Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』(2006) Arctic Monkeys
(ホワットエバー・ピープル・セイ・アイ・アム ザット・ホワット・アイム・ノット/アークティック・モンキーズ)

僕の印象ではもっとイケイケな感じかと思っていた。勿論、代表的な#1や#2なんてのは思いっ切りアガルんだけど、クークスやザ・ヴューの1stを聴いた後だとアークティックの1stはより落ち着いて聴こえる。前述の2組のバンドはどっちかっていうとガレージ色が強く、ガチャガチャしててギアが入ったら止まらなくなる感じ。それでいてUKロックの香りがフッとしてくる。一方のアークティックはヘビーでよりダーク、夜のイメージだ。同じシンプルなバンド構成だけど、こっちは得体の知れなさというか、無国籍な感じがする。アークティックはこの後、ずっとヘビーなサウンドを指向してゆくんだけど、こうして聴いてみると黒っぽい要素もあって最初からその萌芽があったんだなあ。

意味なんてどうでもいいよ、というクークスやザ・ヴューと比べてもちょっと奥歯にものが挟まった感じというかシニカルな感じはする。そういう意味でもアレックス・ターナーの立ち位置というのはやっぱ時代を映しているというか、00年代のバンドだなあと。今や世代を代表する巨大なバンドになった訳だけど、その辺が喧しい近所の腕の立つ職人といった風のクークスやザ・ヴューとは決定的に違うとこなのかもしれない。それになんかこう書いててもアークティックの方は真面目な文章になってしまうから不思議。

あとアークティックを記名づけているのがリリック。直近のアルバムも凄かったが、この1stは溢れんばかりの言葉数。アレックスはきっと詩人としてもやっていけそうだ。

キャリアを重ねたバンドが原点回帰ってのはよくあるが、結局初期衝動は1stだけのもの。ザ・ヴューにしてもザ・クークスにしてもアークティックにしても今もいい音楽を作っているが、スピード感で言えばやはり1枚目。アクセル踏んだら止まれないスピード感が欲しければ、この00年代UKギター・ロック御三家だ!

 

1. The View from the Afternoon
2. I Bet You Look Good on the Dancefloor
3. Fake Tales of San Francisco
4. Dancing Shoes
5. You Probably Couldn’t See for the Lights But You Were Staring Straight at Me
6. Still Take You Home
7. Riot Van
8. Red Light Indicates Doors are Secured
9. Mardy Bum
10. Perhaps Vampires is a Bit Strong But…
11. When the Sun Goes Down
12. From the Ritz to the Rubble
13. A Certain Romance

何と言っても冒頭2曲の破壊力。お尻に火が付いてるみたいだ。

Inside In/Inside Out The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Inside In/Inside Out』(2006) The Kooks
(インサイド・イン インサイド・アウト/ザ・クークス)

久しぶりに聴いたザ・ヴューのデビュー作がとてもよかったので、今度はクークスのデビュー・アルバムを聴き直してみた。やっぱこっちも曲がいい。

ザ・ヴューが2007年デビューで、クークスそしてアークティック・モンキーズが2006年のデビュー。彼らの1stを改めて聴いてみるとこの00年代UKギター・ロック御三家(←僕がそう言っているだけです)は、最初から確かなソングライティングという基盤があったんだなというのが確認できる。やっぱりそれは複雑で技巧を効かせたメロディに頼るのではなく、2~3分でダッ始まってダッと終わる、しかもただ勢いだけではなくちゃんと緩急が効いてて起承転結がしっかりとある。単純なギター・ロックというだけじゃなく色んな要素が垣間見えるというのはやっぱり背景に音楽的な基礎体力が備わっているということなんだろう。1曲1曲は短いけどホントよく出来てるんだよなぁ。

でクークスの1st。まあ単純にかっこいい。ザ・ヴューと一緒で意味とか理屈に無頓着なところがまたいいんだよな。勿論これだけの曲を構成できてしまうんだから知性もふんだんにあるんだろうけど最優先されるのは感性。特にしゃくりあげるように歌うルーク・プリチャードのボーカルは歌うっていうよりカンに任せて転がってゆく感じ。ノッてくるとどうにも止まらない感がいい。

