Listen/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Listen』(2014) The Kooks
(リッスン/ザ・クークス)

クークス、3年ぶりの4thアルバム。アルバム毎に違った側面を見せる彼ら。今回は主にヒップ・ホップを手掛けるinfloをプロデューサーに迎え、そっち寄りのサウンドを指向している。一部中途半端な曲もあったりするが、元々ファンキーなルーク・プリチャードのボーカルが全面に出た、活きのいい作品だ。以下、順を追って見ていきたい。

1. Around Town/アラウンド・タウン
出だしの「コネクティーーイッ!」が最高。本作を特徴付けるドタドタドラムと手拍子のコンビネーション。これを見つけたことで本作は決まったのではないか。

2. Forgive And Forget/フォーギヴ・アンド・フォーゲット
アルバム中、最もファンキーな曲。彼らの持ち味であるギター・サウンドと本作の方向性が見事にマッチング。躍動感溢れるリズムが最高で、本アルバムのベスト・ソング。

3. Westside/ウエストサイド
前作『ジャンク・オブ・ハート』に通じるメロウなナンバー。派手な1曲目、2曲目ときて、ここでひとまずクールダウン。

4. See Me Now/シー・ミー・ナウ
本作のハイライトの一つ。ストリングスを配したスロー・ソングは初めてじゃないかな。冗長にならず、シンプルにまとめ上げられているのがいい。

5. It Was London/イット・ワズ・ロンドン
パンク調のナンバー。「ロンドン」というのはそういうことか。合間に鳴らされるギター・フレーズにはしびれる。この辺りは流石にカッコイイ。

6. Bad Habit/バッド・ハビット
ここからは再びファンク・ナンバーが2曲続く。この曲はまだ振り切っておらず、逆に言うと一番馴染みやすいかも。

7. Down/ダウン
リード・シングル。明らかにこれまでとソングライティングの手法が変わったことを確信させる曲。昨今珍しいこういうシャウトが聴けるのもルークならでは。

8. Dreems/ドリームス
基本、ルークの弾き語り。アンビエントなナンバー。時折、こういうのも入れたくなるのだろうけど、ちょっと退屈。

9. We Are Electric/ウィ・アー・エレクトリック
近頃流行のシンセ・ポップ。ただいかにも付け焼刃的な感じで中途半端。前作の後半に置かれた『Is it me』のような役割を果たせればよかったんだけど。ちょっと残念な曲。

10. Sunrise/サンライズ
細かいカッティングの小気味よいファンク・ナンバー。ルークの鼻歌で出来たような小品。アレンジも敢えてシンプルにしているのかな。

11. Sweet Emotion/スウィート・エモーション
これも本作での志向が反映された曲。ただこの曲はリズム主体ではなく、メロディ重視。アウトロのピアノ・ソロがとてもいい。

ここにきてこの方向性は、よくぞ、といった感じ。ボーカルの歌い方にとても合ってるし、遂にクークスのオリジナルが開花かとも思わせる。でも僕はまだまだ物足りない。エレクトリカルも中途半端だし、ゴスペル風コーラスを多用しているがこれもまだ掴みきれていない感じは否めない。#2『フォーギヴ・アンド・フォーゲット』のように彼ら本来の魅力である滑らかなメロディ・ラインとギター・サウンドが、今回取り入れられたブラック・ミュージックの要素とスパークした時は躍動感があってホントに素晴らしいグルーヴを出している。これはこれでいいアルバムだし僕は大好きだけど、クークスはもっともっと凄い領域にまでいけるんじゃないかと僕は思っている。彼らの持ち味と新しいサウンドの融合。素晴らしいアルバムだけど、もっと誰も手が届かない領域まで突き抜けてほしい。彼らならそれが出来ると思う。

Suck It And See/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Suck It And See』(2011) Arctic Monkeys
(サック・イット・アンド・シー/アークティック・モンキーズ)

クークス、ザ・ビュー、アークティック・モンキーズを僕は勝手にUKギターロック御三家などと呼んでいるのだが、その筆頭各にあたるのがアークティック・モンキーズ。アークティックはクークスやザ・ビューよりも一般的な評価も高く、その雰囲気も王道というか王者の風格があり、個人的な好みはさておき、一歩抜きん出ている感がある。そのアークティックの4thアルバム。重たい印象のあった前作とは一転、全体的に肯定感あふれる作品だ。曲そのものの精度がこれだけある以上、もはやデビュー当初のスピード感は必要ないのだろう。本作を聴いて僕の中でのアークティック好き度ランキングはかなり上がった。

初期の猛烈なスピートや、彼らを世に知らしめた独自のビート感はかなり後退し、むしろゆったりとしたリズムに覆われている。これまでになく爽やかな印象も相まって、聴いた当初は面食らうところがあるかもしれないが、聴き込むほどに味わい深く、ついに彼らがここまで来たかという印象。今思えば、デビュー当初のあの勢いもこの基礎体力故だったのかもしれない。

