お話:
『ボクの○』
算数の時間に書いた○
コンパスが壊れてて○がふくらんだ
お母さんにコンパスを買うからお金をちょうだいと言うとお母さんは
「それはいいけど、コンパスを使っても本当の○は書けないわよ」
ボクは駅前の文房具屋へ出かけた
店のおじさんにコンパスがこんなになったから
新しいのを買いに来たんですと言ったらおじさんは
「それはいいけど、新しいのでも本当の○は書けないよ」
帰り道、ボクは考えた
本当の○ってなんだろ?
マンホールは本当の○?
道路の標識は本当の○?
信号の赤とか青は本当の○?
自転車のタイヤは?
お皿は?
メダルは?
ボクは部屋に入って新しいコンパスで○を書いてみた
鉛筆の先を削って、力加減を同じにして慎重に○を書いた
出来た○をずっと眺めてみた
ボクは○の中に吸い込まれそうな気分になった
○は大きくなって○がボクを包むぐらい大きくなってもっともっと大きくなった
ボクは○の端を歩いていた
ボクの歩いた線は太くなっている
まだ○の端っこ、太いのはちょっとだけだ
隣にはお兄ちゃんがいた
お兄ちゃんはボクより少しだけど太いとこが長かった
あ、お母さん お父さんも
もう半分ぐらい来てるのかな ふふ、逆さまになってる
分かった これは僕たちの生きる道なんだ
よく見ると色分けされてる
多分…最初の4ぶんの1はピンクだから春
その次は青だから夏で、赤は秋、白は冬
ボクとお兄ちゃんはピンク え~、ちょっとヤダなぁ
お母さんとお父さんは青と赤の混ざったとこ 変な色…
おばあちゃんは白 あ、だから髪の毛白いんだ
見渡すと他にもたくさん
近所のおばちゃんや文房具屋さん
あ、あの人の○はちいさい あっちも
ホントだ!人によって○の大きさが違う
僕のは、、、よかった ふつうだ
うーん、でもよく見ると○は大きくなったり小さくなったり
きっとその人の歩き方によるんだ
けど○の大きさが違ってもピンクとか白とかの色分けはみんな同じなんだ
へぇ~
「お母さん! わかったよ わかったよ!」
「ん?なにが?」
「ほんとの○が書けないってやつ。ボクはまだちっさいから○にならないってことだよね!」
「あ、あれ。それあんた、お母さんとおんなじで ぶきっちょだからよ」
「そうじゃなくて、ボクはまだちっちゃいから○になんなくて、○は人によって大きさが違って、でもちゃんと歩いてたらいいんだよ!」
「あ?あんた何言ってんの?」
「ボク、ちゃんと歩いてるよ!」
「ぶー。靴のかかと踏んでるからダメ~」