ポエトリー:

『朝』

 

新しい朝

カカオ80%で休息を

電車に乗り遅れないようにしなくちゃ

 

壊れかけたミキサーに果物を入れ

いつもと同じ栄養源

何度洗っても落ちないコンタクトレンズの汚れ

パウダールームの憂鬱

無くしては探して

見つけてはまた見失う

 

だけど空っぽのクローゼット

今日も着ていく服が無い

 

まだ見失うまい

悲しいフリをするのはもうやめた

 

昨日デパ地下で買ったクロワッサンの匂い

国境を越える彼女の笑顔

真新しい明日

真っ暗闇の明日

それでも君はアジアのきらめき

どが付くリアリスト

澄み渡る風

言葉と言葉の間をすり抜ける君の新しい明日へ

 

ゴビ砂漠に照り続ける太陽のような君の後悔も越えて

きっと遠くイスタンブールまで見渡せる

 

2012年11月

搾取

ポエトリー:

『搾取』

 

インターネットを越えて私たちの脳髄に食い込む彼の地の 貧困 暴力 差別

私たちの栄養は彼の地の困難と地続きだ

 

ぼやけた人間の宿命を

脳髄に打ち込まれた回線で

私たちは配達する

使い古しの靴下を

私たちは搾取する

隣近所の果樹園を

私たちは強奪する

向こう岸の獲物を

 

このまま事が運ぶわけがない

私たちはきっと

一杯食わされているに違いない

 

私はもう聖者にはなれない

私たちは友だちであり

私たちは商売敵

 

私のナイキのスニーカーは

あいつの裏庭を踏み潰している

 

2017年5月

新しい世界

ポエトリー:

『新しい世界』

 

世界は今、昔より 遠くなった

数ある社会の今 一部になった

 

見知らぬ人が道の上 取り残されていたら

私はすぐに声かけて 手を差し伸ばせるだろうか

 

道が増えてきた

街が混んできた

 

友達とは今 そんなに会わなくなった

友達は今、昔より 身近になった

 

家族が見知らぬ夜の中 取り残されたとしたら

私は今すぐ駆け出して 辿りつけるだろうか

 

風が遠のいた

海は凪いでいた

 

世界は今、昔より 届かなくなった

数ある社会の組織の今 一部になった

 

2017年7月

Wonder Future/アジアン・カンフー・ジェネレーション 感想レビュー

邦楽レビュー:

『Wonder Future』 (2015)  Asian Kung-Fu Generation
(ワンダー・フューチャー/アジアン・カンフー・ジェネレーション)

 

元々買う気は無かったんだけど、『復活祭』と『スタンダード』がやたらカッコよかったもんで、久しぶりにアジカンのアルバムを購入した。やっぱデビューして10年以上もたつと手癖というか、その人独特の言い回しが身に付いてしまう。アジカンもどうしても後藤正文節というのがあって、ありがちなメロディ、ありがちな言葉についつい目が行ってしまう。カッコいいなと思いつつ、結局買わずにいたのはそんなところに理由があったりするのだけど、この2曲はそういう部分を越えた先の表現が存在している気がした。

本作は米国、デイブ・クロールのスタジオで録音されている。今の子供たちに8ビートのロックンロールを届けたい。そんな気分になったということで全編に渡って勢いあるサウンド。アジカン史上、最も洋楽に接近したアルバムと言えよう。これまでのアルバム全部聴いたわけじゃないけどね。

で、この意気込みは大成功。取って付けた感は全くない、芯からぶっ放すロックンロールだ。その中でも冒頭に述べた2曲が突出しているのだけど、じゃあ他のはどうかってなるとちょっと物足りない感じがしないでもない。折角だし、もっと無茶苦茶になっててもよかったんじゃないかなと。そこがちょっと残念かな。でもまあこんなのやろうと思ってもなかなか出来るもんじゃないし、これが彼らの底力。キャリアから見てもこれまでの経路からは少し外れた異質なアルバムになっているんじゃないだろうか。

それとやっぱり嬉しいのは、彼らの目線が常に外を向いているということ。単純にサウンドという意味だけじゃなく、ドメスティックな域にとどまらない意識の開かれ方は流石である。

ジャパニーズ・ギターロックは掃いて捨てる程あるけど、言葉への向かい方とか、サウンドの鳴りとか、なんだかんだ言ってもやはりアジカン。こうやって改めて聴くとつくづく思いました。今もすべてにおいてトップランナーであるのは間違いない。これが若い子に届くといいけどなぁ。

