Revelator/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Revelator』(2011)Tadeschi Trucks Band
(レヴェレイター/テデスキ・トラックス・バンド)

 

移動している時に聴きたい音楽というものがあって、それも通勤電車とかそういう場合ではなく、一人でどこかへ出かける時、或いは出張か何かの帰り、少し旅に近い感覚が入り混じった時に聴きたくなる音楽というものがある。そうだな、やはり車ではなく電車がいい。それも長距離を移動する特急列車、または新幹線でもいいかもしれない。例えばトンネルを抜けたら、普段は見慣れぬ景色がパーッと広がって、普段は感じえないような心持ちが動き出す。すると偶然耳に付けていたイヤホンからそんな感情を包み込むいい音楽が流れてきて、気持ちが揺らいでしまう。けれど少し懐かしくもあって胸が熱くなったりして。誰しもそんな経験があるかもしれない。

ギタリスト、デレク・トラックスと彼のパートナーであるスーザン・テデスキを中心とした大編成バンド。ここに集まった面々は超一流のミュージシャンではあるけれども、このアルバムを一段素晴らしいものにしているのは、彼らの音楽に対する深い愛情であり、音楽仲間たち相互のリスペクト、すなわちミュージシャン・シップという一言に尽きるのではないだろうか。

デレク・トラックス・バンドは以前から気にはなっていたバンドのひとつ。でも、どうもしゃがれ声のボーカルに馴染めなかったんだけど、今回は、そのマイク・マティソンがバッキング・ボーカルに回り、スーザン・テデスキがメインを努めている。個人的に最高というわけではないが、まあいいんじゃないだろうか。合う合わないというよりむしろ、信頼関係がそれを凌駕してしまっているというべきかも。

本作のハイライトはなんと言っても前述のマイクとデレクによる共作(バックに回ったが、マイクはなかなかええ仕事しよる)、M3の『ミッドナイト・イン・ハーレム』。デレクのスライド・ギターと、こちらもデレク・トラックス・バンドから参加のキーボード・プレイヤー、コフィ・バーブリジュによるハモンド・オルガンとの掛け合いは言葉では言い尽くせない美しさ。ただ事実を淡々と述べる詩と、抑制したスーザンのボーカル、そして素晴らしい演奏が言葉以上に雄弁に語りかけてくる。僕はアメリカの大地も知らないし、英語も解さないが、胸が熱くなり涙がこぼれてしまった。

音楽と共にある人生。アルバムを聞きながら、ここにいるミュージシャンたちを思い浮かべるとき、僕にはふとそんな言葉がよぎった。勿論、いいことばかりではないだろうが、音楽なしでは生きてゆけない彼らの音楽は、1+1が5にも6にもなるまさにバンド。そんな彼らに音楽の女神がそっと微笑んだのかもしれない。

僕たちは何処から来て何処へ向かうのか。今手にしたこの場所は最善なのかもしれないけれど、僕たちの故郷はもっと他の場所にあるのではないのか。移動するときに聴きたくなる音楽というのは、そうした人が本来持ちうるノマド的な感覚を補完する音楽なのかもしれない。

 

1. Come See About Me
2. Don’t Let Me Slide
3. Midnight in Harlem
4. Bound for Glory
5. Simple Things
6. Until You Remember
7. Ball and Chain
8. These Walls
9. Learn How to Love
10.Shrimp and Grits (Interlude)
11.Love Has Something Else to Say
12.Shelter

 (日本盤ボーナストラック)
13.Easy Way Out

1 Hopeful RD./Vintage Trouble 感想レビュー

洋楽レビュー:

『1 Hopeful RD.』(2015)Vintage Trouble
(華麗なるトラブル/ヴィンテージ・トラブル)

 

いや~、ジェダイやね。ボーカルのタイ・テイラーさん、フォース出まくり。なんか名前からしてそんな感じやん。ルーク・スカイウォーカー、オビワン・ケノービ、タイ・テイラー、ほら、違和感ないでしょ。マントとか似合いそーやし。すんませんっ、昨日テレビで『スター・ウォーズ フォースの覚醒』見たもんで。

米国人にとって、R&Bとかブルースなんていうのは演歌みたいなもんだというのを誰かが言ってた。いいとか悪いとかではなく単に琴線に触れてしまうんだと。ヴィンテージ・トラブルはロック・バンドだけど、どっちかって言うとそっち系なんじゃないだろうか。ということを踏まえれば、ジャズとかR&B専門のブルーノート・レコードからリリースされた初のロック・バンドというのも別に不思議じゃない。

