たった一日

ポエトリー:

「たった一日」

 

12月31日は12月31日というだけで12月31日の顔をする
1月1日は1月1日というだけで12月31日の事など何もなかったかのように
1月1日の顔をする

三月の時で言うと
卒業式の日は期待するほど何も起こらない
何も起こらないけれど何も起こらないことで日々は過ぎてゆくということを知る

好きな人と初めて過ごした時
その翌日は素晴らしい一日
よく耳にする幸せとはこういうものかと体中で知ることになる

近しい人いなくなった時
現実が重くのしかかる
当たり前のことを知る
現実の意味を知る

たった一日で
この魂が砕けてどこかへ行ってしまうかもしれない
頭をぶつけたり、腕を失ったり、体全体が爆発してしまうかもしれない
もちろんいい事だって
一億円が当たったりだとか
その時はどういう気分か想像つかないけど

僅か一日ですべてが変わって見える
そんな一日を生きていると何度か経験する
僅か一日ですべてが変わって見えるのではなくて本当に変わってしまうこともある
例えば今住んでいるところがなくなっちゃうとか

とにかく
すべての事は僅か一日で変わってしまう
これまでがそうだったように私たちのこれからもたった一日で変わるだろう

とはいえ
さっきまで12月31日の顔をしていた12月31日がたった一日で1月1日の顔になるのだから
別にどうってことない
どうってことないだろう

 

2017年1月

パークタウン

ポエトリー:

「パークタウン」

 

穏やかな秋晴れの日
運河沿いのパークタウン
風は何を運ぶでもなく
無口をつらぬく

久しぶりに
外の空気を吸い込む
振り返るいとまもなく
今日にうちに含まる明日

手すりの向こうには
やりたいこと、やり残したこと
通りゆく船が
雑に混ぜ返す

秋晴れの日
景色は何も変わらない
水面は静か
風は何も運ばず
運河沿いのパークタウン

 

2021年10月

Sour / Olivia Rodrigo 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Sour』(2021年)Olivia Rodrigo
(サワー/オリヴィア・ロドリゴ)
 
 
20数年前に圧倒的な新種として宇多田ヒカルが登場したときも、二匹目の鯛を狙ってか彼女に似たような売り出し方をされた新人が数多くいた。見当違いの売り出し方をされた当人はさぞ迷惑だったろうと推察するが、「Driver’s License」のメガヒットで第二のビリー・アイリッシュと目されたオリヴィア・ロドリゴであるけれど、待ちに待たれたデビュー・アルバムの1曲目にレーベルの反対を押し切って’90年代オルタナ・ロック風の「Brutal」を持ってきた彼女のキャラクターによって、第二のビリー・アイリッシュとしていつの間にか消えていくという危惧はすっかり吹き飛ばされた。
 
長くティーンエイジャーの代弁者であったロック音楽はその王座をヒップホップに完全に奪われ、2010年代は見る影もなくなった。しかしサブスクの普及とともに、音楽志向の多様化は急激に進み、90年代に青春期を過ごした僕でさえも分け隔てなくケンドリック・ラマーやリトル・シムズを聴く時代。若い世代ではなおさらだろう。そして2020年代を迎え残ったのは廃ることのないシンプルで優しいメロディ。そのポップ・フィールドでの代表がビリー・アイリッシュなら、インディ・ロックの代表はスネイル・メイル。そしてメイン・ストリームに登場したロックがマネスキンであり、オリヴィア・ロドリゴだ。
 
クレジットを見るとソングライティングはほぼオリヴィア本人とNigroなる人物との共作(#8「Happier」と#9「Jealousy,Jealousy」はオリヴィアの単独作)。どこまで彼女が主導しているのかは分からないが、皆が大好きなアヴリル・ラヴィーンのポップ・パンクとパラモアのエモとテイラー・スウィフトの詩情とビリー・アイリッシュのゴシックが初めから搭載されたオリヴィア・ロドリゴは、まるで子供の時からスーパーサイヤ人になれたトランクスと悟天のようで最強。スーパーサイヤ人2や3を期待する周囲は気にせず、自由に羽ばたいて欲しい。
 

