雨の日のリオデジャネイロ

ポエトリー:

『雨の日のリオデジャネイロ』

 

世界の理(ことわり)を
通り抜けるリオ
雨の日の
友達の泣き顔は冷たい

おおらかな窓を開け放つリオ
普段の行いは鮮やかに晴れ
けれど雨の日のリオ
友達は泣きはらす

揺さぶる手に
先代に拾われてきた貝殻
耳に当て
覗きこむフリを

大好きなのは波打ち際
羽目を外し戯れの貝殻
沈み混む時を
待ちきれない

だからじゃない
黙って去ったのはだからじゃない

上目遣いで
砂から出て来れない時よ
雨はもうしばらく続くから
そっとしてやれよ

雨の日のリオ
冷たいよ
もっと祈りを
雲を振りほどく
朝の光を

 

2018年6月

新版画展 美しき日本の風景 美術館「えき」KYOTO 感想その②

アート・シーン:

新版画展 美しき日本の風景 美術館「えき」KYOTO 感想その②

 

展覧会に入ってすぐに現れるのは瀬川巴水の作品。「東京二十景」と題された作品が続きます。「桜田門(昭和3年)」、「井の頭の春の夜(昭和6年)」、夜の表現が凄いです。吸い込まれていきそうです。「東京二十景」の中で僕が一番気に入ったのは「池上市之倉(昭和3年)」です。何もない街道が画面の下4分の1ぐらいに真横にスーッと伸びていてそこに林が並んで立っている。その街道の暗さと奥から覗く夕陽のオレンジの鮮やかさ、その対比が素晴らしいです。

もうこの辺りで新版画の魅力に打ちのめされます。小さい絵、渡邊庄三郎さんの意向なのか版画はそういうものなのか、B4サイズぐらいに統一されているので、そんなに大きな絵ではないのですが、だからこそそこに広がる宇宙に感動して胸が熱くなる。新版画が大体どういうものかは知っていたので、最初はその精緻さに驚くんだろうなとは思っていたんだけど、ちょっとグッとこみ上げるような感動がありましたね。それはやっぱりそこに広がる宇宙だと思います。

瀬川巴水に続いて、吉田博の作品が並びます。個人的にずっと見たかった作品。念願が叶いました(笑)。やっぱ違いますね、瀬川巴水とは。もう全然違う。なんていうか独創的!勿論、巴水の作品も素晴らしいのですが、同じ新版画といえども全くキャラが違ってて面白いです。なんか吉田博の作品は壮大ですね。画面のサイズは変わらないのですが、躍動感というか、分かりやすく言えば巴水が静で吉田が動といった感じでしょうか。吉田は登山家でもありましたから、山の絵が多いのですが、そうした移動感とでも言うか、止まっている絵でも、静かな湖面を描いた絵でも移動感が仄かに立ち上がるのです。

あと吉田博にも「東京十二題」という連作があるんですが、そのうちの「平川橋(昭和4年)」ていうのが夜を描いていてこれがやっぱいいんです。版画の魅力は彩色にもあるわけで、吉田の作品には「陽明門(昭和12年)」ってのがあってこれは96度摺りっていうとんでもない執念の作品で、立体感とか質感が素晴らしいのですが、逆にトーンを落とした夜の場面てのも新版画の見どころなんですね。深い闇を摺り重ねた向こう側に見えてくるもの、抒情感とでも言えばいいのか、新版画の夜、これも必見ですね。

新版画に続いていくつか江戸時代の浮世絵も展示されていて、この展示の仕方もその違いが浮き彫りになって良かったです。勿論、独創的な江戸時代のものもいいのですが、やっぱ細かさとか技術は進化してるんですね。どちらがいいとか言うのではなく感触が全く異なります。こういうのを見ると、じゃあ現代の作家の版画はどうなのか。これも気になるところです。

あと気付いたことに構図の妙がありますね。さっきも書いたようにサイズが小さいですから、油絵のようにキャンバスに大きく描くっていうのとは違うんです。スケッチブックを持って写生に行ってある部分だけを切り取る。だから構図が自由なんですね。ただ浮世絵の場合は実際にはあり得ないような独創的な構図に持っていく。新版画は最初から構図自体を印象的、特徴的なものにして選んでいく。勿論全てではないですが、そんな印象は受けました。