バンドも前のめりで突っ込んでくるロック・チューンはグイグイ来るし、アコースティックな落ち着いた曲は心地いいフレーズを奏でてる。このバンドのいいとこは確かな腕があるのにあくまでもボーカルの引き立て役に徹しているところ。これだけアッパーな曲を揃えているのに知性を感じさせるのはそういう部分があるからかもしれない。

 

1. Seaside
2. See The World
3. Sofa Song
4. Eddie’s Gun
5. Ooh La
6. You Don’t Love Me
7. She Moves In Her Own Way
8. Matchbox
9. Naive
10. I Want You
11. If Only
12. Jackie Big Tits

同年デビューのアークティックより売れたというこのアルバム。
それも納得の1枚。とにかくカッコイイ!

Hats off to the Bsusker/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Hats off to the Buskers』(2007) The View
(ハッツ・オフ・トゥ・ザ・バスカーズ/ザ・ヴュー)

久しぶりにザ・ヴューのデビュー作を聴いたら、すっげー良かった。彼らの持ち味であるどう転んでも間違いないソングライティング力がグイグイ飛び込んでくる。今もいい曲を書いてるけど、純粋なソングライティングの力という意味ではこのデビュー作だろう。走り抜けるようなロック・チューンもいいし、テンポを落としたのもちゃんと聴かせる。落ち着きのないガチャガチャした連中かと思いきや、ちゃんと整理整頓されてて、イケイケなくせに自分勝手でないところがこのバンドの最大の魅力だろう。

聴いてて思うのは、ザ・フーとかクラッシュといったUKロックの伝統が自然と体の中にあるということ。そこを踏まえての今の若い世代が奏でる元気のいいギター・ロックという感じがとてもいい雰囲気だ。2015年のアルバムでは新たなニュアンスに取り組んでたけど、やっぱザ・ヴューといえばこっち。

勿論そんなことはないんだろうけど、遊び半分で適当に作ったらこんなん出来ましたみたいなノリがやっぱいい。そのぐらいのノリでもこれぐらいは作れちゃう力がやっぱり彼らにはあるんだろうし、今もそっちの方がいいんじゃないか。長くやってるとロックのくせに頭でっかちになりがちだけど、やっぱこれでしょ。でまたこういうのって誰にも出来るってもんじゃないし、それが今だに出来ちゃうのがザ・ヴューってことだろう。

音楽性とか意味性とか別にどっちだっていいよ、っていう姿勢は今もそうなんだろうけど、この外連味の無さというのは1stならでは。普通に歌っててもついついシャウトしちゃうカイル・ファルコナーのボーカルが最高だ。駆け出しロック・バンドの無敵感、存分に出とります。「ちょっと兄ちゃん、景気いいのやってよ」、「ほいきたっ!」って感じ。

 

1. Comin’ Down
2. Superstar Tradesman
3. Same Jeans
4. Don’t Tell Me
5. Skag Trendy
6. The Don
7. Face For The Radio
8. Wasted Little DJ’s
9. Gran’s For Tea
10. Dance Into The Night
11. Claudia
12. Streetlights
13. Wasteland
14. Typical Time

しんみりとした#7からアクセル全開で#8へ繋がるところが最高!

22,A Million/Bon Iver 感想レビュー

洋楽レビュー:

『22,A Million』(2016) Bon Iver
(22、ア・ミリオン/ボン・イヴェール)

ボン・イヴェールとしては久々の新作。前作がグラミー獲っちゃったもんだから、本人もびっくりして構えてしまったとこはあるかもしれないけど、こうやって新作を聴いてるとちゃんとボン・イヴェールとしての切り口を更新しちゃってんだから、やっぱ大した才能だ。

ボン・イヴェールことジャスティン・バーノンはもともと色んなユニットを持ってて、アウトプットに応じてとっかえひっかえしてるみたい。それぞれの特徴を僕はよく知らないが、ボン・イヴェールとして出す場合は割と個人的な側面が強い時ではないだろうか。そういう意味じゃ前作までは自然ばっかの片田舎で一人キャンバスに向かうっていうイメージだったのが、今回は仲間を沢山呼んで騒ぎ散らかした後の余韻が欲しかったんですみたいな感じ。カッコよく言やあ、祝祭の感覚、祭りの後みたいな。

