大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

アート・シーン:

大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

天王寺にある大阪市立美術館で開催中の特別展「仏像 中国・日本」に行って参りました。サブタイトルは`中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ`というもの。内容はそのサブタイトルのまんまですね。非常に統一感のある展示でした。

入ってすぐに展示されているのが、銀製の男子立像。これ、紀元前200年くらいの作なんですけど、あまりの精巧さにびっくりしました。デザインも含めまるで現代の作品のようです。紀元前200年にこれだけの技術があったというのは驚きですね。加えてデザイン。とてもチャーミングで2019年のセンスと変わらないというのがスゴイ!恐るべし、中国2000年の歴史!

展示が多かったのは石仏ですね。この石仏がですねぇ、また精巧なんですよ。また立ち姿が抜群
に素敵!特に横から見ると最高です!

仏様なので、少し前傾気味。といっても不自然な感じではなく程よく前傾なんです。でもってそこにはちゃんと軸が存在する。背骨の婉曲がはっきりと存在するんですね。このなんとも柔らかでキリッとした姿勢に私は惚れましたね。しかもほとんどの石仏がそんな感じなんで、こりゃやっぱり彫師の技術なんだなと。昔の職人、スゲー!

あと中国の仏像の特徴としてはやはりお顔立ち。実際の日本人と中国人の顔立ちはそんなに変わらないのですが、あっちの仏様はやっぱ本場インドの面影が色濃いです。鼻梁がスッと伸びて彫り深っ!鼻、とんがってます(笑)。日本にも西アジアの影響を感じさせるお顔立ちの仏様がいらっしゃいますが、ここまではっきりとインド!ってのは私あんまり知らないです。

そんな感じで仏像の方は8割方が中国仏像でしたが、あんまりあちらの仏像に触れることはないので、へぇーって感じて面白かったです。私としては見慣れているせいか日本ののっぺりとしたお顔立ちの仏様の方が落ち着きますけどね(笑)。中国仏像、なんか個性強過ぎっ。

それにしても金製や銀製の仏像や石仏、もちろん木製の仏像にしても技術の高さは目を見張るものがありました。日本の仏像はやっぱり俳句的というかシンプルイズベストが基本ですからね。中国仏像、情報量多いっす!

あと、仏像の法衣や装飾を見るのも面白いです。あんな昔にこんな格好してたんだというのが結構驚きます。じゃらじゃらいっぱいぶら下げてたり、派手な格好は新鮮でしたね。しかもバランス良くてセンスいいんですよ。意外と昔って美的感覚が今と変わらないのかもしれないですね。

映画『イエスタデイ』感想レビュー

フィルム・レビュー:

『イエスタデイ』(2019年) 感想レビュー

もし世界にビートルズが存在していなかったら。この誰もが思い付きそうで思い付かないアイデアが先ず秀逸ですね。このアイデアを思い付いた時は「よし、これだ!」と小躍りしたんじゃないでしょうか(笑)

そこでです。設定としては最高なんですが、じゃあこれをどうやってドラマに仕立てていくか。そこがこの映画の見どころです。

話の筋としては、ミュージシャン志望の冴えない青年がそろそろ夢を諦めようとした時に、あるきっかけで世界は彼以外の誰もビートルズのことを知らない世界になってしまう。そして彼はビートルズの曲を自作の曲として歌いスターダムにのし上がってゆくというものです。

この誰もビートルズを知らない世界になるっていうきっかけが何じゃそりゃ感はあるのですが、その辺は冒頭のことですから、ここは設定の面白さで押し切れちゃいます。

その青年、ジャックは一躍時の人になるのですが、やっぱりね、後ろめたさはあるわけです。そういう意味では普通の人が一気に出世をして我を失う、けれど最終的には色んな人の助けを借りて自分を取り戻す、っていうよくあるパターンとはだいぶ異なります。ジャックは基本ずっと好人物ですから。

