映画『金子文子と朴烈』 感想レビュー その①

フィルム・レビュー:

映画『金子文子と朴烈』 (2019年) 感想レビュー その①

 

僕は下手な詩を書いているが、そのひとつに「アメリカ人のことを知りたければアメリカ人の詩を読めばいい/中国人のことを知りたければ中国人の詩を読めばいい/韓国人のことを知りたければ韓国人の詩を読めばいい」というのがある。幼稚な詩だけど、発想としてはまぁそんな悪くないんじゃないだろうか。そこで。僕はこの映画を知った。だったらば観に行かなければ。そんな風に思った。

あらすじはざっとこんな感じ。舞台は大正期の東京。親に捨てられ悲惨な環境で育った日本人、金子文子はある日、朝鮮人アナキスト朴烈(パクヨル)の書いた詩「犬コロ」に衝撃を受け、彼に会いに行く。文子は朴烈と会ったその日に一方的に同居すると宣言。二人は仲間と共に「不逞社」を結成し、アナキストとしての活動を始める。しかし程なく関東大震災が発生。混乱に乗じて朝鮮人や社会主義者への虐殺が始まる中、二人も検挙され、言われの無い大逆罪の罪に問われていく。

映画の感想は、、、正直言って疲れた。先ず長い。それからオーバーアクション。ちょっと作り過ぎ(笑)。こういうのもアリなのかもしれないけど、慣れてないもので…。でも映画を観て疲れた本当の理由は他にちゃんとある。脳みそが整理が出来ずに混乱していたからだ。

先ず、朴烈は何をしたかったのか。金子文子は何をしたかったのか。当然映画を観ただけでは明確に分からない。関東大震災で朝鮮人が虐殺されたのは知っていたけど、日本政府が加担していたっていうのも本当なのか?そんなこと初めて聞いた。映画はある意味青春映画であり、強烈な愛の物語であり、当然社会的なメッセージもふんだんに盛り込まれている。だがクドクドと説明しない。特急列車のように物語は過ぎていく。物凄いスピードでエネルギーを放射していく。僕はこの映画に圧倒されていたんだと思う。ちょっと体力不足でした。

そこで映画を観た後の数日間、僕は暇を見て色々と調べ始める。3.1運動とは何か?アナキストとは?関東大震災時の朝鮮人虐殺について。朴烈とは?金子文子とは?そうすると彼らの思想が少しづつ見えてくる。彼らは天皇制を批判する。天皇といえば僕の頭の中は今の天皇だから、彼らの主張は???だらけ。でも落ち着いて考えれば違う。戦前の天皇のことだ。天皇は万世一系の現人神であり、国民はその保護下にいるのだというやつ。今の北朝鮮みたいなもんか。だから当時はそんな天皇思想に対しそんなのおかしいんじゃねぇかっていう日本人は沢山いたし、当然支配されている朝鮮人の朴烈はもっと思ったろうし、最下層で差別を受けて虐げられてきた金子文子はこの不平等な日本の諸悪の根源は天皇だって強く思う。つまり彼らは絶対的な権力に抗うレジスタンスなのだ。

とまぁ僕の方がクドクドと書いてしまったけど、実際「犬コロ」という詩がどんなものか、それを読んでもらうのが一番分かり易いと思うので、下に転載します。

 

 「犬コロ」 朴烈

 私は犬コロでございます
 空を見てほえる
 月を見てほえる
 しがない私は犬コロでございます
 位の高い両班の股から
 熱いものがこぼれ落ちて私の体を濡らせば
 私は彼の足に 勢いよく熱い小便を垂れる
 私は犬コロでございます

 (解説)
 空は当時の日本帝国最高権力の象徴である天皇だ。
 その空を見て吠えることができる犬畜生の勇気に感嘆する。
 位の高い両班が自分に向かって小便を垂れるのならば、
 やられっぱなしでなく彼の足に向って小便を垂れる。
 これは制度的権力に対する真っ向からの挑戦を宣言した言葉だ。

 

上記はネットで見つけました。「金子ふみ子コミュの朴烈の詩“犬コロ”」というタイトル(mixiユーザー 2005年11月22日 15:43)で記載がありました。勝手に転載して申し訳ないです。詩は青年朝鮮という雑誌に載っていたそうです。「犬コロ」。原文は、“ケーセッキ”と言いまして“犬畜生”“F○ck野郎”といった罵り言葉、卑語だそうです。このことも同じ記事に載っていました。

