Something To Tell You/Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Something To Tell You』(2017) Haim
(サムシング・テル・ユー/ハイム)

リリックが転がってくのが好きだ。アクセントとかライミングとかメロディが折り重なって、歌詞カードが目で追えないぐらいの勢いで転がっていく。ハイムの新しいアルバムでいうと、リード・トラックの『Want You Back』なんてまさにそんな感じ。サビの最後で「I’ll take the fall and the fault in us / I’ll give you all the love I never gave before I left you…」と転がっていくところなんか最高だ。

ハイム3姉妹の2枚目のアルバムがようやく出た。4年ぶりだそうだ。才能の赴くまま、割とあっけらかんと作ってしまいそうなイメージだけど、意外とそうでもなかったのね。で届けられた新作。素晴らしいのなんのって。僕は勝手にハイムの2枚目は彼女たちの趣味や嗜好に引っ張られた割と重たい感じになるのかなと思っていたが、何のことはない、1stを更にパワー・アップした軽やかなポップ・アルバム。よりがっしりとしたソングライティングに、完成度がぐぐぐいっと高まったサウンド・プロダクション。2枚目のジンクスなんてどこ吹く風だ。

冒頭に述べたように僕はハイムの言葉の転がし方がかなり好きだ。言葉とメロディは一体であるという感覚。この辺り、ハイムはかなり意識的で、ボーカルのダニエルの促音を強く弾く歌い方や、マイケル・ジャクソンばりの「ハッ」とか「アッ」というような合いの手がより音楽としての一体感が生んでいる。そうだな、3人がいつもどこかでリズムを取っているようなイメージもある。ハイムの最大の特徴はそうした言語感覚も含めた独特のリズム感かもしれない。いつも背後に幹のぶっといリズムを有しているという感覚。子供時代、家にあるドラム・セットで3姉妹が競い合っていたというエピソードそのままに、ライヴでもしょっちゅう肩を並べて太鼓を叩いているが、彼女たちの芯はやっぱここにあるのかもしれない。

それと忘れてならないのが今回のサウンド・プロダクション。1stと比べて格段にパワー・アップしている。1stの隙間を活かしたサウンドもあれはあれで良かったんだけど、今回は更にグイッと行きますよという気持ちの表れか、随分とがっしりと作り込まれていて、例えば3曲目の『Little of Your Love』なんて大陸的でアメリカンな大らかさがよく出てる。4曲目の『Ready For You』のプログラミングとかサビのゴスペル風なんかもイカすし、8曲目の『Found It In Silence』のストリングスを効かせたアレンジも凄くかっこいいし、総じて完成度は格段にアップ。プロデューサーのアリエル・レヒトシェイドと元ヴァンパイア・ウェークエンドのロスタム。いい仕事しとります。

今回のアルバムでは彼女たちの持ち味である米国ウェスト・コースト風のノリに80年代の色味が1stよりも濃く反映されている。きっと彼女たちが家で聴いていた音楽の影響をより素直に表したのだろう。先ほどのドラムの話もそうだが、彼女たちにとってホームはとても大事なもので、その辺りがこのアルバムから感じられる懐かしさにも繋がってくるのかもしれない。やっぱり姉妹というのは大きい。あうんの呼吸というか、気付いたらハーモニーになっているみたいなところもやっぱ凄いなと思う。

最後にもう一つ付け加えたいのは同時期デビューのTHE1975との類似性だ。キャラ的には対照的な両者だが、昨年出たTHE1975の2枚目とこのハイムの2枚目はなんだかだぶって聴こえてしまう。確か1stの時もそんな印象を受けたけど、そういうコメントは聞いたことが無いのでそう思ってんのは僕だけかもですが…。スタイルは違うけど、80’Sへの接近とか言葉の転がし方が似てると思うんだけどな。

ちなみに真っ先に公開された、映画監督のポール・トーマス・アンダーソンが録った#10『Right Now』のスタジオ・ライブ版が素晴らしい。彼女たちのライヴはカッコイイもんな。一度見てみたいぞ!