面白いのはジャックの後ろめたさが観ているこちらにも伝わるというところ。ジャックは真面目で優しい奴なんですが、事情が事情なもんでスターダムにのし上がったとしても観ているこっちは単純に喜べない。例えば『ボヘミアン・ラプソディー』のフレディみたいによし頑張れとはならないわけです。好青年のジャックを応援する気持ちはあっても観ているこちらの気持ちとしては中々盛り上がっていかない。そういうもどかしさを共有していく映画でもあります。

で、そこをどう決着を付けていくか、ビートルズが存在しないという世界を最終的にどう回収していくのか。その解決法がこの映画を好きになるかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。

その結末ですが、ここは非常に真面目に取り組んでいると思います。気をてらった、或いはどんでん返しが待っているということではなく真面目に向き合っている。納得感を持たせるべく少しずつ積み重ねている気はします。ありがちな安易なクライマックスへ持っていかないところは好感が持てますね。そこはやっぱりビートルズへのリスペクトがあるからではないでしょうか。

ジャックはクライマックス前にある人物に会いに行きます。もしかしたらここはやり過ぎという声があるかもしれませんが、この出会いが最後のジャックの決断を後押しすることになる。ちょっとしたサプライズも含めここは感動的でした。

あと最後に付け加えると登場人物が皆いい人(笑)。ジャックの友達で何かと面倒臭いキャラのロッキーも最後はいい事言います(笑)。そういう意味でもこの映画は設定上、感動ストーリーと思われがちですが、基本はコメディと捉えて観た方がよいのではないでしょうか。実際笑うとこはいっぱいありますし(笑)。

もうひとつ。主人公のジャックは白人ではなく移民系ですね。『ボヘミアン・ラプソディー』もそうでしたし、今アメリカで公開されていて話題のブルース・スプリングスティーン絡みの映画『Blinded By The Light』もそうです。この辺りも物語にリアリティーを与えているのかなという気はします。

昨日の前提

ポエトリー:

『昨日の前提』

 

世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え

微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる

発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから

短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした

真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない

配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ

 

2019年8月

映画『ミルカ』感想レビュー

フィルム・レビュー:

『ミルカ』2013年 感想

『ミルカ』。2013年公開のインド映画です。2時限半と結構長いのですが(インド版のオリジナルは3時間!)、飽きることなく最後まで楽しく観ることが出来ました。

インド映画ということで登場人物や話の展開が今まで見慣れた映画とは異なりますので、そこが先ず新鮮でしたね。あら、そういう話しになるのね、という感じで全然先が読めません(笑)

あと悲惨なシーンもあったりするのですが、基本的には明るく楽しい映画ですので、重たい気分にはならない。まぁそれは主人公ミルカのキャラクターにもよるのですが、清々しい印象を与えてくれる映画でした。

『ミルカ』というのは実在する人物、ミルカ・シンのことです。かつて陸上400m競技で世界新記録を出したインドの国民的英雄とことだそうです。てことで言ってみれば、インド版『いだてん』といったところでしょうか。

導入部を簡単に説明するとこんな感じ。400mの世界記録保持者であるミルカは1960年のローマ・オリンピックで国民の期待を一身に集めますが、金メダル直前のゴール間近で大きく後ろを振り返り順位を落としてしまいます。そこにはミルカの悲しい過去があったのです。

その原因となるのがインド・パキスタン紛争。それはこの映画の重要や背景となるのですが、物語はそれだけではありません。流石インド映画と言いますか、映画は孤児となったミルカの成長譚でもありますし、コーチとの熱い友情やライバルとの戦いといったスポ根ものでもありますし、もちろんロマンスあり、しかも何度もあり(笑)、インド映画らしく唐突な歌ありダンスあり。社会派とか感動ものといった一つのジャンルにとどまらないエンターテイメント要素をこれでもかとぶち込んだ全部盛りの映画です。でも不思議なことに支離滅裂な感じは一切しないんですね。この辺の監督の手腕はお見事!

