もののはずみ

ポエトリー:

「もののはずみ」

 

ありもしないものは
はじめからそこにないのだから
なくなったりはしないのに
どこにいったいつなくした
あそこにおいたはずなのに

こにくたらしいかのじょのえがおに
なんどにがむしをかんだかなんて
きどったようにいったとしても
そんなこともあったようななかったような

ありもしないものは
はじめからそこにないとしりつつも
むねぽけっとのたかなりは
なんだったのかとたずねてみれば
もののはずみというものですよ

ねぼけまなこのたかなりが
あっちへふらふらこっちへふらふら
ついぞみはてんあなたののぞみは
けっきょくちいさなむねさんずん

さりとてちいさなむねさんずん
ありもしないからはじまるのですよと
わかったようなくちぶりで
それこそもののはずみです

 

2022年6月

アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO 感想

アート・シーン:
 
『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』in 京セラ美術館
 
 
京都市京セラ美術館で開催されている、『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』へ行ってきた。僕はいわゆるポップ・アートと呼ばれるものに疎い。子供の時からそれなりに絵は得意だったが、デザイン的なものになるとからきし弱い。ま、要するにセンスが無い。そんな僕でもアンディ・ウォーホルの面白さは分かる。そういうポップ・アートに疎い連中にもタッチできるのがアンディ・ウォーホルということなのだろう。ちなみに最近はウォーホールではなくウォーホルと言うみたい。
 
展示物は秋に行った岡本太郎展と比べると圧倒的に少ない。しかも原画というものが存在しない。彼の作品のほとんどがシルクスクリーンで印刷されたものだからだ。それでも圧倒的に楽しい。なんなんだこのお気軽な楽しさは。作家の魂とか作家の生き様なんてのはここにはない。あの作品はどうだとかこの作品はどうだとかウンチクを述べたところで手応えはなく、まるでプラスチック製の容器に手を触れるような感覚。それこそが工業デザインということになるのだろう。平熱で面白がって平熱で会場を後にする楽しさが心地よい。
 
真の意味のオリジナリティなど存在しない。我々は何かしらの影響や先人の遺産をいじりまくることで別のものを生み出していく。何十年も前からそういうもんじゃんと堂々とやってのけたウォーホルはやっぱり天才。京都滞在中に描き残したと言われる、幾つかの模写を見ていると、何も無いところから何かを生み出すということではなく、そこに在るものから何かを生み出す人なんだなと改めて思った次第。いくら面倒くさいことを言おうとも、我々はそこに在るものを足して引く。それでいいのだろう。
 
ちなみに大リニューアルされた京都市美術館改め、京都市京セラ美術館へ初めて行きました。なんてことない入口から階段を昇ると大ホールの吹き抜けがあり、その向こうに東山の景色が覗く。思わず感嘆の声が出ました(笑)。

Born to the end

ポエトリー:

「Born to the end」

 

Born to the end and reality
Born to the end and not guilty
Born to the end and toddle about
Born to the end and walk around

Born alone and it was nice to be friends with you
Born alone and I wish I was with you
Born alone and I should have prayed to star
Since I was born , become a person like no other

 

最後まで生まれて / 現実
最後まで生まれて / 無実
最後まで生まれて / よちよち歩く
最後まで生まれて / あちこち歩く

ひとりで生まれて / 君と友達でよかった
ひとりで生まれて / あなたといればよかった
ひとりで生まれて / 星に祈ればよかった
生まれたときから / 誰にも似ていない人になる

 

2022年8月

Alpha Zulu / Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Alpha Zulu』(2022年)Phoenix
(アルファ・ズール/フェニックス)
 
 
前作からは5年ぶりだそうで、相変わらずインターバルは長いが、こうしてちゃんと新作を出してくれるのは嬉しい。今回はルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館の中に機材を持ち込み、レコーディングをしたとのこと。大衆音楽家にこういう場所を提供出来てしまうのは流石フランス。日本だとどうでしょうねぇ。
 
今回はシンセサイザーが割と耳に付くが、5枚目の『Bankrupt!』(2013年)ほどの派手さは無い。どっちかっていと4枚目『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2009年)に近いかも。こう書くと大ヒットした『Wolfgang ~』並みの完成度を期待してしまうかもしれないが、流石にあそこまでの爆発力は無いかな。でも先行シングルになった#2『Tonight』や#4『After Midnight』なんかは今の彼らのスタンスに当時のストロング・ポイントを加味したような、まるで『Wolfgang ~』ver.2.0のような出来栄え。ていうか前半、かなりの名曲ぞろい。
 
面白いのはヴァンパイア・ウィークエンドのエズラが参加している#2 『Tonight』で、エズラが歌っているところはまんまヴァンパイア・ウィークエンドなのに、トーマが歌っているところは思いっきりフェニックスっていう不思議。なんにしてもアルバム屈指の名曲やね。
 
というところで強力な前半に比べ後半は少し弱いかなとは思いました。『Wolfgang ~』の『Girlfriend』みたいに最後の方でもう1曲強力なポップ・ナンバーでひと押しあればなというところでしょうか。#10『Identical』もいいんだけどちょっと地味かな。
 
