Be The Cowboy/Mitski 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Be The Cowboy』(2018)Mitski
(ビー・ザ・カウボーイ/ミツキ)

 

詩というものは恐らく、主義主張があるとか、個人的に言いたいことがあるとか、ましてや作者自身の感情を吐き出したいとか、そういうものとは少し違うような気がする。詩とは作者の目に映る作者自身も何かよく分からないものを作者という個性のフィルターを通して言葉に変換されたもの。また詩人とはどうあってもそういう風に言葉に変換せざるを得ない人たちのことを言うのかもしれないと。

このアルバムは一見すると、取り返せない愛についての歌集のようだし、実際その解釈でもいいのだろうけど、やはりそこにはそれだけではない某かが含まれている。かつて手にしたけれど、もう離れてしまったもの。或いはかつては持っていたが、今は損なわれてしまったもの。そうしたもう取り戻せないもの、また強いて取り戻そうとも、取り戻せるとも思っていないけれど、もう手元を離れてしまったものについてを、ミツキはあぁもう取り戻せないのだなとまるで他人事のように詩に仕立てているのではないか。まるで他人事とは少し言い過ぎかもしれないが、だからと言って彼女は入れ込んだりはしない。客観的な詩として幾ばくかの物語に託している。そこにミツキの出自(父がアメリカ人で母が日本人であり、かつて兵庫県や三重県にも住んでいた)を絡ませるのは野暮。それが彼女のスタンスなのだから。

したがって、「演じる」というのはひとつのキーワードなのかもしれない。このアルバムからの先行トラックとして公開された#1『Geyser』と#9『Nobody』ではそれこそ本職の女優のような演技を見せているミツキではあるが、そこでもこちらからは役とミツキは被ってこない。あくでも映像の中のキャラクターに過ぎないのだ。『Geyser』で見せる情熱的な演技にも過度な生々しさや重苦しい情念を感じないのは彼女の演技が未熟だからではなく、彼女自身がただ単に演じているからに過ぎないし、そのことの方がより核心に迫れるということを彼女は知っているからなのだ。余計な情緒に核心をくぐもらせたくないという明確な意志が働いているからというのは穿ち過ぎだろうか。

そのことはアルバムのアートワークからもうかがい見ることが出来る。ジャケットといい、その内側といい、まるで映画の一コマのように役になりきったミツキのポートレイト。中身の音楽を聴いていても、それぞれの曲で映像が明確に喚起されるのは、ミツキのスタンス、自分のことを書いているようで自分ではない誰かの物語を書いているということにも繋がる。

それは歌詞カードに主語である‘I’が小文字の‘i’と表記されていることと無縁ではないだろう。すなわち、‘i’は聴き手に委ねられているということ。ミツキは物語を提示しているに過ぎない。後は皆さんで、ということになるだろう。彼女はあくまでもある感情やある景色を自身のフィルターを通して詩として、或いは物語として表しているに過ぎないのだ。

だからこそ逆説的に僕は聴いていると言葉が気になってしまう。けれど歌詞を読んでも彼女の本音は容易く隠されてはいない。しかしやはりいくら距離を取ろうとも覆いきれない彼女の感情は間違いなくそこにあって、けれどそれはポツポツと滲む雨粒のように跡を残さない。そこを敢えて抒情的に眺めれば、窓越しに遠くを見つめて、片目から涙がすーっと流れてくる。そんなイメージだ。

 

Track List:
1. Geyser
2. Why Didn’t You Stop Me?
3. Old Friend
4. A Pearl
5. Lonesome Love
6. Remember My Name
7. Me and My Husband
8. Come into the Water
9. Nobody
10. Pink in the Night
11. A Horse Named Cold Air
12. Washing Machine Heart
13. Blue Light
14. Two Slow Dancers

(日本国内盤ボーナストラック)
15. Geyser(Demo)
16. Why Didn’t You Stop Me?(ほうじ茶バージョン)

Let’s Go Sunshine/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Let’s Go Sunshine』(2018)The Kooks

 

出ましたクークス。4年ぶりです。えらい待たせたね~。かなり前に前作(『Listen』 2014年)の続編みたいな感じでレコーディングを始めていたらしいけど、これは今すべきことじゃねぇって一旦白紙に戻したそうだ。で仕切り直し。じゃあこれぞクークスってのを作ろうじゃないかって出来たのが本作だ。

