Wrecking Ball/Bruce Springsteen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Wrecking Ball』(2012)Bruce Springsteen
(レッキング・ボール/ブルース・スプリングスティーン)

 

僕は十代の頃からブルース・スプリングスティーンの音楽を聴いている。以来、色々なジャンルの音楽を聴いているがここに来てやっぱ思う。スプリングスティーンの音楽はやっぱすげえ。

詩、メロディ、サウンド、ボーカル、どれをとっても超一流である。一時期、若干のスランプがあったものの、ほぼ40年間ずっとメイン・ストリームで活躍しているのは、彼が労働者階級の代弁者だとか、米国の良心だからなんていう生ぬるい感情からではない。間違いなく、他を圧倒する無尽蔵の音楽的才能が備わっているからだ。

本作においても、その音楽的才能は如何なく発揮されており、十八番の大編成バンド・サウンドからゴスペル、民族音楽、はたしてラップまで(こちらは本人ではないが)、多岐に渡る音楽性を見せており、しかもニクイことに、どこをどう切ってもスプリングスティーンとしか言いようがないサウンドとなっているのだ。

この人の場合、常に政治への異議申し立てだとか社会の闇を切り取るだとか、妙にメッセージ色の強い言われ方をするが、そんなことは芸術家と呼ばれる人たちなら当たり前で、言いたいことがあるから何かを創るわけで、スプリングスティーンにしても政治の歌だけじゃなく、実に他愛のないラブ・ソングだってたくさんある。米国の世相を反映してなんて言われても、芸術家なんだから時代と関わってくるのは当たり前なんじゃないかな。それに昔から、『ネブラスカ』みたいのを作ったり、スタイルとしてはなんら変わっちゃいないと思うのだけど、どうもこのアルバムのレビューを見ていると、怒りだとかなんとかそんな形容がやたら目に付き、世相とやたら結び付けられるので、僕なんかは、ちょっと待ってよ、こんな素晴らしいサウンドがあるのに!なんて思ってしまう。

もう純粋に音楽として素晴らしくて、長くやってるのに回顧趣味なんて一切ない一級品のロック音楽。『ウィ・シャル・オーバーカム』で取り組んだアイリッシュ・サウンドが新たな風合いを加えており、実に表情豊かなサウンドに仕上がっている。また、今回はソロ名義ということでE・ストリート・バンドだけではなく非常に多くのミュージシャンが参加しているのも特徴で、そのこともこのアルバムの印象に幅を持たせている一因だろう。

で、やっぱりスプリングスティーンのボーカル。これが実に素晴らしい。どんな素晴らしいバンドがどんな素晴らしい演奏を奏でようとも全てを統べてしまう。改めて素晴らしいロック・ボーカリストだなとしみじみ思った。

とにかく、詩の内容は横に置いといて(勿論、素晴らしいのだけど)、サウンド的にここ数年の活動を総括するような、一点の曇りもない素晴らしいロック・アルバムだ。特に表題曲の#7『Wrecking Ball』と#10『Land of Hope and Dreams』は必須です!

 

追悼:
このアルバムがリリースされる前、クラレンス・クラモンズが他界した。僕はきっとクラレンス・クレモンズ(通称ビッグ・マン)がいなければ、スプリングティーンの音楽にこれほど夢中にならなかっただろう。もちろん、ダニー・フェデリーシのオルガンだってそう。とにかくE・ストリート・バンドと共にステージを縦横無尽に駆け回る若き日のスプリングティーンに僕は心を奪われた。いつも最後にビッグ・マンを嬉しそうに紹介するスプリングティーンを見て、この人達はなんて素敵な人達だろうって、そう思った。
20才くらいのときに『明日なき暴走』のジャケットを部屋に飾りたくて、大学の図書館で拡大コピーしようとしてうまくいかなかったことがある。今回のアルバムのインナー・スリーブの最後の方にスプリングティーンとビッグ・マンのバック・ショットがあるが、1975年の『明日なき暴走』のジャケットと長い年月を経たこのバック・ショットを見て、僕は改めて素敵だな、って思った。
今回のアルバムに収められた『ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリーム』。ここ何年か見た目にも分かるほど衰弱していたが、長年ファンの間で親しまれてきたE・ストリート・バンドそのものとも言えるこの曲では、ビッグ・マンの昔と変わらぬ素晴らしいソロ・パートを聴くことができる。今回の録音がいつのもので、どのような形でなされたのかは知らないが、とにかくあの力強く鼓舞するような、そして温かくて全てを包み込むようなビッグ・マンのサキソフォンがいつもと同じように聴こえてくる。だからこの曲が最後だからだとかそんな余計な感傷など一切持たずに聴くことができるし、きっとこれからも同じようにこの曲を聴くことができるだろう。
ビッグ・マン、たくさんの素晴らしい音楽をありがとう。僕はあなたの音楽に随分励まされました。遠い極東の島国からお礼を言います。

