Battle Born/The Killers 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Battle Born』(2012)The Killers
(バトル・ボーン/キラーズ)

 

キラーズ、4年ぶりの4枚目。4年のブランクがいい効果を表したようで、デビューから一回りしてまた戻ってきたかようなフレッシュで瑞々しい作品だ。

昨今シンセを用いた80年代サウンドがたくさん出てきたが、彼らの場合は2005年のデビューから自身が影響を受けた80’sサウンドを臆面もなく露出させてオリジナリティと評価を得たバンド。今やそのような形容が必要ないほど確立されたキラーズ・サウンドであるが、彼らの持ち味は何と言ってもそのセンスの良さ。大げさなくせに悪趣味にならずスマートに練り上げられたサウンドは唯一無二である。今作はそんな彼らが決定的なキラーズ・サウンドをということで作り上げたど真ん中ストレート、まじりっけなしの快作である。

代表的なのがリード・シングルの#2『ランナウェイズ』。ブランドン・フラワーズが「詰め込めるだけパンチを詰め込んだ」と語っているように、キラーズ節炸裂のロック・ナンバー。更に伸びやかになったブランドンのボーカルに、畳み掛けるサビ。ファンは即頭しそうになる程のキラーズ節全開である。キラーズ節と言えば#4『ヒア・ウィズ・ミー』の大げさなバラードも最高だ。後半のブリッジからラスサビへ向かう、まるでハリウッドの青春映画を見ているような盛り上がり方といったら鳥肌もの。詞がいいんだなまた。

ということで、今回の作品で目を引くのがブランドンのボーカル。元々素晴らしい歌唱力の持ち主であるが、更にスケールが大きくなったようで、このアルバムに大作感というか壮大さをもたらしている。そしてこのアルバムにはいいメロディがたくさんあるのも特徴。いいメロディにはあらかじめノスタルジーが宿っているというけれど、まさにそんな感じ。ブランドンてこんないいメロディ・メイカーだとは思わなかった。それを具現化するバンドの演奏も確か。一見大げさに見えるアレンジもしっかり手綱を引いており、このバンドの知的さが窺える。そう、なんといってもキラーズは歌ものなのだ。

とにかくスケールがでかくて盛り上げ上手。サビの後にもう一つ大きなサビが来るというサビの2段階ロケットも1度や2度ではなく、それでいてクドくならないのは流石。#5『ア・マター・オブ・タイム』のラスサビの大爆発ぶりなんか最高だ。最近はこうしたスケールのでかいバンドがなかなかいないのでかえって新鮮。今や数少ないスタジアム・ロックの雄。キラーズ、堂々の帰還である。

 

1. フレッシュ・アンド・ボーン
2. ランナウェイズ
3. ザ・ウェイ・イット・ワズ
4. ヒア・ウィズ・ミー
5. ア・マター・オブ・タイム
6. デッドラインズ・アンド・コミットメンツ
7. ミス・アトミック・ボム
8. ザ・ライジング・タイド
9. ハート・オブ・ア・ガール
10. フロム・ヒア・オン・アウト
11. ビー・スティル
12. バトル・ボーン

(ボーナス・トラック)
13. キャリー・ミー・ホーム
14. フレッシュ・アンド・ボーン (ジャック・ル・コント・リミックス)
15. プライズ・ファイター (ボーナス・トラック)
(日本盤ボーナス・トラック)
16. ビー・スティル (オルタネイト・ヴァージョン)
17. ランナウェイズ (ミシェル・リミックス)

ボーナス・トラックの#13と#15もよいです。ブランドンも大好きなブルース・スプリングスティーンばりの#15『プライズ・ファイター』なんて本人が歌ってそうなぐらい。

The Whole Love/Wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Whole Love』(2011)Wilco
(ホール・ラヴ/ウィルコ)

 

いつも思うんだけど、ウィルコの魅力って何なのだろう。ボーカルにしてもバンドにしても曲にしても、決してインパクトのあるものではないのだが、何か引っ掛かるんだよなあ。ということで、改めて1曲目から順に何か書いていこうと思う。そうすることで、何故僕はウィルコの音楽に惹かれているのかが見えてくるかもしれない。