 

1. Want You Back
2. Nothing’s Wrong
3. Little of Your Love
4. Ready For You
5. Something To Tell You
6. You Never Knew
7. Kept Me Crying
8. Found It In Silence
9. Walking Away
10. Right Now
11. Night So Long

The Heart Speaks in Whispers/Corinne Bailey Lae 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Heart Speaks in Whispers』(2016) Corinne Bailey Lae
(ザ・ハーツ・スピークス・イン・ウィスパーズ/コリーヌ・ベイリー・レイ)

2009年の『The Sea』以来7年ぶりのオリジナル・アルバム。7年といやあ結構なもん。なんせ年中さんが中1。中1が成人式ですよ。とにかくコリーヌさんも相当試行錯誤があったのではないでしょうか。新しいアルバム、かなり新機軸です。

早速1曲目からクールなサウンドにちょっとびっくり。昔から知ってる姪っ子がいきなりモード・ファッションみたいな感じっつうか、久しぶりに実家に帰ったら表札がローマ字になっちゃってるっつうか。でもいいんです、いいんです、そのくらいは。私くらいになるとその辺は大人の対応です、はい。ところがですよ、いざ喋ったら中身は変わってないいい子なんすよ。今風にリフォームしちゃってても親はそのまんまなんすよ。

ということで話がだいぶ逸れましたが、新鋭のソングライター、アレンジャーを起用し、非常に凝った最先端のサウンドになってはいても、そこにあの魅力的な声の持ち主、低血圧コリーヌさん(←私の想像です)がにっこり笑って端座しております。今までのコリーヌさんと違ってて残念なんておっしゃるそこのあなた!今回の売りはそこなんです!穏やかな心を持ったコリーヌさんが更なる進化を遂げたスーパー・コリーヌ・ベイリー・レイだっ!

今回のテーマはズバリ、オーガニック・コリーヌさんVSメイン・ストリーム先鋭トラック。はい、アルバム写真そのままです。オーガニック・コリーヌさんと先鋭トラックのまぐあいに、いや失礼、融合がコリーヌさんの新しい魅力をグイッと引き出してくれてます。

まずご挨拶の1曲目(『ザ・スカイズ・ウィル・ブレイク』)はアヴィーチーのような生音プラスの四つ打ちEDM。静かに始まり、サビはアーウ、アーウ、オーウオー♫で一気に行くかと思いきや、ここでアルバム・タイトルをウィスパーしちゃうんですねえ。いいですねえ、この落とし方。結局最後の最後でスパークするんですが、ここもグッと行ってスッと引きます。コリーヌさんお得意のソフト・ランディング唱法、今回はジュラシックパーク・ザ・ライド並みの落差です。3曲目(『ビーン・トゥ・ザ・ムーン』)なんてほれ聴いてみなはれ。このオシャレ&クール・サウンドは何ですか。クァドロンのようなしゃれたサウンドに粘りつくボーカル。終わったらと思ったら、夕暮れのようなよトランペットとアルトサックスでアウトロを決めるという非の打ち所のないクールさ。今回のサウンド・チーム、ただもんじゃあねえなこりゃ。ちなみにこの曲のPVではシルバーの宇宙服みたいなのを着て歩いとります。

6曲目(『グリーン・アフロディジアック』)の始まりなんていかがです。いきなりローズですよローズ。ローズと言ってもいてまえ打線の主砲じゃござーませんよ。いきなりポロロ~ンとされた日にゃ、ローズ好きの私なんざ卒倒もんです。静かな展開の中でサビになると感情の高まりと歩調を合わせるシンセのフレーズもまたグッド。続く7曲目は不思議なタイトルの『ホース・プリント・ドレス』。コリーヌさんのセクシーかわいいボイスが全開です。ウーウーと来てアッハ~ンですよ、あ~た。サビのカレードスクープ♫のクのところで声が裏返るとこなんざたまりませんなあ。男性諸氏、ここはニヤニヤしないように要注意ですぞ!全体的にプリンスっぽい雰囲気もあって、コーラスもトラックも完璧。ここは中盤のハイライト。ですよね、殿下。

それでもまだ以前のオーガニック・コリーヌさんが恋しいあなた。ご安心めされい。まずは2曲目(『ヘイ、アイ・ウォント・ブレイク・ユア・ハート』)。バンド・サウンドでゆったり始まり、クライマックスで大きく盛り上がるお馴染みの展開。8曲目(『ドゥ・ユー・エヴァー・シンク・オブ・ミー?』)は少し趣向を変えてジャズっぽいフリーなバラード。5曲目(『ストップ・ホエア・ユー・アー』)のようなワイド・アングルで、郊外で、土埃舞って、UKな(なんのこっちゃ)ロック・バラードなんてのもあります。こういうのもできるんですねえ。9曲目(『キャラメル』)なんてどうです。アウトロが美しいですねえ~。夕陽にラクダのシルエットが目に浮かびます。キャラメルというよりキャメルやねえ~。

