Teatro D’Ira Vol. I / Maneskin 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Teatro D’Ira Vol. I』(2021)Maneskin
 
 
音楽ライターの沢田太陽さんが、2020年は映画『パラサイト』やBTSの活躍で韓国の年となったが、2021年は一躍スターダムにのし上がったマネスキンの登場やサッカーのユーロ2021での優勝もあり、イタリアの年になるかもと言っていた。と思ったら、先の東京オリンピックにおいて花形の100m走でまさかのイタリア選手が金メダル。僕も2021年はイタリアの年かもしれないと思い始めている。
 
思い始めているというか、イタリアの年になって欲しい、というかマネスキンの年になってほしい。やっぱBTSはポップ・グループだし、僕としてはバリバリのロック・バンドが頂点に立つのを見てみたい。
 
多くの人が腰を抜かしたという2021年ユーロビジョン・ソング・コンテストにおけるマネスキンのパフォーマンスは、これが二十歳そこそこの若者とは思えないほどの堂々たるもの。2000年代の衝撃デビューと言えばアークティック・モンキーズだが、今は貫禄たっぷりのアレックス・ターナーだって、デビュー当時は田舎の高校生丸出しだったから、マネスキンの、というかフロントマンのダミアーノのショーマンぶりはどう見ても破格。もう天下を獲ったかのような心意気は、ちっぽけなライブ・ハウスであろうが「俺はロックンロールスター」と大声で叫んでいた駆け出しのギャラガー兄弟みたいなもんかもしれない。
 
僕はマネスキンのようなハード・ロックをあんまり聞いたことないけど、そんな僕でも持っていかれるのだから、彼らはやっぱ特別なのだろう。ハード・ロックと言ってもそれは最新形で、こんな巻き舌でよく続くなぁと思わせる高速イタリア語ラップが彼らの曲の多くを占めていて、それが新鮮で面白くってシンプルにかっこいい。
 
しかもシャウトしまくる、今どき(笑)。ユーロビジョンでやった#1『ZITTI E BUONI』とか英語詞の#4『I WANNA BE YOUR SLAVE』とかサビの最後でシャウトするんですけど、こういうベタなシャウトって久しぶりに聞きました。彼らにはこういうちょっと笑うような過剰さ、あのきらびやかな衣装もそうだし、そういう面白さがあるんですけど、それが不思議とちっとも笑えないというか、むしろ滅茶苦茶かっこいいんですね。かっこよくて美しくて呆気に取られる。こういうのって今まではダサかっこいいっていう括りに入れられてしまっていたと思うんですけど、彼らはそこを余裕でぶち抜けた感じはありますね。本気でかっこいい。ここはデカいと思います。
 
でも昔はこういうアーティストが沢山いたんですね。デヴィッド・ボウイもそうだしプリンスもそうだし、彼らが引き合いに出されるクイーンだってそうですよね。でマネスキンの場合はそうした古き良きロック・スターへの回顧じゃなくて新しい部分、そこはやっぱり更新されていて、例えば大坂なおみが全米オープンでしたマスクのような新しい世代のこれまでとは全く違う感覚、価値観。
 
それをインディー・ロックでありがちな優し気にチル・アウトして表現するというのではなく、バリバリにハード・ロッキンして派手派手の衣装着て大股ひろげてシャウトするっていう新しさ。そこにさっき言った高速ラップだったりサウンド的なアップデート感、中学時代に組んだメンバー全員が奇跡の美男美女というなんじゃそれ感も含め、よくよく聴いているとこれ滅茶苦茶新しいじゃん、全く別ステージじゃん、ていうところへ持っていってしまえる規模のデカさがマネスキンにはあるような気がします。
 
ロックと言ってもいろいろあるから、こういう言い方すると語弊があるかもしれないけど、基本的にロック音楽は過剰さと性急さだと僕は思っている。その過剰さと性急さをこれでもかと体現するマネスキン。世のロック・ファンが色めき立つのも当然だ。

Blue Weekend / Wolf Alice 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Blue Weekend』(2021年)Wolf Alice
(ブルー・ウィークエンド/ウルフ・アリス)
 