ただ今回も自然豊かな情景が背後にあるかっていうと、そうでもなく随分と息苦しくなってきているのも確か。ボーカルにエフェクトがかけられたり、ノイズがバシバシかかってたりとストレートな表現とはほど遠い。なんでそんなにフィルター欠けるのかは本人にしか知る由もないが、ただやっぱりそこは作者の現実認識というか、今の世、実際に何かを発してもそうなってゆかざるを得ない現実世界があるからかもしれず、逆に言えば我々はもうそうすることでしか自由に表現することが出来ない体になっているということなのかもしれない。リアルタイムに生の声を届けることが出来る時代になったけど、逆にリアリティは減じているのではないかという。それを力づくで伝えようとした結果がこれ。鼓膜に直接傷を付けていく感じが面白い。しかし混沌としたサウンドになってはいても本人はさほど不自由に感じていないだろうし、むしろ今の気分としてはこれが自然な形なのかもしれない。この自由なのか不自由なのか分からない感じはまるでSF。

ボンイヴェールの音楽は絵画的な要素があって、音楽を聴くという感覚も勿論あるけど、観賞しているという意識もかなりの部分ある。今回も絵画は絵画なんだけど、より筆のタッチは激しく、色使いも鮮やかになり、勿論細部まで手は行き届いているが、全体として面で押す感じが強い。細かいニュアンスを見て欲しいというより、とにかく聴いてくれ、って感じ。そういう意味では前作が内にこもる狂気をはらんでいたのに対し、今回は目線がずっと外に向かっている気がする。音楽的にもエレクトリカルな要素が強いし、そこにホーンが絡んだりするので(これがまたいいんだな)、結構目線があちこち行って聴いてて結構楽しい。こういう感じは前作には無かったな。#4みたいなシリアスなやつの後にポッとフォーキーな#5が来るみたいな表情の豊かさが全編通してあって、随分聴きやすくなったのではないか。

まあ聴きやすいといってもこういう音楽だから人によるんだろうけど、ただ凡そポップ・ミュージックの決まり事なんか始めから頭にないような、作者が描いた風景がそのまま出てきたような音楽を聴くことは僕にとってもいい体験。馴染みのあるフォーマットのメロディがないのは、逆に言えばジャスティン・バーノンに明確なメロディがあるからだろう。

どっちにしてもこれまた凄い作品だ。色んな顔を持っているので、ボン・イヴェールとしての作品がまたあるのかは分からないけど、次も期待しないで待っておこう。慣れるまでは大変だが、そうやってまで聴く価値のある作品。

 

1. 22 Over Soon
2. 10 Death Breast
3. 715 Creeks
4. 33 “God”
5. 29 #Strafford Apts
6. 666 Cross
7. 21 Moon Water
8. 8 Circle
9. 45
10. 1000000 Million

Ti Amo/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ti Amo』(2017)Phoenix
(ティ・アモ/フェニックス)

6枚目、2013年の『Bankrupt!』から4年ぶりのアルバムが届いた。そう、フェニックスのアルバムは届いたという言い方がしっくりくる。メイン・ストリートから少し離れたところで、自分たちのペースで音楽を奏でる。いい曲が幾つかできたから皆に紹介するよ。いつもそんな印象だ。でもしっかりとした芯があって、哲学と言うのかな、そういうものが揺るぎない。今回は前作とは一転、穏やかな音楽。しかし彼らの意志がこれほどはっきりと示されたアルバムは過去になかったのではないか。

タイトルはイタリア語で「愛している」。なんでも今回のアルバムは‘イタリアの夏のディスコ’というイメージで作られたそうだ。僕はイタリアに行ったことはないけど、頭に中に浮かんだのは、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『ライフ・イズ・ビューティフル』とかのあの景色。夏の南イタリアの風景だ。そういえば最近のインタビューで面白いことを言っていた。「例えばマカロニ・ウェスタン。あれはイタリア人の解釈で撮られたウエスタン映画。そこに面白さがある。今回のアルバムで言えば僕らのヴィジョンを通したイタリア。そこには僕らを通過した歪みがある。」。これは面白い指摘だと思う。でも表現というものはすべからくそういうものかもしれないな。

