邦楽レビュー:
『AINOU』 (2018年) 中村佳穂
中村佳穂さんを知ったのは2019年のフジロックYoutube中継で、スゴいなぁと思ってアルバム『AINOU』をスポティファイで聴いたんですけど、僕は未だにケチ臭くフリーなもんでシャッフル再生なのですが、きっと中村佳穂さんはYoutube中継で聴いたようなピアノ主体のジャズっぽいことをする人なんだろうなって勝手に想像をしていて、ところが『AINOU』を聴いたらピアノ主体どころか思いの外エレクトロニカだったので、そん時の曲はなんだったかは思い出せないけど、なんかちょっと腰が引けた記憶があります。
ま、そんな先入観だったのでそこで一旦あいだが空いてしまって、ちゃんと聴くまでにはそこから時間を要してしまったんですけど、こんな素晴らしい作品なのにね、先入観なんて困ったものです。
それはさておき。とにかく素晴らしい作品でインタビューとか色々読んでるとサウンド・メイキングなんかはかなり凝った作りのようで僕には理解できないことが多いんですけど、それはもうジャズっぽい即興とはかけ離れた緻密なサウンドでして、それでもスゴイのはそんな考え抜かれたサウンドであってもやっぱり中心にあるのは佳穂さんの歌というところで。素晴らしいバンドの技量に引っ張られているのではなく佳穂さんの歌が引っ張っているっていう、そこがやっぱり肝ですね。だから聴いてて思うのは中村佳穂バンドというのはチームとか仲間という感じじゃなくて連帯っていうことですかね。
佳穂さんは落ち着きのない人のようで、落ち着きのないというと変な言い方ですけど、色々なところへ行ってそこでワォってなったら声掛けて一緒にやってみないっていう、そんでオーケーならまた共演しようみたいな。それでもやっぱり即興共演というのではなく、ちゃんとその場その場であっても俯瞰的にプロデュースできる人だって書いてるバンド・メンバーの言があって、『AINOU』アルバムを聴いていてもそれはスゴく出てるんですね。それぞれの曲には全部違う場所感があって景色が全然違うんですね。この曲はある特定の土地で見える景色だって独立してるんです。
でその独立した感じとか俯瞰てのはホント活きていて、これだけ感動的な作品にもかかわらずカラッとしているというか押し付けがましくないのが多分そこに起因しているのではないかと。やっぱり改めてスゴイなぁと思います。
さっきも言ったとおりサウンドがホントに緻密なのでうちの古いミニ・コンポで聴いても色んな音が聴こえてきて、スピーカーから聴くのもいいですけど、イヤホンだともっと最高ですね。ただサウンドに関しては僕は全くの素人なのでよく分かりません。とはいえやっぱりよく伝わってるとは思うので身体的には理解できているのかなとは思っています。
あとやっぱり言葉ですよね。元ある言葉に寄りかからないというか元ある言葉の意味に頼らない。自分でどういう日本語を当てていくのかというところを言葉の持っている意味を一旦ゼロにして取り組んでいるってのがホント伝わりますよね。その上でそこは音楽ですから音楽的にどう機能させるかってところに最終的な目標なんだと。それはスゴく感じます。
ただこんなに素晴らしい作品であってもこれはこれという通過点みたいな、さっき言いましたけどここでは連帯するけど、そこに固執しないというか、中村佳穂さんの持つ移動感という一本筋が通っている感はやっぱりありますよね。
だから次どうなるんだろうっていうワクワク感が佳穂さんにはありますし、そう思っていたら次出たのが『LINDY』っていうまた異なる土地からの発信っていう(笑)。また移動してるぞってのがとっても楽しいです!