或る秋の日/佐野元春 感想レビュー

 

『或る秋の日』(2019年)佐野元春

 

40も半ばを過ぎて、人から相談を受けることが多くなった。会社では若い社員に変に恐縮されたりして、自分は恐縮されるような大した人間でもないのになぁと思いつつ、あぁそうか、自分は単純に年食ったんだと今更ながら思ったりしている。

最近は人の生き越し方に思いを巡らすようになった。何とはなしに生きているように見える中年だって実は色々あってここにいる。僕だって人に自慢できるようなものでもないけど色々あってここにいるわけだ。乗り越えたり乗り越えられなかったり。いや、上手くいかなかったことの方が圧倒的に多いけど、人生なんてそんなものだと初期設定として取り込めば、案外色々な事に対してポジティブでいられるんじゃないか。最近はそんな風に思うようになってきた。これも年を食った証拠か。

この『或る秋の日』アルバムには今言ったようなことがちりばめられていて、例えば、色々な事があってここにいるというのは#8『みんなの願いかなう日まで』。例えば、人生についての考察はそれこそ#1『私の人生』。元々僕の中から自然に出てきたものと合致したせいか、この2曲については僕の中でごく自然に曲が流れてゆくのが分かる。

一方で#3『最後の手紙』や#4『いつもの空』は未知の世界だ。ここでは大切な人との別れが描かれている。別れと言っても恋人がくっ付いたり離れたりという類のものではない。要するに永遠の別れだ。特に#3『最後の手紙』はラストに「子どもたちにもよろしくと伝えてくれ」というくだりがあり、そこには‘死’を予感させる重たいイメージが見え隠れする。

『いつもの空』は‘君’がいなくなった世界についての曲。「君がいなくても変わらない」との呟きは同じく恋人同士の別れとは異なるニュアンスが含まれている。‘君’はもうこの世にはいないのだろうか。ここで描かれるのは‘君’なしで迎える台所の朝の風景。情感ではなくただ時間だけが過ぎてゆく様。この2曲で描かれているのは主人公の内面ではなく、主人公の視点そのものだ。

表題曲の#5『或る秋の日』も僕にとっては未だ見ぬ景色。ここでは若い頃に別れた二人の再会が描かれている。二人は年月を経て再び出会い、再び恋に落ちる。けれど描かれるのはここまでで、その後の二人の行動は定かでない。つまり上記の2曲とは異なり、主人公の心の揺れ動きのみが描かれている。ここで歌われるのは再び恋に落ちたという事実だけだ。

#6『新しい君へ』は「ささやかなアドバイス」という言葉で締めくくられる今までにない視点を持った曲だ。失うことはネガティブなことではなく、新しい何かを知る契機になるんだよという人生の先輩からの助言。過去にも『レインボー・イン・マイ・ソウル』(1992年)で「失うことは悲しい事じゃない」とノスタルジックに歌った佐野だが、ここではよりポジティブで前向きに、より自然な態度で響いてくる。

とか言いながら次の#7『永遠の迷宮』では「今までの隙間を埋めたい」や「時を遡る」といった言葉も。『新しい君へ』での達観とは裏腹に、ここでは迷いや後悔が素直に吐露されているのが面白い。しかしそれはあの時こうすればよかったという後ろ向きものではなく、これからの人生でそれらの穴埋めをしたいとでもいうような、愛しい人への、或いは愛すべき何かへの優しい眼差しだ。

人生の意味とは何だろう?今はもう会わなくなった人、会えなくなった人。遠くにいる人、連絡が途絶えてしまった人。時折ふと思い出す。あいつは元気にやってるだろうかって。あの人はこんな風に言ってたけど、今頃どうしてるだろうかって。つまりそれは、もしかしたら自分も自分の知らない何処かで誰かにそんなふうに思われているかもしれないってこと。それって生きた証しにならないだろうか?