彼らはベルサイユ宮殿の傍で育った根っからのパリジャン。けれどいつも英語で歌う。しかし今回は珍しくフランス語の歌詞がふんだんに出てくるし、タイトルどおりイタリア語の歌詞だってある。ということで、彼らの音楽は元々ヨーロッパ的だけど、今回は特にヨーロッパ的だ。これは意図的にそうしたというより、自然とそうなったという方が的を得ているのではないか。彼らの皮膚感覚がそうさせたのではないかなと思う。要するに今ヨーロッパは大変な時期を迎えていて、その影は彼らの日常にも落ちているということ。しかし彼らは殊更そのことについて歌ったりはしない。むしろここで歌うのは半径数キロ、生活圏の物語だ。自由を愛し、お喋りを愛し、そして愛を語るのやめない人々のちょっとした物語。そういう身近な事を歌っている。彼らが今、一番大事にしているのはそういうことなんだと思う。

そういう意味ではサウンドも穏やかだ。前作で目に付いた派手なサウンドは随分と控えめ。初期の頃の、それこそ2枚目の『Alphabetical』のような隙間を活かした音作りがなされている。派手なシンセの音が遠ざかった分、ちょっとしたギター・フレーズがよく聴こえて心地よい。ひと言で言うととても優雅。言葉もロマンティックだけど、サウンドもロマンティック。穏やかだけど物凄くエモーショナルでとてもいい感じだ。

エモーショナルと言えば、最後の曲なんてたまらない。いつまでもこういう素直な表現が出来るのは素晴らしいと思う。僕たちにもイノセンスを信じ続ける強さが必要だ。

1. “J-Boy” J-ボーイ
2. “Ti Amo” ティ・アーモ
3. “Tuttifrutti” トゥッティフルッティ
4. “Fior di Latte” フィオール・ディ・ラッテ
5. “Lovelife” ラヴライフ
6. “Goodbye Soleil” グッバイ・ソレイユ
7. “Fleur de Lys” フルール・ド・リス
8. “Role Model” ロール・モデル
9. “Via Veneto” ヴィア・ヴェネト
10. “Telefono” テレーフォノ

映像が喚起されていい感じ。
彼らの優しさと強さが入り混じったいいアルバムだ。
僕のお気に入りは#4。美しくて幸せな気分になる。

Be Here Now/Oasis 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Be Here Now 』(1997)Oasis
(ビィ・ヒア・ナウ/オアシス)

オアシスがデビューしたのは1994年で、全世界で2,300枚以上売れたと言われる『モーニング・グローリー』は1995年。で、この『ビィ・ヒア・ナウ』が1997年つうことで僕はどんぴしゃの世代なんだけど、全然聴いてなかったんだよなあ。僕は当時、1960年代とか70年代とかの古い音楽ばっか聴いてて、リアルタイムで流れてるやつには全然興味なくって、だから当時のブリット・ポップ・ブームは全くの蚊帳の外。今思えば随分勿体ないことをしたなんて思うんだけど、仮に当時の僕がこの「僕らの音楽」全開のオアシスを聴いてたら一体どうだったんだろうかとも思う。どっちにしても素通りしてたのかもしんないけど、でも今こうやって聴いてるとオアシスは例外、こりゃ夢中にならざるをえんでしょ、ってな特別なパワーを感じてしまう。

この『ビィ・ヒア・ナウ』が出た当時はオアシス絶頂期の頃で、そりゃ勿論リリース時は熱狂的に受入られたんだけど、時間が経つにつれそれまでのシンプルなロックンロールからかけ離れた重厚なサウンドにあちこちで賛否両論があったみたい。当のノエル自身も後からあんまりのような発言をしちゃったりということで、このアルバムは幾分残念な作品として知られている。

とは言っても僕からすりゃ全然カッコよくて全然残念なアルバムではなくて、だいぶ後の最後のアルバムから比べれば、そりゃあもう本気度が全然違うし、曲もいいし、リアムもガンガン歌ってるし、流石にちょっとそない繰り返さんでもええやろとか、そないアウトロ引っ張らんでもええやろとか、要するに世間の評判通りの「どんなけ長いねんっ!」てな突っ込みは入れ放題なんだけど、この力入りまくりの巨大なエネルギーに比べたらそんなことは些細なことで、普通に考えりゃこりゃめっちゃかっこええアルバムなのだ。