 
前作で一気に英国ロックのトップランナーへ駆けあがったウルフ・アリスですけど、その『Visions of a Life』(2017年)がイケイケのアルバムだったのに対し、本作は引きの芸、自信がみなぎっている感じはしますね。
 
確かにキャッチーなシングル向けの曲は前作に譲るけど、アルバム全体の流れとしてはこちらの方が断然たおやか。余裕を感じます。このバンドの特徴として相変わらず縦横無尽にジャンルを行き交いますが、不思議と一つのトーンに収まっていて、ここでまた一歩前へ進んだというか、明らかに成長しているのを感じます。
 
その最たるものがエリー・ロウゼルのボーカルで、本作でも前作同様、時に荒々しく時に物静かに様々な表情を見せるけど、これだけ落差がありながらも聴く方としてはその浮き沈みを全く感じないというか、前作の力んだ感じはなくてごく自然に聴けてしまう。前作までが曲に合わせ意図してボーカルを変えていたのだとしたら、今回はもう意図せずとも曲に応じて自然と声音が変わっていくという、つまり自分から寄せるのではなく、その境目がなくなってきたということですね。
 
そうした印象に一役買っているのがファルセットで、今回はかなり多用されています。ていうか意識して聴くとこんなに多用してたんだって。ま、それぐらい気付かない感じで自然に溶け込んでます。だから全体としては、ああしてやろうとかこうしてやろうとかではなく、曲に向かっていく姿勢の中で自然とこうなっていったというか、そこは前作でやり遂げた成果というものにも繋がるのだろうけど、しゃかりきにならなくても向かうべきところへ集約されていくんだという、作品に対してより研ぎ澄まされていったという感じはしますね。僕が今回は引き芸と感じたのはそこのところかもしれない。
 
それにしてもこの独特の世界観は際立ってますね。演劇的というか、シネマティックというか、でもザ・フーとかクイーンのような大胆な演劇性というのではなくスムーズに漂うような感じで。だから1曲1曲がどうだというよりやはりアルバム全体として一つの作品という感じはあります。で、そのグッと引き締まった感、これはやっぱりバンドの力ですよね。ボーカルばかりに目が留まりがちですけど、バンドの下支え感は半端ないと思います。
 
ま、なんにしてもウルフ・アリスのキャリアにとって、今が初期のピークなんだと思います。それぐらいの絶好調感はあります。個人的には幽玄な#3『Lipstick  On The Glass』から言葉がさく裂する#4『Smile』の流れがたまらんですね。こうなると今のキレキレの状態での彼女たちのライブを見たいものです。

Drunk Tank Pink / Shame 洋楽レビュー

洋楽レビュー:
 
『Drunk Tank Pink』(2021年)Shame
(ドランク・タンク・ピンク/シェイム)
 
 
昨年あたりからUK、特にサウス・ロンドンが活況づいているとの記事が散見されるようになり、僕もどれどれとチェックはしていたのだけど、あまりピンとは来ず、ところが今年に入ってもその熱は収まるどころか更に大きなムーブメントになっていると。でその大きなトピックとして、シェイムなるバンドが2ndアルバムを出したと言う。それがもっぱら評判がいいので、じゃあと聴いてみたら、なんやめっちゃカッコエエやん。ということで、ここんとこ毎朝の通勤ではこれを聴いていました。朝から激しいなオレは(笑)。
 
ボーカルとツイン・ギターにベースとドラムの5人編成ですね。全員20才そこそこ、見た目も尖がっててイイ感じです。ことに激しいライブが売りだとのこと。なのでイケイケかと思いきや、音楽は全くもって丁寧。プロデュースがアークティック・モンキーズを手掛けたジェイムス・フォードだそうですけど、彼の手腕も大きいのかな。でもかと言って角が取れたということではなく、シェイム独特のやさぐれ感、ダークな感じはしっかり残っている。曲自体がそれを内包しているからか。
 
てことで一応ポスト・パンクということですが、メロディは人懐っこいです。曲調もイケイケ一辺倒では全然なく、中には転調もあったりトーンが変わったりと凝った作り。でも印象としてはシンプルに聴こえるっていう。ていうかギターがいちいちカッコイイ!それにどの曲もつかみのイントロが最高!躍動感のある#6『Snow Day』や#9『6/1』でのドラムとギターのコンビネーション、磁石のようにへばりつくベースはめちゃくちゃカッコイイぞ。このバンドを評するに色々あると思いますが、ま、単純にカッコイイ。そういうことだと思います。
 