1.  Art Of Almost
冒頭からSEも交えあちこちに飛び回るサウンドで、7分の大作。後半に向け、次第に激しくなってゆく演奏は、抑えつけていた感情が放たれるかのよう。

2. I Might
シングル向けのポップ・ナンバー。とはいえ詩は結構アイロニーが含まれたもので、ジェフ・トゥイー ディの特徴的なソングライティングと言える。キーボードが印象的。

3. Sunloathe
メランコリィ。太陽が嫌いだと言う。ここで言う太陽とは何なのだろう。砂漠でジリジリと太陽に照りつ けられながらも持ちこたえている。敵は誰かであり、自分である。

4. Dawned On Me
シングル向けのポップ・チューン。タイトルがいい。ちょっと直訳しにくいが、ここでいう気配とは良い兆候なのか、悪い兆候なのか。快活なサウンドはやっぱりいい兆候なのだろう。

5. Black Moon
カントリーに属する曲。とはいえ、後半に掛かるとストリングスが待ち受けており、意外と盛り上がる。が、基本的には気だるい曲。

6. Born Alone
「人はひとりで生まれて、一人で死んでいく」、なんて陳腐な言い回しは、普段なら屁にも思わない。でも、素晴らしいメロディと素晴らしいサウンドが伴えば言葉以上の意味が現れ、静かに満ちてくる。

7. Open Mind
実はジェフ・トゥイーディは内気なんじゃないかと思わせる声がとてもいい。好きなんだけど、「君の心を開く人になりたい」としか言えない控えめな態度が僕は好きだ。

8. Capitol City
「此処は君に似合わないよ」って。これも結局自分に言ってるようにも聞こえる。結構厳しい現実認識の唄だが、ユーモア=優しさがある。転調がいい塩梅。

9. Standing O
ゴキゲンなロック・ナンバー。詩は辛辣で小気味良い。何をぐずぐず言ってるんだと誰かに言っているようだが、実は自分に言っている。

10. Rising Red Lung
フォーク調の曲。6弦、及び12弦のエレキ・ギターがとてもいい。こうして聴いていると、単調な曲でもバンド力できっちり聴かせるところもウィルコの魅力なんだな。再認識。

11. Whole Love
個人的には本作のベスト・トラック。タイトルどおりの愛に溢れたサウンドで、このバンドの一体感を強く感じることができる。ラストのコーラスの幸福感はとにかく素晴らしい。

12. One Sunday Morning(Song For Jane Smiley’s Boyfriend)
「ひとりの息子が死んだ」って、これは自分自身のことなのか。ジェフ・トゥイーディの独白のようにも聞こえる。起伏の少ない12分の大作だが、アレンジに感情のうねりがあり聴き応えあり。比較的ポップな本作においても、オープニングとエンディングにこうした長尺の曲を持ってくる辺りはいかにも彼らのスタンスを示しているようだ。

ボーナストラック「Sometimes It Happens」が追加されて全13曲。全ての曲にユーモアと優しさ、そして何より反逆の精神がある。そしてそのいずれもにラブ・ソング、あるいはポリティカルなメッセージ、そして人生についての深い洞察が含まれている。曲によってその比重は違えど、どうとでも取れるその重層性こそがウィルコの魅力なんじゃないだろうか。誰かに言っているようであり、自分に言ってるよう。皮肉と思いきや、正直な言葉とも思わせる。「物事はどちらか一方ということはないんだよ」。ここにはそんなメッセージが見え隠れする。そしてそれらのメッセージがゴキゲンなサウンドにくるまれている。最高じゃないか。

Visions of a Life/Wolf Alice 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Visions of a Life』(2017)Wolf Alice
(ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ/ウルフ・アリス)

 

都会でも田舎でもいいんだけど、やっぱ霧がかっていてスッキリしないというのかな。雨の多い英国の景色というのがあって、根本的に解決されないものがされないままそこにあるっていう。例えばカズオ・イシグロとかの世界に近いって言えば分かってもらえるだろうか。

解決されないままそこにあり続けるっていうのは昔からそうだったかもしれないけど、今はそのことが当たり前というかデフォルトとして横たわっていて、英国に暮らす20代の彼らのこの世界観というのはもしかしたら日本にいる僕らよりも一層強いのかもしれない。でも考えてみれば、生きているとそりゃ嫌な事とか大変な事とかしんどい事ってのが結構あって、でもそういうのをいちいち解決している訳じゃないし並走しているわけで。多くは苦しくて生きていけないって程ではないし、ひとつひとつにちゃんと向き合ってしんどい思いをする必要のないまま、なんだかんだ言ってもそこそこやっていけている。ただそれをきっとうまく行くよとか、明日はいい日になるとかっていう風に歌うのはやっぱちょっと違う話で。だからそういう霧がかかってスッキリしないままこのアルバムも進んでいくってのは凄く真っ当なことだし、そういう意味ではエコーがかった声に手が届かないってのは当然といえば当然。それは向こう側からも同じ。現実的に言えば直に聴ける時はライブでしかないし、すなわち本当のことはその時その場にしかないというこれもまたごく普通の価値観だ。