美術館に持ち込んだ機材の中には日本製の古いシンセサイザーもあったようで、#2『Tonight』や#4『AfterMidnight』のミュージック・ビデオは日本が舞台だし、相変わらずの日本びいきで嬉しい限り。なんじゃかんじゃ言いつつ、早速YouTubeに公開されたこのアルバムのお披露目ライブを見ていると俄然盛り上がってしまう。やっぱフェニックス、ええわ。

優しさ

ポエトリー:
 
「優しさ」
 
 
どしゃ降りの中
立ち直ろうとする君に
雨傘は頼りなく
今度ばかりは
足の先までびっしょりです 
 
それでも思いの外
体は軽く
今なら離れた駅まで
走ってゆけそうですが 
 
その前に
つまらぬ風邪など引かぬよう
濡れた体を温める
タオルを一枚くださいな 
 
今なら
とびきり元気なあの人に似た
頼りがない優しさを
受け入れられそうです
 
 
2022年10月

Quality Over Opinion / Louis Cole 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Quality Over Opinion』(2022年)Louis Cole 
(クオリティ・オーバー・オピニオン/ルイス・コール)
 
 
4年ぶりの新作は1時間10分、20曲の大作。才能あふれる彼らしく、今回も物凄い情報量が詰め込まれているようで、ネットで本作のレビューを検索すると事細かな記事を読むことが出来る。けれど彼の音楽の素晴らしいところはそうした専門家筋をうならせる一方で、そんなことを全く知らない我々一般リスナーが、単純にカッコエエと踊ってしまえる親しみやすさを備えていること。なので、1時間10分、計20曲であろうと大作感、というか敷居の高さはなし。身近なポップ音楽として気軽に楽しむことが出来る。
 
腕どうなってるんだ、という彼の超絶ドラムを堪能できる曲もあるし、メロウな優しい曲もある。得意のロマンティックなスローソングもあれば、エキセントリックな曲もある。20曲もあるということで、いろいろな曲が並べられているが、どっからどう聴いてもルイス・コールであるという記名性の強さ。それでいてグッタリ胃が持たれないのは、彼から染みついて離れないユーモアのセンス、というか心の余裕。リード・シングルとなった#9『I’m Tight』のミュージック・ビデオでのおふざけ感は最高だ。
 
ルイス・コールの場合、どうしてもテクニカルなところやサウンド面で語られがちだが、彼の真骨頂はメロディだと僕は思っている。いくら面白いサウンドでも曲がまずければこれだけ多くの人に支持されない。おかしみプラス大衆的な歌心が彼の音楽の肝だろう。その歌心を支えているのがボーカル力。実はルイス・コールは歌が上手い。声量で聴かせるタイプではないが、ファルセットだって全くピッチがぶれないし、高音になっても苦しさを感じさせないほどよい聴き心地はなかなかです。
 
そういえば来日するのかなと、今更ながら検索をかけてみましたが、このアルバムをフォローする来日公演はとっくにソールドアウトになってました。どれだけ凄いのか、一度、ライブを見てみたいものです。それにしても#5『Bitches』でのサム・ゲンデルとのマッチアップはカッコエエな。

星座

ポエトリー:
 
「星座」
 
 
冬の寒さにも
開けっ広げなあなたの魂
新しい星座のようなあなたの問いが
今宵の空に浮かんでいます 
 
窓ガラスは濡れていて
さしたる望みもないままに
したたる夜露が
今日の終わりを告げている 
 
明日になればひと巡り
朝日が昇ると言うけれど
巡らぬ日々もあるのです 
 
証拠にご覧、今宵の夜空
あなたの星座は居座って
いまにも名前が付きそうです
 
 
 
2022年10月

秋の気配

ポエトリー:
 
秋の気配」
 
 
 
好き勝手に物を言うあなたの言葉が
じゃがいも掘りのようにズケズケと現れては
そういやあれはなんだったっけと
言葉の夏が遠ざかる 
 
昨日食べた夕飯の
苦味や嫉み
洗いざらいお皿に並べて
ひとつひとつを吟味してみれば
それらはかつて済ませた言葉
あなたにもほら、聞き覚えあるでしょ 
 
あの時は確か
思い思いに言葉つらなり
テーブルの端からまっ逆さま
落ちた先で拾いもせず
 
心配しないで
なんて言わばハノウイタセリフ
分解して、
どうせのことなら5か国語ぐらいに刻んで
その余剰は箱にしまえば 
 
片付ける準備はできたんですよね
窓の外からそんな声が聞こえてきて
とにかくもう秋の気配
僕は財布の中がすっかり空っぽになったこと
今ごろになってようやく気付いた
 
 
2022年11月

漫画『BEASTERS』(ビースターズ)感想

ブック・レビュー:
 