加えて最初にも言いましたが、ミルカのキャラクターが生き生きしていて明るく屈託がない。前向きでポジティブ。ミルカはあっち躓きこっち躓きするんですが、この度前を向いて歩いていく。そこに引っ張られる部分は大きいですね。

そういう意味でもこれはやはり大河ドラマ。あちこち飛ぶストーリーをバイタリティー溢れる主人公が統べていく。根底には陽気なポジティビティが流れていますから、これはやはりインド版『いだてん』という見方で間違いないんじゃないでしょうか。

あとミルカさん、若い頃の髭もじゃブルース・スプリングスティーンにそっくりです。私の中ではその時点で高ポイントでしたね(笑)

明るいところと暗いところが入り混じり

ポエトリー:

『明るいところと暗いところが入り混じり』

 

がらんとした部屋のあるところ
あなたの明るいところと暗いところが入り混じり
近くの問題がとても遠くに感じられました

明るいところと暗いところが交わる時
あなたは剥がれ落ちただの記憶になりました

もぬけの殻
調子っぱずれでこたえるから
右肩を軽くぐるんと持ち上げた
ものにした事柄が
体の奥から定刻通りに抜け出していく

産声が銀河を抜け
ワクチンがひとつ、生まれた
あらかた、
為すべきことは済んだのか

前近代の雨の中
細ばる記憶がまた新しい列車に乗って
地下の帝国へ吸い込まれようとしていました

 

2019年8月

Goldrushed/The Royal Concept 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Goldrushed』(2014)The Royal Concept
(ゴールドラッシュ/ザ・ロイヤル・コンセプト)

 

タワーレコードの試聴機で「いかにも欧州なひねくれポップ」、でもって「フェニックス+ストロークス」なんて書かれていたもんだから、早速聴いてみたらひっくり返りそうになった。これはもうフェニックスそのものじゃないかと。その物凄くキャッチーなEP盤の2年後に満を持してリリースされたのがこのデビューアルバムだ。

この初のフル・アルバムも期待に違わぬ、というかそれ以上の素晴らしい作品。無駄な説明は一切不要。これは聴いてもらうしかない。若さに任せたエネルギーに満ち溢れている。

驚くことにEP盤で見せた強烈なポップ・ナンバーがまだまだ出てくるし、スロー・ソングだって素晴らしい。演奏力も確かでアレンジもアイデアに溢れている。しかしこれは極めて特殊なデビュー・アルバムと認識すべきもの。つい次回作もと期待してしまうが、それは酷ってもんだ。このテンションは2枚、3枚と続けられるものではない。

このアルバムを一言で言うと、#9『Shut The World』での「we’re gonna live and die young 」というフレーズに尽きる。その破壊力を存分に味わえ。

落ち着いたかなと思ったら、再度スピードが上がる#7『Busy Busy』、#8『Girls Girls Girls』のメドレーがまたいい。

~I’d rather be a ticking bomb than a fading light ~by『Shut The World』

 

Tracklist:
1. World On Fire
2. On Our Way
3. D-D-Dance
4. Radio
5. Cabin Down Below
6. In The End
7. Busy Busy
8. Girls Girls Girls
9. Shut The World
10. Tonight
11. Goldrushed

国内盤ボーナス・トラック
12. Damn
13. Naked and Dumb
14. Gimme Twice
15. Knocked Up
16 Someday

#14『Gimme Twice』の入った国内盤を聴くべし!