だからシューゲイザーとかパンクとかドリーム・ポップが一緒くたになったからといって、そのどれをも彼女たちが信じているかっていうと信じているし信じていないってことだろうし、どういう意匠を纏っていようが彼女たちが4人集まってその時その場にしかない本当のこと(明日になれば霧と共に消え去ってしまうようなもの)を歌って演奏するってことに全力で取り組んでいるだけで、そこにそれだけの理由しかない以上、何故これだけ多岐にわたるサウンドになったのかと聞かれても答えることはできないのも当然だ。

そのことはあらゆる混沌を統べてしまうボーカルのエリー・ロウゼルのカリスマ性やあらゆる音楽性を同じフィルターに閉じ込めてしまえるプロデューサーのジャスティン・メルダル・ジョンセン(※パラモアのニュー・アルバムも彼による)の力にもよるだろう。しかしどういう意匠を纏おうが間違いようなくウルフ・アリスでしかない強烈な記名性はやはりそうした彼女たちの世界の認識、世界との距離感に由来するのではないか。

その気分を表だって引き受けるエリー・ロウゼルの存在感は圧倒的だ。1曲目『Heavenward』のウィスパー・ボイスから一転、2曲目の『Yuk Foo』で「誰かれ構わずヤッてやる(I wanna fuck all the people I meet)」と荒々しくシャウトする様は鮮烈。#4『Don’t Delete The Kisses』や#6『Sky Musings』のリーディングにおけるナチュラルなリズムやメロディの内包感はどうだ。#7『Formidable Cool』のシャウトも今作のハイライト。一転、#8『Space & Time』のブリッジにおける少女のような声、#11『After The Zero Hour』の魔女のような声も魅力的だ。更にはリリックの方も見逃せない。ストーリー・テリング主体のリリックで、切ない#4『Don’t Delete The Kisses』と妄想しまくる#6『Sky Musings』の落差も同じ人から出た言葉とは思えない多様さだ。

このアルバムはウルフ・アリスが次世代のロック・バンドとして傑出した存在であるということを証明するのと同時に、稀有なボーカリスト、エリー・ロウゼルの才能が一気に解放されたアルバムでもある。

 

1. Heavenward
2. Yuk Foo
3. Beautifully Unconventional
4. Don’t Delete The Kisses
5. Planet Hunter
6. Sky Musings
7. Formidable Cool
8. Space & Time
9. Sadboy
10. St. Purple & Green
11. After The Zero Hour
12. Visions Of A Life

(日本盤ボーナス・トラック)
13. Heavenward(Demo)
14. Sadboy(Demo)

ウルフ・アリス、すげ〜

 

このところウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』ばかりを聴いている。凄いんだなこれが。先行で公開されたキャッチーな3曲が配置された前半もいいんだけど、後半のグデングデンしたダークな感じがまた最高。聴けば聴くほどよくなってくる。

ボーカルはエリー・ロウゼルっていう人で、中谷美紀ばりのクール・ビューティが目を引くんだけど、いやいやそれどころじゃない。ニコリともせずにシャウトする様がカッコいいのなんのって。この人、もしかして凄いボーカリストなんじゃないか。曲も彼女が全部作ってんのかな。だとしたら凄い才能だ。とんでもないのが出てきたもんだ。バンドの演奏もカッコイイし、これからの英国ロックをしょって立つ存在になるかもしれないぞ。あ~、もっと早く聴いてりゃ先月の来日公演に行ってたのになぁ~。

しかしまあ今年はいいのばっか出てくる。フォスター・ザ・ピープルの新作を聴いた時はこれが今年の№1だなと思っていたが、フォクシジェンを聴けばいやいやこっちが1番だなと思ったり、で今はウルフ・アリスが最高だ、ってなっている。