『BEASTERS』(ビースターズ)板垣巴留 感想
 
 
友達から借りた漫画『Beasters』を読み終えた。途中まで気づかなかったけど、作者は女性。てことで女性キャラの描き方が最高でした。女性特有の硬軟両面がごく自然に同居している感じはなかなか男には描けないでしょう。チャンピオンという主に少年もしくは青年が読む媒体で、この複雑な女心が連載をされていたのかと思うと、読者諸氏はなかなかよい知見を得たのではないでしょうか。
 
あと男の狡さですよね。確かに女性から見たらこういう男っぽさってウザイだろうなっていう部分が見事に表現されていました。自分自身を省みてそう思います(笑)。
 
読む前はほのぼのとした作風かなと思っていたのですが、いやいやかなり重たくシリアスな展開。なのであまり入り込んで読んじゃうとシンドイので、間をあけて、免疫を付けながら読むのが私にはちょうどよかったです。
 
途中から、選ばれしビースターが腕力自慢(ていうか脚力自慢)なん?とか、バトル・シーン増えてきたんちゃう?とか、結局強いものが正義!みたいな流れに進みつつあって、勿論それはそういう方向へ一旦振っといて、だとは思ったんですけど、じゃあこの先どうなるんだというのはまったく想像がつかなかったです。最終的にはバトル漫画のように決着がついて万端解決めでたしめでたしということではなくて、一旦区切りは付いたけど、誰がいい悪いではなく、まだまだ現在進行形ですって終わり方になった。これがとても良かったです。
 
あと最後まで読んで感じたのは、大きなテーマとして多様性があったのかなと。更には多様性とも繋がってくるんだけど他者を通じて自分を知るっていうのかな。人は合わせ鏡のように、相手に映る己を見て自分を知っていくんだということですよね。プラス、様々な出会いの中で人に影響を受けながら、今ある自分ではない新たな自分を作っていくっていう。それは好きな人そうじゃない人、温度差は多岐にわたるんだけど、他者との関わり合いの中で人は自分を見出していくんだよっていう物語だったのかなという気はします。自分一人で分かった気になって、私はこうなんだからこれでいい!と思い込むのは気を付けようねって。
 
だからこそ物語はこれで終わりじゃなくて、まだまだ続くっていう余韻があるのだと思います。私たち自身も現在進行形ですしね。

The Car / Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Car』(2022年)Arctic Monkeys
(ザ・カー/アークティック・モンキーズ)
 
 
アークティックと言えば長らく1st、2ndのガレージ・ロックというイメージだったが、今ではすっかり5作目『AM』(2013年)で示した重心が低く艶っぽいロックバンド、というイメージが定着している。加えて6作目の『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年)からはロックバンドの可動域を更に広めようとする野心的な取り組みで、もはや好きとか嫌いとかではなくちゃんと見ておかないといけないバンドの一員になった。
 
とはいえ、じゃお前はちゃんと見ていたのかというといささか心許なく、僕としては世間的には大評判な1st、2ndや『AM』よりも3作目『Humbug』(2009年)、とりわけ4作目の『Suck It And See』(2011年)が一番好きだったりするひねくれもので、その観点から言うと今作は割と好き。要するに、アレックスの奏でる風変わりなメロディによる歌モノが好きなのです。
 
前作『Tranquility~』は変わった作品で、もうあれぐらい突き抜けちゃうと好み云々ではなく姿勢として格好いいのだけど、歌モノ好きとしては随分とメロディが遠のいたなぁと。それとやっぱバンド感うすっ!っていう部分が印象としてはある。ただ『Tranquility~』はそれを補うだけのラジカルな姿勢があったればこそなわけで、とはいえそれが2作続くとなると流石にシンドイ。というところでリリースされた今作はというと、メロディは戻ってきています。メロディは戻ってきたうえで、ラジカルさはそのままにバンド感も上昇、てのが割と好きな理由です。アルバム・タイトルが『The Car』って、なんやそれ!やけど。
 
全体的なイメージは映画「コッドファーザー」。宇宙から戻ってきたとはいえ、マフィア(笑)。庶民感はなし。映画音楽、というか映画のような音楽。ゴージャスでしかもアレックスはアルバムを重ねる毎に歌が上手くなっている。2010年前後の作品が好きな身としては#1『There’d Better Be A Mirrorball』とか#7『Big Ideas』みたいな美しい曲が好み。彼らはもう過去作の延長線上のアルバムを作るという考えはないのだろうけど、時折こうしたメロウさが顔を覗かせるのが嬉しい。
 
彼らはロック・バンドとしての新しい表現を求めている。このアルバムからもそれはひしひしと伝わってくる。だから聞き手が戸惑うのは当然と言えば当然。しかし今作には『Tranquility~』ほどの戸惑いはない。つまり彼らは進化しているということ。新しい表現、新しいサウンドを求める権化となったアークティック・モンキーズは’アークティックと言えば’をこれからも更新し続ける。しかし彼らがレディオヘッドみたいになるとは思わなかったな。
 
今時珍しい’男の世界’を行く’男のバンド’。こういうのもたまにはいいね。とはいえやっぱ「ゴッドファーザー」、マフィアやん。