Junk of The Heart/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Junk of The Heart』(2011)The Kooks
(ジャンク・オブ・ザ・ハート/ザ・クークス)

 

同年デビューのアークティック・モンキーズよりも売れた1st。全英№1となった2nd。ということで、いやがおうにもハードルが高くなるクークスの3rdアルバム。ところがどっこい、期待をよい意味で裏切る素晴らしい作品となった。何がいいって、気負いことなく自然体の中から生まれてきたかのような落ち着いたポップ感が素晴らしい。シングル向けの派手な曲もなければ、過度な演出もないのだけど、その分楽曲のよさが際立っており、掛け値なしのクークスの底力が見事に発揮されている。

‘I wanna make you happy’と歌う表題曲からM3まで続く良質のポップ・メドレーの軽やかさ。そして本作で唯一アッパーな「Is it me」の後半におけるヒロイックな畳み掛け具合は流石である。

これまでのような若さに任せたスピード感がなくとも、曲の力だけで聞かせてしまう圧倒的な楽曲の良さ。すなわちそれは当たり前のことではあるが、ロック音楽といえども結局はソングライティングと的を得たサウンド・デザインにかかっているということだ。とくにどうということのない他愛のないポップ・ソング。しかしその錬度は恐ろしく高く、時の経過にも十分耐えうる作品である。これまでのイメージをするりと脱却した彼ら。もうどこへでも行けそうである。

 

Track List:
1. Junk Of The Heart (Happy)
2. How’d You Like That
4. Taking Pictures Of You
5. F**k The World Off
6. Time Above The Earth
7. Runaway
8. Is It Me
9. Killing Me
10. Petulia
11. Eskimo Kiss
12. Mr. Nice Guy

なんと言っても#8。間奏のギターソロがメチャクチャかっこいい。そこから、ラスサビではなく最初のヴァースに戻って盛り上げるところがニクイぜ。このスピード感こそがクークス!!

Where’d Your Weekend Go/The Mowgli’s 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Where’d Your Weekend Go』(2016)The Mowgli’s
(ウェアード・ユア・ウィークエンド・ゴー/ザ・モーグリス)

 

2ndがピンと来なかったからスルーしたので、今回もあまり期待はしていなかったんだけど、聴いてびっくり、スゴクいい感じになっていた。流石に1stのあの感じは1stならではというか、あまり深く考え無さそうなこのバンドでさえやっぱ2枚目ともなるとトーン・ダウンしてしまうのね、なんて思っていたのだが、今回は迷いが無いというか、彼らの持つ陽性が素直に表れていてとても気持ちのいい作品だ。やっぱり身も蓋もなく明るいのがよい。

嬉しいのは同じ陽性のポップネスといえど、今回は1stの時の凸凹した勢いというものではなく、より音楽としてしっかりしてきたというか、ちゃんと成長の跡が窺えるという点だ。それも単に落ち着いてしまったというのではなくて、鮮度が失われずにシェイプ・アップされているという印象。インナー・スリーブを見ると人数も減っているようだけど、それがいい方向に出ていたのか、相変わらず大らかにユニゾンで突っ走るところもあるけれど、適材適所というか、それぞれに明確な理由があるというのが今回受けるまとまりの良さに繋がっているのではないか。1stのインディーズっぽいとっ散らかった感もそれはそれで楽しくて好きなんだけど、これはこれで進化と言っていい。僕はこっちの方が好きかも。

そういう意味じゃ音楽的にも豊かになって表現に幅が出てきたし、例えばキーボードの扱いなんかも今までになかった類のもので、ともすれば明るいだけのポップ・ソングになりがちなところに程よい陰影を与えている。地に足の着いた本当の意味でのポップ・ソングになっているのではないだろうか。アルバム1枚30分と少しという潔さもいいし、現時点での彼らのベストと言っていいだろう。こういうのを作っちゃうと次は何でも出来る。

 

