『今、何処』アルバムが凄い!
2022年は宇多田ヒカルとケンドリック・ ラマーの年だと思っていましたけど、 更に凄いアルバムが出てきました。まさかまさかの佐野元春です。 音楽に限らず、 アートには時折その時代と見事に合わさってしまう時があって、 それはいくらマーケティングしようが意図的にどうこうできるもの ではありません。何故佐野にそれが出来たのか?何故この『今、 何処』アルバムはジャストに響いてくるのか?
とにもかくにも40年以上のキャリアを誇るベテラン・ ミュージシャンがここに来て何度目かのピークを迎えていることに 驚きを隠せません。ただこのピーク、 急に訪れたものではないんですね。 佐野はずっと新しい音楽を発表し続け、毎年のようにライブ・ ツアーを行ってきました。以下は今も第一線で活躍するベテラン・ ミュージシャンのここ10年(2012~2022年) のオリジナル・アルバムのリリース数です。
松任谷由実 3作
桑田佳祐 2作(サザンで1作、ソロで1作)
小田和正 2作
長渕剛 2作
山下達郎 1作
佐野元春 6作
ま、出しゃいいってもんではないですけど、 これを見ただけでも佐野の今というものを感じてもらえると思いま す。で、これらの作品、 佐野は自分より下の世代と作ってきました。コヨーテ・ バンドと名付けられていますけど、 プレイグスの深沼元昭やノーナリーブスの小松シゲルといった面々 です。佐野は彼らと15年ずっと一緒にやってるんですね。 言ってみれば佐野が通過した60年代70年代の米英ロックと90 年代のオルタナティブ・ロックのコラボレーションです。
でその結実が2015年の『Blood Moon』だと僕は思っていたのですが、今回の『今、何処』 はそれを遥かに越えてきました。これこそ正真正銘の佐野元春& ザ・コヨーテ・バンドの最高傑作だと思います。となると、 その前の佐野のバンドであるホーボーキングバンドが『The Sun』(2003年)を最後にオリジナル・ アルバムを出さなくなったのと同じことがコヨーテ・ バンドでも起きそうな予感も無きにしも非ずですが、 今はこの圧倒的な作品に打たれておこうと思います。
下に『今、何処』の映像トレイラーを貼り付けておきます。 佐野のことを知らない世代も多いと思いますが、 ものの数分ですので騙されたと思って聴いてもらえたら嬉しいです 。そしてもし気になったら、アルバム自体を聴いてほしい。 サブスクに入ってれば気軽に聴けますから、 冒頭の数曲だけでも試しに聴いてもらえたらなって。
あらゆる世代、 あらゆる考え方を持つどんな人々にも開かれた全肯定のブルース。 私(わたくし)と世界とのせめぎあい、 その中で一対をなす光と闇、 2022年の今この時を撃つ傑作アルバムです。 なんなら佐野の名前が表に出なくてもいい、この『今、何処』 アルバムが多くの人の耳に届いてくれたら、 そんな風に思わせる作品です。
ところでこのアルバム、 音楽評論家の田中宗一郎によるポッドキャスト「THE SIGN PODCAST」で全3回にわたって 特集が組まれています。 田中宗一郎と言えばレディオヘッドを思い浮かべるので、 なんでまた佐野元春?と思ったのですが、 彼はずっと佐野の熱心なリスナーだったようですね。 このポッドキャストではそのあたりも詳しく述べられています。 とても的確な佐野元春評ですので、 佐野のことを初めて知ったという人にもとてもよいガイドになると 思います。勿論、目から鱗の『今、何処』評も聴けます! Spotifyでも聴けるのでこちらも是非!