前作から向かいつつある普遍的なメロディへのアプローチも、堅苦しさが消え随分と身軽に。前作とは対照的に明るく開放的なのはアルバム・ジャケットのせいだけではあるまい。ドラム、ベース、ギターの音が明確で、立体的なサウンド。一曲一曲の輪郭がしっかりと色づけされているのはここに迷いはないということ。これはもうアレックス・ターナーの作曲能力もさることながら、バンドとしてのムードが良い方向に振れている証しであり、派手なインパクトはないものの、今や彼らはそんじょそこらのギターバンドには真似できない領域にあるということを示している。

4作目ともなると、ストリングスやエレクトリカルなど新しい表現方法を取り入れたりもするのだが、彼らはデビュー時以来のシンプルな編成のまま。それでいてこうも印象を変えてしまうのだから恐れ入る。にもかかわらず、初期も今もロックンロールとしか言いようのないサウンド。正々堂々、ストロング・スタイルの傑作である。

 

1. She’s Thunderstorms
2. Black Treacle
3. Brick by Brick
4. The Hellcat Spangled Shalalala
5. Don’t Sit Down `Cause I’ve Moved Your Chair
6. Library Pictures
7. All My Own Stunts
8. Reckless Serenade
9. Piledriver Waltz
10. Love is a Laserquest
11. Suck It and See
12. That’s Where You’re Wrong

 

3作目と同じアプローチでありながら僅か1作でこれだけ印象を変えてしまえるのは流石と言うしかない。アークティックのキャリアからすれば、まるで何かのスポットに落ちたかのようなメロウで爽やかな作品だ。

Supermodel/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Supermodel』(2014) Foster The People
(スーパーモデル/フォスター・ザ・ピープル)

 

新しいアルバムが出たら、自動的に買ってしまうバンドがあるけど、フォスター・ザ・ピープルもそのうちのひとつ。この人達はまず間違いないだろうという感じ。難しく言うと、表面的なキャッチーさだけではなく、何かしらの奥行を感じさせるということかな。といっても今回で2作目なんだけどね。

1stがマーク・フォスターの才覚のみで作られた作品だとしたら今回はバンドが前面に出ている。1st後に多くのライブをこなし、バンドとしての練度を固めていったのには勿論理由があっての事で、それはもうこのバンドでやってくんだという意思表示に他ならない。彼らは1stの取っつきやすいエレクトロ・ポップでブレイクした訳だけどマーク・フォスターの野望はもっと遠いところにあるのだ。

アフロ・ビートやサイケデリア、フォークといったスタイルを縦横無尽に採用し、更にその向こうへ突き抜けようとする態度がここにある。ようやく手に入れたバンドのダイナミズムが向かう先はどこ?それは遠くにかすかに見える光に向かって何とか前へ進もうとする意志。ここには混沌と言う言葉だけでは片付けられない切迫感がある。彼らは世界はこのままでもいいとは思っていないのだ。その分厚い壁をなんとかしてぶち破るべく選んだのは紛れもないロックンロール。

サウンドはより緻密によりダイナミックに。バンド・サウンドが前面に出ているとはいえ、全体を通してせわしなく繰り出されるエレクトリカルや細かなフレーズは流石。マーク・フォスターはブレイクするまでに紆余曲折を経たキャリアの持ち主。その細かなプロデュース力は裏方に回っても相当な力を発揮しそうだが、彼が選んだのは自分たちの言葉で、自分たちの声で、自分たちのサウンドで道を切り開いていくこと。そのサウンド・デザインには凄みさえ感じる。

1stの時からそうだが、彼らは自分たちの音楽的バックボーンをしっかりと持っている。最新のスタイルを纏ってはいても、綿々と続くロックやポップ音楽の伝統を意識している、というかどうあっても意識してしまうようにも思える。僕がこの人達は間違いないと感じるのは、もしかしたらそういうところから来てるのかもしれないし、変則的でありながらもこのアルバムから感じる王道感はそんなところにもあるのかもしれない。いつか他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないか。ただ王道と呼ぶには最後にバシッと決めてほしいところ。冒頭3曲の勢いと、その流れで突き進む#8『ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン』に至るサイケデリックな熱量に比べ、最後の3曲はもう一押し足りないかなという気もする。

彼らは音楽の、バンドのマジックを信じて疑わない。僕は少なくとも#3『アスク・ユアセルフ』冒頭のギターリフにはそのマジックがあると思う。

 

1. アー・ユー・ホワット・ユー・ウォント・トゥ・ビー?
2. アスク・ユアセルフ
3. カミング・オブ・エイジ
4. ネヴァーマインド
5. シュードロジア・ファンタスティカ
6. エンジェリック・ウェルカム・オブ・ミスター・ジョーンズ
7. ベスト・フレンド
8. ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン
9. ゴーツ・イン・ツリーズ
10. トゥルース
11. ファイア・エスケイプ

12. カシアス・クレイズ・パーリー・ホワイツ [ボーナス・トラック]

The Ride/Catfish and the Bottlemen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Ride』(2016) Catfish and the Bottlemen
(ザ・ライド/キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン)

英国では初登場で1位を獲得したそうだ。YouTubeで今年のフェスの彼らの模様を観たら、多くの人がが集まっていて、日本にいると分からないが結構な人気なんだということがよく分かる。ボーカルもバンドも飛び抜けた個性があるとは思えないこのど真ん中直球のロックンロールがこれだけウケるというのは、メロディが抜群にいいからだろう。

