銀の月 / 佐野元春 感想
『銀の月』(2021年)佐野元春
佐野元春の新曲がリリースされた。来春に予定しているアルバムからの先行トラックだそうだ。コヨーテ・バンドならではのギター・チューン。コヨーテもいつの間にか聴けばそれと分かる個性が確立されたような気がします。初期のザ・ハートランドも中期のホーボーキング・バンドも割とアルバムごとにサウンドは違ってましたから、バンド・サウンドを固めたまましばらく続けるのは佐野さんのキャリアでも非常に珍しいことかと思います。
『世界は慈悲を待っている』や『エンタテインメント!』に通じるコヨーテならではのダンス・ロック。いや、苦み走ったダンス・ロックと言えばよいか。このダブル・ギターを基調とした独特の疾走感(って言っていいのかわからないが)は完全なオリジナリティー。一方でこれだけ確立してしまうと、次のアルバムでコヨーテ・バンドとしての活動は一旦休止になりそうな気がしないでもない。
そして意味深なタイトル、「銀の月」。僕は涙と受け取りました。若しくは魂。邪険にされがちな弱者のそれらが良き道筋に転嫁される。そういう意思がここにあるような気がします。ていうか感じ方は人それぞれ。いつものようにこうであるとは拘らない、聴き手の想像力を自由に喚起する素晴らしいリリックです。個人的には「そのシナリオは悲観的すぎるよ」という言葉を自分の問題としてどう判断すべきか、まだ僕の中で消化しきれずにいます。
銀の月抱いて 歩いてゆく
行きたいと思う道 目指してゆく
そのシナリオは悲観的すぎるよ
日は暮れて 君は少し笑った
~『銀の月』佐野元春~
ランデブー
ポエトリー:
「ランデブー」
もしも君が僕より先に死んだなら
冬の空気より
雪の結晶より
透明な君のまごころ
君の灰を
まるで君のままのように柔らかく抱き締める
ランデブー
ナイロビの砂漠に浮かぶゴンドラ
と同じ月に僕らは運ばれる
それまでは
ミケランジェロより不恰好でも
太陽の塔のように胸を張り
サクラダファミリアよりも永遠に君を愛す
秋の夜長みたいに
ゆっくりと時間をかけて
僕たちは年をとる
2012年11月
Sad Happy / Circa Waves 感想レビュー
10月17日の短い詩
ポエトリー:
「10月17日の短い詩」
初めての朗読会の帰り道
電車から見える景色は全てがカーテンで覆われ何も見えない
特に見たいものがあるわけじゃないけれど
2021年10月
待ちぼうけ
ポエトリー:
「待ちぼうけ」
世界一大きなあなたの言葉を重しにして
私は日々を繋いでいます
その重しに絵を描いて落書きをして眺めていると
身近に感じられます
公園で拾いものをして
それは綺麗な丸みをおびた石で
軽く握ったら冷たくて
思わずポケットにしまい込みました
家に帰る間
ポケットの中で手は軽く握られたままで
それはどうしようもなく
ヒナのように優しく包んであげないといけないものでした
家に帰るとそれを靴箱にはのせず
ダイニングテーブルの花瓶の横に置きました
もちろんすすいだりはせず
軽く握ったままを保つように
私たちは朝日を見て目が覚めるけれど
固く閉じたままのヒナをかえすのは難しい
心に閉じた楽園をいつか目にすることが生きることだと
あなたが言った重しのような言葉を
ためらいがちにそっと吐くと
白い息に混じって
絵を描いて落書きをしている私が見えます
そこに置いたのは待ちぼうけの心
軽く握ってなぐさめた
世界一大きなあなたの言葉を重しにして
私は日々を繋いでいます
どうすればもっと身近に感じられるでしょうか
私はあなたに会いたいです
2020年8月
How Long Do You Think It’s Gonna Last ? / Big Red Machine 感想レビュー
10月10日の短い詩
ポエトリー:
「10月10日の短い詩」
わたしたちの詩歌は
うっすらと虹をかけている
足元に難題をたたえて
2021年10月10日
10月7日の短い詩
ポエトリー:
「10月7日の短い詩」
昇る街の上
はしゃぐ君の顔
ふたつ上がらない太陽のひとつになる
2021年10月
かつて理解して
ポエトリー:
「かつて理解して」
熱い涙は体温だ
森の真ん中に迷い込んだ
かつて人類は東へ向かい
新しい道を歩き始めた
かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して
空回りでも心は回る
やがてその軸を焼き尽くした
かつて人類は渚へ向かい
仲間とはぐれて暮らし始めた
かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して
僕のお母さんは朝早くに出かけ
夜遅くに帰ってきた
僕は海原に小舟を浮かべ
釣糸を眺めていた
かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して
かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して
かつて人類は
空をつかむように
同じ体温の誰かと
手を繋ぎあった
2021年8月