サマーソニック2019 大阪 2019年8月18日 感想~THE1975編~

サマーソニック:

サマーソニック2019 大阪 2019年8月18日 感想~THE1975編~

 

定刻より数分早く「The1975」のSEが流れだした。白のスクリーンにそのリリックが映し出される。それだけで辺りの空気は一変した。ただのSEである。フロント・マンはおろかメンバーの誰一人としてステージに現れていない。これが2019年のロック・シーンで最前線に立つバンドの存在感だ。

「The1975」のSEの余韻の中、メンバーがステージに現れるとオープニングの「Give Yourself a Try」のイントロがなだれ込んできた。もう僕たちは冷静ではいられない。あのマシュー・ヒーリーがそこにいる。体をくねらせながらダンスし、前のめりで歌うマシュー・ヒーリーがそこにいた。

僕は過去に2回、同じサマソニで歌うTHE1975を観た。1度目はデビュー間もない2014年の一番暑い時間帯。風が強く、メイン・ステージの後方でぼんやりと見ていた僕に、彼らの演奏は風に流され不安定な状態で届いてきた。前方では泣き出す女の子もいて、当時の彼らはまるでアイドルのような佇まいだった。

2度目は2016年。あの時僕はレディオヘッドのアンコールを後ろ髪惹かれる思いで諦め、ソニック・ステージを駆け込み、ラスト数曲ではあったが当代一のオシャレ・バンドになった彼らを観た。「The Sound」で景気よくジャンプしたのを覚えている。

バンドが成長する時というのは、ホップ、ステップ、ジャンプのステップとジャンプの間に大きな隔たりがある。かつてのレディオヘッドがそうであったように、THE1975も全く同じく2018年にリリースした3枚目のアルバム『ネット上の人間関係についての簡単な調査』でとんでもない跳躍をした。この日観たTHE1975はこれまでとは次元の違う完全にオリジナルで全く新しいバンドだった。

前半のポップな3曲でオーディエンスを完全に手中に収めた彼らは、4曲目の「Sincerity Is Scary」でゆったりとした新しい顔を見せる。プロモーション・ビデオや各地のライブで見せるあの耳の着いたニット帽を被ってヒーリーはステージを闊歩する。映画のような一瞬だ。

そう言えば始まって間もなく、ヒーリーは「こんなとこに吸い殻が。誰のだ?あ、オレか」みたいなMCをしたが、そのぶっきらぼうな態度こそまるで演出された一幕。他にも「カンパイ!」と言ってお猪口で日本酒を一気飲みしたり、タバコにむせて咳き込んだりと、自由でありながら計算されたかのような佇まい。スターというのは彼のこと言うのだろう。

『ネット上の人間関係についての簡単な調査』には硬質なポリティカル・メッセージを含んだ曲がある。サビを皆で歌ったゴスペル・ソング「It’s Not Living (If It’s Not With You)」の後に歌われた「I Like America & America Likes Me」もその一つだ。この時、スクリーンではコラージュのような映像がキーワードとなる言葉と共に矢継ぎ早に映し出された。ヒーリーは体をくの字に曲げて泣き叫ぶように歌う。オートチューンに加工されたボーカルは爪を立てるように僕たちを引っ掻いていた。

個人的に楽しみにしていた曲がある。「I Always Wanna Die (Sometimes)」だ。The1975の新境地と言っていいだろう。壮大なバラードはヒーリーのボーカルの新しい魅力を湛えている。「死んでつらい思いをするのは君じゃなく、家族や友達だ」と歌われるこの曲のサビで、ヒーリーは美しく伸びのある声で「僕だってたまには死にたくなるんだ」と歌った。誤魔化すことなくしっかりと正面を見据えて目一杯。魂のこもった素晴らしい歌声だった。

「Love It If We Made It」はヒーリーがアンガー・ソングと言ったように、強烈な社会的メッセージを伴った曲だ。スクリーン上ではプロモーションビデオと同じ映像が流れる。怒りの曲をヒーリーは激しくシャウトする。この曲で僕を激しく揺さぶったのは間奏でのダンスだ。女性ダンサー2名と共に情熱的なダンスが披露される。怒りを踊りに変えて。そして再び「Love It If We Made It!!」とシャウトするのだ。この日一番の感動的な場面に僕は泣いてしまいそうになった。

そしてステージはクライマックスへ向かい、必殺の「Chocolate」へ続く。「Sex」が終わった後、スクリーンには大きく「ROCK AND ROLL IS DEAD」「GOD BLESS THE1975」という文字が映し出された。そして間髪入れず、「The Sound」のイントロが流れ始める。なんという完璧な演出だろう。

余りにも完璧で美しい1時間。バンド4名とサクソフォン・プレイヤーとダンサー2名。そしてシンボル・マークである縦長長方形のボックス型LEDが中央にぶら下がり、背後には巨大なスクリーン。ただそれだけのこと。しかし濃密で激しく、ユーモアがあり、温かみがあり、愉快さがあり、怒りがあり、優しく、しかも押しつけがましくなく、至ってクールに、けれど情熱的で生命の存在に満ち溢れた1時間。けれど何ひとつ重たい要素に支配されることなく、彼らは伝えたいことを存分に伝え、僕たちは存分にそれを受け取り、それでいてエンターテイメントに昇華された1時間。

僕たちはもしかしたら、とんでもないものを見てしまったのかもしれない。

 

追記:
途中、長いMCがあった。キスがどうのこうのと言っていた。英語力の乏しい僕はよく聞き取れなかったが、後から知ったところによると、日本へ来る前にドバイで行われたコンサートでの出来事を語っていたらしい。同性愛が厳罰に処される彼の地でヒーリーは「結婚して!」と叫ぶ同性愛の男性ファンの元へ向かい、彼の承諾を得て口にキスをした。そのいきさつを語ったようだ。ライブでの大事なひとこまだったと思うので、ここに記しておきたい。

 

セットリスト:
1. The 1975(SE)
2. Give Yourself a Try
3. TOOTIMETOOTIMETOOTIME
4. She’s American
5. Sincerity Is Scary
6. It’s Not Living (If It’s Not With You)
7. I Like America & America Likes Me
8. Somebody Else
9. I Always Wanna Die (Sometimes)
10. Love It If We Made It
11. Chocolate
12. Sex
13. The Sound

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