#8『みんなの願いかなう日まで』がリリースされたのは2013年。あの時はえらくシンプルな言い回しだなとあまり気にも留めずにいたのだが、時を経てこうして何度か聴いていると、そんな今の自分の気持ちと重なり合って聴こえてくることに気付く。

最後に、大事な1曲を忘れていた。#2『君がいなくちゃ』は佐野が16歳の時に書いた曲だそうだ。通っていた高校でちょっとした流行歌となったらしいが、時間と共に佐野自身もすっかり忘れてしまっていたらしい。ところがこの曲は長年にわたりその高校内で歌い継がれるようになり、数年前、卒業生の一人が佐野にこのことを伝えたところ佐野自身も思い出したという。ここで披露される『君がいなくちゃ』は当時とは歌詞を若干変えているそうだが、人生の秋を思わせるアルバムにあって、瑞々しい感性でアクセントを与えている。

ちょっとしたすれ違いを「暗闇の小舟のように」と例える描写が素晴らしいが、より心を打つにはブリッジの部分。かつて『Someday』で「手おくれ」に対し「口笛でこたえていた」少年が、ここでは「強い勇気をどうかこの胸に」と切に願う。遠い昔に書かれた曲がこのアルバム全体のトーンと共鳴する瞬間だ。

このアルバムはタイトルそのままに人生の秋が描かれている。40代半ばを過ぎた僕にはまだ少し早い季節。だから凄く心に馴染む曲もあれば、まだよく分かっていない部分もある。けれどそこには景色がある。意味を云々する前にそこに景色が存在するのだ。僕がまだ若葉の頃、コステロの曲やヴァン・モリソンの曲を素敵だなと思ったように今の若い世代にもこの秋のアルバムを聴いてもらいたい。意味など分からなくていい。まだ見ぬ景色を眺めることもかけがえのない経験や知恵になるのだから。

 

Tracklist:
1. 私の人生
2. 君がいなくちゃ
3. 最後の手紙
4. いつもの空
5. 或る秋の日
6. 新しい君へ
7. 永遠の迷宮
8. みんなの願いかなう日まで

お日さん

ポエトリー:

 

『お日さん』

 

太陽をお日さんと呼ぶのは

子供っぽいからではなく

それが私たちの宗教だから

宗教って言うとちょっと重たいけど

お日さんに顔向け出来ないことはしちゃなんめぇってことで

母なる太陽とはよく言ったもの

やましい時は

夜に隠れても

心は落ち着かないものなのです

Why Me? Why Not./Liam Gallagher 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Why Me? Why Not.』(2019)Liam Gallagher
(ホワイ・ミー?ホワイ・ノット/リアム・ギャラガー)

 

いや、いいんじゃないですかこのソロ2枚目。いい具合に肩の力が抜けてリアムの声がスゥーッと入ってくる。まぁここに至るまで紆余曲折があったわけで、ソロ1作目の手探りな緊張感もいいですが、ここでようやくリアムも本来の調子を取り戻したってことでしょうか。

肩の力が抜けてホントいい声なんですよ。若き日のあの行ったらんかいボーカルではなく、年相応の声といいますか、いやでも妙に瑞々しいんです。このイノセント感はなんなんですかね?

てことで改めて『Definitely Maybe』と『Morning Glory 』のさわりを聴いてみたんですけど、やっぱ当然ながら若い(笑)。だから声質が全然違う。けど今回の声はそん時とはまた違った意味で若く聞こえるんですね。我々は一時期のあの声が伸びなくなったリアムを知っていますから、これは余計にね、リフレッシュして新しい声を手に入れたなと。ちょっとおおっ!となりますね。

てことで今回のリアムさんは歌うことに徹してます。前回は8曲もあった自作曲は今回は無しです。この辺の潔さ。リアムのソングライティングもそんなに悪くないのですが、もうちょっとトライしてみようとかそういった半端な欲が一切ない!俺は歌うからもういいと(笑)。流石、はっきりしてる!

