Prelude to Ecstasy / The Last Dinner Party 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Prelude to Ecstasy』The Last Dinner Party(2024年)
(プレリュード・トゥ・エクスタシー/ザ・ラスト・ディナー・パーティー)

 

話題のラスト・ディナー・パーティーのデビュー作。噂に違わずめっちゃカッコいい。2024年にもなってこんな煌びやかに伸び伸びと自己表現をするバンドに出会えるとは。しかも全員女子!着飾った見た目に先ず持ってかれますけど、そこも含めよくもまあこれだけのことが表現できるなと。これからどうなっていくかも全く想像できないですけど、新しい世代の新しいロック・バンドがドドーンと登場しましたね。

先ず音楽的なバック・ボーンが凄くしっかりとしています。転調の多い非常に難しい曲ばかりですけど、しっかり埋めるところは埋めて空けるところは空けて、強弱というか起承転結が見事ですし、それにこんな難しい曲なのにちゃんとボーカルがリードしている歌モノとしての強さが感じられる。やっぱりどんだけ凄いことしていても広く受け入れられる素地が無いとね。ここがすごく大事です。

てことで思い出すのはやっぱりクイーンです。ああいう芝居がかった曲、大袈裟なアクション、そういうのが何の違和感もなくスッと受け入れられるのは異例です。はっきり言ってラスト・ディナー・パーティーも異端児ですよね。でもそうは感じさせないスマートさ、華やかさが彼女たちにはあるんです。フレディ・マーキュリー擁するクイーンだってそうだったし、デヴィッド・ボウイだってそうだった。もっと広げればマイケルだってプリンスだってそうですよね。

つまりかつては沢山あっていつの間にか無くなった大袈裟で過剰なロックがここに来てまさかの復権ですよ。その先鞭をつけたのが言わずと知れたマネスキンですけど、そのマネスキンにしてもまだ20代前半ですから、ロックは完全に復活したと言っていいですね。

あともう一つ付け加えると、音源は確かにかっこいいけどライブはねぇ、というのは新人あるあるですけど、彼女たちの場合はむしろライブの方が格好いい!!そういう意味ではマネスキンもそうですけど、フェスやなんかで一気に客を掴むことが出来る強さ、場を制する強さを持っているのも非常に大きいです。やっぱロックはこうでなくちゃね。

Wall of Eyes / The Smile 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Wall of Eyes』The Smile(2024年)
(ウォール・オブ・アイズ/ザ・スマイル)

 

レディオ・ヘッドのツートップであるトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドがジャズ・ドラマーのトム・スキナーと組んだ2作目。レディオヘッドは全く音沙汰なしなのに、こっちは2022年の1作目からわずか2年で新作を出すなんて、いったいどういう料簡だいトム・ヨークにジョニー・グリーンウッド。創作意欲が無いわけではなく単にレディオヘッドだとやる気が起きないということなのか。

このアルバムはそりゃあいいです。1枚目の初ユニットゆえのウキウキ感から一歩進んで、更に深化しています。目につくのはストリングスですね。1作目でも一緒にやったロンドン・コンテンポラリー・オーケストラが更に重要な役割を果たしていて、特に8分の大作、#7『Bending Hectic』なんて、そこにジョニーがいつ以来かっていうぐらいギターをギャンギャンかき鳴らしてますから、不思議な音階の序盤も含めてここがやっぱりハイライトですね。

1作目にあったテンポの速い曲は#4『Under our Pillows』ぐらいですけど、代わりにゆったりとしたよいメロディが目立ちます。ということで最後の美しい#8『You Know Me!』なんて普通にレディオヘッドですけど、一体レディオヘッドと何がどう違うのか分からなくなってきた。

ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラはレディオヘッドの最新作(って言っても2016年ですけど)『A Moon Shaped Pool』でも大々的に参加していて、てことはつまりこのアルバムは『A Moon ~』からコリンとエドとフィルの3名が抜けただけということになりますな。これだけいい曲あるんだったらレディオヘッドでやってもええ感じになると思うんやけど、そういうわけにもいかんのだろうか。ていうかThe smile はレディオヘッドを差し置くほど心地いいのか。『A Moon ~』の延長線のように思うんだけどなぁ。

