Exorcism of Youth / The View 感想レビュー

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『Exorcism of Youth』(2023年)The View
(エクソシスム・オブ・ユース/ザ・ビュー)

8年ぶりだそうです。前作『Rope Walk』(2015年)も悪くなかったんですけど、迷いというかもやっとした感じはありましたから、そこから長い沈黙があったのも頷けるかなと。もともと音楽的な野心というより、勢いでやってきたという印象なので、その初期衝動というか、もちろん才能はあるので手癖でよい曲は書けるんだろうけど、一番大事な気を込めることが難しくなっていたのかなと想像します。

というわけで8年ぶりの新作です。流石に初期の『Wasted Little DJ』や『5Rebeccas』みたいな爆発力はないけど、各々の曲の出来というか、全体としてのレベルの高さやまとまりは彼らのキャリアでも屈指だと思います。

プロデューサーは3作目にあたる『Bread And Circuses』(2011年)で組んだユースを再び迎えたそうですが、それが良い方向に出ていて、どっちかというととっちらかってしまう彼らの特性、それが魅力でもあるわけですけど度が過ぎないように交通整理するというか、特に3作目はとても洗練されていて受けも良かったと思うので、復帰作がそっち寄りになったのは良かったと思います。

それにしてもカイル・ファルコナーのソングライティングは変わりませんね。12曲ありますけど、全部特色があって工夫があって単調なところが少しもない。それでいて英国ロックの伝統を感じさせる雰囲気もあるし、やっぱこの人はアークティックのアレックスとかクークスのルークと並ぶ、この世代を代表するソングライターだと思います。

あとカイルと言えば終始シャウト気味に歌うボーカルですよね。久しぶりの新作でも変わらぬシャウターぶりでめっちゃカッコええです。アルバム屈指のポップ・チューン、#10『Woman of the Year』の声を張り上げるミドルエイトも最高です。そうですね、ザ・ビューと言えばミドルエイトですけど、復帰作でもそこの魅力は変わりません。

本作の気に入らないところは曲順ぐらいかな。#1『Exorcism of Youth』のいい曲だけどオープニングじゃない感とか、彼らのキャリアにおいても随一のスローソング#7『Black Mirror』の置き場所はもっとええとこあるやろとか、#6『Allergic To Mornings』の後は#9『Dixie』みたいなポップチューンがええやろとか、もうちょっとええ感じにでけたやろ感ありありです(笑)。

バンドの休止中にカイルのソロ作はありましたけど、あれはやっぱ元気なかったですから、やっぱ一人じゃ楽しくないのだと思います。演奏力とか表現力云々じゃなく、カイル・ファルコナーはやっぱこのバンドが良いのかもしれませんね。

In the End It Always Does / The Jananese House 感想レビュー

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『In the End It Always Does』(2023年)The Jananese House
(イン・ジ・エンド・イット・オールウェイズ・ダズ/ザ・ジャパニーズ・ハウス)

 

英国の女性シンガーソングライター、アンバー・ベインによるプロジェクト。デビュー作から4年ぶりの2ndアルバムです。僕は2019年にリリースされたシングル『Something HasTo Change』で彼女を知った口です。この曲はほんと大好きで何度も何度も聴いたので、今回のアルバムは凄く期待していました。ちなみに『Something HasTo Change』が納められた4曲入りのEP盤『Chewing Cotton Wool』もジャスティン・ヴァーノン参加曲があったりしてなかなかよいです。

でこのアルバム、オープニング曲の『Spot Dog』からイイ感じです。と言ってもこの曲は大半がピアノのインストですけど、この短い曲にジャパニーズ・ハウスらしさがしっかりと出ていると思います。風合いとしてはアコースティックでアナログなサウンドにエレクトリカルな部分が混ざってくるんですけど、最大の特徴は穏やかな口調ながら心の奥に熱を秘めている部分が見え隠れする点です。淡々と演奏されてはいるんだけど焦点が明確に定まっている、そんなタイプの曲なんだと思います。余談ですが、リリックの「I think I know you best」っていう部分が「行~かな~いで~」って聴こえます。空耳的なもんだと思いますけど、なんかイイ感じです。

製作には同じレーベルのThe 1975 からダニエルとマット・ヒーリーが参加しています。なのでそれっぽい要素もあったりはしますが、他にも多くの協力者が名前を連ねていますので、特にどうということではないです。むしろ彼女の紡ぐメロディと声とサウンドは他にはない独特の雰囲気があるので、誰がどう関わろうとザ・ジャパニーズ・ハウスという根幹は変わらないのだと思います。

