ボクの○

お話:

『ボクの○』

 

算数の時間に書いた○
コンパスが壊れてて○がふくらんだ
お母さんにコンパスを買うからお金をちょうだいと言うとお母さんは

「それはいいけど、コンパスを使っても本当の○は書けないわよ」

ボクは駅前の文房具屋へ出かけた
店のおじさんにコンパスがこんなになったから
新しいのを買いに来たんですと言ったらおじさんは

「それはいいけど、新しいのでも本当の○は書けないよ」

帰り道、ボクは考えた
本当の○ってなんだろ?
マンホールは本当の○?
道路の標識は本当の○?
信号の赤とか青は本当の○?
自転車のタイヤは?
お皿は?
メダルは?

ボクは部屋に入って新しいコンパスで○を書いてみた
鉛筆の先を削って、力加減を同じにして慎重に○を書いた
出来た○をずっと眺めてみた
ボクは○の中に吸い込まれそうな気分になった
○は大きくなって○がボクを包むぐらい大きくなってもっともっと大きくなった

 

ボクは○の端を歩いていた
ボクの歩いた線は太くなっている
まだ○の端っこ、太いのはちょっとだけだ
隣にはお兄ちゃんがいた
お兄ちゃんはボクより少しだけど太いとこが長かった
あ、お母さん お父さんも
もう半分ぐらい来てるのかな ふふ、逆さまになってる

分かった これは僕たちの生きる道なんだ
よく見ると色分けされてる
多分…最初の4ぶんの1はピンクだから春
その次は青だから夏で、赤は秋、白は冬
ボクとお兄ちゃんはピンク え~、ちょっとヤダなぁ
お母さんとお父さんは青と赤の混ざったとこ 変な色…
おばあちゃんは白 あ、だから髪の毛白いんだ

見渡すと他にもたくさん
近所のおばちゃんや文房具屋さん
あ、あの人の○はちいさい あっちも
ホントだ!人によって○の大きさが違う
僕のは、、、よかった ふつうだ

うーん、でもよく見ると○は大きくなったり小さくなったり
きっとその人の歩き方によるんだ
けど○の大きさが違ってもピンクとか白とかの色分けはみんな同じなんだ
へぇ~

 

「お母さん! わかったよ わかったよ!」

「ん?なにが?」

「ほんとの○が書けないってやつ。ボクはまだちっさいから○にならないってことだよね!」

「あ、あれ。それあんた、お母さんとおんなじで ぶきっちょだからよ」

「そうじゃなくて、ボクはまだちっちゃいから○になんなくて、○は人によって大きさが違って、でもちゃんと歩いてたらいいんだよ!」

「あ?あんた何言ってんの?」

「ボク、ちゃんと歩いてるよ!」

「ぶー。靴のかかと踏んでるからダメ~」

 

2017年 洋楽ベスト・アルバム

洋楽レビュー:

『style of far east が選ぶ 2017年 洋楽ベスト・アルバム』

 

今年も多くのCDを購入した。と言っても新譜が月2枚程度だから趣味とすりゃかわいいもん。月2枚と言えど、買い物リストを見ると新旧の実力者がずらりと並んでいるので、我ながらかなりがっしりとした購入履歴になっていると思います。

さて毎年年末になると国内外の音楽誌でベスト・アルバムの発表があります。国内のロッキンオンとNMEジャパン、海外のローリングストーン誌にピッチフォークをさら~っと見たけど、僕の購入履歴にあったのは12枚。意外と高確率でした。ハイムがどこにも載っていなかったのは意外だったな。で軒並み高評価のロードは未購入。毎年ふ~ん、て感じで眺めているだけだけど結構楽しい。こういうの好きです。

僕にとって2017年の最大のニュースはやはりギャラガー兄弟が揃って新譜を出したこと。特にリアムがようやくソロを出し、それが僕たちの期待するリアム像そのものを体現するアルバムであるというこれ以上の無い復活の仕方で、しかもその復活したステージをサマーソニックで至近距離で見れた、そして期待に違わぬステージを見せてくれたっていうのは本当に特別な体験でした。