ではっきりしてるのはソングライターチームも同じでもう方向性が一貫している。前回に引き続きグレッグ・カースティンとアンドリュー・ワイアットの2名を筆頭に多くの制作陣が名を連ねているんですが、皆いい曲を書くことに注力している。少々ベタでも兎に角いい曲を。はっきり言って他のミュージシャンには出せないような、ビートルズ丸出しのキャッチーな曲だって沢山あります(笑)。一部、「リアム、ビートルズを歌う」になってます(笑)。でもいーんです。いーんですというか、言い換えるとそういうあからさまな曲を歌ってもリアムの曲になってしまうぐらい今のリアムの声は絶好調なんです。

ここまで来るともうリアムさん、シナトラですね。なんでも自分のものにしてしまう伝説のシンガーです。つーことでこのアルバムは別名「リアム、ビートルズを歌う」、もしくは「リアム、シナトラになる」でどうでしょうか(笑)。

まぁそれぐらいですね、制作陣も惜しみなくよいメロディを注ぎ込んでいる。その意図がよ~く分かるのがどの曲もアウトロ、めっちゃ短い!リアムの歌が終わったら、スッと引いちゃう。もうちょっと余韻があってもいいなと思うような曲でも歌が終わるとバッサリいっちゃいます(笑)。ここまではっきりしてると逆に気持ちいい!

それにしてもリアムがこんな普通の素晴らしい歌のアルバムを出してくるとは思わなかったですね。でもって唯一無二の声の持ち主ながらここに来て、相反する誰の所有物でもない普遍的な声になっている。やっぱそこですよね、このアルバムは。

音楽的に新しい訳でもないし、批評家たちからは相変わらず評価されないけだろうけど、色んな音楽ジャンルがごちゃ混ぜになって益々細分化されていく時代に、ただいい歌をいい声が歌うっていう。そういう埃をかぶった価値観を図らずも改めてここで提示した。ちょっとおおげさかもしれないですけどね、そういう意味では新しくないけど新しいと言える、新鮮な空気を運んでくれるアルバムだと言えるんじゃないでしょうか。

 

Tracklist:
1. Shockwave
2. One of Us
3. Once
4. Now That I’ve Found You
5. Halo
6. Why Me? Why Not.
7. Be Still
8. Alright Now
9. Meadow
10. The River
11. Gone

(Deluxe edition bonus tracks)
12. Invisible Sun
13. Misunderstood
14. Glimmer

 

「スカーレット」はおもろい!!

TV Program:

「スカーレット」はおもろい!!

 

朝の連ドラ「スカーレット」が面白いねぇ~。人生初です、朝ドラにハマったの(笑)。ドラマを見るにあたっては私の場合、どうも「いだてん」とか「スカーレット」とかみたいに合間合間に笑いがないとダメみたいですね(笑)。

朝ドラは何年か前からか家内が録画して夜に観てるんです。なので私もチラ見というか、今までもなんとはなしに観ていたのですが、こうもハマるとはね。今や「スカーレット」を観るのが一日の楽しみの一つになってしまいました(笑)。

最初はね、やっぱ子供時代の喜美ちゃんですよ!この子がすっごく面白くってですね、活発でしっかり者で、またお父さんとの掛け合いも楽しくって、ホンマおもろい子やったんです。なので、主役がね、当然のことながら成長すると演じる人が変わるんですけどね、ここがちょっと心配だったのです。あの喜美ちゃんじゃなくなるのかって。ところがですよ、長じた喜美ちゃん演じる戸田恵梨香さんがまた素晴らしくって、あぁもう大きなった喜美ちゃんこんな感じかもっていう自然な演技を披露されている。繋がりがちゃんと見えるんですね。戸田さん演じる喜美ちゃんももう最高です!

