Love Me/ Love Me Not  Honne 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Love Me/ Love Me Not 』(2018)Honne
(ラブ・ミー/ラブ・ミー・ノット /ホンネ)

ホンネ、2枚目のアルバム。ロンドン出身のエレクトロ・デュオです。そうです。ホンネとは日本語の‘本音’のことです。自身のレーベルが‘Tatemae Record’だそうで、インナースリーブには‘recorded at Tokidoki Studio’なんて文字もあったりして、随分と日本をご贔屓にしていただいているようです。有り難いことですな。まぁ日本に限らず、シングルの#2『Me & You』のPVでは韓国を舞台にしているぐらいですから、東アジア全般が好きなんでございましょうなぁ。

サウンドはとってもクールでオシャレなエレクトロ・サウンド。ソウル・テイストな曲に平熱感のボーカル。けれどしっかりフックが効いているから耳にすご~く残ります。それでも巷のヤングメンみたいにやたら盛り上げることはありませんから、私のようなクールな大人にぴったり。と行きたいところですが、夜の東京、ホテルのバーでオシャレに夜景を眺めるなんてしたことねー。

しかしまぁ、アレンジが絶妙やね。#1『I Might』にしても#9『Shrink』にしても、さぁここからサビだってとこで逆にクール・ダウン。でもそれがかえって心地よくって疲れないというか、ほら、すっごくキャッチーな曲でも強調され過ぎると疲れるでしょ?日常生活ってそんなしょっちゅうテンション高くないし。だからこうやって地味~なサウンドで大きな起伏なくすうっと来られるのが一番落ち着くし、変化のない毎日でもずーっと聴いていられるのです。

と言ってもただひたすら地味にって訳じゃなくちゃんとアクセントを効かせていて、背後で控えめにいいフレーズが流れているんですね。だから目をつむって耳を澄ませて、ゆったりしながら聴くってのがホントに決まるっていうか、やっぱ静かな夜の音楽なんやね。それはサビの「ガラッガラッゲッ、バックトゥユー♪(gotta gotta get back to you)」が耳に付いて離れないアルバム随一のキャッチーな曲、#7『Location Unknown』でも変わりません。背後でずっとオシャレなリフが鳴っているのもツボやね。だからいい気分になる。やっぱ日本好きといい、この人達はニッチなところを突いてくるのが好きなんやね。

そうそう、#6『306』なんてエレピ好きの私にとっちゃたまりません。中盤でのフェンダー・ローズかな?との独唱パートは最高やね。全編通してフィーチャーされているのはハモンド・オルガンでしょうか?引き算が得意の彼らではありますが、ここはオレのためにもっとエレピをグイングイン言わせてくれ~。

ほんと、控えめな落ち着いた音楽ですから、聴く場所を選びません。てことで、大人の夜の音楽と言いながら、私、休日の真昼間からリビングで流しているので、このところ「ガラッガラッゲッ、バックトゥユー♪」が脳内をループしまくっているマイ・ファミリーでございます。

tracklist:
1. I Might
2. Me & You
3. Day 1
4. I Got You
5. Feels So Good
6. 306
7. Location Unknown
8. Crying Over You
9. Shrink
10. Just Wanna Go Back
11. Sometimes
12. Forget Me Not

日本盤ボーナス・トラック
13. Just Dance
14. Day1 (Late Night Version)
15. Sometimes (Light Night Version)

Be The Cowboy/Mitski 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Be The Cowboy』(2018)Mitski
(ビー・ザ・カウボーイ/ミツキ)

 

詩というものは恐らく、主義主張があるとか、個人的に言いたいことがあるとか、ましてや作者自身の感情を吐き出したいとか、そういうものとは少し違うような気がする。詩とは作者の目に映る作者自身も何かよく分からないものを作者という個性のフィルターを通して言葉に変換されたもの。また詩人とはどうあってもそういう風に言葉に変換せざるを得ない人たちのことを言うのかもしれないと。

