Scream Above The Sounds/Stereophonics 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Scream Above The Sounds』(2017)Stereophonics
(スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ/ステレオフォニックス)

 

いや~鉄板やね~。551の豚まんやね~。りくろーおじさんやね~(※1)。間違いないねぇ~。いやいやステレオフォニックスのことですよ。デビュー21年目を迎え10作目のオリジナル・アルバムという多作ぶりもさることながら、今回もいい出来。もう間違いないんすよ。御大、ボブ・ディランもフェイバリットに挙げるぐらいですし(※2)、もうイギリス土産としてヒースロー空港に置いてもいいんじゃないですか(※3)!?

てことでステレオフォニックスの10枚目、『スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ』のレビューです。先ずは1曲目。サビで「コート・バイ・ザ・ウィン~♪」ってそよ風吹いてます。どうです、この軽やかさ。デビュー20年を経てのこの軽やかさはちょっとやそっとで出ませんぜ。リリックにある「屋根の上で日光浴(Sunbathing on the roof)」をしているかのようなギター・リフが心地よい。ここで早くも私は思いましたね。今回も間違いない!

続く2曲目『Taken A Tumble』も軽快なロック・チューン。こりゃ懐かしのストリート・ロック、ジョン・メレンキャンプやん。軽やかに進むと思いきや、後半はリリックが膨らんでドラムもろとも畳み掛けてくる。流石フォニックス、カッコいいぜ!

3曲目『What’s All The Fuss About?』はちょっと趣が変わってフラメンコ(←あくまでもイメージです)。哀愁漂うトランペットといい、気分は『私だけの十字架(※4)』(←これも勝手なイメージです)。この曲も後半にかけて畳み掛けてきます。なんか今回のアルバムはこういうの多いな。アウトロのフラメンコ・ギターが沁みるぜ。

『Geronimo』は多分ライミングとかアクセント先行で出来た曲やね。全編韻を踏んでます。中でもサビの「~like a domino」と「~like Jeronimo」の韻がイカす。そーです。カッコよけりゃ意味なんて雰囲気でどーとでもなるのです。こういう遊びで作ったような曲がえてしてカッコイイから不思議。演ってる方も実はこういうのが一番楽しかったりするのではないでしょうか。曲の中盤では珍しくサックスだ。ちなみにジェロニモといえばつい「アパッチの雄叫び(※5)」を思い出してしまいますが、全く関係ありませんのであしからず。

フォニックスの魅力の一つはリリック、とりわけそのストーリー・テリングにある。今回で言えば5曲目の『All In One Night』だ。余計な感情は一切排し、時間軸に沿ってただ物語だけが進行していく。リリックにもサウンドにも大げさな仕掛けは一切なし。にもかかわらず、徐々に立ち上がる情感。見事である。

6曲目の『Chances Are』は同じフレーズを繰り返しながらサウンドが徐々に盛り上がっていくハード・ロック・ナンバー。最後は盛り上がっちゃってどうしようもなくなる感じがいい。7曲目は今は亡き元メンバーへ捧げる『Before Anyone Knew Our Name』。ピアノの伴奏のみで静かに歌われる。ピアノはケリー自身によるものだろうか。

8曲目は珍しくサビがファルセットの『Would You Believe?』。これもストーリー・テリング。でもこっちは主人公の独白で進行していくタイプ。ブルースやね。間奏から入ってくるギター・ソロがたまらんね。ウイスキーでもグッとあおりましょうか。そんな感じです。ま、したことないけどっ。

続く『Cryin’ In Your Beer』は古き良きロックン・ロール。ヴィンテージ・ロックだ。オルガンもグイングインしちゃってるし、ここでもサックスがブロウ・アップだ。アメリカっぽいな~。元々フォニックスは大陸的な大らかさがあるバンドだけど、今回は特にその傾向が強い。

そしてケリーの回想録のような『Boy On A Bike』をはさみ本編ラストの『Elevators』へ。これなんかもすごくアメリカっぽい。ジョン・メレンキャンプ感満載で、ピアノのフレーズなんてブルース・スプリングスティーン&ザ・ E・ストリート・バンドみたい。でもサビにかかるとやっぱ英国的な情緒があって、そういうとこがまたいいんだよな。

ってことで本編全11曲。細かくコンピューター・サウンドを取り入れてみたり、ハード・ロッキンしたり、ケリー・ジョーンズの声を満喫できる弾き語りもあったりで、バラエティ豊かな曲調。肩肘張らずに、でも攻めの姿勢は忘れない、そんなフォニックスらしいアルバムではないでしょうか。ここからまた新しい旅が始まるんだという軽やかさがいい!