はっきり言って何ら新しいとこはない。前作の1stと比べてもバンドとしての塊がドッと来る感じやグルーヴ感は更に引き締まった気はするけど、相変わらず景気のいい曲があって、渋いスロー・ソングがあってっていうスタイルは変わりようがない。ただそうは言っても、こういうのは聴き手の耳も肥えてるわけだから、生半可なレベルじゃ満足してもらえないわけでそれ相当の練度が求められてくる。そこをじゃあそれ以上のものをって見せてくれるから嬉しくなってしまうわけで、脳というより体に訴えてくるんだろうな。みんなよく知ってるんだろうけど、じゃあすぐに出来るかっていうとなかなかそうはいかない奥の深さ。そこがほら『スター・ウォーズ』、やっぱフォースなんすよ(強引やな)。

だってまあ凄いんすもん、タイ・テイラーさんのシャウト。#8『ストライク・ユア・ライト』なんかたまらんえ。スロー・ソングも抜群だし、こんだけ幅広く歌えるボーカリストはそうはいない。でもってのっけからライト・セーバー振り回してブワォンブワォン言っちゃってるし、あ、スライド・ギターね。ドラム、ベース、ギター、ボーカルっていうシンプルな編成でこの腹から来るグルーヴ。皆さん、ストーンズばっか崇めてないでこっちを聴きなさい!あかん、オレのダーク・サイド出てもうた…。

前作は3日で録音したそうで、今回も1週間かそこらでの録音だそうだ。もともとライブでやってきた曲ばかりだからそりゃそんなもんかもしれないけど、やっぱそこはこのバンドの地力だろう。ライブがあって、新しい曲が溜まってきたら録音する。そんな昔ながらのスタイルがいかにも様になる。目新しいところは何もないが、このどうということのないソウル・ロックを10年代に何の違和感もなく馴染ませちゃった点にこのバンドの偉大さがある。僕も当然大好きだ。

ルックスもヴィンテージ感たっぷりの手練れ4人衆(アルバム・ジャケット、めっちゃ渋いッス!)。音楽界にもジェダイはいるのです。さあ皆さん、フォースの音楽面へようこそ。「May the Force be with you(フォースと共にあれ)…」 ←これが言いたかってん…。

 

1. Run Like the River
2. From My Arms
3. Doin’ What You Were Doin’
4. Angel City, California
5. Shows What You Know
6. My Heart Won’t Fall Again
7. Another Man’s Words
8. Strike Your Light (featuring Kamilah Marshall)
9. Before the Tear Drops
10.If You Loved Me
11.Another Baby
12.Soul Serenity

(日本盤ボーナス・トラック)
13.Get It
14.Honey Dew

日本盤にはDVDが付属。2014年のサマーソニックです!
こん時ゃ凄かった~。僕も大阪で観ましたよ!

Wonderful Wonderful/The Killers 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Wonderful Wonderful』(2017)The Killers
(ワンダフル・ワンダフル/ザ・キラーズ)

 

キラーズの新作が出ました。前作から5年。5年ですよあーた。ブランドンのソロがあったにせよ結構空きましたねぇ~。それでも全英全米共にチャート№1になっちゃうんですから大したもんです。ていうかファンの皆さん、よう待ってたねぇ。あんたはエライッ!

しかし今回は1位も納得の出来栄え。今までのキラーズと新しいキラーズの両方がいい塩梅に混ざ合わさって、5年ぶりとはいえ昔の名前でやってます、ではなくちゃんとバージョン・アップしているところが嬉しいです。そんでもってアルバムに先駆けて公開されたのが新機軸サウンドの『ザ・マン』とキラーズ・サウンド全開の『ラン・フォー・カバー』の2曲っていう礼儀正しさ。相変わらずラスベガス出身のくせに真面目な人たちですなぁ。

その『ザ・マン』。もろ80年代イケイケのディスコ・ナンバーでコーラスはABA。ブランドンさん、ファルセット連発でフィーバーしとります。あと、オープニングの『ワンダフル・ワンダフル』とか9曲目の『ザ・コーリング』といったひねった曲も今までと趣が違っていいアクセント。歌詞の方もかつてなくシリアスになっております。あと所々にゴスペル風味が掛け合わさっていて、キラーズが元々持っている壮大さに厳かな雰囲気が加わったというか。例えば静かな#7『サム・カインド・ラブ』は今までに無かったアプローチ。コールド・プレイかと思いました。

