Amnesiac/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Amnesiac』(2001)Radiohead
(アムニージアック/レディオヘッド)

 

今こうやって聴いてみると、さして違和感はない。メロディアスな曲が多いからだろうか。生の楽器がちゃんと聴こえるからだろうか。恐らくもう、2019年に至って、トム・ヨークのブルースに僕たちが追い付いたからだろう。憂いに満ちた世界がデフォルトとして横たわっている。当たり前のこととして暮らしている。そういうことかもしれない。

ブルース。エレクトロニカだったり、ジャズであったり、ストリングスであったり、音の背景は色々あるだろうが、これはもうトム・ヨークのブルースだ。ここに『KID A』の攻撃性はない。ただ地を這って横に広がってゆくのみ。トム・ヨークが憂いている。そういうアルバムだ。

だからはっきり言って、アルバム全体の印象は散漫な感じは否めない。どれもが独立して立っていて全体としてのバランスは考えてられないようだ。それはこのアルバムの背景、あの『KID A』からこぼれ落ちたもの、と考えれば合点がいく。しかし何事もつまり、こぼれ落ちたものにこそ大切なものはあるのだ。

僕はこのアルバムを聴いて嫌な感じはしない(←この表現もおかしな話だが)。ていうか心地よい。アルバム・ジャケットが物語るように『KID A』で剥かれた牙はここにはない。それになんだかんだ言って、トム・ヨークはポップな人だ。でないとあんな服装はしない。

『KID A』~『Amnesiac』期というのはテンションが振り切ったまんまのかなりのストレス状態で作られたわけだが、そうは言っても常に中指を立てていたわけではないだろう。時に憂いが吐き出されることがある。そうやって吐き出されたブルースが綺麗なメロディや豊かな音楽性によって語られる。

たまには地を這うのも悪くない。そうやって僕たちは日々のブルースをやり過ごす。

 

Tracklist:
1. Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box
2. Pyramid Song
3. Pulk/Pull Revolving Doors
4. You And Whose Army?
5. I Might Be Wrong
6. Knives Out
7. Morning Bell/Amnesiac
8. Dollars & Cents
9. Hunting Bears
10. Like Spinning Plates
11. Life In a Glasshouse

Adult Contemporary/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Adult Contemporary』(2018)Milo Greene
(アダルト・コンテンポラリー/マイロ・グリーン)

 

こういう音楽がどっから生まれたんだろうと彼らのプロフィールを確認するとLA出身だという。あぁLAなのかと意外には思うものの考えてみれば、一見フォーキーな雰囲気にもかかわらず、実際は様々なアーティストを経過したような節操の無さは確かに都会的かもしれない。LAと言っても広いから、都会とは限らないけどね。

様々なアーティストを経過と言ったけど、それは本人たちも自覚しているようで、#1「Be Good to Me」のPVでは何故かロッド・スチュワートで、#2「Young at Heart」ではブルース・スプリングスティーンが登場。80年代当時の彼らのPVを編集したものになっている。公式PVかどうかは知らないけど、だとすればなかなかのユーモア。

#6「Slow」はアルバム『トンネル・オブ・ラブ』期のブルース・スプリングスティーンで、まんま『トンネル~』に入ってそうだ。ちなみにこの『トンネル~』はかの『ボーン・イン・ザ・USA』の後のアルバムで思いっ切り地味だけど割と好きなので、僕的にはツボ。他の曲の元ネタが何かは僕にはよく分からないけど、多分その辺の隙間を突いてくる感じなんだろう。冒頭と途中に挟まれる短いインストのタイトルが「Easy Listening」というのも何か示唆的。

あとこれは前にも言ったが、彼らの音楽というのは箱とか器にみたいなもんで、その中で反響される音こそがマイロ・グリーンということになる。なので、反響させるメロディーというのは、いくら~っぽくても全く問題はない。その~っぽいメロディがどのように反響されるかが大事なのだ。つまりはマイロ・グリーンというのは入れ物で、その存在性の希薄さ、存在などはなから無かったような手応えの無さこそがマイロ・グリーンということになる。勿論これは褒め言葉です。