The Man Without Qualities/The Royal Concept 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Man Without Qualities』(2019)The Royal Concept
(ザ・マン・ウィザウト・クウォリティーズ/ザ・ロイヤル・コンセプト)

 

5年ぶりだそうで。あの鮮烈なデビュー作からもうそんなに経ったのかと。当時はラジオでかかりまくるわ、USJのCMソングとしてテレビでかかりまくるわでエライ勢いでしたが、その後は音沙汰なし。途中、EP盤が出ましたがそれもパッとせず、やっぱあれは初期衝動、もうエンジン尽きちゃったのかなと。まぁでもそれも良し、それぐらいあのアルバムは鮮烈でしたから、中にはそういうバンドもいるのですと、もうそういうもんとして認識していたのですが、出ましたよ遂に2ndアルバムが。アルバムっつっても8曲入りでフィジカル盤は無しというなんとも微妙な感じですがそれでもいーんです。The Royal Concept の新譜が出たってことで取りあえず喜んでおきましょう(笑)。

肝心の中身の方ですがいいですよこれは。あぁ、1stと比べて云々かんぬんと言う人がいるかもしれませんが、野暮な話はやめましょう(笑)。あれはあれ、青春の為せるわざですから、そういう幻影に惑わされなければこのアルバムもかなりいい!

ゆったりとした「Wake Up」で始まるのもいいですね。新しいThe Royal Concept で行くんだという決意表明のようなおおらかなサウンド。でそれを受けて始まる表題曲「The Man Without Qualities」が効いてます。曲の後半で別の展開を見せる表情もよし。なんじゃこれ、というぐらいもっともっと思いっ切りやってもらってもいいぐらいです。

そして表題曲で新たな側面を見せた後の「Wild Thing」。皆が期待する踊れるThe Royal Concept です。こーいうのやるとやっぱハマりますな。サビの後に来る「わ~ぃ、しんぐ」のコーラスがしびれます。最後のコーラスではゲストでしょうか、R&Bなボーカル・ソロも入って、ピアノも畳み掛けてくる、ギター・ソロも絡んでくる、ここでグッと気持ちがアガルこと請け合いです。

続く「Need To Know」はメロウなラブ・ソングです。大人ですな。こういう雰囲気は1stでは出せなかったであろうと。次の「Why Why Not」もそうですね。ちゃんと陰がある。この辺り、確実に成長の跡が窺えます。

6曲目の「Kick It」で再びスピード・ナンバー。完全に初期アークティック・モンキーズやね(笑)。でもこの手のスピード・ナンバーってなかなか出来ないもんです。単純にカッコイイ。そういう曲が一番難しい。彼らにはそれをサラッとやってのける地力があるってことです。

次の曲「Silver Lining」。これは完全にPhoenixです。Phoenixの新曲と言っても差し支えありません(笑)。もうね、なんなんでしょ、声そっくりです。メロディ・ラインも優雅でロマンティック。サウンドをちょこちょとっといじれば完全にPhoenixです。でもね、この曲がいいんですよ。ちゃんと憂いがあるっていうか、起承転結があってホントよくできた曲ですよ。このアルバムでは一番好きですね。

最後の曲は「Up All Night」。EDMみたいなタイトルですがこれも落ち着いた曲です。踊ってる側ではなくその余韻、若しくは外側にいる人間の歌。1stとは立ち位置が明らかに違うっていうのがこの曲ではっきりと分かりますね。

全8曲。久々の割に曲数は少ないですが、彼ららしさと新しい側面が混ぜ合わさっていいアルバムだと思います。確かにサウンド的にはまだまだ物足りないし、バンドとしての力量も抜群だとは言えないですが、そこは経験を積むなり何なりしてこれから幾らでも補えるところ。それよりも大事なのはソングライティング。やっぱこの人達は曲ですよ。圧倒的にクリアで分かり易いメロディ、それにあの甘い声。人がうらやむこの二つがある訳ですからこれからも安心なんじゃないでしょうか。

でまぁ久しぶりなんで来日すんのかな~って調べたら、既にこの9月に来日しとるやないかい!しまった、全然知らなんだ…。

 

Tracklist:
1. Wake Up
2. The Man Without Qualities
3. Wild Things
4. Need To Know
5. Why Why Not
6. Kick It
7. Silver Lining
8. Up All Night