なんでも1作目から3作目までの曲はデビュー前にほぼ書き上げていたらしく、要するにノエルがそっからこれは1st用、これは2nd用てな具合に配分してたということで、そう考えりゃこのアルバムのやたら大げさでギター被せまくりのサウンドは、ノエルにしてみりゃ想定内ということかもしれない。ただ勢い余ってやり過ぎちゃった感はあったかもしれないが、1stからの異様な上昇カーブを考えたら、こうならざるを得んでしょってことで、この調子に乗り具合もオアシスらしくていいんじゃないだろか。

となると徐々に下降線を辿ってくこの後のアルバムもそれはそれで興味深いんだけど、今はただリアムのやったらんかいボーカルに酔いしれておこう。脂乗りまくりのリアムの声はやたらかっこいいぞ。2016年に出たリマスターのデラックス盤はノエルによるデモ音源(全曲!)が売りのようで、これはこれで完成してるやん、ていう程の出来らしいが、俺はそんなものいらない。リアムの声がなけりゃただのいい曲。

1. D’You Know What I Mean?
2. My Big Mouth
3. Magic Pie
4. Stand By Me
5. I Hope, I Think, I Know
6. The Girl In The Dirty Shirt
7. Fade In-Out
8. Don’t Go Away
9. Be Here Now
10. All Around The World
11. It’s Gettin’ Better (Man!!)
12. All Around The World (Reprise)

#1に#4に#5に#8に#10に#11に、、、
なんだかんだ言って名曲目白押しっ!

In Rainbows/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:
『In Rainbows』 (2007) Radiohead
(イン・レインボウズ/レディオヘッド)
 
レディオヘッドを聴いている時の感覚は他では得られない。楽しいわけでもないし、癒されるわけでもない。ただ聴いていると気分がいい。きっと彼らの音楽には押しつけがましい主義主張がないからだろう。いや、主義主張がないわけじゃない。押しつけがましくないというだけ。
 
珍しくメロディ主体の曲が多い。かといって歌ものと言えるかどうか。もうボーカルはボーカルでなくていいのだろう。ただの楽器か。明確な意思か。どちらにしても声と楽器が共鳴していることは間違いない。曲ひとつひとつについても同じだ。恐ろしく完成度の高い曲はそれひとつで完結している。緩やかに結び付けられているだけだ。
 
今回の曲は統一感がある。同じ美意識に則っている。詞はシンプルなものが多い。後半に向けてスッと畳み掛けていく展開の曲が多い。突き詰めてそうなったのか、自然とそうなったのか。この時の彼らの美意識とはつまりこんな感じだったのか。バッキンガム宮殿の衛兵交代式とか、日本で言う横綱の土俵入りとかそんなような様式美。レディオヘッドにもこんな時期があるんだな。押しつけがましくないぶん余計うっとりしてしまう。ただそれを鵜呑みにしていいのかどうか。
 
レディオヘッドを聴いていると気分がいいが、このアルバムは特に気分がいい。彼らの様式美が僕にはしっくりくる。メフィストの甘いメロディだ。
 
 
 1. 15 ステップ
☆2. ボディスナッチャーズ
 3. ヌード
 4. ウィアード・フィッシズ/アルペッジ
 5. オール・アイ・ニード
 6. ファウスト・アープ
☆7. レコナー
 8. ハウス・オブ・カーズ
★9. ジグソー・フォーリング・イントゥ・プレイス
 10. ヴィデオテープ

After Laughter/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『After Laughter』 (2017)  Paramore
(アフター・ラフター/パラモア)
 
 
パラモア、4年ぶり、5枚目のアルバム。前作が全米1位になって、シングルがグラミー獲ってってことで順風満帆かと思いきや、なんか大変なことが起きてたみたい。なんと金銭が絡むメンバーの脱退劇があったようで、ボーカルでソングライターのヘイリーさん、かつてないほど落ち込んだご様子。歌詞を読んでると、ネガティブな言葉が出てくる出てくる。PV観てても渋いエモ姉さんだったのが、メンバー揃ってパステルカラーの衣装着ちゃってるし、もうヤケクソかえ?なによりなんじゃこのサウンドは、全然エモくないやん!
 
