Waiting for the Dawn/The Mowgli’s 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Waiting for the Dawn』(2013)The Mowgli’s
(ウェイティング・フォー・ザ・ドーン/ザ・モーグリス)

 

8人編成の大所帯バンド。過去にEP盤はリリースしていたみたいだけど、これが初のフル・アルバム。作詞作曲は全員、ボーカルも全員、楽器も特に取り決めがないような感じで、とにかくバンド始めようぜ!てな勢いが満載だ。

ほとんどの曲を全員で歌っていることもあってとにかく賑やか。クレジットを見ると、バンジョーやらフィドルなんて文字も。マムフォード・アンド・サンズとまではいかないが、アコースティックなサウンドでジャカジャカ攻めてくる。そうかと思うと、ギター・ポップな曲があったり、シンセが絡んできたり、はたまたカントリー調になったり、ほんとゴチャゴ混ぜ。でもこういうゴチャゴチャ感は結構好き。

歌詞も至ってシンプル。難しい顔してないで顔を上げて行こうてな具合。なんてったってオープニング・チューンが『San Francisco』ていうくらいだから、その陽気さというのは窺い知れる。その楽天性は未熟さ、或いは若さゆえという人もいるかもしれないが、そんなことは元より承知。彼らのそれは分別めかした連中への陽気なカウンター。つまりそれがロックンロールということだ。

『Slowly,Slowly』みたいな疾走系から『Emily』みたいなかわいい系もあって結構楽しめる。女性ボーカルが一人混じっているのもいいアクセント。疾走系ナンバーが結構あって、それをみんなで合唱するなんてのはあまり聞いたことが無いのでとても新鮮。若さに任せてアクセルが徐々に上がってゆくこの感じはファーストならでは。こういうのって年取ると、やろうと思っても出来ないんだよなあ。

とにかく明るくって楽しくって、暑い夏にはもってこいの作品。演奏もアレンジも申し分なく、このまま身も蓋もないまま突き進んでほしい。サマソニあたりに来てくんないかな。

 

1. San Francisco
2. Slowly, Slowly
3. Waiting for the Dawn
4. Love Is Easy
5. Clean Light
6. Time
7. Emily
8. The Great Divide
9. Say It, Just Say It
10. Leave It Up to Me
11. Carry Your Will
12. Hi, Hey There, Hello
13. We Are Free

Little Dark Age/MGMT 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Little Dark Age』(2018)MGMT
(リトル・ダーク・エイジ/MGMT)

 

NY出身のポップ・デュオによる5年振りの4thアルバム。僕は彼らの音楽を聴くのが今回が初めてなので、元々どういう音楽を指向していた人たちなのかよく知らないが、このアルバムに関して言えば、非常にポップであるものの、ポップというオブラートに包みきれない彼らの世界観があちこちに滲み出していて、それがこのアルバムの印象を決定付けているような気はする。

サウンド的はもう思いっ切り80年代というか、当時のMTVに彼らの音楽が混じっても違和感ないというか、1曲目の『 She Works Out Too Much』の最後でサックスがブロウ・アップするところなんて思わずニヤッとしてしまう。3曲目『When You Die』とか4曲目『Me And Michael』なんて思い出せないけどどっかで聴いた感満載だ。ただそのサウンド・デザインもそこを狙ったという訳ではなさそうで、彼らとしては今回の曲をどう響かせるかという流れの中で自然にそうなっていったというか、この辺りはもう’10年代の特権というか、昔がどうとか今はどうとかお構いなしにいいものはそれ貰いって素直に採用できる自由さがあって、それが結果的にもろ80年代になろうが、彼らとしちゃああそうですかって程度のもので、それが実は1曲目ほど全体は明るくはないのだけど、全体を通してのこのアルバムに感じる風通しの良さにも繋がっているのではないだろうか。

ただ風通しが良いからといって、全てがスムーズに流れていく訳ではなくて、全体としてはポップなアルバムなんだけど、それぞれの曲のタイトルを見ても分かるようにどこかでダーク・サイドを引きずって行くような手触りがあるのも確か。例えば、君が裏切っても僕は落ち込まないよとでも言うような、もうそんなことは始めからデフォルトで設定されているといった重い現実認識が背後に横たわっているのは結構重要だ。

