新しい果実 / グレイプバイン 感想レビュー

邦楽レビュー:
 
『新しい果実』(2021)グレイプバイン
 
 
僕がグレイプバインを知ったのは京都は北大路ビブレにあったJEUGIA。ここの試聴器でデビュー間もない彼らのシングル『白日』を聴いたのが最初でした。今もちゃんと覚えています。それぐらい新しいカッコ良さがあったんですね。もう20数年前のことです(笑)。
 
その後、何枚かアルバムを買ったのですが、2001年の『Circulator』を最後に聴かなくなりました。で今回、新しくリリースされた『新しい果実』の評判がすこぶるいい。ということで、20年ぶりに彼らのアルバムを買いました。
 
随分と久しぶりに聴きましたけど、良い意味で変わらないですね。あの独特の声、歌い方、20年分歳を取ってるはずなんですけど、時にシャウトを交えた表現は健在、相変わらず艶っぽくてかっこいいです。例えば#2『目覚ましはいつも鳴りやまない』の「リヴィングジャストイナフフォーザシティ!」とスティービー・ワンダーの曲タイトルを叫ぶところ、例えば#6『阿』で「因果応報~!」と咆哮するところ、最高ですよね。
 
歌う様がカッコいいというのはロック音楽の基本なんですけど、実はそんな人あんまりいない。グレイプバインのボーカル、田中和将さんはそんな数少ないロック・ボーカリストの一人ですね。
 
このアルバムはメインのソングライターであるドラムスの亀井亨さんではなく、田中さんが多くの曲を手掛けているのも特徴だそうです。ま、熱心な彼らのリスナーではない僕からすると違和感はないですけどね。あの独特の歌詞があの声によって独特のリズムで歌われる、そこは変わりないですから。僕なんかは、あぁグレイプバインだなという感じです。
 
ただ久しぶりに聴いて感じたのは随分とゆったりとしているなという点です。初期の頃は言葉数も多かったですし突っかかるような性急さがありましたが、今は非常に差し引かれている。余白にも意味を持たせているという感じはします。特に1曲目の『ねずみ浄土』なんてそれが顕著、完全に引き算のサウンドですね。だからラスト近く、合いの手みたいにギターが鳴るところなんかがすごく効いてくる。まぁこの曲は歌詞も含めかなり革新的ですよね、なかなかエグイと思います。
 
彼らはギター・ロックという範疇に入りますけど、その中でこれが限界なんだということではなく、新しい表現、ベテランの域に達していてもまだこんなもんじゃねぇぞというような熱を感じます。特に#5『ぬばたま』~#6『阿』を聴いた時にはレディオヘッドかと思いました。
 
言葉においても#1『ねずみ浄土』の最後、歌詞は「好き嫌いはよせ」になっているんですけど、「好き嫌いは余生」という風にも聞こえるんです。こうなるとすごく意味が膨らんできますよね。こういう響かせ方、他にもたくさん出てきます。つまり歌詞は活字で見るのと音で聞くのとでは違う、ここのところを意図的に表現しているということですね。
 
冒頭で僕は良い意味で変わらないと言いましたが、言ってみればそれは瑞々しさですよね。ストロング・ポイントはそのままに今も飢餓感を持ち得ている、それが今作でも感じる切っ先の鋭さ、瑞々しさにも繋がるのだと思います。長く彼らの音楽を聴いていませんでしたけど、これを機に他のアルバムも聴いてみたいと思いました。

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