確固たるスタイルがありつつも決して守りに入らない。不思議と今作る音が今の音になる現役感がフォニックスの最大の強みだ。てことで、やっぱ今回も間違いないぜ!
伝統がありつつも最前線。こりゃやっぱヒースロー空港に置くしかないね!どうです?メイ首相。

 

1. Caught By The Wind
2. Taken A Tumble
3. What’s All The Fuss About?
4. Geronimo
5. All In One Night
6. Chances Are
7. Before Anyone Knew Our Name
8. Would You Believe?
9. Cryin’ In Your Beer
10.Boy On A Bike
11.Elevators

(ボーナス・トラック)
12.Never Going Down(Live at RAK Studios)
13.Drive A Thousand Miles(Graffiti Sessions)
14.Breaking Dawn(Written for Twilight)
15.All In One Night(Unplugged)
16.Caught By The Wind(Unplugged)

 

(※1)「りくろーおじさん」とは、全国的には知られていないが、大阪人にはお馴染みのチーズケーキ店のこと。味もさることながら1ホール700円弱というコスパが嬉しい。父親が昔よく仕事帰りに買ってきたのはそういうことだったのね。今では私が買って帰ります。

(※2)2017年のインタビューで、ボブ・ディランはステレオフォニックスとエイミー・ワインハウスがお気に入りのアーティストであることを明かしている。

(※3)実際、6度の全英№1を誇る国民的バンドでございます。

(※4)テレビ朝日系列で1970年代から80年代にかけて放送された刑事ドラマ『特捜最前線』。当時人気を博した石原軍団の派手な刑事ものとは対極にあるような渋い刑事ドラマ。
当時の小学生は何故かこれを昼の再放送とかで観ていて、誰もがエンディング・テーマ、チリアーノの『私だけの十字架』を歌えた。最後のとこだけやけどね。

(※5)80年代ジャンプ世代にとってジェロニモといえば「キン肉マン」に登場する正義超人、ジェロニモが先ず思い浮かぶ。人間から超人になったレア超人だ。得意技は「ウ~ララ~」という‘アパッチの雄叫び’。地味やな~。

~TRTRに捧ぐ~

Bankrupt!/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bankrupt!』(2013)Phoenix
(バンクラプト!/フェニックス)

 

フェニックスの5枚目。グラミーを受賞し世界的ブレイクを果たした『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2010年)を受けてのアルバムだ。『Wolfgank~』ではついに鉱脈を発見したかのようなフェニックス独自のサウンドを展開。この路線でもう一発行くのかな、ていうかもう一発行って欲しいな、なんていうこちらの甘~い期待を覆すかのように全く違う角度で攻めてきました。てことでさっすがフェニックス、と思いきや、おフランスのマイペースなポップ職人が打ち出したのはなんとオリエンタル。オリエンタルといっても日本や中国ではございませんでぇ!舞台は香港HongKongだ!

オープニングを飾るのは『エンターテインメント』。春節祭でも始まったかのような派手なイントロで皆の頭の上に?が浮かんだところですかさず『Wolfgang~』的なドラムが一気になだれ込んでくるこの過剰さ。こちらの期待を見事に見透かすこのセンスは流石です。ちなみにライブでこの曲がかかる時のテンションは凄いっす。

2曲目『ザ・リアル・シング』、3曲目『S.O.S.イン・ベル・エアー』と続く辺りでこのアルバムの概要は見えてくる。ぎらぎらシンセ全開で騒がしいったらありゃしない。4曲目の『トライング・トゥ・ビー・クール』はそれに加えてオリエンタルな雰囲気満載で気分はもう80年代の香港。そやね、ジャッキー・チェンとかそーいうのではなく、ハリウッド映画の香港とでも言おうか。ほら、80年代の日本を舞台にしたハリウッド映画って唐突にニンジャが出てきたり、やたら派手なメイクのゲイシャが出てきたりってのがあるけどそういう西洋人がイメージするオリエンタルっていうのかな。香港じゃなくてHongKongってことです。

でそれをオシャレに切り取ってみせるのがフェニックスならではというか、でも普通香港はオシャレになんないでしょーよ?それがオシャレになっちゃうんだから参りました。この辺りのハンドル捌きはホントにお見事です。

世間の流行廃りに頓着なく好きな事をやって、しかもそいつがセンスいいんだから文句のつけようがない。しかしそう思えるのも元々の曲がいいから。今回も相変わらずいいメロディを書いている。きっとソングライティングがずば抜けているから何をやってもOKなんだろね。ご機嫌な曲もいいんだけど、#7『クロロフォルム』とか#9『ブルジョワ』といったスロー・ソングの組み立て方なんてホントに上手い。

でもっていつもと変わらないトーマの甘い声があるんだから、アレンジがどう変わろうと、やっぱりどこをどう切ってもフェニックスなアルバムである。

 

1. Entertainment
2. The Real Thing
3. S.O.S. in Bel Air
4. Trying to Be Cool
5. Bankrupt!
6. Drakkar Noir
7. Chloroform
8. Don’t
9. Bourgeois
10.Oblique City

フェニックス史上最も派手なアルバムだ!

