Days Are Gone/Haim 感想レビュー

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『Days Are Gone 』(2013)Haim
(デイズ・アー・ゴーン/ハイム)

 

先日買い物をしていたら、あるアパレル店でハイムが流れていた。しばらくそこにいると、アルバムを通して流していたので恐らく店員の好みなんだろう。ふむふむ、なかなかいい趣味をしている。僕は今後もその店に行こうと思った。てことでハイム。2013年のデビュー作です。

ハイムは米国、カリフォルニアの3人姉妹。なんでも両親もロック・バンドを組んでいたという音楽一家だそうで、幼少のころから家のドラム・セットを競って叩いていたらしい。ライブ映像を観ると、ステージに太鼓を横並びにして3人で叩きまくるなんてのもあって、なかなか個性的。でもこれが結構重要でハイムはリズムなんだと。それもベースじゃなく打楽器のリズム。改めてデビュー作を聴いてみると、最初からそういう記名性が感じられて面白い。

メイン・ボーカルを取ってるのは次女のダニエル・ハイム。彼女はリード・ギターも担当している。ちなみにギターの腕前も相当なものらしく、ストロークスのジュリアン・カサブランカスに呼ばれたり、2018年のフジ・ロックではヴァンパイア・ウィークエンドのステージにゲストとして参加している。

で彼女のボーカルはさっき言ったようにリズムが内包されているから、跳び跳ねていて、リリックもそれを意識してか韻やアクセントを効かせまくり。可愛く歌おうなんて気はさらさらない男前な声も相まって、聴いていてホントに心地よい。甘い#5『Honey & I』だろうが、リズムが内から突いて出てくるもんだから跳ねちゃってしょうがない。メロディとリリックが完全に一体化しています。

コンマ何秒かのタッチでメロディに乗っけてく声はリズム・マシーンが体に内包されているかのようで、そのメイド・イン・ハイム家とも言うべきリズム・マシーンは3姉妹それぞれに埋め込まれているもんだから完全に同期している。長女エスティのベースと3女アラナのギター、そしてコーラスまでもが折り重なる阿吽の呼吸感は姉妹ならではだ。

勿論、キャッチーな曲を書くっていうソングライティングの部分が基本にはあるけれど、曲もリズムに導かれている感じ。だからゆったりした曲でも走っている。単にスピードではない走ってく感覚が心地良い。洗練されたサウンドの2ndアルバムも大好きだけど、3姉妹だけで演奏しているかのような極力詰め込まないサウンドのこのデビュー・アルバムも素敵だ。

モデルみたいにスラッとしてグッド・ルッキンな3姉妹だけど、ガールズ・バンドと一括りにしちゃいけない。男前で小気味よく、ガッツリ恰好いいロック・バンドだ。

 

Track List:
1. Falling
2. Forever
3. The Wire
4. If I Could Change Your Mind
5. Honey & I
6. Don’t Save Me
7. Days Are Gone
8. My Song 5
9. Go Slow
10. Let Me Go
11. Running If You Call My Name

Modern Vampires of the City/Vampire Weekend 感想レビュー

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『Modern Vampires of the City』(2013)Vampire Weekend
(モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ/ヴァンパイア・ウィークエンド)

 

エズラによるとこのアルバムはアメリカについてのアルバムだそうで、アルバムジャケットもマンハッタン。けれどそのマンハッタンは数十年前のマンハッタンのようで、色もモノクロで雲がちょうどよい具合にかかっているから、それこそ中世のヴァンパイア城のようだ。ヴァンパイア・ウィークエンドの新作がようやく出るってんで久しぶりにこのアルバムを聴き直してみたら、古いアメリカというより古いヨーロッパに近い印象を受けた。

そもそもアメリカはヨーロッパからの移民が多くを占めている訳だから、古いアメリカを描こうとすると古いヨーロッパ的なるというのは当然かもしれないが、つまりそういうところまで意識してヴァンパイア・ウィークエンドはこのアルバムを作ったということだろうか。にしても2019年になってその意味が響いてくるとは。恐るべし、ヴァンパイア・ウィークエンド。

このアルバムはエズラの声から始まるように、彼の声を大々的にフィーチャーしている。実際しているかどうかは分からないが、決して軽くない歌詞が彼の声があることにより、全体としての明るいトーンに繋がっている。やはりエズラの声のアルバムと言っていいだろう。

歌詞は至る所に皮肉っぽいところがあってサリンジャーみたいで僕は好きだけど、多分エズラはインテリだからサリンジャーのようにへこたれない。いや実際には大変な事とか嫌な事ばかりなんだと思うけど、そういうのにマトモにぶつかっていかないというか、インテリだからちょっと経路が普通とは違うんだろう。