アルバムはイントロ(←このイントロが最後にいい感じでリプライズされる)があって2曲目『Kids』で始まる。僕はクークスを表す際、ついUKギターバンドの雄とかUKギターロックの系譜なんて言ってしまうんだけど、この『Kids』は正にそんな感じ。リアム・ギャラガーのソロ作(『As You Are』 2017年)に入ってそうな雰囲気で、間奏のタンバリンもリアムが叩いてんじゃねぇかって(笑)。ただ大きく違うのはバンド感。そりゃソロ1作目のリアムとは比べぶべくもないけど、このバンド感は流石というか、今回はルークのソングライティングに重きを置いたアルバムだという情報が頭にあったけど、それプラス、バンド感。ルークのソングライティングも含めて、バンド感がすっごく前面に出ていると思います。

例えば#5『Fractured and Dazed』。曲がまたいいんだけど、バンドがそれをしっかり下支えしている。ルークの作った曲に寄り添っているというか、派手さは無くても全体が塊としてガッ来る感じが一体感があってとてもいいのです。またギターのヒュー・ハリスがいつもながらバックで実にいいフレーズを奏でてます。この人は前へ前へっていうギタリストではないんだけど、実はクークス・サウンドの肝はこの人なんじゃないかというぐらい毎回いい仕事をしています。ちなみにこの曲は終わったと思ったらまたドゥンドゥドゥドゥドゥンッて始まるところも最高だ。

このアルバムはとにかくメロディがいいんだけど、初期からのファンにはちょっとスピードが物足りないかもしれない。でもよ~く聴いて欲しい。#7『Four Leaf Clover』なんてどうです。心が走ってませんか。メロディはとても綺麗だけど心がつんのめって走り出している。音は成熟しているけど、心は切羽詰っている。この曲はキャリア12年を経たクークスの一つの到達点と言っていい名曲じゃないでしょうか。ルーク節の「んまぁい~ん♪」(←mind のことです)も聴けるし(笑)。

アルバムはここで前半の区切り。LPで言うところのA面終了やね。後半はレトロな#8『Tesco Disco』、#9『Honey Bee』で気分転換。『Honey Bee』なんてオールディーズ感満載で面白いね。#11『Pamela』はアルバム唯一のスピード・ナンバー。クライマックスへ向けてここらで一回ギアを上げてこうかって曲。こういう感じはお手の物。テンポ・ダウンしてまた加速していくところなんかも流石のクークスです。

#13『Swing Low』はロッカ・バラード。この曲で終わってもいいぐらいのゆったりとしたいい曲。けど、その流れを引き継いでく#14『Weight of the World』が輪をかけて素晴らしいです。シンプルなのにこの奥行き。ワンフレーズのコーラスなのにものすんごい情感。ポール・マッカートニーかっちゅうぐらいの素晴らしいメロディやね。出だしのピアノといい中盤からのトランペットといい、アレンジも最高だ。

最後の曲は#15『No Pressure』。前曲の余韻から入るイントロのギターがいい感じ。前々曲、全曲で胸がいっぱいになったところで、最後に軽やかな曲を持ってくる構成も抜群だ。まるでミニシアターで観る青春映画のエンドロールみたい。この曲もいいメロディだ。

これぞクークスという意気込みで始まったという創作。その目論みは大成功。クークスのアルバムはどれも好きだけど、これまでの魅力をギュッと恐縮したような本当に集大成のようなアルバムになっていると思います。曲はいいし、バンドはいいし、けど全15曲のボリュームを感じさせない軽やかさ。よいメロディにはノスタルジーが宿るっていうけど、このアルバムにもセピア色の写真を見るようなよいメロディがいっぱい詰まっている。これが売れなきゃどうせいっちゅうような素晴らしいアルバムです。

 

Track List:
1. Intro
2. Kids
3. All the Time
4. Believe
5. Fractured and Dazed
6. Chicken Bone
7. Four Leaf Clover
8. Tesco Disco
9. Honey Bee
10. Initials for Gainsbourg
11. Pamela
12. Picture Frame
13. Swing Low
14. Weight of the World
15. No Pressure