逆にド定番なのが#5『ラン・フォー・カバー』。これはやられます。疾走感たっぷりのもろキラーズ・ナンバーで、ここに来てこの瑞々しさはたまりまへん。#2『ラット』、#4『ライフ・トゥ・カム』といったスロー・ナンバーも安定感ばっちりのキラーズ節。特にニューウェイブ感満載の#8『アウト・オブ・マイ・マインド』は思わず「よっ、待ってました!」と言いたくなるみんな大好き80年代風シンセ・サウンド。ていうかやっぱええ曲書きよんなぁ。

まぁここまではっきりとした目の配りようも嬉しいと言えば嬉しいんだけど、そこまで生真面目にやらんでも、という気がしないでもない。そういえばブランドンはインタビューで「前のアルバムから気付いたらもうこんなに経ってる。そろそろキラーズとしてのアルバムを作らないと!」みたいな感じで始まったと話している。そーなんだよなぁ、すごくいいアルバムなんだけどなんか座りの悪い感じがするのはそこなんだよなぁ。しかもちゃんと4人で作ったみたいだけど、アルバム・ジャケットに写ってるの3人や~ん。ツアーに出んのんボーカルのブランドンとドラムのロニーだけらしいや~ん。

ということでなんか頑張ってキラーズとしてのアルバムを作った感がしないでもなくて、やっぱその一枚岩というかバンドとしてガッと来る感じに私は物足りなさを感じてしまうのです。いやいーんです、いーアルバムなんですよ。でもなんか自由度が狭まってきたような気もするので、次はファンの事は気にせずに思いっ切り自分たちのやりたいようにやって欲しいっす!

曲良しボーカル良しサウンド良し。キラーズ・サウンド全開でホントに最高!でもやっぱちょっともどかしい、そんなアルバムでございます!

 

1. Wonderful Wonderful
2. The Man
3. Rut
4. Life to Come
5. Run For Cover
6. Tyson vs. Douglas
7. Some Kind of Love
8. Out of My Mind
9. The Calling
10. Have All The Songs Been Written?

(ボーナス・トラック)
11. Money on Straight
12. The Man (Jacques Lu Cont Remix)
13. The Man (Duke Dumont Remix)

Star Wars/wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Star Wars』(2015)wilco
(スター・ウォーズ/ウィルコ)

 

ウィルコ、通算10枚目のスタジオ・アルバム。前作から4年ぶりということでデビュー以来コンスタントにアルバムをリリースしてきたウィルコにしては随分と長いインターバル。前作の大ボリューム作からは一転してコンパクトなアルバムだけど、これが結構キャッチー。ん?キャッチーか?と疑わしげな方もいらっしゃると思いますが、いやいや、何度も聴いてると確かに派手さは無いですが粒ぞろいの良曲ばかり。僕はウィルコ史上でもかなりポップなアルバムだと思います。

と言っても世間一般で言うポップとはちょっと異なるのがウィルコならではというか。それを端的に表すのがアルバム・タイトルで、ちょうど2015年というと映画『スター・ウォーズ』の新作が久しぶりに公開されるって時期で随分と盛り上がってたんだけど、そこに『スター・ウォーズ』ってアルバム・タイトルを持ってくるこのセンス。冗談か本気かよく分からないこの感じがまたウィルコらしくていいというか、そのくせアルバム・ジャケットがどっかのお金持ちの家に飾ってあるような猫の絵っていう訳の分からなさ(笑)。この人を食ったようなポップネスこそがこのアルバムのポップネスですと言うと、なんとなく分かってもらえるだろうか。

ウィルコが一躍有名になったのは2002年の『ヤンキ-・ホテル・フォックストロット』というアルバムでノイズの混じった実験的なサウンドだったんだけど、今回は割とそれに近いというか、歪んだギターやサイケデリアなどトリッキーなサウンドが展開されている。前作、前々作の(ウィルコにしては)割とオーソドックスなサウンドのアルバムとは違い、変態的なサウンドが復活しているので、早速1曲目からニヤニヤしているウィルコのファンもいるんじゃないでしょうか。

その1曲目『EKG』はネルス・クラインを筆頭にした変則的なギター・サウンドがリードするインストルメンタル。そこに呼応するベースとドラムのリズム隊のうねり具合がまた最高です。3曲目の『ランダム・ネーム・ジェネレイター』でもアップテンポな曲をギターが引っ張っていくし、8曲目の『ウェア・ドゥ・アイ・ビギン』のようにギターとボーカルのみで進んでいく曲もあったりするので、このアルバムはひょっとしてギター・アルバムと言ってもいいのかもしれない。ウィルコはボーカルのジェフ・トゥイーディを含めたギタリスト3人体制だからギター・バンドといえばそうかもしれないけど、ここまでギターがドライブしていくってのも珍しいかも。穏やかなジェフの歌心に鬼才ネルスのおかしなギターが割り込んでくる違和感はいつもながら最高です。そういやレディオヘッドもギタリスト3人で、ジョニー・グリーンウッドっていうぶっ飛んだギタリストがいる。出てくるものは全然違うけど、何か急に近しいものを感じてきたぞ。

