グッド・パイレーツ

ポエトリー:
 
「グッド・パイレーツ」
 
 
ぼくたちは日に夜をついでやってきた
時間にせいげんがあったが知らないふりをした
彼女はたまごスープのようになめらかだった
ひとくちで飲みほすことができるくらいだった
 
ぼくたちはにぎやかだった
しまいにはおとなりさんに叱られた
それでもカーテンをしめることはなかった
すべて野放図だった
 
いいかげんあたらしい朝がきた
おしまいのベルが鳴った
ぼくたちは短いかいだんをのぼる覚悟ができていた
家をたてたのはそれからしばらくしてのことだった
 
引っ越しはなんじゅうをきわめた
なぜなら二人にはもちものがたくさんあったから
手ぶくろだけでも五組あった
フライパンだけでも六つあった
 
ぼくたちはそのどれひとつも落とすことはなかった
ぼくには彼女のこのみが分かっていたし
彼女もぼくのしゅみが分かっていた
それが二人のあいしょうだった
 
気がはやいけどいずれどちらかがはやくに死ぬ
それまでにじゅうぶんにくらしたいと思う
おだやかに押したり引いたりしながら
あせったりのんびりしながら
 
なにもかもうまくいくことはないけど
ただ大事なことは
彼女はかかとがカサカサにならないように
ぼくはしょっちゅうせきこまないように
 
ときおりいらぬ心配をしながら
カーテンをしめるのもほどほどに
コラーゲンはしっかり摂って
時間せいげんもたっぷり使って
ぼくも彼女も知らないふりをするつもり
どちらかがとちらかを分からなくなっても
知らないふりをするつもり
 
 
2023年12月

ことば、いし

ポエトリー:

「ことば、いし」

 

たとえば
そこらじゅうの
いしを
あつめ
おとを
あたえ
いみを
あたえ
かたちを
あたえ
ことばは
なりたち
わたしたちの
くらしや
かいわ
なりたち
それがすなわち
ひとっとびに
いっちょくせんの
ことばの
たびだち
わたしたちも
たびたび
てをかし
ときには
しでかし
あたらしいと
ふるいを
くりかえし
めにみえる
あるいはめにみえない
そこらじゅうの
いし
ひとりあるき

2023年10月

冬のはじまり

ポエトリー:

「冬のはじまり」

 

少しずつ大事にあたためてきたのに

いつのまにか繭になって

ほどけなくなりました

いつか

あなたを暖める編み物ができればよいのだけど

 

わたしたちの夜空には

満天の星と寒風

翌朝の舗道は濡れていて

 

2023年11月

オンしたりオフしたり

ポエトリー:

「オンしたりオフしたり」

 

無限に起きることがない代わりに
スイッチをオンしたりオフできる乗り物があったら
ぼくは一生をかけてきみにたどり着けるだろう
磨いたらきらっと格段に光る乗り物
やればできる子
そんな魔法のスイッチを
自在にオンしたりオフしたりする回路を手に入れて
目指すは人工の池、花と緑の大地の

ささくれ立った根性その他、
良からぬものをジェット噴射し
ぐんぐん進むことにして
もうじきコントラストが
赤やら黒やらのコントラストがきみに向かうのを知る

知っているから
とりいそぎ大事な荷物をひとまとめにして
昨と日のあいだはふれないように
明と日のあいだはさわれないように
そりゃあめいっぱい気をつけて
ぼくは一生をかけて大事なきみに会いにいく
無限に起きることがない代わりに
することがめいっぱいある
今は今と日のゆらぎの中にいて
スイッチはオンしたりオフしたり

 

2023年10月

なんて特別なことだ

ポエトリー:

「なんて特別なことだ」

 

なんて特別なことだ
今夜きみに羽が生えだしてきて
今にも飛べそうだ
これだから人生はやめられない

まだ見ぬ風景があるのだと
しかしそれさえ人から見れば控えめなこと
難しがることなんてなく
なんならもう空中

たとえば
人から見れば星くず
もしくは砂粒
それでもかまわない


コップ一杯の水を飲んで身支度
なにかいつもと違う気がして
今夜にも羽が生えだしてきそうだ

 

2023年10月

溶けてなくなる前に

ポエトリー:

「溶けてなくなる前に」

きみはわたしの声を秒単位で欲しがる
溶けてなくなる前に
早く次のを放り込んでおくれ
でないと声を失うと

そんなにも欲しがるならば
なぜあのとき
日が陰るあのとき
待ち合わせの場所にきみは来なかったのか

冷たい夕に
わたしはひとり凍えていたのだ
きみが
秒単位で欲しがるのと同じに

わたしも
ちいさなひとりの人間だということを
知ってか知らずか
あいも変わらずきみは秒単位で欲しがる

溶けてなくなるのはなにも
きみばかりじゃないというのに

 

2023年10月

あなたといるだけで

ポエトリー:

『あなたといるだけで』

 

あなたといるだけで心が張り裂ける
あなたといるだけで胸が熱くなる

あなたがいるだけで時が動き出す
あなたがいるだけで心が満たされる

あなたといる時は落ち着いていられる
あなたといる時は穏やかでいられる

あなたは今何処にいる
あなたは今何をしている
あなたは今幸せなの
私があなたを幸せにしてあげる

そんな風に思われる事が
たとえ一瞬でもあったのかな
そんな風に慕われる事が
ほんの一度くらいはあったのかな
そんな風に人知れず過ごす日々があったのかな

 

2017年5月

法事

ポエトリー:

「法事」

 

堅苦しいとこじゃないし普段着のままでいいから
もよりの駅からの手書きの地図をわたされ
親戚の法事に行きました
父の代わりに

電車をふたつ乗り継いだ先
真下に川が流れるマンションの
玄関を開け放した一室
よく来てくれたと大仰にむかえられ
案内されるままに座りました
僕以外は喪服でした

お経が終わり
おじゅっさんが帰った後の
スーパーで買ってきたという海鮮巻きのパック
これはとても美味しいからと
特にすすめられた若い僕は
言われるがままパクパクと食べた

変な時間に腹をふくらませた僕は
世帯主の満足げな表情に見送られ
真下に川が流れるマンションを後にした

なにをしに来たのかよくわからないまま
父の代わりに手を合わせてきた僕は
もうすぐ二十歳
それにしても大人の世界は
なんだかよくわからないことだ

 

2023年7月

子ども時代

ポエトリー:

「子ども時代」

 

僕たちは塞ぎ込むことをよしとせず
少しくらいの荒地などお構いなしに
学び、戯れ、声を吐き、
少しくらいの擦り傷などお構いなしに
真っ暗闇になるまで遊び呆けた
残り僅かな子ども時代を使い尽くすことが
唯一の仕事でもあるかのように

 

2023年2月

水色の分母の上に緑色を乗せて

ポエトリー:

「水色の分母の上に緑色を乗せて」

 

クソ暑い真夏の朝でさえさわやかに
すいすいとすべる自然の動力をそなえ
普通にいいひとを紹介するノリ
まるで意味がわからない

水色の分母に緑色を乗せたみたい
特に集中力なんていらないみたいにすいすいと
だからその普通にいいひとを紹介するノリ
マジで意味がわからない

水面をすべる木の葉のように
くるっと回ってあんたそのうち
派手に事故っても知らないからね

 

2023年5月