This Is Why / Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『This Is Why』(2023年)Paramore
(ディス・イズ・ホワイ/パラモア)
 
 
6年ぶりの新作。振り返れば、バンド名を冠した2013年のアルバム『パラモア』は全米1位になり、そこからのシングルでグラミーも獲り、さぁしばらくはこの調子でと思いきや、そこに安住せずサウンドを一新。その次の『アフター・ラフター』(2017年)ではカラフルなポップ路線へ舵を切り、さらにヘイリー・ウィリアムスの2020年のソロ作『ペタルズ・フォー・アーマー』では更に目一杯方向転換。実験的でミツキばりのダークな世界観という極端な振れ幅でしたが、そうした取り組みを経ての本作は、キャリアを総括する現時点での最高傑作と言ってよいのではないでしょうか。
 
特にソロとはいえ、メンバーがほぼ参加した『ペタルズ・フォー・アーマー』での成果が大きいかなとは思います。あそこでそれこそビッグ・シーフがやりそうなレディオヘッドばりのサウンドとか、ビリー・アイリッシュやミツキのようなダークさ。初期からのファンには不評だったとは思いますけど、ああいう挑戦をやり切ったことで、新しいパラモアとしての骨格が再構築されていったのかなと思います。
 
もともと良いメロディーを書く人たちでしたけど、パラモアにしか出せないオリジナリティ、例えば、#4『C’est Comme Ça』はポップなフックで耳に残るインパクトを残しつつ、ヴァースの部分は低いトーンのリーディングという、普通ならいびつな構成をごく自然な形で落とし込める能力を得たというのは非常に大きいです。その上で、音楽性云々には言及しなさそうな普通の音楽リスナーが喜ぶキャッチーさはちゃんと保持したままというのは理想的な進化ですね。
 
言葉もうまい具合に転がっていて、今まではこんなに韻を踏んでた印象はないのですが、言葉の載せ方ひとつとっても練度が上がっているような気はします。切ない#5『Big Man, Little Dignity』もホントいい曲でそのまま終わってもよいのでしょうけど、アウトロで冴えたアレンジが何気なくサッと入ってくる。ホント、隅々まで目の行き届いた丹念なアレンジだと思います。
 
若くして人気が出たバンド故にいろいろな苦労があったようですけど、へこたれずに前を向き続けた、何かにおもねることなく探求心を持ち続けた。バンドのアイデンティティーもしっかり積みあがって、いいバンドの一つから、他に比類のないバンドになったのではないでしょうか。

Rush! / Maneskin 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Rush!』(2023年)Maneskin
(ラッシュ!/マネスキン)
 
 
大ブレイクを果たした後のアルバムということで、どうなるんだろうと興味津々ではありましたが、こちらの想像を余裕で超えてきましたね。全17曲で前作『Teatro d’ira Vol.1』の倍以上の曲数!しかも8割方がアップリフティングなロックナンバーです。#17『The Loneliest』といったバラードも彼らの人気曲ですけど、ライブのノリそのままにそっちじゃなくてこっちでグイグイくるテンションが最高ですね。
 
しかも全部、目先を変えているので同じような曲がズラッとじゃない。この辺りがマネスキンたる所以というか、強烈な個性を持ったバンドではあるんだけど、そこに寄りかからずに古いとか新しいとかではなく、自分たちのその時々で大好きな音楽をやればいいじゃんという屈託のなさが1曲1曲の個性にも繋がってるという、非常にポジティブな化学反応がここでは起きています。
 
例えば、#2『Gossip』なんてフィーチャリング・トム・モレロですから、ギターでギュインギュインいくわけですけど、よくよく聴いているとエイミー・ワインハウス、テンポ落とせば、まんまエイミーやんっていう。しかもダミアーノのこぶし回しがエイミーそっくりで、サビの声裏返るところなんか多分意識していますよね。
 