やたらインテリって言葉で片付けてしまって申し訳ないけど、ただ不思議とそのインテリが作った音楽が何故か凄く風通しがよくって、それは今回は彼ら流のアメリカのロックということらしいが、多分今までがアフロビートだったり欧米主体の音楽じゃないところを経由してきたからかもしれないし、そういう部分も含め改めてインテリだなって思わざるを得ないけど、やっぱり軽やかなのは面白い。

それに彼の声はやたらめったらよく通るから、ジャケットがモノクロだろうが、歌詞が皮肉めいていようがお構いなしに突き抜けてしまう。陽性だから「Diane Young」(=Dying Youngという意味か?)なんて歌っても全然平気なのだ。実験的で批評的(芸術というものは全てそうかもしれないが)であってもその陽性さは崩さない。要するに、難しい顔をしても何も解決しないということか。

 

Track List:
1. Obvious Bicycle
2. Unbelievers
3. Step
4. Diane Young
5. Don’t Lie
6. Hannah Hunt
7. Everlasting Arms
8. Finger Back
9. Worship You
10. Ya Hey
11. Hudson
12. Young Lion

国内盤ボーナストラック:
13. YA HEY (‘PARANOID STYLES’ MIX)
14. UNBELIEVERS (‘SEEBURG DRUM MACHINE’ MIX)

ChapterⅡ-EPⅠ/Vintage Trouble 感想レビュー

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ChapterⅡ-EPⅠ(2018)Vintage Trouble
(チャプターII – EP I/ヴィンテージ・トラブル)

 

ヴィンテージ・トラブルが2枚組の新作を出しました。2枚組と言っても各5曲入りのEPです。2枚組と言っても2枚目は1枚目のアンプラグドです。なんでまたそんなリリース形態なの?と思いましたが、しばらく聴いてるとちゃんと2枚合わせて一つの作品という気がしてきましたね。

リリース形態も今までと違いますが、中身の方も今までと全然違う。何が違うって曲ですよ。曲の練度がメチャクチャ上がってるじゃないですか。もしかして今流行のソングライター・チームによる共作かと思いましたが、クレジットを見るとこれまで通りボーカルのタイ・テイラーを中心としたバンド内でのソングライティングでした。

そういやタイ・テイラーは今回のEP盤のインタビューで、「ライブの躍動感をパッケージしたかった」みたいなこと言ってますね。確かにこのバンドのスキルは相当なもんですから、ついついボーカルを含めたバンド・サウンドで押し切ってしまうところがあったのかもしれない。それじゃいかんだろう、ということで今回は曲作りにかなり注力したのかもしれませんな。

それにしても。ヴィンテージ・トラブルどうしちゃったの?っていうポップさ。思惑通り、曲の力で持っていく感じが凄くしますね。従来のどストレートなロックンロールはないですが、その分複雑な曲も増えて曲の練度はすっごく上がってる。リリックも手が込んでいて洗練されたライミングやアクセントに動きがあって気持ちいい。あれ、ヴィンテージ・トラブルってこんなことも出来るんや、ってちょっと驚きです。

で、このEPのツボは2枚目ですよ。なぁ~んだ、よくあるアコースティック・バージョンでお茶を濁したのかなんて思っているそこのあなた。確かに私も最初はそう思いましたよ。ところが曲重視の1枚目がここで活きてくるわけです。

先ずバンドの演奏が的確なんですね。しかもトレンドであるラテン音楽の要素を取り入れてくる。パーカッション主体でドライブし、ラストの曲はレゲエのリズムやね。この辺はもう抜群の安定感。しかもアレンジがシンプルですから曲の良さが更に際立つのです。なのでまた1枚目を聴きたくなる。そして1枚目を聴いているとまた2枚目を聴きたくなる。どーです、この幸福な2枚組スパイラル。曲重視の1枚目があっての2枚目のアコースティック・バージョン。なんだかこの2枚組の意図がちゃんと伝わってきたような気がしてきました。

彼らはその名のとおりヴィンテージなソウル、ロックンロール音楽のみをする方かと思っていましたが、跳ねたポップソングでも勝負できるんですね。どーもおみそれしやした。もうこうなりゃヴィンテージ・トラブルは無敵ですな。じゃ次はいつもどおりのロックンロールでぶっ放しますか。

 

Tracklist:
Disc 1
1. Do Me Right
2. Can’t Stop Rollin’
3. My Whole World Stopped Without You
4. Crystal Clarity
5. The Battle’s End