順番で言えば次はベックを聴いて、月末にはノエル・ギャラガーの新作も出る。キラーズの新作もまだ買ってないし、ステレオフォニックスも11月だ。今年のロック勢はスゴイ充実ぶりだぞ。年末に向けてこっちもギアを上げなきゃだな。

AM/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『AM』(2013) Arctic Monkeys
(AM/アークティック・モンキーズ)

 

地を這う重厚な作品。まるでコールタールのように流れくる。アークティック・モンキーズ、4枚目のアルバムの登場である。まさしく登場という言葉に相応しい王者の風格。ヘビーなリフに引きずられるようなビートで始まるのっけの#1から物凄い臨場感だ。デビュー時のスピード感はもうここにはない。いや、正確に言うとあるかもしれない。つまりは重々しくとも密度が半端ないのだ。

アークティックは何と言ってもアレックス・ターナーのソングライティングと歌唱だが、僕はこのバンドの肝はやっぱりバンドの技量だと思う。手数はうんと減っているが、こちらに迫る情報量はかつてのもの以上。視覚的に言うとギターの太さが違う、ドラムの重みが違う、ベースの濃さが違う。でまた隠し味的に使われる鍵盤類が最高だ。

指折りのテクニカルな集団なので、思わず手数を増やしたくなるところだろうけど、派手な自己主張はなし。それでも際立つサウンドは彼らはもうそんな領域にいるということだ。ただそれができるのもアレックス・ターナーが作る楽曲の強靭さがあってのこと。色んな要素はあるだろうが、彼の作り出す曲が磁場となってこの傑作を作り上げているのは間違いない。

メロディの決まりごとから離れていても何の違和感もないどしっとした安定感。前作辺りから続く、この一見何気ないメロディを作り出す才能は他に比肩しうる存在がない。加えて、今や若手№1どころか業界トップクラスのボーカリスト。前作も良かったけど、今回は輪をかけていい。でまた詩がいいんだ。だんだん凄いことになってきたぞ。

#6、#7と続くスロー・ソングは本作のハイライト。ここは素直にロマンティックなメロディにうっとりしてしまおう。そのまま続く#8への流れがまたいいんだこれが。

サウンドといいメロディといいこれまでの蓄積の上に、アークティックのオリジナリティが一気に花開いたという感じ。セルフ・タイトルが示す通り、彼らの代表作と言っていいんじゃないだろうか。今までもそうだったけど、今回は特にいつ聴いてもOK。艶々としたヴィンテージ感も最高な普遍的なロックンロール・アルバムだ。

 

1. Do I Wanna Know?
2. R U Mine?
3. One For The Road
4. Arabella
5. I Want It All
6. No. 1 Party Anthem
7. Mad Sounds
8. Fireside
9. Why’d You Only Call Me When You’re High?
10. Snap Out Of It
11. Knee Socks
12. I Wanna Be Yours

Graffiti on the Train/Stereophonics 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Graffiti on the Train』(2013)Stereophonics
(グラフィティ・オン・ザ・トレイン/ステレオフォニックス)

 

UKではアルバム・チャート1位回数6回を誇るという国民的バンド。ちなみにレディオヘッドが同じく6回でオアシスやコールドプレイが7回のようだけど(2017現在)、日本での知名度としちゃだいぶ落差があるような。何がそんなイギリス人の気を引くのかよく分からないが、とにかくかなりの人気だ。

このバンドの最大の売りはケリー・ジョーンズの声だが、それだけではこれだけの人気は勝ちえない。彼らの魅力はケリー・ジョーンズの紡ぎだす歌詞、そのストーリー・テリングにもある。例えば表題曲『グラフィティ・オン・ザ・トレイン』はこんな感じ。男は恋人が寝息を立てている真夜中にベッドを抜け出し、夜の線路へ向かう。お目当ては彼女が毎朝乗る列車。男はその列車にスプレー缶で落書きをする。「Marry me」と。翌朝、プラットホームで列車を待つ彼女に人々の声が聞こえた。昨夜誰かが死んだらしい。どうやら列車の上に乗って足を滑らせたらしいと。いつもの列車がやって来た。扉には「Marry me I love you」と描かれていた。