マネスキンはエイミーのカバーを若い頃に(今も十分若いですが)ユーチューブにアップしていますから、間違いなく好きなんでしょうけど、そういう好きな部分と今現在の彼らの王道スタイル、そこにトム・モレロっていうところが合わさってなんか分からんけど、時代とかジャンルを超えてカッコいいことになってる。つまり、#9『Kool Kids』で「We’re not punk, we’re not pop, we’re just music freaks」って歌っているようにカテゴリーそっちのけで今やりたいことをやる。それが結果的に17曲全部が違う色を持っていることになる。けれどマネスキンとしての芯がずっと残っているから、マネスキンとしての土台は変わらない。しかも何年も前の曲だけじゃなく最新のアイドルズとかの影響も丸出しで、これこそがマネスキンなんだなと再認識しました。
 
まぁとにかく派手で過剰でカッコいいです。音楽としてだけでなく、カルチャーとして更新してってる感アリです。ミュージック・ビデオも最高なので、そっちも見てほしいですね。先ずは『Gossip』のミュージック・ビデオで度肝抜かれてください(笑)。

Sometimes, Forever / Soccer Mommy 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sometimes, Forever』(2022年)Soccer Mommy
(サムタイムズ、フォーエバー/サッカー・マミー)

 

Alvvaysに続いてはこれ、サッカー・マミーです。90年代の青春映画で流れていそうな90年代のオルタナ・ロック感が随所に現れています。それこそ『リアリティバイツ』を観た世代なんかはグッと来るんじゃないでしょうか。ハイ、私がそうですね(笑)。

90年代オルタナ・ギター・ロック、特に『ザ・ベンズ』とか『OK コンピューター』期のレディオヘッドの面影を感じます。#2『With U』とか#3『Unholy Affliction』とか#6『Darkness Forever』辺りですね。なんだかんだ言って、レディオヘッドはギター・ロックの地平を切り開こうとしていたこの時代が皆好きですから(笑)、この辺りのニュアンスが出てくるとやっぱ嬉しいです。

という中でこの時期の一方の雄、オアシスを彷彿させる#7『Don’t Ask Me』なんかもあったりして、この世代の音楽に親しんだ人間のツボをどんどん押してきます。アウトロのドラムがドタドタするところにギター・ソロが絡んでくるところなんてたまらんぜぇ。

ただまぁそれも、彼女がよいメロディーを持っているから、ソングライティングがしっかりしているから可能なんですね。アレンジがどう転がろうが問題ない。1曲目の『Bones』なんかを聴いていると曲の良さが凄く伝わってきます。つまり単純に曲の良さで勝負できる人なんだと思います。その中で彼女が選んだのサウンドが90年代オルタナ・ギター・ロックなのかなと思います。

後はボーカルですね。この世代にありがちな平熱トーンのボーカルが少し物足りない。いや、この声だからこそいいっていうのもあるとは思うんですけど、もう少し感情が爆発するような、聴き手に揺らぎを与えるような強さがところどころにはあってもいいのかなと思いました。

それにしてもフィービー・ブリジャーズといいスネイル・メイルといい、米国ではどうしてこう活きのいい女性シンガーソングライターが続々と出てくるのでしょうね。しかも全部ギター女子っていう。ロック不遇の2010年代にローティーンを過ごしたであろう彼女たちがなんでまたギターを手にしたのか、一方で男性側からこういうのが全然出てこないのも含めて謎です。とにかく、先述のAlvvaysや英国のビーバドゥービーなどなど、新しい人がドンドン出てくるのはオルタナ・ギター・ロック好きとしては嬉しい限り。

ちなみに子供にサッカーの英才教育を施そうと一生懸命になっている母親のことを米国では’サッカー・マミー’と言うそうです。’スネイル・メイル(カタツムリ便)’といい、この世代はネーミングセンスも抜群ですね。

Blue Rev / Alvvays 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Blue Rev』(2022年)Alvvay
(ブルー・レヴ/オールウェイズ)
 