1. So what
2. Spacin Out
3. Bad Thing
4. Spiderweb
5. Automatic
6. Alone Sometimes
7. Arms & Legs
8. Freakin’ Me Out
9. Monster
10. Last Forever
11. Open Energy

#9が耳に付いちゃって離れない(笑)。

The Now Now/Gorillaz 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Now Now』(2018)Gorillaz
(ザ・ナウ・ナウ/ゴリラズ)

 

通勤中にボーっと音楽を聴くのが日課になっているのだが、このアルバムは寝不足の耳には丁度いい。特に朝っぱらからクソ暑い2018年の日本の夏にはこの気だるさがぴったりだ。そんな訳でかなり聴く頻度は増えている。ただ増えてはいるんだけど、さあ何書こうかと思えば何を書こうか上手く出てこない。簡単に言うと、そんなアルバムだ。

今さら説明するまでもないんだけど、ゴリラズってのはブラーのデーモン・アルバーンのサイド・プロジェクトで、架空のカトゥーン・キャラクターによるヴァーチャル・バンド。デーモンは現在、別プロジェクトの何とかっていうバンドでも新作を控えているらしいし、勿論ソロ・アルバムも出している。僕はよく知らないけどそれ以外の活動だってあるらしい。今はゴリラズがその中でも中核を占めていて、今やデーモン・アルバーンと言えばブラーではなくゴリラズなのかもしれない。

気だるい。特に1曲目の『Humility (featuring George Benson)』なんてホント今年の馬鹿みたいに暑い夏にぴったりだ。ほら、こう暑いと夏なのに何かいいことが起きそうな雰囲気ってないでしょ?実際大きな災害も沢山起きてるし、日本だって世界だってロクなニュースはない。だからと言って悲壮感なんてないんだけど、ただなんかねぇって。曲調もさることながら僕の頼りない英語力で聴いても気だるくって、あーなんだかなぁって歌詞だ。

前作の『Humanz』はトランプやブレグジットのことに言及して作ったアルバムで(アルバム制作中はまだトランプが大統領になる前で、仮になったとしたらみたいなノリで作ったらホントになったっていうエピソードも)、ゲストもふんだんにかなり熱量の高いアルバム。今回はそのツアーの合間に製作されたってんで、そのテンションの延長線上にあるのかなと思っていたら、実は全くの逆で高いテンションの合間のふとした一人の時間みたいな雰囲気。実際このアルバムの方向性としてはだんだん2-D(=デーモン)のソロ・アルバムにしようってなってきたようだし、そういう一人の人物の佇まいが色濃く出ているような気はする。

ゴリラズはバーチャル・バンドなわけだから、2-Dはデーモンではないし、2-Dというキャラの佇まいってことになるんだろうけど、この気だるさはやっぱデーモンの気だるさと理解してもいいんじゃないだろうか。だからゴリラズ史上、2-Dとデーモンが最も近づいたアルバムと言ってもいいのかもしれない。なんだかなぁっていう歌詞が続く中で、最終曲の『Souk Eye』で「I will always think about you」と繰り返してしまうところなんかはもうバーチャルではないのかも。

聴く方のこちらの気分としても、ちっくしょう、クソ暑いなぁ、全くしょうがねぇなぁ、ロクなことねぇなぁなんて言いながら聴くのがやっぱ正しいのだろう。あぁ、だから『The Now Now』なのか。

 

Track List:
1. Humility (featuring George Benson)
2. Tranz
3. Hollywood (featuring Snoop Dogg and Jamie Principle)
4. Kansas
5. Sorcererz
6. Idaho
7. Lake Zurich
8. Magic City
9. Fire Flies
10. One Percent
11. Souk Eye

Paramore/Paramore 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Paramore』(2013)Paramore
(パラモア/パラモア)

 