チャーミングなメロディは普通にアレンジすれば楽しいポップ・アルバムになりそうだが、そうは出来ないところはもう体がそうなっちゃってんだから仕方がない。てことで我々は不穏な時代に生きているのかもしれないけど、それも彼らにしてみれば少しやな時代ってこと。逆に言えば、それぐらいやな時代ってことかもしれない。『Little Dark Age』とはよく言ったものだ。

信じられるものは実はそんなにない世の中で、そんなものさと嘘ぶくか、それともそれに抗うか。5年振りにアルバムを出したってことはそういうことだろう。てことで捉えどころのないバンド(ユニット?)ではあるが、これはやっぱりロックなアルバムなのである。

 

1. She Works Out Too Much
2. Little Dark Age
3. When You Die
4. Me And Michael
5. TSLAMP
6. James
7. Day That Got Away
8. One Thing Left To Try
9. When You’re Small
10. Hand It Over

Tranquility Base Hotel & Casino/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018)Arctic Monkeys
(トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ/アークティック・モンキーズ)

よい音楽を聴くと語りたくなるというか、それが一筋縄ではいかない音楽であれば尚のこと自分なりの視点、私はこういう風に思うんですっ、てのを語りたくなる。例えて言うと、レディオヘッドなんて正にそんな感じ。このアークティック・モンキーズの新作もそんな語りたくなる作品で、もしグラミーに「語りたくなるアルバム賞」なんてのがあれば、間違いなくノミネートされるのではないでしょうか。

トランクイリティ・ベースというのはアポロ11号の月着陸船が着陸した場所である月面の“静かの海=トランクイリティ・ベース”のことで、このアルバムはその名前を冠した‘ここではない何処か’にある架空のホテルでの群像劇。もうこれだけで語りたくなる度満載ですな(笑)。

タイトルに「カジノ&ホテル」と付いているようにやっぱ只のホテルではないんですね~。ある種、ギャンブル依存症とでもいうような、或いはドラッグを思わせる現実と幻想のはざまを行き来する、正気とジョージ・オーウェルの『1984』(もしくは歌詞に「頭蓋骨に直接パーティーを接続している」とあるように映画『マトリックス』)を思わせるディストピア、かえってその心地よさに足を踏み入れる、いや正気に戻る、そのような不穏な世界へ行き来する様、その境界線上を漂う世界とでもいうようなアルバム、ていうか、もうこうやって書いてるだけでトリップしそうです(笑)。

つまり今回のロック音楽の仕様とはそれこそ宇宙的にかけ離れたゴージャスでサントラめいたサウンド、あちこちでこんなのロックじゃねぇなどと言われたりもしているそうですが(そうですが、って周りに洋楽談義出来る人がいないので、あくまでのネット上での話です…)、これはその設定に則ったサウンドであり、ありうべくして鳴らされたサウンドなのでございます!

このアルバムでのアレックス・ターナーのボーカルは演劇的だ。一部ポエトリー・リーディングを思わせるものもあって、正直とっつきにくいです(笑)。しかも演劇ですから粘っこいです。吉本新喜劇でいうところの末成由美並みの粘っこさでございます。ただまあこれが逆に言うと異様にメロディが立っているとも言える訳で、非常にメロウ!人体と同期したようなメロディとでもいうか、恐らくそう感じるのはそれが言葉、或いはフレーズ、或いは物語自体に元々備わったメロディだからということで、つまりは言葉に内包されたメロディを引き出してゆく、素直に身を委ねていくことが、今回のギターではなくピアノのみで行われたアレックスのソングライティングだったのではないでしょうか。これはもう作曲とは言わないかも。ある意味ボブ・ディラン的といいますか、完全に言葉に憑依してますね(←言葉とメロディが同期しているという意味で)。

それに対してバンドはどうしていくか?バンドもまた、素直にアレックスの紡いだ物語の進行に沿ってそれに見合う音を当てていく。もう派手なリフで曲全体をリードしていく必要は無くって、それこそ演劇の第1幕、第2幕とでもいうように物語に光と影を当てる。このアルバムのサントラめいた余韻は恐らくそういうことではないかなと。

しかしそれは単に曲に柔順という意味ではなく、時に荒々しく、時にはみ出そうとする演奏はバンド・メンバーそれぞれが独立した詩人であり、それぞれがそれぞれの思うところを朗読しているからこそ。音の壁(=ウォール・オブ・サウンド)。言ってみれば、スペース・ポエトリー・カフェ。ここにあるのは紛れてしまわない自立したサウンドなのです。ボーカルは物語り、バンドも物語る。もうそこに境界線はないのです!