 

1. Easter/復活祭
2. Little Lennon/小さなレノン
3. Winner and Loser/勝者と敗者
4. Caterpillar/芋虫
5. Eternal Sunshine/永遠の陽光
6. Planet of the Apes/猿の惑星
7. Standard/スタンダード
8. Wonder Future/ワンダーフューチャー
9. Prisoner in a Frame/額の中の囚人
10. Signal on the Street/街頭のシグナル
11. Opera Glasses/オペラグラス

Eテレ 100分 de 名著「ハンナ・アーレント/全体主義の起原」 感想

TV Program:

Eテレ 100分 de 名著「ハンナ・アーレント/全体主義の起原」  2017年9月放送分

 

国内外の名著を全4回、100分で紹介するこの番組。9月の作品はハンナ・アーレントの『全体主義の起原』。全体主義の生成過程をナチス・ドイツを例に取り紐解いていく。ここでは細かく述べないが、これは現代にも当てはまる僕らのすぐ側にある問題だ。

日本が右傾化しているのかどうかは分からないけど、メディアは自国を誉めそやすのに熱心だ。すぐに「世界が驚いた日本!」と騒ぎ立てる。そんなのは言い方次第でどうにでもなる。逆に言えば、「世界から見れば最低な日本!」なんてのもいくらでも作れるだろう。僕たちのリーダーは「絶対に」、「完全に」と言いたがる。かの国のリーダーは「never ever」と言いたがる。大げさな物言いが溢れている。僕たちは本当はどうなのかを自分自身で判断しなくてはならない。けど、とても難しいことだ。そんな時、僕はこう思うようにしている。「それって本当かな?」。物事というのはどちらか一方ということはない。光もあれば影の部分もある。どちらか一方に偏った意見には注意しなければならない。特に分かりやすい表現には。それを強いてくる連中には。

番組の最後で「複数性」という言葉が出てきた。この言葉を聞いて僕はある別の言葉が思い浮んだ。丸山真男の「他者共感」という言葉だ。自分の考えというのがあって、他者の別の考えがある。それを戦わせる、非難するというのではなく、相手の身になってそれを考えてみる。そうすることで、自分の考え方もまた別のステージに向かうことができる。自分の考えも他人の考えも俯瞰して見ることの重要性。そうした考えを丸山は「他者共感」と名づけている。

自分と違う考え、意見、性別、年齢、人種、民族。世界は「複数性」で成り立っている。自分(たち)だけが正しい。自分(たち)だけで成り立っている。悪いのはやつらだ。これは大きな誤りだ。自分とは異なる意見に出会った時、相手の立場になって考えてみる。そうするとまた違った自分の考えが生まれてくるのではないか。しかし言うは易し行うは難し。僕だって自分の考えはそう簡単に変わらないし、批判されりゃついムッとなる。世界は「複数性」で成り立っている。このことをしっかりと心に留めておきたい。

最後にこの番組で紹介されたミルグラム実験について述べておきたい。閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものだ。具体的に言うと、「体罰と学習効果の測定」と称して教師役は隣室にいる生徒役の回答が間違うたびにより強い電気ショックを与えることを要求される。もちろん、生徒役に電気は流れていないので苦しんでいるふりをしているだけ。本当の被験者は教師役ということになる。この実験では、うめき声がやがて絶叫となり、遂には聞こえなくなっても教師役は回答が違えば、権威者の指示通りに電気を強くし続け、最終的に6割以上の参加者が命の危険がある450Vのショックを与えることになったという。この実験は、ホロコーストに関与し、数百万のユダヤ人を強制収容所へ移送するにあたって指揮的役割を担ったアイヒマンの名前を取って、アイヒマン実験とも呼ばれている。誰だってアイヒマンになり得るのだ。

Chasing Yesterday/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Chasing Yesterday』(2015) Noel Gallagher’s High Flying Birds
(チェイシング・イエスタデイ/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

僕にとっていいアルバムは後半がいいアルバムである。その点、ノエルのソロ第二弾は十八番のロック・バラード、#5『ザ・ダイイング・オブ・ザ・ライト』から俄然よくなってくる。そこまでは軽い手鳴らし、いよいよこっからが本編とばかりにグイグイやってくる。重い足枷から解き放たれた自由な感じがしてとてもいい。この人が好きなようにやると、こんな凄いことになっちゃうんだ。