2005年デビューのパラモア、4枚目。このバンドは結構メンバーの出入りが激しいようで、結構ゴチャゴチャしとります。まぁ10代で組んだ田舎のバンドが一気に名声を得てスターダムにのし上がっていくってぇと、そりゃ我々には分からないいざこざがあったりもするでしょう。ボーカルのヘイリーさんはルックスもイケてますから、コマーシャルな部分で随分振り回されたのかもしれませんなぁ。

ただそんな中にあってもずっとパラモアとして活動していく芯の強さ、そんでも負けねぇぞ、っていう心意気がこのバンド、ていうかヘイリー・ウィリアムスの魅力でして、このアルバムは特にそんな心意気満載なのでございます。

で、このアルバム。タイトルからも分かるようにかなり力の入ったアルバムです。収録曲はボーナス・トラックを含めるとなんと19曲!結果から申し上げると、全米1位!全英1位!シングル・カットされた『Ain’t It Fun』ではなんとバンド初のグラミー賞「最優秀ロック・ソング賞」を獲得!ってことでこのアルバムは自他共に認めるパラモア最強の代表作と言えるのではないでしょうか。

まぁとにかく曲がいい!よくもまぁこれだけキャッチーな曲を揃えたなと。メンバーの出入りが激しくて、結曲誰がメインのソングライターかよく分かりませんが(ヘイリーさんは全ての作詞と一部の作曲)、いくらメンバー変更があろうといつも変わらずキャッチーな曲があるってことは、やっぱヘイリーさんの見立てが良いってことでしょうか。

ホント馴染みのいいメロディばっかで#4『Daydeream』なんて散々歌われてきた青春ロックなんですけどグイグイ来る感じがドラマチックでとてもいいんです!#9『Still Into You』や#13『Hate to See Your Heart Break』なんてかわいかった頃のテイラー・スウィフトが歌ってそうだし(今もかわいいですが(笑)、カントリーの頃って意味ね)、#19『Escape Route』のイントロなんてアジアン・カンフー・ジェネレーションじゃねーか(笑)。インタールード的な小品も含めて、ちょっとこれはって曲ないです、ホントに。

そんなグッド・メロディが、パラモアはなんつってもエモ・パンクですから(←これも分かるようでよく分からん形容ですが)、タイトな演奏で畳み掛けるようにハード・ロッキンするわけですよ。そりゃあいいに決まってるじゃあないですか!しかも歌詞が勝気でいい!例えばグラミー獲った#6『Ain’t It Fun』なんて日本風に意訳すりゃ、夢を抱いて田舎から東京に一人でやって来た女の子が、「面白いと思わない?誰も頼る人がいないなんて!」、「ぜって~メソメソ、ママに電話なんかしないし」っていう歌で、私みたいな40過ぎのおっさんが聴いてもグッと来るわけですよ。#4『Daydreaming』なんて「私は昼も夜も夢見てる」っていう歌詞ですからやっぱパラモアはとことんエモいのです。

ただまぁヘイリーさんには悪いですけど、このバンドは出たり入ったり、これからもしちめんどくさいことが起きるんじゃないかと思ったりもして。そんでもってその度に「上等じゃねぇか!」ってまた立ち上がるっていうようなパターンを繰り返すと。もうそういうの込みのパラモアってことでいいんじゃないでしょうか(笑)。

 

1. Fast in My Car
2. Now
3. Grow Up
4. Daydreaming
5. Interlude: Moving On
6. Ain’t It Fun
7. Part II
8. Last Hope
9. Still Into You
10. Anklebiters
11. Interlude: Holiday
12. Proof
13. Hate to See Your Heart Break
14. (One of Those) Crazy Girls
15. Interlude: I’m Not Angry Anymore
16. Be Alone
17. Future

 (日本盤ボーナス・トラック)
18. Native Tongue
19. Escape Route

Walk The Moon/Walk The Moon 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Walk The Moon』(2012)Walk The Moon
(ウォーク・ザ・ムーン/ウォーク・ザ・ムーン)

