キリンの子/鳥居 感想

ブックレビュー:

『キリンの子』 鳥居

書くことは苛酷な記憶を辿る行為となるかもしれないけれど、それはそれとして存在しつつも一方で、鳥居さんは言葉を紡ぐ行為自体がただ楽しかったのではないかと思います。絶望だけではなく、命の輝きとか命の尊さが見え隠れするのは、きっとそういうことなのではないかと。鳥居さんの歌は死んでいない。ちゃんと生きている。掴んで離さない命が地中深く根付いている。そんな気がしました。

いい詩とは、最後に離陸する詩だと、詩人の茨木のり子さんは言っています。鳥居さんの歌もイメージの飛躍が素晴らしいと思いました(例えば、「水たまりをまたいで夏が終わる」とか)。

解説にもあったけど、冷静な観察眼も特筆すべきことだと思います。「母が死体になる」も「みょうが46パック」も彼女の目線は同じです。温度が変わらない。湿度がありません。歌が心のありようを詠むものだとしたら、大抵はそこに何らかの気分は入れたくなるものだけど、彼女は正確に描写をするだけ。けれどちゃんと作者にも読み手にも立ち上がる言葉。言ってみれば正岡子規の言う写実ということになるのだろうけど、これはやろうと思ってもなかなか出来るものではなくて、才能もあるけれど、本人がそうすべきだと自覚しているからだと思います。

この短歌集は何度も読み返したくなります。それは読むたびに新しい発見があるのを知っているから。僕は短歌のマナーや技術的な良し悪しは分からないけれど、彼女のバックボーンに依らずとも、純粋に素晴らしい短歌集だと思いました。

Hats off to the Bsusker/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Hats off to the Buskers』(2007) The View
(ハッツ・オフ・トゥ・ザ・バスカーズ/ザ・ヴュー)

久しぶりにザ・ヴューのデビュー作を聴いたら、すっげー良かった。彼らの持ち味であるどう転んでも間違いないソングライティング力がグイグイ飛び込んでくる。今もいい曲を書いてるけど、純粋なソングライティングの力という意味ではこのデビュー作だろう。走り抜けるようなロック・チューンもいいし、テンポを落としたのもちゃんと聴かせる。落ち着きのないガチャガチャした連中かと思いきや、ちゃんと整理整頓されてて、イケイケなくせに自分勝手でないところがこのバンドの最大の魅力だろう。

聴いてて思うのは、ザ・フーとかクラッシュといったUKロックの伝統が自然と体の中にあるということ。そこを踏まえての今の若い世代が奏でる元気のいいギター・ロックという感じがとてもいい雰囲気だ。2015年のアルバムでは新たなニュアンスに取り組んでたけど、やっぱザ・ヴューといえばこっち。

勿論そんなことはないんだろうけど、遊び半分で適当に作ったらこんなん出来ましたみたいなノリがやっぱいい。そのぐらいのノリでもこれぐらいは作れちゃう力がやっぱり彼らにはあるんだろうし、今もそっちの方がいいんじゃないか。長くやってるとロックのくせに頭でっかちになりがちだけど、やっぱこれでしょ。でまたこういうのって誰にも出来るってもんじゃないし、それが今だに出来ちゃうのがザ・ヴューってことだろう。

音楽性とか意味性とか別にどっちだっていいよ、っていう姿勢は今もそうなんだろうけど、この外連味の無さというのは1stならでは。普通に歌っててもついついシャウトしちゃうカイル・ファルコナーのボーカルが最高だ。駆け出しロック・バンドの無敵感、存分に出とります。「ちょっと兄ちゃん、景気いいのやってよ」、「ほいきたっ!」って感じ。

 

1. Comin’ Down
2. Superstar Tradesman
3. Same Jeans
4. Don’t Tell Me
5. Skag Trendy
6. The Don
7. Face For The Radio
8. Wasted Little DJ’s
9. Gran’s For Tea
10. Dance Into The Night
11. Claudia
12. Streetlights
13. Wasteland
14. Typical Time

しんみりとした#7からアクセル全開で#8へ繋がるところが最高!