2ndともなるとメロディに陰りが出て、いささかトーンダウンしてしまうものだが、更に磨きがかかっていい感じだ。フックの効いたサビに強弱を意識したアレンジ、随分と工夫がなされていて好感のもてるサウンドだ。ただ多少一本調子というか、あの曲とこの曲のサビを入れ替えても違和感ないんじゃないというようなスタイルの固定が目に付いてしまうのも確か。それとサウンドもソングライティングも1stから着実に良くなったけど、聴き手を興奮させるような記名性に欠けるような気がしないでもない。オアシスばりに大げさなストリングスを利かせたっていいし、声が似てるって言われるクークスのルークみたいにシャウトしまくってもいい。この手堅さがあればしばらくはイケるだろうけど、もっと突き抜けた何かが欲しいと思うのは僕だけだろうか。

メロディがいいから『グラスゴー』みたいな弾き語りも全然イケてる。優れたメロディメイカーだ。気は早いが次は強烈な個性の発露を期待したい。フェスのヘッドライナーに登り詰めるには特別な何かが必要なのだ。彼らにしてもこのまま普通にいいバンドで終わるつもりはないだろう。

 

1. 7
2. トゥワイス
3. サウンドチェック
4. ポストポーン
5. エニシング
6. グラスゴー
7. オキシジェン
8. エミリー
9. レッド
10. ヒースロー
11. アウトサイド

Schmilco/Wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Schmilco』(2016) Wilco
~『シュミルコ』、ウィルコのいいとこ~

サリンジャーとかカポーティーといった海外文学が割と好きで、思い出しては時折読んでいる。勿論全てを理解している訳ではないが、この辺りの作家の言い回し、特に比喩表現が大好きで、その世界観や言わんとしていることも僕にはとてもしっくりくる。日本人だから日本の作家の方がしっくりくる思いきや、そうとはならないところがなかなか面白い。音楽で言えば、このウィルコなんかはその最たるもの。お世辞にもキャッチーとは言えない彼らの音楽が何故か僕にはしっくりくるのだ。

前作から僅か1年でリリースされたこの新作はいつもどおり、いやいつも以上に派手さはなく、ちょっとすりゃあ盛り上がりそうな原曲なんだけど、そういう風には一切ならず、クセのあるメロディが淡々と(淡々と呼ぶにはヘンテコ過ぎるけど)奏でられ、歌われている。このバンドのどこがいいって人に分かってもらうのはとても難しくて、音楽なんて一期一会。人に薦めてもらったからどうこうなるというものでもなく、ふだん着ている洋服の様に自分にそぐうかどうかは本人にしか分からないのだ。

例えば、『Normal American Kids』なんて1曲目からなんでこんな朴訥としてるのって歌だけど、「僕は普通のアメリカの子供がいつも嫌だった」って歌ってる。僕は日本人だけど、そう言われても不思議と違和感がない。逆にそうだよ、そうだよなあ、ってなる。別にアメリカの子供そのものってことじゃなく、何かのメタファーみたいなもんで、それが何かって言われても困るけど、まあなんだっていい。とにかく微妙にヘンテコなサウンドでぼそぼそっとジェフ・トゥイーディーが歌うと、それでしっくりきちゃうんだからしょうがない。

2曲目の『If I Ever Was A Child』だってそう。「ひとりぼっちの時間があまりなかったから分からない/僕に子供時代があったのか」って歌ってて、ウィルコはありがちに「僕は孤独だった」なんて言い方はしない。そりゃそうさ。そういう子もいるかもしれないけど、そんな映画みたいなキャラの子って滅多に居るもんじゃない。でもふとした時にひとりを感じることは誰しもあって、それは何も特別な事じゃない。普通に生活しててもそういう事は感じるし、それは大人だって子供だってそう。別に現代病なんて大層なもんでもなく、もしかしたら電気の無い時代、もっと古い時代だってそうだったかもしれない。こういう感覚をそのまま言葉に変換したら、「ひとりぼっちの時間があまりなかったから・・・」みたいな言い回しになっただけで、でその言い回しがそれ以上でもそれ以下でもなくそうとしか言えないってのが僕にはちゃんと合点がいくからそれでいいのだ。それに3曲目の「cry all day」とか最後の「Just say goodbye」みたいな常套句だってウィルコが歌えば、違った響きを帯びてきて、どこか通り一遍の言葉ではなくちゃんと僕の傍に寄ってきてくれる。多分それはジェフにしてもジョンにしてもネルスにしてもグレンにしてもパットにしてもマイケルにしてもホントのことを言っているからなんだろう。

今、歌詞について言及しているからついでに言うと、ウィルコの歌詞って使っている言葉は平易なんだけど、分かるんだか分からないんだかよく分からないところが何故か心地よい。ライナーノーツによるとジェフは、僕は長い詩が書けない、なんてこぼしたらしいけど、この短さもまた丁度よくて、僕は1ページか2ページぐらいの現代詩が好きで、なんでかって言うと集中力が途切れることなく全体としてと捉えることが出来るからで(それ以上になると僕の脳みそがパンクしてしまう)、要するに身の丈にぴったり収まる長さということだ。