この映画はいわゆる反日映画ではありません。物語にはちゃんとした日本人も数多く登場するし、主役の二人だって英雄として描かれている訳じゃない。映画を観て僕はよーく分かりました。これは自由を求めて戦う若者の強烈な愛の物語です。不公平な世の中で自由を奪われ、犬畜生として扱われた名もない若者たちの反逆の物語です。日本がどうだとか韓国がどうだというのではなく、この映画のテーマはそこにあるのだと思います。

朝鮮人虐殺ということでえぐい場面も出てきます。それは僕たち日本人がやったのです。国が政府が加担をして隠滅しようとした事実です。僕たちは知らないことが多過ぎる。そういう部分に目を向けるきっかけにもなる映画だとも思います。

でも決して堅い映画ではない。ユーモアもところどころ、というかふんだんにあるし、やっぱり主役の二人だけでなく仲間の若者たち皆も生き生きしているから、爽快な映画でもあります。結局そこが一番大事なのかもしれない。

Lush Life/川村結花 感想レビュー

邦楽レビュー:

Lush Life(1999)川村結花

 

もう20年も前の話になるが、夜遅くにこの人のピアノ弾き語りライブをテレビで観たのを覚えている。それでこのアルバムを買ったのか、元々持っていたのか、そこのところの記憶は定かではないが、先日たまたまウォークマンに入れているこの『Rush Life』というアルバムを何年かぶりに聴いて、本当に声がいいし、メロディがいいし、言葉がいいし、とても素晴らしい歌い手だなぁと改めて思った。

なんでも現在彼女は裏方に回っているそうで、なんでこんなに素敵な声の持ち主が裏方なんだと、これだから日本の芸能界は駄目なんだと、思わずクダを巻いてしまいそうになったが、実際のところはどうして自分で歌わなくなっちゃったんだろうか。

当時は彼女の声が好きでよくこのアルバムを聴いていたんだけど、今聴いてみると豊かなメロディがとても耳に残る。彼女が作曲した超有名曲、『夜空ノムコウ』もこのアルバムの中ではあまり目立たない。どちらかと言うと大人しくて、つまりはそれだけ他の曲が色鮮やかな色彩を奏でているからで、例えば1曲目の『マイルストーン』を見ていくと、「僕らはどこに忘れてきたんだろう」という冒頭の歌詞がラストに「何でもできると思っていた どこでも行けると思っていた」という言葉に変換され、それが印象的なピアノのフレーズとコーラスでダイナミックに持っていかれる。ところが程よい高さというか、彼女の声もそうなんだけど無理のない高さでそのまま届いてくるから、ドラマティックなんだけど大げさじゃなく、こちらも自然体で受け止められる。

ドラマティックといえば6曲目の『イノセンス』もそうだ。特にサビの後のエキゾチックなコーラスは盛り上げるのに一役買っている。で、やっぱり立体的。一転、4曲目の『アンフォゲタブル』は静かなバラード。ブリッジでは「痛みに出会う度 強くなれるなら なれなくていい」と情感たっぷりに切なく歌うが彼女の高くない声は性別を越えるから地面に沿ってこれも具体的に形作られてこちらに響いてくる。

おどけた8曲目の『A Day He Was Born』や10曲目の『Rum & Milk』もいいアクセントになっているが、アクセントどころかこんなコミカルな曲でも抑揚があるからメロディが綺麗に景色を描いてくれる。やはり2次元じゃなく3次元で。

所謂ストーリーテリングというものは言葉が物語を紡いでいくんだけど、彼女の場合はもちろん言葉もあるけどメロディが物語の輪郭を形作り、声がそこに色を付けていく感じ。こういうタイプの歌い手ってなかなかいないから、表舞台に出なくなったのは本当に残念だ。

今はいくつか知らないけど、年齢を重ねた川村結花さんがピアノの前で歌う姿を僕はもう一度、夜中にテレビかなんかで偶然観たら、何か素敵な話だなぁなんて勝手に面映いことを思ってしまいましたが、そんな僕の妄想はさておき、もし本当に何処かで歌う機会があるのなら、直に聴いてみたい。そんな歌い手さんです。

 

Tracklist:
1. マイルストーン
2. 遠い星と近くの君
3. ヒマワリ
4. アンフォゲタブル
5. Every Breath You Take (Album ver.)
6. イノセンス
7. 夜空ノムコウ (Album ver.)
8. A Day He Was Born
9. home (Album ver.)
10. Rum & Milk
11. ヒマワリ -reprise-

Bonus Track
12. ときめきのリズム(Mellow Groove ver.)

