High Hopes/Bruce Springsteen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『High Hopes』 (2014)  Bruce Springsteen

 

14枚目のオリジナル・アルバム。この時点で65歳くらいだと思うけどこの人はホント多作。90年代は創作自体も少なく名前をあまり聞かなくなっていたが、2002年の『ライジング』以降はほぼ2年おきに新作をリリース。それがまたどれも話題作になっちゃうんだから凄い。

このアルバムはライブの定番曲を改めて録音したものや、ツアーの合間にインスピレーションが湧いて録音したもの、そして過去の未発表曲から成る。以前『トラックス』という膨大な未発表曲集をリリースしたけど、そういうのが今も増え続けているということか。で近年のものを集めたところひとつのオリジナル・アルバムとし成立したというような格好だ。

なかにはカバーがあったりするし、勿論新譜もいくつかある。そこで思うのはこの人はとことん音楽が好きなんだなということ。古い曲でも新しい曲でも、思いついたらEストリート・バンドのみんなを集めて録音したくなっちゃう。勿論シリアスな曲も書くけど、基本は「ロックンロールしたい」ってことなんだろう。表題曲の『ハイ・ホープス』なんてほんとそんな感じがする。

経緯もあってか本作は軽い物からシリアスなものまで多種多様。歌詞を見ると深刻なものもあるが、あまりそうした印象は残らない。このアルバムは大きく取り上げられたトム・モレロのギターが影響しているとのことだが、僕にはそのことよりもメロディの良さに目が行ってしまう。#5『ダウン・イン・ザ・ホール』や#9『ハンター・オブ・インヴィジブル・ゲーム』なんかは歌詞だけをみるとかなりヘビーだが、メロディの力とそれに伴うサウンド・デザインが全てを包み込んでいる。中でも『ハンター・オブ・インヴィジブル・ゲーム』の美しさは白眉だ。

これだけの名声があっても根はローカル・ヒーローのままというか、実際ふらりと地元のライブ・ハウスに現れるみたいだし、どれだけ巨大になろうと本質的には近所のロックンロールおやじに過ぎないということ。僕がスプリングスティーンを好きなのもただそれだけのことだ。

そしてその近所のおやじは近所のうまくいかないひとが放っておけないたちで、だけど強引に何かをするっていう人でもなく意外とシャイだったりするし。だから具体的に何かするわけではないんだけど、目線がどうしてもそっちにいっちゃうんだな。政治的な歌を歌う人という捉えられ方をしがちだが、実際は身の回りの人々から目が離れないというだけ。いくら暑苦しく歌おうが、うさん臭くならず皆に支持され続けているというのはそういうことなんだと思う。本作を代表する#3『アメリカン・スキン(41ショット)』が心を打つのも、国に対する異議申し立てではなく、身近な人たちへの深い眼差しがあるからだ。

未発表曲の中には他界したダニー・フェデリーシやクラレンス・クラモンズの演奏も含まれている。そういう理由でセレクトした訳ではないんだろうけど、ここにスプリングスティーンの思いを感じることも出来る。

このアルバムをひと言で言うと、『ハイ・ホープス』で始まり、『ドリーム・ベイビー・ドリーム』で終わるとということ。このこと自体がこのアルバムを象徴している気がする。

追記:初回限定盤には2013年に行われた『ボーン・イン・ザ・USA』の全曲再現ライブのDVDが特典として付いている。ちゃんと字幕付きなのが嬉しい。やっぱりスプリングスティーンの音楽は歌詞も魅力のひとつだから。中身の方は言わずもがな。もう凄いとしか言いようがない。こんなの見ると他のも欲しくなるよなぁ。

 

Tracklist:
1. High Hopes
2. Harry’s Place
3. American Skin (41 Shots)
4. Just Like Fire Would
5. Down in the Hole
6. Heaven’s Wall
7. Frankie Fell in Love
8. This Is Your Sword
9. Hunter of Invisible Game
10. The Ghost of Tom Joad
11. The Wall
12. Dream Baby Dream

When We All Fall Asleep, Where Do We Go?/Billie Eilish 感想レビュー

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『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』(2019)Billie Eilish
(ホエン・ウィ・オール・フォール・ア・スリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー/ビリー・アイリッシュ)

 

驚くほどシンプルでエレガントなメロディは、両親の影響でビートルズを聴きまくったというところに由来するのかと老人はつい言いたくなってしまうが、2019年にもなってそれはないだろう。勿論、その影響はアリにせよ。

元来作為的なものを排除する性質なのか。作為の無い始めからそこにあったかのようなメロディは、ソングライター・チームのあの手この手の入ったメロディには無い自然美がある。と思うのはビリーと兄フィネアス・オコネルに関するバイアスがかかっているせいか。それにしても兄妹が生み出すメロディのエレガントなこと。まるでアレックス・ターナーのようだ。

そこに被さる、声を張らない歌唱力が魅力のビリー・アイリッシュの声との親和性は見事。しかも「私は王になる」と言いながらもまるで他人事のようなリリック!!