 
毎年、年末の各媒体の年間ベストを眺めてると、いくつか気になるのが出てくるんですけど、2022年末の場合はこれがその筆頭でした。全然知らなかったんですけど、3枚目のアルバムだそうです。男女混成の5人組、カナダのバンドです。Alvvaysの読みはオールウェイズ。先にAlwaysというバンドがいたようで、急遽、w を vv に分割したらしいですけど、vvの方が意味あり気でいいですね。
 
ネオアコにシューゲイズでドリーム・ポップという、もうこの文句だけで好きになりそうですが、1曲目の『Pharmacist』を聴いた時点で「これ好き」ってなりました。そう思っているところにアウトロで最高のギター・ソロが流れてくるもんだから「これ好き」が「めっちゃ好き」に速攻変わりました(笑)。
 
ただこんな風に掴みでグッとやられるだけでなく、彼女たちの場合は聴けば聴くほど良くなっていく、どんどん好きになっていきます。多分それは完成度が高い、練り込まれているってことなんじゃないでしょうか。初めはさほど気にも留めていなかったボーカルにしても、よくよく聴いているとこの透明感が稀有なことに気付いて、しかも高音になっても同じようにス~ッと入ってくるんです。#8『Velveteen』の最後のところなんてその典型ですね。
 
あと、最初に言った1曲目とか一番人気かもしれない#3『After The Earthquake』といったネオアコ色の強いポップ・ナンバーのみならず、#11『Belinda Says』みたいな最後にボーカルがグワッと盛り上がる切ない曲もあるし、不意に#7『Very Online Guy』のようなシンセでリードしていく曲もあれば、はたまた思わぬジョニー・マー節に笑ってしまいそうな#5『Pressed』もあったりと、曲調も豊かでこういった点も最初の印象と違って長く愛せるアルバムになっているのかなぁと思います。
 
それにしても2022年にこんなギター・バンドがいたなんて驚きですね。ていうか2014年のデビューらしいので、ギター・バンドが見向きもされなかった時代にこういう実直に取り組んでいたバンドがいた、それが今花開いた、そういうことなんじゃないでしょうか。本人たちはこれからも時代に関係なくよい音楽を作っていく、そういうスタンスなんだと思います。こりゃ1枚目や2枚目もちゃんと聴いてみないとね。

Only The Strong Survive / Bruce Springsteen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Only The Strong Survive』(2022年)Bruce Springsteen
(オンリー・ザ・ストロング・サバイブ/ブルース・スプリングスティーン)

 

2020年の『レター・トゥー・ユー』以来のアルバムはブルースが若かりし頃に愛聴していたというR&B、ソウル・ミュージックのカバー・アルバム。僕は元歌を全然知らないが、カバーであろうが何だろうが圧倒的なボスの声がある以上、こちらの感触としては変わらずボスのアルバムである。古き良きポップ・ソングに倣ってストリングスやホーンセクション、コーラスもふんだんにゴージャスなサウンド。と言ってもそこはボス。時折E・ストリート・バンドっぽさを覗かせることも忘れちゃいない。流石、ファンの気持ちをよく分かってらっしゃる(笑)。

それにしても73才を迎えても素晴らしい歌声。元々、3時間でも4時間でもライブができる強い体と喉を持っている人ではあるけれど、シンガーというよりシャウターというスタイルなだけに、長年の喉の疲労も相当あるはず。本作の告知を兼ねたTV出演を見ていると、流石にかつてのガタイはなく随分とほっそりとしてきたけど、声の方は相変わらず元気。昔懐かしの歌謡ショーではなく、ちゃんと今現在にフィットしているのはブルースの張りのある声があってこそ。プラスこれがアメリカのポップ・ソングの下地の強さでもあるのあろう。