I Don’t Live Here Anymore / The War On Drugs 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『I Don’t Live Here Anymore』(2021)The War On Drugs
(アイ・ドント・リブ・ヒア・エニモア/ザ・ウォー・オン・ドラッグス)
 
 
ウォー・オン・ドラッグスの場合、いつもブルース・スプリングスティーンが引き合いに出されるが、本当にそうだろうか。ウォー・オン・ドラッグスにはサックスもオルガンもないし、なによりあの派手でエネルギッシュなボーカルはない。それでもやっぱ似ていなくもない。と考えていると、あぁそうだ、90年代のスプリングスティーンがEストリート・バンドから離れた『Lucky Town』や『Human Touch』の時期、あの頃の雰囲気はあるかもしれないと。でもそれってブルース唯一の低迷期や~ん。
 
ま、でもそうではなくて僕のイメージではオルタナ・カントリー、ウィルコの並びですね。ただウィルコほどの洗練さはなく、もっと土臭い、ハートランド・ロックなんて言われていますが、でもその分野で考えても、ウォー・オン・ドラッグスはちょっと違いますね。サウンド的にはエレクトリカルな部分もあったりかなり新しいことをしているのだとは思いますし、あぁそうだ、やっぱ彼らは土臭い田舎が嫌で都会でなくともいいからとにかく別のところへ行きたい感はあるかも。ってことで僕がわりかし彼らを好きなのは同じく閉鎖的な地元から早く抜け出したかった自分と合致するのだなと、あぁ、ここにきて合点がいった。
 
しかもこのアルバムでは更に聴きやすくなっている。気づいたら、親密なバンド感もあるし、2020年代的なポスト・ロックとしても側面もあって、かなり守備範囲の広いアルバム。なんてったってメロディがいいし。あとはもうクセがなさそうでクセがあるボーカルに好き嫌いが分かれるぐらいだろう。なんだそれ、ダッド・ロックじゃんって思わせながら、そういうのとは対極にある実はめっちゃ新しいロックじゃないかこれは。ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴと並べて聴いても違和感なし!

2021年 洋楽ベスト・アルバム

「2021年 洋楽ベスト・アルバム」
 
 
2020年がコロナに萎縮した年だったとすれば、2021年は様子見をしながら少しずつ動き始めた1年ということになるだろう。とはいえ、今年も海外からミュージシャンを呼ぶことは出来ず、洋楽ライブはほぼ無し。この状況に慣れたと言えばそうかもしれないが、それはそれで内向き思考が促進されるようで、やはり僕としては生きる上で「外に出る」気持ちは保ち続けたい。2022年は洋楽ライブが復活するのだろうか。
 
今年は国内のミュージシャンを聴こうキャンペーンを個人的に発動していたのだが、終わってみればたった5枚のみ。ただ、僕が20代の頃に聴いていたくるりやグレイプバインが今もめちゃくちゃカッコいいというのを知れたし、羊文学という新しい才能を知れたので、このプチキャンペーンも意味はあったのかもしれない。2022年も意識的に国内ミュージシャンを聴こう。
 
洋楽の方に目を向ければ、今年は初めて聴く人たちが多い年だった。つまり新しい才能が沢山いたということだが、中でもロックが多種多様で楽しかった。所謂UKサウス・ロンドンもそうだが、2021年はやはりマネスキン。最初はパロディかと思わせつつもアークティックっぽさもあれば高速ラップもふんだんに、完全に今の時代にこそ現れた新種のような輝き。外見はハデハデだが中身は柱なみの揺るぎなさで、まるで宇随天元のようだなと思いつつ、2022年は生マネスキンを体験したい。
 