そしてビリーの囁く声がロックの様相を帯びているのはシンプルでキャッチーなメロディ故という円環。兄妹が作り出すサウンドとボーカルはバンド・サウンドでドカンとやってしまえる精度だ。エレクトリカルなサウンドでありながら、デイヴ・クロールやトム・ヨークがこぞって称賛する理由はそこにあるのではないか。兄妹にとってはどうでもいいことだろうけど。

しかしそのトラックとビリーの声の近さは宅録故の成果。大掛かりになればなるほど手元から遠ざかるのは恐怖そのもの。真実と言い切れるものはやはり手の届く範囲でしかない。しかしビリーはこの時17歳。囁くようなボーカルもミニマルなサウンドもこれから幾らでも変わり続けるだろう。

勿論彼女は降って沸いた天才ではないが、自らをBad Guyと言いながら、ドラッグもタトゥーも要らないと言う意志の強さは眩しいったらありゃしない。この正しさには抗えない。

 

Tracklist:
1. !!!!!!!
2. Bad Guy
3. Xanny
4. You Should See Me in a Crown
5. All the Good Girls Go to Hell
6. Wish You Were Gay
7. When the Party’s Over
8. 8
9. My Strange Addiction
10. Bury a Friend
11. Ilomilo
12.
Listen Before I Go
13. I Love You
14. Goodbye

 (日本盤ボーナス・トラック)
15. Come Out and Play
16. When I Was Older

Father of the Bride/Vampire Weekend 感想レビュー

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『Father of the Bride』(2019)Vampire Weekend

 

オーウェルやディックが描いたディストピアとは車が空を飛ぶようになったり、アンドロイドが街を闊歩するようになってからだと思っていたが、実はそうではないらしい。17歳のビリー・アイリッシュが「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」と歌うように、僕たちはもうその世界へ片足を突っ込んでいるのかもしれない。

6年ぶりに出たヴァンパイア・ウィークエンドの『Father of the Bride』はエズラ・クーニグと並ぶ主要ソングライターの一人であるロスタム・バトマングリが脱退してから初めてのアルバム。彼らのメロディの多くがロスタムの手によるものと聞いて、彼らの新しいアルバムはどういう風になるのか少し心配していたが、当のエズラは大した悲壮感も無く相変わらず活動は続けていたし、確かにバンドのスクラッチ・アンド・ビルドというか、立て直しの時期はあったにせよ、バンドとしてのモチベーションはそのままに、きっと沢山曲を書いていたんだろうなというのがこのアルバムを聴くとよく分かる。

こっちが勝手に心配していた曲の方も、今までもエズラが全部書いてたんじゃないのっていうぐらいヴァンパイア・ウィークエンドしているし、ていうか今まで以上にチャーミングなメロディが溢れている。と思うのは僕だけだろうか。このバラエティ溢れるチャーミングなメロディの源泉は何なんだろう?

とりわけその明るさ、全体を通しての風通しの良さはこれまでと比べても相当上がっているようで(今までも風通しは良かったが)、それは恐らく、リズムを刻む細かなギターの音からベースからシンセから何から何まで、楽器のひとつひとつがちゃんとセパレートされていて、それでいていっせーのーでっドンッで録ったかのような爽やかさでこちらに届いてくるからだとも思うが、それも当然エズラの意識したものなんだろう。

打って変わって歌詞の方は相当ヘビーだ。アルバムからの先行シングルとなった清々しい朝のような#2『Harmony Hall』でさえ「I don’t wanna live like this, but I wanna die / こんな風に生きたくないけど、死にたくない」と歌われるし、アルバム屈指のポップ・チューン#3『This Life』でも「Am I good for nothing? / 僕は何の役にも立たないのか?」と歌われる。それはもう、最初から最後までそんな調子だ。

