今朝のこと

ポエトリー:

「今朝のこと」

 

誰かからの誘いがあってないようなことで
耳が赤くなる
昔からひとがいないところで咳をするのがクセだった
風が運ぶ音階を見ず知らずのひとに紹介する
そんなひとになりたかった

まさかが狭い部屋で衝突する
今朝は6時頃にそれが起きて目を覚ました
それは思い当たるふしがあるような完成が近いプラモ
ドキドキしていた

もうじき
風と風が向き合うところでこだまする
本当のことを知りたがるわりに地面に手をつこうとしない
そのくせ
ひとからの誘いで心あたたまる

だけど今朝は呼吸が短い
とりあえず今日は
言外で凍らせる人
そんなひとになりつつあった

 

2024年4月

4月

ポエトリー:

「4月」

 

いじわるなあの人のことばがそよ風
耳の奥を通りすぎて
花粉に紛れたよ
見知らぬ人の鼻先をくすぐりかねないよ
わたしたちはいたって元気に
4月を迎えたよ

 

2024年4月

軍隊

ポエトリー:

「軍隊」

 

近日中にオレたちは加害者になる
見知らぬ人を連行し海を渡らせる
羽根は優雅な鳶色で
短い距離を一直線に
ガラス戸さえもぶち破る
身体に流れる軍隊が
否応なしに向かわせる

賑やかな階段を踏みしめる
空は穏やかだ
しかし間違いなく黒ずんでいる
背丈は伸びる一方だったのに
今や無理難題を突きつけられ
今日遂にかなしみが
色濃く残る風景を背に
目指したものの当落線を踏み外す

羽根は優雅な鳶色で
道に迷った人々をとっ捕まえては
新大陸へと向かわせる
手続きなしの新大陸へ

 

2024年3月

湯呑み

ポエトリー:

「湯呑み」

 

ぬくもりというものを景気づけに
一杯やろうというあなたが
冷え冷えとした心の内底に写し出しているもの

知らないことを覚えるため
知っていることを忘れるため
できるだけ工夫をこらしている私たちは
いつだって健気です

ある日
薄ぼんやりとあなたの似姿を湯呑みに浮かべ
ゆっくりと蓋をしました

だれかの酒の肴になるようなものが
かつてここにはありました
機能不全に陥る記憶
もいちど蓋をあける勇気はなくて

 

2023年2月

ただ見ていただけなのです

ポエトリー:

「ただ見ていただけなのです」

 

ぼくときみは目立つ方ではなかったけど
入学してまもなく学級委員に選ばれた
多分お互い背が高くて真面目そうだったからかもしれない

あの子とはよく目が合うんだよ
友だちにそう言ったら
おまえが見てるからじゃないかって言われた
あぁ、そういうことか

そういや一度だけ
彼女に悪態をついたことがある
周りにクラスメートがたくさんいたとき
彼女の名字をからかった

二人そろって委員会に出席することはあったけど
一度も話すことはなかったな
部活が同じだったのは
わざとじゃないよ

3年経ってもぼくは恋をした覚えはなくて
よくある話
きれいなきみをただ見ていただけなのです

 

2024年3月

 

あっちはひらいて こっちはとじている

ポエトリー:

「あっちはひらいて こっちはとじている」

 

あっちは翅がひらいて飛んでいる
こっちは翅がとじている
耳を傾けると
少しずつ音がして
うううん、虫の声じゃない
台所で母と子どもが話している時のやつ

あっちは虹が架かって
こっちは虹が途切れている
団地の端っこには金網がずっと続いていて
そこを乗り越えたりしなかったりして遊んだ記憶
けど誰もどこにも行かないやつ

ぼくたちが住む棟の向かい側には
そこにだけ大きな広場があって
覚えたての自転車でぐるっと一周をした
ブレーキのかけ方がよく分からなくて
煉瓦の花壇に何度もぶつかった

お母さんが三階から呼んでいる
あれ、じゃあこっちの音は?
首を傾けると
翅がひらいて飛んでいるのと
翅がとじているの
更にはもうひとつ増えて
モーターが走る音
誰かが駆け出している

 

2024年1月

川べりで

ポエトリー:

「川べりで」

 

違わないことを歌にして
君は陸と戦った
川べりで

コンクリートが剥き出しになっていた
それでもかまわないよと
君はほうぼうから集めた貝殻に耳を当て
熱心に人々の声を聞いていた

観察することが一番大事さ
それが口ぐせの
荒野へ向かう旅人のような格好で
使い古しのリュックには
いつも真新しいハンカチが複数枚あって
集めた貝殻の縁を
きれいになぞるのが常だった

もう二度としくじったりしないよう
心を込めて丹念に
君は陸と戦った
言葉はリュックに入れて
心は共にあった

 

2023年1月

夜が来たら

ポエトリー:
 
「夜が来たら」
 
 
何度も
耳の奥で繰り返す
今日のこと
 
夜が来たら
君ですら眠たくなるよ
だからもうおやすみ
あくる日の天気は
神さまにゆだねよう
 
ぼくたちははまた
大事なものから離れている
まだ気づいていないけれど
ぼくたちはきっと
眠りたりない
 
だからもうおやすみ
あくる年の天気は
神さまにゆだねよう
 
 
2023年12月