2023年 洋楽ベスト・アルバム

「2023年 洋楽ベスト・アルバム」

 

2023年は圧倒的に女性アーティストの年だった。特に前半はほとんど女性ばっか聴いていたんじゃないか。別に僕が女性好きということではなく、世の傾向が全くそうだったということです、はい。その最先端にいるのは間違いなく、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカスによるユニット、ボーイジーニアス。勿論音楽も素晴らしいが、特筆すべきは3人の佇まい。そこには性別や国境を超えた新しい世代による新しい美しさがありました。そしてそれを多くの人々が支持している。よい方に向かっているとは言えない世界ではあるけど、彼女たちの音楽には希望を感じました。ということで、2023年の個人的なベスト・アルバムはボーイジーニアスの『The Record』です。やっぱり後で振り返った時に2023年の象徴として残るのはこのアルバムだと思います。

 

2023年によく聴いた女性アーティストを振り返ってみると、久しぶりのパラモアの会心作に始まって、ブロンドシェルやウェンズデーといったインディー・ロック勢があり、先ずそこで勢いを感じました。ロックじゃないけどソウルフルなジェシー・ウェアもカッコよかった。後半に入ってもジャパニーズ・ハウスが期待通りだったし、ミツキもいいのを出しました。日本で印象深かったのはカネコアヤノ。オアシスばりの轟音ギターで、ライブにも行きましたけどエモーショナルでとても記憶に残るものでした。そうそう、羊文学もついにブレイクしましたね。というところで年末、各種媒体の年間ベストを眺めていると、知らぬ間にコリーヌ・ベイリー・レイに新譜が出ていたじゃないか、オリビア・ロドリゴもパラモアみたいなロックをやってるじゃないか、なになに、アナ・フランゴ・エレトリコ?誰だそれ、めっちゃええやないか、と今慌てて聴いているところです。

 

そういう後から知ったのも含め、2023年は女性アーティストが多かったわけですが、嬉しいのはその多くがギターを抱えたロック音楽だということ。ただ、ロックと言うのは世の中に対する異議申し立てと言う側面もある。それだけ女性が言いたいことを言えるようになってきたとも言えるし、ジェンダーレスなんて言ってもまだまだ理不尽なことは山ほどあるってこと。いずれにしてもめちゃくちゃカッコいい女性のロックがどんどん出てきている。ロックにおいても男とか女とかはもう関係ない。

 

あと2023年の個人的ベスト・トラック。これは年初に聴いたインヘイラーの『When I Have Her on My Mind』がずっと印象深く残っていたのですが、後半に入ってザ・ビューの嬉しい復活があって、そこからの『Woman of the Year』、これにしようと思います。曲といいボーカルといい、ずっと持っている強みと今になって出せる深み、これらが両立した素晴らしい曲でした。ミュージック・ビデオも素晴らしかったです。

 

あと個人的なトピックとしてコーネリアスのことも書いておきます。高校生の頃はよくフリッパーズ・ギターを聴いていましたが、ソロになってからはあまり聴いたことがなかった。そこに例のオリンピック騒動。かつて大好きだった音楽家が本当にそうだったのかというところが僕の中で結びつかなかった。そしていろいろと調べてある程度納得がいった、そういう中で再活動後のアルバムが出た、それがとてもよいアルバムだった。という流れで過去作も沢山聴いてライブにも行きました。それは本当に心に残るものでした。彼の活動はこれからも見ていきたいと思います。

 

ちなみにSpotifyによると、2023年に僕が最も聞いた曲はボーイジーニアスの『$20』。ていうか再生ランキングの上位ほとんどがボーイジーニアス『The Record』からの曲だったので、客観的に見ても僕の2023年ベスト・アルバムはこれだということです。一番聴いたアーティストはさっき書いた理由でもってコーネリアス。ウィルコはなんだかんだで3位に。やっぱ僕はウィルコ好きなんだな。

夜が来たら

ポエトリー:
 
「夜が来たら」
 
 
何度も
耳の奥で繰り返す
今日のこと
 
夜が来たら
君ですら眠たくなるよ
だからもうおやすみ
あくる日の天気は
神さまにゆだねよう
 
ぼくたちははまた
大事なものから離れている
まだ気づいていないけれど
ぼくたちはきっと
眠りたりない
 
だからもうおやすみ
あくる年の天気は
神さまにゆだねよう
 
 
2023年12月

グッド・パイレーツ

ポエトリー:
 
「グッド・パイレーツ」
 
 
ぼくたちは日に夜をついでやってきた
時間にせいげんがあったが知らないふりをした
彼女はたまごスープのようになめらかだった
ひとくちで飲みほすことができるくらいだった
 
ぼくたちはにぎやかだった
しまいにはおとなりさんに叱られた
それでもカーテンをしめることはなかった
すべて野放図だった
 
いいかげんあたらしい朝がきた
おしまいのベルが鳴った
ぼくたちは短いかいだんをのぼる覚悟ができていた
家をたてたのはそれからしばらくしてのことだった
 
引っ越しはなんじゅうをきわめた
なぜなら二人にはもちものがたくさんあったから
手ぶくろだけでも五組あった
フライパンだけでも六つあった
 
ぼくたちはそのどれひとつも落とすことはなかった
ぼくには彼女のこのみが分かっていたし
彼女もぼくのしゅみが分かっていた
それが二人のあいしょうだった
 
気がはやいけどいずれどちらかがはやくに死ぬ
それまでにじゅうぶんにくらしたいと思う
おだやかに押したり引いたりしながら
あせったりのんびりしながら
 
なにもかもうまくいくことはないけど
ただ大事なことは
彼女はかかとがカサカサにならないように
ぼくはしょっちゅうせきこまないように
 
ときおりいらぬ心配をしながら
カーテンをしめるのもほどほどに
コラーゲンはしっかり摂って
時間せいげんもたっぷり使って
ぼくも彼女も知らないふりをするつもり
どちらかがとちらかを分からなくなっても
知らないふりをするつもり
 