あと彼女の場合はリリックも重要ですね。自身も同性愛者でもあるというところでの恋愛体験を素直に表現しています。英国は日本とは違い社会の理解も進んでいるとは思いますが、まだまだ偏見はあると思います。けれどもこうして表現していく姿勢というのは、同じくそうである人にもそうでない人にもきっと良い影響を与えるもの。アートの役割とも言えます。そこに正面を向いて歩いていくアンバー・ベイン、とても強い意志を感じるソングライターです。

Council Skies / Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

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『Council Skies』(2023年)Noel Gallagher’s High Flying Birds
(カウンシル・スカイズ/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

ノエルのソロもこれで4枚目。と言っても前作が2017年だから随分と久しぶり。アルバムとしては間が空いたものの、ワーカーホリックのノエル兄さんのことですから、もちろん何もしていなかったわけではなく単発でポンポンと新曲は発表しておりまして、なのでこちらとしてもそれほど間隔が空いた感はないです。

前作は思い切ったサウンドで僕は結構好きだったんですけど、今回はサウンド的なチャレンジは一切なし。曲を聴かせるためのアルバム作りに徹しています。ということでノエル兄さんの最大の魅力であるソングライティングに思いっきり焦点を当てた作品になっています。全部で10曲と少ないですけど、流石にいい曲ばかり。書き溜めてた分なのか近年に書いたものなのかは分からないですけど、これまでにも100曲以上を書いて、もう50才を幾つか越えているのに、未だこんな引き出し持ってるんだからやっぱこの人はソングライティングの化け物ですね(笑)。

ただこうなるとですよ、やっぱあの人の声でこのグッドメロディを聴きたくなるというのが人情でしょう(笑)。結構ファルセットもあって難しい曲も多そうですけど、オアシス晩年のではなく、今の絶好調リアムさんなら歌えんじゃないのかなと。ノエル兄さんの歌も味があっていいんですけどね、やっぱこの人のボーカルは突き抜けた魅力は希薄なんで(笑)、そこを前作みたいにサウンドや曲編成なんかで面白い事やってくれると、これがノエル兄さんのやりたいことかぁと楽しく聴けるんですけど、こうも歌に振り切っちゃうとリアムさんの声が頭をもたげてしまいます。。。

前作みたいな変わったことやってると、旧来のファンからは嫌がられるし、かと言って普通にいい歌を書くとリアムの声で聴きたいと言われるし、ノエル兄さんもなかなかハンドリングが難しいとこですね。ただ、アルバム自体はすごくいいですよ。曲はオアシス後期からソロ作含めてもかなりトップクラスの出来栄えだと思います。だからこそ頭の中で簡単にリアムさんの声に変換できちゃうっていう微妙な感じはありますが。。。#6『Easy Now』なんてまんまやん(笑)。

My Soft Machine / Arlo Parks 感想レビュー

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『My Soft Machine』(2023年)Arlo Parks
(マイ・ソフト・マシーン/アーロ・パークス)

2021年のデビュー・アルバムでいきなりブレイクした英国のシンガーの2nd。僕も割と好きですが、正直どこがどういいっていうのはなかなか難しい人ですね。一言で言うと雰囲気がいいということになるのかもしれませんね。あいまいな言い方ですが。

それとこれは恐らくですが、歌詞がやっぱり共感を集めるそれなのだと思います。僕はそこまで英語を理解できませんが、彼女はセクシャルマイノリティでもあるし、そこのところの言及も勿論あるのですが、ただそういった部分が強めに出てくるということではなく、ごく普通の20代前半の女性の等身大の悩みと直結するような表現に落とし込んでいるというところがね、元々詩を読むのも書くのも好きだという傾向もあるせいか、自身のことを書いていても俯瞰でみんなの物語として書けるっていう、ここは自覚的にそうなのかどうかは知りませんが、そういう才能はあるのだと思います。

あとやっぱり雰囲気がいいと言いましたが、聴いててすごく心地いいですね。彼女の声、なんて表現したらいいのか分かりませんが、単に愛らしいということではなく、やっぱりここも自分自身を前面にということではなく、何かフワフワとした実存の無さというか、つまり優しさというか、私の歌を聴いてよではなく、この歌を必要な人に向かって歌うという感じはあります。