あとボーカルの声がジョー・ストラマーに似てますね。あんまりそういう指摘はないみたいですが。だからさっき言った手の込んだアレンジを加えてくるという点ではクラッシュに近いかも。クラッシュみたいに今後アルバムを重ねるごとに新しい音楽的な実験をしていくんじゃないかなと。ということで、一つの道を究めていくというより、いろんなことを吸収して表現の可動域を広げていきたい、そういう傾向のバンドなのかもしれません。

W.L. / The Snuts 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『W.L.』(2021年)The Snuts
(W.L./ザ・スナッツ)
 
 
このところ英国初のロックが元気だ。長い間ヒップ・ホップやダンス・ミュージックに押されっぱなしだったが、若い才能が次々と登場している。当初はアイドルズやフォンテインズD.C、シェイムといったポスト・パンクと呼ばれる威勢のいいバンドが多かったが、今年に入り、長尺ジャム・バンドのブラック・カントリー・ニュー・ロードやポエトリー・リーディング主体のドライ・クリーニングといった風変わりなバンドまでもが英国アルバム・チャートのトップ10入りを果たしている。
 
長尺ジャム・バンドやポエトリー・リーディングがトップ10ヒットになるなんて流石ロックの国だなと感心するが、そことは真逆のポップ・サイドの真打と言えそうなのがザ・スナッツ。中学校で出会った仲間とバンドを組み、アークティック・モンキーズに影響を受けたというから、その背景もまさに正統派ロック・キッズだ。
 
アークティックへの憧れで言えば、#3『Juan Belmonte』はアルバム『AM』期のアークティックだし、続く#4『All Your Friends』はまんま初期のそれ。けれどアルバム全体を聴いていると、アークティックだけではない、00年代、10年代ロック音楽の影響をそこかしこに感じることが出来る。
 
まず思い浮かべたのは、彼らと同じスコットランド出身のザ・ビュー。シャウト気味に歌う時の声がカイル・ファルコナーそっくりやね。このところ名前を聞かなくなったが、ザ・ビューも勢い重視と思いきや音楽的素養確かな連中で、しかもとっつきやすいメロディーが最大の持ち味という点では割と近いかなと思います。
 
あと、#10『Don’t Forget It (Punk)』とか#11『Coffee & Cigarettes』の職人的なソングライティングには、これは英国じゃないけど、フォスター・ザ・ピープルに通じるところがあって、そう思うと声までマーク・フォスターに似ている気がしてくる。マーク・フォスターはデビュー前にCM音楽なんかを手掛けていたというから、それに近い職人気質だってザ・スナッツはあるのかもしれない。
 
あとやっぱりロック・バンドと言えども2020年代でもあるわけだから、当然のことながら4ピースだけでドカンということじゃなく、ちゃんと電子的なアレンジも施されていて、コーラスもそうだけど耳を凝らせばいろんなフレーズが飛び込んで来る。彼らを代表するロック・チューンになりそうな#6『Glasgow』だって単純にドカンじゃないもんな。この辺はそれこそフォスター・ザ・ピープルもプロデュースしたことのあるトニー・ホッファーの手腕も大きいのかもしれないけど、そうは言っても、やっぱり彼らにその素養があるのだと思います。あ、勿論4ピースでドカンも僕は好きです。
 
いい曲を沢山書けて、それを料理する技術とセンスも持っている。今後これがどこまで続くか分からないが、多分彼らの推進力は初期衝動だけではなさそうだ。あちこちに気の利いたギター・フレーズを忍ばせたり、アルバム最後をしっかりロック・バラード#13『Sing For Your Supper』で締めるとこなんざ、まさに王道ギター・ロック・アルバムと言っていいだろう。
 

The Shadow I Remember / Cloud Nothings 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Shadow I Remember』(2021)Cloud Nothings
(ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/クラウド・ナッシングス)
 