Free All Angels/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Free All Angels』(2001)Ash
(フリー・オール・エンジェルズ/アッシュ)

 

今年出たアルバム『Islands』(2018年)が凄く良かったのだが、実はアッシュを長い間聴いていなかった。と言ってもその前のアルバム自体が久しぶりの作品だったようで、なんだ僕のせいでも何でもないやと開き直っているところでございます。ところでアッシュといやぁこの『Free All Angels』(2001年)。せっかくなんで久しぶりに棚から出して聴いてみました。

こりゃもうベスト・オブ・アッシュやね。ヘビーなロックチューンにスローソング。これでもかと言うぐらいいい曲が沢山詰まってます。でまた改めて聴くと構成が素晴らしい。スローソングの後には間髪入れずスピードナンバーを入れてきたり(#10『Sometimes』の後の#11『Nicole』)、シンセや打ち込みを挟んでみたり(#4『Candy』)、ストリングスなんてのもあるわで(#7『Someday』や#12『There’s a Star』)ホントに飽きさせない展開。曲間がほとんど無く、すぐ次の曲に移るとこなんかも正にベスト盤の様相だ。

1曲目の『Walking Barefoot』からして最高やね。夏の終わりの切ない感じが凄く出てて、初っ端にこれ聴いて何とも思わない人はもうロックなんて聴くんじゃねぇって感じ(笑)。そうそう、このアルバムのイメージはやっぱ夏なんだけど、特にちょうど今の季節、夏の終わりがぴったりはまるアルバムです。ちょっぴり寂しい感じがよく出てる。この曲なんて「we’ve been walking barefoot all summer」っていう歌詞ですからもうそのまんまですね。

その後#2『Shining Light』、『Burn Baby Burn』とヒット曲が続くあたりもう完全にベスト・アルバム扱い。ていうか曲良すぎ(笑)。今年の『Islands』もホントにフレッシュなソングライティングで、ティム・ウィーラー、アラフォーのクセにスゲェなと思ったが、この時20才そこそこのティムは当然ながら勢いがあってキレキレでございます。そう言えばこのアルバムはティムさん以外のメンバーが作った曲も入っていて(#6『Submission』、#9『Shark』)、それもいいアクセントになっている。ていうかアクセントどころかすげぇカッコイイ!この頃のアッシュはホント無敵だ。

このアルバムはさっきも言ったとおり夏、というか夏の終わりを感じさせるアルバムでそれがギターロックに良く合っているのだけど(ギターロックとは真夏のイケイケではなく、ちょっぴり切ない夏の終わりのことなのだ)、それに拍車をかけるのがスローソング。#7『Someday』もいいけど、ここはやっぱり#10『Sometimes』。「さ~むたいむ、さぁぁぁ~たいむ」って繰り返しているだけやのにこの切なさはなんなんでしょうか。アルバムを締める最後の#13『World Domination』も完全に夏の終わり。誰もいない海岸を一人で歩きたくなります。

日本盤にはこの後ボーナストラックとして#14『Gabriel』が。長尺のヘビーなナンバーで、次作の『Meltdown』(2004年)へ繋がるような曲。この時点で次作は意識していなかったろうけど、この辺のナチュラルさ加減も当時のアッシュのマジックを感じます。そういやゆったりした#7『Someday』の後に来る#8『Pacific Palisades』も見事やね。全編サビのCMソングのような曲で、サッと始まりサッと終わる。俄然キャッチーなこんな曲をアルバムの中盤にサラッと持ってくるところも神がかってますな。

 

Track List:
1. Walking Barefoot
2. Shining Light
3. Burn Baby Burn
4. Candy
5. Cherry Bomb
6. Submission
7. Someday
8. Pacific Palisades
9. Shark
10. Sometimes
11. Nicole
12. There’s a Star
13. World Domination

日本盤ボーナストラック
14. Gabriel

ミツキとペール・ウェーヴス

洋楽レビュー:

ミツキとペール・ウェーヴス

 