架空のホテルで繰り広げられる群像劇は最後の11幕、『The Ultracheese』で‘いつもの場所’に戻る。そこは古きよきアメリカ。しかし命のともしびはもう残りわずかだ。主人公は壁にかかった友人の写真を見上げる。しかしそこに映っているのは果たして友人の姿なのか或いは…。ひぇ~、これ完全にSFや~ん。

アレックス・ターナーはかつて「ロックンロールは死なない」と発言した。2018年にもなって、ロックンロール音楽を前に押しやろうとするバンドがいる。こんなに嬉しいことはない。レディオヘッドがそうであったように、この訳の分からない音楽は圧倒的にスケールがデカく、圧倒的に正しい!!

 

1. Star Treatment
2. One Point Perspective
3. American Sports
4. Tranquility Base Hotel & Casino
5. Golden Trunks
6. Four Out Of Five
7. The World’s First Ever Monster Truck Front Flip
8. Science Fiction
9. She Looks Like Fun
10.Batphone
11.The Ultracheese

So Long, See You Tomorrow/Bombay Bicycle Club 感想レビュー

洋楽レビュー:

『So Long, See You Tomorrow』(2014)Bombay Bicycle Club
(ソー・ロング・シー・ユー・トゥモロゥ/ボンベイ・バイシクル・クラブ)

 

英国出身の4人組。デビュー・アルバムから少しずつチャートを上げ、このアルバムではついに全英№1を獲得したそうだ。繊細なアレンジやその風貌と相まって、イメージとしちゃ文系ロック・バンドといった感じかな。

本作に取り掛かる前に、メイン・ソングライターであるジャック・ステッドマンは海外を旅したそうで、本作にはそのことが色濃く影響しているとのこと。日本やトルコにも訪れたらしく、オリエンタルな要素もちらほら。バンド名からして「ボンベイ~」っていうくらいだし、オリエンタルと言っても中国とか香港ではなく東南アジアやインド、トルコといったイメージ。アルバムのアート・ワークも東洋的だ。但し東洋趣味にありがちな変な神秘主義はないし、メロディ主体のさわやかな英国ロック。流れるようなメロディは大河を漂うようで、聴いている方も一緒に旅をしているような気分になる。そんな移動を感じさせるアルバムだ。

このバンドを特徴づけているのが女性ボーカル。ゲスト扱いのようだけど、いつも参加しているようなので準メンバーといったところかな。#6『ルナ』なんて、彼女なしでは成立しえない楽曲だ。ただでさえ流麗なメロディが際立ち、一段も二段も表現の幅が広がっている。ジャックとの相性も抜群だ。バンドの演奏も的確だし、飛び抜けた何かでアピールするというのではなく、コーラスも含めたあくまでもアンサンブル主体。なるべく目立たないように歌うボーカリストらしからぬジャック・ステッドマンも含めたバンド全体のムードが心地よい。

楽曲自体の魅力もいいのだけど、そこにメロウなフレーズのリフレインが被さって更なる相乗効果。ちょっと切ない胸キュンフレーズが抜群である。それでいてハードな部分もポップな部分も過剰にならないし情緒にも流れてしまわないまま、オリエンタルなフレーズと共に全体のバランスとして飛び込んでくる。好感度の高いアルバムだ。

アルバム・ジャケットは人が一人で歩き続ける姿を輪廻をモチーフに描かれている。そしてカバーを開けると、CDの盤面に同じイラストが。しかしそこに描かれているのは二人のシルエットだ。人は一人だという認識と、それでも人は誰かと共にいるという理解。そのことをほのかなイメージに乗せて歌う彼らのスタイルはとてもリアルなものだ。