しかしいくら~ぽかろうが、マイロ・グリーンにしかならないところが面白い。時代とは関係なく、僕たちが今いるところとは別の世界で鳴らされる音楽。ということで、まぁベル・アンド・セバスチャンみたいなもんか。デビュー時から比べると人数は減ったみたいだけど、ベルセバのように長く活動してもらいたい。

 

Track List:
1. Easy Listening Pt. 1
2. Be Good to Me
3. Young at Heart
4. Drive
5. Please Don’t
6. Slow
7. Move
8. Runaway Kind
9. Easy Listening Pt. 2
10. Your Eyes
11. Wolves
12. Worth the Wait

Milo Greene/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Milo Greene』(2012)Milo Greene
(マイロ・グリーン/マイロ・グリーン)

 

米国出身の男女混成バンド。幾つかあったバンドが何となく集まって出来たという経緯もあってか、誰がボーカルだとか誰がギターだとかいう取り決めはないようだ。聴いていても特定の個人が前面に出てくるというのではなく、何となくマイロ・グリーンというバンドがぼんやりと浮かび上がってくるくらい。しかしその靄のかかったぼんやりとした感じこそがこのバンドの記名性と言っていいだろう。

まるで彼岸から聴こえてくるような、或いは人里離れたあるコミュニティから発せられているかのような音像は何を意味するのか。僕たちのリアルな生活とは程遠いファンタジックな音像は、聴き手の脳内でループするドラッグのように幻想的だ。幻想的な旋律は僕たちの奥深くにある遥か彼方の記憶と結びつき、訪れたことのない風景を僕たちの前に現出させる。

それはやはり幻想なのか。音楽と言うものは耳で聴くものであるが、この場合、体全体へ静かに浸透していく感覚がある。音楽を通して転写された風景はしかし聴き手個人のありよう。訪れたことのない風景であろうとそれが喚起されるのは、それが僕たちの体の中にあるもう一つの現実だから。つまり隠し切れない狂気は僕たちのもの。

マイロ・グリーンの音楽が薄ぼんやりと聴こえるのは心の内で鳴る音楽だから。体全体を通して浸透していく音像がいつも揺らめいているのはそのせいだ。言い換えれば、マイロ・グレーンの音楽を鳴らしているのは僕たち自身でもある。

 

Track List:
1. What’s the Matter
2. Orpheus
3. Don’t You Give Up On Me
4. Perfectly Aligned
5. Silent Way
6. 1957
7. Wooden Antlers
8. Take a Step
9. Moddison
10. Cutty Love
11. Son My Son
12. Polaroid
13. Autumn Tree

2019年 ヴィンテージ・トラブル ジャパン・ツアー 4月18日 梅田TRAD 感想

ライヴ・レビュー:

2019年 ヴィンテージ・トラブル ジャパン・ツアー 4月18日 梅田TRAD

4月18日(木)に大阪の梅田TRADで行われた、ヴィンテージ・トラブルのライブへ行って参りました。いや~、凄かった。史上最強のライブ・バンドと称されるのも納得。激しいのなんのって。思ったより年齢層は高かったんだけど、皆、ボーカリストのタイ・タイラーに煽られて踊りまくり。最高に楽しかったぁ。けど、クタクタ…。先ずの感想はその一言です(笑)。

梅田TRAD へは初めて行ったのですが、東梅田商店街を横にスッと入ったところにあって、目の前に来るまでライブ・ハウスとは気付かない。恐らくスマホがないと迷ってました。ありがとうグーグル(笑)。

18時30分の会場から整理番号順に入りましたが、さっきも言ったとおり年齢層は高く皆ちゃんとした大人だし、スタッフも馴れたものでスムーズに中へ入ることが出来ました。早めに入れたので前から5列目ぐらい。しかもちょうどど真ん中!図らずもすんごい場所を取れました。

開演は19時30分。定刻通りに始まりました。ヴィンテージ・トラブル登場!うわ~、皆シブい!しかもかつてない至近距離!!う~、これだけでアガルぜぇ~。タイ・テイラーさん、おすまし顔の表情作って待機。始まるは意表を突くスローソング、「Nobody Told Me」だ。

続く2曲目ではロック・チューン(聴いたことなかったけどネットで調べると「Knock Me Down」という曲でした)。いきなりタイ・テイラー、仰向けで観客席へダイブ!え?2曲目でもう?!すぐに僕の頭上にもやって来ました(笑)。重っ、堅っ、筋肉質っ。途中、タイ・テイラーさんは逆立ち状態になったりしながらぐるっと回ってステージへ無事帰還。序盤だから客も元気だし、しっちゃかめっちゃかでしたね(笑)。