タワレコ・オンラインで注文していたミツキとペール・ウェーヴスの新譜が同じ日に届いた。ペール・ウェーヴスはキャッチーなシングルを昨年から立て続けにリリース。今年のサマソニにも出演し、新人にも関わらず幕張のマウンテン・ステージをほぼ満員にしたという期待のバンドである。ゴスメイクで一見キワモノ的なイメージだが、ボーカルのヘザーはよく見ると整った顔立ちでその点も人気に拍車をかけている模様。僕もYouTubeで彼女達の曲を何度も聴いて、デビュー・アルバムを心待ちにしていた一人だ。

一方のミツキは名前から察せられるように日系の米国人で、大学在学中にファースト・アルバムを自主制作でリリース。その後もコンスタントに新作を発表し、4枚目のアルバム『Puberty 2』では数々の主要メディアの年間ベスト・アルバムに選出されるなど、所謂ミュージシャンズミュージシャンと言われるような、同業者からも非常に高い評価を得ているアーティストだ。ちなみに大学時代に知り合ったパトリック・ハイランドとすべての楽器を2人で演奏し、ミキシングやマスタリング、ジャケットまでを2人だけで行っているという。

アルバムが届いたその日、先ずはテンションがグッと上がるポップ・ソングだろうということでペール・ウェーヴスから聴いた。歌詞カードを開きながら聴き始めたのだが、どうも勝手が違う。どうやらこの歌詞が曲者のようだ。簡単に言うと歌詞がキツイ。全てヘザーの恋愛体験に基づく歌詞なのだそうだが、思春期特有の生々しさがあってその鋭利さがとっても痛々しいのだ。声の感じとか曲の親しみやすさは初期のテイラー・スウィフトっぽくて、実体験を基にした歌詞なんてのもテイラーと同じなのだが、テイラーが外に向かって開放していくのに対し、ヘザーは内気で繊細な感じがモロに出ていて、それが聴いてるこっちにまでリアルに響いてきてしまうのだ。

その日は夜遅かったのでペール・ウェーヴスは前半までにして、今度はミツキの新譜を聴いた。ミツキのアルバムも上手くいかなかった恋愛に関するアルバムだ。けれどこっちは何故か聴いているこちらに落ち着きをもたらしてくれる。僕は彼女のアルバムを聴くのが今回が初めてなので、いつもそうなのかはよく分からないが、彼女は曲とは一定の距離を保っているようだ。まるで演劇とか映画を観ているような気分。恐らくは繰り返し聴くことでその物語はまた違った印象を投げかけてくるのだろう。

当初の印象ではキャッチーなペール・ウェーヴス、情念のミツキ、というイメージだったが、歌詞を見ながら聴いてみるとこちらから距離を詰められるのは以外にもミツキの方で、ペール・ウェーヴスは生傷を見せられるような痛々しさがありました。どっこい、ミツキにしてもある程度まで近づくとそれ以上は近寄らせてもらえないのだろうけど、この試聴レベルで聴いていた時の印象と歌詞カードを手にちゃんと聴いてみた時の印象がそれぞれ全く逆になってしまうというのはなかなか面白い。

といってもこれは初見の印象。共に別れをテーマにしたアルバムがこれから聴き込むつれてどう印象を変えていくのか。それも楽しみな対照的な2枚のアルバムでした。

Junk of The Heart/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Junk of The Heart』(2011)The Kooks
(ジャンク・オブ・ザ・ハート/ザ・クークス)

 

同年デビューのアークティック・モンキーズよりも売れた1st。全英№1となった2nd。ということで、いやがおうにもハードルが高くなるクークスの3rdアルバム。ところがどっこい、期待をよい意味で裏切る素晴らしい作品となった。何がいいって、気負いことなく自然体の中から生まれてきたかのような落ち着いたポップ感が素晴らしい。シングル向けの派手な曲もなければ、過度な演出もないのだけど、その分楽曲のよさが際立っており、掛け値なしのクークスの底力が見事に発揮されている。

‘I wanna make you happy’と歌う表題曲からM3まで続く良質のポップ・メドレーの軽やかさ。そして本作で唯一アッパーな「Is it me」の後半におけるヒロイックな畳み掛け具合は流石である。

これまでのような若さに任せたスピード感がなくとも、曲の力だけで聞かせてしまう圧倒的な楽曲の良さ。すなわちそれは当たり前のことではあるが、ロック音楽といえども結局はソングライティングと的を得たサウンド・デザインにかかっているということだ。とくにどうということのない他愛のないポップ・ソング。しかしその錬度は恐ろしく高く、時の経過にも十分耐えうる作品である。これまでのイメージをするりと脱却した彼ら。もうどこへでも行けそうである。