Modern Vampires of the City/Vampire Weekend 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Modern Vampires of the City』(2013)Vampire Weekend
(モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ/ヴァンパイア・ウィークエンド)

 

エズラによるとこのアルバムはアメリカについてのアルバムだそうで、アルバムジャケットもマンハッタン。けれどそのマンハッタンは数十年前のマンハッタンのようで、色もモノクロで雲がちょうどよい具合にかかっているから、それこそ中世のヴァンパイア城のようだ。ヴァンパイア・ウィークエンドの新作がようやく出るってんで久しぶりにこのアルバムを聴き直してみたら、古いアメリカというより古いヨーロッパに近い印象を受けた。

そもそもアメリカはヨーロッパからの移民が多くを占めている訳だから、古いアメリカを描こうとすると古いヨーロッパ的なるというのは当然かもしれないが、つまりそういうところまで意識してヴァンパイア・ウィークエンドはこのアルバムを作ったということだろうか。にしても2019年になってその意味が響いてくるとは。恐るべし、ヴァンパイア・ウィークエンド。

このアルバムはエズラの声から始まるように、彼の声を大々的にフィーチャーしている。実際しているかどうかは分からないが、決して軽くない歌詞が彼の声があることにより、全体としての明るいトーンに繋がっている。やはりエズラの声のアルバムと言っていいだろう。

歌詞は至る所に皮肉っぽいところがあってサリンジャーみたいで僕は好きだけど、多分エズラはインテリだからサリンジャーのようにへこたれない。いや実際には大変な事とか嫌な事ばかりなんだと思うけど、そういうのにマトモにぶつかっていかないというか、インテリだからちょっと経路が普通とは違うんだろう。

やたらインテリって言葉で片付けてしまって申し訳ないけど、ただ不思議とそのインテリが作った音楽が何故か凄く風通しがよくって、それは今回は彼ら流のアメリカのロックということらしいが、多分今までがアフロビートだったり欧米主体の音楽じゃないところを経由してきたからかもしれないし、そういう部分も含め改めてインテリだなって思わざるを得ないけど、やっぱり軽やかなのは面白い。

それに彼の声はやたらめったらよく通るから、ジャケットがモノクロだろうが、歌詞が皮肉めいていようがお構いなしに突き抜けてしまう。陽性だから「Diane Young」(=Dying Youngという意味か?)なんて歌っても全然平気なのだ。実験的で批評的(芸術というものは全てそうかもしれないが)であってもその陽性さは崩さない。要するに、難しい顔をしても何も解決しないということか。

 

Track List:
1. Obvious Bicycle
2. Unbelievers
3. Step
4. Diane Young
5. Don’t Lie
6. Hannah Hunt
7. Everlasting Arms
8. Finger Back
9. Worship You
10. Ya Hey
11. Hudson
12. Young Lion

国内盤ボーナストラック:
13. YA HEY (‘PARANOID STYLES’ MIX)
14. UNBELIEVERS (‘SEEBURG DRUM MACHINE’ MIX)

悲しみ

ポエトリー:

『悲しみ』

 

電車に乗るのが仕事か
すれ違いざま、君を見れなかった
今朝は早くに言葉を失くしたから
時間をかけて温めて
椀の中で休ませたい
白湯で

音を立てないサイフォンが頼りなく
呼吸すら定かでない
ただいまを言う代わりに
知らないことが増えていった
誰かが訪ねて来た
喫茶店のカランコロンみたいにちゃんとした姿勢だった

生まれてからまだちゃんと口にしていない
いい加減には出来ないんだね
邪魔者みたいに中古販売店の硝子ケースに仕舞われていたんだね
知ってるはずはないさ

 お前、
 そんな目で
 遠縁の人みたいなジェスチャーで近寄って来ても受け付けないよ

全て木曜日の夕方のせいにして
灰色のTシャツもろとも
赤く薄くなった所に馴染ませたい
じゃなかったら
明日はもう電車に乗れない

 

2018年8月

叙事詩と叙情詩

その他雑感:

「叙事詩と叙情詩」

 