どう見ても頭の良さそうなエズラ・クーニグは今の世界のありようを素晴らしいものだとは捉えていないはずだ。にもかかわらず、相変わらずエズラは深刻な顔をしちゃいない。恐らくそれはここ2,3年になってようやく騒ぎ始めた僕たちよりもずっと前から、エズラは世界のありようを認識していたから。だから「I can’t carry you forever,but I can hold you now / 君をこの先ずっと支えることは出来ないけど、今は抱きしめることはできるよ」(by #1『Hold You Now』)としか言えないし、「There’s no use in being clever,it don’t mean we’ll stay together / 賢明でいようとすることが、僕らがずっと一緒にいることを意味しない」(by #15『We Belong Together』)としか言えないのだ。しかしそれは悲観することでも何でもない。裏を返せば、今この時には真実があるということだから。

裏切るとか、分かり合えないとか、嘘をつくとかそんなことはもうデフォルトとして横たわっていて、それでもシニカルに皮肉めいた物言いではなく、このアルバム全体が陽気なトーンで貫かれているのは、いくら賢明でいようがそれがこれから先もずっと一緒なんだということを意味しないにせよ、この瞬間には真実は山ほどあるという一点が揺るぎないものとして存在しているからではないか。

高慢チキでやるせない世の中であっても、エズラ・クーニグは深刻な顔はしない。それはディストピアに片足を突っ込んだ世界であろうが、「今は抱きしめることはできる」と言った今この瞬間には間違いなく真実があるということを、エズラはずっと前から知っているからだ。

 

Tracklist:
1. Hold You Now (feat. Danielle Haim)
2. Harmony Hall
3. Bambina
4. This Life
5. Big Blue
6. How Long?
7. Unbearably White
8. Rich Man
9. Married in a Gold Rush (feat. Danielle Haim)
10. My Mistake
11. Sympathy
12. Sunflower (feat. Steve Lacy)
13. Flower Moon (feat. Steve Lacy)
14. 2021
15. We Belong Together (feat. Danielle Haim)
16. Stranger
17. Spring Snow
18. Jerusalem, New York, Berlin

 (日本盤ボーナス・トラック)
19. ヒューストン・ドバイ
20. アイ・ドント・シンク・マッチ・アバウト・ハー・ノー・モア
21. ロード・ウルリンズ・ドーター (feat.ジュード・ロウ)

デイヴ・マシューズ・バンドをご存じ?

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デイヴ・マシューズ・バンドをご存じ?

デイヴ・マシューズ・バンド(Dave Matthews Band)をご存知でしょうか?1991年に結成された米国のバンドです。日本では殆ど知られておりませんが、米国では大層な人気で、スタジオ・アルバムは3作目『Before These Crowded Street』から昨年リリースされた9作目『Come Tomorrow』までなんと7作連続で Billboard チャート初登場№1を記録しています。ま、米国の国民的バンドと言ってもいいですな。

てことで大陸的で大雑把な音楽と思われそうですが、これが実に細やかなバンドでして。というのも編成が少し特殊です。ギターを兼務するボーカルにドラムとベース。そこにサックスとバイオリン。ね、変でしょ?

バンドは1991年に結成されたのですが、きっかけはフロント・マンのデイヴ・マシューズがジャズ・バーでバーテンとして働いていた頃にそこの出演者に声を掛けたというものらしく、だもんで普通のロック・バンドの音楽的背景としても珍しい成り立ちです。またメンバーが黒人3人に白人2人というのもこのバンドの個性に大きく影響しているのではないでしょうか。

つーことで、演奏が上手いです。上手いだけじゃなく出自がそんなですから、かなり奇妙なサウンドを展開します。一般的なロック・バンドではないですね。それこそジャズっぽいこともやるし、R&Bは勿論のことカントリー、ハードロック、何でもござれ。でも彼らの最大の魅力はそういう何でも出来るとか演奏が上手いということではないんですね。僕もライブDVD持ってますが、単純に楽しいんです。若い女の子から白髪のおっさんまでいろんな世代が観に来てて、本当に楽しそうに踊ってるんです。

演奏が上手いから、一応ジャム・バンド的な扱われ方をしますが、そう言われるとなんか演奏に酔ってる、やたら長いインプロビゼーション(←即興演奏のことです)が待ってて、好きな人はいいでしょうけど、普通の人は退屈っていうイメージがありますよね。でも彼らはそうじゃないんです。ちゃんと間奏部分にもチャーミングなメロディがあって強弱があって、面白いことやるんです。だから、ちょっと世間のイメージとは違うかもしれませんが、僕としては遊園地みたいな人たちという印象ですね。例えばこの曲、1枚目のスタジオ・アルバムに収録されている『Ants Marching』なんですけど、後半のワクワク感が最高です。

あとこれは米国的かもしれないけど、パワーで押し切るところが圧倒的なんです。茫然とするというか、あまりに熱量が凄くて、聴いた後は放心状態になる。しばらくしてから拍手が起きるみたいな。『見張塔からずっと(All Along the Watchtower)』なんかはその典型です。