話は変わるけど、先頃ノーベル賞を獲ったボブ・ディラン。あの声と風貌がたまらなくかっこいいから、時折アルバムを買ってチャレンジしてみるんだけど、手を出すと途端に跳ね返されてしまう。好きになりたいんだけどなかなか気に入らせてもらえない。まあそういうジレンマが心地よかったりもするんだけど、ウィルコってディランぽいところもあって、ジェフも時々放り投げるような歌い方をするし、歌詞だってディランばりに訳の分からないことがあったりする。サウンドだって好き勝手やってそうだし、何かどっかで繋がっているような気がしないでもない。僕はこれからも思い出したようにディランを聴いては跳ね返されたり、分かったような気になったりするんだろうけど、そういう意味ではウィルコの場合は手に負えるというか、手に負えるって言うと変な言い方だけど、なんだか分からないにしてもやっぱり自分の肩幅にすっぽり収まるんだな。

話が逸れちゃったけど、ウィルコは音にせよ言葉にせよちょっとしたズレとか、矛盾するけど「当たり前のこと」に注目してるのかもしれなくて、でもこういう感覚って言葉では説明しずらいもの。でも実は世の多くの人たちが違和感というと大げさだけどそういう感覚を持っていて、ただそれもレディオヘッドやオアシスみたいだと割と分かり易く共感を得られるんだけど、こういうウィルコの感覚というのは明確にコブシを挙げてオレもそうだよ、ってなる類のものではない。勿論僕もレディオヘッドやオアシスは大好きだけど、僕みたいなセンシティブでもなく、心ん中に熱いもの持ってるって訳でもなく、宙ぶらりんな奴、でも少しだけ居心地の悪さを感じている奴って(要するに「当たり前のこと」でいたい)のは世界中にたくさんいる訳で。でももしかしたらそっちの方が多数派なのかもしれないななんて思うのは、明確なつかみが無いくせに、ウィルコの音楽がこれだけ支持されているという事実があるからだろう。

ただ考えてみればオアシスだってレディオヘッドだって「当たり前のこと」を歌ってきたわけで、僕たちは度々そのことに気付かされてきたんだけど、ウィルコの場合はオアシスみたいにやたらテンション上がっちゃってイェエーイってことではなく、うん、いいなあ、ってなるぐらい。要するになんか体温に近い、そんな感じかな。

今回の『シュミルコ』アルバムは先に述べたように地味に淡々と進んでいくアルバムだ。前作の『スター・ウォーズ』は2002年の『ヤンキ-・ホテル・フォックストロット』に割と近い感じで、歪んだギターやサイケデリアといったトリッキーなサウンドで、当時からのファンはニヤリとするようなアルバム。その前の『ホール・ラブ』(2011年)は色んな種類の曲が入った幕の内弁当みたいだったし、更にその前『ウィルコ(ジ・アルバム)』(2009年)は歌ものだったかな。でもどの作品も聴いた後には、ああウィルコらしいなあ、と妙に納得してしまっているから不思議だ。ということで何をやっても結局は、ああウィルコだなあ、といい気分になってしまうんだけど、この変わったことをやっても似たようなことをやってもやっぱりウィルコはウィルコだなあと思わせてしまうところも彼らの魅力のひとつ。『シュミルコ』にしても最初は地味だなあと思いつつもいつの間にやら馴染んじゃって、今ではやっぱウィルコらしいいいアルバムだなあなんて結局いい気分になっている。

今回のアルバムはどの曲もほぼ3、4分で終わるものばかり。全体としてサッと始まりサッと終わる印象だ。それでも色んな種類の曲があって、派手さはないけど意外とバラエティ豊か。#3『Cry All Day』のような疾走感があるのもあるし、#4『Common Sense』のようなヘンテコなのもある。うんうんと頷いてしまう#7『Happiness』もあるし、地べたを這うような#9『Locator』もある。#6『Someone To Lose』なんて結構キャッチーだ。そんな中、僕が今一番気に入っているのは最後の『Just Say Goodbye』。ジェフのぼそっとした声が穏やかなメロディと上手く溶け合ってて、サヨナラって歌なのにとても綺麗だ。そうそう、サヨナラって歌なのにサヨナラっていう感じがしなくて、でもサヨナラとしか言えない気もする。ウィルコにはいつもそういう反語的な響きがあって、でもシニカルな感じはしないし、受ける印象は親密さとかユーモアの感覚。やっぱり不思議なバンドだ。バンドの演奏が必要以上に言葉やメロディに寄せてこないところもまたよくて、こっちが情緒に依りかかりそうなところをひっぺがえしてくれるのもいい。

バンドの演奏とジェフの声がすっと体のそこかしこにある、でも自分では分からない隙間にスッと入り込んできて、それがかつて失くしたピースのように居心地良く馴染んでいく。でまたこれがクセになる。会ったこともないアメリカ人の歌がそう思えてしまうから不思議だけど、きっと世界中にそんな人、たくさんいるんだな。

 

1. Normal American Kids
2. If I Ever Was A Child
3. Cry All Day
4. Common Sense
5. Nope
6. Someone To Lose
7. Happiness
8. Quarters
9. Locator
10. Shrug And Destroy
11. We Aren’t The World (Safety Girl)
12. Just Say Goodbye