今回は時流に沿ってかロックな表現も多いです。特徴的なのは#3『Devotion』ですね。ベースが引っ張っていって間奏でギターをギュイーンと鳴らすみたいな。全体としてはプログラミングによるサウンドだと思うのですが、この曲とかもそうですし、バンドで音を出しているのも何曲かありそうですね。#7『Pegasus』ではフィービー・ブリジャーズも参加してますし、ロック方面への接近は感じますね。ただこの辺はその時々の傾向によるのだと思いますし、全体としての印象は前作とさほど乖離するほどではないです。

ところで歌詞は本人なんでしょうけど、曲はどうなんでしょう。ここのところがちょっと分かりませんね。曲も彼女が手掛けているとしたら、これは相当なものだと思います。

That! Feels Good! / Jessie Ware 感想レビュー

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『That! Feels Good!』(2023年)Jessie Ware
(ザット!フィールズ・グッド!/ジェシー・ウェア)

 

ジェシー・ウェアさん、初めて知りました。2012年のデビューで今作が5枚目になるそうです。元々評価は高かったようですが、このアルバムで商業的にも大ブレイクみたいですね。音楽業界は早くから売れる人が多いですけど、キャリアが10年経ってから時の人になるなんていいじゃないですか。

もう正面切ってのダンス・アルバムです。これでどうだというテンコ盛りのディスコ・ミュージック。ホーン・セクション満載でコーラスもいいし、サウンドがいちいち格好いいです。加えて歌唱力抜群、ジェシー・ウェアさんのボーカルですね。#3『Pearls』なんてサビでかなり高音に上がっていくんですけど滅茶苦茶カッコイイ!!そんでもってただ歌が上手い人ということではなくて、時にはラップもしますし、あと歌うまくてもリズム取れなくてカッコ悪いい人が結構いますが、ジェシーさんは声の載せ方も寸分の狂いなく完璧。ホント、最高ですね。

で、基本的にはイケイケのファンキーなアルバムなんですけど、合間に入るゆったりした歌がまた良くて、1曲目から盛り上がってさっき言った『Pearls』までグイグイ上がってくんですけど、#4『Hello Love』でポンとホッとさせるんですね。これがまたマーヴィン・ゲイみたいな穏やかなソウル・ナンバーで、実はジェシーさんはこっちが本職じゃないかっていうぐらい心温まる歌声を聴かせてくれます。個人的にはこのアルバムで一番好きな曲はこれですね。

そのピースフルな『Hello Love』のあとはラテンですよ。今、レゲトン含めラテン音楽が来てますが、いやもうそういうマーケティングではなく、冴えてる時は何やっても時代に合っちゃいますから結果そうなったんだと思います。続いてタイトルからしてアンセムな#6『Beautiful People』ですし、基本的には全編アゲアゲでガンガンくるんですけど、不思議なことにそこまでの印象はなくてすごく心地よい。一見、コッテリしたアルバムに見えて実はそうじゃない、すごく爽やかなんですね。前作からこれじゃいかんということでジェシーさん自身が全面的にサウンドを一新したらしいですが、この辺のジェシーさんの華美になり過ぎないハンドルさばきはお見事ですね。

基本的にはファンキーなディスコ・ミュージックですけど、同じ雰囲気の曲がひとつもなくてそれぞれに個性がある。けれど暑苦しくなくて爽やか。普段から音楽を聴く人もそうじゃない人も存分に楽しめるオープンなアルバムです。

The Record / Boygenius 感想レビュー

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『The Record』(2023年)Boygenius
(ザ・レコード/ボーイジーニアス)

 

ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダッカスという女性シンガーソングライターによるユニット。ロックの復権が叫ばれて久しいが、過去のロックと異なるのは活きのいいのがほとんど女性ということ。特にこの3人はインディー好きにはたまらない組み合わせのようです。僕はフィービー・ブリジャーズぐらいしかまともに聴いたことがありませんが、このアルバムを聴いていると他の二人のソロ作も気になってきます。

まずもってシンプルにアカペラで歌われるオープニングのコーラスがよいです。そこからロック・チューンの『$20』への流れもいいですね。最後の咆哮はブリジャーズでしょうか。YouTubeを見ていると、1番2番3番と順番に歌うパターンが多いです。曲作りを行った人が1番を歌っているような印象ですね。いずれにしても誰かが突出してということではなく、まんべんなく。この辺りの民主的な態度は世代観が現れているのかもしれません。