 

1. We Take Care of Our Own
2. Easy Money
3. Shackled And Drawn
4. Jack Of All Trades
5. Death To My Hometown
6. This Depression
7. Wrecking Ball
8. You’ve Got It
9. Rocky Ground
10.Land of Hope and Dreams
11.We Are Alive

Sound and Color/Alabama Shakes 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sound and Color』(2015)Alabama Shakes
(サウンド・アンド・カラー/アラバマ・シェイクス)

 

デビュー作だった前作は古く良きアメリカ、場末の酒場が似合いそうなヴィンテージ・ロック。僕もそういうのは好きだし、彼らはこれからも変わらずそんな渋い音楽をやってくんだろうなって勝手に思っていたけど、それはとんだ見込み違いだった。変わらないどころか物凄い進化を遂げてしまっている。それも何がどうというより全部まるっと進化しちゃってて、2枚目でこんなになっちゃうなんて全然想像できなかった。ヴィンテージはヴィンテージでも最新鋭、ハイブリット感満載のスーパー・ヴィンテージ・ロック・アルバムだ。

とりあえずギターの音がすんごくて、ビンビンと弦の振動が伝わってきそうな臨場感。それでいて音はクリアーで聴きやすいし、要するに分かる人にだけ分かりゃいいというのではなく、誰が聴いてもこりゃ凄いやって音になってる。僕んとこのミニ・コンポでこれだから、いいオーディオだとどんなことになるのやら。くうぅ~、立派なオーディオで聴きてぇ~。

ドラムとベースもよくて、何がいいって手数はうんと少ないのにここぞの時にはグイグイッとたまらんフレーズを持ってくる。こういう感じはちょっと初めて。で、さらに記名性を高めているのがキーボードとビブラフォン。1曲目からビブラフォンで始まっちゃうし、こりゃなんか雰囲気違うぞ感が満載。1曲目だけじゃなく、全編に渡ってキーボードとビブラフォンがいいアクセントになっていて、最後の曲のキーボードなんてホント最高である。

さらにもう一つ忘れてならないのが、ストリングスだ。でもよくあるそれっぽい大げさなやつじゃなくて、なんかギターとかキーボードとか他の楽器と同じ扱いで、でもこれがギターです、これがストリングスですってわけじゃなく、最初からそこにあったみたいな馴染みのよさ。#7『Guess Who』なんてこれしかないという感じですんごいことになってる。名曲です!

名曲といやぁさっき言った1曲目『Sound & Color』だってビブラフォンで静かに始まったかと思いきや後半は宇宙ぽく広がっちゃうし、2曲目の『Don’t Wanna Fight』はブリタニーさんの祈るようなボーカルが素晴らしくて、4曲目『Future People』もボーカルとバンドの掛け合いがめちゃくちゃカッコイイ!ほんでもって続く5曲目『Gimme All Your Love』も後半に凄い山場が待ってるし、アルバム後半にもさっきの『Guess Who』を始め、『The Greatest』に『Shoegaze』に『Miss You』に『Gemini』にエレピぴろろ~ん♫の『Over My Head』に(って全部やん!)名曲盛りだくさんで、いや、大げさじゃなくてホントに全編すごいっす!

で、最後にこれは絶対触れておきたいブリタニーさんのボーカル。前作もジャニス・ジョプリンみたいで凄かった。勿論それだけでも凄いのに今回はしっとりとなっちゃたり、裏声使っちゃったり、シャウト一辺倒だったのがこんなに変わるかってぐらい表現の幅を広げている。ほんと素敵なボーカリストになったもんだ。

とにかく最初に言ったように全部がまるっと凄いことになっててびっくり。さらに凄いのはこれが全米チャートで№1になったってこと。そりゃこんだけ凄いアルバムだから、評価されるのは分かるけど、だからと言って全米№1になるかって話。アラバマ・シェイクスも凄いけど、これをちゃんと聴き分けるアメリカのリスナーも同じように凄い。ちなみに僕の個人的な2015年ベスト・アルバムはこれですっ!