オレトレース

ポエトリー:

『オレトレース』

 

胸に三センチ 奥の弾丸抜き出す

駆け出す 勾配ものともせず

矢のように 駆け抜ける

かつて老人たちが見た夢 いた景色

遠のいてフラッシュバック

高速コーナー 斜めに入って

落ち着いた態度で索引

目を引くような娘 目の前の群れ

弾丸目で追いかけ しかしすぐに息粗く

頭の中渦巻く 何もかも一緒くた

最終コーナー先んじて 一歩先行く

君は抜け出た弾丸

弾丸はかろうじて 数歩詰め寄る

運命の糸 足絡ませ

手繰り寄せ タグを付け

胸の奥三センチの弾丸

今日も抜き出す

 

2017年7月

 

22,A Million/Bon Iver 感想レビュー

洋楽レビュー:

『22,A Million』(2016) Bon Iver
(22、ア・ミリオン/ボン・イヴェール)

ボン・イヴェールとしては久々の新作。前作がグラミー獲っちゃったもんだから、本人もびっくりして構えてしまったとこはあるかもしれないけど、こうやって新作を聴いてるとちゃんとボン・イヴェールとしての切り口を更新しちゃってんだから、やっぱ大した才能だ。

ボン・イヴェールことジャスティン・バーノンはもともと色んなユニットを持ってて、アウトプットに応じてとっかえひっかえしてるみたい。それぞれの特徴を僕はよく知らないが、ボン・イヴェールとして出す場合は割と個人的な側面が強い時ではないだろうか。そういう意味じゃ前作までは自然ばっかの片田舎で一人キャンバスに向かうっていうイメージだったのが、今回は仲間を沢山呼んで騒ぎ散らかした後の余韻が欲しかったんですみたいな感じ。カッコよく言やあ、祝祭の感覚、祭りの後みたいな。

ただ今回も自然豊かな情景が背後にあるかっていうと、そうでもなく随分と息苦しくなってきているのも確か。ボーカルにエフェクトがかけられたり、ノイズがバシバシかかってたりとストレートな表現とはほど遠い。なんでそんなにフィルター欠けるのかは本人にしか知る由もないが、ただやっぱりそこは作者の現実認識というか、今の世、実際に何かを発してもそうなってゆかざるを得ない現実世界があるからかもしれず、逆に言えば我々はもうそうすることでしか自由に表現することが出来ない体になっているということなのかもしれない。リアルタイムに生の声を届けることが出来る時代になったけど、逆にリアリティは減じているのではないかという。それを力づくで伝えようとした結果がこれ。鼓膜に直接傷を付けていく感じが面白い。しかし混沌としたサウンドになってはいても本人はさほど不自由に感じていないだろうし、むしろ今の気分としてはこれが自然な形なのかもしれない。この自由なのか不自由なのか分からない感じはまるでSF。

ボンイヴェールの音楽は絵画的な要素があって、音楽を聴くという感覚も勿論あるけど、観賞しているという意識もかなりの部分ある。今回も絵画は絵画なんだけど、より筆のタッチは激しく、色使いも鮮やかになり、勿論細部まで手は行き届いているが、全体として面で押す感じが強い。細かいニュアンスを見て欲しいというより、とにかく聴いてくれ、って感じ。そういう意味では前作が内にこもる狂気をはらんでいたのに対し、今回は目線がずっと外に向かっている気がする。音楽的にもエレクトリカルな要素が強いし、そこにホーンが絡んだりするので(これがまたいいんだな)、結構目線があちこち行って聴いてて結構楽しい。こういう感じは前作には無かったな。#4みたいなシリアスなやつの後にポッとフォーキーな#5が来るみたいな表情の豊かさが全編通してあって、随分聴きやすくなったのではないか。

まあ聴きやすいといってもこういう音楽だから人によるんだろうけど、ただ凡そポップ・ミュージックの決まり事なんか始めから頭にないような、作者が描いた風景がそのまま出てきたような音楽を聴くことは僕にとってもいい体験。馴染みのあるフォーマットのメロディがないのは、逆に言えばジャスティン・バーノンに明確なメロディがあるからだろう。

どっちにしてもこれまた凄い作品だ。色んな顔を持っているので、ボン・イヴェールとしての作品がまたあるのかは分からないけど、次も期待しないで待っておこう。慣れるまでは大変だが、そうやってまで聴く価値のある作品。

 