さて2021年の個人的ベスト・アルバムはどうしようかなと、僕がアルバムを聴くたびに付けていた点数を振り返ってみると、10点満点はテイラーさんの『Evermore』(2020年末だったので2021年としてカウント)、くるり『天才の愛』、ウルフ・アリス『BlueWeekend』、リトル・シムズ『Sometimes I Might Be Introvert』、折坂悠太『心理』の5枚。ていうか5枚もある。ただ今振り返ってみると、ウルフ・アリス、折坂悠太、リトル・シムズがベスト3か。ていうかこの3枚から一つは選べねぇ。。。
 
というわけにもいかないので無理くり選択。1か月後には気持ちが変わっているかもしれないが、とりあえず個人的2021年のベスト・アルバムはこれでいきます。脳内評議会の結果は、、、
 
 ドゥルルルルル。。。。。、ドンッ!はいっ、ウルフ・アリスさんの『Blue Weekend』です!
 そして特別賞として折坂悠太さんの『心理』。
 ベスト・トラックはリトル・シムズさんの『Little Q, Pt. 2』になりました~。
 
ちゅうか、3枚とも選んでるや~ん!
 
ま、それぐらい甲乙つけがたいということで。ただウルフ・アリスは初期のピークとして、勿論これからキャリアを重ねる中でまた別のピークは迎えるとは思うのですが、20代でのこのピークを記録しておきたいと、この作品はそういう気持ちにさせる特別感があったと思います。あと折坂悠太はまだ底が知れないというか、まだまだピークは先にあるんじゃないかという気はしている。でまぁリトル・シムズはサウンド、ラップ、リリック、どれをとっても最高なんですが、やっぱ2021年はロックを選びたいなと。ま、そういうことで完全に今の気分で選びました。
 
中国で発生したウィルスがその後の1年をあんな風にするとは思ってもみなかったし、今の状況も去年の今頃からは想像できていない。オミクロンなどというアメコミに出てきそうなキャラクターの名前も1年後にはどう響いているのか全くもって分からない。相変わらずマッチョな価値観に引きずられがちな世の中ではあるが、やりたいこと、やりたくたいことにしっかり線引きし、図らずもコロナ禍で顧みられることになった個をこれからも大切に出来ればよい。窮屈な世界はまだまだ続くが、私はいいですと少しは開き直って言える世の中になってきたのかもしれない。
 
とは言いつつ、アートに対してはこれまで以上にオープンに。Life is short 、人に構わず好きなことに邁進していければ。逆に言えば、それが異なる視点を持った他者との交流に繋がるのだから。

Sometimes I Might Be Introvert / Little Simz 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Sometimes I Might Be Introvert』(2021)Little Simz
(サムタイムズ・アイ・マイト・ビー・イントロヴァート/リトル・シムズ)
 
 
このアルバムで度肝を抜かれた一人です。同じくInfloが手掛けたSAULT名義の幾つかのアルバムでその洗礼は受けていたはずなのに。つまりはリトル・シムズなる英国の若いラッパーにもやられたということ。ロック聴きの僕がラップをうなされる程に聴き続けたのはチャンス・ザ・ラッパー以来。よい音楽にラップもロックもないということだが、このキャッチーなラップには誰だってやられるでしょ。ってキャッチーなラップって何?
 
つまりリトル・シムズの織りなすフローには俺はこんなに偉いんだとか俺はこんなにデカいんだといった俺様自慢はなく、ただ淡々と私の物語を私小説のように、時には絵本のように読み聞かすのみ。まぁ絵本にしては大変な人生だけど、この絵本のようにが凄く大切で、そこには淡い色があって時にはどぎつい色があって、そうやって自分の側に引き寄せられるからこそ私のようなサラリーマンでも絵を感じられるのです。#5『I Love You, I Hate You』を聴くとあなたも映像が浮かぶはず。
 
とかなんとか言ってそれっぽく書いているが、#6『Little Q, Pt. 2』や#13『Protect My Energy』といった華やかなポップさにやられたのが事実。饒舌高速ラップにサビはキャッチーなメロディー、でもってオシャレなサウンド、っていうウケる要素は今までにも沢山あったろうけど、そこを狙ってやったのとやってるうちに壮大にこうなってしまったとでは大きく異なる。加えて、リトル・シムズとInfloは幼馴染という背景もあってか完璧なコラボ。どこまで登るんだいというぐらい登ってます。
 
