Teatro D’Ira Vol. I / Maneskin 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Teatro D’Ira Vol. I』(2021)Maneskin
 
 
音楽ライターの沢田太陽さんが、2020年は映画『パラサイト』やBTSの活躍で韓国の年となったが、2021年は一躍スターダムにのし上がったマネスキンの登場やサッカーのユーロ2021での優勝もあり、イタリアの年になるかもと言っていた。と思ったら、先の東京オリンピックにおいて花形の100m走でまさかのイタリア選手が金メダル。僕も2021年はイタリアの年かもしれないと思い始めている。
 
思い始めているというか、イタリアの年になって欲しい、というかマネスキンの年になってほしい。やっぱBTSはポップ・グループだし、僕としてはバリバリのロック・バンドが頂点に立つのを見てみたい。
 
多くの人が腰を抜かしたという2021年ユーロビジョン・ソング・コンテストにおけるマネスキンのパフォーマンスは、これが二十歳そこそこの若者とは思えないほどの堂々たるもの。2000年代の衝撃デビューと言えばアークティック・モンキーズだが、今は貫禄たっぷりのアレックス・ターナーだって、デビュー当時は田舎の高校生丸出しだったから、マネスキンの、というかフロントマンのダミアーノのショーマンぶりはどう見ても破格。もう天下を獲ったかのような心意気は、ちっぽけなライブ・ハウスであろうが「俺はロックンロールスター」と大声で叫んでいた駆け出しのギャラガー兄弟みたいなもんかもしれない。
 
僕はマネスキンのようなハード・ロックをあんまり聞いたことないけど、そんな僕でも持っていかれるのだから、彼らはやっぱ特別なのだろう。ハード・ロックと言ってもそれは最新形で、こんな巻き舌でよく続くなぁと思わせる高速イタリア語ラップが彼らの曲の多くを占めていて、それが新鮮で面白くってシンプルにかっこいい。
 
しかもシャウトしまくる、今どき(笑)。ユーロビジョンでやった#1『ZITTI E BUONI』とか英語詞の#4『I WANNA BE YOUR SLAVE』とかサビの最後でシャウトするんですけど、こういうベタなシャウトって久しぶりに聞きました。彼らにはこういうちょっと笑うような過剰さ、あのきらびやかな衣装もそうだし、そういう面白さがあるんですけど、それが不思議とちっとも笑えないというか、むしろ滅茶苦茶かっこいいんですね。かっこよくて美しくて呆気に取られる。こういうのって今まではダサかっこいいっていう括りに入れられてしまっていたと思うんですけど、彼らはそこを余裕でぶち抜けた感じはありますね。本気でかっこいい。ここはデカいと思います。
 
でも昔はこういうアーティストが沢山いたんですね。デヴィッド・ボウイもそうだしプリンスもそうだし、彼らが引き合いに出されるクイーンだってそうですよね。でマネスキンの場合はそうした古き良きロック・スターへの回顧じゃなくて新しい部分、そこはやっぱり更新されていて、例えば大坂なおみが全米オープンでしたマスクのような新しい世代のこれまでとは全く違う感覚、価値観。
 
それをインディー・ロックでありがちな優し気にチル・アウトして表現するというのではなく、バリバリにハード・ロッキンして派手派手の衣装着て大股ひろげてシャウトするっていう新しさ。そこにさっき言った高速ラップだったりサウンド的なアップデート感、中学時代に組んだメンバー全員が奇跡の美男美女というなんじゃそれ感も含め、よくよく聴いているとこれ滅茶苦茶新しいじゃん、全く別ステージじゃん、ていうところへ持っていってしまえる規模のデカさがマネスキンにはあるような気がします。
 
ロックと言ってもいろいろあるから、こういう言い方すると語弊があるかもしれないけど、基本的にロック音楽は過剰さと性急さだと僕は思っている。その過剰さと性急さをこれでもかと体現するマネスキン。世のロック・ファンが色めき立つのも当然だ。

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