これはボブ・ディランの曲です。色んな人がカバーしてて、この曲で言えばジミ・ヘンドリックスが有名ですが、デイヴ・マシューズ・バンドの『見張塔からずっと』もすんごいです。

余談ですが、ディランはこの曲以外にも本当にたくさんの曲がいろんなミュージシャンにカバーされていて、ディランはあの独特のぶっきらぼうな歌い方ですから、勘違いされやすいんですけど、実は類まれなメロディ・メイカーなんです。他の人がやってるのを聴くとそれがよく分かります(笑)。

デイヴ・マシューズ・バンド。色々あって今はだいぶメンバー構成が変わりましたが、今も変わらずカッコいいです。ただ、来日することはほぼないでしょう(笑)。言ってみればU2がちっちゃいライブ・ハウスでやるみたいなもんですから、それってまずあり得ないわけでして。ま、それぐらい日米の温度差が激しいってことです。にしても音楽誌に一向に出てこないのは謎やな。

Big Whiskey & The GrooGrux King/Dave Matthews Band 感想レビュー

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『Big Whiskey & The GrooGrux King』(2009)Dave Matthews Band
(ビッグ・ウィスキー・アンド・ザ・グルーグラックス・キング/デイヴ・マシューズ・バンド)

 

たまに海外では大層な人気なのに日本ではからきし認知されていないバンドがいるが、デイヴ・マシューズ・バンドはその最たるもの。確か何年か前にライブ動員数だったかライブ収益だったかの年間世界一になったと思うが、日本じゃほとんど知られていない。昨年出たアルバムが7作連続の全米№1になったそうだが、それでも日本じゃほとんど知られていない。加えて日本の主要音楽誌にもほぼ載らないという不思議なバンドです。

ちょこっと紹介すると、デイヴ・マシューズ・バンドというのは南アフリカ出身のデイヴ・マシューズがバーテンとして働いていたジャズ・バーの出演メンバーに声を掛け結成したバンド。ドラム、ベース、ギターにサックスとバイオリンという一風変わった編成で、白人2名と黒人3名という構成も大きな特徴かもしれない。

兎に角演奏が上手い!半端なく上手い!ライブでは1曲が10分近くなることもしばしばで、所謂ジャム・バンドと言えるのかもしれないが、根がサービス精神旺盛なバンドなので疲れません。楽しいです。そんな彼らの近年の代表作がこれ。『Big Whiskey & The GrooGrux King』です。

1曲目の「Grux」はサックスによる短いインスト。ま、イントロですな。そのサックスを担当しているのはリロイ・ムーア。残念ながら、バンドとして7作目にあたるこのアルバムがリロイ・ムーアの遺作となってしまいます。交通事故に遭われたんですね。リロイ・ムーアの愛称が GrooGrux King ということですから、このアルバムの名は彼に捧げられたもの、という風に解釈できます。

厳かなサックスで始まる導入部から2曲目の「Shake Me Like a Monkey」は一気にテンションMAX!!これ聴いて何とも思わない人はいるんでしょうかっていうくらいなファンキー・ダイナマイト・ナンバー。もう、すんごいです。どこがどうっていちいち挙げてたらキリないぐらい聴きどころ満載というか、でもそうもいかないんで、一応挙げときます。

先ずボーカルに注目してみよう。デイヴさんはギターも超絶に上手いんですが、歌もめちゃくちゃ上手い!しかも技が豊富!裏声だったりがなり声だったり、スキャットも多用しますし、キン肉マングレートかっていうぐらいの技を持ってます。で言葉の乗せ方が独特なんですね。ラップのように早口でまくしたてる時もあれば大股に舵を切ったりと縦横無尽。いやこの曲だけじゃないんですが、デイヴさんのボーカルに集中して聴いてみるのもいいと思います。なんじゃこれ!?とたまげることうけあいです。

あとこの曲で注目したいのはドラムです。カーター・ビューフォードと言う人です。この人のドラムもすんごいです。いわゆるロックなドラムではないし、手数がやたら多い早叩きでもないんですが、踊っちゃってるんです、ドラムが。さっきボーカルがラップっぽい時があると言いましたが、ドラムもそうかもしれないですね。ドラムがラップしてるというか跳ねちゃってるんです。この独特のリズム感というか叩きっぷりは癖になりますね。ホント独特。特に最後の畳み掛けるドラム捌きは何回聴いてもシビれます!