今回のアルバムは#5『ユー・サテライト』を除いて全て2、3分で終わる。全体としてサッと始まりサッと終わる印象だ。#3『ランダム・ネーム・ジェネレイター』や#7『ピクルド・ジンジャー』のようなスピード感もカッコイイけど、今回の山場は後半に続くスローな曲群。ジェフのぼそっとした声が穏やかなメロディと上手く溶け合ってて綺麗だ。バンドの演奏がそこに寄せてこないからこそのちょっとしたぎこちなさがかえって心地いい。やっぱ不思議なバンドだ。

 

1. EKG
2. More…
3. Random Name Generator
4. The Joke Explained
5. You Satellite
6. Taste the Ceiling
7. Pickled Ginger
8. Where Do I Begin
9. Cold Slope
10.King Of You
11.Magnetized

Wrecking Ball/Bruce Springsteen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Wrecking Ball』(2012)Bruce Springsteen
(レッキング・ボール/ブルース・スプリングスティーン)

 

僕は十代の頃からブルース・スプリングスティーンの音楽を聴いている。以来、色々なジャンルの音楽を聴いているがここに来てやっぱ思う。スプリングスティーンの音楽はやっぱすげえ。

詩、メロディ、サウンド、ボーカル、どれをとっても超一流である。一時期、若干のスランプがあったものの、ほぼ40年間ずっとメイン・ストリームで活躍しているのは、彼が労働者階級の代弁者だとか、米国の良心だからなんていう生ぬるい感情からではない。間違いなく、他を圧倒する無尽蔵の音楽的才能が備わっているからだ。

本作においても、その音楽的才能は如何なく発揮されており、十八番の大編成バンド・サウンドからゴスペル、民族音楽、はたしてラップまで(こちらは本人ではないが)、多岐に渡る音楽性を見せており、しかもニクイことに、どこをどう切ってもスプリングスティーンとしか言いようがないサウンドとなっているのだ。

この人の場合、常に政治への異議申し立てだとか社会の闇を切り取るだとか、妙にメッセージ色の強い言われ方をするが、そんなことは芸術家と呼ばれる人たちなら当たり前で、言いたいことがあるから何かを創るわけで、スプリングスティーンにしても政治の歌だけじゃなく、実に他愛のないラブ・ソングだってたくさんある。米国の世相を反映してなんて言われても、芸術家なんだから時代と関わってくるのは当たり前なんじゃないかな。それに昔から、『ネブラスカ』みたいのを作ったり、スタイルとしてはなんら変わっちゃいないと思うのだけど、どうもこのアルバムのレビューを見ていると、怒りだとかなんとかそんな形容がやたら目に付き、世相とやたら結び付けられるので、僕なんかは、ちょっと待ってよ、こんな素晴らしいサウンドがあるのに!なんて思ってしまう。

もう純粋に音楽として素晴らしくて、長くやってるのに回顧趣味なんて一切ない一級品のロック音楽。『ウィ・シャル・オーバーカム』で取り組んだアイリッシュ・サウンドが新たな風合いを加えており、実に表情豊かなサウンドに仕上がっている。また、今回はソロ名義ということでE・ストリート・バンドだけではなく非常に多くのミュージシャンが参加しているのも特徴で、そのこともこのアルバムの印象に幅を持たせている一因だろう。

で、やっぱりスプリングスティーンのボーカル。これが実に素晴らしい。どんな素晴らしいバンドがどんな素晴らしい演奏を奏でようとも全てを統べてしまう。改めて素晴らしいロック・ボーカリストだなとしみじみ思った。

とにかく、詩の内容は横に置いといて(勿論、素晴らしいのだけど)、サウンド的にここ数年の活動を総括するような、一点の曇りもない素晴らしいロック・アルバムだ。特に表題曲の#7『Wrecking Ball』と#10『Land of Hope and Dreams』は必須です!