こうしたバンド・スタイルも挿みながらラストに向かい、11曲目(『ウォーク・オン』)はけだるいファンク。歌詞がカッコいいです。そしておとぎ話のような12曲目(『ナイト』)で本編終了。ここから続くボートラは本編で見せたハイブリッド感はなく、シンプルなアレンジで曲の良さが際立ちます。コリーヌさんの並はずれたメロディ・センスがよく分かるいい曲揃いなんで、いつもボートラを雑に扱ってる皆さん(←私のことですっ)、今回は飛ばさずちゃんと聴きましょう。最後にやっぱ基本はソングライティングでんな~と思いつつ、ハイブリッドあり、オーガニックあり、多彩なスタイルでトータルで80分。いや~、流石に長いっす。一気に聴くのはオリジナルの12曲目までで勘弁してちょ。ボートラはボートラでゆっくり楽しみましょう。

とにかくっ、今までと違~う!とか、宇宙服イヤだ~!とか、コットン100%じゃな~い!とか、馬の絵ドレスって何~!とか言わずに、せめて5回はじっくりと聴いておくんなまし。あなたの好きなコリーヌさんはちゃあんとそこにいますよ。

 

1. The Skies Will Break
2. Hey, I Won’t Break Your Heart
3. Been To The Moon
4. Tell Me
5. Stop Where You Are
6. Green Aphrodisiac
7. Horse Print Dress
8. Do You Ever Think Of Me?
9. Caramel
10. Taken By Dreams
11. Walk On
12. Night
13. In The Dark
14. Ice Cream Colours
15. High
16. Push On For The Dawn

Alphabetical/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Alphabetical』(2004)
(アルファベティカル/フェニックス)

フェニックスの2ndアルバム。デビュー・アルバムが様々なタイプの曲を揃えた幕の内弁当的だったのに対し、本作は随分と落ち着いたミニマルな作品。一人一人に直接配るオーダー弁当のような細やかさで、佇まいも一気に優雅。ファーストからこれを聴いた人はびっくりしただろうけど、ここにはその違和感を覆すだけの洗練さが用意されており、オシャレなフェニックスの中でも最もオシャレなアルバムとなっている。

基本的にドラムは打ち込みで、そこにベースやアコースティック及びエレクトリック・ギター、鍵盤類がかぶさってくるのだが、そのアレンジが絶妙。必要最低限の音で構築されているものの、一つ一つの音の意味付けが明確で、空白をもメロディの一部にてしまう程の丁寧なアレンジ。控えめな打ち込み音やシンセが程よいスパイスとなって聞き手の印象に幅を持たせているし、なにより非常に温もりのあるサウンドに仕上がっているのが特徴だ。

美しいメロディは彼らの武器だが、普通ならそれを更に強調したくなるもの。たとえば派手なストリングスを導入したり、アウトロを長引かせたり。それらやぼったいアレンジは一切なく、逆にこちらの気を透かすかのようにあっさりと幕を引く。10曲目のタイトル・ナンバーなどは、「あー、もっと聴きたい」と思わせる、まさに寸止めアレンジ。5thアルバム『バンクラプト!』ではダサくなる一歩手前の派手なサウンドを披露しており、このさじ加減こそがフェニックス最大の魅力なんだなと。際どいところを涼しい顔をして回避する。そんな確信犯的なところに彼等独自の美学を感じてしまう。

そしてもうひとつ彼らの秀でている点は言語感覚だろう。単語の選択のセンスがずば抜けているように思う。そこにトーマの甘い声や独特な発音(フランス人が英語を喋るとこんな風になるものなのかどうかは知らないが)が加わって、転がるよう発声されるリリックは聴いていて本当に心地よい。しかもシンプルで気負いがないところがつくづくスマートなバンドである。

初めてこのアルバムを聴いた時はエレクトリカルな要素を感じたけど、直近2作の『バンクラプト』、『ティ・アーモ』を通過した今聴いてみるとかえってアナログな温かみを感じる。この幅広さも彼らの魅力だろう。

 

1. Eveything Is Everything
2. Run Run Run
3. I’m An Actor
4. Love For Granted
5. Victim of the Crime
6. (You Can’t Blame It On) Anybody
7. Congratulations
8. If It’s Not With You
9. Holdin’ On Together
10. Diary of Alphabetical

Damn/Kendrick Lamar 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Damn』(2017) Kendrick Lamar
(ダム/ケンドリック・ラマー)