次の「Funny the Way It Is」からは落ち着いた曲が続きますが、このアルバムの山場は後半です。これぞデイヴ・マシューズ・バンドとでも言うような凄まじい熱量を発するのは後半です。特に素晴らしいのが「Squirm」。もうロック・オペラですね。デイヴさんが囁くように歌って静かに始まりますが、その時点で既に不穏な空気満載。サビは得意のがなり声。2番を過ぎたあたりから、大きく耳に飛び込んでくるのはストリングス。まるでドラキュラ伯爵でも登場したかのような危機感煽るアレンジ。ギャー!おそろしやー!って感じです。

もうね、ストリングスがうねるんです。まぁロックにストリングスはありがちっちゃあありがちなんですけど、こういう使い方は聴いたことないですね。それに伴い他の楽器も上や下やらあちこちから雪崩れ込んできてカオスです。もう無茶苦茶です。カオスです。でもカオティックなロック・パノラマが最高にカッコいい。で最後はなにやらアラビアンな楽器で終わるという最後までカオス。

その後、「Alligator Pie」、「Seven」、「Time Bomb」と続きますが、もう全部転調してます。メロディ途中で変わります。もう上手すぎ!それでもちゃんとそれぞれに違った色がありますから聴いてて面白いんですね。だから熱量はハンパないけど疲れない。強弱があって楽しいメロディがいっぱいだから聴いてて飽きないんです。

デイヴ・マシューズ・バンド。聴いたことある人少ないと思いますけど、聴けばちょっとびっくらこくと思います。一応の形あるじゃないですか。ドラムはこんな感じで、ギターリフはこんな感じでっていうロックの形が。もうそういうの、全部ひっくりかえさります。ドラムで言えば一回もそういう風に叩かないです。ずっと変則プレイです。もうこの人達は変態ですね。

その変態たちが最高にスパークしてる代表作がこの『『Big Whiskey & The GrooGrux King』。あ、最後の「You & Me」は普通にメロウなラブ・ソングです。こういう素敵な曲を最後に持ってくるところなんか完全に確信犯ですね。

 

Tracklist:
1. Grux
2. Shake Me Like a Monkey
3. Funny the Way It Is
4. Lying in the Hands of God
5. Why I Am
6. Dive In
7. Spaceman
8. Squirm
9. Alligator Pie
10. Seven
11. Time Bomb
12. Baby Blue
13. You & Me

Lonely Avenue/Ben Folds and Nick Hornby 感想レビュー

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『Lonely Avenue』(2010)Ben Folds and Nick Hornby
(ロンリー・アヴェニュー/ベンフォールズ・アンド・ニック・ホーンビィ)

 

ベン・フォールズとニック・ホーンビィによるコラボレーション・アルバム。ニック・ホーンビィという人は英国の著名な作家で、幾つかの作品がハリウッドで映画化されているそうだ。そんなことは全く知らないが、英国人らしい皮肉やユーモアを交えながら素晴らしい詩を紡いでいる。そしてそこに曲を付け、表情を与えるのがロッキン・ピアノ・マン、ベン・フォールズ。とても素晴らしいメロディ・メーカーであり、サウンド・デザイナーである。

その詩の内容はとりわけ特別なテーマを描くのではなく、僕たちの隣人の物語。例えば、大晦日の夜を病気の息子と病院で過ごす母親の心象風景『Picture Window』。副大統領候補の娘と付き合ったばっかりにマスコミの格好の餌食となった青年のため息『Levi Johnston’s Blues』。お互いささやかな幸せを掴みつつも、一向に巡り合えないソウル・メイツを描く『From Above』。どれも人生つまずきながらも、なんとかやりくりしていこうとする人々の日常を切り取ったもので、まるで良質の短編映画を観るよう。

良い悪いの判断も、彼らがどうなったかもとりあえずは横に置いておいて、ただ彼らの動く様子をカメラで追ってゆく。そんな俯瞰的な描写が好い。しかしながら、作者の登場人物に対する愛情は多量である。

彼ら登場人物を更に活き活きと動き回らせるのが才能豊かなピアノ・マン、ベン・フォールズ。ニック・ホーンビィが登場人物を温かく見守る親なら、ベン・フォールズは彼らの肩を叩く友人といったところか。彼らがしっかり歩いてゆけるよう、珠玉のメロディで道を照らしている。

本作で僕が最も好きなのは『Claire’s Ninth』。「もう、最低!」と歌うところは本当にスクール・ガールのよう。この曲の主人公はティーン・ネイジャーだが、曲によっては年老いたミュージシャンであったり、作家であったり老若男女問わず様々。どれも素晴らしいストーリー・テリングと色彩豊かなサウンド・デザインで幅広く奥行き深く楽しむことが出来る。シリアスなストーリーが多かったりもするのだが、あくまでもポップに。そこがまたいい。