ソングライターのケリー・ジョーンズは今作を製作するに当たり、幾つかの脚本を仕上げている。もともと映像作家希望だったということもあってか、今作のミュージック・ビデオも彼自身の手によるものだ。それを聞いて今作の映画のような手触りに僕は納得した。彼らの曲はいつも誰かの物語だけど、今回それがとりわけ素晴らしいのはひとつひとつにきちんとしたプロットがあるからなのだ。また、その物語がこちら側にしっかりとした輪郭を持って転写されてくるのは、一歩引いた抑制されたトーンあればこそ。それでいてこちら側に働きかけてくる感情に適度な湿っぽさがあり、その塩梅が丁度いい。そしてそれはケリーの声そのものでもある。

ケリーが書く曲と同じように俯瞰的で入れ込み過ぎないバンドの存在も大きい。当然ながら、ケリーの声もソングライティングもちょっとやそっとでは流れてしまわない盤石な演奏があってこそだ。バンド内のケミストリーがとてもいい形で表れているとてもバンドらしいバンドではないだろうか。

サウンドについて付け加えて言うと、今回はストリングスが際立つ。ドラマ性を盛り上げることに一役買っているが、決して冗長にならないところがいい。特にバンドの演奏と共に次第に激しさを増す『ヴァイオリンズ・アンド・タンバリンズ』は白眉。

オーソドックスなロック・バンドだが、地に足の付いた気名性は抜群。派手さは無いが、これを聴いときゃ間違いないという感じ。1997年のデビューからほぼ2年おきに新作をリリースする多作ぶりも含めて安定感では随一だ。

 

1. ウィ・シェア・ザ・セイム・サン
2. グラフィティ・オン・ザ・トレイン
3. インディアン・サマー
4. テイク・ミー
5. カタコーム
6. ロール・ザ・ダイス
7. ヴァイオリンズ・アンド・タンバリンズ
8. ビーン・コウト・チーティング
9. イン・ア・モーメント
10. ノー・ワンズ・パーフェクト

(日本盤限定ボーナス・トラック)
11. スィーン・ザット・ルック・ビフォー
12. ヴァイオリンズ・アンド・タンバリンズ (ライヴ)
13. イン・ア・モーメント (ライヴ)

As You Were/Liam Gallagher 感想レビュー

洋楽レビュー:

『As You Were』(2017)Liam Gallagher
(アズ・ユー・ワー/リアム・ギャラガー)

 

リアム・ギャラガー、初のソロ・アルバム。共作が多くその出来が良いため話題はそちらに向きがちだが、それでもリアム単独による作詞曲は15曲中8曲(※ちなみに共作は5曲で、他作は2曲)!! 僕はそっちの方が驚いた。はっきり言ってオアシス時代のリアムの曲は小品。僕は『Songbird』も『I’m Outta Time』も大好きだけど、大げさなノエルの曲に挟まれてこそって部分はあると思う。穏やかで紳士的。リアムのソングライティングの強みはそっちにある。だから1枚のアルバムを成立させるだけの多様な曲が沢山書けるってのが先ず驚きなのだ。

とはいっても全部が全部OKっていうわけではない。本人が言うとおり「いいヴァースは書けるけど、ビッグなサビは書けない」ってのはそう思うし、いくら売れっ子の共作者と組んだって、オアシスの曲があるんだから見劣りしちゃうのは仕方がない。でもそれはそれ。恐らく、またノエルと組んだとしてもあんなマジックはもう起きないし、それはそういうもん。ノエル節がないから物足りなく思ってしまう人もいるかもしれないが、普通に考えりゃ共作だけじゃなくリアム単独作にもいい曲はある。リアム独特の歌いっぷりが炸裂してる『I Get By』なんて凄くダイナミックだし、『I’ve All I Need』だってこんなのも書けるんだ、って僕はびっくりした。今はただ、ひとりのソングライターとして歩き始めたリアム・ギャラガーの心意気を素直に喜びたい。僕はロック音楽に最も必要なのは‘気’だと思っているので、そういう面ではオアシスの最後のアルバムよりずっと‘気’は込められているし、少なくとも僕はこっちの方が何回も聴ける。でもって今んとこ飽きてない(笑)。

それとやっぱ聴いてると、リアムが「オアシスとはオレの事」って言ってたのがよく分かる。それを再認識するアルバムだとも思う。何故ってノエルのソロは僕も好きだけど、あれを聴いても一緒に歌おうとはならないもん。これって好みの問題でしょうか?だからオアシスの最大の魅力でもある一緒に歌いたくなる感(英語がからきし分からない日本人の僕でさえ)は、やっぱリアムの声あればこそ。今年のサマソニでは覚えてなかったから『Wall Of Glass』も『For What It’s Worth』も一緒に歌わなかったけど、次日本に来たら絶対覚えて歌うで、ってやっぱそうなっちゃう(笑)。