 

追悼:
このアルバムがリリースされる前、クラレンス・クラモンズが他界した。僕はきっとクラレンス・クレモンズ(通称ビッグ・マン)がいなければ、スプリングティーンの音楽にこれほど夢中にならなかっただろう。もちろん、ダニー・フェデリーシのオルガンだってそう。とにかくE・ストリート・バンドと共にステージを縦横無尽に駆け回る若き日のスプリングティーンに僕は心を奪われた。いつも最後にビッグ・マンを嬉しそうに紹介するスプリングティーンを見て、この人達はなんて素敵な人達だろうって、そう思った。
20才くらいのときに『明日なき暴走』のジャケットを部屋に飾りたくて、大学の図書館で拡大コピーしようとしてうまくいかなかったことがある。今回のアルバムのインナー・スリーブの最後の方にスプリングティーンとビッグ・マンのバック・ショットがあるが、1975年の『明日なき暴走』のジャケットと長い年月を経たこのバック・ショットを見て、僕は改めて素敵だな、って思った。
今回のアルバムに収められた『ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリーム』。ここ何年か見た目にも分かるほど衰弱していたが、長年ファンの間で親しまれてきたE・ストリート・バンドそのものとも言えるこの曲では、ビッグ・マンの昔と変わらぬ素晴らしいソロ・パートを聴くことができる。今回の録音がいつのもので、どのような形でなされたのかは知らないが、とにかくあの力強く鼓舞するような、そして温かくて全てを包み込むようなビッグ・マンのサキソフォンがいつもと同じように聴こえてくる。だからこの曲が最後だからだとかそんな余計な感傷など一切持たずに聴くことができるし、きっとこれからも同じようにこの曲を聴くことができるだろう。
ビッグ・マン、たくさんの素晴らしい音楽をありがとう。僕はあなたの音楽に随分励まされました。遠い極東の島国からお礼を言います。

 

1. We Take Care of Our Own
2. Easy Money
3. Shackled And Drawn
4. Jack Of All Trades
5. Death To My Hometown
6. This Depression
7. Wrecking Ball
8. You’ve Got It
9. Rocky Ground
10.Land of Hope and Dreams
11.We Are Alive

Sound and Color/Alabama Shakes 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sound and Color』(2015)Alabama Shakes
(サウンド・アンド・カラー/アラバマ・シェイクス)

 

デビュー作だった前作は古く良きアメリカ、場末の酒場が似合いそうなヴィンテージ・ロック。僕もそういうのは好きだし、彼らはこれからも変わらずそんな渋い音楽をやってくんだろうなって勝手に思っていたけど、それはとんだ見込み違いだった。変わらないどころか物凄い進化を遂げてしまっている。それも何がどうというより全部まるっと進化しちゃってて、2枚目でこんなになっちゃうなんて全然想像できなかった。ヴィンテージはヴィンテージでも最新鋭、ハイブリット感満載のスーパー・ヴィンテージ・ロック・アルバムだ。

とりあえずギターの音がすんごくて、ビンビンと弦の振動が伝わってきそうな臨場感。それでいて音はクリアーで聴きやすいし、要するに分かる人にだけ分かりゃいいというのではなく、誰が聴いてもこりゃ凄いやって音になってる。僕んとこのミニ・コンポでこれだから、いいオーディオだとどんなことになるのやら。くうぅ~、立派なオーディオで聴きてぇ~。

ドラムとベースもよくて、何がいいって手数はうんと少ないのにここぞの時にはグイグイッとたまらんフレーズを持ってくる。こういう感じはちょっと初めて。で、さらに記名性を高めているのがキーボードとビブラフォン。1曲目からビブラフォンで始まっちゃうし、こりゃなんか雰囲気違うぞ感が満載。1曲目だけじゃなく、全編に渡ってキーボードとビブラフォンがいいアクセントになっていて、最後の曲のキーボードなんてホント最高である。

さらにもう一つ忘れてならないのが、ストリングスだ。でもよくあるそれっぽい大げさなやつじゃなくて、なんかギターとかキーボードとか他の楽器と同じ扱いで、でもこれがギターです、これがストリングスですってわけじゃなく、最初からそこにあったみたいな馴染みのよさ。#7『Guess Who』なんてこれしかないという感じですんごいことになってる。名曲です!

名曲といやぁさっき言った1曲目『Sound & Color』だってビブラフォンで静かに始まったかと思いきや後半は宇宙ぽく広がっちゃうし、2曲目の『Don’t Wanna Fight』はブリタニーさんの祈るようなボーカルが素晴らしくて、4曲目『Future People』もボーカルとバンドの掛け合いがめちゃくちゃカッコイイ!ほんでもって続く5曲目『Gimme All Your Love』も後半に凄い山場が待ってるし、アルバム後半にもさっきの『Guess Who』を始め、『The Greatest』に『Shoegaze』に『Miss You』に『Gemini』にエレピぴろろ~ん♫の『Over My Head』に(って全部やん!)名曲盛りだくさんで、いや、大げさじゃなくてホントに全編すごいっす!