日本の音楽詞は叙情詩が圧倒的に多い。60年代フォークから70年代のニュー・ミュージック、現代に至る所謂Jポップまで、そのほとんどが叙情詩だ。人々の感情に寄り添う叙情詩には胸が締め付けられるいい歌が沢山ある。

一方、叙事詩というは作者が一歩引いた視線というのかな。主人公はあくまでも彼や彼女。その彼や彼女の動く様やその友人知人、周りで起きる出来事や景色を作者は個人的な感情は横に置いといてそのままスケッチする。そんなイメージだ。

叙事詩は叙情詩の様に直接聴き手の感情に訴えかけてこないが、第三者を主人公に据えることで、聴き手は独自の映像を浮かべることが可能だ。映画みたいなもんだな。但し、具体的な映像は無いので、聴き手は自分の経験や想像力を駆使して勝手に思い浮かべていく。それは100人いれば100通り。いつしかそれは自分自身の物語となってゆく。

叙情詩は感情に直接訴えてくるので瞬発力はあるけど、想像力という点では希薄かもしれない。それに曲そのものの力より聴き手の感情に左右される点が無くもない。誰だって振られた後に悲しい歌が聴こえてきたらどんな歌であれ思わず感情が昂ぶってしまうだろう。

僕はやっぱり叙事詩の方がしっくりくる。思い返してみても高校時代、好んで聴いていたのはレピッシュとかユニコーンとかフリッパーズ・ギターとか。初期のサニーディ・サービスもそうだし、このサイトでカテゴリーを設けている佐野元春も全くその通り。主人公は僕ではなく、彼彼女。みんな叙事詩だ。今も日本の音楽を沢山聴きたいんだけど、結局洋楽ばかりを聴いてるのはそのせいかもしれない。

で自分で書くときもやっぱり叙事詩がしっくりくる。僕は感情的なところがあるので、情緒的なところは出来るだけ廃していきたい。一歩引いた視線で、僕ではない誰か別の主人公に動いてもらう。

今まで沢山書いてきた詩を眺めてみても、自分でいい出来だなと思えるのはやっぱりそういう詩だ。僕には叙事詩が合っている。

ChapterⅡ-EPⅠ/Vintage Trouble 感想レビュー

洋楽レビュー:

ChapterⅡ-EPⅠ(2018)Vintage Trouble
(チャプターII – EP I/ヴィンテージ・トラブル)

 

ヴィンテージ・トラブルが2枚組の新作を出しました。2枚組と言っても各5曲入りのEPです。2枚組と言っても2枚目は1枚目のアンプラグドです。なんでまたそんなリリース形態なの?と思いましたが、しばらく聴いてるとちゃんと2枚合わせて一つの作品という気がしてきましたね。

リリース形態も今までと違いますが、中身の方も今までと全然違う。何が違うって曲ですよ。曲の練度がメチャクチャ上がってるじゃないですか。もしかして今流行のソングライター・チームによる共作かと思いましたが、クレジットを見るとこれまで通りボーカルのタイ・テイラーを中心としたバンド内でのソングライティングでした。

そういやタイ・テイラーは今回のEP盤のインタビューで、「ライブの躍動感をパッケージしたかった」みたいなこと言ってますね。確かにこのバンドのスキルは相当なもんですから、ついついボーカルを含めたバンド・サウンドで押し切ってしまうところがあったのかもしれない。それじゃいかんだろう、ということで今回は曲作りにかなり注力したのかもしれませんな。

それにしても。ヴィンテージ・トラブルどうしちゃったの?っていうポップさ。思惑通り、曲の力で持っていく感じが凄くしますね。従来のどストレートなロックンロールはないですが、その分複雑な曲も増えて曲の練度はすっごく上がってる。リリックも手が込んでいて洗練されたライミングやアクセントに動きがあって気持ちいい。あれ、ヴィンテージ・トラブルってこんなことも出来るんや、ってちょっと驚きです。

で、このEPのツボは2枚目ですよ。なぁ~んだ、よくあるアコースティック・バージョンでお茶を濁したのかなんて思っているそこのあなた。確かに私も最初はそう思いましたよ。ところが曲重視の1枚目がここで活きてくるわけです。

先ずバンドの演奏が的確なんですね。しかもトレンドであるラテン音楽の要素を取り入れてくる。パーカッション主体でドライブし、ラストの曲はレゲエのリズムやね。この辺はもう抜群の安定感。しかもアレンジがシンプルですから曲の良さが更に際立つのです。なのでまた1枚目を聴きたくなる。そして1枚目を聴いているとまた2枚目を聴きたくなる。どーです、この幸福な2枚組スパイラル。曲重視の1枚目があっての2枚目のアコースティック・バージョン。なんだかこの2枚組の意図がちゃんと伝わってきたような気がしてきました。