『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事

 

『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事

 

ノエル・ギャラガーの『フー・ビルト・ザ・ムーン』の評判がすこぶる良い。僕も最近よく聴くのはもっぱらこのアルバムだ。進化したサウンドがノエルのソングライティングを一段も二段も引っ張り上げており、ただでさえ次元の違うノエルの曲が、また別のステージに向かっていることを感じさせる全く新しいアルバムだ。というわけで僕はこのアルバムを勝手に「ノエル、宇宙の旅」なんて呼んでいる。

ソロになってからのノエルは勿論曲がずば抜けているのだからいいことはいいのだけど、どうしてもあの声にやられた身としてはそこにあの声を探してしまう。けれどこのアルバムにはもうそれはほとんど感じられない。ノエルの声として成立してしまっているからだ。要するにそれだけオアシス的なものからかけ離れたサウンドになっている訳だけど、じゃあ仮に今ノエルがリアムが歌うことを前提として曲なりサウンドなりを作ったなら、ここまでの曲想の広がりは望めたかどうか。

勿論、稀有な二人がそのまま揃っていたとして、再びとんでもない化学反応が起きて今回とは全く違う角度で新たな傑作が生まれていたのかもしれないが、やっぱりそれは可能性としてはかなり低かった訳で、そうなるとやはり二人が別の道を行くというのは意味があったということなのだ。

ただここまで来るのにノエルはソロ3作を要したわけで、やっぱりそれだけの時間が必要だったのかもしれず、そう考えると昨年ようやくソロ・アルバムを出したリアムだって、確かにあれはオアシス的なものを全肯定してゆくアルバムでそれはそれで素晴らしかったんだけど、時間をかけていけば今後どうなっていくかは分からないし、リアムはリアムで別の次元の新しい扉を開けていくかもしれない。そういうわけで類まれな才能を更に解放させるためにもそれぞれがそれぞれの制約から離れるというのはとても大事な事なのかもしれない。

で結局僕らが望むのは二人が妥協して(二人に限ってそんなことはあり得ないけど)ありきたりな作品を残すってことじゃなく、どうせなら僕らファンを置き去りにするぐらいの新しい力に溢れた瑞々しい作品であって、それはもう二人が組もうが別々に進もうが変わりはないこと。だからそういう流れの中で、二人がまた同じ方向を向いて、じゃあこっち行くぜってなりゃあそれは勿論めちゃくちゃ嬉しいことだけど、それはやっぱ二次的な事なんだな。

だから僕が『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事、というよりむしろノエルとリアムが新しいアルバムを出した2017年を受けて今思うことは、これがリアムの声だったらとか、これがノエルの曲だったらとかってのはまぁ飲み屋のネタぐらいにして、僕たちもそろそろノエルはノエルとして、リアムはリアムとして接していく、そういうものの見方が体に馴染んできているのかなってことです。勿論これは大いに前向きに捉えていい事ではないでしょうか。

2017年 洋楽ベスト・アルバム

洋楽レビュー:

『style of far east が選ぶ 2017年 洋楽ベスト・アルバム』

 

今年も多くのCDを購入した。と言っても新譜が月2枚程度だから趣味とすりゃかわいいもん。月2枚と言えど、買い物リストを見ると新旧の実力者がずらりと並んでいるので、我ながらかなりがっしりとした購入履歴になっていると思います。

さて毎年年末になると国内外の音楽誌でベスト・アルバムの発表があります。国内のロッキンオンとNMEジャパン、海外のローリングストーン誌にピッチフォークをさら~っと見たけど、僕の購入履歴にあったのは12枚。意外と高確率でした。ハイムがどこにも載っていなかったのは意外だったな。で軒並み高評価のロードは未購入。毎年ふ~ん、て感じで眺めているだけだけど結構楽しい。こういうの好きです。

僕にとって2017年の最大のニュースはやはりギャラガー兄弟が揃って新譜を出したこと。特にリアムがようやくソロを出し、それが僕たちの期待するリアム像そのものを体現するアルバムであるというこれ以上の無い復活の仕方で、しかもその復活したステージをサマーソニックで至近距離で見れた、そして期待に違わぬステージを見せてくれたっていうのは本当に特別な体験でした。

一方のノエルはそんなリアム騒ぎなんてどこ吹く風、オアシス時代をはるか遠くに追いやる素晴らしいアルバムを出した。これはこれで最高な出来事で、やっぱこうやって二人が二人のキャラクターに沿った新しい音楽を制約なしに思いっ切りやってくれることが僕たちにとっちゃ一番嬉しいのだ。

2017年は僕の好きなバンドが続々と新作を出してきて聴く方も大変だったんだけど、そのいずれもがホントに良く出来た作品ばかりで、かなり濃密な音楽体験となった。名前を挙げると、ケンドリック・ラマーにパラモア、フェニックス、ハイム、ファスター・ザ・ピープルなどなど。初めて聴いたThe XXやウルフ・アリス、フォクシジェン、ザ・ウォー・オン・ドラッグスも良かったし、年末にかけてのキラーズとベックも最高だったな。