でやっぱお上手です。比較するわけじゃないんですが、前回の「なつぞら」の広瀬すずさんはやっぱりお若いですから、大人になって母親になってっていう主人公を演じるにあたっても広瀬さん自身が発する若さ、光が隠し切れないんです。手で押さえても指の隙間から光が漏れてしまう。

そこがですね、戸田さんは今年30才になるらしんですけど、ちゃんとその光を手の平で抑えることが出来るんですね。光が漏れてこないんです。そこがまた喜美ちゃんの切なさと快活さのコントラストとなってですね、劇中の喜美ちゃんはまだ18才かそこらなんですけど、やっぱ18才ですからそこのところのコントラストに自覚がないわけですよ。その辺りの出し入れを戸田さんはホントに上手に演じてらっしゃてて、私は普段ドラマをあまり観ないのでよく知りませんでしたが、戸田恵梨香さん、ほんと素晴らしい俳優さんだなと思いました。

私が「スカーレット」を好きなのはもう一つ理由がありまして、それは言い過ぎないということでしょうか。例えば大久保さんのくだり。大阪へ下働きに来た喜美ちゃんの前に女中のプロッフェッショナルである大久保さんが立ちはだかるんですが、この喜美ちゃんと大久保さんとの交流、見どころでもあるんですけどね、ここがサラッとしてるんです。過剰な表現がないんです。あと圭介さんとの初恋もサラッとしている。変に感動させようとか、変に盛り上げようとかってのが一切感じられなくて淡々と進む。恐らくここは製作陣、意図的にそうしているのだと思います。観てて窮屈さがない。クドクドと言わない。観る方に委ねられている。そういう部分にも風通しの良さ、自由さを感じているのかもしれませんね。

あと登場人物もみんな面白いです。私のヒットはお父さんに始まり、荒木荘のちや子さん。そしてなんと言っても大久保さんです!ほんと素敵な大阪弁を話すんですよ。昔の大阪弁っていうんですか、昭和の時代の、私の母親もまだそういう懐かしい大阪弁を使いますが(母の場合は泉州弁ですね)、上方落語で言うところの5代目文枝師匠みたいな耳当たりの良い大阪弁が、昭和の子供だった私にはなんとも気持ちいいんです。

「スカーレット」、まだ始まってそんなに経っていないんで、これからも沢山楽しめるかと思うとウキウキしてしまいます。今のところ私にとっての名場面は、喜美ちゃんが働き始めた頃、寝る前に枕を大久保さんに見立てて何度も「大久保っ!!」と投げ飛ばす場面ですね(笑)。

同級生のS君

ポエトリー:

 

『同級生のS君』

 

同級生のS君はいつもにこにこしている

遊びの誘いも断らない

昼メシもなんでもいい

テストの点数は抜群に良くないけど抜群に悪くもない

僕らが誰かの悪口を言ってもにこにこ聞いている

僕らがしくじってもにこにこしている

S君は解決してくれないけど

 

S君は野球部

特別上手くはないけど、なんとはなしにレギュラー

僕たちの草野球にも来てくれる

凄いピッチャーが来てもスコーンとショートの頭を越してしまう

僕たちは感嘆の声を上げる

 

S君は意見を言わない

その代わり文句も言わない

S君は自分から誘わない

 

S君にも悩みはあるだろうけど

今はS君が懐かしい

 

 

2017年2月

i,i / Bon Iver 感想レビュー

洋楽レビュー:

『i,i』(2019)Bon Iver
(アイ、アイ/ボン・イヴェール)

 

4枚目。なんでも、デビューアルバムが‘冬’で2枚目が‘春’。3枚目は‘夏’で今回は‘秋’をイメージしているそうだ。言われてみるとそんな気はする。

ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンは不思議な人で、自分たちのコミュニティを大事にする所謂やりたいことをする音楽家という立ち位置ではあるけど、実際はローカルな感じはしないし、メジャー・アーティストともコラボしたりする。要するにどちらがどうということではなく、自身の要求に忠実ということだろう。最初は変なところから変な音楽を発表していたボン・イヴェールも今や2010年代を代表するアーティスト。今やこういう人が主流、当たり前なのだから面白い。