彼らはその名のとおりヴィンテージなソウル、ロックンロール音楽のみをする方かと思っていましたが、跳ねたポップソングでも勝負できるんですね。どーもおみそれしやした。もうこうなりゃヴィンテージ・トラブルは無敵ですな。じゃ次はいつもどおりのロックンロールでぶっ放しますか。

 

Tracklist:
Disc 1
1. Do Me Right
2. Can’t Stop Rollin’
3. My Whole World Stopped Without You
4. Crystal Clarity
5. The Battle’s End

Disc 2
1. Do Me Right (Acoustic)
2. Can’t Stop Rollin’ (Acoustic)
3. My Whole World Stopped Without You (Acoustic)
4. Crystal Clarity (Acoustic)
5. The Battle’s End (Acoustic)

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています

邦楽レビュー:

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています

 

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています。年の終わりに音楽各紙やネットで発表される2018年のベスト・アルバム選に折坂悠太という名前が散見されて、国内の老舗音楽誌、ミュージック・マガジンでは日本のロック部門で彼のアルバム『平成』が1位となっていました。てことで、最近になってようやくYoutubeで観だしたのですが、そしたら驚いたのなんのって。いや、驚いたんじゃなく、冒頭で述べたとおりちょいと感動しています。

僕は洋楽をメインで聴いているけど、別に邦楽を避けている訳じゃない。むしろ普段からなんか日本のいい音楽ないかなぁなんて思っている方だ。やっぱり母国語でしか得られないカタルシスは格別だから。

でも面白い表現、カッコイイ表現に時折出くわすことはあっても、心を揺さぶられるような言葉にはなかなか出会えない。勿論、音楽としてカッコよくなきゃ話になんないし、母国語なるが故、ついハードルが高くなってしまう。洋楽だと歌詞が少々アレでも曲が良けりゃ聴けちゃうからね。

折坂悠太さんの歌唱は独特だ。こぶしの入った節回しで合間にスキャットだのヨーデルだのを放り込んでくる。『逢引』という曲ではポエトリーリーディングもあって、いやこれも独特の口調でリーディングというより講談の口上っぽい。こういう声にならない声を発声する人はなかなかいない。

歌詞の方も独特で、最初は聴きなれない言葉遣いなので分かりにくいかもしれないが、独特の歌唱と相まって言葉がスパークしている。ぶつかり合っている。芸術というものは市井の人々の暮らしの中から湧き上がってくるもので、それはどうしようもなく地面を突き破って表れてくる。その時の地響きがここには記録されているということだと思う。

けれど折坂さんはそれを情感たっぷりに歌い上げるのではない。力を込めて目一杯歌っているけど、突き放している。それこそ講談師や浪曲師のようだ。宇多田ヒカルさんみたいに自分のことをまるで他人事のように歌える人と見たがどうだろう。どっちにしても言葉とメロディが有機的に機能している音楽に出会うことは楽しいことだ。

 

下に貼り付けたのはYoutubeのスタジオライブです。3分57秒後に始まる『逢引』という曲。僕には宇多田さんが登場してきた時のようなインパクトがありました。

Warm/Jeff Tweedy 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Warm』(2018)Jeff Tweedy
(ウォーム/ジェフ・トゥイーディー)

 

そう言えばウィルコの『Schmilco』アルバムが2016年だから、そろそろウィルコの新しいアルバムが出るんじゃないかとネットでウィルコの新譜を探していたら、ウィルコじゃなくてジェフ・トゥイーディーの新作を発見しました。

なんでもウィルコは現在活動休止中だそうで、その理由はドラマーのグレン・コッチェの奥さんがフルブライト奨学金とかいう学者や研究者といった各種専門家を対象とした国際交流プログラムを受けることとなり、夫婦そろって暫く北欧に滞在することになったためということらしいが、このいかにもウィルコっぽい真っ当な理由の前では、よく分からないながらも納得してしまうしかないわけで。とは言いつつそれはそれでウィルコの新しい音楽は聴けないのかと、僕としてはちょっと困った気持ちになったりもしている。