そんな中、僕の個人的なベスト・アルバムは、フォスター・ザ・ピープルの『セイクレッド・ハーツ・クラブ』。ウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』とベックの『カラーズ』と迷ったんだけど、ウルフ・アリスはまだまだこれから先に凄いのを持ってきそうだし、ベックはもうそりゃこれぐらいやるでしょうよってことで、フォスター・ザ・ピープルに決めました。やっぱ今までのキャリアの総括というか、ここにきて一気にスパークした感じがするし、最近改めて聴いてみてもやっぱそのエネルギーの質量はハンパないなと。国内外の音楽誌のベスト・アルバム選にはあまり入っていなかったけど、僕は凄いアルバムだと思います。

あとおまけでベスト・トラックも。これはThe XXの『オン・ホールド』にします。年初に聴いたものはどうしても印象が薄れていくんだけど、今聴いてもやっぱりいい。こういう切ない感じに僕は弱いです。

ま、一応面白半分で選んでみたけど、どのアルバムもホントに素晴らしくて、この先も聞き続けていけるものばかり。最初にも言ったけど、2017年はがっしりとした重量感のあるアルバムが沢山あったなという印象を受けました。

ここ数年はあまりバタバタと買い漁ることも無くなってきたし、落ち着いた洋楽ライフになって来たと思います。この調子で2018年もいつものもの、新しいもの、平たい気持ちで素晴らしい音楽に出会いたいものです。

ということで、style of far east が選ぶ、2017年 洋楽ベスト・アルバムは、『Sacred Hearts Club』 Foster The People。2017年 洋楽ベスト・トラックは、『On Hold』 The XX に決定です!

Who Built The Moon/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Who Built The Moon』(2017)Noel Gallagher’s High Flying Birds
(フー・ビルト・ザ・ムーン/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

ノエルは事前に曲を用意しサウンド・デザインもあらかた決めてからレコーディングに入る人で、その完璧主義者ぶりはオアシス・ファンの間では有名だ。そのノエルが今回は20年以上のキャリアの中で初めて曲を何ひとつ用意せずスタジオに入ったという。プロデューサーのデヴィッド・ホルムスと二人きり、あーでもないこーでもないとサウンドのアイデアを練りつつ後から曲を作るという従来とは全く逆のパターンで取り組んだそうだ。

多分ノエルなら手癖でいい曲を幾らでも書けるだろうしそれなりのアルバムを作れるだろうけど、それでノエルが満たされるかっていうとそうではないだろうし、そこに目を付けて「じゃあ、いっちょやったるか」ってノエルのモチベーションに着火させたデヴィッド・ホルムスの手腕(なんと『ザ・マン・フー・ビルト・ザ・ムーン』のサビを7回も書き直させた!)がこのアルバムの全てだろう。

てことでいつものノエル節といやぁノエル節なんだけど、その出所が違うとこうも違うかってぐらい次元が違う切れ味というか、もちろん今までのノエルの曲も最高なんだけど、ちょっとこれは別のとこへ行っちゃったなって印象で、例えて言うなら別の惑星に行って宇宙服着て帰ってきたって感じ(笑)。ということでこのアルバムを僕は心の中で「ノエル、宇宙の旅」って呼んでます。どっちにしても今までとは分けて考えた方がいいかもしれない。

ノエルより先に出たリアムのソロも相当かっこよかったんだけど、ちょっとベクトルが違い過ぎて笑ってしまう(どっちがどうという意味ではなく)しかないというか、ビッグ・セールスを上げるリアムを横目に余裕ぶっこいてたのがこのアルバムを聴けばよく分かるし、ノエル自身も「今の俺はピークにある」と言い放つくらいだから、やっぱ別の扉を開けたという確信があったのだろう。1曲目のインストからその萌芽は感じられるし、2曲目の『ホーリー・マウンテン』で軽く慣らしといて、3曲目の『キープ・オン・リーチング』から本格的に始まる新しいサウンドはこっちも聴いていて興奮してしまう。4曲目の『ビューティフル・ワールド』でフランス語の朗読が出てくるところなんか最高だ。

どっかのレビューに書いてあったとおり、これまでに近いサウンドは#7『ブラック・アンド・ホワイト・サンシャイン』ぐらいなもんで後はもうオアシス的なものを置いてけぼりにするぐらい一気に駆け抜けていってしまう。やっぱこのぐらいやってもらわないとね。ていうかスイッチが入ったノエルならこれぐらいはやるでしょう(笑)。

ところでこの素晴らしくオープンなアルバムを聴いていて思い出したのが同時期にリリースされたベックの『Colors』。あちらもベックとプロデューサーのグレッグ・カースティンによる二人三脚で作られたアルバムで、僕は以前このブログで『Colors』をベックの幸福論なんて呼んだけど、このノエルの新作も本人が「俺は喜びの曲を歌う」と断言するように同じく全ての人に開かれたノエルの幸福論と言ってもいいようなアルバムで、こうして90年代にデビューし一つの時代を築いた二人が同時期にこんなにも肯定的なダンス・アルバムを作ったというのは偶然とはいえ何やら特別の事のように思えてならない。