 

Track List:
1. Junk Of The Heart (Happy)
2. How’d You Like That
4. Taking Pictures Of You
5. F**k The World Off
6. Time Above The Earth
7. Runaway
8. Is It Me
9. Killing Me
10. Petulia
11. Eskimo Kiss
12. Mr. Nice Guy

なんと言っても#8。間奏のギターソロがメチャクチャかっこいい。そこから、ラスサビではなく最初のヴァースに戻って盛り上げるところがニクイぜ。このスピード感こそがクークス!!

Where’d Your Weekend Go/The Mowgli’s 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Where’d Your Weekend Go』(2016)The Mowgli’s
(ウェアード・ユア・ウィークエンド・ゴー/ザ・モーグリス)

 

2ndがピンと来なかったからスルーしたので、今回もあまり期待はしていなかったんだけど、聴いてびっくり、スゴクいい感じになっていた。流石に1stのあの感じは1stならではというか、あまり深く考え無さそうなこのバンドでさえやっぱ2枚目ともなるとトーン・ダウンしてしまうのね、なんて思っていたのだが、今回は迷いが無いというか、彼らの持つ陽性が素直に表れていてとても気持ちのいい作品だ。やっぱり身も蓋もなく明るいのがよい。

嬉しいのは同じ陽性のポップネスといえど、今回は1stの時の凸凹した勢いというものではなく、より音楽としてしっかりしてきたというか、ちゃんと成長の跡が窺えるという点だ。それも単に落ち着いてしまったというのではなくて、鮮度が失われずにシェイプ・アップされているという印象。インナー・スリーブを見ると人数も減っているようだけど、それがいい方向に出ていたのか、相変わらず大らかにユニゾンで突っ走るところもあるけれど、適材適所というか、それぞれに明確な理由があるというのが今回受けるまとまりの良さに繋がっているのではないか。1stのインディーズっぽいとっ散らかった感もそれはそれで楽しくて好きなんだけど、これはこれで進化と言っていい。僕はこっちの方が好きかも。

そういう意味じゃ音楽的にも豊かになって表現に幅が出てきたし、例えばキーボードの扱いなんかも今までになかった類のもので、ともすれば明るいだけのポップ・ソングになりがちなところに程よい陰影を与えている。地に足の着いた本当の意味でのポップ・ソングになっているのではないだろうか。アルバム1枚30分と少しという潔さもいいし、現時点での彼らのベストと言っていいだろう。こういうのを作っちゃうと次は何でも出来る。

 

1. So what
2. Spacin Out
3. Bad Thing
4. Spiderweb
5. Automatic
6. Alone Sometimes
7. Arms & Legs
8. Freakin’ Me Out
9. Monster
10. Last Forever
11. Open Energy

#9が耳に付いちゃって離れない(笑)。

The Now Now/Gorillaz 感想レビュー

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『The Now Now』(2018)Gorillaz
(ザ・ナウ・ナウ/ゴリラズ)

 

通勤中にボーっと音楽を聴くのが日課になっているのだが、このアルバムは寝不足の耳には丁度いい。特に朝っぱらからクソ暑い2018年の日本の夏にはこの気だるさがぴったりだ。そんな訳でかなり聴く頻度は増えている。ただ増えてはいるんだけど、さあ何書こうかと思えば何を書こうか上手く出てこない。簡単に言うと、そんなアルバムだ。

今さら説明するまでもないんだけど、ゴリラズってのはブラーのデーモン・アルバーンのサイド・プロジェクトで、架空のカトゥーン・キャラクターによるヴァーチャル・バンド。デーモンは現在、別プロジェクトの何とかっていうバンドでも新作を控えているらしいし、勿論ソロ・アルバムも出している。僕はよく知らないけどそれ以外の活動だってあるらしい。今はゴリラズがその中でも中核を占めていて、今やデーモン・アルバーンと言えばブラーではなくゴリラズなのかもしれない。

