Who Built The Moon/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Who Built The Moon』(2017)Noel Gallagher’s High Flying Birds
(フー・ビルト・ザ・ムーン/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

ノエルは事前に曲を用意しサウンド・デザインもあらかた決めてからレコーディングに入る人で、その完璧主義者ぶりはオアシス・ファンの間では有名だ。そのノエルが今回は20年以上のキャリアの中で初めて曲を何ひとつ用意せずスタジオに入ったという。プロデューサーのデヴィッド・ホルムスと二人きり、あーでもないこーでもないとサウンドのアイデアを練りつつ後から曲を作るという従来とは全く逆のパターンで取り組んだそうだ。

多分ノエルなら手癖でいい曲を幾らでも書けるだろうしそれなりのアルバムを作れるだろうけど、それでノエルが満たされるかっていうとそうではないだろうし、そこに目を付けて「じゃあ、いっちょやったるか」ってノエルのモチベーションに着火させたデヴィッド・ホルムスの手腕(なんと『ザ・マン・フー・ビルト・ザ・ムーン』のサビを7回も書き直させた!)がこのアルバムの全てだろう。

てことでいつものノエル節といやぁノエル節なんだけど、その出所が違うとこうも違うかってぐらい次元が違う切れ味というか、もちろん今までのノエルの曲も最高なんだけど、ちょっとこれは別のとこへ行っちゃったなって印象で、例えて言うなら別の惑星に行って宇宙服着て帰ってきたって感じ(笑)。ということでこのアルバムを僕は心の中で「ノエル、宇宙の旅」って呼んでます。どっちにしても今までとは分けて考えた方がいいかもしれない。

ノエルより先に出たリアムのソロも相当かっこよかったんだけど、ちょっとベクトルが違い過ぎて笑ってしまう(どっちがどうという意味ではなく)しかないというか、ビッグ・セールスを上げるリアムを横目に余裕ぶっこいてたのがこのアルバムを聴けばよく分かるし、ノエル自身も「今の俺はピークにある」と言い放つくらいだから、やっぱ別の扉を開けたという確信があったのだろう。1曲目のインストからその萌芽は感じられるし、2曲目の『ホーリー・マウンテン』で軽く慣らしといて、3曲目の『キープ・オン・リーチング』から本格的に始まる新しいサウンドはこっちも聴いていて興奮してしまう。4曲目の『ビューティフル・ワールド』でフランス語の朗読が出てくるところなんか最高だ。

どっかのレビューに書いてあったとおり、これまでに近いサウンドは#7『ブラック・アンド・ホワイト・サンシャイン』ぐらいなもんで後はもうオアシス的なものを置いてけぼりにするぐらい一気に駆け抜けていってしまう。やっぱこのぐらいやってもらわないとね。ていうかスイッチが入ったノエルならこれぐらいはやるでしょう(笑)。

ところでこの素晴らしくオープンなアルバムを聴いていて思い出したのが同時期にリリースされたベックの『Colors』。あちらもベックとプロデューサーのグレッグ・カースティンによる二人三脚で作られたアルバムで、僕は以前このブログで『Colors』をベックの幸福論なんて呼んだけど、このノエルの新作も本人が「俺は喜びの曲を歌う」と断言するように同じく全ての人に開かれたノエルの幸福論と言ってもいいようなアルバムで、こうして90年代にデビューし一つの時代を築いた二人が同時期にこんなにも肯定的なダンス・アルバムを作ったというのは偶然とはいえ何やら特別の事のように思えてならない。

もう一つ付け加えておくと、初期オアシスのB面曲はなんでB面やのにこんな名曲やねん!ってぐらいやることなすこと名曲揃いだったのだが、今回のボーナス・トラックもそれに負けず劣らずの名曲。特に#12『デッド・イン・ザ・ウェザー』はかなりヤバい!ってことでやっぱノエルは絶好調のようです(笑)。

最後に余計なことを言うと、僕たちはノエルの曲についてはついついいつまでもこれがリアムの声だとどんな感じになるんだろうって考えてしまうけど、まぁこれからはそれも半ば面白半分にして、ノエルにとってオアシスはもう済んだ事だということを僕たちもそろそろ体に馴染ませないといけないのかもしれない。それにはちょうどいいアルバム。こんだけサウンドが更新されて宇宙的になってしまうともうノエルの声でも違和感ないかも。

 

1. Fort Knox
2. Holy Mountain
3. Keep On Reaching
4. It’s A Beautiful World
5. She Taught Me How To Fly
6. Be Careful What You Wish For
7. Black & White Sunshine
8. Interlude (Wednesday Part 1)
9. If Love Is The Law
10. The Man Who Built The Moon
11. End Credits (Wednesday Part 2)

(ボーナス・トラック)
12. Dead In The Water (Live at RTÉ 2FM Studios, Dublin)
13. God Help Us All

2 thoughts on “Who Built The Moon/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー”

  1. WEB小説「北円堂の秘密」を知ってますか。
    グーグルやスマホでヒットし、小一時間で読めます。
    北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。
    重複、既読ならご免なさい。
    音楽と小説では左右脳の所掌が異なりますが、
    統合芸術を目指す方には有用と思います。

    1. omachiさん

      はじめまして。
      コメントをありがとうございます。
      興福寺の北円堂についてのweb小説ですか。
      一度検索してみます。

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