もう一つ付け加えておくと、初期オアシスのB面曲はなんでB面やのにこんな名曲やねん!ってぐらいやることなすこと名曲揃いだったのだが、今回のボーナス・トラックもそれに負けず劣らずの名曲。特に#12『デッド・イン・ザ・ウェザー』はかなりヤバい!ってことでやっぱノエルは絶好調のようです(笑)。

最後に余計なことを言うと、僕たちはノエルの曲についてはついついいつまでもこれがリアムの声だとどんな感じになるんだろうって考えてしまうけど、まぁこれからはそれも半ば面白半分にして、ノエルにとってオアシスはもう済んだ事だということを僕たちもそろそろ体に馴染ませないといけないのかもしれない。それにはちょうどいいアルバム。こんだけサウンドが更新されて宇宙的になってしまうともうノエルの声でも違和感ないかも。

 

1. Fort Knox
2. Holy Mountain
3. Keep On Reaching
4. It’s A Beautiful World
5. She Taught Me How To Fly
6. Be Careful What You Wish For
7. Black & White Sunshine
8. Interlude (Wednesday Part 1)
9. If Love Is The Law
10. The Man Who Built The Moon
11. End Credits (Wednesday Part 2)

(ボーナス・トラック)
12. Dead In The Water (Live at RTÉ 2FM Studios, Dublin)
13. God Help Us All

A Deeper Understanding/The War On Drugs 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Deeper Understanding』(2017)The War On Drugs
(ア・ディーパー・アンダスタンディング/ザ・ウォー・オン・ドラッグス)

 

ソングライターのアダム・グランデュシエル率いる米国のインディー・バンドの4作目。一応バンドってことでメンバーの写真が載っていたりしますが、こりゃ完全にアダムさんのプライベート・アルバムですな。

一人スタジオに籠って創作に励みつつ、ある程度固まってきたらバンドを呼んでセッションをするといった感じでしょうか。ということでこの人、かなりオタクです、多分。ホントに音楽が好きなんだろうなぁって印象を受けるアルバムで、少し昔であれば一人でここまで出来なかったんだろうけど、今は家でアルバム1枚作るなんてことも出来る時代だから自分の好き放題、時間をかけて朝から晩まで、細部まで凝って創作に打ち込める。なんかプラモデルを作ってる感覚に近いのかもしれないけど、そこに閉じた感じがしないのはやっぱバンドだからであって、この人自身はそんな明るい人でもないのかもしれないけど(←スミマセンッ、勝手な想像です)、みんなでせぇのーでバーンとやってしまうことの意味もちゃんと分かっている人で、結局体質的にも自分が作る曲もどうしてもそうなってしまうんだろうし、やっぱ一人ではなく仲間といることが好きな人なんだろう。この曲の強さはそういうことかもしれない。てことでそんなアダムさんに付き合っちゃうここのメンバーはきっと優しい人たちに違いないっ!

サウンド的にはもう思いっ切りブルース・スプリングスティーン。で、歌唱法はボブ・ディランかな。2010年代ということで今風なドリーム・ポップ的高揚感だったり、あとシンセも結構多用してて80年代の香りもするけど基本はスプリングスティーン。でも大向う相手に見得を切るって訳じゃなく、教室の隅っこにいる静かなスプリングスティーンって感じ(笑)。スプリングスティーン大好き感が凄く出てて微笑ましいです。

歌詞はプライベート感満載で彼女がいなくなっちゃった男の独白。だからまぁ、語るようなもんではないです(笑)。その代りにバンドが雄弁というか、アダムさん自身の演奏とか打ち込みもそうだけどホントに細かく重ねられていて、そこにギター・ソロとかシンセやウーリッツァーなんかがサーッと流れてくるのは凄く気持ちいいし、それらがまたメロディアスだから余計に行間を語る感じがしてとてもいいのです。そうやね、俳句的なところはあるかもね。

このバンドは3作目の『ロスト・イン・ザ・ドリーム』でブレイクしたわけだけど、今回のアルバムもこんな感じだし、次もこんな感じになるのだろう。どっかで今後はウィルコみたいな存在になるかもなんて書かれていたけど、このひとりぼっちな感じの独特の佇まいはちょっと違うかな。

どこがいいのって言われても返事に困るアルバムってのがあって、特に楽しいわけでもなく、かといって地味でもないし、じゃあ内省的な暗い感じかと言われれば解放感はあるし明るい感じもある。自分でもよく分からないけどまぁ聴いてて心地いいというか、通勤中に何聴こうかなんて物色しているとついついこれを選んでしまう。こりゃすげぇよって夢中になるわけじゃないんだけど実は一番聴いてんのこれじゃねぇ?っていうやつです。なんかレビューになってないな(笑)。男はこういうメランコリックなの好きだけど、女の人はどうなのかなぁ。

 

1. Up All Night
2. Pain
3. Holding On
4. Strangest Thing
5. Knocked Down
6. Nothing To Find
7. Thinking Of A Place
8. In Chains
9. Clean Living
10. You Don’t Have To Go

(日本盤ボーナス・トラック)
11. Holding On(Live)
12. Pain(Live)