日本盤ボーナストラックとして最後に『Picture Window』のポップ・ヴァージョンが収められている。ストリングスとピアノによる本編とは異なるバンド・サウンドだ。歌詞がシリアスな分、ポップなサウンドとの落差にかえって胸が締め付けられる。本編は絶望を幾分和らげるためにストリングスというオブラートを掛けたのかもしれない。

 

Tracklist:
1. A Working Day
2. Picture Window
3. Levi Johnston’s Blues
4. Doc Pomus
5. Your Dogs
6. Practical Amanda
7. Claire’s Ninth
8. Password
9. From Above
10. Saskia Hamilton
11. Belinda
(日本盤ボーナストラック)
12. Picture Window(Pop Version)

Amnesiac/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Amnesiac』(2001)Radiohead
(アムニージアック/レディオヘッド)

 

今こうやって聴いてみると、さして違和感はない。メロディアスな曲が多いからだろうか。生の楽器がちゃんと聴こえるからだろうか。恐らくもう、2019年に至って、トム・ヨークのブルースに僕たちが追い付いたからだろう。憂いに満ちた世界がデフォルトとして横たわっている。当たり前のこととして暮らしている。そういうことかもしれない。

ブルース。エレクトロニカだったり、ジャズであったり、ストリングスであったり、音の背景は色々あるだろうが、これはもうトム・ヨークのブルースだ。ここに『KID A』の攻撃性はない。ただ地を這って横に広がってゆくのみ。トム・ヨークが憂いている。そういうアルバムだ。

だからはっきり言って、アルバム全体の印象は散漫な感じは否めない。どれもが独立して立っていて全体としてのバランスは考えてられないようだ。それはこのアルバムの背景、あの『KID A』からこぼれ落ちたもの、と考えれば合点がいく。しかし何事もつまり、こぼれ落ちたものにこそ大切なものはあるのだ。

僕はこのアルバムを聴いて嫌な感じはしない(←この表現もおかしな話だが)。ていうか心地よい。アルバム・ジャケットが物語るように『KID A』で剥かれた牙はここにはない。それになんだかんだ言って、トム・ヨークはポップな人だ。でないとあんな服装はしない。

『KID A』~『Amnesiac』期というのはテンションが振り切ったまんまのかなりのストレス状態で作られたわけだが、そうは言っても常に中指を立てていたわけではないだろう。時に憂いが吐き出されることがある。そうやって吐き出されたブルースが綺麗なメロディや豊かな音楽性によって語られる。

たまには地を這うのも悪くない。そうやって僕たちは日々のブルースをやり過ごす。

 

Tracklist:
1. Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box
2. Pyramid Song
3. Pulk/Pull Revolving Doors
4. You And Whose Army?
5. I Might Be Wrong
6. Knives Out
7. Morning Bell/Amnesiac
8. Dollars & Cents
9. Hunting Bears
10. Like Spinning Plates
11. Life In a Glasshouse

Adult Contemporary/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Adult Contemporary』(2018)Milo Greene
(アダルト・コンテンポラリー/マイロ・グリーン)

 

こういう音楽がどっから生まれたんだろうと彼らのプロフィールを確認するとLA出身だという。あぁLAなのかと意外には思うものの考えてみれば、一見フォーキーな雰囲気にもかかわらず、実際は様々なアーティストを経過したような節操の無さは確かに都会的かもしれない。LAと言っても広いから、都会とは限らないけどね。

様々なアーティストを経過と言ったけど、それは本人たちも自覚しているようで、#1「Be Good to Me」のPVでは何故かロッド・スチュワートで、#2「Young at Heart」ではブルース・スプリングスティーンが登場。80年代当時の彼らのPVを編集したものになっている。公式PVかどうかは知らないけど、だとすればなかなかのユーモア。

#6「Slow」はアルバム『トンネル・オブ・ラブ』期のブルース・スプリングスティーンで、まんま『トンネル~』に入ってそうだ。ちなみにこの『トンネル~』はかの『ボーン・イン・ザ・USA』の後のアルバムで思いっ切り地味だけど割と好きなので、僕的にはツボ。他の曲の元ネタが何かは僕にはよく分からないけど、多分その辺の隙間を突いてくる感じなんだろう。冒頭と途中に挟まれる短いインストのタイトルが「Easy Listening」というのも何か示唆的。

