洋楽レビュー:
『Islands』(2018)Ash
(アイランズ/アッシュ)
例えばレディオヘッドやアークティック・モンキーズは新しいことにチャレンジしていって、ロック音楽の可動域をどんどん広げていく。かたやアッシュはデビュー以来変わらず愛嬌のあるポップ・チューンを奏で続けている。それが意図的なものではなく自然発生的な創作意欲に駆られた結果だとすれば、出てくるものは違うけど、音楽への向かい方はどちらも同じと言えるのではないか。対外的な評価で言えばレディオヘッドな方がスゲエってなるけど、いやいや、ずーっとおんなじことやって未だに飽きさせないアッシュも凄いです。
アッシュだってそりゃ当然その時々で新しい取り組みはあったろうけど、基本的にはティム・ウィーラーのソング・ライティングでグイグイ押してくる。しかもロック・バンドにありがちな原点回帰とか意図的にシンプルにしようぜっていうことではなくて、自然とそうなっちゃう。多分それがいつまでも鮮度を失わない秘訣かもしれないけど、20年以上やってこの初々しさはやっぱ不思議。ティム・ウィーラー恐るべし!
1曲目『True Story』からして特にどうということはないんだけど、このどうということにないメロディを聴かせてしまう技ってのは一体なんなんだろか。2曲目『Annabel』、3曲目『Buzzkill』は分かりやすいアッシュ節。そうそうこんな感じよねっていうパワー・ポップなんだけど、4曲目『Confessions in the Pool』は一転ダンス・ポップ?っていう雰囲気。曲的には同じフレーズを繰り返すだけなんだけど、ちゃんと起承転結があって最後はギターがジャ~ンでやっぱこれやろみたいな(笑)。こういう愛嬌もアッシュの魅力だ。
6曲目『Don’t Need Your Love』はサビを「I don’t need your love」のひと言で持っていくワンフレーズ・サビ。こういうのって実は難しくて、しょぼくなってしまいがちだけど、この曲ではグッと高揚感が高まっていい感じ。ワンフレーズにキラキラとした感性を込められるのはやっぱ初期衝動ならではだと思うんだけど、もうとっくに初期衝動ではないところで曲を作っているアッシュがいとも簡単にやってのけるのはやっぱロック七不思議のひとつかもしれない(あとの6つは知らんけど)。
全部で12曲あってどれも特別に大げさでもなく込み入っている訳でもなくシンプルなメロディですぅーっと行くんだけど、どの曲にも何気に聴かせどころというのがあって、そこにちょっとしたチャームが含まれている。このどうということないメロディにちゃんと愛くるしさが含まれているのには何か勘所があるというか秘訣があると思うんだけど、ちょっとティムさん、「ロック作曲講座」なんてのをやってくれないかな(笑)。
僕は『フリー・オール・エンジュルズ』(2001年)と『メルトダウン』(2004年)以来真面目に聴いてこなかったんだけど、こりゃちょっと反省しないとだな。いい年ぶっこいて(ティムはもう40過ぎ!)未だにキラメキを封じ込められるんだから、もう返す言葉も御座いません!!
1. True Story
2. Annabel
3. Buzzkill
4. Confessions in the Pool
5. All That I Have Left
6. Don’t Need Your Love
7. Somersault
8. Did Your Love Burn Out?
9. Silver Suit
10. It’s a Trap
11. Is It True?
12. Incoming Waves