ただ見ていただけなのです

ポエトリー:

「ただ見ていただけなのです」

 

ぼくときみは目立つ方ではなかったけど
入学してまもなく学級委員に選ばれた
多分お互い背が高くて真面目そうだったからかもしれない

あの子とはよく目が合うんだよ
友だちにそう言ったら
おまえが見てるからじゃないかって言われた
あぁ、そういうことか

そういや一度だけ
彼女に悪態をついたことがある
周りにクラスメートがたくさんいたとき
彼女の名字をからかった

二人そろって委員会に出席することはあったけど
一度も話すことはなかったな
部活が同じだったのは
わざとじゃないよ

3年経ってもぼくは恋をした覚えはなくて
よくある話
きれいなきみをただ見ていただけなのです

 

2024年3月

 

Madra / New Dad 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Madra』(2024年)New Dad
(マドラ/ニュー・ダッド)

 

アイルランドのギター・バンドのデビュー作。10年代なんてギター・バンドの噂などろくに聞かなかったのに、ここ数年で次々と新しいバンドの名前を聞くようになった。これはやっぱり今流行っているものだけを聴くということではなく、サブスクにより時系列があまり関係なくなったというのもあるだろうし、音楽に限らず物事はどちらかに偏っているように見えて、いずれは行ったり来たりするということなのかもしれない。それにしても昨年あたりから素敵な女性ギター・バンドが本たくさん出てくる。

それはさておき何かひっかかるバンドではある。シューゲイズかと思えばそうとは言い切れないし、ドリーム・ポップという雰囲気でもない。そう思いながら何回か聴いているとこれは歌のアルバムなのだろうということに気付いてきた。サウンド的に何かに特化するのではなく、あくまでも歌に寄り添うサウンド。しかし歌を前面にださないそこはかとない歌心。つまりどっちかって言うと、シューゲイズよりフォークロックの感触。ってことで僕は引っ掛かるのだろう。

つい特定のジャンルに引き寄せてしまいたいこちらの気持ちをはぐらかすようなどっちつかずのサウンドで、浮遊感というより寄る辺なさを歌う。今はやりのサッド・ソングかと思いきやそうでもないユーモアの残骸。物事に言い切れることはないんだよということを初めから分かっているかのよう。とか言いながら、突然#5『In My Head』とか#8『Dream Of Me』とか#9『Nigntmares』みたいなキャッチーなポップ・ソングが突然やって来る。確かに言えることは、これはやっぱり2024年の音楽ということだけだ。

12 hugs (like butterflies) / 羊文学 感想レビュー

邦楽レビュー:

『12 hugs (like butterflies)』(2023年)羊文学

 

アニメのエンディングテーマとなった#2『more than words』はJ-POPらしい複雑なメロディとなにより今求められるエモさをこれでもかと詰め込んだ力作だ。しかしそれはかつて「聴き飽きたラブ・ソングを僕に歌わせないで」と歌ったオルタナティブな精神と矛盾しない。彼女たちはそのうえでメインストリームの大多数に訴えかけるロック・バンドを目指してきたのだから。

そして遂にそこへ到達した。というより順調に段階を踏んでここまでやって来たと言うべきか。#2『more than words』が目立つが、#4『GO!!!』や#8『honestly』も別次元へ進んだ羊文学ならではのしなやかさと強さを併せ持つ曲だ。それこそアニメの主人公が一番大事なところは心に残したままパワーアップしたかのように、羊文学は次のステップへ歩みを進めた。

もうこれで、儚さが魅力ではあったけど、次世代のトップ・ランナーとしての力強さという点ではどうなのかというところを完全に払拭したのではないか。ロック・バンドというと日本ではまだまだ男のものというイメージから逃れ出ないけど、羊文学には性別を超えた存在として最前線に立ってほしい。海外で新しい価値観を持った新しいロックが次々と生まれている中にあって日本には羊文学がいる、そして彼女たちは世界に向けて全く引けを取らない対等な存在であると。そのための新しい強さや覚悟がこのアルバムには込められていると思う。

女性アーティストが大活躍をした2023年の暮れに羊文学が決定的なアルバムを出したことが嬉しい。さあ、次は世界だ。