※上記の文章は、rockin’on presents 第3回 音楽文 ONGAKU-BUN大賞 にて入賞作に選ばれました。

A Moon Shaped Pool/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Moon Shaped Pool』 (2016) Radiohead
(ア・ムーン・シェイプド・プール/レディオヘッド)

ここで歌われるのは祈りだ。ところどころ感じさせる宗教的なサウンドが落ち着きを与える一方、不穏さを与えている。緊迫感と平穏さの同時進行もまた聴き手の感情を不安にさせ、安心させる。相反する動きがそれが自然な形だと言わんばかりに同居している。当然それらを許容する器が必要だ。

言葉やメロディ、そしてそれらを運ぶサウンドがぎこちないままだと聴き手への伝播力は半減される。ここでの言葉とメロディやエレクトロニカ、オーケストレーションの緩やかな結合は人の手が加わったことも忘れてしまうほどにあまりにも自然だ。そこに外界のどんなウィルスも受け付けない声が降り注ぎゆっくりと同化してゆく。このアルバムでは声であるとかベースであるとかギターであるとかストリングスであるとかという区分は意味を持たない。全てがひとつの音という意識として人々の耳へ飛び込んでくる。耳から入った音もまた、耳とか脳とか心とかの分別なく、体の四隅へゆっくりと溶けてゆく。或いは衰弱し、或いは回復してゆく。それはまるでサイケデリア。現実のようで夢のようで、意識は明瞭のようで幻覚のようで。境界線も曖昧なまま、美しく、ざわめきは抑えようもない。

1. Burn The Witch(魔女を燃やせ)
落ち着きのないサウンド。最後の止まれなくて微かに残る余韻が不穏さを醸し出している。

2. Daydreaming(白日夢)
チベットか何処かを想起させる宗教的な音階。最後のコントラバスが不安をかき立てる。

3. Decks Dark(甲板の闇)
幻覚ではない。意識は明瞭だ。しかし女性コーラスが入ることで幻想的になってゆく。

4. Desert Island Disk
主人公は移動をしている。しかしそれは白昼夢。目覚め、更新される。

5. Ful Stop
ちょっと待って。一旦止めてくれ。元に戻してくれ。

6. Glass Eyes(義眼)
リアルにやばい曲。最後にフッと浮き上がるのは良い兆候かそれとも、、、。

7. Identikit(モンタージュ作成装置)
肉体的なビートが「broken hearts make it rain」という言葉を補完する。

8. The Numbers
ラストのダムが決壊したかのようなオーケストラに押し流されてしまいそう。

9. Present Tense(現在形)
フラメンコ。踊るのには理由がある。

10. Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief
(いかけや したてや へいたいさん ふなのり おかねもち びんぼう こじき どろぼう)
エレクトロニカからバンドを経由しオーケストラへ。意識の境もなくなってゆく。

11. True Love Waits
背後に軋む音が残された意味とは。成熟とはより純化されるということ。

一見感情的なように見えて実はそうではない。仮に実体験が下地にあったとしても作者と言葉は一定の距離を保っている。そこのところの冷静さや知性が彼らの魅力だと言えるし、もしかしたらトム・ヨークから出てくる言葉はどうあってもそうなってゆかざるを得ない性質のものなのかもしれない。人の心を揺さぶる声を持っていながらも基礎体温の低さはぬぐい切れない。その奇妙なバランスが美しい。

Something To Tell You/Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Something To Tell You』(2017) Haim
(サムシング・テル・ユー/ハイム)

リリックが転がってくのが好きだ。アクセントとかライミングとかメロディが折り重なって、歌詞カードが目で追えないぐらいの勢いで転がっていく。ハイムの新しいアルバムでいうと、リード・トラックの『Want You Back』なんてまさにそんな感じ。サビの最後で「I’ll take the fall and the fault in us / I’ll give you all the love I never gave before I left you…」と転がっていくところなんか最高だ。

ハイム3姉妹の2枚目のアルバムがようやく出た。4年ぶりだそうだ。才能の赴くまま、割とあっけらかんと作ってしまいそうなイメージだけど、意外とそうでもなかったのね。で届けられた新作。素晴らしいのなんのって。僕は勝手にハイムの2枚目は彼女たちの趣味や嗜好に引っ張られた割と重たい感じになるのかなと思っていたが、何のことはない、1stを更にパワー・アップした軽やかなポップ・アルバム。よりがっしりとしたソングライティングに、完成度がぐぐぐいっと高まったサウンド・プロダクション。2枚目のジンクスなんてどこ吹く風だ。

冒頭に述べたように僕はハイムの言葉の転がし方がかなり好きだ。言葉とメロディは一体であるという感覚。この辺り、ハイムはかなり意識的で、ボーカルのダニエルの促音を強く弾く歌い方や、マイケル・ジャクソンばりの「ハッ」とか「アッ」というような合いの手がより音楽としての一体感が生んでいる。そうだな、3人がいつもどこかでリズムを取っているようなイメージもある。ハイムの最大の特徴はそうした言語感覚も含めた独特のリズム感かもしれない。いつも背後に幹のぶっといリズムを有しているという感覚。子供時代、家にあるドラム・セットで3姉妹が競い合っていたというエピソードそのままに、ライヴでもしょっちゅう肩を並べて太鼓を叩いているが、彼女たちの芯はやっぱここにあるのかもしれない。

