

Bread And Circuses/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bread And Circuses』2011)The View
(ブレッド・アンド・サーカシズ/ザ・ビュー)

 

UKギター・ロックの雄、ザ・ビューのサード・アルバム。これだけ何の但し書きも必要のないロック・バンドも珍しいんじゃないだろうか。同世代のアークティック・モンキーズのような派手なインパクトはないかもしれないが、逆に言うと今の時代、オーソドックスなロックでありながらキチンと聴き手にまで届く力を有するということ事態が驚くべきことなのかもしれない。中でもこのアルバムの飛距離は半端ない。

言ってみれば、それは初期衝動のなせる業かもしれないが、彼らの場合それだけではすまされない音楽的基礎体力が背景にあるように思う。しかもそれは気をてらったものではなく、ポップ・ソングの王道を行くものであり、同時に僕たち自身に「あぁ、なにも突飛なことをしなくても、格好いいんだ」ということを改めて気付かせてくれる。結局それが一番難しいんだけどね。

とにかくもう、屈託なく鳴らされるひとつひとつの楽曲が素晴らしく、メロディが頭にこびりついて離れない。正面から取り組まれているアレンジも楽曲の良さがあってこそなのだろう。キーボードにしてもストリングスにしても特に際立ったアレンジでもないのだが、こうも効果的なのは何故なのだろう。恐らくそれは、彼らのボーカルを含めた演奏力の確かさと、加えて音楽を良く知っているということに尽きるのではないだろうか。今どきこれだけシンプルにカッコイイ音を出せるロック・バンドはそうはいない。

しかし彼らにしてみれば、本作は少しウェル・プロデュースが過ぎた模様。確かに1作目2作目と比べればやんちゃくれ感は乏しいが、このまとまりの良さはそれを補って余りある。カイル・ファルコナーの愛嬌のあるメロディが前面に出てとてもいい感じだ。うん、やっぱ飛距離が半端ない。

次のアルバムではウェル・プロデュースを嫌って原点回帰を目論むのだが、結果が付いてくるのはむしろこっちか。何気にすごい作品だけど、彼らなら普通にやれゃこれぐらいはやる。

 

1. Grace
2. Underneath the Lights
3. Tragic Magic
4. Girl
5. Life
6. Friend
7. Beautiful
8. Blondie
9. Sunday
10. Walls
11. Happy
12. Best Lasts Forever

何度でも/ドリームズ・カム・トゥルー について

邦楽レビュー:

『何度でも』 Dreams Come True について

 

このあいだテレビでドリカムの特番をしていた。家人がファンなので一緒になって観ていた。番組の中で、2011年に福島から生中継された紅白での一コマが流れた。そして生中継終了後の未公開映像が披露された。それが『何度でも』だった。

この歌はリリースされたころから好きだった。主人公は1万回挑戦して、1万回失敗する。諦めない主人公はそれでもなお1万1回目に挑戦する。だが、頑張ったからといって1万1回目はうまくいくとは限らない。確かなことはただ一つ、うまくいくかもしれないということだけだ。これほど絶望的な言葉はあるだろうか。しかしそこに言葉に丁寧に寄り添ったメロディと吉田美和の強い意志を持った声が加わるとどうだろう。希望と絶望がないまぜになって言葉に光が差し込み、希望が幾分か強く光り始める。音楽に限らず、優れたアート表現とはきちんと光と影を描いている。光を当てれば影が出来るのだから当然だ。安易に希望を歌わず、絶望を見据えたこの歌が僕は好きだった。僕はこの曲をそういうふうに捉えていた。

未公開映像の『何度でも』のラストでは、バンドの演奏が一旦静まり、吉田美和の声だけが聴衆に投げつけられる。彼女は会場にいるひとりひとりに向かって叫びだす。「あなたに!」「あなたに!」「あなたに!」と。まるで自分の命をちぎって投げつけるように。鬼のような形相でひとりひとりを確実に指さしてゆく彼女は本気だ。あなたにも、あなたにも、あなたにも、チャレンジする限り1万1回目は訪れるのだと。

この歌は間違いなく希望の歌だ。僕の見方は間違っていたかもしれない。確かにそこには絶望が横たわっている。しかし彼女の圧倒的な意志の力がそれを凌駕する。これほど圧倒的な希望の歌があるだろうか。

月と専制君主/佐野元春 感想レビュー

 

月と専制君主  (2011) 佐野元春

 

リ・クリエイト・アルバム。要するに自前のカバー曲集なんだけど、これがとてもいい。嫌な言い方をすれば、あくまでも焼き回しに過ぎないのだが、全くそうは思えない瑞々しさと、今を感じさせる時代性を備えている。

ライブにおける佐野はこれまでも、場所や時代が変われば衣替えするかのような身軽さでもってアレンジを変えて演奏してきた。僕たちファンにとってもそれは当たり前のことではあったのだが、ライブ用のそれと、こうして時間をかけて丹念に録音されたスタジオ版とでは少し趣が違うようだ。それはライブバージョンのような瞬発力はないが、砂地が水を吸い込むかのようなゆったりとした浸透力を持っている。

フリー・フォークと呼ばれる当時の海外の潮流と歩調を合わせたかのようなアコースティックなサウンドは、親密さと同時に、リアリティを醸し出し、演者と聴き手との距離をぐっと引き寄せる。目の前に広がる風景は、これまで以上にまるで自分がそこにいるかのようで、ここにはズボンの裾に土がこびり付きそうな直接性がある。そしてその喚起力は、目の前にぐっと引き付ける力強いものではなく、やんわりとした日常性を伴ったものだ。

加えて素晴らしいのは、今を感じさせるという点である。これはポップ・ソングで最も重要な要素であるが、このアルバムを聴いて何よりうれしいのは、過去の曲であろうが、アコースティックであろうが、今この時を叩きつけている点である。まさに正真正銘のリ・クリエイト・アルバムと言えよう。

新たに施されたサウンド・デザイン、それに応えるホーボー・キング・バンドの適切な演奏もさることながら、今回感じるのはやはり曲本来の力である。煮て食おうが焼いて食おうが、今と共鳴する普遍性。余計な装飾がない分改めて佐野の楽曲の確かさが浮き彫りになった気がする。

『クエスチョンズ』や『C’mon』といったチョイスも良し。振り返れば佐野のキャリアも随分と長くなってきた。あまり顧みられることのない佳曲を掘り起こすことは僕らにとっても意味のあることではないか。

ただやはりカバー・アルバムなので、佐野のいつものはみ出すような危うさが無いのは物足りないか。このようなコンセプト・アルバムに違和感なく溶け込む新曲が2、3あれば、より鮮度は高くなったと思うがどうだろうか。ていうかファンとしちゃそっちの方が嬉しい(笑)。

そう言えば、、、ハートランド解散の折り、当時のライブ・アレンジで何曲かばぁーっと録音したはずなんだけど、あれはもうリリースしないのだろうか。本当の意味でのハートランド最後の作品ってことでファンにとっちゃたまらんのですけど、、、。

 

1. ジュジュ
2. 夏草の誘い
3. ヤング・ブラッズ
4. クエスチョンズ
5. 彼女が自由に踊るとき
6. 月と専制君主
7. C’mon
8. 日曜の朝の憂鬱
9. 君がいなければ
10.レイン・ガール