肝心の音楽の方も最初は何じゃこれ感があって、これオレにも聴けるかなぁという敷居の高さがあったのだが、段々と馴染んで来て今はもうこれが普通になっているから不思議。というかむしろこれ、すご~くしっくりくる。というのは時代の為せるわざか。

相変わらず詩は分かるような分からないようなヘンテコなものだが、そのヘンテコさがもうそういうもんじゃん、って。このヘンテコなものが違和感なく溶け込む感じはウィルコと同質かもしれないが、ただウィルコと違うのはそうは言ってもそのうちまた付いていけなくなってしまうかもしれない可能性があるということで、それがいい方向ならいいけど、そうじゃない場合も含めてまだ不安定さは含まれている。それこそまさに2019年的か。

傷心のジャスティン・ヴァーノンが一人片田舎で音楽を作って、やがてそれが大きなうねりとなって一つのコミュニティを生む。そして仲間との祝祭のような音楽があって、今回は秋の収穫。それが終わればまた皆それぞれ場所に帰っていく。けどそれはまた一人になるということを意味するのではなく、ただ生活という営みに過ぎない。

このアルバムは個という視点が再び強くなっているけど、それはかつてのそれとは性質が異なるもので、言ってみれば内から外へ向けられたものではなく、外から内に向けての優しい視線。ここにあるのは孤立とはかけ離れた、開かれた孤独だ。i,i と小さく並んだ小文字が可愛らしい。

 

Tracklist:
1. Yi
2. iMi
3. We
4. Holyfields,
5. Hey, Ma
6. U (Man Like)
7. Naeem
8. Jelmore
9. Faith
10. Marion
11. Salem
12. Sh’Diah
13. RABi

大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

アート・シーン:

大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

天王寺にある大阪市立美術館で開催中の特別展「仏像 中国・日本」に行って参りました。サブタイトルは`中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ`というもの。内容はそのサブタイトルのまんまですね。非常に統一感のある展示でした。

入ってすぐに展示されているのが、銀製の男子立像。これ、紀元前200年くらいの作なんですけど、あまりの精巧さにびっくりしました。デザインも含めまるで現代の作品のようです。紀元前200年にこれだけの技術があったというのは驚きですね。加えてデザイン。とてもチャーミングで2019年のセンスと変わらないというのがスゴイ!恐るべし、中国2000年の歴史!

展示が多かったのは石仏ですね。この石仏がですねぇ、また精巧なんですよ。また立ち姿が抜群
に素敵!特に横から見ると最高です!

仏様なので、少し前傾気味。といっても不自然な感じではなく程よく前傾なんです。でもってそこにはちゃんと軸が存在する。背骨の婉曲がはっきりと存在するんですね。このなんとも柔らかでキリッとした姿勢に私は惚れましたね。しかもほとんどの石仏がそんな感じなんで、こりゃやっぱり彫師の技術なんだなと。昔の職人、スゲー!

あと中国の仏像の特徴としてはやはりお顔立ち。実際の日本人と中国人の顔立ちはそんなに変わらないのですが、あっちの仏様はやっぱ本場インドの面影が色濃いです。鼻梁がスッと伸びて彫り深っ!鼻、とんがってます(笑)。日本にも西アジアの影響を感じさせるお顔立ちの仏様がいらっしゃいますが、ここまではっきりとインド!ってのは私あんまり知らないです。

そんな感じで仏像の方は8割方が中国仏像でしたが、あんまりあちらの仏像に触れることはないので、へぇーって感じて面白かったです。私としては見慣れているせいか日本ののっぺりとしたお顔立ちの仏様の方が落ち着きますけどね(笑)。中国仏像、なんか個性強過ぎっ。

それにしても金製や銀製の仏像や石仏、もちろん木製の仏像にしても技術の高さは目を見張るものがありました。日本の仏像はやっぱり俳句的というかシンプルイズベストが基本ですからね。中国仏像、情報量多いっす!