U.F.O.F./Big Thief 感想レビュー

洋楽レビュー:

『U.F.O.F.』(2019)Big Thief
(U.F.O.F/ビッグ・シーフ)

 

海外詩を読むのが好きなので、時々思い出したように手に取るのだが、思い出したように手に取ったところで、分からないものが分かるようになるわけでもない。相変わらずあの独特な表現は理解し難いのだが、その理解し難さこそが海外詩の魅力でもあるので、性懲りも無く忘れた頃にまた手を伸ばすということを繰り返している。ということで、文学的に言えば私はMかもしれない。

なんでそういう話をしたかというと、Big Thief のアルバムを今回初めて聴いたのだが、印象としては全く海外の詩集を読んだ時の感覚に非常に近しいもので、何だかよく分からないけど分からない故の魅力というか、加えてタイトルのU.F.Oの如く地に足の着かなさ、ふわふわとした所在なさ、そうしたものが何度聴いても拭えない。が、それがいい。これは怖いもの見たさだろうか。

U.F.O.Fというのはソングライターでありフロントウーマンのエイドリアン・レンカーがこさえた造語らしい。U.F.O.Friends という意味だそうだ。要するに未知なる友達。見知らぬ誰かとの出会い、またそれは自分の中にあるもう一人の自分でもあるとの意味も込められているらしいが、果たしてそうか。私にはこのアルバムは強烈な性愛への希求、心の中に激しく燃え盛る情愛の叫びにしか聴こえない。

その前に。このところほぼ毎日このアルバムを聴いているが、聴き方としてはどうやら4曲ごとに3つのパートに分けて聴くのがよいことに気が付いた。4曲でちゃんと起承転結がついているからだ。

先ず冒頭から4曲目までは自己紹介の意味もある。1曲目「Contact」の金切声で既にヤバい感じはあるが、まだ平静を保っていて、客観的な視点が保ている気はする。その結となる4曲目、「From」では「誰も私の男になれない」「誰も私の女になれない」と歌うが実のところは「私は誰の男にも誰の女にもなれない」という自己拒絶。ここでこの人物像が揺るぎなく明確に立ち上がってくる。

次のパート、5曲目から8曲目はそうした自分がなんとか実人生を歩む様が捉えられている。「From」で一瞬我を失いかけた自我が「Open Desert」では落ち着きを取り戻している(ちなみにこの曲のメロディはとても美しい)。このパートの4曲は弾き語りがあったりジャズっぽかったりウィルコばりのユーモアを忍ばせたりと曲想も豊か。しかし詩の内容を追っていくと、「Orange」では「lies,lies,lies / lies in her eyes」と言う癖に次の「Century」では「we have same power」と歌っており、他者との距離感、接近しては離れる揺れ動き、曲想がそうであるように心が大きく揺れ動く様が描かれている。

そして最後、情念が渦巻くのは9曲目から。「Betsy」では心が完全に特定の人に持って行かれる様を追い、「Terminal Paradise」は愛の告白だ。圧巻は「Jenni」。「Jenni in my bedroom」と繰り返すサウンドはシューゲイズ故に尚の事その情念が立ち上がる。「Jenni in my bedroom」と心の中で繰り返し続ける主人公。これは怖い話か何かか。とか言いつつ、これは誰にもある普遍的な情念でもある。そして最終曲、「Magic Dealer」で何事も無かったように終わる。

なんでもなく見える人でも心の中は色々と渦巻いているもの。私だって心の中なんて人に言えたものじゃない。そういうアルバムではないだろうか。それにしても、1曲目の「Contact」の最後に繰り返される金切声は怖い。

 

Tracklist:
1. Contact
2. UFOF
3. Cattails
4. From
5. Open Desert
6. Orange
7. Century
8. Strange
9. Betsy
10. Terminal Paradise
11. Jenni
12. Magic Dealer

