ポエトリー:
『君のために』
今朝がた
君の体から
言葉
剥がれ落ちた
今朝がた
君の体から
心
零れ落ちた
レースのカーテンが
風に揺らいでいた
2013年6月
ポエトリー:
『君のために』
今朝がた
君の体から
言葉
剥がれ落ちた
今朝がた
君の体から
心
零れ落ちた
レースのカーテンが
風に揺らいでいた
2013年6月
ポエトリー:
『クリーニング店』
広い通りに面したクリーニング店では
服を預けるとちょうどよい肩幅のハンガーが付いて返ってくる
彼女の肩幅もちょうどいいという噂があるがそれは確かめようがない
私ももちろんそこへ行く
今日の私はクリーニング品を預けるだけでなくコインランドリーで洗濯をする
コインランドリーで洗濯をしている間は退屈なので選りすぐりの本を持っていく
普段はあまり読まないようなもの
少し頼りがないものがいい
ここのハンガーがちょうどいいように
ここの洗濯機の音もちょうどいい
彼女も今日あたりここへ来るかもしれない
けれども彼女の肩幅はアイロンをかけていない
彼女の靴下は裏返っていない
彼女の魂は撹拌されていない
ここの洗濯機の音はちょうどいい
私の退屈な時間も残り僅かなので
詩を2編ほど読んで今日はもう終わりにする
2016年6月
ポエトリー:
『青くなるゆえん』
君が尋ねたら
相手は知らないと言った
ただそれだけのこと
恋とも呼べない
ため息は泡となりまどろむ
空気が少しずつ濃くなって
春を導く
空が青くなるゆえん
2015年3月
ポエトリー:
『ただ一つの物語』
ただ一つの物語を君のために送る
荒廃した裏庭にハッと目が覚めるような花を添えて
夕暮れ時、赤茶けた煉瓦の向こうに差す光を
手の甲の青い線に沿って真っ直ぐに線を引く
いつか君の動力源に辿り着きたい
今度こそ正しい言葉を見つけ
出来るだけ分かり易くただ一つの物語を君のために
2017年5月
ポエトリー:
『サヨナラは指差す方へ』
夜空の天気はご機嫌斜め
指差す方へ落っこちてしまいそう
嘘の塊を粘土細工にして
全てあったことにしてしまう
君の嘘も嘘だと言わずに
平仮名に沿って優しく撫でれば
いかようにも景色は移り変わり
だとしても嘘は嘘のまま
代わり映えしない毎日は過ぎていくもの
だけども本当の事を言った事がないのは僕も同じで
こんな風に夕方の涼しい風が吹いて来ても
朝と今は何も変わらない
けれど変わらない事を良しとして
斜めになった日常を氷砂糖のように噛み砕き
サヨナラ(アディオス!)新しい人
もう僕には今日がない
今はもう明日の事で手一杯で
こんな風にして時間は動いていくものだから
握手する暇もなく君の嘘は全部消去され
星空はなす術も無く
指差す方へ落っこちていく
2017年6月
ポエトリー:
『プロローグ』
生きてると
時々起きるボタンの掛け違い
あの人とも
そんなようだった
2017年1月
ポエトリー:
『心の問題だ』
俺がつらいかどうかは俺が決める
俺がくやしいかどうかは俺が決める
一本の線に依って
頼りない俺のこだま
どうか綻びは見せないでくれ
俺が腹立たしいかどうかは俺が決める
俺が喜ばしいかどうかは俺が決める
丹念に描かれた障壁画を見て
今日も一日過ぎた事を知る
大の大人が缶ビール一本に寄りかかり
冴えない夕べ
細かに現像する暗室の森
俺の過去は誰かに切り取られたか
俺が感謝するかどうかは俺が決める
俺がお辞儀するかどうかは俺が決める
指図される覚えはない
現存する俺たちの魂
根気よくこだまする
俺が悲しいかどうかは俺が決める
俺が嬉しいかどうかは俺が決める
レジスタンスは心の中
高名なセラピストにも邪魔はさせない
俺は便箋の折り方をわきまえている
俺の心の中には誰も入れさせないし
俺の心の中には誰も干渉させない
そんな奴らに対しては
絶対に容赦しない
俺は想像力でもって反逆する
徹底的に
これは心の問題だ
誰にも邪魔はさせない
2017年6月
ポエトリー:
『月にかさねる』
ベッドから少し起き上がって今見た夢の続きをスケッチする
クロッキー帳は煤で真っ黒だ
シーツの重みを身体全体で感じる
今夜も食事が運ばれてきたから
動脈を流れるその栄養源が思い出を塞がないよう
少しずつ噛み砕いて口にする
最も大事なものはずっとその奥
私だけの隠れ家にある
もう随分と大変な思いをしてきたけれど
これからもまだ何か起きるのだろうか
案外、何も起こらないかもしれない
窓の外には月
銀のスプーンに心をのせて
そっと月にあてがう
少し離れた通りから君の家を見ている
君の魂はまだ其処にいる
心を感じる
二人の距離は削り取られたかのように
今なんてほら、至近距離だ
人生なんてそのようなもの
月に向かって吠えてみる
大声を出して
運動会の小学生のように正直に
十月のアキアカネのようにせわしなく
今宵、月と君に向かって心を重ねる
人の形をしていようがいまいが関係ない
大切なのは今ここに起きている事実
私たちは今、真円を描いている
2017年1月
短歌:
毛筆を 群青色に持ち替えて 空に一閃 ぶちまける哉
ぬかるんだ 土地を踏みつけ 跡残す 後のことなど 知るもんか
波を打つ 私の心臓 海岸線 波飛沫上げ のたうち回る
ミルクジャム 底見えるほど かき混ぜて ゆっくり貴方に 嘘をついてる
ポエトリー:
『予感』
昨夜用意していた服は朝になって気が変わった
時間もないのにクローゼットから出てこれない
朝のバスの時間、しっかり守ってほしい
雨の予感、五月、クレマチスの匂い
あの人が呉れた芥子粒ほどの期待を掌に載せて
生ぬるい息を吹きかければ一閃
飛び跳ねて草叢に消えていった生き物
あの人のもとへ抜け駆けする気ね
バスを降りて駅へ向かう広い歩道橋
耳元で歌うアル・グリーンと
優しいオルガンと新しい駅舎を背景に
しとしと歩く人々と私
あんなに晴れていたのに今はもう雨
アスファルトが濡れているよ
2016年5月