僕は音楽を聴く時に勿論音楽としてカッコいいかどうかというのが一番前に来るんだけど、言葉についての優先順位も割と高い。そんなこと言ったっておめえ、英語喋れねぇじゃねぇかって言われたらそりゃそうなんだけど、やっぱ詩がいいとその音楽は一段も二段も良くなってくる。とはいえ、まず最初にメロディがあってそっからリリックだったりサウンドだったりってとこに目が行くわけだから、最初のメロディのところで引っ掛かってこないと、手に取ることはあまりないのかもしれない。多分僕がヒップ・ホップ音楽を聴かないのはそんなところに理由があるのだと思う。

僕はたまたまケンドリック・ラマーの前作、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』をタワレコで試聴して、あまりのカッコよさにしびれて思わず購入。リリックを読んでまたそこでぶったまげたって経緯がある。だから今回の新作もほぼオートマティックに購入した。ただ聴く前から分かっていた。楽しい音楽ではないって。それでも彼の音楽は聴く必要があるっていう気持ちは消すことは出来なかった。

僕は音楽に何を求めているのか。それは楽しいということ。こう書くと馬鹿みたいだけど、いい気分になりたいだけだ。もしかしたら日々の上手くいかないこと、くだらないことへの埋め合わせを音楽に求めているだけかもしれないけど、でもやっぱりそうじゃない。いいものに触れたい。美術館へ行って絵画を見るように僕はいい音楽を聴いてその素晴らしさにうっとりしたり、刺激を受けたり、新しい何かを知ったり、大前提としてそういうポジティブな要素が僕の中にある古いものを上書きしていく、それを心のどこかで求めている、だから音楽を聴いているのだと思う。なんかわざわざ書くとめんどくさい理由になってしまうけど、単純に好きだから、いい気分になるから聴いているのだ。

決して愉快な音楽ではない。でも普段ラップを聴かない僕にまで惹きつける理由は何なのだろう。それはきっとケンドリックは本当のことしか歌っていないからだ。ファンタジーや夢や理想のような何かにくるまれた世界の事を遠くから優しく歌っているのではなく、彼が目にしたそこにある危うい現実をありのまま、直接ナイフで切るように切られるように歌っているからだ。勿論そこに描かれている世界は僕に共感できる代物ではない。僕は平和な日本でのん気に育ったただの中年だ。僕の生活にはドラッグのドの字も出てこないし、友達が銃で撃たれたりはしない。それでもケンドリックの声は聴く必要があるのだ。膨大な歌詞カードを追うのが大変だし、ネガティブなリリックがあるし、決して楽な音楽ではないにも関わらず、お前ちゃんと聴いとけよって声が僕の体のどっかから聞こえてくるのだ。

そして彼の歌もそんな僕を拒否らない。彼の歌は万人に開かれているのだ。オレの言ってることが分からなくてもいいよ。オレのラップとかオレの態度とかオレのライムとか何でもいいからを楽しんでくれよって。だから僕は楽しんでる。彼の早口でまくりたてるラップに、転がってく韻律に、膨大なリリックに。僕はここに歌われている世界のリアリティを僕のリアリティとして受け取ることは出来ないけど、彼の歌い手としての心意気をちゃんと分かっているつもりだ。だからこそ僕には彼の音楽が開かれていると感じるのだろうし、彼もまた僕のような部外者にも扉を開いてくれるのだろう。

僕にはケンドリックのコンサートで『Humble』を大合唱する連中のような感情は持ち合せていないけれど、そういう事実を理解するし、それは本当に素晴らしい光景だと想像できる。僕はそれでいいと思っている。僕にとってケンドリックの音楽は僕の中の古いものを押しやる新しいもの以外の何物でもないのだから。

 

1. Blood
2. DNA
3. Yah
4. Element
5. Feel
6. Loyalty (featuring Rihanna)
7. Pride
8. Humble
9. Lust
10. Love (featuring Zacari)
11. XXX (featuring U2)
12. Fear
13. God
14. Duckworth

Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』(2006) Arctic Monkeys
(ホワットエバー・ピープル・セイ・アイ・アム ザット・ホワット・アイム・ノット/アークティック・モンキーズ)