気だるい。特に1曲目の『Humility (featuring George Benson)』なんてホント今年の馬鹿みたいに暑い夏にぴったりだ。ほら、こう暑いと夏なのに何かいいことが起きそうな雰囲気ってないでしょ?実際大きな災害も沢山起きてるし、日本だって世界だってロクなニュースはない。だからと言って悲壮感なんてないんだけど、ただなんかねぇって。曲調もさることながら僕の頼りない英語力で聴いても気だるくって、あーなんだかなぁって歌詞だ。

前作の『Humanz』はトランプやブレグジットのことに言及して作ったアルバムで(アルバム制作中はまだトランプが大統領になる前で、仮になったとしたらみたいなノリで作ったらホントになったっていうエピソードも)、ゲストもふんだんにかなり熱量の高いアルバム。今回はそのツアーの合間に製作されたってんで、そのテンションの延長線上にあるのかなと思っていたら、実は全くの逆で高いテンションの合間のふとした一人の時間みたいな雰囲気。実際このアルバムの方向性としてはだんだん2-D(=デーモン)のソロ・アルバムにしようってなってきたようだし、そういう一人の人物の佇まいが色濃く出ているような気はする。

ゴリラズはバーチャル・バンドなわけだから、2-Dはデーモンではないし、2-Dというキャラの佇まいってことになるんだろうけど、この気だるさはやっぱデーモンの気だるさと理解してもいいんじゃないだろうか。だからゴリラズ史上、2-Dとデーモンが最も近づいたアルバムと言ってもいいのかもしれない。なんだかなぁっていう歌詞が続く中で、最終曲の『Souk Eye』で「I will always think about you」と繰り返してしまうところなんかはもうバーチャルではないのかも。

聴く方のこちらの気分としても、ちっくしょう、クソ暑いなぁ、全くしょうがねぇなぁ、ロクなことねぇなぁなんて言いながら聴くのがやっぱ正しいのだろう。あぁ、だから『The Now Now』なのか。

 

Track List:
1. Humility (featuring George Benson)
2. Tranz
3. Hollywood (featuring Snoop Dogg and Jamie Principle)
4. Kansas
5. Sorcererz
6. Idaho
7. Lake Zurich
8. Magic City
9. Fire Flies
10. One Percent
11. Souk Eye

Paramore/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Paramore』(2013)Paramore
(パラモア/パラモア)

 

2005年デビューのパラモア、4枚目。このバンドは結構メンバーの出入りが激しいようで、結構ゴチャゴチャしとります。まぁ10代で組んだ田舎のバンドが一気に名声を得てスターダムにのし上がっていくってぇと、そりゃ我々には分からないいざこざがあったりもするでしょう。ボーカルのヘイリーさんはルックスもイケてますから、コマーシャルな部分で随分振り回されたのかもしれませんなぁ。

ただそんな中にあってもずっとパラモアとして活動していく芯の強さ、そんでも負けねぇぞ、っていう心意気がこのバンド、ていうかヘイリー・ウィリアムスの魅力でして、このアルバムは特にそんな心意気満載なのでございます。

で、このアルバム。タイトルからも分かるようにかなり力の入ったアルバムです。収録曲はボーナス・トラックを含めるとなんと19曲!結果から申し上げると、全米1位!全英1位!シングル・カットされた『Ain’t It Fun』ではなんとバンド初のグラミー賞「最優秀ロック・ソング賞」を獲得!ってことでこのアルバムは自他共に認めるパラモア最強の代表作と言えるのではないでしょうか。

まぁとにかく曲がいい!よくもまぁこれだけキャッチーな曲を揃えたなと。メンバーの出入りが激しくて、結曲誰がメインのソングライターかよく分かりませんが(ヘイリーさんは全ての作詞と一部の作曲)、いくらメンバー変更があろうといつも変わらずキャッチーな曲があるってことは、やっぱヘイリーさんの見立てが良いってことでしょうか。

ホント馴染みのいいメロディばっかで#4『Daydeream』なんて散々歌われてきた青春ロックなんですけどグイグイ来る感じがドラマチックでとてもいいんです!#9『Still Into You』や#13『Hate to See Your Heart Break』なんてかわいかった頃のテイラー・スウィフトが歌ってそうだし(今もかわいいですが(笑)、カントリーの頃って意味ね)、#19『Escape Route』のイントロなんてアジアン・カンフー・ジェネレーションじゃねーか(笑)。インタールード的な小品も含めて、ちょっとこれはって曲ないです、ホントに。