派手さはないけど、真っ直ぐで地に足の着いたアルバム。あまり知られてはいないけど多くの人に是非聴いてもらいたい。そんなアルバムだ。

 

1. Overdone
2. It’s Alright Now
3. Carry Me
4. Home By Now
5. Whenever, Wherever
6. Luna
7. Eyes Off You
8. Feel
9. Come To
10. So Long, See You Tomorrow

アークティック・モンキーズの『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい

その他雑感:

アークティック・モンキーズの新作、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい。最初聴いた時はこりゃまた厄介なのが来たぞ、しょーがねぇなという感じだったんだけど、何回か聴いてるとこれは凄い作品だなと。もうしばらく聴いてからちゃんとレビューを書くつもりですが、とりあえず今の感想を。

この作品、あまりにも一般的なロックンロールのフォーマットから離れているから賛否両論のようだけど、理屈は抜きにしてカッコいいんだからそれで済ませてしまえばいいんじゃないだろうか。

ヴィンテージSFというか古いんだか新しいんだか分からないサウンドと、これまた近未来小説か歴史小説かとでも言うような相反する要素を詰め込んだブッ飛んだ歌詞。これがとんでもなく素晴らしい。

この訳の分からなさを正しいと思わせる説得力はどこから来ているのか。こういう訳の分からないラジカルな音楽が王道を行くロック・バンドから出て来たのが嬉しい。

Bread And Circuses/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bread And Circuses』2011)The View
(ブレッド・アンド・サーカシズ/ザ・ビュー)

 

UKギター・ロックの雄、ザ・ビューのサード・アルバム。これだけ何の但し書きも必要のないロック・バンドも珍しいんじゃないだろうか。同世代のアークティック・モンキーズのような派手なインパクトはないかもしれないが、逆に言うと今の時代、オーソドックスなロックでありながらキチンと聴き手にまで届く力を有するということ事態が驚くべきことなのかもしれない。中でもこのアルバムの飛距離は半端ない。

言ってみれば、それは初期衝動のなせる業かもしれないが、彼らの場合それだけではすまされない音楽的基礎体力が背景にあるように思う。しかもそれは気をてらったものではなく、ポップ・ソングの王道を行くものであり、同時に僕たち自身に「あぁ、なにも突飛なことをしなくても、格好いいんだ」ということを改めて気付かせてくれる。結局それが一番難しいんだけどね。

とにかくもう、屈託なく鳴らされるひとつひとつの楽曲が素晴らしく、メロディが頭にこびりついて離れない。正面から取り組まれているアレンジも楽曲の良さがあってこそなのだろう。キーボードにしてもストリングスにしても特に際立ったアレンジでもないのだが、こうも効果的なのは何故なのだろう。恐らくそれは、彼らのボーカルを含めた演奏力の確かさと、加えて音楽を良く知っているということに尽きるのではないだろうか。今どきこれだけシンプルにカッコイイ音を出せるロック・バンドはそうはいない。

しかし彼らにしてみれば、本作は少しウェル・プロデュースが過ぎた模様。確かに1作目2作目と比べればやんちゃくれ感は乏しいが、このまとまりの良さはそれを補って余りある。カイル・ファルコナーの愛嬌のあるメロディが前面に出てとてもいい感じだ。うん、やっぱ飛距離が半端ない。

次のアルバムではウェル・プロデュースを嫌って原点回帰を目論むのだが、結果が付いてくるのはむしろこっちか。何気にすごい作品だけど、彼らなら普通にやれゃこれぐらいはやる。

 

1. Grace
2. Underneath the Lights
3. Tragic Magic
4. Girl
5. Life
6. Friend
7. Beautiful
8. Blondie
9. Sunday
10. Walls
11. Happy
12. Best Lasts Forever

Ropewalk/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ropewalk』(2015)The View
(ロープウォーク/ザ・ビュー)

 