その埋め合わせってわけでもないでしょうが、ジェフが初のソロでのオリジナル・アルバム『Warm』をリリースした。でもこのアルバムには件のグレン・コッチェが参加しているようなので、ウィルコが活動休止しているのにはもっと他の理由があるのかもしれないとそれはそれで心配になるが、とりあえず今はこのアルバムを聴いてぼんやりしておこう。ちなみに2017年にもソロで自作を含めたアコースティック・カバー・アルバム『Together At Last』ってのを出していたらしいけど、それも僕は全く知らなかった。どっちにしてもジェフのソロが初ってのは意外だな。

音楽の方はいつものウィルコ節がいつものジェフのぼそぼそっとした声で歌われている。サウンドはアコースティック・ギター主体の穏やかなサウンドに時折エレキ・ギターが印象的なフレーズを挟んでくる。曲によっては2本のエレキ・ギターの別のフレーズが両耳から流れてきて(イヤホンで聴くことが多いので)気持ちいいったらありゃしない。穏やかなメロディに穏やかなサウンド。耳障りはタイトルどおりの穏やかなアルバムだけど、ジェフのことだからやっぱ歌詞は穏やかじゃない。和訳がないから正確には分かってないけど。

こういう心地よい音楽はぼんやり聴くに限る。僕はウィルコの、ボーカルに全く寄り添おうとしないバンドの演奏が醸し出す微妙な違和感が好きなんだけど、勿論ジェフのいつものウィルコ節とぼそぼそっとした声が好きだから、今はこれで満足している。ていうか今回もあんまり寄り添ってないか。だから心地よいのだろう。ジェフさん、間を開けずにちゃんとアルバムを出してくれてありがとう。ウィルコのアルバムもそのうち出してね。

 

Tracklist:
1. Bombs Above
2. Some Birds
3. Don’t Forget
4. How Hard It Is for a Desert to Die
5. Let’s Go Rain
6. From Far Away
7. I Know What It’s Like
8. Having Been Is No Way to Be
9. The Red Brick
10. Warm (When the Sun Has Died)
11. How Will I Find You?

A Brief Inquiry Into Online Relationships/The 1975 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018)The 1975
(ネット上の人間関係についての簡単な調査/The 1975)

 

The 1975、およそ2年半ぶりの3rdアルバム。全英全米ともにNo.1になった2ndアルバムで一躍若手ロック・バントの筆頭株となった彼らだか、3枚目ともなると『OK コンピューター』のようなアルバムを作らないといけないと、フロント・マンのマット・ヒーリーはかのレディオヘッドの名盤の名を持ち出した。とはいえ彼らはThe 1975。確かにシリアスな一面もあるが、自身のアイドル性を敢えて持ち出すしなやかさが売りだ。『OK コンピューター』と言われてもなと、半ば冗談として受け止めた我々を尻目に The 1975 は本当に『OK コンピューター』のような強大なアルバムを作り上げた。しかもそれは『Music For The Cars』というシリーズ2部作の1作目になるという。もう一山来るというのは本当だろうか。

オープニングはいつもの『The 1975』のテーマ。オートチューンにゴスペルクワイアと近年のトレンドを恥ずがしげもなく採用しているが、いつもの如くその違和感の無さは、確か前からそんな感じだったよなと我々に思わせてしまう器用さと屈託のなさ。しかし今回はこれまで披露してきたテーマ曲とは異なり才気走っている。これはロック音楽にとってとても重要な事だ。

確かに The 1975 はデビュー・アルバムからジャンルを横断する一筋縄ではいかない存在だった。例えば、誰かに The 1975 とはどのようなバンドかと聞かれれば答えに窮してしまう、悪く言えば無節操で、よく言えばこれまでのジャンルでは形容しがたい新しい魅力を備えていた。しかし今後我々はもう躊躇する必要は無いだろう。彼らは古き良きギター・バンドであり、アンビエントな音階を奏でるエレクトロニカであり、心地よくも煌びやかな80’sであり、首筋に直に接続してくるネオソウルであり、そのいずれもが The 1975 という1個の音像として誰もに納得してもらえるだけのサウンドを確立したのだから。

本作の特徴を歌詞の面で見ていくと、マット・ヒーリーによる一人称の語り口調が目立つ。これまでも実体験を元に新たな物語を作り上げていたヒーリーだが、今回は特に個人的な側面が強くなっている。それは自身のドラッグの問題であったり、いつもの痴話話だったり。とはいえここにいるのは稀代のストーリー・テラーだ。個人的側面が強くなったところで間口が狭くなることはない。まるで他人事のように話し、極限の感情を押し込める本作におけるヒーリーの詩作は恐ろしく切れている。