Disc 2
1. Do Me Right (Acoustic)
2. Can’t Stop Rollin’ (Acoustic)
3. My Whole World Stopped Without You (Acoustic)
4. Crystal Clarity (Acoustic)
5. The Battle’s End (Acoustic)

Warm/Jeff Tweedy 感想レビュー

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『Warm』(2018)Jeff Tweedy
(ウォーム/ジェフ・トゥイーディー)

 

そう言えばウィルコの『Schmilco』アルバムが2016年だから、そろそろウィルコの新しいアルバムが出るんじゃないかとネットでウィルコの新譜を探していたら、ウィルコじゃなくてジェフ・トゥイーディーの新作を発見しました。

なんでもウィルコは現在活動休止中だそうで、その理由はドラマーのグレン・コッチェの奥さんがフルブライト奨学金とかいう学者や研究者といった各種専門家を対象とした国際交流プログラムを受けることとなり、夫婦そろって暫く北欧に滞在することになったためということらしいが、このいかにもウィルコっぽい真っ当な理由の前では、よく分からないながらも納得してしまうしかないわけで。とは言いつつそれはそれでウィルコの新しい音楽は聴けないのかと、僕としてはちょっと困った気持ちになったりもしている。

その埋め合わせってわけでもないでしょうが、ジェフが初のソロでのオリジナル・アルバム『Warm』をリリースした。でもこのアルバムには件のグレン・コッチェが参加しているようなので、ウィルコが活動休止しているのにはもっと他の理由があるのかもしれないとそれはそれで心配になるが、とりあえず今はこのアルバムを聴いてぼんやりしておこう。ちなみに2017年にもソロで自作を含めたアコースティック・カバー・アルバム『Together At Last』ってのを出していたらしいけど、それも僕は全く知らなかった。どっちにしてもジェフのソロが初ってのは意外だな。

音楽の方はいつものウィルコ節がいつものジェフのぼそぼそっとした声で歌われている。サウンドはアコースティック・ギター主体の穏やかなサウンドに時折エレキ・ギターが印象的なフレーズを挟んでくる。曲によっては2本のエレキ・ギターの別のフレーズが両耳から流れてきて(イヤホンで聴くことが多いので)気持ちいいったらありゃしない。穏やかなメロディに穏やかなサウンド。耳障りはタイトルどおりの穏やかなアルバムだけど、ジェフのことだからやっぱ歌詞は穏やかじゃない。和訳がないから正確には分かってないけど。

こういう心地よい音楽はぼんやり聴くに限る。僕はウィルコの、ボーカルに全く寄り添おうとしないバンドの演奏が醸し出す微妙な違和感が好きなんだけど、勿論ジェフのいつものウィルコ節とぼそぼそっとした声が好きだから、今はこれで満足している。ていうか今回もあんまり寄り添ってないか。だから心地よいのだろう。ジェフさん、間を開けずにちゃんとアルバムを出してくれてありがとう。ウィルコのアルバムもそのうち出してね。

 

Tracklist:
1. Bombs Above
2. Some Birds
3. Don’t Forget
4. How Hard It Is for a Desert to Die
5. Let’s Go Rain
6. From Far Away
7. I Know What It’s Like
8. Having Been Is No Way to Be
9. The Red Brick
10. Warm (When the Sun Has Died)
11. How Will I Find You?

A Brief Inquiry Into Online Relationships/The 1975 感想レビュー

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『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018)The 1975
(ネット上の人間関係についての簡単な調査/The 1975)

 

The 1975、およそ2年半ぶりの3rdアルバム。全英全米ともにNo.1になった2ndアルバムで一躍若手ロック・バントの筆頭株となった彼らだか、3枚目ともなると『OK コンピューター』のようなアルバムを作らないといけないと、フロント・マンのマット・ヒーリーはかのレディオヘッドの名盤の名を持ち出した。とはいえ彼らはThe 1975。確かにシリアスな一面もあるが、自身のアイドル性を敢えて持ち出すしなやかさが売りだ。『OK コンピューター』と言われてもなと、半ば冗談として受け止めた我々を尻目に The 1975 は本当に『OK コンピューター』のような強大なアルバムを作り上げた。しかもそれは『Music For The Cars』というシリーズ2部作の1作目になるという。もう一山来るというのは本当だろうか。

オープニングはいつもの『The 1975』のテーマ。オートチューンにゴスペルクワイアと近年のトレンドを恥ずがしげもなく採用しているが、いつもの如くその違和感の無さは、確か前からそんな感じだったよなと我々に思わせてしまう器用さと屈託のなさ。しかし今回はこれまで披露してきたテーマ曲とは異なり才気走っている。これはロック音楽にとってとても重要な事だ。