 
前作『The Black Hole Understands』(2020年)をYoutubeでタダで聴いたので、今回はちゃんとCDを買いました(笑)。日本盤にはボーナストラックが付いていて、#2『The Spirit Of』と#6『Open Rain』のデモトラックです。この2曲のデモはリモートで作られた前作とニュアンスが似ていて、ボーカルが大人しめ。前作を気に入っていた僕としては最初、本編よりも軽めのこっちの方が良かったりもしたんですけど、何回も聴いてるとやっぱ本編の荒々しい感じが好きになりました。そりゃ当然か。それにしても、、、日本盤をせっかく買ったのに対訳付いてないやんけ~。
 
キャリア20年の8枚目だそうです。名前は知ってたんですけど、ちゃんと聴いたのは前作が初めてでして、まぁビックリするぐらいキャッチーですね。基本荒々しいパンクなんですけど、曲がことのほかチャーミング。このギャップが彼らの魅力でしょうか。う~ん、クセになる。
 
僕は直近の2作しか聴いていないのでよく分かりませんが、多分今までもそうだったんでしょうね。だからその時々でサウンド的な変遷はあるのだろうけど、やっぱ売りはこの愛らしいメロディですよね。しかも今回は特に敢えて短い3分の中に長尺の曲のような変化をつけようと取り組んだみたいですから、尚更。ここがやっぱり彼らのストロング・ポイントなんだと思います。
 
それにしても、キャリア20年でこれだけ瑞々しいメロディを書け続けるのはちょっと異質な才能だ。ボーカルないとこのメロディも抜群で、しかも未だに早い曲ばっか。デビュー間もないみたいなナチュラルなざらつき。とうに初期衝動とは違うところで作曲をしているのだろうから、なにか秘訣があるのかもしれない。この技術、もっと注目されてもいいかも。
 
ソングライターのディラン・バルディなる人物、パッと見は垢ぬけない髯モジャ男だが、その中身は未だに瑞々しさを保ち続けているのか。やはり凄いギャップだ。

When You See Yourself / Kings of Leon 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『When You See Yourself』(2021年)Kings of Leon
(ホエン・ユー・シー・ユアセルフ/キングス・オブ・レオン)
 
 
前作の『Walls』が2016年だったので、5年ぶりということになるが、全くそうは感じない。キングス・オブ・レオンは大体いつもそんな感じで、忘れた頃にあぁそういえばという形で新作がリリースされる。それでも出たら出たで年間ベストにしそうになるほど気に入ってしまうから不思議。でも時間が立ってみるとそうでもなかったり。今回も久しぶり、で気に入ってほぼ毎日聴いています。そのくせ待ち焦がれ感0。僕にとってキングス・オブ・レオンとはそういうバンドである。
 
そういうバンドは他にもある。ステレオフォニックス。なんだかんだ言ってこの2組は新作が出たら必ずチェックしてしまう。どちらもどっちかっていうと地味なバンドだ。でも間違いない。盤石だ。毎回特に目新しいことはないが、あの声とあのバンドの演奏はそれ以外の何物でもない。どちらも泥臭い男4人組。今時こんなロック・バンドは珍しい。とか言いながら、キングス・オブ・レオン、前作に続き全英1位。
 
キングス・オブ・レオンのアルバムには毎回、キラー・チューンが2、3曲入ってる。今回で言えば、#5『A Wave』とか#6『Golden Restless Age』なんかがそうだ。中でも#10『Echoing』は白眉。彼らの曲って演奏もそうだけど、馴染みがいい。もしかしたらどっかで聴いたことある?っていう。良い曲にはあらかじめノスタルジーが宿っていると言うのを聞いたことがあるがまさしくそれ。つまりこちらが求めているサウンドを期待通り奏でてくれるということ。そうか、#10『Echoing』が一番好きなのはそういうのがいっぱい詰まっているからか。
 
勿論基本的によい曲を書くのだろう。演奏も上手いのだろう。でもあからさまじゃない。なんとなくいい。琴線を突いてくる。あの声だし、抜群のギター・フレーズだし、勿論ベース・ラインも畳みかけるドラムも。でも多分それらはビッグ・マックじゃない。フィレオフィッシュぐらい。ただ久しぶりに食うとやっぱオレ一番好きなのフィレオフィッシュかもって。そして時間が経つとそれも忘れちゃう。ビッグ・マック派手だしね。
 