あとこれは前にも言ったが、彼らの音楽というのは箱とか器にみたいなもんで、その中で反響される音こそがマイロ・グリーンということになる。なので、反響させるメロディーというのは、いくら~っぽくても全く問題はない。その~っぽいメロディがどのように反響されるかが大事なのだ。つまりはマイロ・グリーンというのは入れ物で、その存在性の希薄さ、存在などはなから無かったような手応えの無さこそがマイロ・グリーンということになる。勿論これは褒め言葉です。

しかしいくら~ぽかろうが、マイロ・グリーンにしかならないところが面白い。時代とは関係なく、僕たちが今いるところとは別の世界で鳴らされる音楽。ということで、まぁベル・アンド・セバスチャンみたいなもんか。デビュー時から比べると人数は減ったみたいだけど、ベルセバのように長く活動してもらいたい。

 

Track List:
1. Easy Listening Pt. 1
2. Be Good to Me
3. Young at Heart
4. Drive
5. Please Don’t
6. Slow
7. Move
8. Runaway Kind
9. Easy Listening Pt. 2
10. Your Eyes
11. Wolves
12. Worth the Wait

Milo Greene/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Milo Greene』(2012)Milo Greene
(マイロ・グリーン/マイロ・グリーン)

 

米国出身の男女混成バンド。幾つかあったバンドが何となく集まって出来たという経緯もあってか、誰がボーカルだとか誰がギターだとかいう取り決めはないようだ。聴いていても特定の個人が前面に出てくるというのではなく、何となくマイロ・グリーンというバンドがぼんやりと浮かび上がってくるくらい。しかしその靄のかかったぼんやりとした感じこそがこのバンドの記名性と言っていいだろう。

まるで彼岸から聴こえてくるような、或いは人里離れたあるコミュニティから発せられているかのような音像は何を意味するのか。僕たちのリアルな生活とは程遠いファンタジックな音像は、聴き手の脳内でループするドラッグのように幻想的だ。幻想的な旋律は僕たちの奥深くにある遥か彼方の記憶と結びつき、訪れたことのない風景を僕たちの前に現出させる。

それはやはり幻想なのか。音楽と言うものは耳で聴くものであるが、この場合、体全体へ静かに浸透していく感覚がある。音楽を通して転写された風景はしかし聴き手個人のありよう。訪れたことのない風景であろうとそれが喚起されるのは、それが僕たちの体の中にあるもう一つの現実だから。つまり隠し切れない狂気は僕たちのもの。

マイロ・グリーンの音楽が薄ぼんやりと聴こえるのは心の内で鳴る音楽だから。体全体を通して浸透していく音像がいつも揺らめいているのはそのせいだ。言い換えれば、マイロ・グレーンの音楽を鳴らしているのは僕たち自身でもある。

 

Track List:
1. What’s the Matter
2. Orpheus
3. Don’t You Give Up On Me
4. Perfectly Aligned
5. Silent Way
6. 1957
7. Wooden Antlers
8. Take a Step
9. Moddison
10. Cutty Love
11. Son My Son
12. Polaroid
13. Autumn Tree

2019年 ヴィンテージ・トラブル ジャパン・ツアー 4月18日 梅田TRAD 感想

ライヴ・レビュー:

2019年 ヴィンテージ・トラブル ジャパン・ツアー 4月18日 梅田TRAD

4月18日(木)に大阪の梅田TRADで行われた、ヴィンテージ・トラブルのライブへ行って参りました。いや~、凄かった。史上最強のライブ・バンドと称されるのも納得。激しいのなんのって。思ったより年齢層は高かったんだけど、皆、ボーカリストのタイ・タイラーに煽られて踊りまくり。最高に楽しかったぁ。けど、クタクタ…。先ずの感想はその一言です(笑)。

梅田TRAD へは初めて行ったのですが、東梅田商店街を横にスッと入ったところにあって、目の前に来るまでライブ・ハウスとは気付かない。恐らくスマホがないと迷ってました。ありがとうグーグル(笑)。

18時30分の会場から整理番号順に入りましたが、さっきも言ったとおり年齢層は高く皆ちゃんとした大人だし、スタッフも馴れたものでスムーズに中へ入ることが出来ました。早めに入れたので前から5列目ぐらい。しかもちょうどど真ん中!図らずもすんごい場所を取れました。

開演は19時30分。定刻通りに始まりました。ヴィンテージ・トラブル登場!うわ~、皆シブい!しかもかつてない至近距離!!う~、これだけでアガルぜぇ~。タイ・テイラーさん、おすまし顔の表情作って待機。始まるは意表を突くスローソング、「Nobody Told Me」だ。