確かに The 1975 はデビュー・アルバムからジャンルを横断する一筋縄ではいかない存在だった。例えば、誰かに The 1975 とはどのようなバンドかと聞かれれば答えに窮してしまう、悪く言えば無節操で、よく言えばこれまでのジャンルでは形容しがたい新しい魅力を備えていた。しかし今後我々はもう躊躇する必要は無いだろう。彼らは古き良きギター・バンドであり、アンビエントな音階を奏でるエレクトロニカであり、心地よくも煌びやかな80’sであり、首筋に直に接続してくるネオソウルであり、そのいずれもが The 1975 という1個の音像として誰もに納得してもらえるだけのサウンドを確立したのだから。

本作の特徴を歌詞の面で見ていくと、マット・ヒーリーによる一人称の語り口調が目立つ。これまでも実体験を元に新たな物語を作り上げていたヒーリーだが、今回は特に個人的な側面が強くなっている。それは自身のドラッグの問題であったり、いつもの痴話話だったり。とはいえここにいるのは稀代のストーリー・テラーだ。個人的側面が強くなったところで間口が狭くなることはない。まるで他人事のように話し、極限の感情を押し込める本作におけるヒーリーの詩作は恐ろしく切れている。

そう。幾分キャラ先行であったマット・ヒーリーはこのアルバムで堂々と新しい世代のフロント・マンとしての覚悟を示したと言ってもよいのではないか。過剰さに重みが加わったヒーリーの声はありとあらゆる場所へ節操なく飛び移る多種多様なサウンドやストーリーを統べている。彼のボーカリストとしての新たな深みや記名性が The 1975 というバンドに新たなステージをもたらしたと言っていいだろう。

ロック・バンドにはバンドを決定づけるアルバムがある。そういう意味で本作は The 1975 というバンドを決定づけるアルバムと言えるのかもしれないが、先にも言ったようにこの後バンドは『Music For The Cars』という2部作のもう一枚(既にタイトルは『Notes on a Conditional Form』と決まっている)を今年の早い段階でリリースする予定だという。ここまでのアルバムを作り上げしまった以上、この後は『KID A』のような幽玄の彼方に行くしかないのか。それとも彼らには別の頂が見えているのか。いずれにせよ彼らが選んだ道は長く険しい。しかし彼らは持ち前の器用さ不真面目さでそれを乗り越えてゆくだろう。いつもの如く我々に確か前からそんな感じだったと思わせながら。

 

Tracklist:
1. The 1975
2. Give Yourself a Try
3. TOOTIMETOOTIMETOOTIME
4. How to Draw / Petrichor
5. Love It If We Made It
6. Be My Mistake
7. Sincerity Is Scary
8. I Like America & America Likes Me
9. The Man Who Married a Robot / Love Theme
10. Inside Your Mind
11. It’s Not Living (If It’s Not with You)
12. Surrounded by Heads and Bodies
13. Mine
14. I Couldn’t Be More in Love
15. I Always Wanna Die (Sometimes)

日本盤ボーナストラック
16. 102

The 1975 『A Brief Inquiry Into Online Relationships』 レビュー ~プロローグ~

洋楽レビュー:

The 1975 『A Brief Inquiry Into Online Relationships』 レビュー ~プロローグ~

 

僕たちは本当にクリック一つで地球の裏側まで行けるようになったのだろうか?それでも自分の年齢を知るのは集めたレコードの数だったりコーヒーの種類だったりするのだけど、君が何回あいつに連絡したのかは知らないし、僕があの子に何回電話したのかに至っては本当にどうだっていい。絵の描き方を一度も習ったことはないけど、僕たちは何度もトライアンドエラーを繰り返し気付いたことは嘘はいけないってこと。なのに連中の話すことに一切真実はないし、けれどそれを僕たちは愛さなければいけない。近代化が何ももたらなさいにせよ、それが僕たちがこしらえたものならば僕たちはそれを愛さなければならない。とはいえ何に付け自己言及的な僕は君に僕の間違いになって欲しいとうそぶく。それでも僕たちは友達になれるかな?まさか憎み合って終わったりしないよね?死ぬのが怖い。ちゃんと話し合いをしたい。だから銃は要らない。でもインターネットは要る。インターネットは君の友達。けど恐ろしいことに君がどこかに行ってしまってもインターネットはどこにも行かない。君の大体の事は知っている。加工された写真も知っている。これからも君はきっと上手くやれる。でも僕は本当の君を知りたい。ややこしいことに足を突っ込んで抜けられないなんてことあるよね。君無しじゃ生きている気がしないとか(笑)。そこで僕たちは静かに過ごす。余計なことは話さない。彼女はここでのリハビリをもう一週間続けることにしたらしい。言いにくい事があればジャズの調べに乗せたらいい。ほら、本当の事でも傷付けたりしない。僕は君の時間を無駄にしたって言うけれど、これ以上どうやって愛すればいいのだろう。僕は本当の人生を歩んでいない……、だから僕はいつも死にたい。時々。どうしようもなく生きたい。