 

1. Sound & Color
2. Don’t Wanna Fight
3. Dunes
4. Future People
5. Gimme All Your Love
6. This Feeling
7. Guess Who
8. The Greatest
9. Shoegaze
10. Miss You
11. Gemini
12. Over My Head

Speak a Little Louder/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Speak a Little Louder 』(2013)Diane Birch
(スピーク・ア・リトル・ラウダー/ダイアン・バーチ)

 

ダイアン・バーチ、待望のセカンド。ファーストからかれこれ4年。もう彼女の新しい歌は聴けないのかもしれないなんて思っていた。で聴いてびっくり。前作とは全く異なるスタイルに最初は戸惑ってしまったが、考えてみれば4年も経てば変わるのは当たり前。あの素晴らしいデビュー・アルバムより更にスケール・アップした力強い作品になっている。

ファーストではキャロル・キングを思わせるシンガー・ソングライター的風合いで、それを強力なR&B系バンドが支えるといった構図だったのだが、今作では打ち込みも使用し全体的にダイナミックになっている。ボーカル・スタイルもファーストには見られなかった激しさがあり、彼女の思いがより強くなっている印象だ。詩を見てみると、個人的なものからもっと大きなものへと視点が移っており、やはり音楽に対するスタンス自体が若干変容しているのかもしれない。そのせいで多少ダークな印象を受けるが、それもファーストに比べればという程度。詩へのアプローチや情熱を込めた歌い方などを含め、非常に力のこもった作品となっている。

ファーストの頃からいいメロディを書いていたが、今回は表現の幅が飛躍的に伸びている。共作が多いので、どこまでが彼女のアイデアなのかは分からないが、出し惜しみすることなく様々な表現のスタイルを披露し、それこそもう伸び伸びと曲を書いているような感じだ。そう、今回は彼女が好きな音楽を何の制約もなく好きなように表出している、そんな印象を受ける。勿論、ファーストのようなR&Bスタイルもそうなんだろうけど、今回はもっとラフというか、ティーンネイジャーの頃に親しんだ音楽をそのまま出しました、という感じなのかもしれない。だからなのかどうかは分からないが、今回は彼女の圧倒的なボーカルと相まって、曲の強さが目に付く。80年代風の味付けもたくさんあって、この人は本当はこっちが好きなんじゃないかと思わせる程。どちらにしても本当に音楽が好きなんだなあという想いがひしひしと伝わってくる。

作風が如何に変わろうとも彼女らしさは健在。#1『Speak A Little Louder』のアウトロのピアノのタッチを聴いてると思わず嬉しくなってしまう。でやっぱりボーカル。低音域から一気にファルセットまで駆け上がる様にはうっとりしてしまう。#5『Superstars』なんてホントに素晴らしい。どう転がっていこうがこの声がある限り僕はいつまでも聴き続けるだろう。

 

1. Speak A Little Louder
2. Lighthouse
3. All The Love You Got
4. Tell Me Tomorrow
5. Superstars
6. Pretty In Pain
7. Love And War
8. Frozen Over
9. Diamonds In The Dust
10. Unfkd
11. It Plays On
12. Walk the Rainbow To the End
13. Adelaide
14. Staring At You
15. Hold On a Little Longer
16. Truer Than Blue

Bible Belt/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

Bible Belt』(2009)Diane Birch
(バイブル・ベルト/ダイアン・バーチ)

 

私は誰にも属さない。そんな自立心が垣間見えるアルバム・ジャケットが印象的だ。歳を重ねればやはり内面が出てくるものだ。ダイアン・バーチの場合はその若さもあって意志の強さが表情に表れている。Wikipediaで調べると2009年当時、彼女は26才。真っ直ぐ見据えるポートレートさながらの意思の強そうな声の記名性は抜群だ。

彼女の魅力はやはりその歌唱力。野太く個性的なボーカルはもしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれないが、それさえ凌駕する歌唱力。中でもファルセットが素晴らしく、地声との境目が分からない程ナチュラルで伸びやか。ソフトなんだけど力強くて心地よい。彼女の最大の魅力だろう。ソングライティングも彼女の手によるもので、こちらも落ち着いた素晴らしいメロディを紡いでいる。ピアノの腕も相当なもので、こんな才能が26才まで世に表れなかったが不思議なくらいだ。