あとやっぱり歌が上手い。聴いてるとこの辺りの曲はもう完全に歌が主役で、歌が前にあって演奏が後ろにあるのだけど、つまりブルースがこのアルバムに取り組んだのもなんとなく分かるというか、俺だってこれぐらい歌えるんだぞっていうかむしろ歌いたいっていうか。昔好きだった曲というのもあるだろうけど、そういう歌に対するパッションが根底にあるのがこのアルバムを前向きなものにしているのだろう。

それにしてもボーカルだけを抜き取ってもブルースは凄い。結局ソウル・ミュージックだし、歌うより叫ぶところもあったりするのだけど、声量もさることながらソウルフルなボーカルは流石。ホント、歌がリードしています。あと歌が主役とはいえ、もちろんサウンドも素晴らしいからちょっと聞き耳を立ててみると、それはそれで気持ちがいい。よいオーディオとスピーカーがあればもっと最高なんだろうな。

2023年にE・ストリート・バンドでのツアーを開始するとの公式アナウンスがあった。6年ぶりだとのこと。バンドと作った『レター・トゥー・ユー』からの曲も沢山演奏するのだろう。E・ストリート・バンドとのライブだってあとそう何回もあるものではない。ましてバンドを連れて日本に来ることはもうないのだろう。あのブルースだってちゃんと年を取るということを胸に刻みつつ、これからの作品もしっかり聴いていきたい。

2022年 洋楽ベスト・アルバム

 

コロナ禍に縮こまっていた2年を過ごし、本格的に動き始めた2022年。創作期間がたっぷり取れたのか、良い作品が幾つも生まれた。とりわけ困難な一年となった2022年ではあるが、不思議と社会的な出来事を直接的に表現する作品は少なかったように思う。むしろ音楽として単に良いものを作りたい、みんなそこにフォーカスしていたのではないか。それぞれが自身のストロングポイント、或いは以前より新しく取り組みたいと思っていたことに本腰を入れ突き詰めていく。平常心に戻った作家が初期衝動に戻っていった1年なのかもしれない。
 
ということで来年以降は一転、シリアスな作品も増えていくのかもしれないが、とにかく今は新しい人も名うての古株もそれぞれが腕を振るった極上のベリーベストに身を委ねたい。というところで真っ先に名前を挙げたいのがアークティック・モンキーズ。随分と風変わりだった前作の延長線上に見事な歌のアルバムを用意してくれた。アレックス・ターナー歌謡ショーのような新作は時間が経つごとに魅力が増す不思議な味わい。さてはまたもやこれで何年も持たすつもりか(笑)
 
もう一方の英国の雄、The1975は逆にこれまであった実験的要素は皆無のカードが全部表にひっくり返ったみたいなポップ・チューンの連打。レディオヘッドならぬザ・スマイルもカッコいいギター・ロックを聴かせてくれたし、どこの年間ベストにも名前は挙がらないが、同じくベテランのステレオフォニックスも近年まれにみるカッコいいロック・アルバムだった。有名どころ以外にもウェット・レッグを筆頭に個性的な若手もどんどん出てくるし、英国ロックは更にいい感じだった。
 
あと2022年は日本に関わりのあるアーティストが躍進した年としても記憶される。ミツキとJojiは共に全米チャート5位。リナ・サワヤマは全英チャート3位。移住した時期は違うけれど、日本で生まれ日本語をネイティブに話し、叩き上げでここまで来た彼彼女たちの快挙は日本であまりにも知られなさすぎ。欧米でちょっと有名、ではなくマジで聴かれています。己の才覚でここまでのし上がった彼彼女たちは素直にカッコいい。
 
さて、僕の2022年ベスト・アルバムは何だったか。世間的には海外ではビヨンセとケンドリック・ラマーとハリー・スタイルズ、国内では宇多田ヒカルと藤井風といったところだろうが、僕はあくまでもロックが聴きたい。というところで見れば、ビッグ・シーフと優河の一騎打ちだ。追いかけるのはアークティックとThe1975。ビーバドゥービーや羊文学も結構聴いたぞ!
 