一方のノエルはそんなリアム騒ぎなんてどこ吹く風、オアシス時代をはるか遠くに追いやる素晴らしいアルバムを出した。これはこれで最高な出来事で、やっぱこうやって二人が二人のキャラクターに沿った新しい音楽を制約なしに思いっ切りやってくれることが僕たちにとっちゃ一番嬉しいのだ。

2017年は僕の好きなバンドが続々と新作を出してきて聴く方も大変だったんだけど、そのいずれもがホントに良く出来た作品ばかりで、かなり濃密な音楽体験となった。名前を挙げると、ケンドリック・ラマーにパラモア、フェニックス、ハイム、ファスター・ザ・ピープルなどなど。初めて聴いたThe XXやウルフ・アリス、フォクシジェン、ザ・ウォー・オン・ドラッグスも良かったし、年末にかけてのキラーズとベックも最高だったな。

そんな中、僕の個人的なベスト・アルバムは、フォスター・ザ・ピープルの『セイクレッド・ハーツ・クラブ』。ウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』とベックの『カラーズ』と迷ったんだけど、ウルフ・アリスはまだまだこれから先に凄いのを持ってきそうだし、ベックはもうそりゃこれぐらいやるでしょうよってことで、フォスター・ザ・ピープルに決めました。やっぱ今までのキャリアの総括というか、ここにきて一気にスパークした感じがするし、最近改めて聴いてみてもやっぱそのエネルギーの質量はハンパないなと。国内外の音楽誌のベスト・アルバム選にはあまり入っていなかったけど、僕は凄いアルバムだと思います。

あとおまけでベスト・トラックも。これはThe XXの『オン・ホールド』にします。年初に聴いたものはどうしても印象が薄れていくんだけど、今聴いてもやっぱりいい。こういう切ない感じに僕は弱いです。

ま、一応面白半分で選んでみたけど、どのアルバムもホントに素晴らしくて、この先も聞き続けていけるものばかり。最初にも言ったけど、2017年はがっしりとした重量感のあるアルバムが沢山あったなという印象を受けました。

ここ数年はあまりバタバタと買い漁ることも無くなってきたし、落ち着いた洋楽ライフになって来たと思います。この調子で2018年もいつものもの、新しいもの、平たい気持ちで素晴らしい音楽に出会いたいものです。

ということで、style of far east が選ぶ、2017年 洋楽ベスト・アルバムは、『Sacred Hearts Club』 Foster The People。2017年 洋楽ベスト・トラックは、『On Hold』 The XX に決定です!

極東のスタイル

ポエトリー:

『極東のスタイル – style of far east -』

 

海岸線に打ち寄せるオレはカケラ

カケラを運ぶ海洋はオレの中にある

愛する事とは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

灼熱の砂嵐はオレのカケラ

砂粒はオレの中にある

愛することとは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

風が空を跨いだ

ヒュッ

漂う綿帽子がオレのカケラ

吹き起こる風、今はオレ

退屈しのぎに一句

代わり映えしない日常にキック

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

style of far east

瞑想して君

支度はすぐに済ませろ

姿を眩ませ

素早く動き回れ

内包する風

に吹き飛ばされるオレ

吹き飛ばすオレ

オレは容れ物

誇張した輪郭

故意に膨らませたままで

されるがまま

するがまま

全ては同時に進行す

速やかに進行す

誰も気にも留めない

心変わりは憂鬱

かけがえのない貴方に向かって

吠える軟骨

根源的な愛

愛することとは容れ物

拡張する輪郭

style of far east

瞑想して君

支度は早く済ませろ

警鐘をならせ

根源的に誓いを交わせ

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

2018 サマソニ出演者、第一弾の発表!