とうことで驚くことなかれ、今回はシンセ・ポップ感満載です。いや~ん、やめてぇ~!全然エモくな~い、ドラムがドゥルンドゥルン言ってな~い、とお嘆きのあなた。確かにパラモアの魅力はエモ・パンクと称されるハードでタイトな演奏にヘイリーの大谷翔平ばりの剛速球ボーカル。それがテイラー・スウィフトみたいなシンセ・ポップになっちゃってるんだからがっくりするのもそりゃあ分かりますよ。私だって最初はそおだったんですから。しかし心配することなかれ。何度もよ~く聴いてると、なかなかいいじゃないですか。勝気なヘイリー姉さんのエモい歌詞とフレンドリーなメロディ、パラモアの真骨頂は結局そこなんです!
 
先ず1曲目、タイトルからして『ハード・タイムス』ですから、こりゃ今回の自己紹介みたいなもんですな。しかしヘイリーさん、ハード・タイムスだからと言ってへこたれません。早速2曲目『ローズ・カラード・ボーイ』で出てきますねぇ、エモい歌詞が。
 
  ~ 私は笑いたくない時には笑わない ~
 
これですよあーた。戦う女はそうこなくっちゃ。ちなみにRose-Colored Boyってのは楽天的な男って意味らしいです。こっちが落ち込んでる時にあんたみたいな楽天家には付き合ってらんねぇってことなんですが、それでもちょっとうらやましいなんて気持ちも垣間見えたりして。付け加えて言うとヘイリーさん、それでも頑張りますなんていたいけな言葉は吐きません。落ち込む時は徹底的に落ち込む。だから笑いたくない時は笑わねぇ。そんな感じですかね。バカ姉さんです(笑)
 
3曲目『トールド・ユー・ソー』のフックはこれ。
 
  ~ 「だから言ったのに」って言いたくない。だけどみんな「だから言ったのに」って言いたがる ~
 
これですよ、これ。これが畳み掛けるドラムと印象的なギター・リフに乗って何度も叩き込まれるんだからシビレルぜっ。ちなみに原文は、『I hate to say I told you so / They love to say they told me』。I hate ってのがいいね。こらあ名言やわ。あー、オレもオカンに「あんた、だから言うたやん」ってよう言われたなぁ。ちょっと違うか…。
 
続く4曲目は『フォーギヴネス』。最後のコーラス、『許すことと忘れることは違う』ってのはいいフレーズやね。男はドキッとしちゃいます。5曲目は『フェイク・ハッピー』。結局みんな作り物の幸せを楽しんでいるだけでしょ、っていうどんだけダウナーな曲やねん!って感じですが、ここでヘイリーさんは宣言します。
 
  ~ 私は自分の口より大きく口紅を引く ~
 
どうです、これ?私は男だからよく分かりませんが、それでもなんかよく分かるような気がします。ちょっと私、このフレーズにグッときちゃいましたね。でこの曲、中盤に パラッ、パラッ、パッ、パッっていうコーラスが入るんですが、これが起承転結の転に当たる感じでまたいいんです。
 
続いて6曲目。これもちょっと切ないです。『夢を持ってるならしっかりグリップして / 誰かに持ってかれちゃダメ / 夢見ることは自由だけど、失うものがどれだけあるか私には分からなかった』。フックでそんなようなことが歌われます。26才の女子がそんなこと歌うんですね。切ないです。でもとても美しい曲です。
 
さあここで来ますよ、極上のポップ・チューンが。パラモアの魅力は色々あるんですが、最大のものはやっぱキャッチーなメロディ。そういう意味では7曲目の『プール』がこのアルバム随一ではないでしょうか。サビの背後で鳴るリフがまた水中にいるみたいでいい感じ。歌詞はこんな感じです。『私は今、水の中 / 肺には空気が無い / けれどしっかり目を開いている / 私はあきらめている / あなたはつかまえることのできない波 / けど私は生きてる限り何度でも飛び込むわ』。
 
次いで8曲目『グラッジズ』。皆さん、お待たせしました、ドラムがドゥルンドゥルン言ってますよ!ここに来てこれまでのパラモアを彷彿させるタイトでパンクな曲だ。サビでは、『we just pick up, pick up and start again / ‘Cause we can’t keep holding on to grudges』とリリックが跳ねてます。サビ前に一旦ブレイクして、フッー!と合いの手が入るところがまた最高!個人的にはこの6~8曲目辺りがこのアルバムのハイライトかな。
 