で、最後にこれは絶対触れておきたいブリタニーさんのボーカル。前作もジャニス・ジョプリンみたいで凄かった。勿論それだけでも凄いのに今回はしっとりとなっちゃたり、裏声使っちゃったり、シャウト一辺倒だったのがこんなに変わるかってぐらい表現の幅を広げている。ほんと素敵なボーカリストになったもんだ。

とにかく最初に言ったように全部がまるっと凄いことになっててびっくり。さらに凄いのはこれが全米チャートで№1になったってこと。そりゃこんだけ凄いアルバムだから、評価されるのは分かるけど、だからと言って全米№1になるかって話。アラバマ・シェイクスも凄いけど、これをちゃんと聴き分けるアメリカのリスナーも同じように凄い。ちなみに僕の個人的な2015年ベスト・アルバムはこれですっ!

 

1. Sound & Color
2. Don’t Wanna Fight
3. Dunes
4. Future People
5. Gimme All Your Love
6. This Feeling
7. Guess Who
8. The Greatest
9. Shoegaze
10. Miss You
11. Gemini
12. Over My Head

Speak a Little Louder/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Speak a Little Louder 』(2013)Diane Birch
(スピーク・ア・リトル・ラウダー/ダイアン・バーチ)

 

ダイアン・バーチ、待望のセカンド。ファーストからかれこれ4年。もう彼女の新しい歌は聴けないのかもしれないなんて思っていた。で聴いてびっくり。前作とは全く異なるスタイルに最初は戸惑ってしまったが、考えてみれば4年も経てば変わるのは当たり前。あの素晴らしいデビュー・アルバムより更にスケール・アップした力強い作品になっている。

ファーストではキャロル・キングを思わせるシンガー・ソングライター的風合いで、それを強力なR&B系バンドが支えるといった構図だったのだが、今作では打ち込みも使用し全体的にダイナミックになっている。ボーカル・スタイルもファーストには見られなかった激しさがあり、彼女の思いがより強くなっている印象だ。詩を見てみると、個人的なものからもっと大きなものへと視点が移っており、やはり音楽に対するスタンス自体が若干変容しているのかもしれない。そのせいで多少ダークな印象を受けるが、それもファーストに比べればという程度。詩へのアプローチや情熱を込めた歌い方などを含め、非常に力のこもった作品となっている。

ファーストの頃からいいメロディを書いていたが、今回は表現の幅が飛躍的に伸びている。共作が多いので、どこまでが彼女のアイデアなのかは分からないが、出し惜しみすることなく様々な表現のスタイルを披露し、それこそもう伸び伸びと曲を書いているような感じだ。そう、今回は彼女が好きな音楽を何の制約もなく好きなように表出している、そんな印象を受ける。勿論、ファーストのようなR&Bスタイルもそうなんだろうけど、今回はもっとラフというか、ティーンネイジャーの頃に親しんだ音楽をそのまま出しました、という感じなのかもしれない。だからなのかどうかは分からないが、今回は彼女の圧倒的なボーカルと相まって、曲の強さが目に付く。80年代風の味付けもたくさんあって、この人は本当はこっちが好きなんじゃないかと思わせる程。どちらにしても本当に音楽が好きなんだなあという想いがひしひしと伝わってくる。

作風が如何に変わろうとも彼女らしさは健在。#1『Speak A Little Louder』のアウトロのピアノのタッチを聴いてると思わず嬉しくなってしまう。でやっぱりボーカル。低音域から一気にファルセットまで駆け上がる様にはうっとりしてしまう。#5『Superstars』なんてホントに素晴らしい。どう転がっていこうがこの声がある限り僕はいつまでも聴き続けるだろう。

 

1. Speak A Little Louder
2. Lighthouse
3. All The Love You Got
4. Tell Me Tomorrow
5. Superstars
6. Pretty In Pain
7. Love And War
8. Frozen Over
9. Diamonds In The Dust
10. Unfkd
11. It Plays On
12. Walk the Rainbow To the End
13. Adelaide
14. Staring At You
15. Hold On a Little Longer
16. Truer Than Blue

Bible Belt/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

Bible Belt』(2009)Diane Birch
(バイブル・ベルト/ダイアン・バーチ)

 

私は誰にも属さない。そんな自立心が垣間見えるアルバム・ジャケットが印象的だ。歳を重ねればやはり内面が出てくるものだ。ダイアン・バーチの場合はその若さもあって意志の強さが表情に表れている。Wikipediaで調べると2009年当時、彼女は26才。真っ直ぐ見据えるポートレートさながらの意思の強そうな声の記名性は抜群だ。