僕は基本的に英国インディ・ロックが好きだ。一方でどうやら米国インディ・フォークも好きらしい。ウィルコしかりビッグ・シーフしかりボン・イヴェールしかり、振り返ってみると自然と体がそうなっていた。いや、分かるようで分からないリリックが好きなのかもしれない。そういう流れでまさか日本人アーティストでそれを体現する人がいたなんて知らなかった。魔法バンドと共に作り出したそこにある雨風と時折差し込む光としてのサウンド。そこにあるゆらぎを言葉にしようとするトライアル。2022年、僕のベスト・アルバムは優河の『言葉のない夜に』にしたい。
 
今年は大変なことが起きたなぁではなく、大変なことが起きるのが普通になりつつある現在。僕たちは新たな混乱の戸口に立っているのかもしれない。とすれば本番はこれから。遠い昔の出来事だったあらゆる物事が僕たちの出来事になる前夜。これまで音楽や映画や文学を通して社会や歴史を学んできたように、これからもどなたかも分からぬふわふわとした言説ではなく、顔の見える作家たちの屹立する個の声を聞いていきたい。
 
ちなみに僕の2022年ベスト・トラックはウィルコの『Hearts Hard To Find』。ついでに言うと2022年にSpotifyで最も聴いたアーティストもウィルコでした。あと、佐野元春の『今、何処』も間違いなく2022年を代表する作品ではありますが、ここでは選外にしています。十代の時からのファンなもので、客観的な判断はできませぬ。ていうか洋楽ベスト・アルバムって割には邦楽への言及が多くなったな(笑)。

Alpha Zulu / Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Alpha Zulu』(2022年)Phoenix
(アルファ・ズール/フェニックス)
 
 
前作からは5年ぶりだそうで、相変わらずインターバルは長いが、こうしてちゃんと新作を出してくれるのは嬉しい。今回はルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館の中に機材を持ち込み、レコーディングをしたとのこと。大衆音楽家にこういう場所を提供出来てしまうのは流石フランス。日本だとどうでしょうねぇ。
 
今回はシンセサイザーが割と耳に付くが、5枚目の『Bankrupt!』(2013年)ほどの派手さは無い。どっちかっていと4枚目『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2009年)に近いかも。こう書くと大ヒットした『Wolfgang ~』並みの完成度を期待してしまうかもしれないが、流石にあそこまでの爆発力は無いかな。でも先行シングルになった#2『Tonight』や#4『After Midnight』なんかは今の彼らのスタンスに当時のストロング・ポイントを加味したような、まるで『Wolfgang ~』ver.2.0のような出来栄え。ていうか前半、かなりの名曲ぞろい。
 
面白いのはヴァンパイア・ウィークエンドのエズラが参加している#2 『Tonight』で、エズラが歌っているところはまんまヴァンパイア・ウィークエンドなのに、トーマが歌っているところは思いっきりフェニックスっていう不思議。なんにしてもアルバム屈指の名曲やね。
 
というところで強力な前半に比べ後半は少し弱いかなとは思いました。『Wolfgang ~』の『Girlfriend』みたいに最後の方でもう1曲強力なポップ・ナンバーでひと押しあればなというところでしょうか。#10『Identical』もいいんだけどちょっと地味かな。
 
美術館に持ち込んだ機材の中には日本製の古いシンセサイザーもあったようで、#2『Tonight』や#4『AfterMidnight』のミュージック・ビデオは日本が舞台だし、相変わらずの日本びいきで嬉しい限り。なんじゃかんじゃ言いつつ、早速YouTubeに公開されたこのアルバムのお披露目ライブを見ていると俄然盛り上がってしまう。やっぱフェニックス、ええわ。

Quality Over Opinion / Louis Cole 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Quality Over Opinion』(2022年)Louis Cole 
(クオリティ・オーバー・オピニオン/ルイス・コール)
 