表現も多彩でいろんなパターンを見せてくれるし、曲間のつなぎもオアシス時代みたいな遊びがあって、ニヤっとしてしまう。重厚なのが続いた後の9曲目に一番カッコイイのがスカッと入る解放感がまた最高だ。

僕の中ではノエルのボーカルは相変わらず地味な感じなんだけど、それでもこれだけいいというのは単純に曲がいいということ。曲がいいからこりゃ別に上手くもない普通の4人組のバンドでやってもそれはそれでよさそうとも思ってしまうが(それって最初の頃のオアシスやん)、今回はノエルのサウンド・デザインの素晴らしさがいい曲を更に高い所へ引っ張り上げている(意外だけどオアシス時代を含めて初のセルフ・プロデュース!)。#6なんてその典型で、インスト部の長い下手すりゃ退屈なものになってしまうんだけど、こういうのもカッコイイ曲に仕上げてしまう。単にいい曲を書くってだけの人ではないのだ。

ある一定の水準以上の曲を20年前と変わらず書き続けられる凄み。長くやってると似たような曲になってしまうんだろうけど、似たような曲に感じさせないこの鮮度の損なわなさは何なんだ。久しぶりに本気を出したノエルのソングライティングはやっぱり圧倒的だったっていう身も蓋もない結論。今も昔もノエルが歌ものロックの世界基準だ。

ボーナス・ディスクもカッコイイ。ホント、どうなってるんだこの人は。

 

1. リヴァーマン
2. イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・モーメント
3. ザ・ガール・ウィズ・エックスレイ・アイズ
4. ロック・オール・ザ・ドアーズ
5. ザ・ダイイング・オブ・ザ・ライト
6. ザ・ライト・スタッフ
7. ホワイル・ザ・ソング・リメインズ・ザ・セイム
8. ザ・メキシカン
9. ユー・ノウ・ウィ・キャント・ゴー・バック
10. バラード・オブ・ザ・マイティ・アイ

(ボーナス・ディスク)
11. ドゥ・ザ・ダメージ
12. レヴォリューション・ソング
13. フリーキー・ティース
14. イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・モーメント (リミックス)
15. リーヴ・マイ・ギター・アローン

ボートラをちゃんと分けてるところが〇

Eテレ 日曜美術館「まど・みちおの秘密の絵」 感想

TV program:

Eテレ 日曜美術館「まど・みちおの秘密の絵」 2016.1.10 アンコール・放送

 

まどみちおと言えば、僕はやっぱり『ぞうさん』のイメージ。平仮名で書かれた詩。子供から大人まで親しまれる間口の広い作家、詩人というイメージだ。そのまどさんが50代を迎えた頃から絵をたくさん描き始めたという。それも何やらダークな抽象画。これは一体どういう事なんだ?ということからこの番組は始まる。

ゲストは谷川俊太郎。番組では再現VTRを交えながら色々語られていくが、やっぱり谷川さんの言葉が一番しっくりくる。蓮の花は綺麗だけど池の下はドロドロなんだという話。絵描きでも音楽家でも何でもいいけど、クリエイターと呼ばれる人はみんなダークサイドを持っているとか。なかでも印象的だったのは言葉はちゃちだという話。言葉があるということはその言葉は既に意味を持ってるということ。目の前にある存在だけを表現したいけど、言いたいのはそんな言葉ではないという事実。人類が言葉を持つ以前の状態で存在と接したい。人が見るという行為と宇宙の間にはなんら介在するものがあってはいけない。『見る=宇宙』なんだと。言葉を用いる人たちがこういう事を言う。だから詩人の言葉は信用できるのだろう。

で、まどさんは言葉の表現に行き詰まりを感じる。そしてその空白を埋めるように絵を描き始める。この絵が素晴らしい。絵の教育を受けていない創造性豊かな人が描いた絵。パッと見た感じではパウル・クレーに似た抽象画に見えたけど、やっぱ違う。暗い。もっと自分の魂と直結した絵なんだな。これは誰かに見せるための絵ではないというのがあるんだ。正確な数字は忘れたけど、まどさんは51才頃からの2~3年で百以上の絵を描いている。で、あるとき悟るんだ。これからは自分にとっての美を追求してゆこうと。

