こうふくなしにかた かのじょのたたずまい

ポエトリー:

『こうふくなしにかた かのじょのたたずまい』

 

かの人は大きな体を揺らしながら山から下りてきて 見知らぬ町に住みついた
大きな体は子供たちの気を引くものだ 怪訝な表情をする子供らが真っ先になついたのはよくある話
それは大人たちの気に触るところだったけど 子供たちは意に介さずかの人にすり寄った

子供たちはかの人の町の大人たちにはない特徴についてあれやこれやと訊ねたし かの人もそのひとつひとつに丁寧に答えた
ひとつひとつ丁寧に答えただけで子供たちは大いに喜んだ
かの人が目くばせすると子供たちは特別な事をしているようで満足げ 誰もが浮足立った

そんな中 かのじょ はなついているふり 遠巻きに見ていた 素朴な子供のふりをしていた
かの人も かのじょ を遠巻きに見ていた
どころか 実態があるのかどうかさえ定かではなかった

ある晩 大人たちがかの人のところへ詰めかけた
かの人は大人たちを部屋へ招き入れた そこには驚くことに何もなかった
大人たちは詰め寄った お前は誰だ 町の安定が揺らいでいる ここへ何をしに来た
かの人は怯えさせることもなく 油断させることもなく すぐに話を始めた

 あなた方は余生です 今生きているのはあの子たちだけです
 あなた方は死ぬまでの時を稼いでいるのです
 いいえ あなた方を非難しているのではありません
 人は二度死ぬのです そういうものなのです
 私は余生の暮らし方 こうふくなしにかた をさがしているのです

大人たちは再び驚いた こいつは何を言っている こいつは人殺しだ 子供たちに近づけてはならない 放っておいては何をしでかすか分からない
大人たちは口々に言った この町から出ていけ 今すぐにだ
かの人は怯えさせることもなく 油断させることもなく すぐに準備を始めた
準備と言っても部屋には何ひとつないのだから5分とかからない
かの人は何も言わず山へ帰った

あくる日騒いだのは子供たち かの人がいないぞ どうやら大人たちが追いやったらしいぞ なんでだ どうしてだ
なかには大人たちに詰め寄る子供もいたが 子供たちは今を生きている 済んだことは意に介さない
それに子供たち自身 なにかホッとした気持ちが無くは無かったから

 

道すがら かの人は随分と前に言われたことを思い出していた

 もう若くはない それは本当の事 あなただってそう

けどオレはピンピンしてるぜ やりたいことだって山ほどある

 そう でもね あなただってもう分かっているはず

 悔しいけど 死んだようなもん あとは年寄りになるのを待つだけ

元の住処が見えてきた
戸口に かのじょ が立っていた
随分と前に言われたことの続きを思い出していた

そうだな 死んだようなもんだから
余生ぐらいは景気良く生きることにする
しにかたはいろいろある

 

2017年10月

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