それと忘れてならないのが今回のサウンド・プロダクション。1stと比べて格段にパワー・アップしている。1stの隙間を活かしたサウンドもあれはあれで良かったんだけど、今回は更にグイッと行きますよという気持ちの表れか、随分とがっしりと作り込まれていて、例えば3曲目の『Little of Your Love』なんて大陸的でアメリカンな大らかさがよく出てる。4曲目の『Ready For You』のプログラミングとかサビのゴスペル風なんかもイカすし、8曲目の『Found It In Silence』のストリングスを効かせたアレンジも凄くかっこいいし、総じて完成度は格段にアップ。プロデューサーのアリエル・レヒトシェイドと元ヴァンパイア・ウェークエンドのロスタム。いい仕事しとります。

今回のアルバムでは彼女たちの持ち味である米国ウェスト・コースト風のノリに80年代の色味が1stよりも濃く反映されている。きっと彼女たちが家で聴いていた音楽の影響をより素直に表したのだろう。先ほどのドラムの話もそうだが、彼女たちにとってホームはとても大事なもので、その辺りがこのアルバムから感じられる懐かしさにも繋がってくるのかもしれない。やっぱり姉妹というのは大きい。あうんの呼吸というか、気付いたらハーモニーになっているみたいなところもやっぱ凄いなと思う。

最後にもう一つ付け加えたいのは同時期デビューのTHE1975との類似性だ。キャラ的には対照的な両者だが、昨年出たTHE1975の2枚目とこのハイムの2枚目はなんだかだぶって聴こえてしまう。確か1stの時もそんな印象を受けたけど、そういうコメントは聞いたことが無いのでそう思ってんのは僕だけかもですが…。スタイルは違うけど、80’Sへの接近とか言葉の転がし方が似てると思うんだけどな。

ちなみに真っ先に公開された、映画監督のポール・トーマス・アンダーソンが録った#10『Right Now』のスタジオ・ライブ版が素晴らしい。彼女たちのライヴはカッコイイもんな。一度見てみたいぞ!

 

1. Want You Back
2. Nothing’s Wrong
3. Little of Your Love
4. Ready For You
5. Something To Tell You
6. You Never Knew
7. Kept Me Crying
8. Found It In Silence
9. Walking Away
10. Right Now
11. Night So Long

The Heart Speaks in Whispers/Corinne Bailey Lae 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Heart Speaks in Whispers』(2016) Corinne Bailey Lae
(ザ・ハーツ・スピークス・イン・ウィスパーズ/コリーヌ・ベイリー・レイ)

2009年の『The Sea』以来7年ぶりのオリジナル・アルバム。7年といやあ結構なもん。なんせ年中さんが中1。中1が成人式ですよ。とにかくコリーヌさんも相当試行錯誤があったのではないでしょうか。新しいアルバム、かなり新機軸です。

早速1曲目からクールなサウンドにちょっとびっくり。昔から知ってる姪っ子がいきなりモード・ファッションみたいな感じっつうか、久しぶりに実家に帰ったら表札がローマ字になっちゃってるっつうか。でもいいんです、いいんです、そのくらいは。私くらいになるとその辺は大人の対応です、はい。ところがですよ、いざ喋ったら中身は変わってないいい子なんすよ。今風にリフォームしちゃってても親はそのまんまなんすよ。

ということで話がだいぶ逸れましたが、新鋭のソングライター、アレンジャーを起用し、非常に凝った最先端のサウンドになってはいても、そこにあの魅力的な声の持ち主、低血圧コリーヌさん(←私の想像です)がにっこり笑って端座しております。今までのコリーヌさんと違ってて残念なんておっしゃるそこのあなた!今回の売りはそこなんです!穏やかな心を持ったコリーヌさんが更なる進化を遂げたスーパー・コリーヌ・ベイリー・レイだっ!

今回のテーマはズバリ、オーガニック・コリーヌさんVSメイン・ストリーム先鋭トラック。はい、アルバム写真そのままです。オーガニック・コリーヌさんと先鋭トラックのまぐあいに、いや失礼、融合がコリーヌさんの新しい魅力をグイッと引き出してくれてます。

まずご挨拶の1曲目(『ザ・スカイズ・ウィル・ブレイク』)はアヴィーチーのような生音プラスの四つ打ちEDM。静かに始まり、サビはアーウ、アーウ、オーウオー♫で一気に行くかと思いきや、ここでアルバム・タイトルをウィスパーしちゃうんですねえ。いいですねえ、この落とし方。結局最後の最後でスパークするんですが、ここもグッと行ってスッと引きます。コリーヌさんお得意のソフト・ランディング唱法、今回はジュラシックパーク・ザ・ライド並みの落差です。3曲目(『ビーン・トゥ・ザ・ムーン』)なんてほれ聴いてみなはれ。このオシャレ&クール・サウンドは何ですか。クァドロンのようなしゃれたサウンドに粘りつくボーカル。終わったらと思ったら、夕暮れのようなよトランペットとアルトサックスでアウトロを決めるという非の打ち所のないクールさ。今回のサウンド・チーム、ただもんじゃあねえなこりゃ。ちなみにこの曲のPVではシルバーの宇宙服みたいなのを着て歩いとります。