そこからの絵はなんかきれいに見える。まさに自分と宇宙が直結したような絵。それでいてまどさんの詩のような明るさがちゃんと見えてる。生命への尊敬が見えてる。でここからまどさんは絵をほとんど描かなくなる。てゆうか描く必要がなくなったんだ。だって人に見せるためのものではないんだもの。思い付きで言葉を出しているんじゃない。色々あっての言葉なんだ。ことにまどさんのような平仮名ばっかの詩だとそう思いがちなんだけど、違うんだ。この何気なさが詩人の凄みなんだ。

 

2016年1月

Blood Moon/佐野元春 全曲レビュー

『BLOOD MOON』(2015)佐野元春 全曲レビュー

 

1. 境界線
アルバム全体に流れるネガティブな言葉。しかしそれらは全てここに総括される。Be Positive 。運命のせいにはできない。表題曲は次曲『紅い月』だけど、この曲がここにあることの意味を考えたい。ソウルフルに始まる出だしがいい。

2. 紅い月
ギターとドラムの不穏な響き。ここに安易な励ましや共感は無い。ただ、「ここで戦っているから」と唄うのみ。「夢は破れて 全ては壊れてしまった」という象徴的な歌詞に光を差し込ませるバンドの演奏が素晴らしい。「大事な君」というリフレインが心に響く。

3. 本当の彼女
彼女は彼女。誰が導いたわけでもない。彼女はある地点から旅立ち、そして今ある地点にいる。僕は彼女を世界で一番分かってる(と思う)けど、本当の彼女を知るのはやっぱり彼女だけ。マンドリンが優しげだ。

4. バイ・ザ・シー
主人公は世の中不公平だと呟く。世間はすぐに陥れようとするけれど、主人公は決して0にされない。。その理由が明らかになるのはブリッジ。ここで一気に羽を広げる様がいい。シビアな現実を歌うのは陽気なラテンのリズムだ。

5. 優しい闇
いつもと変わらず静かな生活を送る彼らに優しく狡猾な闇が忍び寄る。知らぬ間に奴らは奴らの思うユートピアへ連れてゆこうとする。でも約束の未来なんてどこにもない。何もかも変わってしまったあれからとは過去のあの時なのか?それとも今なのか?それらを振り切るロックンロールがいい。

6. 新世界の夜
何がいけないとか何が正しいとかではなく、今いる世界はそうやって動いているという現実認識。そしてそれは私たち自身にも投げかけられる。お前を形成するものは正義なのか、悪意なのか。勿論、そのどちらでもある。静かな熱を湛えたバンドの演奏とボーカルが素晴らしい。前半のハイライト。

7. 私の太陽
『新世界の夜』と対になるナンバー。だがここでは諦念というよりやるせなさが表立っている。それを表すかのうような荒々しいジャングル・ビート。途中はさまれるピアノ・ソロが素晴らしい。言葉数は少なく、むしろここは演奏が雄弁に語る。

8. いつかの君
幾つかの傷を負いながらもここまで何とかやってきたかつての少年少女に向けて、「確かな君はつぶされない」と歌う。そしてこれからも、邪な風が吹いてもしっかりグリップするために、「元いた場所に戻ってゆけばいい」。性急で力強いロック・ナンバーだ。

9. 誰かの神
誰だって人の役に立ちたいし、それが出来ればそりゃ嬉しい。でもそれって相手の望んだことなのか。そうした無形無数の自称救い主へ。特定の誰かを糾弾するわけでなく、投げた言葉がこっちに帰ってくる。辛辣で愉快な曲。

10. キャビアとキャピタリズム
全てのアートには生々しいポエトリーと肉体性を伴ったビートが必要だ。踊った末に現れるものこそ信じるに値する。「俺のキャビアとキャピタリズム」という強烈なパンチラインが全てを物語る。クラビネットのうねりがたまらない。

11. 空港待合室
色んなことがあって、色んな人に会ってここまで来た。時々上手くいったこともあったけど、随分怠けたりもした。時が経って景色が変わったのは、自分自身がもうあの時とは違うから。随分遠くまで来たようにも思うけど、今いるここも空港待合室にすぎない。

12. 東京スカイライン
少し背の高い高速道路をゆっくりとカーブしてゆくと眼下に街が広がる。そこに見えるのはこれまでの長い道のりや色んな人の色んなこんな。人々に、あるいは自分自身に何があってもなくても確かなことはただ一つ。今年も夏が過ぎてゆく。