 

しかしまぁ暑いでんな~。天気予報を見る度に、沖縄の方が涼しいやんけ!とクダを巻いてしまう私ですが、まぁ夏ですから暑いのは当たり前っちゃあ当たり前。とは言いつつ今年はちょっと暑すぎますね。熱中症にならないように気を付けたいものです。

てことで夏といえばこの方々、ウォーク・ザ・ムーンでございます。とにかく歯切れがよい!浴衣が似合う!金魚すくいが似合う!(←完全に私のイメージです…)ウォーク・ザ・ムーン音頭でも作ってもらいたいぐらいなもんです。爽やかっていうよりこうなりゃ暑いまま行っちゃえ、てことでイメージとしちゃウルフルズ。トータス松本ばりのシャウトも決まって、夏祭りがすごーく似合うご機嫌なバンドでございます。

一応ギター・バンドってことでいいのかな。シンセも目に付いて、80’S感もあったりしますが、夏ですから細かい事は気にしないでおきましょう。まぁこのバンドはそれぐらい適当でいいのです。ただ侮るなかれ、ただの能天気なバンドではないんですね~。ご機嫌さんなのは表向きで実は水の中で必死に足を掻いているパターン。そうなんです。この辺りもトータスのパーソナリティに似ている気がする実は繊細な方々なのです(多分…)。

その辺はまぁ聴いてりゃ分かりますね。ちゃんと影があるっていうか、だからこそ大声を上げるって訳で、4曲目の『Anna Sun』なんてすごーく切ないじゃないっすか。必殺の彼らを代表する素晴らしい曲ですが、やっぱ影があってこそのアンセムなわけです。ちょっとふざけたようなバンドでも締めるとこはきちっと締める。その辺の緊張と緩和を使い分ける様なんざ往年のキン肉スグルやね。

この4曲目と続く5曲目『Tightrope』の流れは本作の聞きどころ。ちょっぴり切なくなったところで、スターンッと一気にスピードを上げる展開は最高っす。『Tightrope』の1番が終わったところで聴けるシャウトがまたカッコいい~!更にその次の#6『Jenny』は往年のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのよう。私のようなアラフォ-世代はニヤッとしてしまいますな。うん、やっぱ個人的には#4~#6が山場かな。

サウンド的には、時折印象的なギターがかき鳴らされるものの割りと大人しめ。ボーカルに負けないくらい、もう少しド派手に行ってもよかったかな。と思っていたら2015年に出た2作目はガッと行ってました(笑)。とにかくいいメロディがあって、歯切れが良くって、妙に愛嬌がある。サウンドは全然異なりますが、やっぱポジション的にはウルフルズに近いかも。暑苦しいんだか、爽やかなんだかよく分かりませんが、夏にもってこいのバンド。皆さん、今年の夏はウォーク・ザ・ムーンで乗り切りましょう!

 

Track List:
1. Quesadilla
2. Lisa Baby
3. Next In Line
4. Anna Sun
5. Tightrope
6. Jenny
7. Shiver Shiver
8. Lions
9. Iscariot
10. Fixin’
11. I Can Lift A Car

Islands/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Islands』(2018)Ash
(アイランズ/アッシュ)

 

例えばレディオヘッドやアークティック・モンキーズは新しいことにチャレンジしていって、ロック音楽の可動域をどんどん広げていく。かたやアッシュはデビュー以来変わらず愛嬌のあるポップ・チューンを奏で続けている。それが意図的なものではなく自然発生的な創作意欲に駆られた結果だとすれば、出てくるものは違うけど、音楽への向かい方はどちらも同じと言えるのではないか。対外的な評価で言えばレディオヘッドな方がスゲエってなるけど、いやいや、ずーっとおんなじことやって未だに飽きさせないアッシュも凄いです。

アッシュだってそりゃ当然その時々で新しい取り組みはあったろうけど、基本的にはティム・ウィーラーのソング・ライティングでグイグイ押してくる。しかもロック・バンドにありがちな原点回帰とか意図的にシンプルにしようぜっていうことではなくて、自然とそうなっちゃう。多分それがいつまでも鮮度を失わない秘訣かもしれないけど、20年以上やってこの初々しさはやっぱ不思議。ティム・ウィーラー恐るべし!