僕の印象ではもっとイケイケな感じかと思っていた。勿論、代表的な#1や#2なんてのは思いっ切りアガルんだけど、クークスやザ・ヴューの1stを聴いた後だとアークティックの1stはより落ち着いて聴こえる。前述の2組のバンドはどっちかっていうとガレージ色が強く、ガチャガチャしててギアが入ったら止まらなくなる感じ。それでいてUKロックの香りがフッとしてくる。一方のアークティックはヘビーでよりダーク、夜のイメージだ。同じシンプルなバンド構成だけど、こっちは得体の知れなさというか、無国籍な感じがする。アークティックはこの後、ずっとヘビーなサウンドを指向してゆくんだけど、こうして聴いてみると黒っぽい要素もあって最初からその萌芽があったんだなあ。

意味なんてどうでもいいよ、というクークスやザ・ヴューと比べてもちょっと奥歯にものが挟まった感じというかシニカルな感じはする。そういう意味でもアレックス・ターナーの立ち位置というのはやっぱ時代を映しているというか、00年代のバンドだなあと。今や世代を代表する巨大なバンドになった訳だけど、その辺が喧しい近所の腕の立つ職人といった風のクークスやザ・ヴューとは決定的に違うとこなのかもしれない。それになんかこう書いててもアークティックの方は真面目な文章になってしまうから不思議。

あとアークティックを記名づけているのがリリック。直近のアルバムも凄かったが、この1stは溢れんばかりの言葉数。アレックスはきっと詩人としてもやっていけそうだ。

キャリアを重ねたバンドが原点回帰ってのはよくあるが、結局初期衝動は1stだけのもの。ザ・ヴューにしてもザ・クークスにしてもアークティックにしても今もいい音楽を作っているが、スピード感で言えばやはり1枚目。アクセル踏んだら止まれないスピード感が欲しければ、この00年代UKギター・ロック御三家だ!

 

1. The View from the Afternoon
2. I Bet You Look Good on the Dancefloor
3. Fake Tales of San Francisco
4. Dancing Shoes
5. You Probably Couldn’t See for the Lights But You Were Staring Straight at Me
6. Still Take You Home
7. Riot Van
8. Red Light Indicates Doors are Secured
9. Mardy Bum
10. Perhaps Vampires is a Bit Strong But…
11. When the Sun Goes Down
12. From the Ritz to the Rubble
13. A Certain Romance

何と言っても冒頭2曲の破壊力。お尻に火が付いてるみたいだ。

Inside In/Inside Out The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Inside In/Inside Out』(2006) The Kooks
(インサイド・イン インサイド・アウト/ザ・クークス)

久しぶりに聴いたザ・ヴューのデビュー作がとてもよかったので、今度はクークスのデビュー・アルバムを聴き直してみた。やっぱこっちも曲がいい。

ザ・ヴューが2007年デビューで、クークスそしてアークティック・モンキーズが2006年のデビュー。彼らの1stを改めて聴いてみるとこの00年代UKギター・ロック御三家(←僕がそう言っているだけです)は、最初から確かなソングライティングという基盤があったんだなというのが確認できる。やっぱりそれは複雑で技巧を効かせたメロディに頼るのではなく、2~3分でダッ始まってダッと終わる、しかもただ勢いだけではなくちゃんと緩急が効いてて起承転結がしっかりとある。単純なギター・ロックというだけじゃなく色んな要素が垣間見えるというのはやっぱり背景に音楽的な基礎体力が備わっているということなんだろう。1曲1曲は短いけどホントよく出来てるんだよなぁ。

でクークスの1st。まあ単純にかっこいい。ザ・ヴューと一緒で意味とか理屈に無頓着なところがまたいいんだよな。勿論これだけの曲を構成できてしまうんだから知性もふんだんにあるんだろうけど最優先されるのは感性。特にしゃくりあげるように歌うルーク・プリチャードのボーカルは歌うっていうよりカンに任せて転がってゆく感じ。ノッてくるとどうにも止まらない感がいい。

バンドも前のめりで突っ込んでくるロック・チューンはグイグイ来るし、アコースティックな落ち着いた曲は心地いいフレーズを奏でてる。このバンドのいいとこは確かな腕があるのにあくまでもボーカルの引き立て役に徹しているところ。これだけアッパーな曲を揃えているのに知性を感じさせるのはそういう部分があるからかもしれない。

 

1. Seaside
2. See The World
3. Sofa Song
4. Eddie’s Gun
5. Ooh La
6. You Don’t Love Me
7. She Moves In Her Own Way
8. Matchbox
9. Naive
10. I Want You
11. If Only
12. Jackie Big Tits

同年デビューのアークティックより売れたというこのアルバム。
それも納得の1枚。とにかくカッコイイ!