これらは全て、the1975というバンドのスクリーンの中の物語。けれどそれは今、世界で起きている出来事。或いは彼らなりのオンライン上の簡単な調査。

追伸:結局、本当に大切なことは僕たちの些細な日常にしかない。時代が変わろうとも真実は毎日の暮らしの中にしかない。個人的な事を正直に話すことこそが(この正直っていうのが最も難しいが)、世界についてを話すこと。

2018年 洋楽ベスト・アルバム

 

『2018年 洋楽ベスト・アルバム』

 

年末恒例の各メディアのベスト・アルバム選。年も明けてほぼ出揃った感じでしょうか。こういうの、眺めてるだけでも楽しいですよね。2018年の傾向としては、2017年のケンドリック・ラマー『Damn』のようなこれが今年の1枚だ、みたいな作品が無くて、そういう意味では各メディアそれぞれの個性が出て、逆に面白い年間ベスト・アルバム選になっているんじゃないでしょうか。でしょうかって言っておきながら知らん作品ばかりなんやけどね。

僕個人で言えば、2018年はYouTubeをかなり利用しました。タダでアルバム聴くなんざ不届き者っー!!(笑)。ていうかチャンス・ザ・ラッパーがフィジカル盤出さんからや~。てことで、あれっ?YouTubeでアルバム結構聴けるんやってことに気付いて、ついついこれ買うか迷うな~ってのをYouTubeで済ましてしまう1年となってしまいました。ま、懐事情もございますから(笑)。今後はほどほどに致します…。

で2018年の僕のベスト・アルバムはなんだっけかなと考えてみると、先ず年明けのスーパーオーガニズム。気の抜けたようなサウンドもいいし、オロノさんの声もいいし、なんつっても曲がいい。これからどう変容していくのか分からないけど、彼女たちの先には未来しか見えません。それとアークティック・モンキーズ。サウンドとしてはロックじゃないかもしれないけど、このわけの分からなさを納得させる腕力は流石と言うか、ロック・バンドも負けちゃいねぇぞっていう爽快感がありましたね。

あと世間的なベスト選には引っ掛かって来ないかもしれませんが、ボン・イヴェール好きとしてはビッグ・レッド・マシンのアルバムが2018年の世の中の気分とマッチしていてすっごく良かったです。同じく変化球だとルイス・コールも。この人の才能にはぶったまげました。それと個人的に大好きなクークスの新作もキャリア史上ベストなんじゃないかっていうぐらいメロディが映えるいいアルバムでした。

でこの中から今年のベストはどれかな~なんて考えてたら、最後にドカンと来ました。The1975です。12月に出たばっかなので、どうしてもテンションが上がり気味になってしまいますが、このサウンドとリリックは時代を象徴するアルバムなんじゃないかと。日常の些細な出来事こそが真実であり、その15編の小さな物語がThe1975という端末に収束されていくという手腕は見事と言うしかない。

正直、このバンドがここまで来るとは思っていませんでした。『OKコンピューター』によってレディオヘッドが幾つかあるいいバンドのうちの一つからオンリーワンの存在になったように、The1975も今回のアルバムで唯一無二の存在になったような気がします。

てことで、2018年、僕のベスト・アルバムはThe1975の『A Brief Inquiry Into Online Relationships(ネット上の人間関係についての簡単な調査)』に決定です!!次点でアークティック・モンキーズ『Tranquility Base Hotel & Casino』とザ・クークス『Let’s Go Sunshine』。一応新譜は聴くたび毎に点数を付けておりまして、2018年に満点を付けたのはこの3作品でした。やっぱオレ、UK好きやな…。

おまけでベスト・トラックも。やっぱ2018年はこのバンドを外すわけにはいかんでしょう。てことで、スーパーオーガニズム『Everybody Wants To Be Famous』に決定です。「みんな有名になりたい」って歌詞を眉ひとつ動かさず歌うオロノさんがカッコええ。