 
4年ぶりの新作は1時間10分、20曲の大作。才能あふれる彼らしく、今回も物凄い情報量が詰め込まれているようで、ネットで本作のレビューを検索すると事細かな記事を読むことが出来る。けれど彼の音楽の素晴らしいところはそうした専門家筋をうならせる一方で、そんなことを全く知らない我々一般リスナーが、単純にカッコエエと踊ってしまえる親しみやすさを備えていること。なので、1時間10分、計20曲であろうと大作感、というか敷居の高さはなし。身近なポップ音楽として気軽に楽しむことが出来る。
 
腕どうなってるんだ、という彼の超絶ドラムを堪能できる曲もあるし、メロウな優しい曲もある。得意のロマンティックなスローソングもあれば、エキセントリックな曲もある。20曲もあるということで、いろいろな曲が並べられているが、どっからどう聴いてもルイス・コールであるという記名性の強さ。それでいてグッタリ胃が持たれないのは、彼から染みついて離れないユーモアのセンス、というか心の余裕。リード・シングルとなった#9『I’m Tight』のミュージック・ビデオでのおふざけ感は最高だ。
 
ルイス・コールの場合、どうしてもテクニカルなところやサウンド面で語られがちだが、彼の真骨頂はメロディだと僕は思っている。いくら面白いサウンドでも曲がまずければこれだけ多くの人に支持されない。おかしみプラス大衆的な歌心が彼の音楽の肝だろう。その歌心を支えているのがボーカル力。実はルイス・コールは歌が上手い。声量で聴かせるタイプではないが、ファルセットだって全くピッチがぶれないし、高音になっても苦しさを感じさせないほどよい聴き心地はなかなかです。
 
そういえば来日するのかなと、今更ながら検索をかけてみましたが、このアルバムをフォローする来日公演はとっくにソールドアウトになってました。どれだけ凄いのか、一度、ライブを見てみたいものです。それにしても#5『Bitches』でのサム・ゲンデルとのマッチアップはカッコエエな。

The Car / Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Car』(2022年)Arctic Monkeys
(ザ・カー/アークティック・モンキーズ)
 
 
アークティックと言えば長らく1st、2ndのガレージ・ロックというイメージだったが、今ではすっかり5作目『AM』(2013年)で示した重心が低く艶っぽいロックバンド、というイメージが定着している。加えて6作目の『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年)からはロックバンドの可動域を更に広めようとする野心的な取り組みで、もはや好きとか嫌いとかではなくちゃんと見ておかないといけないバンドの一員になった。
 
とはいえ、じゃお前はちゃんと見ていたのかというといささか心許なく、僕としては世間的には大評判な1st、2ndや『AM』よりも3作目『Humbug』(2009年)、とりわけ4作目の『Suck It And See』(2011年)が一番好きだったりするひねくれもので、その観点から言うと今作は割と好き。要するに、アレックスの奏でる風変わりなメロディによる歌モノが好きなのです。
 
前作『Tranquility~』は変わった作品で、もうあれぐらい突き抜けちゃうと好み云々ではなく姿勢として格好いいのだけど、歌モノ好きとしては随分とメロディが遠のいたなぁと。それとやっぱバンド感うすっ!っていう部分が印象としてはある。ただ『Tranquility~』はそれを補うだけのラジカルな姿勢があったればこそなわけで、とはいえそれが2作続くとなると流石にシンドイ。というところでリリースされた今作はというと、メロディは戻ってきています。メロディは戻ってきたうえで、ラジカルさはそのままにバンド感も上昇、てのが割と好きな理由です。アルバム・タイトルが『The Car』って、なんやそれ!やけど。
 