1曲目『True Story』からして特にどうということはないんだけど、このどうということにないメロディを聴かせてしまう技ってのは一体なんなんだろか。2曲目『Annabel』、3曲目『Buzzkill』は分かりやすいアッシュ節。そうそうこんな感じよねっていうパワー・ポップなんだけど、4曲目『Confessions in the Pool』は一転ダンス・ポップ?っていう雰囲気。曲的には同じフレーズを繰り返すだけなんだけど、ちゃんと起承転結があって最後はギターがジャ~ンでやっぱこれやろみたいな(笑)。こういう愛嬌もアッシュの魅力だ。

6曲目『Don’t Need Your Love』はサビを「I don’t need your love」のひと言で持っていくワンフレーズ・サビ。こういうのって実は難しくて、しょぼくなってしまいがちだけど、この曲ではグッと高揚感が高まっていい感じ。ワンフレーズにキラキラとした感性を込められるのはやっぱ初期衝動ならではだと思うんだけど、もうとっくに初期衝動ではないところで曲を作っているアッシュがいとも簡単にやってのけるのはやっぱロック七不思議のひとつかもしれない(あとの6つは知らんけど)。

全部で12曲あってどれも特別に大げさでもなく込み入っている訳でもなくシンプルなメロディですぅーっと行くんだけど、どの曲にも何気に聴かせどころというのがあって、そこにちょっとしたチャームが含まれている。このどうということないメロディにちゃんと愛くるしさが含まれているのには何か勘所があるというか秘訣があると思うんだけど、ちょっとティムさん、「ロック作曲講座」なんてのをやってくれないかな(笑)。

僕は『フリー・オール・エンジュルズ』(2001年)と『メルトダウン』(2004年)以来真面目に聴いてこなかったんだけど、こりゃちょっと反省しないとだな。いい年ぶっこいて(ティムはもう40過ぎ!)未だにキラメキを封じ込められるんだから、もう返す言葉も御座いません!!

 

1. True Story
2. Annabel
3. Buzzkill
4. Confessions in the Pool
5. All That I Have Left
6. Don’t Need Your Love
7. Somersault
8. Did Your Love Burn Out?
9. Silver Suit
10. It’s a Trap
11. Is It True?
12. Incoming Waves

Waiting for the Dawn/The Mowgli’s 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Waiting for the Dawn』(2013)The Mowgli’s
(ウェイティング・フォー・ザ・ドーン/ザ・モーグリス)

 

8人編成の大所帯バンド。過去にEP盤はリリースしていたみたいだけど、これが初のフル・アルバム。作詞作曲は全員、ボーカルも全員、楽器も特に取り決めがないような感じで、とにかくバンド始めようぜ!てな勢いが満載だ。

ほとんどの曲を全員で歌っていることもあってとにかく賑やか。クレジットを見ると、バンジョーやらフィドルなんて文字も。マムフォード・アンド・サンズとまではいかないが、アコースティックなサウンドでジャカジャカ攻めてくる。そうかと思うと、ギター・ポップな曲があったり、シンセが絡んできたり、はたまたカントリー調になったり、ほんとゴチャゴ混ぜ。でもこういうゴチャゴチャ感は結構好き。

歌詞も至ってシンプル。難しい顔してないで顔を上げて行こうてな具合。なんてったってオープニング・チューンが『San Francisco』ていうくらいだから、その陽気さというのは窺い知れる。その楽天性は未熟さ、或いは若さゆえという人もいるかもしれないが、そんなことは元より承知。彼らのそれは分別めかした連中への陽気なカウンター。つまりそれがロックンロールということだ。