 

2018 サマソニ出演者、第一弾の発表

今年のサマソニ出演者の第一弾の発表があった。出た!ノエル・ギャラガー。しかもベックも!こりゃびっくりした。ノエルはアルバムも出たとこだし、去年リアムが来たっていうタイミングも含めて、可能性としては高いなぁとは思っていたんだけどベックまでとは。去年のフジロックに来てるし今年はないなと勝手に思ってました。僕はこのブログでベックとノエルの新しいアルバムについての同時代性についてを述べたばかり。その二人が揃って来るってなんか嬉しい。でもこれってもしかして2日とも行かなあかんパターン?

とりあえず今回は第一弾ということでこれからぼちぼちとアナウンスがされるんだろうけど、僕の予想としては今年新たなアルバムが出ると噂されているThe1975。そして2017年に素晴らしいアルバムを出したウルフ・アリス。ウルフ・アリスは去年来日しているけど、この上げ潮の中、もう一回ダメ押しで来そうな予感がする。どちらもサマソニになじみ深いしね。

でもそうなると、ベックの日にThe1975とウルフ・アリスっていう組み合わせの方がしっくりくるよなぁ。ノエルは絶対外せないし、こりゃやっぱ2日とも行かなあかんのか~、なんて未だ何も決まっていないのに勝手に悶々としとります(笑)。

あと根強い人気のニッケルバックと新鋭のチャンス・ザ・ラッパーも出演との事。チャンス・ザ・ラッパーは昨年、異例のストリーミングだけでグラミー3冠を獲った話題の新鋭で、世界的に見てもこの人が来るのは結構なニュースなんじゃないかな。僕もチャンスがあれば見てみたい(←ダジャレではありません…)。

いきなりノエルとベックってことでテンションが上がってしまったが、実はまだまだだいぶ先の話、これからの情報を楽しみにしておこう。

とりあえず今年も大阪に来てくれてよかった…。

Who Built The Moon/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Who Built The Moon』(2017)Noel Gallagher’s High Flying Birds
(フー・ビルト・ザ・ムーン/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

ノエルは事前に曲を用意しサウンド・デザインもあらかた決めてからレコーディングに入る人で、その完璧主義者ぶりはオアシス・ファンの間では有名だ。そのノエルが今回は20年以上のキャリアの中で初めて曲を何ひとつ用意せずスタジオに入ったという。プロデューサーのデヴィッド・ホルムスと二人きり、あーでもないこーでもないとサウンドのアイデアを練りつつ後から曲を作るという従来とは全く逆のパターンで取り組んだそうだ。

多分ノエルなら手癖でいい曲を幾らでも書けるだろうしそれなりのアルバムを作れるだろうけど、それでノエルが満たされるかっていうとそうではないだろうし、そこに目を付けて「じゃあ、いっちょやったるか」ってノエルのモチベーションに着火させたデヴィッド・ホルムスの手腕(なんと『ザ・マン・フー・ビルト・ザ・ムーン』のサビを7回も書き直させた!)がこのアルバムの全てだろう。

てことでいつものノエル節といやぁノエル節なんだけど、その出所が違うとこうも違うかってぐらい次元が違う切れ味というか、もちろん今までのノエルの曲も最高なんだけど、ちょっとこれは別のとこへ行っちゃったなって印象で、例えて言うなら別の惑星に行って宇宙服着て帰ってきたって感じ(笑)。ということでこのアルバムを僕は心の中で「ノエル、宇宙の旅」って呼んでます。どっちにしても今までとは分けて考えた方がいいかもしれない。

ノエルより先に出たリアムのソロも相当かっこよかったんだけど、ちょっとベクトルが違い過ぎて笑ってしまう(どっちがどうという意味ではなく)しかないというか、ビッグ・セールスを上げるリアムを横目に余裕ぶっこいてたのがこのアルバムを聴けばよく分かるし、ノエル自身も「今の俺はピークにある」と言い放つくらいだから、やっぱ別の扉を開けたという確信があったのだろう。1曲目のインストからその萌芽は感じられるし、2曲目の『ホーリー・マウンテン』で軽く慣らしといて、3曲目の『キープ・オン・リーチング』から本格的に始まる新しいサウンドはこっちも聴いていて興奮してしまう。4曲目の『ビューティフル・ワールド』でフランス語の朗読が出てくるところなんか最高だ。