このアルバムは一見すると、取り返せない愛についての歌集のようだし、実際その解釈でもいいのだろうけど、やはりそこにはそれだけではない某かが含まれている。かつて手にしたけれど、もう離れてしまったもの。或いはかつては持っていたが、今は損なわれてしまったもの。そうしたもう取り戻せないもの、また強いて取り戻そうとも、取り戻せるとも思っていないけれど、もう手元を離れてしまったものについてを、ミツキはあぁもう取り戻せないのだなとまるで他人事のように詩に仕立てているのではないか。まるで他人事とは少し言い過ぎかもしれないが、だからと言って彼女は入れ込んだりはしない。客観的な詩として幾ばくかの物語に託している。そこにミツキの出自(父がアメリカ人で母が日本人であり、かつて兵庫県や三重県にも住んでいた)を絡ませるのは野暮。それが彼女のスタンスなのだから。

したがって、「演じる」というのはひとつのキーワードなのかもしれない。このアルバムからの先行トラックとして公開された#1『Geyser』と#9『Nobody』ではそれこそ本職の女優のような演技を見せているミツキではあるが、そこでもこちらからは役とミツキは被ってこない。あくでも映像の中のキャラクターに過ぎないのだ。『Geyser』で見せる情熱的な演技にも過度な生々しさや重苦しい情念を感じないのは彼女の演技が未熟だからではなく、彼女自身がただ単に演じているからに過ぎないし、そのことの方がより核心に迫れるということを彼女は知っているからなのだ。余計な情緒に核心をくぐもらせたくないという明確な意志が働いているからというのは穿ち過ぎだろうか。

そのことはアルバムのアートワークからもうかがい見ることが出来る。ジャケットといい、その内側といい、まるで映画の一コマのように役になりきったミツキのポートレイト。中身の音楽を聴いていても、それぞれの曲で映像が明確に喚起されるのは、ミツキのスタンス、自分のことを書いているようで自分ではない誰かの物語を書いているということにも繋がる。

それは歌詞カードに主語である‘I’が小文字の‘i’と表記されていることと無縁ではないだろう。すなわち、‘i’は聴き手に委ねられているということ。ミツキは物語を提示しているに過ぎない。後は皆さんで、ということになるだろう。彼女はあくまでもある感情やある景色を自身のフィルターを通して詩として、或いは物語として表しているに過ぎないのだ。

だからこそ逆説的に僕は聴いていると言葉が気になってしまう。けれど歌詞を読んでも彼女の本音は容易く隠されてはいない。しかしやはりいくら距離を取ろうとも覆いきれない彼女の感情は間違いなくそこにあって、けれどそれはポツポツと滲む雨粒のように跡を残さない。そこを敢えて抒情的に眺めれば、窓越しに遠くを見つめて、片目から涙がすーっと流れてくる。そんなイメージだ。

 

Track List:
1. Geyser
2. Why Didn’t You Stop Me?
3. Old Friend
4. A Pearl
5. Lonesome Love
6. Remember My Name
7. Me and My Husband
8. Come into the Water
9. Nobody
10. Pink in the Night
11. A Horse Named Cold Air
12. Washing Machine Heart
13. Blue Light
14. Two Slow Dancers

(日本国内盤ボーナストラック)
15. Geyser(Demo)
16. Why Didn’t You Stop Me?(ほうじ茶バージョン)

ミツキとペール・ウェーヴス

洋楽レビュー:

ミツキとペール・ウェーヴス

 

タワレコ・オンラインで注文していたミツキとペール・ウェーヴスの新譜が同じ日に届いた。ペール・ウェーヴスはキャッチーなシングルを昨年から立て続けにリリース。今年のサマソニにも出演し、新人にも関わらず幕張のマウンテン・ステージをほぼ満員にしたという期待のバンドである。ゴスメイクで一見キワモノ的なイメージだが、ボーカルのヘザーはよく見ると整った顔立ちでその点も人気に拍車をかけている模様。僕もYouTubeで彼女達の曲を何度も聴いて、デビュー・アルバムを心待ちにしていた一人だ。

一方のミツキは名前から察せられるように日系の米国人で、大学在学中にファースト・アルバムを自主制作でリリース。その後もコンスタントに新作を発表し、4枚目のアルバム『Puberty 2』では数々の主要メディアの年間ベスト・アルバムに選出されるなど、所謂ミュージシャンズミュージシャンと言われるような、同業者からも非常に高い評価を得ているアーティストだ。ちなみに大学時代に知り合ったパトリック・ハイランドとすべての楽器を2人で演奏し、ミキシングやマスタリング、ジャケットまでを2人だけで行っているという。