それに絡んでもう一つ驚いた点。声すっげぇ出てるやん。オアシス後期はぶつぶつ切れてたのがグイッと伸びてる。スロー・ソングは裏声使いまくってる。年相応の渋みもあって、ちょっとこれ別人のようである。だいぶトレーニングしたんだろうな、節制したんだろうな、ってことで、これもリアムの‘気’が伝わってくる要因のひとつだ。ただちょっと真面目に歌い過ぎかなってとこはある。だからちょっとかすれたボーナス・トラックのライブ・バージョンの方が僕は好きかも。スンマセンっ、復活したらしたで欲張っちゃうもんで(笑)。

ただやっぱ心配な点もある。もしかしたらこれで最後なんじゃないかっていうやつ(笑)。今回のソロはオアシス時代のイケイケどんどんじゃなくて年相応の影があってそこがいいんだけど、その影って言うのがもしかしたらこれで最後なんじゃないかっていう不安も含んだもので、また声が出なくなったり、トラブルに巻き込まれたり(自分で作ることの方が多いですが)して新しい歌がまた聴けなくなるんじゃないかっていう。歌以外のそういうリアム本人の佇まいから発せられる影というのはやっぱりオアシス時代よりも濃くなっているわけで、年相応の等身大の光と影っていうものが一人の人間として、特にその明暗のはっきりとした攻防こそがこのアルバム全体を貫く、オアシスではなくリアム・ギャラガーのソロっていう確固たる輝きをもたらしている原因ではないでしょうか。でもってそれはノエルも同じ。様々なキャリアを通したからこその今の輝きはあの頃にはない魅力なのだと思う。

僕はこのアルバムをもう何度も聴いているけど、初めて聴いた時から印象はさほど変わらない。初のソロ・アルバムだけどずっと前からあったような気もするし、それでいて今日初めて聴いたような気もする。そんなアルバムだ。知ったかぶった言い方になってしまうけど、オアシスもそうだった。音楽的には新しくも何ともなかった。レッド・ツェッペリンでもないし、デビッド・ボウイでもない。物凄くいい曲を書く奴がいて、物凄くいい声を持った奴がただ前を見て歌うってだけのバンドで、他に何にもなかった。だからこそ偉大だったのだ。リアムの初ソロ・アルバムのタイトルが『As You Were』と聞いて、オアシスの最重要ワードのひとつ、「I need be myself / I can’t be no-one else」を思い出した人も多いと思う。結局、オアシスもリアムもこれでしかないのだ。リアムが「オアシスとはオレの事」と言っていたのは、強がりでもノエルへの当てつけでなく、本当にそうだったのだ。逆説的に言えば、リアムは「I need be myself」でしか生きられないのだ。これはそれを再確認するためのアルバムだ。

このアルバムは初のソロ・アルバムだけどずっと前からあったような気もするし、それでいて今日初めて聴いたような気もする。理由は簡単だ。オアシスが古くも新しくもなくただオアシスだったように、リアムのソロも古くも新しくもなくただリアム・ギャラガーその人だからである。

 

1. Wall Of Glass
2. Bold
3. Greedy Soul
4. Paper Crown
5. For What It’s Worth
6. When I’m In Need
7. You Better Run
8. I Get By
9. Chinatown
10. Come Back To Me
11. Universal Gleam
12. I’ve All I Need

(ボーナス・トラック)
13. Does’nt Have To Be That Way
14. All My People / All Mankind
15. I Never Wanna Be Like You

(日本盤ボーナス・トラック)
16. For What It’s Worth (Live at Air Studios)
17. Greedy Soul (Live at Air Studios)
18. Paper Crown (Live at Air Studios)

Fearless/Taylor Swift 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Fearless』(2009)Taylor Swift
(フィアレス/テイラー・スウィフト)

 

キラキラしている。アルバム制作時、彼女は19才。まさに今この時にしか表現できない魔法の言葉で埋め尽くされている。グラミー4冠。彼女が大ブレイクを果たした出世作だ。