僕は自分で思ってる以上にキングス・オブ・レオン好きかもしれない。そこで『Walls』(2016年)、『Mechanical Bull』(2013年)と遡って聴いてみた。うん、やっぱり好きだ。これ、絶対ライブ楽しいで。
 
キングス・オブ・レオンとステレオフォニックス。ともに待ち焦がれ感0。でも新作が出たら嬉しくなる。恐らく僕が頭に描くロック・バンドとはこういうバンドなんだろう。

Evermore / Taylor Swift 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Evermore』(2020年)Taylor Swift
(エヴァーモア/テイラー・スウィフト)
 
 
 
『フォークロア』に続くサプライズ第2弾。『フォークロア』とほぼ同じメンツによる続編です。なんにしても『フォークロア』全17曲、『エヴァーモア』全17曲、短い期間にこれだけの曲を作り上げる旺盛な創造力が凄まじい。しかも全部ちゃんとシングル切れるぐらいの完成度なんだもんなぁ。今更ながら、テイラー・スウィフト恐るべし。
 
つまり彼女は純然たるソングライターだということで、デビューは育った環境のせいかカントリーという船出だったけど、作品を重ねるごとに新しいサウンドに取り組んで、ていうか彼女ぐらい巨大になると自分の意向だけでは済まないだろうから、レーベルとのすり合わせもあるだろうし、ただ今となって思うのは、その中でサウンド云々というのは特別なこだわりというのは無かったんじゃないかな。
 
もちろんそんな簡単は話ではないだろうけど、彼女にはやっぱりこの圧倒的なソングライティングがある。ソングライター・チームと組んで何人かで、っていうことも時にはあるだろうけどそこは彼女が絶対的な主導権を取る、譲れない線としてあったのはそっちだったのかなとは思います。
 
だから『フォークロア』と『エヴァーモア』の2部作というのは、もちろんアーロン・デスナーを中心にしたザ・ナショナル周辺とのコラボレーションというのが大きなトピックではあるけれど、後年に彼女のキャリアを眺めた時に、ここはテイラー・スウィフトのソングライティングの爆発期というべき見方もできるんじゃないかとは思います。しかもどんどん深化していくという。
 
つまり『フォークロア』は初めに聴いた時はその新鮮さに驚いた。けど、やっぱりそれまでの彼女のソングライティングの流れではあったと思うんです。『エヴァーモア』と比べると明らかにキャッチーだし、ストリングスでの盛り上げであったり、今聴くとやっぱりマーケットを賑わせてきたテイラーの作品だなという感じはある。それが『エヴァーモア』になると純化していく、キャッチー云々とは違うところでソングライティングしている、ウケるウケないという雑念とは関係のないところで曲が出来てあがったんじゃないかなという気はします。
 
そして『フォークロア』はやっぱりアーロン・デスナーとタッグを組んだ、ボン・イヴェールを招いた、という個々が組み合わさったという印象がある。けれど『エヴァーモア』に至っては混ぜ合わさっている、コラボレーションというより一体化している、もっと言うとテイラーが完全に取り込んだ、テイラー印のサウンドになっているということだと思うんです。だから『フォークロア』でグラミー賞は獲りましたけど、実際のこのコラボレーションでの達成は『エヴァーモア』にあると僕は思います。だからどっちかと言われると僕はこっちが好きですね。
 
このアルバムは通勤時にSpotifyでよく聴いていたんですけど、僕はCDも買っていたので後からCDで聴くとですね、家のしょぼいコンポですけど、全然CDの方がいいんです。やっぱり端末だと聴こえない音がちゃんと聞こえるし、空気感というか空気の泡だとかがちゃんと感じられる。サウンドがサウンドなので、端末を通してでしか聴いていない人がいたら、是非CDでも聴いてもらいたい。このアルバムがまた違う形で見えてくると思います。

Truth or Consequences / Yumi Zouma 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
Truth or Consequences(2020年)Yumi Zouma
(トゥルース・オア・コンシクエンス/ユミ・ゾウマ)
 