アルバムが届いたその日、先ずはテンションがグッと上がるポップ・ソングだろうということでペール・ウェーヴスから聴いた。歌詞カードを開きながら聴き始めたのだが、どうも勝手が違う。どうやらこの歌詞が曲者のようだ。簡単に言うと歌詞がキツイ。全てヘザーの恋愛体験に基づく歌詞なのだそうだが、思春期特有の生々しさがあってその鋭利さがとっても痛々しいのだ。声の感じとか曲の親しみやすさは初期のテイラー・スウィフトっぽくて、実体験を基にした歌詞なんてのもテイラーと同じなのだが、テイラーが外に向かって開放していくのに対し、ヘザーは内気で繊細な感じがモロに出ていて、それが聴いてるこっちにまでリアルに響いてきてしまうのだ。

その日は夜遅かったのでペール・ウェーヴスは前半までにして、今度はミツキの新譜を聴いた。ミツキのアルバムも上手くいかなかった恋愛に関するアルバムだ。けれどこっちは何故か聴いているこちらに落ち着きをもたらしてくれる。僕は彼女のアルバムを聴くのが今回が初めてなので、いつもそうなのかはよく分からないが、彼女は曲とは一定の距離を保っているようだ。まるで演劇とか映画を観ているような気分。恐らくは繰り返し聴くことでその物語はまた違った印象を投げかけてくるのだろう。

当初の印象ではキャッチーなペール・ウェーヴス、情念のミツキ、というイメージだったが、歌詞を見ながら聴いてみるとこちらから距離を詰められるのは以外にもミツキの方で、ペール・ウェーヴスは生傷を見せられるような痛々しさがありました。どっこい、ミツキにしてもある程度まで近づくとそれ以上は近寄らせてもらえないのだろうけど、この試聴レベルで聴いていた時の印象と歌詞カードを手にちゃんと聴いてみた時の印象がそれぞれ全く逆になってしまうというのはなかなか面白い。

といってもこれは初見の印象。共に別れをテーマにしたアルバムがこれから聴き込むつれてどう印象を変えていくのか。それも楽しみな対照的な2枚のアルバムでした。

Little Dark Age/MGMT 感想レビュー

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『Little Dark Age』(2018)MGMT
(リトル・ダーク・エイジ/MGMT)

 

NY出身のポップ・デュオによる5年振りの4thアルバム。僕は彼らの音楽を聴くのが今回が初めてなので、元々どういう音楽を指向していた人たちなのかよく知らないが、このアルバムに関して言えば、非常にポップであるものの、ポップというオブラートに包みきれない彼らの世界観があちこちに滲み出していて、それがこのアルバムの印象を決定付けているような気はする。

サウンド的はもう思いっ切り80年代というか、当時のMTVに彼らの音楽が混じっても違和感ないというか、1曲目の『 She Works Out Too Much』の最後でサックスがブロウ・アップするところなんて思わずニヤッとしてしまう。3曲目『When You Die』とか4曲目『Me And Michael』なんて思い出せないけどどっかで聴いた感満載だ。ただそのサウンド・デザインもそこを狙ったという訳ではなさそうで、彼らとしては今回の曲をどう響かせるかという流れの中で自然にそうなっていったというか、この辺りはもう’10年代の特権というか、昔がどうとか今はどうとかお構いなしにいいものはそれ貰いって素直に採用できる自由さがあって、それが結果的にもろ80年代になろうが、彼らとしちゃああそうですかって程度のもので、それが実は1曲目ほど全体は明るくはないのだけど、全体を通してのこのアルバムに感じる風通しの良さにも繋がっているのではないだろうか。

ただ風通しが良いからといって、全てがスムーズに流れていく訳ではなくて、全体としてはポップなアルバムなんだけど、それぞれの曲のタイトルを見ても分かるようにどこかでダーク・サイドを引きずって行くような手触りがあるのも確か。例えば、君が裏切っても僕は落ち込まないよとでも言うような、もうそんなことは始めからデフォルトで設定されているといった重い現実認識が背後に横たわっているのは結構重要だ。

チャーミングなメロディは普通にアレンジすれば楽しいポップ・アルバムになりそうだが、そうは出来ないところはもう体がそうなっちゃってんだから仕方がない。てことで我々は不穏な時代に生きているのかもしれないけど、それも彼らにしてみれば少しやな時代ってこと。逆に言えば、それぐらいやな時代ってことかもしれない。『Little Dark Age』とはよく言ったものだ。