あと、仏像の法衣や装飾を見るのも面白いです。あんな昔にこんな格好してたんだというのが結構驚きます。じゃらじゃらいっぱいぶら下げてたり、派手な格好は新鮮でしたね。しかもバランス良くてセンスいいんですよ。意外と昔って美的感覚が今と変わらないのかもしれないですね。

映画『イエスタデイ』感想レビュー

フィルム・レビュー:

『イエスタデイ』(2019年) 感想レビュー

もし世界にビートルズが存在していなかったら。この誰もが思い付きそうで思い付かないアイデアが先ず秀逸ですね。このアイデアを思い付いた時は「よし、これだ!」と小躍りしたんじゃないでしょうか(笑)

そこでです。設定としては最高なんですが、じゃあこれをどうやってドラマに仕立てていくか。そこがこの映画の見どころです。

話の筋としては、ミュージシャン志望の冴えない青年がそろそろ夢を諦めようとした時に、あるきっかけで世界は彼以外の誰もビートルズのことを知らない世界になってしまう。そして彼はビートルズの曲を自作の曲として歌いスターダムにのし上がってゆくというものです。

この誰もビートルズを知らない世界になるっていうきっかけが何じゃそりゃ感はあるのですが、その辺は冒頭のことですから、ここは設定の面白さで押し切れちゃいます。

その青年、ジャックは一躍時の人になるのですが、やっぱりね、後ろめたさはあるわけです。そういう意味では普通の人が一気に出世をして我を失う、けれど最終的には色んな人の助けを借りて自分を取り戻す、っていうよくあるパターンとはだいぶ異なります。ジャックは基本ずっと好人物ですから。

面白いのはジャックの後ろめたさが観ているこちらにも伝わるというところ。ジャックは真面目で優しい奴なんですが、事情が事情なもんでスターダムにのし上がったとしても観ているこっちは単純に喜べない。例えば『ボヘミアン・ラプソディー』のフレディみたいによし頑張れとはならないわけです。好青年のジャックを応援する気持ちはあっても観ているこちらの気持ちとしては中々盛り上がっていかない。そういうもどかしさを共有していく映画でもあります。

で、そこをどう決着を付けていくか、ビートルズが存在しないという世界を最終的にどう回収していくのか。その解決法がこの映画を好きになるかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。

その結末ですが、ここは非常に真面目に取り組んでいると思います。気をてらった、或いはどんでん返しが待っているということではなく真面目に向き合っている。納得感を持たせるべく少しずつ積み重ねている気はします。ありがちな安易なクライマックスへ持っていかないところは好感が持てますね。そこはやっぱりビートルズへのリスペクトがあるからではないでしょうか。

ジャックはクライマックス前にある人物に会いに行きます。もしかしたらここはやり過ぎという声があるかもしれませんが、この出会いが最後のジャックの決断を後押しすることになる。ちょっとしたサプライズも含めここは感動的でした。

あと最後に付け加えると登場人物が皆いい人(笑)。ジャックの友達で何かと面倒臭いキャラのロッキーも最後はいい事言います(笑)。そういう意味でもこの映画は設定上、感動ストーリーと思われがちですが、基本はコメディと捉えて観た方がよいのではないでしょうか。実際笑うとこはいっぱいありますし(笑)。

もうひとつ。主人公のジャックは白人ではなく移民系ですね。『ボヘミアン・ラプソディー』もそうでしたし、今アメリカで公開されていて話題のブルース・スプリングスティーン絡みの映画『Blinded By The Light』もそうです。この辺りも物語にリアリティーを与えているのかなという気はします。

昨日の前提

ポエトリー:

『昨日の前提』

 

世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え

微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる

発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから

短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした

真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない

配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ

 

2019年8月