他にも新版画の旗手たちの作品があるのですが、個人的には瀬川巴水と吉田博、この2名が突出していましたね。巴水は渡邊庄三郎が見出した人ですから、二人で意見を出し合っていい作品を、売れる作品をと頑張るわけです。一方の吉田は版画を始めたのが40代後半でその頃は既に油絵の大家として有名で、だから版元といえども庄三郎さんは何も言えない(笑)。だからその違いがやっぱり絵にも出てて面白いんです。音楽で言えば、売れっ子プロデューサーとタッグを組んでポップでコマーシャルなものを作ろうとするタイプと、遮二無二作家性を追求していくタイプ。例えば人気があった3点セットが、雪と赤(神社とか楼門とか)と女性で、これらが含まれていると売れると(笑)。だから巴水の作品にはそういう絵がよく出てくるわけです。でもそうは言ってもこれがいいんですね。やっぱりその表現を突き詰めている訳ですから完成度が恐ろしく高い。

逆に吉田は色んなタイプの作品を残しているし、やっぱ執念の人っていうイメージ。とにかく細かさというのかな、リアリズムの追及 さっき書いた96度の摺りだってそうだし、徹底した精緻さ、色の細かさ、指示の細かさ、それに付いて行った刷師の人たちも凄いけど、これでいいがないような、そんな執念を感じますね。

あと気になったのが吉田の絵には余白に「自摺」って書いてあるのが結構あったけど、あれはそういう意味だったんだろか。以前テレビで見た吉田博の特集では本人が彫ってるって言ってたけど、摺りも自分でやったのかな。どっちにしろ、人任せには出来ずに、あーでもないこーでもないと最後まで口うるさく言っていたイメージはやっぱあるなぁ(笑)。

だから版画は画家と彫師と刷師の共同作業ですから、巴水とか吉田博って名前が前面に出ては来ますが、実は名もない職人の技や戦いがその裏にあるわけです。そういう部分に思いを馳せるとまた見え方も違ってくるかもしれません。やっぱプロジェクトXですなぁ。

新版画展 美しき日本の風景 美術館「えき」KYOTO 感想その①

アート・シーン:

新版画展 美しき日本の風景 美術館「えき」KYOTO 感想その①

 

JR京都伊勢丹にある美術館「えき」で開催されていた展覧会、「新版画展 美しき日本の風景」に行って参りました。新版画と言われてもピンと来ないかもしれませんが、要するに新しい版画のことです。ハイ、そのまんまですね(笑)。

版画と聞いて思い浮かぶのは浮世絵。浮世絵は江戸時代に盛隆を迎える訳ですが、明治になる頃には写真の登場や印刷技術の進歩もあって衰退してしまいます。しかしその頃、横浜で貿易に携わっていた渡邊庄三郎という方が海外向けに浮世絵がジャンジャン輸出される様子を見て、こりゃ商売になるんじゃねぇかって独立します。そうです、当時はヨーロッパでジャポニズムが一大ブームにだったんですね。で、渡邊庄三郎は版元になるわけです。

基本的に版画というのは画家と彫師と刷師による分業です。それらの版元ということは要するに今で言う総合プロデューサーですね。画家達を集めて工房を立ち上げる。資金繰りもして販売もする。と言っても版画は衰退していたわけですから、手を挙げてくれる人なんてそうはいません。そこを駆け回って版画をもう一度再興させたのですから余り知られてはいないですが、庄三郎さんて方、実は大層凄い方なのです。なんて偉そうに言ってますが、僕もこの展覧会を通じて初めて知った口です(笑)。ちなみにその庄三郎さんの生涯を追った書籍に「最後の版元」というものがあるそうです。一度読んでみたいですね。

で、庄三郎さん、どうせやるなら新しい版画を目指そうじゃないかって、江戸時代の浮世絵を進化させた版画を目指します。それが新版画です。その新版画、展覧会を見た僕の印象では、まず写実ですね。浮世絵ってほら、美人画とか役者絵ってバランス悪いじゃないですか、目や鼻がちょんちょんで。手、ちっちゃいし(笑)。

それと遠近感。広重の東海道五十三次を思い浮かべてもらえば分かると思いますが、浮世絵の遠近感って凄く独創的ですよね。それが海外の人には斬新だ!って受けた訳だけど、新版画はそうじゃなくて西洋の印象派のように実際に見た風景を写真のように切り取ろうとします。します、って言ってますけど版画ですからね(笑)。相当無茶なわけです。それをやろうとしたんですから、もう笑うしかない。プロジェクトXです(笑)。だから見ていると熱量がね、半端なく伝わってきます。中には96回も色を摺った作品もあって、それはもう画家と彫師と刷師の熱意を思わずにはいられないのです。

~感想その②へ続く~

もうすぐサマソニ!!