信じられるものは実はそんなにない世の中で、そんなものさと嘘ぶくか、それともそれに抗うか。5年振りにアルバムを出したってことはそういうことだろう。てことで捉えどころのないバンド(ユニット?)ではあるが、これはやっぱりロックなアルバムなのである。

 

1. She Works Out Too Much
2. Little Dark Age
3. When You Die
4. Me And Michael
5. TSLAMP
6. James
7. Day That Got Away
8. One Thing Left To Try
9. When You’re Small
10. Hand It Over

2017年 洋楽ベスト・アルバム

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『style of far east が選ぶ 2017年 洋楽ベスト・アルバム』

 

今年も多くのCDを購入した。と言っても新譜が月2枚程度だから趣味とすりゃかわいいもん。月2枚と言えど、買い物リストを見ると新旧の実力者がずらりと並んでいるので、我ながらかなりがっしりとした購入履歴になっていると思います。

さて毎年年末になると国内外の音楽誌でベスト・アルバムの発表があります。国内のロッキンオンとNMEジャパン、海外のローリングストーン誌にピッチフォークをさら~っと見たけど、僕の購入履歴にあったのは12枚。意外と高確率でした。ハイムがどこにも載っていなかったのは意外だったな。で軒並み高評価のロードは未購入。毎年ふ~ん、て感じで眺めているだけだけど結構楽しい。こういうの好きです。

僕にとって2017年の最大のニュースはやはりギャラガー兄弟が揃って新譜を出したこと。特にリアムがようやくソロを出し、それが僕たちの期待するリアム像そのものを体現するアルバムであるというこれ以上の無い復活の仕方で、しかもその復活したステージをサマーソニックで至近距離で見れた、そして期待に違わぬステージを見せてくれたっていうのは本当に特別な体験でした。

一方のノエルはそんなリアム騒ぎなんてどこ吹く風、オアシス時代をはるか遠くに追いやる素晴らしいアルバムを出した。これはこれで最高な出来事で、やっぱこうやって二人が二人のキャラクターに沿った新しい音楽を制約なしに思いっ切りやってくれることが僕たちにとっちゃ一番嬉しいのだ。

2017年は僕の好きなバンドが続々と新作を出してきて聴く方も大変だったんだけど、そのいずれもがホントに良く出来た作品ばかりで、かなり濃密な音楽体験となった。名前を挙げると、ケンドリック・ラマーにパラモア、フェニックス、ハイム、ファスター・ザ・ピープルなどなど。初めて聴いたThe XXやウルフ・アリス、フォクシジェン、ザ・ウォー・オン・ドラッグスも良かったし、年末にかけてのキラーズとベックも最高だったな。

そんな中、僕の個人的なベスト・アルバムは、フォスター・ザ・ピープルの『セイクレッド・ハーツ・クラブ』。ウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』とベックの『カラーズ』と迷ったんだけど、ウルフ・アリスはまだまだこれから先に凄いのを持ってきそうだし、ベックはもうそりゃこれぐらいやるでしょうよってことで、フォスター・ザ・ピープルに決めました。やっぱ今までのキャリアの総括というか、ここにきて一気にスパークした感じがするし、最近改めて聴いてみてもやっぱそのエネルギーの質量はハンパないなと。国内外の音楽誌のベスト・アルバム選にはあまり入っていなかったけど、僕は凄いアルバムだと思います。

あとおまけでベスト・トラックも。これはThe XXの『オン・ホールド』にします。年初に聴いたものはどうしても印象が薄れていくんだけど、今聴いてもやっぱりいい。こういう切ない感じに僕は弱いです。

ま、一応面白半分で選んでみたけど、どのアルバムもホントに素晴らしくて、この先も聞き続けていけるものばかり。最初にも言ったけど、2017年はがっしりとした重量感のあるアルバムが沢山あったなという印象を受けました。

ここ数年はあまりバタバタと買い漁ることも無くなってきたし、落ち着いた洋楽ライフになって来たと思います。この調子で2018年もいつものもの、新しいもの、平たい気持ちで素晴らしい音楽に出会いたいものです。

ということで、style of far east が選ぶ、2017年 洋楽ベスト・アルバムは、『Sacred Hearts Club』 Foster The People。2017年 洋楽ベスト・トラックは、『On Hold』 The XX に決定です!