そして彼女をサポートするニューオーリンズやN.Yの凄腕ミュージシャン達の極上の演奏がなんとも素晴らしい。出過ぎず、かといって物足りないという訳ではなく、ちょうど良い塩梅。ギターといい、オルガンといい、ホーンといい、要所要所で鳴らされるちょっとしたフレーズが琴線触れまくりだ。彼女の歌を最高に引き立てている。#4 『Nothing but a miracle』の出だし。ダイアン・バーチによるフェンダー・ローズ(※フェンダー社製の電子ピアノのこと。僕はこの音色が大好きなのです)で静かに始まり、コーラス、そしてフリューゲル・ホルンが重なるイントロは言葉にならない美しさ。魔法の粉が降りかかったかのようで、気を失いそうになる。

世代を越えてジャンルを越えて親しまれる音楽というのがある。ラップしか聴かない人、J-POPしか聴かない人、そんな人にも受け入れられる音楽というものがあるとすれば、このアルバムもそんなアルバムではないだろうか。

ところでこのアルバムが出た当時、 YouTubeで『Daryl’s House』(ダリル・ホール&ジョン・オーツ のダリル・ホールが自宅にミュージシャンを迎え、自身のバンドと一緒に演奏をする番組)で歌うダイアン・バーチを何度も何度も見た記憶がある。彼女の映像は他にも色々見たが、僕の中では『Daryl’s House』がベスト。中でもアレサ・フランクリンの『Day Dreaming』のカバーはすんごいことになってます。

 

1. ファイヤ・エスケイプ
2. ヴァレンティノ
3. フールズ
4. ナッシング・バット・ア・ミラクル
5. リワインド
6. ライズ・アップ
7. フォトグラフ
8. ドント・ウェイト・アップ
9. ミラー・ミラー
10. アリエル
11. チュー・チュー
12. フィーギヴネス
13. マジック・ビュー

(日本盤ボーナス・トラック)
14. エヴリー・ナウ・アンド・アゲイン
15. チープ・アス・ラヴ

Colors/Beck 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Colors』(2017)Beck
(カラーズ/ベック)

 

『100分de名著』という番組をほぼ毎週観ている。今月の名著はラッセル『幸福論』。哲学というほど堅苦しくはなく、哲学エッセーとでもいうような実生活に根差した幸福論で、現代に生きる我々にもピンと来る実践を踏まえた哲学書だそうだ。ラッセルの幸福論の大きな特徴は究極のポジティブ思考。例えて言うと、自分の欠点なんて忘れてしまえとか、自分の事より外に目を向けろ、てな具合。

っていうのを観てるとつい最近聴いているベックの新譜『カラーズ』を思い出した。もしかしたら『カラーズ』はベックの幸福論なんじゃないかって。

ベック、通算10枚目のアルバム。びっくりするぐらいポップなアルバムだ。まるでどこかのフランス・バンドみたいな多幸感。フレンドリーな曲のオンパレード。どうしちゃったのベック、って感じ(笑)。

今回のアルバムは前作の制作時、2013年から創作を進めていたようで、何度も練り直したすえにようやく出来上がったアルバムだそうだ。ということはこの1、2年の世界の動きどうこうということではなく、もう少し前からのベックの世の中に対する認識が含まれているということになる。

ベックなら上手くいっているとは言えない僕らの世界についていくらでもそれらしい言葉を紡ぐことが出来るだろう。けれど彼はそうしなかった。90年代を通してずっとメインストリームではなく、オルタナティブな視点で歌を歌ってきた彼の経験、思索が導き出した答えは眉間にシワを寄せて憂いを憂いとして歌うとこではなく、世界はもっと上手くいくはずなのに、僕たちはもっと仲良く出来るはずなのにっていう一見バカみたいな幸福論。けどそれはバカに出来るものではない。ずっとメインストリームに対するカウンターとして戦ってきたベックの生きこし方に裏打ちされた生硬な幸福論なのだ。

このアルバムを初めて聴いたとき、僕は優しいアルバムだなと思った。彼はインタビューでマイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーのような全てを包み込むアルバムを作りたかったと答えている。誰も排除しない、聴き手を選ばない開かれた音楽。聴いているとそんな彼の意図がはっきりと伝わってくる。