ボートラが良いです。家内手工業的なオリジナルよりこっちの方がごちゃごちゃした躍動感があって好きかな。

Revelator/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Revelator』(2011)Tadeschi Trucks Band
(レヴェレイター/テデスキ・トラックス・バンド)

 

移動している時に聴きたい音楽というものがあって、それも通勤電車とかそういう場合ではなく、一人でどこかへ出かける時、或いは出張か何かの帰り、少し旅に近い感覚が入り混じった時に聴きたくなる音楽というものがある。そうだな、やはり車ではなく電車がいい。それも長距離を移動する特急列車、または新幹線でもいいかもしれない。例えばトンネルを抜けたら、普段は見慣れぬ景色がパーッと広がって、普段は感じえないような心持ちが動き出す。すると偶然耳に付けていたイヤホンからそんな感情を包み込むいい音楽が流れてきて、気持ちが揺らいでしまう。けれど少し懐かしくもあって胸が熱くなったりして。誰しもそんな経験があるかもしれない。

ギタリスト、デレク・トラックスと彼のパートナーであるスーザン・テデスキを中心とした大編成バンド。ここに集まった面々は超一流のミュージシャンではあるけれども、このアルバムを一段素晴らしいものにしているのは、彼らの音楽に対する深い愛情であり、音楽仲間たち相互のリスペクト、すなわちミュージシャン・シップという一言に尽きるのではないだろうか。

デレク・トラックス・バンドは以前から気にはなっていたバンドのひとつ。でも、どうもしゃがれ声のボーカルに馴染めなかったんだけど、今回は、そのマイク・マティソンがバッキング・ボーカルに回り、スーザン・テデスキがメインを努めている。個人的に最高というわけではないが、まあいいんじゃないだろうか。合う合わないというよりむしろ、信頼関係がそれを凌駕してしまっているというべきかも。

本作のハイライトはなんと言っても前述のマイクとデレクによる共作(バックに回ったが、マイクはなかなかええ仕事しよる)、M3の『ミッドナイト・イン・ハーレム』。デレクのスライド・ギターと、こちらもデレク・トラックス・バンドから参加のキーボード・プレイヤー、コフィ・バーブリジュによるハモンド・オルガンとの掛け合いは言葉では言い尽くせない美しさ。ただ事実を淡々と述べる詩と、抑制したスーザンのボーカル、そして素晴らしい演奏が言葉以上に雄弁に語りかけてくる。僕はアメリカの大地も知らないし、英語も解さないが、胸が熱くなり涙がこぼれてしまった。

音楽と共にある人生。アルバムを聞きながら、ここにいるミュージシャンたちを思い浮かべるとき、僕にはふとそんな言葉がよぎった。勿論、いいことばかりではないだろうが、音楽なしでは生きてゆけない彼らの音楽は、1+1が5にも6にもなるまさにバンド。そんな彼らに音楽の女神がそっと微笑んだのかもしれない。

僕たちは何処から来て何処へ向かうのか。今手にしたこの場所は最善なのかもしれないけれど、僕たちの故郷はもっと他の場所にあるのではないのか。移動するときに聴きたくなる音楽というのは、そうした人が本来持ちうるノマド的な感覚を補完する音楽なのかもしれない。

 

1. Come See About Me
2. Don’t Let Me Slide
3. Midnight in Harlem
4. Bound for Glory
5. Simple Things
6. Until You Remember
7. Ball and Chain
8. These Walls
9. Learn How to Love
10.Shrimp and Grits (Interlude)
11.Love Has Something Else to Say
12.Shelter

 (日本盤ボーナストラック)
13.Easy Way Out

1 Hopeful RD./Vintage Trouble 感想レビュー

洋楽レビュー:

『1 Hopeful RD.』(2015)Vintage Trouble
(華麗なるトラブル/ヴィンテージ・トラブル)

 

いや~、ジェダイやね。ボーカルのタイ・テイラーさん、フォース出まくり。なんか名前からしてそんな感じやん。ルーク・スカイウォーカー、オビワン・ケノービ、タイ・テイラー、ほら、違和感ないでしょ。マントとか似合いそーやし。すんませんっ、昨日テレビで『スター・ウォーズ フォースの覚醒』見たもんで。

米国人にとって、R&Bとかブルースなんていうのは演歌みたいなもんだというのを誰かが言ってた。いいとか悪いとかではなく単に琴線に触れてしまうんだと。ヴィンテージ・トラブルはロック・バンドだけど、どっちかって言うとそっち系なんじゃないだろうか。ということを踏まえれば、ジャズとかR&B専門のブルーノート・レコードからリリースされた初のロック・バンドというのも別に不思議じゃない。