3年ぶり、5枚目のオリジナル・アルバム。デビュー以来、ずっと疾走感のある溌剌としたサウンドでここまで来た彼らではあるが、クークスやアークティックがそうだったように、いつまでもデビュー当初のスタイルが続いてく訳でもなく、3年のブランクがあったということは彼らは彼らで新しい扉を開けたいという欲求があったんだと思う。所々に音楽的偏差値の高さを見せながらも、よくもまあこれだけ続くなあっていうくらい、ご機嫌なロック・チューンを奏でてきた彼らだけど、今回のプロデューサーはストロークスのギタリストにストロークスのプロデューサー。ということでこれまでの熱さから一転、ストロークスばりの低体温のサウンドになっている。

曲の方は相変わらず素晴らしい。デビューして8年経っても一向に枯れることなく、UKロック直系のメロディもあって、粗っぽかった前作よりずっといい。もう初期衝動ではないところで今だにこれだけシンプルないい曲が書けるってのは素直に凄いことだ。

ただやっぱりこのサウンドは物足りないんだよなあ。元々アコースティック・ギターも上手に使う人たちだけど、どうせならもっとドタドタ感があってもいいし、もっとこうグワッとした感じが欲しい。まあストロークスがそうだから今回はそういう狙いだったんだろうけど、それにしてもちょっと食い足りない。焦点ぼやけちゃってる感は否めない。

エレキ・ギターをかき鳴らし、アクセル一杯まで開けてシャウトするっていうのはベタかもしれないけど、一番難しかったりするわけで、それをいとも簡単にやってのけるところに彼らの魅力はある。今回も後ろの音がどうなっていようが、相変わらずカイルは派手にシャウトしているし、やっぱりこのボーカルには電気的に増幅されたギュンギュン言ってるギターを当てて欲しいというのが素直な感想。曲がいいだけに少し残念。

僕は好きだし地味にいいアルバムだけど、ファン以外への訴求力があるかといえばちょっと厳しいかも。みんなそんなじっくりと聴いてくれないぞ。あとバンドの姿勢として分からなくはないけど、ギタリストの下手なボーカル曲は正直要らない。にしても一番疾走感のある#6でそれをしなくても(笑)

 

1. Under The Rug
2. Marriage
3. Living
4. Talk About Two
5. Psychotic
6. Cracks
7. Tenement Light
8. House of Queue’s
9. Penny
10. Voodoo Doll

フェニックス ジャパン・ツアー2018 Zepp 大阪ベイサイド 感想

ライブ・レポート:

Phoenix  Japn  tour  2018 in Zepp Osaka Bayside

 

4月27日(木)にZepp大阪ベイサイドで行われたフェニックスのライブに行って参りました。もう素晴らしいの一言。いつものことながら最初から最後までテンション上がりっぱなし。圧巻のパフォーマンスでした。

19時開演、サポートアクトの「ねごと」のライブでスタート。女の子4人組のエレクトロ・ポップ・バンドというのかな。4つ打ちが多くていかにもな感じでしたが、ラス前の曲は良かったです。最前列のおっかけとおぼしきファン数名のテンションが凄かった(笑)。彼らは最後までいたのかな?ねごとのライブはちょうど30分きっかりで終了。真面目な方たちです。頑張ってほしいですね。お客さんのマナーもよくて、ねごとのことはよく知らないだろうに(私もですが…)、それでもスマホをいじることなく体を揺らしながらちゃんと聴いていました(笑)。やっぱこういうのがいいですね。

そこから約30分後、ステージの準備も整い暗転し、遂にフェニックスのメンバーが登場!すかさず始まりました!最新アルバム『Ti Amo』のオープニングを飾る『J-Boy』だ!

『J-Boy』もオシャレで素敵過ぎるんですが、こっからが凄かった。これもうアンコール!?っていうぐらいのテンションでひっくり返りそうになりました(笑)。『Lasso』に『Entertainment』と来て『Lisztomania』。この流れはもう笑うしかないでしょう。『Lasso』のサビも、チャイナな出だしで始まる『Entertainment』のイントロも凄いのなんのって。この曲の盛り上がり方はハンパなかったッス。更に盛り上がったのが『Lisztomania』。イントロが始まった時の大歓声と言ったらもう。勿論、サビは大合唱しましたよ。ちゃんと予習してったもんね。