どっかのレビューに書いてあったとおり、これまでに近いサウンドは#7『ブラック・アンド・ホワイト・サンシャイン』ぐらいなもんで後はもうオアシス的なものを置いてけぼりにするぐらい一気に駆け抜けていってしまう。やっぱこのぐらいやってもらわないとね。ていうかスイッチが入ったノエルならこれぐらいはやるでしょう(笑)。

ところでこの素晴らしくオープンなアルバムを聴いていて思い出したのが同時期にリリースされたベックの『Colors』。あちらもベックとプロデューサーのグレッグ・カースティンによる二人三脚で作られたアルバムで、僕は以前このブログで『Colors』をベックの幸福論なんて呼んだけど、このノエルの新作も本人が「俺は喜びの曲を歌う」と断言するように同じく全ての人に開かれたノエルの幸福論と言ってもいいようなアルバムで、こうして90年代にデビューし一つの時代を築いた二人が同時期にこんなにも肯定的なダンス・アルバムを作ったというのは偶然とはいえ何やら特別の事のように思えてならない。

もう一つ付け加えておくと、初期オアシスのB面曲はなんでB面やのにこんな名曲やねん!ってぐらいやることなすこと名曲揃いだったのだが、今回のボーナス・トラックもそれに負けず劣らずの名曲。特に#12『デッド・イン・ザ・ウェザー』はかなりヤバい!ってことでやっぱノエルは絶好調のようです(笑)。

最後に余計なことを言うと、僕たちはノエルの曲についてはついついいつまでもこれがリアムの声だとどんな感じになるんだろうって考えてしまうけど、まぁこれからはそれも半ば面白半分にして、ノエルにとってオアシスはもう済んだ事だということを僕たちもそろそろ体に馴染ませないといけないのかもしれない。それにはちょうどいいアルバム。こんだけサウンドが更新されて宇宙的になってしまうともうノエルの声でも違和感ないかも。

 

1. Fort Knox
2. Holy Mountain
3. Keep On Reaching
4. It’s A Beautiful World
5. She Taught Me How To Fly
6. Be Careful What You Wish For
7. Black & White Sunshine
8. Interlude (Wednesday Part 1)
9. If Love Is The Law
10. The Man Who Built The Moon
11. End Credits (Wednesday Part 2)

(ボーナス・トラック)
12. Dead In The Water (Live at RTÉ 2FM Studios, Dublin)
13. God Help Us All

A Deeper Understanding/The War On Drugs 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Deeper Understanding』(2017)The War On Drugs
(ア・ディーパー・アンダスタンディング/ザ・ウォー・オン・ドラッグス)

 

ソングライターのアダム・グランデュシエル率いる米国のインディー・バンドの4作目。一応バンドってことでメンバーの写真が載っていたりしますが、こりゃ完全にアダムさんのプライベート・アルバムですな。

一人スタジオに籠って創作に励みつつ、ある程度固まってきたらバンドを呼んでセッションをするといった感じでしょうか。ということでこの人、かなりオタクです、多分。ホントに音楽が好きなんだろうなぁって印象を受けるアルバムで、少し昔であれば一人でここまで出来なかったんだろうけど、今は家でアルバム1枚作るなんてことも出来る時代だから自分の好き放題、時間をかけて朝から晩まで、細部まで凝って創作に打ち込める。なんかプラモデルを作ってる感覚に近いのかもしれないけど、そこに閉じた感じがしないのはやっぱバンドだからであって、この人自身はそんな明るい人でもないのかもしれないけど(←スミマセンッ、勝手な想像です)、みんなでせぇのーでバーンとやってしまうことの意味もちゃんと分かっている人で、結局体質的にも自分が作る曲もどうしてもそうなってしまうんだろうし、やっぱ一人ではなく仲間といることが好きな人なんだろう。この曲の強さはそういうことかもしれない。てことでそんなアダムさんに付き合っちゃうここのメンバーはきっと優しい人たちに違いないっ!