もうすぐサマソニ!!

 

タイム・テーブルも発表されて、いよいよ1ヶ月を切ったサマーソニック。と、その前に先週末、フジロック・フェステバルが行われた。今年はボブ・ディランにケンドリック・ラマーっていうおしっこチビリそうな大物がいて、僕も一度ぐらいフジロックに行ってみたいと思うけど、ちょっと苗場は遠すぎっ!とか言いつつYouTubeの生中継をちょくちょく見てました。やっぱいいもんですな。一度は行ってみたいものです。

さてサマソニ。ようやくチケットも買って一安心。まだ心配事はありますが、とりあえずほぼ行けるんじゃないかなと。僕が買ったのは18日(土)。ベックとチャンス・ザ・ラッパーの日。翌日のノエル・ギャラガーも見たいんだけど、流石にそこまで無理は効かないので。ノエルはこれからもまた来るやろしね。それより今回はベックさんにチャンスさんっていう流れが強烈だ。特にチャンスさんは来日自体がレア感満載で、これを見逃す手はないでしょう。と言いつつ最近はベック熱の方が高まってきておりますが(笑)。

そーなんです。僕はベックさんをこれまでちゃんと聴いたことが無く、昨年の『カラーズ』アルバムでようやくベック・デビューをした不届きもの。ベックって何かつかみどころが無いし、アート系な匂いがどーもねって先入観があったんだけど、その『カラーズ』がとっても素晴らしくて、そんでもってサマソニに来るってんで、旧譜を聴いてみたらこれがまた良くって、なんていうのかな、肌合いが合うっていうか、なんか言葉への向き合い方とかアウトプットの仕方がなんかぴったり僕にそぐう感じがして。いやいやそりゃ全然僕なんかとは違いますよ。向こうは偉大なすんごい方ですからそりゃーもー全然っ。でもなんか、近しいものを感じてしまったというか、ま、今さらね、今さらですけど、ベックっていいな~と思う訳です。で今、一生懸命ベックさんの旧譜を聴きまくっているところでございます、ハイ。

ところでここで一つ、ちょっとした問題が。そーです。タイム・テーブルです。メイン・ステージのベックさんとソニック・ステージのパラモアが丸被りなんですねー。さぁどうしましょってことで、途中で抜けてソニックへ走るか(←2年前はレディオヘッドのアンコールを諦めて、ソニックのThe1975へ走りました)、いやいや移動時間自体が勿体ないっ、どうせ最後チラッとだけでしょってことでパラモアは諦めるか。こりゃあなかなか難しいところです。あー、もう無理っ!て判断を当日の気持ちに委ねようなんて思っていると一番アカン選択をしてしまいそうなので、ちゃんと冷静に考えて準備をしておくべし!さて、どうしますかな。

こうふくなしにかた かのじょのたたずまい

ポエトリー:

『こうふくなしにかた かのじょのたたずまい』

 

かの人は大きな体を揺らしながら山から下りてきて 見知らぬ町に住みついた
大きな体は子供たちの気を引くものだ 怪訝な表情をする子供らが真っ先になついたのはよくある話
それは大人たちの気に触るところだったけど 子供たちは意に介さずかの人にすり寄った

子供たちはかの人の町の大人たちにはない特徴についてあれやこれやと訊ねたし かの人もそのひとつひとつに丁寧に答えた
ひとつひとつ丁寧に答えただけで子供たちは大いに喜んだ
かの人が目くばせすると子供たちは特別な事をしているようで満足げ 誰もが浮足立った

そんな中 かのじょ はなついているふり 遠巻きに見ていた 素朴な子供のふりをしていた
かの人も かのじょ を遠巻きに見ていた
どころか 実態があるのかどうかさえ定かではなかった

ある晩 大人たちがかの人のところへ詰めかけた
かの人は大人たちを部屋へ招き入れた そこには驚くことに何もなかった
大人たちは詰め寄った お前は誰だ 町の安定が揺らいでいる ここへ何をしに来た
かの人は怯えさせることもなく 油断させることもなく すぐに話を始めた