そして真ん中で絡めとられたと歌う9曲目と変則的なメロディの10曲目と続き、11曲目はゲスト・ボーカルによるリーディング。ここは正直かったるいかな。そしてラストにグッとくるいい曲で終わります。『テル・ミー・ハウ』。息も絶え絶え、『あなたをどう感じたらいいの?』ってここでも切ないです。最後に前向きになるってのはお決まりかもしれませんが、そういう事もなく混沌としたままアウトロのリーディングへ。切ないトラックに消え入りそうな声で『私は霧の中で踊っている』と囁くリーディング。ヘイリーさん、最後まで落ち込みっぱなし。ホント、正直な方です。
 
ただまあこんだけ暗い歌詞にもかかわらず、うっとおしくならないのは僕が英語を解さないからというわけでもなさそうで、やっぱそこはヘイリーの声の力強さ、彼女も含めたバンド全体にポジティブな意思の力があるからではないかなと。この最初は面食らうカラフルなサウンドでさえ彼らのへこたれない意志表示だとすれば、それはハナから否定できるものではなく、かえって彼らの真骨頂、前へグイグイ突き進む持ち前のエモーショナルなロック魂ではないでしょうか。
 
とにかく、サウンドに色んな変遷があるにせよ、彼らには力強いメロディと聴き手に最短距離で届くヘイリーの声があればそれでいい。確かに今までとは毛色が違うけど、今回のアルバムもいいですぜダンナ。エモくない、って聞かないのは勿体ないっ!
 
 
 
 1. Hard Times
  2. Rose-Colored Boy
  3. Told You So
  4. Forgiveness
  5. Fake Happy
☆6. 26
★7. Pool
☆8. Grudges
  9. Caught In The Middle
 10. Idle Worship
 11. No Friend

High Noon/Arkells 感想レビュー

洋楽レビュー:

『High Noon』(2014)Arkells
(ハイ・ヌーン/アーケルズ)

丸ビルのタワレコで「店長のイチオシ、もろ80’Sでデュランデュラン」、みたいなことが書いてあったから興味本位で聴いてみたら、あまりのどストレートぶりに思わず買ってしまった。デュランデュランがどういう感じかは知らないけど、今時逆にスゴイなってぐらいの暑苦しい80年代ロックの登場だ。

なにからどう語ればいいのか分からないというか、語るべきものがないというか、デビット・ボウイを聴いた後だからか余計にそう思ってしまう。最初聴いた時はキラーズみたいかとも思ったんだけど、あの大げさなサウンドをセンス良くまとめてしまうスタイリッシュさはなく、いやあここでキラーズをスタイリッシュって言ってしまうのもおかしな話だけど、このバンドを聴いてたらそう言っちゃうしかない。この大陸的な大らかさはカナダのバンドだからか。いやいや彼らがこういう人たちなんでしょ。

まあでもこういう人たちは他にもわんさかいるんだろうし、何故彼らが極東のCDショップで知らず知らずのうちにお薦めされてるかっていうと、そりゃもう曲が抜群いいから。あと演奏も手堅いし。#4なんてホント良く出来てて、なんで全編これぐらい丁寧に作らせないんだろう、ってプロデューサーを確認してみたらなんとトニー・ホッファー。それこそフェニックスとかファスター・ザ・ピープルといったセンスの塊みたいな人たちとやってきた人なのにあら不思議。こいつらはこれしかねえってことなのか。

はっきり言って評論家からは相手にされないだろうけど、まあいいんじゃないか。結局なんだかんだ言って僕もこういうのは嫌いじゃないし、単純に楽しいやん。笑っちゃうほどベタな展開で暑苦しいボーカルなんだけどみんなもこういうの好きでしょ、ってことで許してしまおう。あー、でもホントに語ることがない(笑)。

1. Fake Money
2. Come To Light
3. Cynical Bastards
4. 11:11
5. Never Thought That This Would Happen
6. Dirty Blonde
7. What Are You Holding On To?
8. Hey Kids!
9. Leather Jacket
10. Crawling Through The Window
11. Systematic

お薦めは#4、#3、#6の順かな。
#5もいい曲なんだけど曲間のシャウトがダサくて最高。
#8とか#11とかもホント振り切っちゃってる(笑)