3曲目からの3曲はそれぞれのソロ作ですね。『Emily I’m Sorry』がフィービー・ブリジャーズ。『True Blue』がルーシー・ダッカス。『Cool About It』はジュリアン・ベイカー作で順番に歌っています。彼女たち3人の最大の魅力はこの辺りのしっとりとした曲でしょうか。個人的には『True Blue』が一番好きです。この曲はミュージック・ビデオも素晴らしいですね。ダッカスの落ち着いた声がぴったりハマってます。そうですね、ブリジャーズの意味深な声、ベイカーの幼さの残る声、ダッカスの少しくぐもった声。一聴すると近いんだけど微妙に異なる3人の声質が順番に流れてくるのもこのアルバムの魅力です。

YouTubeには彼女たちのライブが幾つかアップされています。音源のみを聴くのもいいですが、それぞれ別個の立ち居振る舞いと互いの信頼感が伝わる絶妙な距離感を映像で見るのは何とも言えずよい気分になります。勿論、それぞれが優れたソングライターなので曲自体も素晴らしいのですが、ボーイジーニアスは3人の佇まいも含めての魅力なのだと思います。なので、ミュージック・ビデオやライブ映像も是非見てほしいですね。

音楽をする理由というのが明確にあって、それを理解し支持する人たちがいる。そういう様子を見るのは単純に素晴らしいです。日本で言うと、あいみょんみたいな作家性のあるソングライターが3人横に並んでいる感じでしょうか。そりゃ素晴らしいに決まってますね(笑)。

The 1975 At Their very best 大阪城ホール 感想

The 1975 At Their very best – Japan 2023 大阪城ホール 4月30日

 

4月24日から始まったThe 1975のジャパン・ツアー、東京、横浜、愛知と来て本日の大阪が最後になります。しかし凄いね、東名阪5公演のホール・ツアーを完売させるなんて。しかも当日は立見席も急遽用意されていました。大阪城ホール周辺にはThe 1975のTシャツを着た人があちらこちらにいる。こういう風景を見ると、気分も盛り上がりますね。

18時5分、ホール内にエルヴィス・プレスリーの『ラブ・ミー・テンダー』が流れ観客は総立ち。その後は映画音楽のようなのがかかってました。後から情報によると、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッド作品のようですね。ジャパン・ツアーは例の大掛かりな家のセットではなく、シアトリカルな演出だという前情報があったので、ジョニーの曲もその一部と化していました。とそこへマティ登場。大歓声です。腰掛けて早速ウィスキーみたいなのをあおります。おちょこではなかったのね。

大画面には「Atpoaim」の文字が。これも後情報ですが、「A Theatrical Performance Of An Intimate Moment(=親密な瞬間の劇場的なパフォーマンス)」の頭文字だそうです。最近バンドが公開しているショート・フィルムの名前なんだそう。

ライブの感想を大雑把に言えば、貫禄の大人なライブといったところでしょうか。こっちはマティの挙動不審さとか危なっかしさを折りこみですが、それとは真逆の安定のライブでしたね。ジャパン・ツアー最終公演ということでどっちに転ぶのかなと気にはしていたのですが、安定の方に転びました。多分、喜んでよいのでしょう(笑)。東京から始まって各公演でいろいろな顔をみせていたようですが、大阪はちゃんとした大人なマティでした。

バンドの演奏も安定感バッチリ、曲と曲つなぎも工夫されていてもう盤石ですね。今回は気のせいかアダムのギター・プレイが印象に残りました。アダムは前へ出てくるプレイヤーではないのですが、アレンジがいつもと違ったのかもしれませんね。アレンジと言えば、『Sincerity Is Scary』はオルガン風のキーボードが際立ってました。いつもと異なる曲の表情が出ていてとても良かったです。

ツアー・タイトルどおりのベリー・ベストな選曲だったのですが、個人的には女性ボーカルが加わった『About You』から『Robbers』の流れが良かったです。『I Always Wanna Die (Sometimes)』のクライマックス感も強く印象に残りました。この日のマティにおかしなところはなく(笑)、きちんとショーを全うしていましたね。ていうか歌が上手いのを再確認しました。今日も格好よかったです。いつもベラベラ喋るMCが少なかったのは残念だったかな。ちょっと前に要らん事を言った穴埋めか、『Guys』の「~Japan」のくだりだけを歌ったのには笑ってしまいましたが(笑)。

会場もすごく盛り上がっていてイイ感じだったと思います。僕はスタンド席の最後尾から2列目だったのですが、端っこのこの席でも皆テンション高くて、踊ったり騒いだり楽しんでました。もちろん僕もはしゃぎっぱなし、目いっぱい楽しみました。

今回は5公演だったので、大阪に至るまでの各公演の状況をTwitter上で読むのも楽しかったですね。まるっとThe 1975に浸ったⅠ種間の最後の締め、楽しい時間を過ごすことが出来ました。次はもうちょっと奮発してアリーナ席へ行こうかな。やっぱ近くで観たいぞ!!