 あなた方は余生です 今生きているのはあの子たちだけです
 あなた方は死ぬまでの時を稼いでいるのです
 いいえ あなた方を非難しているのではありません
 人は二度死ぬのです そういうものなのです
 私は余生の暮らし方 こうふくなしにかた をさがしているのです

大人たちは再び驚いた こいつは何を言っている こいつは人殺しだ 子供たちに近づけてはならない 放っておいては何をしでかすか分からない
大人たちは口々に言った この町から出ていけ 今すぐにだ
かの人は怯えさせることもなく 油断させることもなく すぐに準備を始めた
準備と言っても部屋には何ひとつないのだから5分とかからない
かの人は何も言わず山へ帰った

あくる日騒いだのは子供たち かの人がいないぞ どうやら大人たちが追いやったらしいぞ なんでだ どうしてだ
なかには大人たちに詰め寄る子供もいたが 子供たちは今を生きている 済んだことは意に介さない
それに子供たち自身 なにかホッとした気持ちが無くは無かったから

 

道すがら かの人は随分と前に言われたことを思い出していた

 もう若くはない それは本当の事 あなただってそう

けどオレはピンピンしてるぜ やりたいことだって山ほどある

 そう でもね あなただってもう分かっているはず

 悔しいけど 死んだようなもん あとは年寄りになるのを待つだけ

元の住処が見えてきた
戸口に かのじょ が立っていた
随分と前に言われたことの続きを思い出していた

そうだな 死んだようなもんだから
余生ぐらいは景気良く生きることにする
しにかたはいろいろある

 

2017年10月

Paramore/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Paramore』(2013)Paramore
(パラモア/パラモア)

 

2005年デビューのパラモア、4枚目。このバンドは結構メンバーの出入りが激しいようで、結構ゴチャゴチャしとります。まぁ10代で組んだ田舎のバンドが一気に名声を得てスターダムにのし上がっていくってぇと、そりゃ我々には分からないいざこざがあったりもするでしょう。ボーカルのヘイリーさんはルックスもイケてますから、コマーシャルな部分で随分振り回されたのかもしれませんなぁ。

ただそんな中にあってもずっとパラモアとして活動していく芯の強さ、そんでも負けねぇぞ、っていう心意気がこのバンド、ていうかヘイリー・ウィリアムスの魅力でして、このアルバムは特にそんな心意気満載なのでございます。

で、このアルバム。タイトルからも分かるようにかなり力の入ったアルバムです。収録曲はボーナス・トラックを含めるとなんと19曲!結果から申し上げると、全米1位!全英1位!シングル・カットされた『Ain’t It Fun』ではなんとバンド初のグラミー賞「最優秀ロック・ソング賞」を獲得!ってことでこのアルバムは自他共に認めるパラモア最強の代表作と言えるのではないでしょうか。

まぁとにかく曲がいい!よくもまぁこれだけキャッチーな曲を揃えたなと。メンバーの出入りが激しくて、結曲誰がメインのソングライターかよく分かりませんが(ヘイリーさんは全ての作詞と一部の作曲)、いくらメンバー変更があろうといつも変わらずキャッチーな曲があるってことは、やっぱヘイリーさんの見立てが良いってことでしょうか。

ホント馴染みのいいメロディばっかで#4『Daydeream』なんて散々歌われてきた青春ロックなんですけどグイグイ来る感じがドラマチックでとてもいいんです!#9『Still Into You』や#13『Hate to See Your Heart Break』なんてかわいかった頃のテイラー・スウィフトが歌ってそうだし(今もかわいいですが(笑)、カントリーの頃って意味ね)、#19『Escape Route』のイントロなんてアジアン・カンフー・ジェネレーションじゃねーか(笑)。インタールード的な小品も含めて、ちょっとこれはって曲ないです、ホントに。

そんなグッド・メロディが、パラモアはなんつってもエモ・パンクですから(←これも分かるようでよく分からん形容ですが)、タイトな演奏で畳み掛けるようにハード・ロッキンするわけですよ。そりゃあいいに決まってるじゃあないですか!しかも歌詞が勝気でいい!例えばグラミー獲った#6『Ain’t It Fun』なんて日本風に意訳すりゃ、夢を抱いて田舎から東京に一人でやって来た女の子が、「面白いと思わない?誰も頼る人がいないなんて!」、「ぜって~メソメソ、ママに電話なんかしないし」っていう歌で、私みたいな40過ぎのおっさんが聴いてもグッと来るわけですよ。#4『Daydreaming』なんて「私は昼も夜も夢見てる」っていう歌詞ですからやっぱパラモアはとことんエモいのです。