そんなグッド・メロディが、パラモアはなんつってもエモ・パンクですから(←これも分かるようでよく分からん形容ですが)、タイトな演奏で畳み掛けるようにハード・ロッキンするわけですよ。そりゃあいいに決まってるじゃあないですか!しかも歌詞が勝気でいい!例えばグラミー獲った#6『Ain’t It Fun』なんて日本風に意訳すりゃ、夢を抱いて田舎から東京に一人でやって来た女の子が、「面白いと思わない?誰も頼る人がいないなんて!」、「ぜって~メソメソ、ママに電話なんかしないし」っていう歌で、私みたいな40過ぎのおっさんが聴いてもグッと来るわけですよ。#4『Daydreaming』なんて「私は昼も夜も夢見てる」っていう歌詞ですからやっぱパラモアはとことんエモいのです。

ただまぁヘイリーさんには悪いですけど、このバンドは出たり入ったり、これからもしちめんどくさいことが起きるんじゃないかと思ったりもして。そんでもってその度に「上等じゃねぇか!」ってまた立ち上がるっていうようなパターンを繰り返すと。もうそういうの込みのパラモアってことでいいんじゃないでしょうか(笑)。

 

1. Fast in My Car
2. Now
3. Grow Up
4. Daydreaming
5. Interlude: Moving On
6. Ain’t It Fun
7. Part II
8. Last Hope
9. Still Into You
10. Anklebiters
11. Interlude: Holiday
12. Proof
13. Hate to See Your Heart Break
14. (One of Those) Crazy Girls
15. Interlude: I’m Not Angry Anymore
16. Be Alone
17. Future

 (日本盤ボーナス・トラック)
18. Native Tongue
19. Escape Route

Walk The Moon/Walk The Moon 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Walk The Moon』(2012)Walk The Moon
(ウォーク・ザ・ムーン/ウォーク・ザ・ムーン)

 

しかしまぁ暑いでんな~。天気予報を見る度に、沖縄の方が涼しいやんけ!とクダを巻いてしまう私ですが、まぁ夏ですから暑いのは当たり前っちゃあ当たり前。とは言いつつ今年はちょっと暑すぎますね。熱中症にならないように気を付けたいものです。

てことで夏といえばこの方々、ウォーク・ザ・ムーンでございます。とにかく歯切れがよい!浴衣が似合う!金魚すくいが似合う!(←完全に私のイメージです…)ウォーク・ザ・ムーン音頭でも作ってもらいたいぐらいなもんです。爽やかっていうよりこうなりゃ暑いまま行っちゃえ、てことでイメージとしちゃウルフルズ。トータス松本ばりのシャウトも決まって、夏祭りがすごーく似合うご機嫌なバンドでございます。

一応ギター・バンドってことでいいのかな。シンセも目に付いて、80’S感もあったりしますが、夏ですから細かい事は気にしないでおきましょう。まぁこのバンドはそれぐらい適当でいいのです。ただ侮るなかれ、ただの能天気なバンドではないんですね~。ご機嫌さんなのは表向きで実は水の中で必死に足を掻いているパターン。そうなんです。この辺りもトータスのパーソナリティに似ている気がする実は繊細な方々なのです(多分…)。

その辺はまぁ聴いてりゃ分かりますね。ちゃんと影があるっていうか、だからこそ大声を上げるって訳で、4曲目の『Anna Sun』なんてすごーく切ないじゃないっすか。必殺の彼らを代表する素晴らしい曲ですが、やっぱ影があってこそのアンセムなわけです。ちょっとふざけたようなバンドでも締めるとこはきちっと締める。その辺の緊張と緩和を使い分ける様なんざ往年のキン肉スグルやね。

この4曲目と続く5曲目『Tightrope』の流れは本作の聞きどころ。ちょっぴり切なくなったところで、スターンッと一気にスピードを上げる展開は最高っす。『Tightrope』の1番が終わったところで聴けるシャウトがまたカッコいい~!更にその次の#6『Jenny』は往年のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのよう。私のようなアラフォ-世代はニヤッとしてしまいますな。うん、やっぱ個人的には#4~#6が山場かな。

サウンド的には、時折印象的なギターがかき鳴らされるものの割りと大人しめ。ボーカルに負けないくらい、もう少しド派手に行ってもよかったかな。と思っていたら2015年に出た2作目はガッと行ってました(笑)。とにかくいいメロディがあって、歯切れが良くって、妙に愛嬌がある。サウンドは全然異なりますが、やっぱポジション的にはウルフルズに近いかも。暑苦しいんだか、爽やかなんだかよく分かりませんが、夏にもってこいのバンド。皆さん、今年の夏はウォーク・ザ・ムーンで乗り切りましょう!