『Slowly,Slowly』みたいな疾走系から『Emily』みたいなかわいい系もあって結構楽しめる。女性ボーカルが一人混じっているのもいいアクセント。疾走系ナンバーが結構あって、それをみんなで合唱するなんてのはあまり聞いたことが無いのでとても新鮮。若さに任せてアクセルが徐々に上がってゆくこの感じはファーストならでは。こういうのって年取ると、やろうと思っても出来ないんだよなあ。

とにかく明るくって楽しくって、暑い夏にはもってこいの作品。演奏もアレンジも申し分なく、このまま身も蓋もないまま突き進んでほしい。サマソニあたりに来てくんないかな。

 

1. San Francisco
2. Slowly, Slowly
3. Waiting for the Dawn
4. Love Is Easy
5. Clean Light
6. Time
7. Emily
8. The Great Divide
9. Say It, Just Say It
10. Leave It Up to Me
11. Carry Your Will
12. Hi, Hey There, Hello
13. We Are Free

Little Dark Age/MGMT 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Little Dark Age』(2018)MGMT
(リトル・ダーク・エイジ/MGMT)

 

NY出身のポップ・デュオによる5年振りの4thアルバム。僕は彼らの音楽を聴くのが今回が初めてなので、元々どういう音楽を指向していた人たちなのかよく知らないが、このアルバムに関して言えば、非常にポップであるものの、ポップというオブラートに包みきれない彼らの世界観があちこちに滲み出していて、それがこのアルバムの印象を決定付けているような気はする。

サウンド的はもう思いっ切り80年代というか、当時のMTVに彼らの音楽が混じっても違和感ないというか、1曲目の『 She Works Out Too Much』の最後でサックスがブロウ・アップするところなんて思わずニヤッとしてしまう。3曲目『When You Die』とか4曲目『Me And Michael』なんて思い出せないけどどっかで聴いた感満載だ。ただそのサウンド・デザインもそこを狙ったという訳ではなさそうで、彼らとしては今回の曲をどう響かせるかという流れの中で自然にそうなっていったというか、この辺りはもう’10年代の特権というか、昔がどうとか今はどうとかお構いなしにいいものはそれ貰いって素直に採用できる自由さがあって、それが結果的にもろ80年代になろうが、彼らとしちゃああそうですかって程度のもので、それが実は1曲目ほど全体は明るくはないのだけど、全体を通してのこのアルバムに感じる風通しの良さにも繋がっているのではないだろうか。

ただ風通しが良いからといって、全てがスムーズに流れていく訳ではなくて、全体としてはポップなアルバムなんだけど、それぞれの曲のタイトルを見ても分かるようにどこかでダーク・サイドを引きずって行くような手触りがあるのも確か。例えば、君が裏切っても僕は落ち込まないよとでも言うような、もうそんなことは始めからデフォルトで設定されているといった重い現実認識が背後に横たわっているのは結構重要だ。

チャーミングなメロディは普通にアレンジすれば楽しいポップ・アルバムになりそうだが、そうは出来ないところはもう体がそうなっちゃってんだから仕方がない。てことで我々は不穏な時代に生きているのかもしれないけど、それも彼らにしてみれば少しやな時代ってこと。逆に言えば、それぐらいやな時代ってことかもしれない。『Little Dark Age』とはよく言ったものだ。

信じられるものは実はそんなにない世の中で、そんなものさと嘘ぶくか、それともそれに抗うか。5年振りにアルバムを出したってことはそういうことだろう。てことで捉えどころのないバンド(ユニット?)ではあるが、これはやっぱりロックなアルバムなのである。

 

1. She Works Out Too Much
2. Little Dark Age
3. When You Die
4. Me And Michael
5. TSLAMP
6. James
7. Day That Got Away
8. One Thing Left To Try
9. When You’re Small
10. Hand It Over