しかしまあドラムのマッチョな人(スミマセンッ、名前知らなくて)の叩きっぷりは凄いね!もうドラムセット壊れるんじゃないかっていうぐらいで、飛び跳ねながらぶっとい腕で叩いてました(笑)。その横で太鼓やその他の楽器を静かに演奏してる神父さんみたいな髭モジャのおじさんとの対比がなかなかのツボでした(笑)。

『Everything Is Everything』があったり、『Consolation Prizes』あったりでまさにオール・タイム・ベストなセトリ。盛り上がってばっかで忙しかった中にインスト曲の『Sunskrupt!』が挟まる展開も良かったです。と言ってもこの曲はエレクトロ組曲てな仕上がりでまた別の高揚感。これはこれで存分に聴かせてくれました。そして本編最後は『If I Ever Feel Better』で締め。しまった、この曲を予習すんの忘れてた。サビは客に歌わすってやつね。代表曲なのにすっかり抜けてしまいました(笑)。

ここで一旦終了。5分ぐらい挟んでアンコールです。まず出てきたのはボーカルのトーマとギタリストのローラン。そういえばローランさん、いつもギターの位置がスゴイ上なのが気になっていましたが、この日ももちろん窮屈そうなお馴染みのスタイル。ついでに言うとこの方、チャーミングな方でちょいちょいおふざけを放り込んできます(笑)。

で二人で静かに歌うは『Goodbye Soleil』。オリジナルもいいけど、この曲はこういうパターンもはまりますね。手前味噌でアレですが、この曲に触発されて私、当ブログでちょっとしたお話、「さよならソレイユ」ってのを書いていますので、どうぞそちらもよしなに…。

『Telefono』ではラブ・ラブ・トークの部分を黒電話でリーディングする演出も。CDではイタリア語で「Pronto」って言うところを「もしもし」って言ってくれました!続いて『Consolation Prizes』でまたテンション上がって、必殺の『Fior di latte』。タイトルどうりのあま~いラブ・ソングがたまりません。物凄い多幸感ですな。続いてこれもとっておきの『1901』。もうそろそろ最後だってのはみんな分かってるし、更に輪をかけての物凄い爆発力でした。

で最後の最後は『Ti amo di più』。要するにトーマがフロアに下りてくるための曲です(笑)。揉みくちゃにされながらも嬉しそう。割と近くだったので僕も急いでそっちへ向かい、体触ったり、サラサラヘアをぐしゃぐしゃっとしちゃいました(笑)。手すりの上を歩いて最後はお神輿状態。ステージに戻る時には足が上になってました(笑)。とまあ、こんだけやりゃあいいでしょうという感じで正に大円団。お腹一杯、お客様満足度100%の素晴らしいライブでした。

しかしまあお客さんのスパークもハンパなかった(笑)。1曲1曲が嬉しくてしょうがないっていうか、この日を待ちに待ったというか、それでいて濃ゆーい感じは一切なくて、自由でオープンな雰囲気。例えばビール片手に気だるく踊る人がいたり、ずっと手を挙げて気持ちよく踊ってる人がいたり、ジャンプしてる人がいたりと皆が思い思いに好きなように楽しんでいる様子がとてもいいのです。で終始みんな笑顔。そんなライブ滅多にないかも。

ただそれもフェニックスの面々が楽しそうだからで、仕事で来ましたじゃなくて、ステージ上の彼らも笑顔だし、そりゃこっちも笑顔になるし、彼らが自由でオープンだからこっちもそうなるし、でそれが彼らにも伝わるからもう多幸感スパイラルがハンパないのです!僕は過去にサマソニで2回、彼らのステージを観てその度にこんな多幸感を感じるライブはもうないだろうなぁと思っていましたが、今回のフルセットのライブは更にそれを上回りました!かっこいいライブ。感動的なライブ。色々あると思いますが、楽しいライブと言えばフェニックスに勝るものはございませんっ!!

ちなみに客層を見渡すと女子の方が多かったかな。しかも若い子が多い!2000年デビューの中堅バンドにこれだけ若い女子が集まるなんて!いや~、凄いっす。恐るべし、フェニックス!