Food for Worms / Shame 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Food for Worms』(2023年)Shame
(フード・フォー・ワームズ/シェイム)
 
 
3rdアルバム。近年の英国ポスト・パンク勢で真っ先に名前が挙がるのはファウンテンズD.C.やアイドルズかもしれないが、僕はあんまりピンと来ませんでした。どっちかというとシェイムの方が馴染みがありますね。そこそこ真面目だと自認している僕が一番やんちゃそうでやさぐれたシェイムを好きだったりするのは不思議な話ですけど。ヤバそうだしライブに行こうとは思いませんが(笑)。
 
結局はロックンロールの衝動とかそんなものよりも音楽としてよいメロディが鳴っているかどうかが僕にとっては重要なのかもしれない。絵に描いたように悪そうなシェイムを聴くといつもそのことを再確認するのが面白いけど、つまりシェイムの一番の強みはメロディだと思うのです。
 
このアルバムは時間をかけずにライブ録音したようで、歌っている内容も社会的なことよりも仲間のことを歌っているらしい。僕はそこまで歌詞を読み込めていないけど確かに全体としての雰囲気は穏やか。今回はそんな激しい曲もなく落ち着いた曲が多いけど、不思議と似たような曲ばっかだなという印象もない。この辺は流石のバンド力、つーかメンバーの曲への理解力が抜群なのだろう。
 
僕はやっぱりセックス・ピストルズよりも断然クラッシュが好きだし、ジョー・ストラマーに声質とか歌い方が似ているシェイムのチャーリー・スティーンもジョー・ストラマーと同じでぶっきらぼうだけどちゃんと歌心があると思っている。でもそれはバンド全体にも言えることで、彼らの場合は単にソングライティングにおいてよいメロディを書くということよりむしろ、サウンド全体のバンドとしてのアレンジに歌心が内包している感じがある。だから曲だけを抜き取って、アコースティックギターで弾き語り、なんてものよりバンドでガッとやった方が歌心が出る、そんなバンドなんだと思います。

Cuts & Bruises / Inhaler 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Cuts & Bruises』(2023年)Inhaler
(カッツ&ブルーゼス/インヘイラー)

 

1stアルバムが全英1位になって、この2ndもとてもよい評判。何の変哲もなくグッド・メロディで聴かせる王道ギター・ロックがこれだけ売れてこれだけ注目されるのもホント久しぶりな気がする。フロントマンはU2のボノの息子という派手な出自ですが、音楽の方は実直そのもの。このまますくすく伸びてほしい。

耳目を集めるような強烈な個性はないですが、よいメロディとよいボーカルとよい演奏。これに勝るものはなし。それでいて押さえるところはきちっと押さえる。#1『Just to Keep You Satisfied』の間奏で聴けるギターの鳴りとか、#4『These Are the Days』のラスト近くで畳みかけるところなんて王道そのもの。

ボノの息子ではあるが、雰囲気はU2というよりブルース・スプリングスティーン寄り。#7『Dublin in Ecstasy』なんて若々しくてフレッシュなウォー・オン・ドラッグスみたいな感じ(笑)。というところでキーボードだとは思うが、ピアノやオルガン、シンセのフレーズを効果的に使う柔軟性もあり、今後まだまだ良くなっていく予感大である。

一方でシンプルな#8『When I Have Her on My Mind』も最高にカッコよく、いわゆる誰にもできそうで誰にもできないリフで最後まで押し切れてしまえるのはセンス以外の何ものでもない。ソングライティングは誰かメインの人がいるのだろうが、クレジット的には全員となっていて、この辺りの実直さも好感度は大きい。プロデュースは外部ではなく、バンドのドラマーのようだし、これからもバンド全体でいろいろ学んで着実に成長していきそう。

レディオヘッドやアークティックモンキーズみたいな独自路線へ向かうわけでもなさそうだし、The1975のように派手なところへ振れるわけでもない。アイルランド出身ということですが、同じ英国という括りで見れば、英国ならではの少しの湿り気とグッド・メロディが持ち味の、ウェールズ出身の国民的バンド、こちらも実直なステレオフォニックスに近いのかなと思います。フォニックスのように息の長い活躍を期待したい。