今回のアルバムは優しい。もちろん優しさだけでは何も解決しない。そんなことは誰だって分かっている。けれど本当の自由を手探りで求め続けてきたベックが、今はみんなの音楽が作りたいと欲したその勘に僕らは耳を傾けてみてもいいのではないか。信じてもいいのではないか。

僕はアジアのあの人もヨーロッパのあの人もアメリカ大陸のあの人もアフリカのあの人も僕も友達も知らない人も知ってる人もみんな一緒になって語り合い『セブンス・ヘブン』や『ノー・ディストラクション』を聴きながらダンスするのを夢想する。そしてこのアルバムを聴いた多くの人たちもまた、僕と同じではないかもしれないけれど、人種や思想や宗教を越え共に踊る姿を夢想するだろう。それは愚かなことだろうか。

これはベックの『幸福論』だ。楽観的過ぎると言う人もいるかもしれないが、僕たちはもう内に籠って憂いてばかりではいられない。いいことを考えよう。それは決して意味のないことではないはずだ。人生にはいいことも悪いこともある。いたずらに自己に没頭することなく、逆に殊更アッパーになり過ぎることもなく、いいことは素直にいいと祝福する。これはそんな地に足の着いた『幸福論』に裏打ちされた、時の風化も肯んじえない全く正統で強固な全方位型ポップ・ソング集だ。

 

1. Colors
2. Seventh Heaven
3. I’m So Free
4. Dear Life
5. No Distraction
6. Dreams
7. Wow
8. Up All Night
9. Square One
10. Fix Me

Talking Is Hard/Walk The Moon 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Talking Is Hard』(2015)Walk The Moon
(トーキング・イズ・ハード/ウォーク・ザ・ムーン)

 

こりゃ参った。2枚目でこんなに飛躍するとは思わなかった。1stも結構好きだったけど、出来にムラがあったり垢抜けなかったりで、あと一歩だなあなんて思ってたんだけど、一足飛びにその辺はクリアしてしまった。ていうかクリエイティビティが一気にスパークしているぞ。

まず曲がいい。単に感性だけで作ってたものがなんかコツを掴んだみたいで、曲に深みが出て表情が豊かになった。奇を衒う訳でもなく、正統派のソングライティングで勝負できるようになったということか。色んなパターンの曲を用意する余裕もあって、中にはハイムみたいなのやヴァンパイア・ウィ-クエンドみたいなのがあったり。最後の曲の80’S的なニュアンスなんてThe 1975っぽくもある。11曲目で切なくなって、最後の曲でしっとり終わるっていうのもまた見事。2枚目でもう余裕の構成である。

アレンジの方は更に80’S振りに拍車がかかったようでもろ80’Sなのもあったりするけど、ただそこは当然2010年代の音として緻密に作り込まれており、前作では物足りなかったバックが格段に良くなってる。ベースとドラムの多彩なリズムと表情豊かなボーカルが一辺倒になりがちなシンセ・ポップをしっかりリードしているのがポイントかな。

で、ボーカルも更にパワーアップ。#4『アップ・2・ユー』とか#9『スペンド・ユア・$$$』でシャウトしたり、#11『カム・アンダー・ザ・カヴァーズ』や#12『アクアマン』でしっとりさせたりとなかなかなもので、それがまた暑苦しくなくスマート。今どきこんなはしゃいじゃってるのも珍しいんじゃないかってぐらいはじけちゃてるけど、相変わらず近所の兄ちゃん的なノリで好感度抜群のバンドだ。知的な連中は馬鹿にするかもしれないが、結局小さな子供でも跳ねてしまうこの楽しさに勝るものはない。#3『シャット・アップ・アンド・ダンス』なんて何度うちの子供たちにリピートさせられたことか(笑)
準備は整った。次で一気に最前線へ登りつめるか。

 

1. ディファレント・カラーズ
2. サイドキック
3. シャット・アップ・アンド・ダンス
4. アップ・2・ユー
5. アバランチ
6. ポルトガル
7. ダウン・イン・ザ・ダンプス
8. ワーク・ディス・ボディ
9. スペンド・ユア・$$$
10. ウィー・アー・ザ・キッズ
11. カム・アンダー・ザ・カヴァーズ
12. アクアマン

Battle Born/The Killers 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Battle Born』(2012)The Killers
(バトル・ボーン/キラーズ)

 