ただまぁヘイリーさんには悪いですけど、このバンドは出たり入ったり、これからもしちめんどくさいことが起きるんじゃないかと思ったりもして。そんでもってその度に「上等じゃねぇか!」ってまた立ち上がるっていうようなパターンを繰り返すと。もうそういうの込みのパラモアってことでいいんじゃないでしょうか(笑)。

 

1. Fast in My Car
2. Now
3. Grow Up
4. Daydreaming
5. Interlude: Moving On
6. Ain’t It Fun
7. Part II
8. Last Hope
9. Still Into You
10. Anklebiters
11. Interlude: Holiday
12. Proof
13. Hate to See Your Heart Break
14. (One of Those) Crazy Girls
15. Interlude: I’m Not Angry Anymore
16. Be Alone
17. Future

 (日本盤ボーナス・トラック)
18. Native Tongue
19. Escape Route

Walk The Moon/Walk The Moon 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Walk The Moon』(2012)Walk The Moon
(ウォーク・ザ・ムーン/ウォーク・ザ・ムーン)

 

しかしまぁ暑いでんな~。天気予報を見る度に、沖縄の方が涼しいやんけ!とクダを巻いてしまう私ですが、まぁ夏ですから暑いのは当たり前っちゃあ当たり前。とは言いつつ今年はちょっと暑すぎますね。熱中症にならないように気を付けたいものです。

てことで夏といえばこの方々、ウォーク・ザ・ムーンでございます。とにかく歯切れがよい!浴衣が似合う!金魚すくいが似合う!(←完全に私のイメージです…)ウォーク・ザ・ムーン音頭でも作ってもらいたいぐらいなもんです。爽やかっていうよりこうなりゃ暑いまま行っちゃえ、てことでイメージとしちゃウルフルズ。トータス松本ばりのシャウトも決まって、夏祭りがすごーく似合うご機嫌なバンドでございます。

一応ギター・バンドってことでいいのかな。シンセも目に付いて、80’S感もあったりしますが、夏ですから細かい事は気にしないでおきましょう。まぁこのバンドはそれぐらい適当でいいのです。ただ侮るなかれ、ただの能天気なバンドではないんですね~。ご機嫌さんなのは表向きで実は水の中で必死に足を掻いているパターン。そうなんです。この辺りもトータスのパーソナリティに似ている気がする実は繊細な方々なのです(多分…)。

その辺はまぁ聴いてりゃ分かりますね。ちゃんと影があるっていうか、だからこそ大声を上げるって訳で、4曲目の『Anna Sun』なんてすごーく切ないじゃないっすか。必殺の彼らを代表する素晴らしい曲ですが、やっぱ影があってこそのアンセムなわけです。ちょっとふざけたようなバンドでも締めるとこはきちっと締める。その辺の緊張と緩和を使い分ける様なんざ往年のキン肉スグルやね。

この4曲目と続く5曲目『Tightrope』の流れは本作の聞きどころ。ちょっぴり切なくなったところで、スターンッと一気にスピードを上げる展開は最高っす。『Tightrope』の1番が終わったところで聴けるシャウトがまたカッコいい~!更にその次の#6『Jenny』は往年のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのよう。私のようなアラフォ-世代はニヤッとしてしまいますな。うん、やっぱ個人的には#4~#6が山場かな。

サウンド的には、時折印象的なギターがかき鳴らされるものの割りと大人しめ。ボーカルに負けないくらい、もう少しド派手に行ってもよかったかな。と思っていたら2015年に出た2作目はガッと行ってました(笑)。とにかくいいメロディがあって、歯切れが良くって、妙に愛嬌がある。サウンドは全然異なりますが、やっぱポジション的にはウルフルズに近いかも。暑苦しいんだか、爽やかなんだかよく分かりませんが、夏にもってこいのバンド。皆さん、今年の夏はウォーク・ザ・ムーンで乗り切りましょう!