それにしてもあのフェニックスが1000人程度のライブハウスで観れるなんて。いやー、こりゃ日本ならではというか、ここは素直にお得感満載ということで喜びましょう。

そーいやトーマさん、「おーきに」って言うてはりましたで!

 

セット・リスト:
1. J-Boy
2. Lasso
3. Entertainment
4. Lisztomania
5. Everything Is Everything
6. Trying to Be Cool
7. Tuttifrutti
8. Rally
9. Too Young
10. Girlfriend
11. Sunskrupt!
12. Ti amo
13. Armistice
14. Rome
15. If I Ever Feel Better

(アンコール)
17. Goodbye Soleil
18. Telefono
19. Consolation Prizes
20. Fior di latte
21. 1901
22. Ti amo di più

Superorganism/Superorganism 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Superorganism』(2018) Superorganism
(スーパーオーガニズム/スーパーオーガニズム)

 

少し前から話題のバンドがある。名前はスーパーオーガニズム。メンバーは8人で今はロンドンで同じ屋根の下、共同生活をしているそうだ。国籍もまばらで英国、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、そしてボーカリストでリリックを書いているのは17歳の日本の女の子、オロノだ。

年齢も国籍も異なる若者がインターネットを介して知り合い、実際に会うことなく曲を作り上げ、それをネットに上げたところ、フランク・オーシャンやヴァンパイア・ウィークエンドのエズラの目に留まり一躍脚光を浴びて今に至るという。この辺になるともう想像がつかない(笑)。

ただ共同生活をしているといえども、分かりあえないことが大前提というか、そんなことは当たり前でデフォルトとしてそこにある、そりゃそうですよ、っていう感じ。つまり色んなアイデンティティーを持った人たちが寄り集まって一人では出し得ないようなアイデアを皆で出しあって創作していくことを全面的に信頼はしているけど、そこに固執していないというか、何より創作の自由さを重んじるフラットさというか風通しの良さが、その若さでもうそんな感じなのって。普通はそういうことを経験を通して知っていくんだろうけど、それをもう達観してしまっているというか、大げさに言えば我々人類の集合知が一足跳びに始めから彼らには備わっているような、大げさに言えばこれはもう新しい人類だなと感じざるを得ない。

つまり資本主義とか個人主義っていいことだって教わってきたけど、それってホントかなっていうこれまでの常識が疑われつつある世界で、或いはインターネットが生まれてあらゆるものの境界線や速度が格段に早くなった世界で、仮に人類が新たな段階へ変容しつつあるとすれば、彼らはその第一世代ということなのかもしれない。

口に出すことを憚れるような震災のことをリリックにしたり、或いは日本の緊急速報アラームをサンプリングしたりということを自然にやってしまえる胆力と無垢さを併せ持った強さは若さ故か。これが若者の単なる無邪気さに過ぎないのか、そこになにがしかの人々が拠って立つ新しい世界の前触れがあるのかは誰にも分からない。しかし彼らは若さゆえの圧倒的な正しさに自覚的だ。

プロデューサーも立てずに好き放題鳴らしているサウンドに目を奪われがちだが、そうした意匠もただの借り物。出入り自由でどう変容していくかもわからないバンドの行く先は当人たちも分からないだろう。しかしガチャガチャとしたサンプリングの向こうにあるのはポップ・ソングという強固なメロディだ。

そんな自分たちのことをアンディ・ウォーホールの芸術工房、「The Factry」になぞらえたり、スーパーオーガニズム(超有機体)と名付けてしまうセンスにはもう脱帽するしかない。リリックの中にはデイドリームという言葉があちこちに見受けられて、これも彼らキーワードなのかもしれないが、アルバムの最後に一番にポップな曲を持ってきて、その最後の最後で目覚ましのピピピピッて音が入って、オロノの欠伸があって、小鳥のさえずりで終わるっていうセンスといいもう完璧過ぎる。

 

1. It’s All Good
2. Everybody Wants To Be Famous
3. Nobody Cares
4. Reflections On The Screen
5. SPRORGNSM
6. Something For Your M.I.N.D. 
7. Nai’s March
8. The Prawn Song
9. Relax
10. Night Time

 

Telefono/Noname 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Telefono』(2016)Noname
(テレフォーノ/ノーネーム)