キラーズ、4年ぶりの4枚目。4年のブランクがいい効果を表したようで、デビューから一回りしてまた戻ってきたかようなフレッシュで瑞々しい作品だ。

昨今シンセを用いた80年代サウンドがたくさん出てきたが、彼らの場合は2005年のデビューから自身が影響を受けた80’sサウンドを臆面もなく露出させてオリジナリティと評価を得たバンド。今やそのような形容が必要ないほど確立されたキラーズ・サウンドであるが、彼らの持ち味は何と言ってもそのセンスの良さ。大げさなくせに悪趣味にならずスマートに練り上げられたサウンドは唯一無二である。今作はそんな彼らが決定的なキラーズ・サウンドをということで作り上げたど真ん中ストレート、まじりっけなしの快作である。

代表的なのがリード・シングルの#2『ランナウェイズ』。ブランドン・フラワーズが「詰め込めるだけパンチを詰め込んだ」と語っているように、キラーズ節炸裂のロック・ナンバー。更に伸びやかになったブランドンのボーカルに、畳み掛けるサビ。ファンは即頭しそうになる程のキラーズ節全開である。キラーズ節と言えば#4『ヒア・ウィズ・ミー』の大げさなバラードも最高だ。後半のブリッジからラスサビへ向かう、まるでハリウッドの青春映画を見ているような盛り上がり方といったら鳥肌もの。詞がいいんだなまた。

ということで、今回の作品で目を引くのがブランドンのボーカル。元々素晴らしい歌唱力の持ち主であるが、更にスケールが大きくなったようで、このアルバムに大作感というか壮大さをもたらしている。そしてこのアルバムにはいいメロディがたくさんあるのも特徴。いいメロディにはあらかじめノスタルジーが宿っているというけれど、まさにそんな感じ。ブランドンてこんないいメロディ・メイカーだとは思わなかった。それを具現化するバンドの演奏も確か。一見大げさに見えるアレンジもしっかり手綱を引いており、このバンドの知的さが窺える。そう、なんといってもキラーズは歌ものなのだ。

とにかくスケールがでかくて盛り上げ上手。サビの後にもう一つ大きなサビが来るというサビの2段階ロケットも1度や2度ではなく、それでいてクドくならないのは流石。#5『ア・マター・オブ・タイム』のラスサビの大爆発ぶりなんか最高だ。最近はこうしたスケールのでかいバンドがなかなかいないのでかえって新鮮。今や数少ないスタジアム・ロックの雄。キラーズ、堂々の帰還である。

 

1. フレッシュ・アンド・ボーン
2. ランナウェイズ
3. ザ・ウェイ・イット・ワズ
4. ヒア・ウィズ・ミー
5. ア・マター・オブ・タイム
6. デッドラインズ・アンド・コミットメンツ
7. ミス・アトミック・ボム
8. ザ・ライジング・タイド
9. ハート・オブ・ア・ガール
10. フロム・ヒア・オン・アウト
11. ビー・スティル
12. バトル・ボーン

(ボーナス・トラック)
13. キャリー・ミー・ホーム
14. フレッシュ・アンド・ボーン (ジャック・ル・コント・リミックス)
15. プライズ・ファイター (ボーナス・トラック)
(日本盤ボーナス・トラック)
16. ビー・スティル (オルタネイト・ヴァージョン)
17. ランナウェイズ (ミシェル・リミックス)

ボーナス・トラックの#13と#15もよいです。ブランドンも大好きなブルース・スプリングスティーンばりの#15『プライズ・ファイター』なんて本人が歌ってそうなぐらい。

The Whole Love/Wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Whole Love』(2011)Wilco
(ホール・ラヴ/ウィルコ)

 

いつも思うんだけど、ウィルコの魅力って何なのだろう。ボーカルにしてもバンドにしても曲にしても、決してインパクトのあるものではないのだが、何か引っ掛かるんだよなあ。ということで、改めて1曲目から順に何か書いていこうと思う。そうすることで、何故僕はウィルコの音楽に惹かれているのかが見えてくるかもしれない。