 

Track List:
1. Quesadilla
2. Lisa Baby
3. Next In Line
4. Anna Sun
5. Tightrope
6. Jenny
7. Shiver Shiver
8. Lions
9. Iscariot
10. Fixin’
11. I Can Lift A Car

サニーデイ・サービスのこと

その他雑感:

サニーデイ・サービスのこと

 

サニーデイ・サービスのドラマー、丸山晴茂さんが今年の5月に亡くなっていたことを一昨日、スマホで知った。47才だったそうだ。びっくりした。僕にとってサニーデイ・サービスは特別なバンドだった。その夜、「雨の土曜日」とか「カーニバルの灯」とか「恋はいつも」とか「旅の手帖」とか思いつくままに片っ端から聴いた。サニーデイを聞くのは10数年ぶりだった。

個人的な事を書いてもアレなんだけど、僕は大学時代を京都で過ごした。当時、素敵な女の子がいたんだけど、その子は文学とか音楽とかを割と積極的に吸収していきたいっていうような子で、その子がよく口にしていたのがサニーデイ・サービスというバンドだった。

僕はサニーデイ・サービスなんて全く知らなかったんだけど、彼女がサニーデイの新しいシングルが出たとかでそれが欲しいなんてよく言っていたもんだから、まぁ今だったら臆面もなくシングルぐらいはプレゼントしてあげるんだろうけど当時の僕はまだ純粋でしたから(笑)。なんかそれモノで釣るみたいでヤダなとか、単純にこっぱずかしいなとか。

そんな頃に偶然αステーション(←京都のFM局のことです)からサニーデイ・サービスの音楽が流れてきて、あぁ、これがあの子の言ってたサニーデイ・サービスかぁ、いい歌だなぁと。僕とサニーデイ・サービスとの出会いはそんな風にして始まった。

サニーデイ・サービスは日本的な情景を歌うバンドだった。僕は嬉しいとか私は悲しいといった情緒は一旦横に置いておいて、登場人物が動く様をまるでカメラが追うように切り取っていく。特に若い男女の風景をロマンチックに描くのが抜群だった。その俯瞰的に切り取られたストーリーは、僕のことではないんだけどまるで僕の物語のように感じられ、僕はいっぺんにサニーデイの虜になった。

サニーデイのアルバムはどれも思い出深いんだけど、セルフ・タイトルになった4thアルバム『サニーデイ・サービス』は特に好きだった。それこそ僕の物語みたいで(笑)。それにこのアルバムはバンド・サウンドが前面に出ていて凄くカッコイイ。特に巧い訳じゃないんだけど、曽我部さん(←サニーデイのボーカルでソングライターです)が言うようにバンドがピークにあった時期で、目一杯気合が入っていて迫力がある。勿論、丸山さんのドラムも目一杯カッコイイ。「星をみたかい?」や「旅の手帖」は丸山さんの聴かせどころだ。

そうこうしているうちに僕は就職をして結婚をして人並みにバタバタして、ある日サニーデイは解散をして、いつの間にやら僕は音楽自体をあまり聴かなくなっていった。

サニーデイの音楽には僕の青春時代が真空パックされている。数年前、サニーデイが復活したって聞いたけど、僕にとってはもうどうでもよかった。変なノスタルジーがある訳じゃないんだけど、やっぱり僕にとってあの京都時代とサニーデイは密接に結び付いている。河原町であり、賀茂川であり、町屋が並ぶ路地裏だったり。サニーデイ・サービスと聞くと今でもキュンとなる。そこは大切にしまっておきたい。

丸山さん、ひとつぐらいそんな音楽があってもいいですよね?

R.I.P.

彼女は栄養補給に余念がない

ポエトリー:

『彼女は栄養補給に余念がない』

 

地下街のジューススタンドで
彼女はいつもミックスジュース
残り僅かな生を詰め込む
栄養補給に余念がない

彼女は大学のキャンパスで
小鳥のさえずり 不確かな声を啄む
彼女は栄養過多
情報収集に余念がない

友達から相談を受けた
恋人をどちらにするかで迷っているらしい
彼女は親身になって聞いてあげた
彼女は友達だから

彼女にも恋人は一応いる
けど好きなんだかどうだか
そのくせ、お揃いでスキニージーンズ
そのくせ、既読は翌々日

 