Hats off to the Bsusker/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Hats off to the Buskers』(2007) The View
(ハッツ・オフ・トゥ・ザ・バスカーズ/ザ・ヴュー)

久しぶりにザ・ヴューのデビュー作を聴いたら、すっげー良かった。彼らの持ち味であるどう転んでも間違いないソングライティング力がグイグイ飛び込んでくる。今もいい曲を書いてるけど、純粋なソングライティングの力という意味ではこのデビュー作だろう。走り抜けるようなロック・チューンもいいし、テンポを落としたのもちゃんと聴かせる。落ち着きのないガチャガチャした連中かと思いきや、ちゃんと整理整頓されてて、イケイケなくせに自分勝手でないところがこのバンドの最大の魅力だろう。

聴いてて思うのは、ザ・フーとかクラッシュといったUKロックの伝統が自然と体の中にあるということ。そこを踏まえての今の若い世代が奏でる元気のいいギター・ロックという感じがとてもいい雰囲気だ。2015年のアルバムでは新たなニュアンスに取り組んでたけど、やっぱザ・ヴューといえばこっち。

勿論そんなことはないんだろうけど、遊び半分で適当に作ったらこんなん出来ましたみたいなノリがやっぱいい。そのぐらいのノリでもこれぐらいは作れちゃう力がやっぱり彼らにはあるんだろうし、今もそっちの方がいいんじゃないか。長くやってるとロックのくせに頭でっかちになりがちだけど、やっぱこれでしょ。でまたこういうのって誰にも出来るってもんじゃないし、それが今だに出来ちゃうのがザ・ヴューってことだろう。

音楽性とか意味性とか別にどっちだっていいよ、っていう姿勢は今もそうなんだろうけど、この外連味の無さというのは1stならでは。普通に歌っててもついついシャウトしちゃうカイル・ファルコナーのボーカルが最高だ。駆け出しロック・バンドの無敵感、存分に出とります。「ちょっと兄ちゃん、景気いいのやってよ」、「ほいきたっ!」って感じ。

 

1. Comin’ Down
2. Superstar Tradesman
3. Same Jeans
4. Don’t Tell Me
5. Skag Trendy
6. The Don
7. Face For The Radio
8. Wasted Little DJ’s
9. Gran’s For Tea
10. Dance Into The Night
11. Claudia
12. Streetlights
13. Wasteland
14. Typical Time

しんみりとした#7からアクセル全開で#8へ繋がるところが最高!

22,A Million/Bon Iver 感想レビュー

洋楽レビュー:

『22,A Million』(2016) Bon Iver
(22、ア・ミリオン/ボン・イヴェール)

ボン・イヴェールとしては久々の新作。前作がグラミー獲っちゃったもんだから、本人もびっくりして構えてしまったとこはあるかもしれないけど、こうやって新作を聴いてるとちゃんとボン・イヴェールとしての切り口を更新しちゃってんだから、やっぱ大した才能だ。

ボン・イヴェールことジャスティン・バーノンはもともと色んなユニットを持ってて、アウトプットに応じてとっかえひっかえしてるみたい。それぞれの特徴を僕はよく知らないが、ボン・イヴェールとして出す場合は割と個人的な側面が強い時ではないだろうか。そういう意味じゃ前作までは自然ばっかの片田舎で一人キャンバスに向かうっていうイメージだったのが、今回は仲間を沢山呼んで騒ぎ散らかした後の余韻が欲しかったんですみたいな感じ。カッコよく言やあ、祝祭の感覚、祭りの後みたいな。

ただ今回も自然豊かな情景が背後にあるかっていうと、そうでもなく随分と息苦しくなってきているのも確か。ボーカルにエフェクトがかけられたり、ノイズがバシバシかかってたりとストレートな表現とはほど遠い。なんでそんなにフィルター欠けるのかは本人にしか知る由もないが、ただやっぱりそこは作者の現実認識というか、今の世、実際に何かを発してもそうなってゆかざるを得ない現実世界があるからかもしれず、逆に言えば我々はもうそうすることでしか自由に表現することが出来ない体になっているということなのかもしれない。リアルタイムに生の声を届けることが出来る時代になったけど、逆にリアリティは減じているのではないかという。それを力づくで伝えようとした結果がこれ。鼓膜に直接傷を付けていく感じが面白い。しかし混沌としたサウンドになってはいても本人はさほど不自由に感じていないだろうし、むしろ今の気分としてはこれが自然な形なのかもしれない。この自由なのか不自由なのか分からない感じはまるでSF。