1.  Art Of Almost
冒頭からSEも交えあちこちに飛び回るサウンドで、7分の大作。後半に向け、次第に激しくなってゆく演奏は、抑えつけていた感情が放たれるかのよう。

2. I Might
シングル向けのポップ・ナンバー。とはいえ詩は結構アイロニーが含まれたもので、ジェフ・トゥイー ディの特徴的なソングライティングと言える。キーボードが印象的。

3. Sunloathe
メランコリィ。太陽が嫌いだと言う。ここで言う太陽とは何なのだろう。砂漠でジリジリと太陽に照りつ けられながらも持ちこたえている。敵は誰かであり、自分である。

4. Dawned On Me
シングル向けのポップ・チューン。タイトルがいい。ちょっと直訳しにくいが、ここでいう気配とは良い兆候なのか、悪い兆候なのか。快活なサウンドはやっぱりいい兆候なのだろう。

5. Black Moon
カントリーに属する曲。とはいえ、後半に掛かるとストリングスが待ち受けており、意外と盛り上がる。が、基本的には気だるい曲。

6. Born Alone
「人はひとりで生まれて、一人で死んでいく」、なんて陳腐な言い回しは、普段なら屁にも思わない。でも、素晴らしいメロディと素晴らしいサウンドが伴えば言葉以上の意味が現れ、静かに満ちてくる。

7. Open Mind
実はジェフ・トゥイーディは内気なんじゃないかと思わせる声がとてもいい。好きなんだけど、「君の心を開く人になりたい」としか言えない控えめな態度が僕は好きだ。

8. Capitol City
「此処は君に似合わないよ」って。これも結局自分に言ってるようにも聞こえる。結構厳しい現実認識の唄だが、ユーモア=優しさがある。転調がいい塩梅。

9. Standing O
ゴキゲンなロック・ナンバー。詩は辛辣で小気味良い。何をぐずぐず言ってるんだと誰かに言っているようだが、実は自分に言っている。

10. Rising Red Lung
フォーク調の曲。6弦、及び12弦のエレキ・ギターがとてもいい。こうして聴いていると、単調な曲でもバンド力できっちり聴かせるところもウィルコの魅力なんだな。再認識。

11. Whole Love
個人的には本作のベスト・トラック。タイトルどおりの愛に溢れたサウンドで、このバンドの一体感を強く感じることができる。ラストのコーラスの幸福感はとにかく素晴らしい。

12. One Sunday Morning(Song For Jane Smiley’s Boyfriend)
「ひとりの息子が死んだ」って、これは自分自身のことなのか。ジェフ・トゥイーディの独白のようにも聞こえる。起伏の少ない12分の大作だが、アレンジに感情のうねりがあり聴き応えあり。比較的ポップな本作においても、オープニングとエンディングにこうした長尺の曲を持ってくる辺りはいかにも彼らのスタンスを示しているようだ。

ボーナストラック「Sometimes It Happens」が追加されて全13曲。全ての曲にユーモアと優しさ、そして何より反逆の精神がある。そしてそのいずれもにラブ・ソング、あるいはポリティカルなメッセージ、そして人生についての深い洞察が含まれている。曲によってその比重は違えど、どうとでも取れるその重層性こそがウィルコの魅力なんじゃないだろうか。誰かに言っているようであり、自分に言ってるよう。皮肉と思いきや、正直な言葉とも思わせる。「物事はどちらか一方ということはないんだよ」。ここにはそんなメッセージが見え隠れする。そしてそれらのメッセージがゴキゲンなサウンドにくるまれている。最高じゃないか。

Visions of a Life/Wolf Alice 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Visions of a Life』(2017)Wolf Alice
(ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ/ウルフ・アリス)

 

都会でも田舎でもいいんだけど、やっぱ霧がかっていてスッキリしないというのかな。雨の多い英国の景色というのがあって、根本的に解決されないものがされないままそこにあるっていう。例えばカズオ・イシグロとかの世界に近いって言えば分かってもらえるだろうか。

解決されないままそこにあり続けるっていうのは昔からそうだったかもしれないけど、今はそのことが当たり前というかデフォルトとして横たわっていて、英国に暮らす20代の彼らのこの世界観というのはもしかしたら日本にいる僕らよりも一層強いのかもしれない。でも考えてみれば、生きているとそりゃ嫌な事とか大変な事とかしんどい事ってのが結構あって、でもそういうのをいちいち解決している訳じゃないし並走しているわけで。多くは苦しくて生きていけないって程ではないし、ひとつひとつにちゃんと向き合ってしんどい思いをする必要のないまま、なんだかんだ言ってもそこそこやっていけている。ただそれをきっとうまく行くよとか、明日はいい日になるとかっていう風に歌うのはやっぱちょっと違う話で。だからそういう霧がかかってスッキリしないままこのアルバムも進んでいくってのは凄く真っ当なことだし、そういう意味ではエコーがかった声に手が届かないってのは当然といえば当然。それは向こう側からも同じ。現実的に言えば直に聴ける時はライブでしかないし、すなわち本当のことはその時その場にしかないというこれもまたごく普通の価値観だ。