1. 22 Over Soon
2. 10 Death Breast
3. 715 Creeks
4. 33 “God”
5. 29 #Strafford Apts
6. 666 Cross
7. 21 Moon Water
8. 8 Circle
9. 45
10. 1000000 Million

いい言葉を聞きたい

ポエトリー:

『いい言葉を聞きたい』

 

いい言葉を聞きたい

出来れば琥珀に乗せて

夕方、

うつらうつらの調べに乗せて

 

もしくは君の声

喉の奥、

3センチに詰まった君の声

 

あるいは旅に出て、

リラックス

2泊3日で帰ってきた声

 

穏やかな午後

いい言葉を聞きたい

いっそのこと

君の声を借りたい

 

2017年7月

ポテトサラダ

ポエトリー:

『ポテトサラダ』

 

エアコンから君の噂話
温度を下げて聞こえなくしてしまおう
キッチンに戻って食べかけのポテトサラダ
君の得意技
マヨネーズが少しばかり多い

君はキッチンに立った
現代音楽の巨匠みたいに
味はともかく、
うるさかった

鍋を二個以上使うのが苦手だった
君の得意な料理がポテトサラダで
僕の得意な料理が麻婆豆腐というのも
君が気に入らないことの一つだったけど
そういうところがいいと言う僕をまた
君は気に入らなかったのも事実

努力すべきことではないと知りながら努力をし続けた僕たちに見切りをつけ君は
世界の事を少しだけ知り得た猫みたいに大きく背伸び
律儀に話し合いをして僕たちの夏は終わった

僕がこうして
ポテトサラダを作るのは
君を懐かしんでいるからではなく
マヨネーズが少しばかり多くなってしまうのも君のせいじゃない

けれど僕の作るポテトサラダが微妙に上手くいかなくなったのは
きっと全部君のせいだ

 

 

2017年7月

Night Buzz/高田みち子 感想レビュー

邦楽レビュー:

『Night buzz』(2004) 高田みち子

今ちょうど季節は雨。梅雨の季節である。僕が高田みち子さんを知ったのはかれこれ5年以上も前のこと。ちょうどラジオで梅雨の日特集をやっていたのがきっかけだった。僕は一瞬で虜になった。アルバムを探したけど、あったのは4,000円も5,000円もする中古品。もう新品は何処にも無かったんだな。高いのを買うのは癪だから、時々ネットをチェックをしてたんだけど、ようやくお手軽価格を発見。といっても定価よりは若干高めだった。でも新品がもう無い以上ここを逃す手はないと迷わず購入。その時はもう次の年の梅雨の季節になっていた。

僕がこの時ラジオで聴いたのは『雨は優しく』という曲。静かなバラードだ。サビで「雨、雨、雨、、、」とただ繰り返すだけのこの曲がとにかく素晴らしくて胸にじーんと来た。それこそ雨の情景が浮かんで、僕が浮かんだのは部屋の中から見える雨の景色で、外は暗くて粒が見えるくらいに降っている。こういうのを叙情詩というのかな。恋の終わりの歌だからエモーショナルな歌詞なのに、湿っぽくなくてただ淡々と「雨、雨、雨、、、」。雨のクセに湿っぽくならない、というかなれないという感じがまた切なくて。僕はこの時以来、6月になると毎年聴いている。

情景が浮かぶもう一つの要因はサウンドだ。演奏がホントに素晴らしい。バンドのメンバーはかつて山下達郎や坂本龍一らを輩出したという「What is Hip」なるユニットだそうで、折角だからここで名前を挙げておくと、松木恒秀(guitar)、岡沢章(bass)、野力奏一(piano, organ, keyboards)、渡嘉敷祐一(drums, perc)という面々。高田みち子とは何度か一緒に組んでアルバムを作っているようだ。

とにかくいいバンドで、『雨は優しく』では雨の音など一つも入ってないのにホントに雨が降っているような気がしてくるし、『カナリヤ』ではカナリヤが飛び去っていくのが見える。『僕らの樹』ではちゃんと目の前に大きな樹がそびえ立つんだな。歌に静かに寄り添っていて、ホントに素晴らしい演奏だ。

あとこれは僕の好みだけど声がいい。こういうちょっと低くて鼻にかかった声、ほんと大好きだ。『僕らの樹』で聴こえる伸び上がるパートは至福の瞬間です。あ、僕の好みなどどーでもいいか(笑)。とにかく、明瞭で知的、表現豊かで素晴らしいボーカリストだと思います。