ほぼ全編、女の子のラブ・ソングであるのにもかかわらず、それだけ支持されたということは、結局ただのラブ・ソングではないから。ここで歌われているのは勿論、十代の当事者達が同感する恋愛を主とした成長の記録ではある。しかしそこには誰もが通り抜けた若葉の頃の迷いや葛藤を喚起させるノスタルジーもが同居しているように僕は思う。それがこのアルバムが多くの人に支持された所以ではないだろうか。そこにはただの十代の女の子のお喋りにはとどまらない何がしかの普遍性があるのかもしれない。

とはいえ、やはり最大の魅力は爽やかで清涼感溢れるテイラー自身であろう。耳馴染みのよいメロディに乗せて素直に歌われる彼女の歌声は、真っ直ぐで小気味よく、尚且つ知的。そして何よりもそのポジティブさが心地よい。

リードトラックとなった『You Blong To Me』や、ロマンチックな『Love Story』など全20曲(ボーナス・トラック4曲含む)、粒揃いの佳曲が揃っているが、とにかく勢いを感じさせる。特に僕が好きなのは『Fifteen』。僕には15才の女の子の気持ちなど全く分からないが、この曲を聞くと胸が締め付けられるから不思議だ。

音楽は性別も時代も国境も越える。それを証明するとても素晴らしい作品である。欲を言えば、アレンジが中途半端。どうせなら、もう少しカントリー色が欲しかったな。

 

1. フィアレス
2. フィフティーン
3. ラヴ・ストーリー
4. ヘイ・スティーブン
5. ホワイト・ホース
6. ユー・ビロング・ウィズ・ミー
7. ブリーズFEAT.コルビー・キャレイ
8. テル・ミー・ホワイ
9. ユー・アー・ノット・ソーリー
10.ザ・ウェイ・アイ・ラヴド・ユー
11.フォーエヴァー&オールウェイズ
12.ザ・ベスト・デイ
13.チェンジ

(ボーナス・トラック)
14.アワ・ソング
15.ティアドロップス・オン・マイ・ギター
16.シュドゥヴ・セッド・ノー
(日本盤ボーナス・トラック)
17.ビューティフル・アイズ
18.ピクチャー・トゥ・バーン
19.アイム・オンリー・ミー・ホエン・アイム・ウィズ・ユー
20.アイ・ハート?

なんと20曲。アルバムもコンスタントに出してるし、やっぱ才能ある人は多作なんです。ちなみに私の持ってる唯一のテイラーさんです。

Which Bitch?/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Which Bitch?』(2009)The View
(フィッチ・ビッチ/ザ・ビュー)

 

ザ・ビューの2nd。キャリアを重ねる毎に音楽性が広がるのはよくあることで、このバンドも例に漏れず引出しが増えていくんだけど、そうはいっても彼らの場合は相変わらずのロックンロールというか、身も蓋もなくジャカジャカすんのが好きだからしょうがないってところに落ち着いてしまうのがいい。しかし結局そういう馬鹿みたいなロックをいつまでも続けてって、飽きもせずちゃんと聴いてもらえるってのが一番難しかったりするわけで、多くのバンドがだんだん音楽性を変えていくのも実はただの初期衝動ではやってられなくなってくるってのが本心だったりもする。そんな中、いつまで経ってもジャジャ~ンってこうすんのが最高だろ?ってギターを鳴らしているのがザ・ビューだ。

この2ndは前作の最後の曲のパート2みたいな小品で始まって、#2『5 レベッカズ』で一気にスピードを上げる。もう滅茶苦茶カッコよくてブレーキかけてもつんのめって止まれない感満載のロック・チューンだ。中盤のブリッジからラス・サビへ向かうギター・ソロといったら、なんのこたあないリフだが、ハンパないカッコよさ。

ただ彼らの場合はやっぱり勢いだけってことではなく、音楽的基礎体力とでも言うような確かなソングライティングがあるわけで、それはストリングスを用いた#6『アンエクスペクテッド』とか、ホーン・セクションが賑やかな#9『ジミーズ・クレイジー・コンスピラシー』を聴いてりゃよく分かる。#10『カヴァーズ』なんて大人しいけど複雑な曲だ。ということで当然のことながら優れたソングライティングとそれをしっかりと支える音楽的なバックボーンがちゃんとあるってのがミソなんだろう。