彼女は21になったばかりで
21年分の煩わしさ 紙切れのように小さく折り畳み
大学の図書館の隅、
21-Cの棚に投げ込んだ

彼女の視線の先には
いつもコントロール出来ない煩わしさがあって
その重箱の隅をつつくような視点は
いつも僕を困らせた

彼女は僕より二つ下
けどいつも彼女は二つ上のフリ
ごめんよ
君が欲しいものが僕にはまだ見つからない

道行く人にやたら愛想よく
近くの人も遠くの人も気に掛ける
彼女は実は虚弱体質
密かに息をひそめている

 

そうさ、誰にだってすべてのありかを探す術は無く
出来ることはちゃんと自分の手綱を握っておくこと
そんなことあなたに言われなくたって
また二つ上のフリをして 彼女は教室を後にした

あれから半年ほど経ったけど
結局、友達は誰とも付き合っていない
変わったことといえば、地下街のジューススタンドが派手な飾りつけを発明してSNSで少し話題になったこと
彼女が髪をグレーに染めたこと

自意識が埋もれてしまう前に
地下街のジューススタンドへ
残り僅かな生を満たすため
彼女は栄養補給に余念がない

 

2018年7月

 

Islands/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Islands』(2018)Ash
(アイランズ/アッシュ)

 

例えばレディオヘッドやアークティック・モンキーズは新しいことにチャレンジしていって、ロック音楽の可動域をどんどん広げていく。かたやアッシュはデビュー以来変わらず愛嬌のあるポップ・チューンを奏で続けている。それが意図的なものではなく自然発生的な創作意欲に駆られた結果だとすれば、出てくるものは違うけど、音楽への向かい方はどちらも同じと言えるのではないか。対外的な評価で言えばレディオヘッドな方がスゲエってなるけど、いやいや、ずーっとおんなじことやって未だに飽きさせないアッシュも凄いです。

アッシュだってそりゃ当然その時々で新しい取り組みはあったろうけど、基本的にはティム・ウィーラーのソング・ライティングでグイグイ押してくる。しかもロック・バンドにありがちな原点回帰とか意図的にシンプルにしようぜっていうことではなくて、自然とそうなっちゃう。多分それがいつまでも鮮度を失わない秘訣かもしれないけど、20年以上やってこの初々しさはやっぱ不思議。ティム・ウィーラー恐るべし!

1曲目『True Story』からして特にどうということはないんだけど、このどうということにないメロディを聴かせてしまう技ってのは一体なんなんだろか。2曲目『Annabel』、3曲目『Buzzkill』は分かりやすいアッシュ節。そうそうこんな感じよねっていうパワー・ポップなんだけど、4曲目『Confessions in the Pool』は一転ダンス・ポップ?っていう雰囲気。曲的には同じフレーズを繰り返すだけなんだけど、ちゃんと起承転結があって最後はギターがジャ~ンでやっぱこれやろみたいな(笑)。こういう愛嬌もアッシュの魅力だ。

6曲目『Don’t Need Your Love』はサビを「I don’t need your love」のひと言で持っていくワンフレーズ・サビ。こういうのって実は難しくて、しょぼくなってしまいがちだけど、この曲ではグッと高揚感が高まっていい感じ。ワンフレーズにキラキラとした感性を込められるのはやっぱ初期衝動ならではだと思うんだけど、もうとっくに初期衝動ではないところで曲を作っているアッシュがいとも簡単にやってのけるのはやっぱロック七不思議のひとつかもしれない(あとの6つは知らんけど)。

全部で12曲あってどれも特別に大げさでもなく込み入っている訳でもなくシンプルなメロディですぅーっと行くんだけど、どの曲にも何気に聴かせどころというのがあって、そこにちょっとしたチャームが含まれている。このどうということないメロディにちゃんと愛くるしさが含まれているのには何か勘所があるというか秘訣があると思うんだけど、ちょっとティムさん、「ロック作曲講座」なんてのをやってくれないかな(笑)。

僕は『フリー・オール・エンジュルズ』(2001年)と『メルトダウン』(2004年)以来真面目に聴いてこなかったんだけど、こりゃちょっと反省しないとだな。いい年ぶっこいて(ティムはもう40過ぎ!)未だにキラメキを封じ込められるんだから、もう返す言葉も御座いません!!

 

1. True Story
2. Annabel
3. Buzzkill
4. Confessions in the Pool
5. All That I Have Left
6. Don’t Need Your Love
7. Somersault
8. Did Your Love Burn Out?
9. Silver Suit
10. It’s a Trap
11. Is It True?
12. Incoming Waves