ボンイヴェールの音楽は絵画的な要素があって、音楽を聴くという感覚も勿論あるけど、観賞しているという意識もかなりの部分ある。今回も絵画は絵画なんだけど、より筆のタッチは激しく、色使いも鮮やかになり、勿論細部まで手は行き届いているが、全体として面で押す感じが強い。細かいニュアンスを見て欲しいというより、とにかく聴いてくれ、って感じ。そういう意味では前作が内にこもる狂気をはらんでいたのに対し、今回は目線がずっと外に向かっている気がする。音楽的にもエレクトリカルな要素が強いし、そこにホーンが絡んだりするので(これがまたいいんだな)、結構目線があちこち行って聴いてて結構楽しい。こういう感じは前作には無かったな。#4みたいなシリアスなやつの後にポッとフォーキーな#5が来るみたいな表情の豊かさが全編通してあって、随分聴きやすくなったのではないか。

まあ聴きやすいといってもこういう音楽だから人によるんだろうけど、ただ凡そポップ・ミュージックの決まり事なんか始めから頭にないような、作者が描いた風景がそのまま出てきたような音楽を聴くことは僕にとってもいい体験。馴染みのあるフォーマットのメロディがないのは、逆に言えばジャスティン・バーノンに明確なメロディがあるからだろう。

どっちにしてもこれまた凄い作品だ。色んな顔を持っているので、ボン・イヴェールとしての作品がまたあるのかは分からないけど、次も期待しないで待っておこう。慣れるまでは大変だが、そうやってまで聴く価値のある作品。

 

1. 22 Over Soon
2. 10 Death Breast
3. 715 Creeks
4. 33 “God”
5. 29 #Strafford Apts
6. 666 Cross
7. 21 Moon Water
8. 8 Circle
9. 45
10. 1000000 Million

Ti Amo/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ti Amo』(2017)Phoenix
(ティ・アモ/フェニックス)

6枚目、2013年の『Bankrupt!』から4年ぶりのアルバムが届いた。そう、フェニックスのアルバムは届いたという言い方がしっくりくる。メイン・ストリートから少し離れたところで、自分たちのペースで音楽を奏でる。いい曲が幾つかできたから皆に紹介するよ。いつもそんな印象だ。でもしっかりとした芯があって、哲学と言うのかな、そういうものが揺るぎない。今回は前作とは一転、穏やかな音楽。しかし彼らの意志がこれほどはっきりと示されたアルバムは過去になかったのではないか。

タイトルはイタリア語で「愛している」。なんでも今回のアルバムは‘イタリアの夏のディスコ’というイメージで作られたそうだ。僕はイタリアに行ったことはないけど、頭に中に浮かんだのは、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『ライフ・イズ・ビューティフル』とかのあの景色。夏の南イタリアの風景だ。そういえば最近のインタビューで面白いことを言っていた。「例えばマカロニ・ウェスタン。あれはイタリア人の解釈で撮られたウエスタン映画。そこに面白さがある。今回のアルバムで言えば僕らのヴィジョンを通したイタリア。そこには僕らを通過した歪みがある。」。これは面白い指摘だと思う。でも表現というものはすべからくそういうものかもしれないな。

彼らはベルサイユ宮殿の傍で育った根っからのパリジャン。けれどいつも英語で歌う。しかし今回は珍しくフランス語の歌詞がふんだんに出てくるし、タイトルどおりイタリア語の歌詞だってある。ということで、彼らの音楽は元々ヨーロッパ的だけど、今回は特にヨーロッパ的だ。これは意図的にそうしたというより、自然とそうなったという方が的を得ているのではないか。彼らの皮膚感覚がそうさせたのではないかなと思う。要するに今ヨーロッパは大変な時期を迎えていて、その影は彼らの日常にも落ちているということ。しかし彼らは殊更そのことについて歌ったりはしない。むしろここで歌うのは半径数キロ、生活圏の物語だ。自由を愛し、お喋りを愛し、そして愛を語るのやめない人々のちょっとした物語。そういう身近な事を歌っている。彼らが今、一番大事にしているのはそういうことなんだと思う。

そういう意味ではサウンドも穏やかだ。前作で目に付いた派手なサウンドは随分と控えめ。初期の頃の、それこそ2枚目の『Alphabetical』のような隙間を活かした音作りがなされている。派手なシンセの音が遠ざかった分、ちょっとしたギター・フレーズがよく聴こえて心地よい。ひと言で言うととても優雅。言葉もロマンティックだけど、サウンドもロマンティック。穏やかだけど物凄くエモーショナルでとてもいい感じだ。