続く2曲目ではロック・チューン(聴いたことなかったけどネットで調べると「Knock Me Down」という曲でした)。いきなりタイ・テイラー、仰向けで観客席へダイブ!え?2曲目でもう?!すぐに僕の頭上にもやって来ました(笑)。重っ、堅っ、筋肉質っ。途中、タイ・テイラーさんは逆立ち状態になったりしながらぐるっと回ってステージへ無事帰還。序盤だから客も元気だし、しっちゃかめっちゃかでしたね(笑)。

MCもかなり多めでした。僕の英語力だと何となくしか分かりませんでしたが…。ジョークも結構言ってたみたいでウケてました。でもジョークは僕の英語力じゃ無理ッス。皆、すごいなぁ。

彼らの特徴としては豪快なロック・チューンとソウルフルなスロー・ソング。この二本立てが基本なんですが、昨年出たアルバム『ChapterⅡ-EPⅠ』があれ?どうしちゃったの?っていうぐらいポップな作品でディスコっぽいのもあったんですね。ライブではそこからの曲がいいアクセントになっていました。「踊ろう!」っていう掛け声とともにちょっと違う雰囲気が出て楽しかったです。

で、やっぱ歌上手いッス。いや、そりゃ当然上手いんですけど、雰囲気が凄くあるというか、やっぱソウルですよね。魂を直接震わせる感じ。歌い方が独特で、後ろにずらして歌う人は割りと多いんだけどタイ・テイラーは前へ食い気味に歌うんです。それが先走ってるっていうんじゃなくてスムーズで、こういう感じでカッコよく歌える人ってあんまり居ないんじゃないかと思います。

まぁ兎に角タイ・テイラーですよ。煽り方が半端じゃないから、こっちは疲れてんだけどまたぐいっとテンション上がっちゃうんです。盛り上げるのがホント上手!僕が今まで見た中では多分一番タフなフロント・マンですね。もう何度フロアに下りてきたことか(笑)。最後は僕の目の前至近距離1mも無いとこで歌ってくれちゃったりしたもんだからもうたまらんす。ここはイケイケ女子なら抱きついちゃうところでしょうな。

終わったのは9時過ぎ。アンコールは2、3分で出て来ましたから、ほぼ2時限歌いまくりの踊りまくりの叫びまくりですよ。しかも最後は必殺の「Blues Hands Me Down」ですから、いや~、何度も言いますがスゴイっす!アゲアゲの「Strike Your Light」とか「Run Like The River」ももうこれで終わりかっていうぐらい振り切ってましたからね、我々も(笑)。みんなもよく頑張りました。

しかしまぁ、一体感が凄まじかったですね。当然パフォーマンスをするのはステージのヴィンテージ・トラブルの面々なんですが、何か一緒にやってるような、勿論それもタイ・テイラーさんのひっきりなしのコミュニケーションがあったればこそなんですが、その強引な楽観性というか、元気ない人もこっちに来て一緒に歌おうよっていう、強引に引っ張り上げてくれるようなポジティビティがそれこそ狭いライヴ・ハウスですから伝播するんです。だからショーが終わってメンバーが舞台に並んで挨拶する時だって、何かオレ達もやったぜっていう、今日は皆で素晴らしいショーをやったんだっていう一体感がバンドにも我々にもあるんです。これはホントに貴重な体験でした。クタクタでしたけど(笑)。

タイ・テイラーさんはいつも心地よく迎えてくれる日本が大好きだって目一杯讃えてくれたけど、でも日本だけじゃないんだな。きっとどんな国に行っても分け隔てなくオープン・マインド。そうやってどこに行ってもこの日見せてくれたような一体感を、親しさを見せてくれるんだろう。

そうなんです。アーティストと観客って距離があるっていうか、やっぱり例え近くに来ても、ちょっとこっちがビビってしまうところがあるんたけど、彼らの場合は実際何度も目の前までやって来たけど、親しさを感じるというか素直にイエーイってなれるんですね。あまりにもフロアに下りてくるんで、こっちが慣れちゃったというのもあるかもしれないけど(笑)、変な緊張感はなく素直に楽しめる、そういう雰囲気がある人たちなんです。

兎に角もう圧倒的なパワーでした。こちらも負けじと応えましたから疲労困憊(笑)。けど、体はクタクタ心は元気、って感じです。うん、我ながら上手いこと言うた。体はクタクタ心は元気。これこそがヴィンテージ・トラブルですね。こりゃしばらくは彼らの曲が頭から離れないぞ。アリガトウゴザイマスッ!!