 

Track List:
1. Quesadilla
2. Lisa Baby
3. Next In Line
4. Anna Sun
5. Tightrope
6. Jenny
7. Shiver Shiver
8. Lions
9. Iscariot
10. Fixin’
11. I Can Lift A Car

Islands/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Islands』(2018)Ash
(アイランズ/アッシュ)

 

例えばレディオヘッドやアークティック・モンキーズは新しいことにチャレンジしていって、ロック音楽の可動域をどんどん広げていく。かたやアッシュはデビュー以来変わらず愛嬌のあるポップ・チューンを奏で続けている。それが意図的なものではなく自然発生的な創作意欲に駆られた結果だとすれば、出てくるものは違うけど、音楽への向かい方はどちらも同じと言えるのではないか。対外的な評価で言えばレディオヘッドな方がスゲエってなるけど、いやいや、ずーっとおんなじことやって未だに飽きさせないアッシュも凄いです。

アッシュだってそりゃ当然その時々で新しい取り組みはあったろうけど、基本的にはティム・ウィーラーのソング・ライティングでグイグイ押してくる。しかもロック・バンドにありがちな原点回帰とか意図的にシンプルにしようぜっていうことではなくて、自然とそうなっちゃう。多分それがいつまでも鮮度を失わない秘訣かもしれないけど、20年以上やってこの初々しさはやっぱ不思議。ティム・ウィーラー恐るべし!

1曲目『True Story』からして特にどうということはないんだけど、このどうということにないメロディを聴かせてしまう技ってのは一体なんなんだろか。2曲目『Annabel』、3曲目『Buzzkill』は分かりやすいアッシュ節。そうそうこんな感じよねっていうパワー・ポップなんだけど、4曲目『Confessions in the Pool』は一転ダンス・ポップ?っていう雰囲気。曲的には同じフレーズを繰り返すだけなんだけど、ちゃんと起承転結があって最後はギターがジャ~ンでやっぱこれやろみたいな(笑)。こういう愛嬌もアッシュの魅力だ。

6曲目『Don’t Need Your Love』はサビを「I don’t need your love」のひと言で持っていくワンフレーズ・サビ。こういうのって実は難しくて、しょぼくなってしまいがちだけど、この曲ではグッと高揚感が高まっていい感じ。ワンフレーズにキラキラとした感性を込められるのはやっぱ初期衝動ならではだと思うんだけど、もうとっくに初期衝動ではないところで曲を作っているアッシュがいとも簡単にやってのけるのはやっぱロック七不思議のひとつかもしれない(あとの6つは知らんけど)。

全部で12曲あってどれも特別に大げさでもなく込み入っている訳でもなくシンプルなメロディですぅーっと行くんだけど、どの曲にも何気に聴かせどころというのがあって、そこにちょっとしたチャームが含まれている。このどうということないメロディにちゃんと愛くるしさが含まれているのには何か勘所があるというか秘訣があると思うんだけど、ちょっとティムさん、「ロック作曲講座」なんてのをやってくれないかな(笑)。

僕は『フリー・オール・エンジュルズ』(2001年)と『メルトダウン』(2004年)以来真面目に聴いてこなかったんだけど、こりゃちょっと反省しないとだな。いい年ぶっこいて(ティムはもう40過ぎ!)未だにキラメキを封じ込められるんだから、もう返す言葉も御座いません!!

 

1. True Story
2. Annabel
3. Buzzkill
4. Confessions in the Pool
5. All That I Have Left
6. Don’t Need Your Love
7. Somersault
8. Did Your Love Burn Out?
9. Silver Suit
10. It’s a Trap
11. Is It True?
12. Incoming Waves