※2019.2.1追記:
大事な人たちを忘れていました。ピーター・コットン・テールの『Forever Always』。フィーチャリング Chance The Rapper,Daniel Caesar,Rex Orange County, Madison Ryann Ward, Yebbaっていう沢山のミュージシャンが参加してますが、もの凄く幸せになれる曲です。この曲も僕のベスト・トラックですね。2曲になってしまいました(笑)。

Room25/Noname 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Room25』(2018年)Noname (ルーム25/ノーネーム)

ノーネームの2作目。1作目の『Telefono』(2016年)が好評だったようで、それまでの平穏な生活から一転、各国をツアーで回る日々が続いたそうだ(その間、日本公演もあったようです)。デビュー作でいきなり脚光を浴びたアーティストが一様に辿る道として、慣れないショービジネスの世界に戸惑い、自分を見失いそうになりつつも、そこで見た新たな世界に触発されて次作では一気に世界観が広がっていく、というのはよくある話で、ノーネームも全く同じく、基本的なモノづくりに向かう姿勢としては1作目とさほど変わらないとしても、アウトプットされて出てきたものは音楽的にもより深く、詩の面でもも視野はより大きなものとなり、やはりアプローチとしてはそのリーチが格段に伸びている。

1曲目の『Self』ではそれこそ前作を踏襲したソフトなサウンドだが、聴き手は2曲目の『Blaxploitation』で度肝を抜かれるだろう。ヒップホップのジャズへの接近は近年のトレンドであるが、チャンス・ザ・ラッパーを中心に今やシーンの最重要地域であるシカゴ一派はもともと従来のヒップ・ホップに頓着しない。今回もそのシカゴ一派が繰り出すサウンドはノーネームのリリックを乗せて縦横無尽に駆け巡っている。

続く『Prayer Song Feat. Adam Ness』でもそうだが、リズムはかなり複雑だ。人々の感情に最接近する生き物のようにうねるジャズ。その変則的なリズムはどこかノーネームたちアフリカ・アメリカンのルーツを思わせる。そう、今回のアルバムでは2曲目のタイトル、『Blaxploitation』からも想起されるように自らのアイデンティティーへの言及が顕著だ(『Blaxploitation』の意味は分からないが)。黒人であり、女性であること。そのことはサウンドも含め歌詞に置いてもかなり強く言及されている。落ち着いたトーンの(厳しい世界が歌われてはいるが)1作目を聴いて、ノーネームはいかにもヒップ・ホップな言葉遣いをしない人だと勝手に思い込んでいた身としては、今回の‘nigga’や‘bitch’や‘pussy’といった言葉が飛び交う歌詞に随分と面食らってしまった。詩の詳しい中身は英語をあまり解さないのでほとんど分かっていないが、それでも彼女の意図や決意や意志は十分に伝わってくる。肉体的なサウンドはそのメッセージ故だろう。

ところで、飛躍的に音像が豊かになったこのアルバム。ノーネームの言によると、生の楽器にこだわったそうで(外野から口出しされるのが嫌だから、全部自分でお金を出したらしい!!)、ゲストもふんだんに交えて、通常のポップ・ソングからすれば突拍子もないご機嫌なメロディーが聴けるのだけど(#7『Montego Bae』とか#8『Ace』とか)、これらはチーム全体のアイデアなのか。メロディやサウンドのアイデアはどこまでがノーネームのものなのか。そこはちょっと気になりました。

いずれにしてもノーネームのラップ・スキルは相変わらずとても滑らかでクール。彼女の場合、元々はちょっとしたイベントでポエトリー・リーディングを披露する街の詩人だったのだが、そこは音楽が伴おうが変わらない。キャリアを重ねてフロウも更に磨かれているけど、いかにもラッパーな感じはしないし、雰囲気はあくまでも街の詩人のポエトリー・リーディングというところが僕は好きだ。

Tracklist :

1. Self

2. Blaxploitation

3. Prayer Song Feat. Adam Ness

4. Window Feat. Phoelix

5. Don’t forget about

6. Regal

7. Montego Bae Feat. Ravyn Lenae

8. Ace Feat. Smino & Saba

9. Part of me Feat. Phoelix & Benjamin Earl Turner

10. With you

11. no name Feat. Yaw & Adam Ness

Love Me/ Love Me Not  Honne 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Love Me/ Love Me Not 』(2018)Honne
(ラブ・ミー/ラブ・ミー・ノット /ホンネ)