 
オシャレやねぇ。こういうの好きです。オレにはオシャレ感ないけど(笑)。こういうのドリーム・ポップ言うらしいです。上手いこと言うてるようでよう分からん言い回しですけど、あれですよ、囁き系の女性ボーカルにシティ・ポップなメロディー、それが浮遊感あるサウンドに包まれるっていう。んん~、それもよう分からん説明やな(笑)。ま、オシャレってことで。
 
ただまぁこの手のサウンドは好きな人多いですから、それこそ実際に取り組んでらっしゃるアマチュア・バンドもたくさんいると思うんです、なんか出来そう感もあるしね。ただ、これだけの完成度はなかなか出来るもんじゃございません。特にメロディですね。世界最強のオシャレ・バンド、フェニックスを思い起こすようなメロディもいくつかあって、そこで先ずがっしりと掴まれますね。このメロディを持ってたら浮遊感だろうが、対極なハードロッキンだろうがなんでもイケルで~。
 
加えて耳当たりがすごく良い。韻なんですけど、その踏み方というか流し方が抜群ですね。あと言葉の切り方ですか、例えば#3『Southwark』のサビですけど、「Oh and I am imperfectly yours」って繰り返すんですけどここを「Oh and I am imper」と単語の途中で一回切って「fectly yours」って続けるとこなんてオシャレそのもの。つーか「Oh and I am」って言い回しもオシャレやないかい。ここに一拍ずれたようなコーラスがこれまた囁きボイスで被さってくるっていう、どんだけオシャレやねん!こーゆーのが全編流れてますから、もう盤石ですね。
 
ところでこのバンド、昔タワレコで手書きポップに惹かれて視聴した記憶がありまして、それは多分デビュー作だったと思うんですけど、聴いていいなとは思ったんです。ただそれ以上のものはなかった。要するにまだ雰囲気に勝るものがなかったんですね。でも名前は記憶に残った。そして2020年の年間ベスト、なんの媒体だったか忘れたけどそこそこよい順位で載っていた。あぁ、あのバンドじゃないかと。で聴いてみたら、すごく良かった。バンドとしての音像が完成してるじゃないですか。こうなりゃ強い、しばらくは良い作品を出し続けるんじゃないかと思います。
 
製作の方ですが、連中はニュージーランド出身ですが、リモートで作っています。それもコロナだからというんじゃなくて、メンバーがロンドンとかニューヨークとか別々に暮らしているから前々からそういうスタイルだったと。2020年はリモートで作られた作品が数多くありましたけど、彼女たちはとっくにリモートでやり込んでいてそういうスキルもちゃんと磨いてきているわけです。だからか分からないですけど、聴いててやっぱちゃんとバンド感がある。個々ではなくバンドとしての音が飛び込んでくる。そういう仕組みのそういうバンドで、なんか雰囲気も独特な感じはあります。
 
しかしまぁ、フェニックスとかThe1975とかオシャレ・バンドめっちゃ好きやなオレ。最近じゃThe Japanese House とかもそおやし。そのオシャレ感、オレにも分けてくれや~。

Shiver / Jónsi 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Shiver』(2020年)Jónsi
(シヴァー/ヨンシー)
 
 
シガー・ロスのフロント・マン、ヨンシーさんのソロ第2作。本体のシガー・ロスはほとんど聴いたことがないんですけど、2010年のソロ第1作『GO』は気に入ってよく聴いた覚えがあるので、今回はどんな感じだろうとすごく興味を惹かれました。
 
シガー・ロスのこともヨンシーさんのこともよく存じ上げないので、最近の活動状況を今一つ分かっていませんが、このアルバムを聴くと乗りに乗ってるというより、今現在は過渡期なんじゃないかなと思いました。
 
もちろん、ソングライティングに長けた方なので、曲は悪くないし、何しろあの声を持ってらっしゃいますから、それっぽさはあるんですけど、なんかガシッとしたイメージが固まってこないなというのはあります。あくまで僕の印象ですが。
 