サウンド的にはもう思いっ切りブルース・スプリングスティーン。で、歌唱法はボブ・ディランかな。2010年代ということで今風なドリーム・ポップ的高揚感だったり、あとシンセも結構多用してて80年代の香りもするけど基本はスプリングスティーン。でも大向う相手に見得を切るって訳じゃなく、教室の隅っこにいる静かなスプリングスティーンって感じ(笑)。スプリングスティーン大好き感が凄く出てて微笑ましいです。

歌詞はプライベート感満載で彼女がいなくなっちゃった男の独白。だからまぁ、語るようなもんではないです(笑)。その代りにバンドが雄弁というか、アダムさん自身の演奏とか打ち込みもそうだけどホントに細かく重ねられていて、そこにギター・ソロとかシンセやウーリッツァーなんかがサーッと流れてくるのは凄く気持ちいいし、それらがまたメロディアスだから余計に行間を語る感じがしてとてもいいのです。そうやね、俳句的なところはあるかもね。

このバンドは3作目の『ロスト・イン・ザ・ドリーム』でブレイクしたわけだけど、今回のアルバムもこんな感じだし、次もこんな感じになるのだろう。どっかで今後はウィルコみたいな存在になるかもなんて書かれていたけど、このひとりぼっちな感じの独特の佇まいはちょっと違うかな。

どこがいいのって言われても返事に困るアルバムってのがあって、特に楽しいわけでもなく、かといって地味でもないし、じゃあ内省的な暗い感じかと言われれば解放感はあるし明るい感じもある。自分でもよく分からないけどまぁ聴いてて心地いいというか、通勤中に何聴こうかなんて物色しているとついついこれを選んでしまう。こりゃすげぇよって夢中になるわけじゃないんだけど実は一番聴いてんのこれじゃねぇ?っていうやつです。なんかレビューになってないな(笑)。男はこういうメランコリックなの好きだけど、女の人はどうなのかなぁ。

 

1. Up All Night
2. Pain
3. Holding On
4. Strangest Thing
5. Knocked Down
6. Nothing To Find
7. Thinking Of A Place
8. In Chains
9. Clean Living
10. You Don’t Have To Go

(日本盤ボーナス・トラック)
11. Holding On(Live)
12. Pain(Live)

ボートラが良いです。家内手工業的なオリジナルよりこっちの方がごちゃごちゃした躍動感があって好きかな。

Revelator/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Revelator』(2011)Tadeschi Trucks Band
(レヴェレイター/テデスキ・トラックス・バンド)

 

移動している時に聴きたい音楽というものがあって、それも通勤電車とかそういう場合ではなく、一人でどこかへ出かける時、或いは出張か何かの帰り、少し旅に近い感覚が入り混じった時に聴きたくなる音楽というものがある。そうだな、やはり車ではなく電車がいい。それも長距離を移動する特急列車、または新幹線でもいいかもしれない。例えばトンネルを抜けたら、普段は見慣れぬ景色がパーッと広がって、普段は感じえないような心持ちが動き出す。すると偶然耳に付けていたイヤホンからそんな感情を包み込むいい音楽が流れてきて、気持ちが揺らいでしまう。けれど少し懐かしくもあって胸が熱くなったりして。誰しもそんな経験があるかもしれない。

ギタリスト、デレク・トラックスと彼のパートナーであるスーザン・テデスキを中心とした大編成バンド。ここに集まった面々は超一流のミュージシャンではあるけれども、このアルバムを一段素晴らしいものにしているのは、彼らの音楽に対する深い愛情であり、音楽仲間たち相互のリスペクト、すなわちミュージシャン・シップという一言に尽きるのではないだろうか。

デレク・トラックス・バンドは以前から気にはなっていたバンドのひとつ。でも、どうもしゃがれ声のボーカルに馴染めなかったんだけど、今回は、そのマイク・マティソンがバッキング・ボーカルに回り、スーザン・テデスキがメインを努めている。個人的に最高というわけではないが、まあいいんじゃないだろうか。合う合わないというよりむしろ、信頼関係がそれを凌駕してしまっているというべきかも。

