命の導き

ポエトリー:

『命の導き』

 

雲が流れてゆく

雨の日も

終電に乗り遅れた夜も

寝坊した朝も

雲はあちこち移動する

 

蒸し暑い遊歩道を歩くだけで

夏休みの少年が中男の会社員に

中男の会社員が散歩する老人に

 

蝉の鳴き声は1985年のもの

伸び放題の夏草は2017年のもの

張り出した高気圧は2040年のもの

 

一週間泣いて

蝉はカラカラになる

ハンモック

ポエトリー:

『ハンモック』

 

大きなハンモックの上で世界の悪意が揺れている。

買い物帰りのハンナはレモンを掴む前までの苛立ちは全て机の向こうに、鉛筆やらコピー用紙だかを押しやるように滑らせ、今夜の夕食の支度を始める。時を同じく、夕方のニュースが目の前を横切る。玉ねぎは細かく刻んだ方がいい。

日付が変わる前にアパートに辿り着いたジョーは帰りがけに買った週刊誌のページを繰る。声を立てて笑った約1秒後、ゴミ箱へ丸めた。思わずソファを蹴りあげたくもなるが電話が呼んでいる。お誕生日おめでとう。

南の島の小さな岬には樫の木があり、そこは子供たちの目印だ。今はお昼の真っ只中。大忙しの奥さん連中の頭の中は来週に迫った村の選挙にかかりっきりだ。彼女たちは海に放射能が流れていることを知らない。

8月の朝、前の日に南半球での病が終息したとのニュースがあった。今日は土曜日、シンイチは表に出て子供たちの靴を洗う。新鮮な空気に独り言を放り込み、向こうでは今は冬なんだと、当たり前の事を思う。何処にいても朝は朝の空気があればいい。まして高望みではないだろう。

 

2014月11月

手紙

ポエトリー:

『手紙』

 

昔からの友達がいた

話が合わなくなった

メールをしなくなった

 

何度か仕事を変えた

少しづつ遠くなった

新しい蝉の声がした

命の盛りだった

 

透明な虹

月の重力に抗いながら

 

人恋しくもある

君は真っ当に生きてきた

誰かはひとりを選んだ

 

記憶が遠くなった

濃密な時間がまるで他人事のよう

あの時の仲間は今、

どんな暮らしをしているだろう

 

透明な虹

月の重力に抗いながら

 

2015年8月

好きこそものの上手なれ

ポエトリー:

『好きこそものの上手なれ』

 

好きこそものの上手なれって言うけれど

好きでも上手くなれないもんさ

そりゃあんた

好きがまだまだ足りないんだよと

人に言われるわけでなく

どこかの自分が言うもんだから

どうすりゃいいかはお察しで

もっと好きになるより他はなし

だったらもっと好きになるよ

今よりもっと

 

2017年7月

朝が来るまで

ポエトリー:

『朝が来るまで』

 

あぁ、おやすみ

シーツにくるまり

 

世界は嘘で塗り固められてる

未来は雲に覆われてる

小鳥の歌が聞こえない

声が枯れるのは理屈じゃない

 

だから

おやすみ

今はただ

おやすみ

あぁ、おやすみ

シーツにうずくまり

 

こだまが帰るとは限らない

机の上じゃ測れない

癒えない傘が壊れてる

星が見えるのは理屈じゃない

 

だから

おやすみ

今はただ

おやすみ

 

朝が来るまで

側で見てるから

ずっと静かな

ベッドのある部屋へ行こう

 

ただ

おやすみ

今はただ

おやすみ

 

おやすみ

今はただ

おやすみ

 

2014年2月

さよならは転じる

ポエトリー:

『さよならは転じる』

 

君がまだ若かった頃

虹が架かっていた

海は凪いでいた

耳を澄ましていた

 

外連味ない瞳のブルーと

背伸びをした君との不釣り合い

 

ある日不意に夕暮れが訪れた

その夜  君を色濃く浮かび上がらせた悲しみは

ビロードの襞となりまとわりついた

ずっと側にいてほしかったと離さなかった

 

しかしそれは血となり肉となり君の内に根付く

君はまだ知らないだろうが

 

さよならは

さよならは

すべて転じる

まだ見ぬ君の美に

 

2014年4月

ポエトリー:

『道』

 

君は何度も何度も何度も何度も何度も…
空を仰いで
鳥のように雲のように旅人のように
答えを聞いた

君は何度も何度も何度も何度も何度も…
世界をぬって
風のように糸のように歴史のように
道を探した

懐中電灯を片手に
照らした 足元だけじゃなく
時折
誰かの落し物を 見つけた

君は何度も何度も何度も何度も何度も…
踵を蹴って
ツグミのようにシャボンのように干草のように
河を渡った

君は何度も何度も何度も何度も何度も…
恋人を呼んで
二人はいつしか波のようにさざ波のように
小さく暮らした

出来るだけ穏やかに
暮らしてゆきたいと
人知れず静かに
愛し愛されてゆきたいと

二人は何度も何度も何度も何度も何度も…
世界を越えて
虹のように星のように月のように
大地を巡った

二人は何度も何度も何度も何度も何度も…
星をまたいで
父のように母のように祖母のように祖父のように
時を重ねた

君は何度も何度も何度も何度も何度も…
答えを聞いた
世界は何処から来て
あなたは何の為に

君は何度も何度も何度も…
あなたは何処から来て
私は何の為に

君は何度も何度も…
私は何の為に

 

2017年7月

 

魚屋

ポエトリー:

『魚屋』

 

近未来

過去6時の方向で

死んだ魚が泳ぐヒレ

垂直に落ちる汗共々

光を遮るため地下に潜る

ハイウェイを過ぎて真夜中のトンネル

窮屈に揺れます

初めてのウェイクボード

 

頭並べて仲良く

発泡スチロールの中

なだらかな肩に

砕いた氷の上で落ち着いて

ようやくのんびり過ごします

でも死んでます

真夏の魚屋の軒先で

そのうち誰かの家へ売られます

 

2017年7月