近頃はもっぱらスマホで音楽を聴く機会が増えてきた。家はWiFiだし、電車の中もWiFiフリーだしつい気軽にスマホで聴いてしまうというのは自然な流れなのかもしれない。ということでCDを買う行為が随分と減ってきたわけだけど、中にはCD自体を出していないアーティストもいるわけでこのノーネームもそのうちの1人だ。

近頃僕はチャンス・ザ・ラッパーにはまっていて、Youtubeで聴いていると彼に関連する音楽がわんさか紹介されてくる。その流れでノーネームを知ったんだけど、先ず目に留まったのがカワイイ絵のアルバム・ジャケット。CDでの販売はないので、ジャケットと言っていいのかよく分からないけど、このジャケットが可愛いくて、けれど女の子の頭の上にドクロの絵があったりして、しかも名前が‘Noname’っていうもんだから、そりゃ気になるでしょって感じ。で聴いてみたらとってもいい音楽で、調べてみるとどうやらチャンスさんと同じシカゴ出身で、二人は高校生の時から知り合いのようでした。

でチャンスさんはラップなんだけど、ノーネームの方は高校時代からポエトリー・リーディングを色んなところで披露していたとかで(←米国にはポエトリー・カフェとか気軽に参加できる詩の朗読の場がたくさんあるようで、うらやましい限りです)、それが回り回ってチャンスさん繋がりでラップをすることになったっていう。チャンスさんのアルバムにも参加しているし、なんかそういうのっていいエピソードですな。ちなみに当初は‘Noname Gipsy(ノーネーム・ジプシー)って名乗ってたそうで、これはこれで素敵な名前です。

で名前がノーネームだからって訳じゃないでしょうが、この人もやっぱ自分自身の個人的な心情をラップするっていうんじゃなくて基本はストーリー・テリング。僕は英語をちゃんと訳せないからそれがどこまで正しいかは分からないけど、みんなの歌を歌いたいというか、こういう人たちがいてこういう景色があってっていうことを切り取っていく、歌にしていく、そういうような立ち位置の人のような気がします。

そこのところの優しい眼差しっていうのがやっぱチャンスさんと共通していて僕なんかは聴いていていいなぁと思ったりするんだけど、それでも穏やかなサウンドで優しくラップしていくといえども現実はかなり困難で、例えば#7『Casket Pretty』なんて「All of my niggas is casket pretty(友達はみんな棺桶の中)」で始まって、‘casket’ってのは棺桶、そこに‘pretty’が付いてるからこれは子供だろうと。曲の中盤では「Roses in the road, teddy bear outside(バラの花が道端に、そしてテディベアのぬいぐるみ)」っていう事だからやっぱ子供なんだなと。僕が可愛い絵だなって思ったジャケットの絵はそういうところにも繋がっていて、シカゴで生まれ育って今もそこにいる彼女はそういう世界にいるんだということがここで突き付けられてくるわけです。

9曲目の『Bye Bye Baby』は堕胎についての歌で、最初のヴァースは堕胎する母親の視点、2つめのヴァースは堕胎される赤ちゃんの視点。それを暗く悲しく歌うのではなく、優しく愛おしく歌う彼女のラップは月並みだけど愛を感じるというかポジティヴな温かみを感じるというか、だからこそグッと来るのです。

てことで詩をどんどん知りたくなってくる訳だけど、ここがCD販売されていないつらいところ。ネットにリリックはアップされてるんだけどいかんせん英語…。英語がもっとできたらなぁと思う今日この頃でございます(笑)。

あと、トラックもチャンスさん一派ということでオシャレでセンス抜群です。#1『Yesterday』のコーラスなんて最高に気持ちいい。意外と早口でまくしたてるところもあったりで彼女のフロウもスムーズでなかなかのもの。ライムも心地よくて楽しいし、総じて彼女の人柄が出ているような素晴らしいアルバムです。

 

1. Yesterday
2. Sunny Duet
3. Diddy Bop
4. All I Need
5. Reality Check
6. Freedom (Interlude)
7. Casket Pretty
8 .Forever
9. Bye Bye Baby
10. Shadow Man