本作のハイライトはなんと言っても前述のマイクとデレクによる共作(バックに回ったが、マイクはなかなかええ仕事しよる)、M3の『ミッドナイト・イン・ハーレム』。デレクのスライド・ギターと、こちらもデレク・トラックス・バンドから参加のキーボード・プレイヤー、コフィ・バーブリジュによるハモンド・オルガンとの掛け合いは言葉では言い尽くせない美しさ。ただ事実を淡々と述べる詩と、抑制したスーザンのボーカル、そして素晴らしい演奏が言葉以上に雄弁に語りかけてくる。僕はアメリカの大地も知らないし、英語も解さないが、胸が熱くなり涙がこぼれてしまった。

音楽と共にある人生。アルバムを聞きながら、ここにいるミュージシャンたちを思い浮かべるとき、僕にはふとそんな言葉がよぎった。勿論、いいことばかりではないだろうが、音楽なしでは生きてゆけない彼らの音楽は、1+1が5にも6にもなるまさにバンド。そんな彼らに音楽の女神がそっと微笑んだのかもしれない。

僕たちは何処から来て何処へ向かうのか。今手にしたこの場所は最善なのかもしれないけれど、僕たちの故郷はもっと他の場所にあるのではないのか。移動するときに聴きたくなる音楽というのは、そうした人が本来持ちうるノマド的な感覚を補完する音楽なのかもしれない。

 

1. Come See About Me
2. Don’t Let Me Slide
3. Midnight in Harlem
4. Bound for Glory
5. Simple Things
6. Until You Remember
7. Ball and Chain
8. These Walls
9. Learn How to Love
10.Shrimp and Grits (Interlude)
11.Love Has Something Else to Say
12.Shelter

 (日本盤ボーナストラック)
13.Easy Way Out

興福寺 国宝館 リニューアルオープン 感想

アート・シーン:

興福寺 国宝館 リニューアルオープン 感想

 

2018年元旦よりリニューアルオープンした奈良興福寺の国宝館へ行って参りました。とその前に興福寺東金堂を参拝。国宝館目当てで行ったのですが、東金堂もスゴクよいです。正面に薬師如来坐像、その左右に維摩居士坐像、文殊菩薩坐像、更に日光菩薩立像、月光菩薩立像と並び、その周囲を十二神将立像が取り囲みます。更に四隅を四天王立像が配置する迫力の国宝群です。ちなみに薬師如来坐像と日光・月光菩薩立像が銅造で他は木造になります。

ここの日光・月光菩薩立像は片方の手が手の甲を上にして指先をちょんと跳ね上げる格好でまるでペンギンみたい。穏やかな表情と相まってかわいいです。

さて、リニューアルオープンの国宝館。奈良時代に創建された食堂(じきどう)の外観をイメージしているそうなので外観は至って地味です。ん?リニューアルなのにこれがそうなの?って感じで遠目には分かりにくいですが、中に入るとすんごいです!

館内は白で統一されたシンプルな内装なので像が一層際立ちます。像を痛めることのない柔らかなLED照明もよい感じ。昨年の乾漆群像展で見た乾漆八部衆立像や乾漆十大弟子立像も配置の妙で素晴らしかったのですが、この国宝館で見る像はひとつひとつが独立して配置されていて距離も近いので凄くじっくり見れます。ホントに素晴らしい。間近に見る阿修羅像や迦楼羅像は最高です。

阿修羅像は人気があるので皆さんそれぞれに感想をお持ちでしょうが、私がこの日感じたのは性別を超越したところ。もともと神様に性別はないそうですが、私は今回どちらかというと女性の面影を強く感じました。それも古風な面立ちではなく凄く現代的なお顔。本当に美しいです。

他の八部衆立像と比べても根本から造形が異なるようですし、もしかしたらこの現代的なお顔には実在のモデルがいたのかもしれません。男だったのか女だったのかは分かりませんが、そこに幾ばくかの物語があったかもしれず、そんな風にして想像を巡らせるのも楽しいものです。