全体的なイメージは映画「コッドファーザー」。宇宙から戻ってきたとはいえ、マフィア(笑)。庶民感はなし。映画音楽、というか映画のような音楽。ゴージャスでしかもアレックスはアルバムを重ねる毎に歌が上手くなっている。2010年前後の作品が好きな身としては#1『There’d Better Be A Mirrorball』とか#7『Big Ideas』みたいな美しい曲が好み。彼らはもう過去作の延長線上のアルバムを作るという考えはないのだろうけど、時折こうしたメロウさが顔を覗かせるのが嬉しい。
 
彼らはロック・バンドとしての新しい表現を求めている。このアルバムからもそれはひしひしと伝わってくる。だから聞き手が戸惑うのは当然と言えば当然。しかし今作には『Tranquility~』ほどの戸惑いはない。つまり彼らは進化しているということ。新しい表現、新しいサウンドを求める権化となったアークティック・モンキーズは’アークティックと言えば’をこれからも更新し続ける。しかし彼らがレディオヘッドみたいになるとは思わなかったな。
 
今時珍しい’男の世界’を行く’男のバンド’。こういうのもたまにはいいね。とはいえやっぱ「ゴッドファーザー」、マフィアやん。

Being Funny in a Foreign Language / The 1975 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Being Funny in a Foreign Language』(2022年)The 1975
(外国語での言葉遊び/The 1975)
 
 
先日行った中村佳穂のコンサートで、彼女は曲終わりを告げるのに両腕を広げ、手のひらをギュッと握ることで演奏を締めていた。フロントマンが示すこういうジェスチャーは単純にカッコいいから好きだ。このアルバムのジャケットではマシュー・ヒーリーも同じように打ち捨てられた車の上で両腕を広げている。踊っている最中のようにも見えるが、これは何かを止める合図なのか。
 
そもそもアルバム・ジャケットに人が登場するのは今回が初めて。次からはまた誰も登場しなくなるのかもしれないが、とりあえずは彼ら自身が称していた’Music For Cars’の時代は前作『仮定形に関する注釈』(2020年)で終わった。とすれば、今回からは新しいフェイズ、アルバム・ジャケットの方向性が変わるのも頷けるが、このアルバム・ジャケットはどうも始まりには見えない。やはり何かの中途、間に挟まれるものという印象を受ける。
 
てことでもう一度アルバム・ジャケットを見てみると、広げられたマシュー・ヒーリーの両手は真逆にねじれていることに気付く。つまり’Music For Cars’時代とこれから迎えるべき新しい時代の間で彼らはねじれてしまっているということだ。
 
渾身の大作が2作続き、ホッと一息入れたいところで現にホッと一息つくようなポップ・アルバムが出た。しかも彼らにしては異例の11曲、トータル約44分というコンパクトさ。にもかかわらず、これはねじれた状態であるという矛盾。普通に考えるとこっちがスタンダードと思うが、彼らはもうそうではないところに来てしまったのか。これをシリアスに受け止めるかユーモアと受け止めるか。
 
とはいえ、このアルバムは彼らのブライトネスを切り取ったようなポップで軽やかなアルバム。あまりにも軽やかすぎて何か引っかかってしまうなどと面倒くさいことは言わず、ヘッドライナーで登場した今年のサマーソニックをマシュー・ヒーリーが「ベスト・ヒット・ショー」と称したように、素直に楽しく歌って踊りだせばいい。僕たちまでねじれてしまうことはないのだから。
 
今回が恐ろしく個人的で愛に溢れたアルバムになったからといえ、彼らはもう社会的な出来事にコミットメントしない、降りた、ということではないだろう。一方で本当に表舞台には出てこないんじゃないかという危うさも相変わらず保持しつつ、30代を迎えたとはいえThe1975はまだまだ安定とは縁遠い不安定さにいる。
 
結局、アルバム・ジャケットは何かを静止させているわけでも何かの狭間でねじれているわけでもなく、静止させようにも叶わず、グラグラした天秤の上でただバランスを取っているだけ、ねじれはその動作に過ぎない、ということなのかも。そしてそのバランスを保つ唯一の術は、このアルバムで語られているとおり個人の愛なのだろう。