彼女の魅力はやはりその歌唱力。野太く個性的なボーカルはもしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれないが、それさえ凌駕する歌唱力。中でもファルセットが素晴らしく、地声との境目が分からない程ナチュラルで伸びやか。ソフトなんだけど力強くて心地よい。彼女の最大の魅力だろう。ソングライティングも彼女の手によるもので、こちらも落ち着いた素晴らしいメロディを紡いでいる。ピアノの腕も相当なもので、こんな才能が26才まで世に表れなかったが不思議なくらいだ。

そして彼女をサポートするニューオーリンズやN.Yの凄腕ミュージシャン達の極上の演奏がなんとも素晴らしい。出過ぎず、かといって物足りないという訳ではなく、ちょうど良い塩梅。ギターといい、オルガンといい、ホーンといい、要所要所で鳴らされるちょっとしたフレーズが琴線触れまくりだ。彼女の歌を最高に引き立てている。#4 『Nothing but a miracle』の出だし。ダイアン・バーチによるフェンダー・ローズ(※フェンダー社製の電子ピアノのこと。僕はこの音色が大好きなのです)で静かに始まり、コーラス、そしてフリューゲル・ホルンが重なるイントロは言葉にならない美しさ。魔法の粉が降りかかったかのようで、気を失いそうになる。

世代を越えてジャンルを越えて親しまれる音楽というのがある。ラップしか聴かない人、J-POPしか聴かない人、そんな人にも受け入れられる音楽というものがあるとすれば、このアルバムもそんなアルバムではないだろうか。

ところでこのアルバムが出た当時、 YouTubeで『Daryl’s House』(ダリル・ホール&ジョン・オーツ のダリル・ホールが自宅にミュージシャンを迎え、自身のバンドと一緒に演奏をする番組)で歌うダイアン・バーチを何度も何度も見た記憶がある。彼女の映像は他にも色々見たが、僕の中では『Daryl’s House』がベスト。中でもアレサ・フランクリンの『Day Dreaming』のカバーはすんごいことになってます。

 

1. ファイヤ・エスケイプ
2. ヴァレンティノ
3. フールズ
4. ナッシング・バット・ア・ミラクル
5. リワインド
6. ライズ・アップ
7. フォトグラフ
8. ドント・ウェイト・アップ
9. ミラー・ミラー
10. アリエル
11. チュー・チュー
12. フィーギヴネス
13. マジック・ビュー

(日本盤ボーナス・トラック)
14. エヴリー・ナウ・アンド・アゲイン
15. チープ・アス・ラヴ

Colors/Beck 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Colors』(2017)Beck
(カラーズ/ベック)

 

『100分de名著』という番組をほぼ毎週観ている。今月の名著はラッセル『幸福論』。哲学というほど堅苦しくはなく、哲学エッセーとでもいうような実生活に根差した幸福論で、現代に生きる我々にもピンと来る実践を踏まえた哲学書だそうだ。ラッセルの幸福論の大きな特徴は究極のポジティブ思考。例えて言うと、自分の欠点なんて忘れてしまえとか、自分の事より外に目を向けろ、てな具合。

っていうのを観てるとつい最近聴いているベックの新譜『カラーズ』を思い出した。もしかしたら『カラーズ』はベックの幸福論なんじゃないかって。

ベック、通算10枚目のアルバム。びっくりするぐらいポップなアルバムだ。まるでどこかのフランス・バンドみたいな多幸感。フレンドリーな曲のオンパレード。どうしちゃったのベック、って感じ(笑)。

今回のアルバムは前作の制作時、2013年から創作を進めていたようで、何度も練り直したすえにようやく出来上がったアルバムだそうだ。ということはこの1、2年の世界の動きどうこうということではなく、もう少し前からのベックの世の中に対する認識が含まれているということになる。

ベックなら上手くいっているとは言えない僕らの世界についていくらでもそれらしい言葉を紡ぐことが出来るだろう。けれど彼はそうしなかった。90年代を通してずっとメインストリームではなく、オルタナティブな視点で歌を歌ってきた彼の経験、思索が導き出した答えは眉間にシワを寄せて憂いを憂いとして歌うとこではなく、世界はもっと上手くいくはずなのに、僕たちはもっと仲良く出来るはずなのにっていう一見バカみたいな幸福論。けどそれはバカに出来るものではない。ずっとメインストリームに対するカウンターとして戦ってきたベックの生きこし方に裏打ちされた生硬な幸福論なのだ。