ホンネ、2枚目のアルバム。ロンドン出身のエレクトロ・デュオです。そうです。ホンネとは日本語の‘本音’のことです。自身のレーベルが‘Tatemae Record’だそうで、インナースリーブには‘recorded at Tokidoki Studio’なんて文字もあったりして、随分と日本をご贔屓にしていただいているようです。有り難いことですな。まぁ日本に限らず、シングルの#2『Me & You』のPVでは韓国を舞台にしているぐらいですから、東アジア全般が好きなんでございましょうなぁ。

サウンドはとってもクールでオシャレなエレクトロ・サウンド。ソウル・テイストな曲に平熱感のボーカル。けれどしっかりフックが効いているから耳にすご~く残ります。それでも巷のヤングメンみたいにやたら盛り上げることはありませんから、私のようなクールな大人にぴったり。と行きたいところですが、夜の東京、ホテルのバーでオシャレに夜景を眺めるなんてしたことねー。

しかしまぁ、アレンジが絶妙やね。#1『I Might』にしても#9『Shrink』にしても、さぁここからサビだってとこで逆にクール・ダウン。でもそれがかえって心地よくって疲れないというか、ほら、すっごくキャッチーな曲でも強調され過ぎると疲れるでしょ?日常生活ってそんなしょっちゅうテンション高くないし。だからこうやって地味~なサウンドで大きな起伏なくすうっと来られるのが一番落ち着くし、変化のない毎日でもずーっと聴いていられるのです。

と言ってもただひたすら地味にって訳じゃなくちゃんとアクセントを効かせていて、背後で控えめにいいフレーズが流れているんですね。だから目をつむって耳を澄ませて、ゆったりしながら聴くってのがホントに決まるっていうか、やっぱ静かな夜の音楽なんやね。それはサビの「ガラッガラッゲッ、バックトゥユー♪(gotta gotta get back to you)」が耳に付いて離れないアルバム随一のキャッチーな曲、#7『Location Unknown』でも変わりません。背後でずっとオシャレなリフが鳴っているのもツボやね。だからいい気分になる。やっぱ日本好きといい、この人達はニッチなところを突いてくるのが好きなんやね。

そうそう、#6『306』なんてエレピ好きの私にとっちゃたまりません。中盤でのフェンダー・ローズかな?との独唱パートは最高やね。全編通してフィーチャーされているのはハモンド・オルガンでしょうか?引き算が得意の彼らではありますが、ここはオレのためにもっとエレピをグイングイン言わせてくれ~。

ほんと、控えめな落ち着いた音楽ですから、聴く場所を選びません。てことで、大人の夜の音楽と言いながら、私、休日の真昼間からリビングで流しているので、このところ「ガラッガラッゲッ、バックトゥユー♪」が脳内をループしまくっているマイ・ファミリーでございます。

tracklist:
1. I Might
2. Me & You
3. Day 1
4. I Got You
5. Feels So Good
6. 306
7. Location Unknown
8. Crying Over You
9. Shrink
10. Just Wanna Go Back
11. Sometimes
12. Forget Me Not

日本盤ボーナス・トラック
13. Just Dance
14. Day1 (Late Night Version)
15. Sometimes (Light Night Version)

Fairytale of New York/Pogues 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Fairytale of New York』(1987年)The Pogues
(ニューヨークの夢/ザ・ポーグス)

 

12月です。クリスマスです。皆さんはクリスマス・ソングと聞いて思い浮かべるものはありますか?僕が真っ先に思い浮かぶのは「レリッ、スノ~、レリッ、スノ~、レリッ、スノ~♪」ですね。映画『ダイハード2』のラスト、ジョン・マクレーンとホリーが再会する印象的な場面でかかるこの曲の正式名称は『Let It Snow』。歌詞の内容は恋人との別れを惜しむ気持ちを、文字通り「Let it snow, Let it snow, Let it snow(雪よ降り続いて」という言葉で表現しています。1946年に米国で作られ、以来多くの歌手により歌い継がれています。『ダイハード2』ではフランク・シナトラだったかと思います。

日本で言うとやはり山下達郎の『クリスマス・イブ』でしょうか。「きっと君は来ない~」ですよ(笑)。でもこの歌はここがミソ。最後に「叶えられそうにない」と歌うように恐らく君は来ないのでしょう。でももしかしたら来るかもしれない。君に会えるんじゃないかと。そういう期待を微かに持っている。そういう弱々しい歌なのだと思います(笑)。でもみんな、そういう経験ありますよね?この微妙なニュアンスを言葉で説明せずに曲全体の雰囲気で響かせる山下達郎さんは流石です。