 
2023年12月

感覚は道標 / くるり 感想レビュー

邦楽レビュー:

『感覚は道標』(2023年)くるり

 

くるり14作目のオリジナル・アルバムです。今回のメンバーはデビュー当時、要するにくるり結成時のメンバーだそうです。くるりはメンバーの出入りが結構あって、音楽的にも変わったことやってる人たちというイメージがあります。岸田繫の才能に任せてって感じですね。そんなくるりがデビューから25年経って元のメンバーに戻って作りあげたのが今回のアルバムだそうです。

さっきも言ったようにくるりは変態的な音楽をやっているイメージがあるんですけど、このアルバムはいたく真っすぐなロック・アルバムです。メンバーがメンバーだし原点回帰ってことでしょうか。とは言えそこはなかなかどうして一筋縄にはいきません。ずっとあれやこれやと色んな事に取り組んできた流れがあっての真っすぐなロック・アルバムですから、ものすごく聴きごたえがあります。積み上がってます。聴く人が聴けばこれもやっぱり変態的なんでしょうね(笑)。

でも不思議とすごく爽やか。デビュー・アルバムみたいに爽やかです。アルバム・ジャケットがなんじゃこれはという感じでオッサン3人が、ま、くるりのメンバーなんですけど(笑)、3人がただ座ってこっちを向いてるだけの写真なんですが、オッサンやのに不思議な爽やかさがある。アルバムを象徴するいいジャケットだと思います。なんか面白いアルバムです。

ピカソとか岡本太郎も実はちゃんとした絵を描けば凄いのを描くのだと思います。しかもめちゃくちゃ上手に描けるうえに、積み上げたものがあるから更に凄いことになる。言ってみればこのアルバムもそんな感じです。いろいろな取り組みをしてきたんだけど、初心に帰ってシンプルにバンドでジャムってみたら、初心だけでは絶対できないようなプラスアルファの凄いのができた。あと、岸田繫の持っているコマーシャルな部分が素直に出てきてるから、それこそ若い子に混じって歌番組で歌ってしまえるぐらいのポップさもある。デビューして25年経ってなお、こんなに爽やかでポップなアルバムを作れるんだからすごいバンドです。

ことば、いし

ポエトリー:

「ことば、いし」

 

たとえば
そこらじゅうの
いしを
あつめ
おとを
あたえ
いみを
あたえ
かたちを
あたえ
ことばは
なりたち
わたしたちの
くらしや
かいわ
なりたち
それがすなわち
ひとっとびに
いっちょくせんの
ことばの
たびだち
わたしたちも
たびたび
てをかし
ときには
しでかし
あたらしいと
ふるいを
くりかえし
めにみえる
あるいはめにみえない
そこらじゅうの
いし
ひとりあるき

2023年10月

冬のはじまり

ポエトリー:

「冬のはじまり」

 

少しずつ大事にあたためてきたのに

いつのまにか繭になって

ほどけなくなりました

いつか

あなたを暖める編み物ができればよいのだけど

 

わたしたちの夜空には

満天の星と寒風

翌朝の舗道は濡れていて

 

2023年11月

オンしたりオフしたり

ポエトリー:

「オンしたりオフしたり」

 

無限に起きることがない代わりに
スイッチをオンしたりオフできる乗り物があったら
ぼくは一生をかけてきみにたどり着けるだろう
磨いたらきらっと格段に光る乗り物
やればできる子
そんな魔法のスイッチを
自在にオンしたりオフしたりする回路を手に入れて
目指すは人工の池、花と緑の大地の

ささくれ立った根性その他、
良からぬものをジェット噴射し
ぐんぐん進むことにして
もうじきコントラストが
赤やら黒やらのコントラストがきみに向かうのを知る

知っているから
とりいそぎ大事な荷物をひとまとめにして
昨と日のあいだはふれないように
明と日のあいだはさわれないように
そりゃあめいっぱい気をつけて
ぼくは一生をかけて大事なきみに会いにいく
無限に起きることがない代わりに
することがめいっぱいある
今は今と日のゆらぎの中にいて
スイッチはオンしたりオフしたり

 

2023年10月

なんて特別なことだ

ポエトリー:

「なんて特別なことだ」

 

なんて特別なことだ
今夜きみに羽が生えだしてきて
今にも飛べそうだ
これだから人生はやめられない

まだ見ぬ風景があるのだと
しかしそれさえ人から見れば控えめなこと
難しがることなんてなく
なんならもう空中

たとえば
人から見れば星くず
もしくは砂粒
それでもかまわない


コップ一杯の水を飲んで身支度
なにかいつもと違う気がして
今夜にも羽が生えだしてきそうだ

 

2023年10月