6曲目(『グリーン・アフロディジアック』)の始まりなんていかがです。いきなりローズですよローズ。ローズと言ってもいてまえ打線の主砲じゃござーませんよ。いきなりポロロ~ンとされた日にゃ、ローズ好きの私なんざ卒倒もんです。静かな展開の中でサビになると感情の高まりと歩調を合わせるシンセのフレーズもまたグッド。続く7曲目は不思議なタイトルの『ホース・プリント・ドレス』。コリーヌさんのセクシーかわいいボイスが全開です。ウーウーと来てアッハ~ンですよ、あ~た。サビのカレードスクープ♫のクのところで声が裏返るとこなんざたまりませんなあ。男性諸氏、ここはニヤニヤしないように要注意ですぞ!全体的にプリンスっぽい雰囲気もあって、コーラスもトラックも完璧。ここは中盤のハイライト。ですよね、殿下。

それでもまだ以前のオーガニック・コリーヌさんが恋しいあなた。ご安心めされい。まずは2曲目(『ヘイ、アイ・ウォント・ブレイク・ユア・ハート』)。バンド・サウンドでゆったり始まり、クライマックスで大きく盛り上がるお馴染みの展開。8曲目(『ドゥ・ユー・エヴァー・シンク・オブ・ミー?』)は少し趣向を変えてジャズっぽいフリーなバラード。5曲目(『ストップ・ホエア・ユー・アー』)のようなワイド・アングルで、郊外で、土埃舞って、UKな(なんのこっちゃ)ロック・バラードなんてのもあります。こういうのもできるんですねえ。9曲目(『キャラメル』)なんてどうです。アウトロが美しいですねえ~。夕陽にラクダのシルエットが目に浮かびます。キャラメルというよりキャメルやねえ~。

こうしたバンド・スタイルも挿みながらラストに向かい、11曲目(『ウォーク・オン』)はけだるいファンク。歌詞がカッコいいです。そしておとぎ話のような12曲目(『ナイト』)で本編終了。ここから続くボートラは本編で見せたハイブリッド感はなく、シンプルなアレンジで曲の良さが際立ちます。コリーヌさんの並はずれたメロディ・センスがよく分かるいい曲揃いなんで、いつもボートラを雑に扱ってる皆さん(←私のことですっ)、今回は飛ばさずちゃんと聴きましょう。最後にやっぱ基本はソングライティングでんな~と思いつつ、ハイブリッドあり、オーガニックあり、多彩なスタイルでトータルで80分。いや~、流石に長いっす。一気に聴くのはオリジナルの12曲目までで勘弁してちょ。ボートラはボートラでゆっくり楽しみましょう。

とにかくっ、今までと違~う!とか、宇宙服イヤだ~!とか、コットン100%じゃな~い!とか、馬の絵ドレスって何~!とか言わずに、せめて5回はじっくりと聴いておくんなまし。あなたの好きなコリーヌさんはちゃあんとそこにいますよ。

 

1. The Skies Will Break
2. Hey, I Won’t Break Your Heart
3. Been To The Moon
4. Tell Me
5. Stop Where You Are
6. Green Aphrodisiac
7. Horse Print Dress
8. Do You Ever Think Of Me?
9. Caramel
10. Taken By Dreams
11. Walk On
12. Night
13. In The Dark
14. Ice Cream Colours
15. High
16. Push On For The Dawn

Alphabetical/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Alphabetical』(2004)
(アルファベティカル/フェニックス)

フェニックスの2ndアルバム。デビュー・アルバムが様々なタイプの曲を揃えた幕の内弁当的だったのに対し、本作は随分と落ち着いたミニマルな作品。一人一人に直接配るオーダー弁当のような細やかさで、佇まいも一気に優雅。ファーストからこれを聴いた人はびっくりしただろうけど、ここにはその違和感を覆すだけの洗練さが用意されており、オシャレなフェニックスの中でも最もオシャレなアルバムとなっている。

基本的にドラムは打ち込みで、そこにベースやアコースティック及びエレクトリック・ギター、鍵盤類がかぶさってくるのだが、そのアレンジが絶妙。必要最低限の音で構築されているものの、一つ一つの音の意味付けが明確で、空白をもメロディの一部にてしまう程の丁寧なアレンジ。控えめな打ち込み音やシンセが程よいスパイスとなって聞き手の印象に幅を持たせているし、なにより非常に温もりのあるサウンドに仕上がっているのが特徴だ。

美しいメロディは彼らの武器だが、普通ならそれを更に強調したくなるもの。たとえば派手なストリングスを導入したり、アウトロを長引かせたり。それらやぼったいアレンジは一切なく、逆にこちらの気を透かすかのようにあっさりと幕を引く。10曲目のタイトル・ナンバーなどは、「あー、もっと聴きたい」と思わせる、まさに寸止めアレンジ。5thアルバム『バンクラプト!』ではダサくなる一歩手前の派手なサウンドを披露しており、このさじ加減こそがフェニックス最大の魅力なんだなと。際どいところを涼しい顔をして回避する。そんな確信犯的なところに彼等独自の美学を感じてしまう。