このアルバムを初めて聴いたとき、僕は優しいアルバムだなと思った。彼はインタビューでマイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーのような全てを包み込むアルバムを作りたかったと答えている。誰も排除しない、聴き手を選ばない開かれた音楽。聴いているとそんな彼の意図がはっきりと伝わってくる。

今回のアルバムは優しい。もちろん優しさだけでは何も解決しない。そんなことは誰だって分かっている。けれど本当の自由を手探りで求め続けてきたベックが、今はみんなの音楽が作りたいと欲したその勘に僕らは耳を傾けてみてもいいのではないか。信じてもいいのではないか。

僕はアジアのあの人もヨーロッパのあの人もアメリカ大陸のあの人もアフリカのあの人も僕も友達も知らない人も知ってる人もみんな一緒になって語り合い『セブンス・ヘブン』や『ノー・ディストラクション』を聴きながらダンスするのを夢想する。そしてこのアルバムを聴いた多くの人たちもまた、僕と同じではないかもしれないけれど、人種や思想や宗教を越え共に踊る姿を夢想するだろう。それは愚かなことだろうか。

これはベックの『幸福論』だ。楽観的過ぎると言う人もいるかもしれないが、僕たちはもう内に籠って憂いてばかりではいられない。いいことを考えよう。それは決して意味のないことではないはずだ。人生にはいいことも悪いこともある。いたずらに自己に没頭することなく、逆に殊更アッパーになり過ぎることもなく、いいことは素直にいいと祝福する。これはそんな地に足の着いた『幸福論』に裏打ちされた、時の風化も肯んじえない全く正統で強固な全方位型ポップ・ソング集だ。

 

1. Colors
2. Seventh Heaven
3. I’m So Free
4. Dear Life
5. No Distraction
6. Dreams
7. Wow
8. Up All Night
9. Square One
10. Fix Me

Talking Is Hard/Walk The Moon 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Talking Is Hard』(2015)Walk The Moon
(トーキング・イズ・ハード/ウォーク・ザ・ムーン)

 

こりゃ参った。2枚目でこんなに飛躍するとは思わなかった。1stも結構好きだったけど、出来にムラがあったり垢抜けなかったりで、あと一歩だなあなんて思ってたんだけど、一足飛びにその辺はクリアしてしまった。ていうかクリエイティビティが一気にスパークしているぞ。

まず曲がいい。単に感性だけで作ってたものがなんかコツを掴んだみたいで、曲に深みが出て表情が豊かになった。奇を衒う訳でもなく、正統派のソングライティングで勝負できるようになったということか。色んなパターンの曲を用意する余裕もあって、中にはハイムみたいなのやヴァンパイア・ウィ-クエンドみたいなのがあったり。最後の曲の80’S的なニュアンスなんてThe 1975っぽくもある。11曲目で切なくなって、最後の曲でしっとり終わるっていうのもまた見事。2枚目でもう余裕の構成である。

アレンジの方は更に80’S振りに拍車がかかったようでもろ80’Sなのもあったりするけど、ただそこは当然2010年代の音として緻密に作り込まれており、前作では物足りなかったバックが格段に良くなってる。ベースとドラムの多彩なリズムと表情豊かなボーカルが一辺倒になりがちなシンセ・ポップをしっかりリードしているのがポイントかな。

で、ボーカルも更にパワーアップ。#4『アップ・2・ユー』とか#9『スペンド・ユア・$$$』でシャウトしたり、#11『カム・アンダー・ザ・カヴァーズ』や#12『アクアマン』でしっとりさせたりとなかなかなもので、それがまた暑苦しくなくスマート。今どきこんなはしゃいじゃってるのも珍しいんじゃないかってぐらいはじけちゃてるけど、相変わらず近所の兄ちゃん的なノリで好感度抜群のバンドだ。知的な連中は馬鹿にするかもしれないが、結局小さな子供でも跳ねてしまうこの楽しさに勝るものはない。#3『シャット・アップ・アンド・ダンス』なんて何度うちの子供たちにリピートさせられたことか(笑)
準備は整った。次で一気に最前線へ登りつめるか。

 

1. ディファレント・カラーズ
2. サイドキック
3. シャット・アップ・アンド・ダンス
4. アップ・2・ユー
5. アバランチ
6. ポルトガル
7. ダウン・イン・ザ・ダンプス
8. ワーク・ディス・ボディ
9. スペンド・ユア・$$$
10. ウィー・アー・ザ・キッズ
11. カム・アンダー・ザ・カヴァーズ
12. アクアマン