★/David Bowie 感想レビュー

洋楽レビュー:

『★』(2016)David Bowie
(ブラック・スター/デビッド・ボウイ)

あまりにもキャリアが膨大過ぎて、もう自分とは関係ないやっていうアーティストって結構いる。デビッド・ボウイもその一人で、一昨年かその前の年だったか、久しぶりに新作が出た、しかもサプライズでってことで話題になったんだけど、僕とすりゃふ~んて感じであまり気にも留めなかった。そこへ昨年の訃報。それとほぼ同時にニュー・アルバムが出た。そんなことでこれまたビッグ・ニュースになって、そんでまた下駄を履かせたわけではないんだろうけど、年末に各紙で発表される2016年のベスト・アルバムにこのアルバムが結構食い込んでて、そんなにいいんだったらいっちょ聴いてみるかって気になった。そこへ運よく知り合いにデビッド・ボウイ好きがいたのでその人から借りたという次第。ということでデビッド・ボウイ初心者による『★』のレビューです。

デビッド・ボウイといえば美しいというイメージが刷り込まれているので、美しいメロディを期待していた節があったけど、なんだこの抑揚のないメロディは。デビッド・ボウイの呻き声みたいじゃないか。と少し面食らった面も無きにしも非ず。途中からは考えをリセットし、これはもうリーディングだな、と。ジャズ(これがジャズかどうかは分からないが、世間でそう言うのだからそうなのだろう)に乗せて詩を朗読するってのはよくある話だし、そうやって聴けば違和感はない。それにこのアルバムはデビッド・ボウイの才能がスパークしているというより、彼に元々備わっている美意識とか先進性とか哲学といったものがそれはそこにあるとして、そこにどう肉付けをしていくか、いかに2016年現在にフックさせていくか、というところが主題のようにも見えてきた。だからスパークしているのはボウイそのものというより、その後ろで鳴っているサウンドというべき。つまりボウイ自身の居住まいは決して変わっていない。ありのままというか、ありのままですがそれが何か?っていうことだろう。

そのありのままがこんなけったいな音楽になるのだから、要するにありのままが相当イッちゃてるってこと。加えていうと、そのありのままは1970年であろうと2016年であろうと生のままでは人に見せたものではない。味を調えたり、意匠を纏う必要がある。これこそがデビッド・ボウイということか。

1. ★
儀式めいた雰囲気。序盤のアタック音が効いてる。転調してからの「あの者が死んだ日の出来事だった」から始まる詩が秀逸。少し長いかなって気はするど、これはロック以外の何物でもない。

2. ティズ・ア・ピティ・シー・ワズ・ア・ホア
今作で特徴的なドラムが印象的。単調だが一気にグワッと行ってしまうところはいい。

3. ラザルス
トラックが素晴らしい。ホーンが効いてる。こういう渇いたスローソングは好きだ。

4. スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)
バンドかイカす。これはヒップホップだな。クールなリーディングかラップがいいと思うけど、ボウイの歌は正直かったるい。

5. ガール・ラヴズ・ミー
この手の変化球ってありがちだけど個人的にはあまり好きではない。退屈。でも聴き手を完全に無視してるところは好きかな。この曲辺りからベースが耳に残り始める。

6. ダラー・デイズ
これはもうイントロからして美しいでしょう。ここに来てアコースティックギターが聴こえてくるところなんかズルイ。この曲と最後の曲でメロディが戻ってくるところは確信犯か。なんだかんだ言ってこの曲が一番好きかな(笑)。サビのベースリフには当然意味がある。

7. アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ
そのままの流れで最後の曲。ベースリフは早くなってる。「私は全てを与えることはできない」とか言いながら、サウンドはオープン・ザ・ロードだ。

このアルバムは僕の手に負えない。てかよく分からない。でも何度も聴いている。要するに分かればいいってもんじゃないってこと。アートとはいつもそういうものだ。ピカソの絵は理解できるからいいわけではない。人々はそのよく分からなさに惹かれるのである。69才にもなってこんなスリリングな作品を作れるのだから、やはり音楽に年は関係ない。

最初はしんどいなと思ったけど、1度目よりも2度目。2度目よりも3度目という風にだんだんよくなってくる。音楽には時にこういうことがあるから面白い。