素晴らしい仏像や絵画というのは見る場所や時に応じてに異なる印象を与えてくれます。ここで見られる仏像についても全くそのとおりですね。

あと国宝館の中心におわします5メートル超の木造千手観音立像も圧巻です。これも間近に見れますよ。

ここでひとつ豆知識。奈良にある国宝の仏像は東京をはじめ各地の展覧会に引っ張りだこだそうですが、元々の所在地から移動するときは一度魂を抜くのだそうです。したがって、各地の展覧会で展示される場合は美術品として扱われるので拝観と言います。一方、ここ国宝館の阿修羅像たちは魂が入っていますから参拝と言います。たまたま国宝館のスタッフの方が館内で観光案内をされていたのを聞いた受け売りですが(笑)

私が訪れたのは1月3日でしたが、やはりお正月ということで春日大社へ向かわれる方がメインのようで、オープンしたばかりの国宝館は人もまばら。すごい人で見れないかも、なんて心配していましたが、しっかり堪能できました。堅苦しくなく、リラックスした雰囲気ですので、仏像にちょっと興味があるんだけどイマイチよく分からないんだよな、って人には是非おススメです。

来年ばかりは君に

ポエトリー:

『来年ばかりは君に』

 

心があるから心が変わる
心があるから言葉が変わる

心があるから思い通りにはいかなくて
思い通りにはいかない物語が生まれる

あなたの物語も
わたしの物語も

ひとしきり嘆いた
ひとしきりはしゃいだ
ひどい霧続いた
ひとしきり続いた

心の何処かのあさはかな
はかない心の何処かから
残りわずかなわだかまり
心は重なり心はかさばる

大晦日だからって捨てることはないんだよ

心があるから心が変わる
心があるから言葉が生まれる

いつもいい物語ばかりではないけれど
来年ばかりは君に
いい物語が訪れますように

 

2017年12月

『The Covers』 NHK BSプレミアム 2017.12.22 放送(ゲスト:ROOTS66)感想

TV program:

『The Covers』 NHK BSプレミアム 2017.12.22 放送(ゲスト:ROOTS66)

 

NHK BSプレミアムで放送されているこの番組。番組H.Pには「歌は、歌い継がれることでスタンダードとなり、永遠の命を授けられます。ジャンルや世代を超えたアーティスト達が、影響を受けた曲や、思い出深い一曲を魅力的なアレンジでカバー。名曲達を新鮮な感動と共にお届けします。」とある。司会はリリー・フランキーと仲里依紗。2018年、最後のゲストは「ROOTS66」。

「ROOTS66」とは1966年生まれのアーティストによるユニット。元々はFM802の企画で始まったそうだ。この日出演したメンバーは、友森昭一,大槻ケンヂ(筋肉少女隊・特撮),福島忍(勝手にしやがれ),増子直純(怒髪天),田島貴男(ORIGINAL LOVE),田中邦和,スガシカオ,阿部耕作(チリヌルヲワカ),伊藤ふみお(KEMURI),たちばな哲也(SPARKS GO GO),八熊慎一(SPARKA GO GO),奥野真哉(SOUL FLOWER UNION),田中和(勝手にしやがれ),木暮晋也(HICKSVILLE),トータス松本(ウルフルズ),tatsu(レピッシュ)の総勢16名。この日の出演は無かったがイエモンの吉井和哉や渡辺美里、VTRで出てきた斎藤和義もメンバーとのこと。

オープニングは沢田研二の「勝手にしやがれ」。ボーカリスト総勢7名(オーケン、トータス、田島、伊藤、八熊、スガ、増子)で歌う「勝手にしやがれは」はホントに勝手にしやがれって感じ(笑)。だってみんな個性強いのなんのって。

その後は司会の二人と共にトーク。これが面白かった。テレビ見て声出して笑ったのは久しぶりです。僕は1973年生まれだから彼らより下の世代だけど、僕もテレビっ子だったから(あの時代の子供はほとんどがテレビっ子だったと思う)彼らの話はちゃんと分かるし、細かいところもいちいちツボを突いてホント面白かった。