アルバム屈指のポップ・チューンがRobinて方との共作?というのもなんかねぇ。しかもまんまパッション・ピットやん!ていう(笑)。やっぱあの『GO』が大地と鳴動するようなオーガニックなサウンドで独自の世界観を築いていましたから、どうしても比較しちゃうというか。今作はあの景色が動き出すようなサウンドが見いだせないというのはあります。って繰り返しますが、あくまで僕の感想です。
 
てことでサウンドは『GO』とは対照的に機械的です。て書くと誤解されそうですが、メタリックな質感ということですね。この独特なサウンドを手掛けたのはA.G.Cookという方のようです。ヨンシーさんの神秘的な声とメタリックなサウンドの融合というのは一見相反するように見えますが、逆に相性いいです。うん、ナイス・アイデア。
 
ただやっぱりなんかガツンというのがね、じゃあそっからどう飛躍していくんだ、というのが僕の感性では掴みそこねてます(笑)。メタリックな感じなんだけど、賛美歌のような、祈りのようなヨンシーさんの教会音楽ではあると思うんです。だから聴き方をそっちに据えればよいのかもしれませんが、なんか僕の中でどっちかに偏れないという宙ぶらりんな感じが続いちゃってる感があります。
 
ていうか今回Spotifyでしか聴いてないので、あんまり偉そうなこと言えないか(笑)。やっぱリリックをちゃんと読まんとな。

Songs / Adrianne Lenker 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Songs』(2020年)Adrianne Lenker
(ソングス/エイドリアン・レンカー)
 
 
『U.F.O.F.』(2019年)と『Two Hands』(2019年)の2作連続リリースで大成功を収めたビッグ・シーフは、さぁこれからワールド・ツアーだという時期に世界はパンデミックに覆われ(来日予定もあったのに!)、全ての予定はキャンセルされてしまう。この思いもかけぬ空白にエイドリアン・レンカーは、休養を兼ねマサチューセッツの山中にあるワンルーム・キャビンで暮らすことにした。
 
そこで生まれたのが本作『Songs』だ。創作目的ではなかったとはいえ、図らずもそれまでの生活とは一変した環境に身を置くことで新しい音楽が生まれた。根っからの創作者なのだと言わざるを得ない。それはまるで画家が自らの画風を仕切りなおすために住み慣れた場所から遠くへ越してしまうようでもある。
 
タイトルはそっけなく『Songs』。サウンドはレンカーの声と自身のアコースティックギターのみである。にも関わらずこの厚みはなんだ。バンドとしての表現と変わらないじゃないか、と思わせるぐらいの奥行を感じさせてしまう。微細に揺れるレンカーの声はそれだけで深海深く沈思、小鳥のさえずりと共に上昇し、木洩れ日の中、空に輪を描く。
 
そう、このアルバムには小鳥のさえずりや弦がこすれる音もそのまま収録されている。しかしそれは’ただの効果音’ではない。それ自体が意味を成す生き物として捉えられている。レンカーの声、小鳥のさえずり、弦のこすれ、はたまた外の景色、空気、小川、木々。そうしたものが全て同列に扱われ、ひとつの生命として扱われている。自身の声すら自身から切り離し、周りの生命と同じにしてしまうなんて。
 
すなわちそれはレンカーの声は鳥のさえずりであり、木々であり、空気であるということ。それは単なるアンビエント、’環境音’を意味しない。切なる願い、沈思する心、エイドリアン・レンカーという個人の声なのだ。その二律背反する意味性。私たちは全てと同じであり、一方で個であるということ。その普遍をレンカーは歌ってみせた。
 
レンカーは『Songs』とは別に『Instrumentlas』という演奏のみのアルバムも同時にリリースしている。こちらはアコースティックギターによるものとチャイムのような音が印象的な計2曲、40分弱の作品だ。いずれのシンプル極まりないタイトルは独立した’そこにあるもの’、という意味に受け取ったが、それもあながち間違っていないように思う。
 
弾き語りということで、レンカーのソングライティングが際立つ作品でもある。とりわけ美しい#3『anything』と#6『Heavy Focus』が僕は好きだ。エイドリアン・レンカーは僕の中でも特別な存在になりつつある。ちなみにゴーギャンのような色使いのアルバム・ジャケットはレンカーの祖母による水彩画だそうです。