世界的に最も有名なのはやはりジョン・レノンの『Happy Cristmas(War Is Over)』かもしれません。お金持ちにも貧しい人にも、どんな人種の人にも、もっと言えばクリスマスなんて知らない人にも等しくクリスマスは訪れる。だからもう戦いなんてやめようよ。そんな歌ではないでしょうか。「Marry Cristmas」の後に「and Happy New Year」と続くところがいいですね。この言葉が加わることで肯定感や希望が増してくる。光がポッと射してくるような気がします。

今お話しした3曲はいずれも超有名曲。けれど今から紹介する曲をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。ザ・ポーグス(Pogues)の『ニューヨークの夢(原題 Fairytale of New York)』です。ザ・ポーグスはアイルランド人ボーカリスト、シェイン・マガウアン(Shane MacGowan)を中心にロンドンで結成された、アイルランド民族音楽とパンクロックを融合したアイリッシュ・ロック・バンド。なんのこっちゃ分からないと思いますが、北欧やなんかの酒場でアコーディオンとかフィドル(バイオリンのこと)とか首から下げた太鼓なんかで賑やかに音楽を奏でる場面ってのをたま~にテレビで見かけませんか?あれですあれ。通常のバンド編成プラス、あーゆう感じという具合に想像していただければよいのですが、ま、この曲を聴いてもらうのが一番ですね(笑)。

さっきわざわざアイルランド人ボーカリストって述べましたが、それには理由がありまして、この歌は所謂ストーリーテリングの手法が用いられているんですね。で登場人物がニューヨークへやって来たアイルランド移民なわけです。冒頭、酔っぱらって留置場へ入れられた男はそこにいる先客の老人が「The Rare Old Mountain Dew」を歌っているのを耳にします。これはアイルランドの地名が沢山出てくる歌で、男は、あぁこの泥酔してぶち込まれた老人もアイルランド人だなと悟るわけです。そして「あれはクリスマス・イヴだったな」とちょっとばかり昔を思い出すのです。

若い頃に男は愛する女とアメリカに移民してきます。男には夢があり、女にも夢があった。男は格好よく女は可愛らしかった。この辺りがさっき言ったアイルランド音楽っぽい賑やかな雰囲気で奏でられます。しかし現実はそう上手くは行かない。2番の歌詞では年老いた二人が、こんなになったのはお前のせいだと互いに口汚く罵り合います。そうそうこの歌はデュエットです。シェイン・マガウアンとこの時のポーグスのプロデューサー、スティーヴ・リリー・ホワイト(←U2やデイブ・マシューズ・バンドなんかを手掛けた当時の敏腕プロデューサーです)の奥さん、カースティー・マッコールが女性部分のボーカルを担当しています。このデュエットというか掛け合いが素晴らしいんですね。二人とも登場人物にぴったりの声。ミュージカルみたいでテンポよく、ちょっと芝居がかった感じがとてもいいのです。で最後のヴァースでは落ち着きを取り戻した二人がぽつりと本音を語り合う。語り合うって言ってもそんなハッピーな話じゃないんですけど、老境にさしかかった二人の関係がね、決して感動するとかっていうんじゃなく、でも心に響くんですね。まぁこの辺は実際に聴いてもらって人それぞれ、年代によって、性別によって、環境によって思うところは色々あるんだと思います。

ところで、この曲はコーラスのところでもアイルランドの有名な曲が出てきます。ニューヨーク市警の聖歌隊が歌う『Galway Bay』です。だからこの人達もアイリッシュなんだというのが分かるわけです。要するに、多くのアイルランド人が新天地を求めてアメリカ大陸にやって来るものの、実際にはそんな簡単にいい職にありつける訳じゃなく、あるとすれば危険な仕事ばかり。だから警察官もアイリッシュが多かったらしいのです。僕たち日本人にはなかなか分かりにくい所かもしれませんが、日本でも入管法の議論がなされていて、まぁはっきり言って移民ですよね。そういう意味では今後この曲の世界は僕たちにとっても真実味のある曲になっていくのかもしれません。

少し話が逸れましたが、本当に素晴らしいクリスマス・ソングです。ちなみにこの曲はイギリスでは国民的なクリスマス・ソングらしく、毎年この時期になるとチャートに上がってくるそうです。まるで達郎さんの『クリスマス・イブ』ですね。日本でもこの歌を好きな人はたくさんいて、グーグルで検索すると僕みたいに、というか僕以上に上手に語っている人が沢山いて、ホントに愛されている歌なんだなと。僕は何年か前にラジオでこの曲を聴いて、以来、毎年この時期になると必ず聴いています。もっと多くの人にこの歌が行き渡っていくといいなと思っています。