Sacred Hearts Club/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sacred Hearts Club』(2017) Foster The People
(セイクレッド・ハーツ・クラブ/フォスター・ザ・ピープル)

 

2014年以来、3年ぶりの3rdアルバム。僕はいつかこの人達は他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないかと思っていたんだけど、アルバム・リリースに先駆けて公開された3曲(『Pay the Man』、『Doing It for the Money』、『SHC』)が、凄くポップな作品だったので、こりゃ遂に来たぞなんて勝手に思っていたら、いやとんでもない、他愛ないどころかすんごいアルバムでした。

サウンド的には1枚目、2枚目を通過した今の彼らの集大成となるようなアルバム。マーク・フォスターのDIY的な1st、そしてバンドとしての実質デビューとも言える2ndからの道筋がしっかりと見えるようなフォスター・ザ・ピープルの最新型であり、同時に今成し得るロック音楽の最新型のひとつの形とも言える作品だ。

ヒップ・ホップ色が強くなったのも今回の特徴だ。前作にもラップ調のボーカルがあったけど、今回はそれを更に推し進めたような恰好。1曲目の『Pay the Man』や最後はリーディングになだれ込む#10『Loyal Like Sid & Nancy』、ゆったりとした#2『Doing It for the Money』などなど。全体的に見ても言葉の切れ味は更に鋭く、リリックがどんどん転がっていく様はめちゃくちゃカッコイイ。

曲もいいし歌詞もいいしボーカルも最高で何より圧倒的なサウンド・デザイン。ライナー・ノーツにはサポート・メンバーから正式にバンドに加わったアイソム・イニスの力が大きいとか、今回は外部とのコラボレーションが沢山あったとか色々書いてあるけど、そういう個々の事情だけじゃなく、ここに来てバンド全体のクリエイティビィティが一気にスパークしたってことなんだと思う。

で僕がスゴイなと思うのは、そういう風に色んな音楽形態を採用して難しいことをやってるんだけど、最終的にはポップなところへ戻ってきちゃうってとこで、この辺のバンドとしての大らかさというかバランス感覚は大したもんだと思う。

ただ歌詞を見ていくと、やっぱ世界がやな方向へ進みつつあるっていう現実認識があって、そこに対する彼らの意志表示が今回のアルバムなんだなという感じはする。それは「Don’t be afraid」であったり、「See the light」といった表現が何度も出てくるところもそうだし、全体として不穏な世界へのレジスタンスという意味が込められているんじゃないかと。「心の中のオオカミは死んじゃいない」と歌われる『Pay the Man』が1曲目に来るのもその意志の表れなんじゃないだろうか。

でそのレジスタンスは最終曲の『Ⅲ』でイノセンスに着地して、それは#4『SHC』で「Do you want to live forever?」と歌っていた迷いが、『Ⅲ』で「I want to live in your love forever」に変換されるっていうところとも繋がるんだけど、ひとしきり踊った後に訪れるこの物語性というのはやっぱ感動的だ。このアルバムには明確なストーリーは無いけど、聴き終わった後に感じる余韻が良質の映画を見た後のようにぼんやりとしてしまうのはきっとそういう物語性に起因するのかもしれない。

 

1. Pay the Man
2. Doing It for the Money
3. Sit Next to Me
4. SHC
5. I Love My Friends
6. Orange Dream
7. Static Space Lover
8. Lotus Eater
9. Time to Get Closer
10. Loyal Like Sid & Nancy
11. Harden the Paint
12. III

生きながらにして

ポエトリー:

『生きながらにして』

 

全体的に君の目は途方に暮れてる

だから金輪際、僕は目を合わさない事にした

君の木立は日影が多い

あくる日のポテトサラダのようでパンに挟んで食べたくなる

嘘を凍らせた湖はスムーズには滑らない

その違和感を楽しむのはいい趣味とは言えないな

 

ガーデニングを趣味にする

添え木を何本にするかで日が暮れた

そう言えば

行儀が良い子供だったな

他の子は空を飛べるような仕草を見せたけど

子供は子供っぽい仕草を見せるものだから

僕が一番現実的だったのはその頃

校長の話があれほど馬鹿馬鹿しく聞こえたことはない

 

行くあてを自分で作る君は流石だと思う

大丈夫、君は損なんかしていない

胸を張って歩くから僕はつい見てしまう

そういう僕を

また見てるみたいな顔をする君の趣味もほんと最悪

 

2017年7月