新品は無いけど、ダウンロード版はあるみたいで、しかもハイレゾ版もあるそう。ホントいい時代になったもんだ。

 

1. 51st Street, Lexington Avenue
2. chocolate
3. 雨は優しく
4. カナリア
5. Night buzz
6 Don’t Say A Word
7. 春を待ってる
8. Your God
9. 夕暮れと嘘
10. The Tracks Of My Tears
11. 僕らの樹

引き出しはゼロになる

ポエトリー:

『引き出しはゼロになる』

 

本当のことを知りたい君 夜更かしがやめられない

全部0にして朝を迎えるつもり しかし朝の光が気持ちを拡散

1からやり直し 本当と嘘を折りこみ

引き出しの奥 遠く耳鳴り

黒いTシャツから覗く 軽く尻込み

人を好きになって自分を知る 0にはなれない

この気持ち積上げて 時空の壁を蹴り上げる

地球の自転を越え ついでに月の公転も越え

何周も何周も素早く ダイナミックに何周も

ところでふと 始まりはいつだか終わりはいつだか

朝はどこだか夜はどこだか また1からやり直し

引き出しは結局 全部0になる

 

2017年7月

Ti Amo/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ti Amo』(2017)Phoenix
(ティ・アモ/フェニックス)

6枚目、2013年の『Bankrupt!』から4年ぶりのアルバムが届いた。そう、フェニックスのアルバムは届いたという言い方がしっくりくる。メイン・ストリートから少し離れたところで、自分たちのペースで音楽を奏でる。いい曲が幾つかできたから皆に紹介するよ。いつもそんな印象だ。でもしっかりとした芯があって、哲学と言うのかな、そういうものが揺るぎない。今回は前作とは一転、穏やかな音楽。しかし彼らの意志がこれほどはっきりと示されたアルバムは過去になかったのではないか。

タイトルはイタリア語で「愛している」。なんでも今回のアルバムは‘イタリアの夏のディスコ’というイメージで作られたそうだ。僕はイタリアに行ったことはないけど、頭に中に浮かんだのは、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『ライフ・イズ・ビューティフル』とかのあの景色。夏の南イタリアの風景だ。そういえば最近のインタビューで面白いことを言っていた。「例えばマカロニ・ウェスタン。あれはイタリア人の解釈で撮られたウエスタン映画。そこに面白さがある。今回のアルバムで言えば僕らのヴィジョンを通したイタリア。そこには僕らを通過した歪みがある。」。これは面白い指摘だと思う。でも表現というものはすべからくそういうものかもしれないな。

彼らはベルサイユ宮殿の傍で育った根っからのパリジャン。けれどいつも英語で歌う。しかし今回は珍しくフランス語の歌詞がふんだんに出てくるし、タイトルどおりイタリア語の歌詞だってある。ということで、彼らの音楽は元々ヨーロッパ的だけど、今回は特にヨーロッパ的だ。これは意図的にそうしたというより、自然とそうなったという方が的を得ているのではないか。彼らの皮膚感覚がそうさせたのではないかなと思う。要するに今ヨーロッパは大変な時期を迎えていて、その影は彼らの日常にも落ちているということ。しかし彼らは殊更そのことについて歌ったりはしない。むしろここで歌うのは半径数キロ、生活圏の物語だ。自由を愛し、お喋りを愛し、そして愛を語るのやめない人々のちょっとした物語。そういう身近な事を歌っている。彼らが今、一番大事にしているのはそういうことなんだと思う。

そういう意味ではサウンドも穏やかだ。前作で目に付いた派手なサウンドは随分と控えめ。初期の頃の、それこそ2枚目の『Alphabetical』のような隙間を活かした音作りがなされている。派手なシンセの音が遠ざかった分、ちょっとしたギター・フレーズがよく聴こえて心地よい。ひと言で言うととても優雅。言葉もロマンティックだけど、サウンドもロマンティック。穏やかだけど物凄くエモーショナルでとてもいい感じだ。