MCもかなり多めでした。僕の英語力だと何となくしか分かりませんでしたが…。ジョークも結構言ってたみたいでウケてました。でもジョークは僕の英語力じゃ無理ッス。皆、すごいなぁ。

彼らの特徴としては豪快なロック・チューンとソウルフルなスロー・ソング。この二本立てが基本なんですが、昨年出たアルバム『ChapterⅡ-EPⅠ』があれ?どうしちゃったの?っていうぐらいポップな作品でディスコっぽいのもあったんですね。ライブではそこからの曲がいいアクセントになっていました。「踊ろう!」っていう掛け声とともにちょっと違う雰囲気が出て楽しかったです。

で、やっぱ歌上手いッス。いや、そりゃ当然上手いんですけど、雰囲気が凄くあるというか、やっぱソウルですよね。魂を直接震わせる感じ。歌い方が独特で、後ろにずらして歌う人は割りと多いんだけどタイ・テイラーは前へ食い気味に歌うんです。それが先走ってるっていうんじゃなくてスムーズで、こういう感じでカッコよく歌える人ってあんまり居ないんじゃないかと思います。

まぁ兎に角タイ・テイラーですよ。煽り方が半端じゃないから、こっちは疲れてんだけどまたぐいっとテンション上がっちゃうんです。盛り上げるのがホント上手!僕が今まで見た中では多分一番タフなフロント・マンですね。もう何度フロアに下りてきたことか(笑)。最後は僕の目の前至近距離1mも無いとこで歌ってくれちゃったりしたもんだからもうたまらんす。ここはイケイケ女子なら抱きついちゃうところでしょうな。

終わったのは9時過ぎ。アンコールは2、3分で出て来ましたから、ほぼ2時限歌いまくりの踊りまくりの叫びまくりですよ。しかも最後は必殺の「Blues Hands Me Down」ですから、いや~、何度も言いますがスゴイっす!アゲアゲの「Strike Your Light」とか「Run Like The River」ももうこれで終わりかっていうぐらい振り切ってましたからね、我々も(笑)。みんなもよく頑張りました。

しかしまぁ、一体感が凄まじかったですね。当然パフォーマンスをするのはステージのヴィンテージ・トラブルの面々なんですが、何か一緒にやってるような、勿論それもタイ・テイラーさんのひっきりなしのコミュニケーションがあったればこそなんですが、その強引な楽観性というか、元気ない人もこっちに来て一緒に歌おうよっていう、強引に引っ張り上げてくれるようなポジティビティがそれこそ狭いライヴ・ハウスですから伝播するんです。だからショーが終わってメンバーが舞台に並んで挨拶する時だって、何かオレ達もやったぜっていう、今日は皆で素晴らしいショーをやったんだっていう一体感がバンドにも我々にもあるんです。これはホントに貴重な体験でした。クタクタでしたけど(笑)。

タイ・テイラーさんはいつも心地よく迎えてくれる日本が大好きだって目一杯讃えてくれたけど、でも日本だけじゃないんだな。きっとどんな国に行っても分け隔てなくオープン・マインド。そうやってどこに行ってもこの日見せてくれたような一体感を、親しさを見せてくれるんだろう。

そうなんです。アーティストと観客って距離があるっていうか、やっぱり例え近くに来ても、ちょっとこっちがビビってしまうところがあるんたけど、彼らの場合は実際何度も目の前までやって来たけど、親しさを感じるというか素直にイエーイってなれるんですね。あまりにもフロアに下りてくるんで、こっちが慣れちゃったというのもあるかもしれないけど(笑)、変な緊張感はなく素直に楽しめる、そういう雰囲気がある人たちなんです。

兎に角もう圧倒的なパワーでした。こちらも負けじと応えましたから疲労困憊(笑)。けど、体はクタクタ心は元気、って感じです。うん、我ながら上手いこと言うた。体はクタクタ心は元気。これこそがヴィンテージ・トラブルですね。こりゃしばらくは彼らの曲が頭から離れないぞ。アリガトウゴザイマスッ!!