だからシューゲイザーとかパンクとかドリーム・ポップが一緒くたになったからといって、そのどれをも彼女たちが信じているかっていうと信じているし信じていないってことだろうし、どういう意匠を纏っていようが彼女たちが4人集まってその時その場にしかない本当のこと(明日になれば霧と共に消え去ってしまうようなもの)を歌って演奏するってことに全力で取り組んでいるだけで、そこにそれだけの理由しかない以上、何故これだけ多岐にわたるサウンドになったのかと聞かれても答えることはできないのも当然だ。

そのことはあらゆる混沌を統べてしまうボーカルのエリー・ロウゼルのカリスマ性やあらゆる音楽性を同じフィルターに閉じ込めてしまえるプロデューサーのジャスティン・メルダル・ジョンセン(※パラモアのニュー・アルバムも彼による)の力にもよるだろう。しかしどういう意匠を纏おうが間違いようなくウルフ・アリスでしかない強烈な記名性はやはりそうした彼女たちの世界の認識、世界との距離感に由来するのではないか。

その気分を表だって引き受けるエリー・ロウゼルの存在感は圧倒的だ。1曲目『Heavenward』のウィスパー・ボイスから一転、2曲目の『Yuk Foo』で「誰かれ構わずヤッてやる(I wanna fuck all the people I meet)」と荒々しくシャウトする様は鮮烈。#4『Don’t Delete The Kisses』や#6『Sky Musings』のリーディングにおけるナチュラルなリズムやメロディの内包感はどうだ。#7『Formidable Cool』のシャウトも今作のハイライト。一転、#8『Space & Time』のブリッジにおける少女のような声、#11『After The Zero Hour』の魔女のような声も魅力的だ。更にはリリックの方も見逃せない。ストーリー・テリング主体のリリックで、切ない#4『Don’t Delete The Kisses』と妄想しまくる#6『Sky Musings』の落差も同じ人から出た言葉とは思えない多様さだ。

このアルバムはウルフ・アリスが次世代のロック・バンドとして傑出した存在であるということを証明するのと同時に、稀有なボーカリスト、エリー・ロウゼルの才能が一気に解放されたアルバムでもある。

 

1. Heavenward
2. Yuk Foo
3. Beautifully Unconventional
4. Don’t Delete The Kisses
5. Planet Hunter
6. Sky Musings
7. Formidable Cool
8. Space & Time
9. Sadboy
10. St. Purple & Green
11. After The Zero Hour
12. Visions Of A Life

(日本盤ボーナス・トラック)
13. Heavenward(Demo)
14. Sadboy(Demo)

ウルフ・アリス、すげ〜

 

このところウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』ばかりを聴いている。凄いんだなこれが。先行で公開されたキャッチーな3曲が配置された前半もいいんだけど、後半のグデングデンしたダークな感じがまた最高。聴けば聴くほどよくなってくる。

ボーカルはエリー・ロウゼルっていう人で、中谷美紀ばりのクール・ビューティが目を引くんだけど、いやいやそれどころじゃない。ニコリともせずにシャウトする様がカッコいいのなんのって。この人、もしかして凄いボーカリストなんじゃないか。曲も彼女が全部作ってんのかな。だとしたら凄い才能だ。とんでもないのが出てきたもんだ。バンドの演奏もカッコイイし、これからの英国ロックをしょって立つ存在になるかもしれないぞ。あ~、もっと早く聴いてりゃ先月の来日公演に行ってたのになぁ~。

しかしまあ今年はいいのばっか出てくる。フォスター・ザ・ピープルの新作を聴いた時はこれが今年の№1だなと思っていたが、フォクシジェンを聴けばいやいやこっちが1番だなと思ったり、で今はウルフ・アリスが最高だ、ってなっている。

順番で言えば次はベックを聴いて、月末にはノエル・ギャラガーの新作も出る。キラーズの新作もまだ買ってないし、ステレオフォニックスも11月だ。今年のロック勢はスゴイ充実ぶりだぞ。年末に向けてこっちもギアを上げなきゃだな。