彼らはこの後もジャカジャカしたロックンロールをやっていくんだけど、年月を重ねるとどうしても洗練されてくるというか余計な凸凹が無くなってくる。それはそれでいいんだけど、このアルバムはそうしたウェル・プロデュースされていない無駄な凸凹がまだまだあって、好きなことをひたすらやってるってところも魅力だ。

他愛のないロックンロールだけど、ガッとした手ごたえがあるから他愛なくなってしまわない、流れてってしまわない力強さがこのバンドにはあって、#10『ダブル・イエロー・ラインズ』なんて特に目新しいところが何もないよくあるポップ・ソングだけど、いちいちちゃんと決まってるんだからしょうがねぇなって感じ。#13『ギヴ・バック・ザ・サン』も長尺だけどホントに良く出来た曲で最後のシャウトなんて最高だ。ついでに言うと、ボーカルのカイル・ファルコナーのスコットランド訛りだかなんだが知らないけど、巻き舌で飛び跳ねちゃってる感も最高だ。

 

1. ティピカル・タイム2
2. 5レベッカズ
3. テンプテーション・ダイス
4. ワン・オフ・プリテンダー
5. ショック・ホラー
6. アンエクスペクテッド
7. グラス・スマッシュ
8. ディスタント・ダブロン
9. ジミーズ・クレイジー・コンスピラシー
10. カヴァーズ
11. ダブル・イエロー・ラインズ
12. リアライゼーション
13. ギヴ・バック・ザ・サン
14. ジェム・オブ・ア・バード

(日本盤ボーナストラック)
15. ダンディール
16. ミスター・メン・ブック
17. フォア・ユー

Keep The Village Alive/Stereophonics 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Keep The Village Alive』(2015) Stereophonics
(キープ・ザ・ヴィレッジ・アライヴ/ステレオフォニックス)

 

新作が出ると聞くと嬉しくなるバンドが幾つかあって、このステレオフォニックスもそう。真っ先に公開された『セ・ラ・ヴィ』がまた待ってました感満載のアッパー・チューンだったので、すごく楽しみに待っていた。

その『セ・ラ・ヴィ』から始まって、2曲目、3曲目と聴いてゆくとやっぱいいんだなあ、この安定感。どっからどう切ってもステフォなんだけど、前作で取り組んだ陰影の部分がちゃんと出てるし、基本的なスタンスとしちゃ何も変わらないんだけどしっかりバージョン・アップされてて、昔ながらのバンドではなく今まさに旬のバンドとしての音が聴こえてくる。キャリア20年目でまたUKチャート1位に返り咲いたというのがその証しだろう。

僕は音楽的なことはよく分からないけどコード進行も単純な感じがするし、曲そのものもいたってシンプル。それでいてこうもドラマティックで奥行きのあるサウンドに仕上がってくるということは、曲作りにおいてもサウンド・デザインにおいても何がしか秘密がある訳で、ミュージシャンを目指す人にとってはよいお手本になるんじゃないだろうか。

今回もケリーのソングライティングは冴えわたっていて、ストーリーテリングが相変わらず素晴らしい。日本人の僕にだってちゃんと映像が浮かんでくるし、ほんと間口の広いストーリーテリングだ。やっぱそこは語り過ぎないということだろう。ちょっとどうなのか分かりにくいところが所々あって、そこはどっちでもいいよ、って聴き手に委ねられている感じ。不足があるというのではなく、そこのさじ加減が丁度いいのだろう。そしてちょっとグッとくる話には何げにストリングスが絡んできたりして、この扱いがまた絶妙なんだな。

このバンドはケリー・ジョーンズの声とソングライティングなんだけど、それも盤石なバンド演奏があってこそ。やっぱバンド力なんだと思う。キャリア20年目にしての9枚目のオリジナル・アルバム。タワレコ・オンラインで初回限定盤を注文しようとしたらすぐに無くなってて、日本でも根強い人気。勿論僕も大好きだ。

 

1. セ・ラ・ヴィ
2. ホワイト・ライズ
3. シング・リトル・シスター
4. アイ・ウォナ・ゲット・ロスト・ウィズ・ユー
5. ソング・フォー・ザ・サマー
6. ファイト・オア・フライト
7. マイ・ヒーロー
8. サニー
9. イントゥ・ザ・ワールド
10. ミスター・アンド・ミセス・スミス

(日本盤限定ボーナス・トラック)
11. セ・ラ・ヴィ (ライヴ・フロム・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール)
12. マイ・オウン・ワースト・エネミー (ストリップト 2015)