はっきり言って何ら新しいとこはない。前作の1stと比べてもバンドとしての塊がドッと来る感じやグルーヴ感は更に引き締まった気はするけど、相変わらず景気のいい曲があって、渋いスロー・ソングがあってっていうスタイルは変わりようがない。ただそうは言っても、こういうのは聴き手の耳も肥えてるわけだから、生半可なレベルじゃ満足してもらえないわけでそれ相当の練度が求められてくる。そこをじゃあそれ以上のものをって見せてくれるから嬉しくなってしまうわけで、脳というより体に訴えてくるんだろうな。みんなよく知ってるんだろうけど、じゃあすぐに出来るかっていうとなかなかそうはいかない奥の深さ。そこがほら『スター・ウォーズ』、やっぱフォースなんすよ(強引やな)。

だってまあ凄いんすもん、タイ・テイラーさんのシャウト。#8『ストライク・ユア・ライト』なんかたまらんえ。スロー・ソングも抜群だし、こんだけ幅広く歌えるボーカリストはそうはいない。でもってのっけからライト・セーバー振り回してブワォンブワォン言っちゃってるし、あ、スライド・ギターね。ドラム、ベース、ギター、ボーカルっていうシンプルな編成でこの腹から来るグルーヴ。皆さん、ストーンズばっか崇めてないでこっちを聴きなさい!あかん、オレのダーク・サイド出てもうた…。

前作は3日で録音したそうで、今回も1週間かそこらでの録音だそうだ。もともとライブでやってきた曲ばかりだからそりゃそんなもんかもしれないけど、やっぱそこはこのバンドの地力だろう。ライブがあって、新しい曲が溜まってきたら録音する。そんな昔ながらのスタイルがいかにも様になる。目新しいところは何もないが、このどうということのないソウル・ロックを10年代に何の違和感もなく馴染ませちゃった点にこのバンドの偉大さがある。僕も当然大好きだ。

ルックスもヴィンテージ感たっぷりの手練れ4人衆(アルバム・ジャケット、めっちゃ渋いッス!)。音楽界にもジェダイはいるのです。さあ皆さん、フォースの音楽面へようこそ。「May the Force be with you(フォースと共にあれ)…」 ←これが言いたかってん…。

 

1. Run Like the River
2. From My Arms
3. Doin’ What You Were Doin’
4. Angel City, California
5. Shows What You Know
6. My Heart Won’t Fall Again
7. Another Man’s Words
8. Strike Your Light (featuring Kamilah Marshall)
9. Before the Tear Drops
10.If You Loved Me
11.Another Baby
12.Soul Serenity

(日本盤ボーナス・トラック)
13.Get It
14.Honey Dew

日本盤にはDVDが付属。2014年のサマーソニックです!
こん時ゃ凄かった~。僕も大阪で観ましたよ!

Wonderful Wonderful/The Killers 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Wonderful Wonderful』(2017)The Killers
(ワンダフル・ワンダフル/ザ・キラーズ)

 

キラーズの新作が出ました。前作から5年。5年ですよあーた。ブランドンのソロがあったにせよ結構空きましたねぇ~。それでも全英全米共にチャート№1になっちゃうんですから大したもんです。ていうかファンの皆さん、よう待ってたねぇ。あんたはエライッ!

しかし今回は1位も納得の出来栄え。今までのキラーズと新しいキラーズの両方がいい塩梅に混ざ合わさって、5年ぶりとはいえ昔の名前でやってます、ではなくちゃんとバージョン・アップしているところが嬉しいです。そんでもってアルバムに先駆けて公開されたのが新機軸サウンドの『ザ・マン』とキラーズ・サウンド全開の『ラン・フォー・カバー』の2曲っていう礼儀正しさ。相変わらずラスベガス出身のくせに真面目な人たちですなぁ。

その『ザ・マン』。もろ80年代イケイケのディスコ・ナンバーでコーラスはABA。ブランドンさん、ファルセット連発でフィーバーしとります。あと、オープニングの『ワンダフル・ワンダフル』とか9曲目の『ザ・コーリング』といったひねった曲も今までと趣が違っていいアクセント。歌詞の方もかつてなくシリアスになっております。あと所々にゴスペル風味が掛け合わさっていて、キラーズが元々持っている壮大さに厳かな雰囲気が加わったというか。例えば静かな#7『サム・カインド・ラブ』は今までに無かったアプローチ。コールド・プレイかと思いました。

逆にド定番なのが#5『ラン・フォー・カバー』。これはやられます。疾走感たっぷりのもろキラーズ・ナンバーで、ここに来てこの瑞々しさはたまりまへん。#2『ラット』、#4『ライフ・トゥ・カム』といったスロー・ナンバーも安定感ばっちりのキラーズ節。特にニューウェイブ感満載の#8『アウト・オブ・マイ・マインド』は思わず「よっ、待ってました!」と言いたくなるみんな大好き80年代風シンセ・サウンド。ていうかやっぱええ曲書きよんなぁ。

まぁここまではっきりとした目の配りようも嬉しいと言えば嬉しいんだけど、そこまで生真面目にやらんでも、という気がしないでもない。そういえばブランドンはインタビューで「前のアルバムから気付いたらもうこんなに経ってる。そろそろキラーズとしてのアルバムを作らないと!」みたいな感じで始まったと話している。そーなんだよなぁ、すごくいいアルバムなんだけどなんか座りの悪い感じがするのはそこなんだよなぁ。しかもちゃんと4人で作ったみたいだけど、アルバム・ジャケットに写ってるの3人や~ん。ツアーに出んのんボーカルのブランドンとドラムのロニーだけらしいや~ん。

ということでなんか頑張ってキラーズとしてのアルバムを作った感がしないでもなくて、やっぱその一枚岩というかバンドとしてガッと来る感じに私は物足りなさを感じてしまうのです。いやいーんです、いーアルバムなんですよ。でもなんか自由度が狭まってきたような気もするので、次はファンの事は気にせずに思いっ切り自分たちのやりたいようにやって欲しいっす!