Tranquility Base Hotel & Casino/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018)Arctic Monkeys
(トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ/アークティック・モンキーズ)

よい音楽を聴くと語りたくなるというか、それが一筋縄ではいかない音楽であれば尚のこと自分なりの視点、私はこういう風に思うんですっ、てのを語りたくなる。例えて言うと、レディオヘッドなんて正にそんな感じ。このアークティック・モンキーズの新作もそんな語りたくなる作品で、もしグラミーに「語りたくなるアルバム賞」なんてのがあれば、間違いなくノミネートされるのではないでしょうか。

トランクイリティ・ベースというのはアポロ11号の月着陸船が着陸した場所である月面の“静かの海=トランクイリティ・ベース”のことで、このアルバムはその名前を冠した‘ここではない何処か’にある架空のホテルでの群像劇。もうこれだけで語りたくなる度満載ですな(笑)。

タイトルに「カジノ&ホテル」と付いているようにやっぱ只のホテルではないんですね~。ある種、ギャンブル依存症とでもいうような、或いはドラッグを思わせる現実と幻想のはざまを行き来する、正気とジョージ・オーウェルの『1984』(もしくは歌詞に「頭蓋骨に直接パーティーを接続している」とあるように映画『マトリックス』)を思わせるディストピア、かえってその心地よさに足を踏み入れる、いや正気に戻る、そのような不穏な世界へ行き来する様、その境界線上を漂う世界とでもいうようなアルバム、ていうか、もうこうやって書いてるだけでトリップしそうです(笑)。

つまり今回のロック音楽の仕様とはそれこそ宇宙的にかけ離れたゴージャスでサントラめいたサウンド、あちこちでこんなのロックじゃねぇなどと言われたりもしているそうですが(そうですが、って周りに洋楽談義出来る人がいないので、あくまでのネット上での話です…)、これはその設定に則ったサウンドであり、ありうべくして鳴らされたサウンドなのでございます!

このアルバムでのアレックス・ターナーのボーカルは演劇的だ。一部ポエトリー・リーディングを思わせるものもあって、正直とっつきにくいです(笑)。しかも演劇ですから粘っこいです。吉本新喜劇でいうところの末成由美並みの粘っこさでございます。ただまあこれが逆に言うと異様にメロディが立っているとも言える訳で、非常にメロウ!人体と同期したようなメロディとでもいうか、恐らくそう感じるのはそれが言葉、或いはフレーズ、或いは物語自体に元々備わったメロディだからということで、つまりは言葉に内包されたメロディを引き出してゆく、素直に身を委ねていくことが、今回のギターではなくピアノのみで行われたアレックスのソングライティングだったのではないでしょうか。これはもう作曲とは言わないかも。ある意味ボブ・ディラン的といいますか、完全に言葉に憑依してますね(←言葉とメロディが同期しているという意味で)。

それに対してバンドはどうしていくか?バンドもまた、素直にアレックスの紡いだ物語の進行に沿ってそれに見合う音を当てていく。もう派手なリフで曲全体をリードしていく必要は無くって、それこそ演劇の第1幕、第2幕とでもいうように物語に光と影を当てる。このアルバムのサントラめいた余韻は恐らくそういうことではないかなと。

しかしそれは単に曲に柔順という意味ではなく、時に荒々しく、時にはみ出そうとする演奏はバンド・メンバーそれぞれが独立した詩人であり、それぞれがそれぞれの思うところを朗読しているからこそ。音の壁(=ウォール・オブ・サウンド)。言ってみれば、スペース・ポエトリー・カフェ。ここにあるのは紛れてしまわない自立したサウンドなのです。ボーカルは物語り、バンドも物語る。もうそこに境界線はないのです!