フェニックス Live In Concert 2023 3月14日 Zepp Osaka Bayside 感想

PHOENIX Live In Concert 2023 3月14日 Zepp Osaka Bayside 感想

 

昨年リリースされたアルバム『Alpha Zulu』をフォローするツアー。3月はアジアです。香港、シンガポール、フィリピン、タイ、そして日本では大阪と東京の2公演です。僕は3月14日に行われた大阪公演へ行ってまいりました。前回の来日は2018年4月でしたから丁度5年ぶりです。彼らももう結構な年齢になっているとは思いますが、全く変わりませんね。当代一のオシャレバンドは健在でした!

19時開演でしたが、先ずはサポートアクトからです。3兄弟からなるバンド、Gliiico だそうです。アジア系のバンドのようですが、時おり流ちょうな日本語でもMCをしていました。いわゆるインディー・ロックですね。熱気溢れる演奏でしたけど、ちょっと長すぎたような。。。40分以上はやってましたね(笑)。なので、フェニックスの登場は20時頃。待ちくたびれたせいもあって、初っ端から会場大爆発でした。

なんてったっていきなり怒涛の展開、『Lisztomania』『Entertainment』『Lasso』『Too Young』『Girlfriend』と続く人気曲の連発ですから、そりゃあ盛り上がります。特に『Lasso』までの冒頭3曲ですね。みんな飛び跳ねての大騒ぎ。僕も年甲斐もなくはしゃぎすぎて、既にこの時点でへとへとになりました(笑)。

新しいアルバムからは5曲披露されました。どれも昨年から行っているツアーでだいぶこなれたようで、全部かっこよかったです。印象深かったのは『Winter Solstice』ですね。キーも含め強弱のハッキリとした曲ですし世界観が際立っていました。一方、定番の『If I Ever Feel Better』では仮面にマントの謎の人物が登場しトーマが跪いて歌う新しい演出も。あれはなんのメタファーだったのかな。

あと今回は映像表現が凝っていて、曲ごとにステージ後方の画面にいろいろと映し出されていました。中でもインスト曲の『Love Like a Sunset Part I / Love Like a Sunset Part II』は見応えありました。なんか『2001年宇宙の旅』というかキューブリックの映画みたいな感じでとても興味深かったです。インスト曲だからこそ出来た観客の視線を釘づけにする演出ですね。この辺の展開は流石です。映像と言えば、トーマがのぞいた双眼鏡に映る観客の様子がステージ後方の画面にそのまま映し出されるという楽しい演出もあって、そこに自分が移るわけですから当然お客さんは盛り上がりますね。

本編は1時間ちょいでしたか。短いですけど濃密でした。アンコールはキーボードのみでの弾き語りでスタート。『Telefono』から『Fior Di Latte』へ続くラブ・ソング。なんともあま~いトーマの声にうっとりしますね。バンド編成に戻っていくつかやったあとラストは『Identical』のリプレイズ。今回のトーマが下に降りてくるための曲はこれですね(笑)。当代一のオシャレバンドですから相変わらず女子率高め。なので多くの女子がトーマめがけてワァ~って寄っていきました(笑)。

しかしまぁ相変わらずnイケメンですな。頭ちっちゃくてスラッとした体系も全く変わりませんね。見かけだけじゃなく高音もきれいなままだし、実はもう以前のような元気なステージングはないかなとも思っていたのですが、失礼しました、全く衰えてませんね。ギターの位置が妙に高いあの人もいつも通りチャーミングでした。時折、面白いフレーズを弾いてましたしね。しかしいつも大活躍のドラムの人。バンド・メンバーにはならんのやね(笑)。

アンコール含め、トータル1時間半ちょいぐらいだったのかな。でも強弱あってのよく練られたステージングでエンターテイメントとしての完成度は流石です。ライブによっていろいろ感想はあるけれど、単純に一番楽しいライブと言えばフェニックス!この認識は今回観ても変わりませんでした。

実は翌日が同じ会場でアークティック・モンキーズだったんですね。どっちも行くわけにはいかず非常に迷ったんですけど、フェニックスはもうベテランの域ですから元気なうちにとこちらを選びました。アークティックはまだ若いからね。あ~でもアークティックも観たかった。やっぱロックのライブは最高です。僕は今回が初のコロナ後の洋楽単独ライブでしたけど、そのことを再確認しました。