邦楽レビュー:
『星屑』(2021年)折坂悠太
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『星屑』(2021年)折坂悠太
赤い公園『NOW ON AIR』
赤い公園を知ったのは『NOW ON AIR』です。もう6年前になるんですね。久しぶりに聴いたんですけど、相変わらず素晴らしい!ホント素敵な曲です。
下に貼り付けたライブ映像を見てもらえば分かるんですけど、ボーカルの佐藤千明さん、皆の耳目を集める天性のフロント・ウーマンです。残念なことに脱退してしまったんですけど、ホント素晴らしいボーカリストです。
サウンドも抜群にカッコいいです。勢いでバーッということではなく、ちゃんとテクニカルな部分が垣間見える。ベースやドラム、キーボード、それぞれに聴かせどころがあって、演奏を聴いているだけでも幸せな気分になれます。
なかでも印象的なのはギターですね。カッコいいフレーズがたくさん出てきます。ギター・リフって難しいですよね、変に個性出そうしてもダサくなるし、シンプル過ぎても耳に残らない。そこのさじ加減はもうセンスですね、この曲ではそういうシンプルでカッコいいフレーズがたくさん出てきます。2番が終わってラスサビへ向かうところのギター・ソロといったらもうカッコよすぎっ!
この曲を書いてるのはそのギターを弾いている津野米咲さんです。赤い公園全般の曲を書いているソングライターですね。サウンド・デザインも津野さんでしょうか。僕はあまり詳しくないのでその辺りはよく知りませんが、これだけの曲を書く人ですから、大部分でタクトを振るっていたのではないかと想像します。
『NOW ON AIR』
(作詞作曲 津野米咲)
日々の泡につまづきやすい
あの頃 毎日のように
ハガキにメッセージ
書き溜めていた
新しいものに流されやすい
この頃 ついうっかり
あなたの事を
忘れかけていた
今も私には
才能も趣味もないから
せめて せめて
Please Don’t Stop The Music Baby!!
レディオ
冴えない今日に飛ばせ
日本中の耳に
他愛もないヒットチャートを
めくるめくニュースを
この先もずっと
聴いていたいの
どんな人からも愛されやすい
あの子は 毎日のように
幸せそうな
写真上げている
当の私には
夢も希望も遠いから
どうか どうか
Please Don’t Stop The Music Baby!!
レディオ
冴えない今日に飛ばせ
日本中の耳に
ぱっとしないヒットチャートも
重たいニュースも
瞳を閉じて
聞いていられるの
レディオ
居なくならないでね
今夜も東京の街のど真ん中
ひとりぼっちで
NOW ON AIR
レディオ
冴えない今日に飛ばせ
日本中の耳に
窮屈なヒットチャートも
悪くないけど
レディオ
冴えない今日に飛ばせ
日本中の耳に
異論のないグッドチョイスな
いなたいビートを
いつもありがと
この先もずっと
二人の電波
たぐり寄せて
やっぱり僕たちには音楽が必要です。音楽には僕たちの傷んだ心をそっと押し上げる力がある。今、この曲を聴いて改めてそう思いました。
この素晴らしい歌詞を歌う最高の声と最高の演奏を多くの人に聴いてもらいたいです。なんてことない日々を過ごす私たちをそっと癒し、やさしく鼓舞する。ゴキゲンなビートで明日を肯定する素晴らしい曲です。
コロナ禍にあって大変な日々が続きます。もう誰もいなくなってしまわぬように、ひとりぼっちの部屋にこの歌が届けばいいなと切に願います。
邦楽レビュー:
『AINOU』 (2018年) 中村佳穂
中村佳穂さんを知ったのは2019年のフジロックYoutube中継で、スゴいなぁと思ってアルバム『AINOU』をスポティファイで聴いたんですけど、僕は未だにケチ臭くフリーなもんでシャッフル再生なのですが、きっと中村佳穂さんはYoutube中継で聴いたようなピアノ主体のジャズっぽいことをする人なんだろうなって勝手に想像をしていて、ところが『AINOU』を聴いたらピアノ主体どころか思いの外エレクトロニカだったので、そん時の曲はなんだったかは思い出せないけど、なんかちょっと腰が引けた記憶があります。
ま、そんな先入観だったのでそこで一旦あいだが空いてしまって、ちゃんと聴くまでにはそこから時間を要してしまったんですけど、こんな素晴らしい作品なのにね、先入観なんて困ったものです。
それはさておき。とにかく素晴らしい作品でインタビューとか色々読んでるとサウンド・メイキングなんかはかなり凝った作りのようで僕には理解できないことが多いんですけど、それはもうジャズっぽい即興とはかけ離れた緻密なサウンドでして、それでもスゴイのはそんな考え抜かれたサウンドであってもやっぱり中心にあるのは佳穂さんの歌というところで。素晴らしいバンドの技量に引っ張られているのではなく佳穂さんの歌が引っ張っているっていう、そこがやっぱり肝ですね。だから聴いてて思うのは中村佳穂バンドというのはチームとか仲間という感じじゃなくて連帯っていうことですかね。
佳穂さんは落ち着きのない人のようで、落ち着きのないというと変な言い方ですけど、色々なところへ行ってそこでワォってなったら声掛けて一緒にやってみないっていう、そんでオーケーならまた共演しようみたいな。それでもやっぱり即興共演というのではなく、ちゃんとその場その場であっても俯瞰的にプロデュースできる人だって書いてるバンド・メンバーの言があって、『AINOU』アルバムを聴いていてもそれはスゴく出てるんですね。それぞれの曲には全部違う場所感があって景色が全然違うんですね。この曲はある特定の土地で見える景色だって独立してるんです。
でその独立した感じとか俯瞰てのはホント活きていて、これだけ感動的な作品にもかかわらずカラッとしているというか押し付けがましくないのが多分そこに起因しているのではないかと。やっぱり改めてスゴイなぁと思います。
さっきも言ったとおりサウンドがホントに緻密なのでうちの古いミニ・コンポで聴いても色んな音が聴こえてきて、スピーカーから聴くのもいいですけど、イヤホンだともっと最高ですね。ただサウンドに関しては僕は全くの素人なのでよく分かりません。とはいえやっぱりよく伝わってるとは思うので身体的には理解できているのかなとは思っています。
あとやっぱり言葉ですよね。元ある言葉に寄りかからないというか元ある言葉の意味に頼らない。自分でどういう日本語を当てていくのかというところを言葉の持っている意味を一旦ゼロにして取り組んでいるってのがホント伝わりますよね。その上でそこは音楽ですから音楽的にどう機能させるかってところに最終的な目標なんだと。それはスゴく感じます。
ただこんなに素晴らしい作品であってもこれはこれという通過点みたいな、さっき言いましたけどここでは連帯するけど、そこに固執しないというか、中村佳穂さんの持つ移動感という一本筋が通っている感はやっぱりありますよね。
だから次どうなるんだろうっていうワクワク感が佳穂さんにはありますし、そう思っていたら次出たのが『LINDY』っていうまた異なる土地からの発信っていう(笑)。また移動してるぞってのがとっても楽しいです!