エモーショナルと言えば、最後の曲なんてたまらない。いつまでもこういう素直な表現が出来るのは素晴らしいと思う。僕たちにもイノセンスを信じ続ける強さが必要だ。

1. “J-Boy” J-ボーイ
2. “Ti Amo” ティ・アーモ
3. “Tuttifrutti” トゥッティフルッティ
4. “Fior di Latte” フィオール・ディ・ラッテ
5. “Lovelife” ラヴライフ
6. “Goodbye Soleil” グッバイ・ソレイユ
7. “Fleur de Lys” フルール・ド・リス
8. “Role Model” ロール・モデル
9. “Via Veneto” ヴィア・ヴェネト
10. “Telefono” テレーフォノ

映像が喚起されていい感じ。
彼らの優しさと強さが入り混じったいいアルバムだ。
僕のお気に入りは#4。美しくて幸せな気分になる。

Be Here Now/Oasis 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Be Here Now 』(1997)Oasis
(ビィ・ヒア・ナウ/オアシス)

オアシスがデビューしたのは1994年で、全世界で2,300枚以上売れたと言われる『モーニング・グローリー』は1995年。で、この『ビィ・ヒア・ナウ』が1997年つうことで僕はどんぴしゃの世代なんだけど、全然聴いてなかったんだよなあ。僕は当時、1960年代とか70年代とかの古い音楽ばっか聴いてて、リアルタイムで流れてるやつには全然興味なくって、だから当時のブリット・ポップ・ブームは全くの蚊帳の外。今思えば随分勿体ないことをしたなんて思うんだけど、仮に当時の僕がこの「僕らの音楽」全開のオアシスを聴いてたら一体どうだったんだろうかとも思う。どっちにしても素通りしてたのかもしんないけど、でも今こうやって聴いてるとオアシスは例外、こりゃ夢中にならざるをえんでしょ、ってな特別なパワーを感じてしまう。

この『ビィ・ヒア・ナウ』が出た当時はオアシス絶頂期の頃で、そりゃ勿論リリース時は熱狂的に受入られたんだけど、時間が経つにつれそれまでのシンプルなロックンロールからかけ離れた重厚なサウンドにあちこちで賛否両論があったみたい。当のノエル自身も後からあんまりのような発言をしちゃったりということで、このアルバムは幾分残念な作品として知られている。

とは言っても僕からすりゃ全然カッコよくて全然残念なアルバムではなくて、だいぶ後の最後のアルバムから比べれば、そりゃあもう本気度が全然違うし、曲もいいし、リアムもガンガン歌ってるし、流石にちょっとそない繰り返さんでもええやろとか、そないアウトロ引っ張らんでもええやろとか、要するに世間の評判通りの「どんなけ長いねんっ!」てな突っ込みは入れ放題なんだけど、この力入りまくりの巨大なエネルギーに比べたらそんなことは些細なことで、普通に考えりゃこりゃめっちゃかっこええアルバムなのだ。

なんでも1作目から3作目までの曲はデビュー前にほぼ書き上げていたらしく、要するにノエルがそっからこれは1st用、これは2nd用てな具合に配分してたということで、そう考えりゃこのアルバムのやたら大げさでギター被せまくりのサウンドは、ノエルにしてみりゃ想定内ということかもしれない。ただ勢い余ってやり過ぎちゃった感はあったかもしれないが、1stからの異様な上昇カーブを考えたら、こうならざるを得んでしょってことで、この調子に乗り具合もオアシスらしくていいんじゃないだろか。

となると徐々に下降線を辿ってくこの後のアルバムもそれはそれで興味深いんだけど、今はただリアムのやったらんかいボーカルに酔いしれておこう。脂乗りまくりのリアムの声はやたらかっこいいぞ。2016年に出たリマスターのデラックス盤はノエルによるデモ音源(全曲!)が売りのようで、これはこれで完成してるやん、ていう程の出来らしいが、俺はそんなものいらない。リアムの声がなけりゃただのいい曲。

1. D’You Know What I Mean?
2. My Big Mouth
3. Magic Pie
4. Stand By Me
5. I Hope, I Think, I Know
6. The Girl In The Dirty Shirt
7. Fade In-Out
8. Don’t Go Away
9. Be Here Now
10. All Around The World
11. It’s Gettin’ Better (Man!!)
12. All Around The World (Reprise)

#1に#4に#5に#8に#10に#11に、、、
なんだかんだ言って名曲目白押しっ!