エモーショナルと言えば、最後の曲なんてたまらない。いつまでもこういう素直な表現が出来るのは素晴らしいと思う。僕たちにもイノセンスを信じ続ける強さが必要だ。

1. “J-Boy” J-ボーイ
2. “Ti Amo” ティ・アーモ
3. “Tuttifrutti” トゥッティフルッティ
4. “Fior di Latte” フィオール・ディ・ラッテ
5. “Lovelife” ラヴライフ
6. “Goodbye Soleil” グッバイ・ソレイユ
7. “Fleur de Lys” フルール・ド・リス
8. “Role Model” ロール・モデル
9. “Via Veneto” ヴィア・ヴェネト
10. “Telefono” テレーフォノ

映像が喚起されていい感じ。
彼らの優しさと強さが入り混じったいいアルバムだ。
僕のお気に入りは#4。美しくて幸せな気分になる。

Be Here Now/Oasis 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Be Here Now 』(1997)Oasis
(ビィ・ヒア・ナウ/オアシス)

オアシスがデビューしたのは1994年で、全世界で2,300枚以上売れたと言われる『モーニング・グローリー』は1995年。で、この『ビィ・ヒア・ナウ』が1997年つうことで僕はどんぴしゃの世代なんだけど、全然聴いてなかったんだよなあ。僕は当時、1960年代とか70年代とかの古い音楽ばっか聴いてて、リアルタイムで流れてるやつには全然興味なくって、だから当時のブリット・ポップ・ブームは全くの蚊帳の外。今思えば随分勿体ないことをしたなんて思うんだけど、仮に当時の僕がこの「僕らの音楽」全開のオアシスを聴いてたら一体どうだったんだろうかとも思う。どっちにしても素通りしてたのかもしんないけど、でも今こうやって聴いてるとオアシスは例外、こりゃ夢中にならざるをえんでしょ、ってな特別なパワーを感じてしまう。

この『ビィ・ヒア・ナウ』が出た当時はオアシス絶頂期の頃で、そりゃ勿論リリース時は熱狂的に受入られたんだけど、時間が経つにつれそれまでのシンプルなロックンロールからかけ離れた重厚なサウンドにあちこちで賛否両論があったみたい。当のノエル自身も後からあんまりのような発言をしちゃったりということで、このアルバムは幾分残念な作品として知られている。

とは言っても僕からすりゃ全然カッコよくて全然残念なアルバムではなくて、だいぶ後の最後のアルバムから比べれば、そりゃあもう本気度が全然違うし、曲もいいし、リアムもガンガン歌ってるし、流石にちょっとそない繰り返さんでもええやろとか、そないアウトロ引っ張らんでもええやろとか、要するに世間の評判通りの「どんなけ長いねんっ!」てな突っ込みは入れ放題なんだけど、この力入りまくりの巨大なエネルギーに比べたらそんなことは些細なことで、普通に考えりゃこりゃめっちゃかっこええアルバムなのだ。

なんでも1作目から3作目までの曲はデビュー前にほぼ書き上げていたらしく、要するにノエルがそっからこれは1st用、これは2nd用てな具合に配分してたということで、そう考えりゃこのアルバムのやたら大げさでギター被せまくりのサウンドは、ノエルにしてみりゃ想定内ということかもしれない。ただ勢い余ってやり過ぎちゃった感はあったかもしれないが、1stからの異様な上昇カーブを考えたら、こうならざるを得んでしょってことで、この調子に乗り具合もオアシスらしくていいんじゃないだろか。

となると徐々に下降線を辿ってくこの後のアルバムもそれはそれで興味深いんだけど、今はただリアムのやったらんかいボーカルに酔いしれておこう。脂乗りまくりのリアムの声はやたらかっこいいぞ。2016年に出たリマスターのデラックス盤はノエルによるデモ音源(全曲!)が売りのようで、これはこれで完成してるやん、ていう程の出来らしいが、俺はそんなものいらない。リアムの声がなけりゃただのいい曲。

1. D’You Know What I Mean?
2. My Big Mouth
3. Magic Pie
4. Stand By Me
5. I Hope, I Think, I Know
6. The Girl In The Dirty Shirt
7. Fade In-Out
8. Don’t Go Away
9. Be Here Now
10. All Around The World
11. It’s Gettin’ Better (Man!!)
12. All Around The World (Reprise)

#1に#4に#5に#8に#10に#11に、、、
なんだかんだ言って名曲目白押しっ!