そう。幾分キャラ先行であったマット・ヒーリーはこのアルバムで堂々と新しい世代のフロント・マンとしての覚悟を示したと言ってもよいのではないか。過剰さに重みが加わったヒーリーの声はありとあらゆる場所へ節操なく飛び移る多種多様なサウンドやストーリーを統べている。彼のボーカリストとしての新たな深みや記名性が The 1975 というバンドに新たなステージをもたらしたと言っていいだろう。

ロック・バンドにはバンドを決定づけるアルバムがある。そういう意味で本作は The 1975 というバンドを決定づけるアルバムと言えるのかもしれないが、先にも言ったようにこの後バンドは『Music For The Cars』という2部作のもう一枚(既にタイトルは『Notes on a Conditional Form』と決まっている)を今年の早い段階でリリースする予定だという。ここまでのアルバムを作り上げしまった以上、この後は『KID A』のような幽玄の彼方に行くしかないのか。それとも彼らには別の頂が見えているのか。いずれにせよ彼らが選んだ道は長く険しい。しかし彼らは持ち前の器用さ不真面目さでそれを乗り越えてゆくだろう。いつもの如く我々に確か前からそんな感じだったと思わせながら。

 

Tracklist:
1. The 1975
2. Give Yourself a Try
3. TOOTIMETOOTIMETOOTIME
4. How to Draw / Petrichor
5. Love It If We Made It
6. Be My Mistake
7. Sincerity Is Scary
8. I Like America & America Likes Me
9. The Man Who Married a Robot / Love Theme
10. Inside Your Mind
11. It’s Not Living (If It’s Not with You)
12. Surrounded by Heads and Bodies
13. Mine
14. I Couldn’t Be More in Love
15. I Always Wanna Die (Sometimes)

日本盤ボーナストラック
16. 102

The 1975 『A Brief Inquiry Into Online Relationships』 レビュー ~プロローグ~

洋楽レビュー:

The 1975 『A Brief Inquiry Into Online Relationships』 レビュー ~プロローグ~

 

僕たちは本当にクリック一つで地球の裏側まで行けるようになったのだろうか?それでも自分の年齢を知るのは集めたレコードの数だったりコーヒーの種類だったりするのだけど、君が何回あいつに連絡したのかは知らないし、僕があの子に何回電話したのかに至っては本当にどうだっていい。絵の描き方を一度も習ったことはないけど、僕たちは何度もトライアンドエラーを繰り返し気付いたことは嘘はいけないってこと。なのに連中の話すことに一切真実はないし、けれどそれを僕たちは愛さなければいけない。近代化が何ももたらなさいにせよ、それが僕たちがこしらえたものならば僕たちはそれを愛さなければならない。とはいえ何に付け自己言及的な僕は君に僕の間違いになって欲しいとうそぶく。それでも僕たちは友達になれるかな?まさか憎み合って終わったりしないよね?死ぬのが怖い。ちゃんと話し合いをしたい。だから銃は要らない。でもインターネットは要る。インターネットは君の友達。けど恐ろしいことに君がどこかに行ってしまってもインターネットはどこにも行かない。君の大体の事は知っている。加工された写真も知っている。これからも君はきっと上手くやれる。でも僕は本当の君を知りたい。ややこしいことに足を突っ込んで抜けられないなんてことあるよね。君無しじゃ生きている気がしないとか(笑)。そこで僕たちは静かに過ごす。余計なことは話さない。彼女はここでのリハビリをもう一週間続けることにしたらしい。言いにくい事があればジャズの調べに乗せたらいい。ほら、本当の事でも傷付けたりしない。僕は君の時間を無駄にしたって言うけれど、これ以上どうやって愛すればいいのだろう。僕は本当の人生を歩んでいない……、だから僕はいつも死にたい。時々。どうしようもなく生きたい。

これらは全て、the1975というバンドのスクリーンの中の物語。けれどそれは今、世界で起きている出来事。或いは彼らなりのオンライン上の簡単な調査。

追伸:結局、本当に大切なことは僕たちの些細な日常にしかない。時代が変わろうとも真実は毎日の暮らしの中にしかない。個人的な事を正直に話すことこそが(この正直っていうのが最も難しいが)、世界についてを話すこと。