そしてもうひとつ彼らの秀でている点は言語感覚だろう。単語の選択のセンスがずば抜けているように思う。そこにトーマの甘い声や独特な発音(フランス人が英語を喋るとこんな風になるものなのかどうかは知らないが)が加わって、転がるよう発声されるリリックは聴いていて本当に心地よい。しかもシンプルで気負いがないところがつくづくスマートなバンドである。

初めてこのアルバムを聴いた時はエレクトリカルな要素を感じたけど、直近2作の『バンクラプト』、『ティ・アーモ』を通過した今聴いてみるとかえってアナログな温かみを感じる。この幅広さも彼らの魅力だろう。

 

1. Eveything Is Everything
2. Run Run Run
3. I’m An Actor
4. Love For Granted
5. Victim of the Crime
6. (You Can’t Blame It On) Anybody
7. Congratulations
8. If It’s Not With You
9. Holdin’ On Together
10. Diary of Alphabetical

Damn/Kendrick Lamar 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Damn』(2017) Kendrick Lamar
(ダム/ケンドリック・ラマー)

僕は音楽を聴く時に勿論音楽としてカッコいいかどうかというのが一番前に来るんだけど、言葉についての優先順位も割と高い。そんなこと言ったっておめえ、英語喋れねぇじゃねぇかって言われたらそりゃそうなんだけど、やっぱ詩がいいとその音楽は一段も二段も良くなってくる。とはいえ、まず最初にメロディがあってそっからリリックだったりサウンドだったりってとこに目が行くわけだから、最初のメロディのところで引っ掛かってこないと、手に取ることはあまりないのかもしれない。多分僕がヒップ・ホップ音楽を聴かないのはそんなところに理由があるのだと思う。

僕はたまたまケンドリック・ラマーの前作、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』をタワレコで試聴して、あまりのカッコよさにしびれて思わず購入。リリックを読んでまたそこでぶったまげたって経緯がある。だから今回の新作もほぼオートマティックに購入した。ただ聴く前から分かっていた。楽しい音楽ではないって。それでも彼の音楽は聴く必要があるっていう気持ちは消すことは出来なかった。

僕は音楽に何を求めているのか。それは楽しいということ。こう書くと馬鹿みたいだけど、いい気分になりたいだけだ。もしかしたら日々の上手くいかないこと、くだらないことへの埋め合わせを音楽に求めているだけかもしれないけど、でもやっぱりそうじゃない。いいものに触れたい。美術館へ行って絵画を見るように僕はいい音楽を聴いてその素晴らしさにうっとりしたり、刺激を受けたり、新しい何かを知ったり、大前提としてそういうポジティブな要素が僕の中にある古いものを上書きしていく、それを心のどこかで求めている、だから音楽を聴いているのだと思う。なんかわざわざ書くとめんどくさい理由になってしまうけど、単純に好きだから、いい気分になるから聴いているのだ。

決して愉快な音楽ではない。でも普段ラップを聴かない僕にまで惹きつける理由は何なのだろう。それはきっとケンドリックは本当のことしか歌っていないからだ。ファンタジーや夢や理想のような何かにくるまれた世界の事を遠くから優しく歌っているのではなく、彼が目にしたそこにある危うい現実をありのまま、直接ナイフで切るように切られるように歌っているからだ。勿論そこに描かれている世界は僕に共感できる代物ではない。僕は平和な日本でのん気に育ったただの中年だ。僕の生活にはドラッグのドの字も出てこないし、友達が銃で撃たれたりはしない。それでもケンドリックの声は聴く必要があるのだ。膨大な歌詞カードを追うのが大変だし、ネガティブなリリックがあるし、決して楽な音楽ではないにも関わらず、お前ちゃんと聴いとけよって声が僕の体のどっかから聞こえてくるのだ。

そして彼の歌もそんな僕を拒否らない。彼の歌は万人に開かれているのだ。オレの言ってることが分からなくてもいいよ。オレのラップとかオレの態度とかオレのライムとか何でもいいからを楽しんでくれよって。だから僕は楽しんでる。彼の早口でまくりたてるラップに、転がってく韻律に、膨大なリリックに。僕はここに歌われている世界のリアリティを僕のリアリティとして受け取ることは出来ないけど、彼の歌い手としての心意気をちゃんと分かっているつもりだ。だからこそ僕には彼の音楽が開かれていると感じるのだろうし、彼もまた僕のような部外者にも扉を開いてくれるのだろう。

僕にはケンドリックのコンサートで『Humble』を大合唱する連中のような感情は持ち合せていないけれど、そういう事実を理解するし、それは本当に素晴らしい光景だと想像できる。僕はそれでいいと思っている。僕にとってケンドリックの音楽は僕の中の古いものを押しやる新しいもの以外の何物でもないのだから。

 

1. Blood
2. DNA
3. Yah
4. Element
5. Feel
6. Loyalty (featuring Rihanna)
7. Pride
8. Humble
9. Lust
10. Love (featuring Zacari)
11. XXX (featuring U2)
12. Fear
13. God
14. Duckworth