架空のホテルで繰り広げられる群像劇は最後の11幕、『The Ultracheese』で‘いつもの場所’に戻る。そこは古きよきアメリカ。しかし命のともしびはもう残りわずかだ。主人公は壁にかかった友人の写真を見上げる。しかしそこに映っているのは果たして友人の姿なのか或いは…。ひぇ~、これ完全にSFや~ん。

アレックス・ターナーはかつて「ロックンロールは死なない」と発言した。2018年にもなって、ロックンロール音楽を前に押しやろうとするバンドがいる。こんなに嬉しいことはない。レディオヘッドがそうであったように、この訳の分からない音楽は圧倒的にスケールがデカく、圧倒的に正しい!!

 

1. Star Treatment
2. One Point Perspective
3. American Sports
4. Tranquility Base Hotel & Casino
5. Golden Trunks
6. Four Out Of Five
7. The World’s First Ever Monster Truck Front Flip
8. Science Fiction
9. She Looks Like Fun
10.Batphone
11.The Ultracheese

So Long, See You Tomorrow/Bombay Bicycle Club 感想レビュー

洋楽レビュー:

『So Long, See You Tomorrow』(2014)Bombay Bicycle Club
(ソー・ロング・シー・ユー・トゥモロゥ/ボンベイ・バイシクル・クラブ)

 

英国出身の4人組。デビュー・アルバムから少しずつチャートを上げ、このアルバムではついに全英№1を獲得したそうだ。繊細なアレンジやその風貌と相まって、イメージとしちゃ文系ロック・バンドといった感じかな。

本作に取り掛かる前に、メイン・ソングライターであるジャック・ステッドマンは海外を旅したそうで、本作にはそのことが色濃く影響しているとのこと。日本やトルコにも訪れたらしく、オリエンタルな要素もちらほら。バンド名からして「ボンベイ~」っていうくらいだし、オリエンタルと言っても中国とか香港ではなく東南アジアやインド、トルコといったイメージ。アルバムのアート・ワークも東洋的だ。但し東洋趣味にありがちな変な神秘主義はないし、メロディ主体のさわやかな英国ロック。流れるようなメロディは大河を漂うようで、聴いている方も一緒に旅をしているような気分になる。そんな移動を感じさせるアルバムだ。

このバンドを特徴づけているのが女性ボーカル。ゲスト扱いのようだけど、いつも参加しているようなので準メンバーといったところかな。#6『ルナ』なんて、彼女なしでは成立しえない楽曲だ。ただでさえ流麗なメロディが際立ち、一段も二段も表現の幅が広がっている。ジャックとの相性も抜群だ。バンドの演奏も的確だし、飛び抜けた何かでアピールするというのではなく、コーラスも含めたあくまでもアンサンブル主体。なるべく目立たないように歌うボーカリストらしからぬジャック・ステッドマンも含めたバンド全体のムードが心地よい。

楽曲自体の魅力もいいのだけど、そこにメロウなフレーズのリフレインが被さって更なる相乗効果。ちょっと切ない胸キュンフレーズが抜群である。それでいてハードな部分もポップな部分も過剰にならないし情緒にも流れてしまわないまま、オリエンタルなフレーズと共に全体のバランスとして飛び込んでくる。好感度の高いアルバムだ。

アルバム・ジャケットは人が一人で歩き続ける姿を輪廻をモチーフに描かれている。そしてカバーを開けると、CDの盤面に同じイラストが。しかしそこに描かれているのは二人のシルエットだ。人は一人だという認識と、それでも人は誰かと共にいるという理解。そのことをほのかなイメージに乗せて歌う彼らのスタイルはとてもリアルなものだ。

派手さはないけど、真っ直ぐで地に足の着いたアルバム。あまり知られてはいないけど多くの人に是非聴いてもらいたい。そんなアルバムだ。

 

1. Overdone
2. It’s Alright Now
3. Carry Me
4. Home By Now
5. Whenever, Wherever
6. Luna
7. Eyes Off You
8. Feel
9. Come To
10. So Long, See You Tomorrow