和泉の国 ジャズストリート 2019年 感想

アート・シーン:

和泉の国 ジャズストリート 2019年 感想

 

今年も大阪府和泉市で「和泉の国ジャズストリート」が開催されました。毎年9月の秋分の日付近の土日を利用しての2日間ですね、泉北高速鉄道の始発駅である和泉中央駅周辺の広場、なかにはトヨタさんやホンダさんの敷地を利用して街を上げての一大イベントが行われます。

私は和泉市に数年前に越してきまして、しかも和泉中央駅なら自転車でスイスイーっと行ける距離なので、毎年生活の合間を縫ってフラフラッと覗いております。

てことでチラ見ですから感想という程のものでもないのですが、今年はスゴイ人たちを発見したもので、もう黙っていられないというか、その感動を忘れないうちにここへ記しておこうと思います。

このイベントはJAZZ STREET っていうぐらいですから、基本はジャズ。それも本格的なビッグ・バンドから少人数のシンプルな編成まで多種多様のバンドが登場するのてすが、今回私が驚いたのは3人編成によるバンド、その名も jamです。

中心人物はすーじー(鈴木潤)さんという年配の男性。メインは口笛なんです。それもちょっとこの方、世界口笛選手権のチャンピオンじゃないのっていうぐらいの口笛スキルをお持ちの方で、でスゴイのは口笛だけじゃなくスキャットというか、それもダミ声スキャットでリズムを転がしたりもするのです。

更にスゴイのは楽器。私は音楽は聴く一方なので詳しい楽器の名前は分からないのですが、すーじーさんは木箱みたいなのに座りまして、股関の木箱をジャズのドラムスティックであるブラシでザクザク叩く訳です。で足元にはなにやらペダルが幾つかありましてそれを使いこなす、更にはトライアングルやウィンドチャイム(バラバラの鉄琴が縦にぶら下がったやつです)、最高に面白いのはヒヨコの鳴き声が出るオモチャの空気笛とか、ポッポーッていう機関車の汽笛笛、あとパフッパフッっていう豆腐屋の警笛ですかね、そういうのを手の届くところにセットし自在に操りながら口笛吹いたりスキャット決めたりするんです。

あと両サイドにいらっしゃるお二人も素晴らしくって、すーじーさんのサポートに徹してるんですけど、向かって右側に立ってらっしゃる まんさん さんはブルースハープとかマンドリンとかコミカルな曲ではカズーですかね、色んな楽器を取っ替え引っ替え、控え目に、コミカルであるけれどもそこにちゃんとある情緒を奏でるんです。

左側にはキーボード奏者のmaruchanさん。この方がまたプロフェッショナルな演奏でバンドを落ち着かせるというか的確なんですね。女性らしい滑らかな音で、誰しも心の内にある一方の静けさを保つのです。だからこの3人の組み合わせはホントに素晴らしかったです。

こういうフェスではプロの方もいらっしゃるのですが所謂週末ミュージシャンもいて、中には妙に場馴れした方もいらっしゃるんですね。そうすると、ま、ここは関西ですから妙に笑わそうとする人たちもいる、ま、素人バンドあるあるなんですが(笑)、その点jamさんは面白くコミカルな表現も沢山あるのですが、真剣に取り組んでいる、故意に笑わそうとしていないんですね。コミカルな表現はあくまでも演奏の中の話。面白いことを真面目に取り組んでいる。こういうスタイルが私、やっぱり好きなんです。

演奏終わりにフライヤーを頂きまして、そこにはjamさんの今後の演奏予定やブログのアドレスなどが載っていました。また機会を設けて是非観に行きたいなと思っています。

jamさんブログ… http://jamkuchibue.blog.fc2.com/

当日も直接気持ちを伝えたのですが、ここで改めて。Jamの皆さん、楽しく心に響く演奏をありがとうございました!!