全19曲。頭から順に聴いてたどりつく#18『How Did You Get Here』は感動的。ここでリトル・シムズが語るこれまで努力は、今現在、何かに向けて一心不乱に取り組んでいる人たちへの大いなる勇気となるだろう。それを受けての最終曲、誤解から逃れることの出来ない様を描く#19『Miss Understood』もまた心を打つ。

一年の計

ポエトリー:

「一年の計」

 

同じ言葉で嘆くより
違う言葉でハグしよう

같은 말로 한탄하는것 보다 다른 말로 안아주자

用同样的话语相互叹息,
不如用不同的话语拥抱彼此

Instead of lamenting with the same words,
let’s hug with different words.

 

2022年1月

Valentine / Snail Mail 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Valentine』(2021)Snail Mail
(バレンタイン/スネイル・メイル)
 
 
自分で曲を書いておきながら、私の言いたいことはこんな事じゃないとでもいうような不満感を感じさせるのはロック以外の何ものでもない。シンプルな編成のギター女子として登場したけれど、2ndとなる今作ではそのエンジンにシンセという新しい加速装置が取り付けられその飛距離はグンと伸びた。初っ端の#1『Valentine』のコーラスで爆発する様はいきなりカッコいいぞ。おもいっきりロケットで飛ばされたぐらいの宇宙感はある。
 
スネイル・メイルというのは芸名で直訳すると ‘カタツムリ便’ 。カタツムリがギターとシンセの融合音でドカンと発射されるのも凄い絵だなと思いつつ、考えてみればすげぇカッコいい名前。ぱっと見、長澤まさみ似の美人のくせにコンプレックスだらけみたいな立ち居振る舞いで、うじうじして最後にゃグワーッとなってしまう(←まったくの想像です)彼女にはピッタリの名。うまいこと付けたもんだ。便と言うからにゃやっぱ届けたいんだな。
 
それにしてもビリー・アイリッシュといいスネイル・メイルといい、最近の若い娘はシンプルで優しいメロディーを書きやがる。#4『Light Blue』と#5『Forever(Sailing)』の低い地声のファルセットがかすれる高音部のなんと美しいこと。どうかこのままショービズの世界で潰されずにすくすくと育ってほしい。しかしまぁ、自分をふった相手の名前をアルバム・タイトルにするなんて、すげぇ業だな。。。
 

溶解

ポエトリー:

「溶解」

 

手違いで訪れた世界
手のひらで溺れた人という文字を書いてみる
重ねてみる
くちばしであなたを尋ねてみる
新しい我が家に
新しい生物が
ここはわたしではなかったですかと問いかける

あなたの庭に
満開の花が咲くころ
かれんな姿のご婦人は
ご苦労さまと出ていった

手違いでゆらり
見たことのない衣擦れの
音、重なるほど
余韻の軋む音

偶然の成り行き
それとも迷い込んだ
不可思議な国の楽園は静かに体溶かして
あなたといた時間が頬を流れる

 

2021年9月

どこかにきずついているひとがいたら

ポエトリー:

「どこかにきずついているひとがいたら」

 

どこかにきずついているひとがいたら
ひとまえではなくまいと涙をこらえているひとがいたら

どうしてかわからなくて
なぜだかわからなくて
いきもできずに ことばもだせずに
だったらぼくがだいじょうぶってゆうよ

ぼくはもうきみのてをひいてやれないけど
きっとせいいっぱい
だいじなひとからてがみがたくさんくるくらい
ゆうひがまっかにそまるくらい
さよならがこんにちはにひっくりかえるくらい
だいじょうぶってゆうよ

そしたらダイヤモンドよりとうめいなきみの涙は
クレオパトラみたくせかいをそのてにいれて
まっすぐなにじになる

そしたらあまがえるがちょんととびはねて
きみがわらうよ

 

2012年5月