曲良しボーカル良しサウンド良し。キラーズ・サウンド全開でホントに最高!でもやっぱちょっともどかしい、そんなアルバムでございます!

 

1. Wonderful Wonderful
2. The Man
3. Rut
4. Life to Come
5. Run For Cover
6. Tyson vs. Douglas
7. Some Kind of Love
8. Out of My Mind
9. The Calling
10. Have All The Songs Been Written?

(ボーナス・トラック)
11. Money on Straight
12. The Man (Jacques Lu Cont Remix)
13. The Man (Duke Dumont Remix)

Star Wars/wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Star Wars』(2015)wilco
(スター・ウォーズ/ウィルコ)

 

ウィルコ、通算10枚目のスタジオ・アルバム。前作から4年ぶりということでデビュー以来コンスタントにアルバムをリリースしてきたウィルコにしては随分と長いインターバル。前作の大ボリューム作からは一転してコンパクトなアルバムだけど、これが結構キャッチー。ん?キャッチーか?と疑わしげな方もいらっしゃると思いますが、いやいや、何度も聴いてると確かに派手さは無いですが粒ぞろいの良曲ばかり。僕はウィルコ史上でもかなりポップなアルバムだと思います。

と言っても世間一般で言うポップとはちょっと異なるのがウィルコならではというか。それを端的に表すのがアルバム・タイトルで、ちょうど2015年というと映画『スター・ウォーズ』の新作が久しぶりに公開されるって時期で随分と盛り上がってたんだけど、そこに『スター・ウォーズ』ってアルバム・タイトルを持ってくるこのセンス。冗談か本気かよく分からないこの感じがまたウィルコらしくていいというか、そのくせアルバム・ジャケットがどっかのお金持ちの家に飾ってあるような猫の絵っていう訳の分からなさ(笑)。この人を食ったようなポップネスこそがこのアルバムのポップネスですと言うと、なんとなく分かってもらえるだろうか。

ウィルコが一躍有名になったのは2002年の『ヤンキ-・ホテル・フォックストロット』というアルバムでノイズの混じった実験的なサウンドだったんだけど、今回は割とそれに近いというか、歪んだギターやサイケデリアなどトリッキーなサウンドが展開されている。前作、前々作の(ウィルコにしては)割とオーソドックスなサウンドのアルバムとは違い、変態的なサウンドが復活しているので、早速1曲目からニヤニヤしているウィルコのファンもいるんじゃないでしょうか。

その1曲目『EKG』はネルス・クラインを筆頭にした変則的なギター・サウンドがリードするインストルメンタル。そこに呼応するベースとドラムのリズム隊のうねり具合がまた最高です。3曲目の『ランダム・ネーム・ジェネレイター』でもアップテンポな曲をギターが引っ張っていくし、8曲目の『ウェア・ドゥ・アイ・ビギン』のようにギターとボーカルのみで進んでいく曲もあったりするので、このアルバムはひょっとしてギター・アルバムと言ってもいいのかもしれない。ウィルコはボーカルのジェフ・トゥイーディを含めたギタリスト3人体制だからギター・バンドといえばそうかもしれないけど、ここまでギターがドライブしていくってのも珍しいかも。穏やかなジェフの歌心に鬼才ネルスのおかしなギターが割り込んでくる違和感はいつもながら最高です。そういやレディオヘッドもギタリスト3人で、ジョニー・グリーンウッドっていうぶっ飛んだギタリストがいる。出てくるものは全然違うけど、何か急に近しいものを感じてきたぞ。

今回のアルバムは#5『ユー・サテライト』を除いて全て2、3分で終わる。全体としてサッと始まりサッと終わる印象だ。#3『ランダム・ネーム・ジェネレイター』や#7『ピクルド・ジンジャー』のようなスピード感もカッコイイけど、今回の山場は後半に続くスローな曲群。ジェフのぼそっとした声が穏やかなメロディと上手く溶け合ってて綺麗だ。バンドの演奏がそこに寄せてこないからこそのちょっとしたぎこちなさがかえって心地いい。やっぱ不思議なバンドだ。

 

1. EKG
2. More…
3. Random Name Generator
4. The Joke Explained
5. You Satellite
6. Taste the Ceiling
7. Pickled Ginger
8. Where Do I Begin
9. Cold Slope
10.King Of You
11.Magnetized