田島貴男が石野真子を見に地元のダイエーに行ったくだらない話とか、その石野真子の実物大の顔のポスターを地球儀にくっ付けてキスをしたオーケンの、「だって立体的にしたいじゃん!」っていう馬鹿馬鹿しい話にゲラゲラ笑ってしまいました。あとみんなキャラが立っているというか、例えば増子の居酒屋のオヤジ風ツッコミキャラや八熊のそこにいる客みたいな感じも面白い。一番印象的なのは、クールで渋い奴だと認識していた田島がよく喋るかなりテキトーな天然キャラだということ。なんでツッコまれてるのか分からんぐらいのレベルです(笑)。オーケンはデビューが早かったから、「オーケンさん」なんて年寄り扱いされているくだりもなるほどな、と思いました。あともうひとつくだらないのがコメントVTRで出てきた斎藤和義で、いきなり「今日はこの後包茎手術があるのでそちらへは行けません」っていう挨拶。ほんとにくだらんよなぁ(笑)。そんな中、意外と人見知りというか中々打ち解けれないトータスのシャイな人柄が、あぁやっぱこの人はこういう人やねんなぁ、というところでまた好きになりました。

2曲目に披露されたのがRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」(vo.オーケン、伊藤、八熊、スガ)。みんな言ってたけど、清志郎、実は歌上手かったってのがよく分かった。だってみんな歌い切れてないもん。だからかみんな「アオーッ!」って言い過ぎ(笑)、トークでもツッコまれてました。あと歌う前はRCの歌は崩しようがないというか自分で歌えないからついつい清志郎の物まねになってしまうなんて言ってたけど、いやいやそんなことない、みんなキャラ濃過ぎ、ちゃんと出てました(笑)。でも確かに上手く歌えなくて結構グダグダ。だからみんな「アオーッ!」でごまかすみたいな(笑)。

でもやっぱこの歌いいよなぁ。みんなもRCの事が清志郎の事が好きなのが凄く伝わってくるし、僕はやっぱ下の世代だからどっちかって言うと清志郎はひょうきん族とかで暴れて帰る変な人っていうイメージしかなかったけど、きっと高校の時に「トランジスタ・ラジオ」を聴いてたらヤラレてたんだろうな。この年末にちょっと聴いてみよう。

3曲目は世良公則&ツイストの「銃爪」(vo.増子、田島、トータス)。曲の最後の方でミニコントやって、ジャ~ンで終わり。リリー・フランキーのマチャアキと井上順が曲の間にするミニコントを思い出したってコメントがナイスでした。最後に歌ったのは「レッツゴー!ムッツゴー!~6色の虹~」。アニメ「おそ松さん」のエンドテーマだそうだ。この曲はみんなで手分けして作った「ROOTS66」のオリジナルとのこと。意外とちゃんとした曲、ていうかいい曲だぞ。

1966年は丙午だそうで、けどそんな迷信気にしないぜっていう両親の元から生まれたからみんな個性的なんだって言うリリー・フランキーのコメントが、説得力あるんだかないんだかよく分からないぼんやりした感じで良かった。

ちょっと文章長くなってしまったけど、そんぐらい面白かったということでお許しを。ということでリリー・フランキーがいつもよりだいぶ楽しそうだったのと置いてけぼりの仲里依紗が印象的な「The Covers」、今年最後の放送の感想でした。

ついでに、、、
番組の合間に司会の二人がスナックと思しきセットでミッツ・マングローブ率いるそっち系3人組とテーマ・トークをするミニ・コーナーがある。「星屑スキャット」と名付けられた3人がテーマに沿って1曲歌うんだけど、今回歌ったのはテレサ・テンの「愛人」。歌い終わった後に小さい声で「謝謝(シェイシェイ)」と呟くミッツの芸が細かい。ていうか3人ともめちゃくちゃ上手すぎてなんかオモロイ(笑)。