Go/Jonsi 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Go』(2010)Jonsi
(ゴー/ヨンシー)

 

ヨンシーはアイスランド発のシガー・ロスというバンドのフロント・マンで、ヘッドライナー・クラスの大物バンドなんですが、私は名前ぐらいしか知りませんでした。ま、ヨンシーという名前に引き寄せられ、なんとなく聴き始めたんですけど、1曲目の「Go Do」からもうぶったまげましたね。ヨンシーさん、冒頭からこりゃ鳥の声マネですか?

歌唱はほぼファルセット。ていうか地声もこんな感じなのか。声変わりしていない少年みたいな、いや少年じゃないなこれは。彼はそのルックスや声からも妖精だなんて称されることもあるようですが、私にはなんだかアンドロイドのように聴こえます。心を持ったロボット。それはつまり少年じゃなく老成しているから。アイスランドですから地理的に見ても地球の歴史が書き込まれたかのような声。ということで、これはやっぱり生身の人の声ではごさいませんな。

この「Go Do」はストリングスや管楽器もふんだんに使われていますが、オーケストラな感じはしない。やはり優雅で中性的。そこにドラム、と言うより太鼓(と言った方が的確か)がドコドコと舞台を少しずつせり上げていくような高揚感をもたらす。曲自体もドラマチックに展開してゆくから、まるでアイスランドの大地をドローンで空撮するかのようなイメージ、山河を駆けてゆくイメージ。つまり祝祭のような音楽ですね。

続く2曲目「Animal Arithmetic」では更にスピードアップし、アクロバティックなドカドカした太鼓が曲全体を引っ張っていく。やっぱり祝祭やね。3曲目の「Tornado」になるとテンポはスローに。この人どっから声出てんの?っていうヨンシーのハイトーン・ボイスを堪能できる曲。まるでソプラノ歌手のようでいながら、かしこまった感はなくポップな仕上がりは流石というべきか。後半に向けてハイトーン・ボイスは益々高くなってクライマックスを迎えます。

後半に入るとそれこそ極寒地を思わせる厳粛なナンバーが続く。最初に述べたように異世界を覗いているような景色が時に足早に、時にゆったりと流れて行く。人類の故郷を感じさせる温かみ。けれどそこには幾ばくかの狂気を孕んでいる。そんな音楽ではないでしょうか。

まぁ兎に角ご一聴を。かつて耳にしたことなないオリジナリティ溢れるサウンドにきっと度肝を抜かれることうけあいです。

 

Track List:
1. Go Do
2. Animal Arithmetic
3. Tornado
4. Boy Lilikoi
5. Sinking Friendships
6. Kolniður
7. Around Us
8. Grow Till Tall
9. Hengilás

(Bonus Track)
10. Sinking Friendships (acoustic)
11. Tornado (acoustic)

Days Are Gone/Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Days Are Gone 』(2013)Haim
(デイズ・アー・ゴーン/ハイム)

 

先日買い物をしていたら、あるアパレル店でハイムが流れていた。しばらくそこにいると、アルバムを通して流していたので恐らく店員の好みなんだろう。ふむふむ、なかなかいい趣味をしている。僕は今後もその店に行こうと思った。てことでハイム。2013年のデビュー作です。

ハイムは米国、カリフォルニアの3人姉妹。なんでも両親もロック・バンドを組んでいたという音楽一家だそうで、幼少のころから家のドラム・セットを競って叩いていたらしい。ライブ映像を観ると、ステージに太鼓を横並びにして3人で叩きまくるなんてのもあって、なかなか個性的。でもこれが結構重要でハイムはリズムなんだと。それもベースじゃなく打楽器のリズム。改めてデビュー作を聴いてみると、最初からそういう記名性が感じられて面白い。

メイン・ボーカルを取ってるのは次女のダニエル・ハイム。彼女はリード・ギターも担当している。ちなみにギターの腕前も相当なものらしく、ストロークスのジュリアン・カサブランカスに呼ばれたり、2018年のフジ・ロックではヴァンパイア・ウィークエンドのステージにゲストとして参加している。

で彼女のボーカルはさっき言ったようにリズムが内包されているから、跳び跳ねていて、リリックもそれを意識してか韻やアクセントを効かせまくり。可愛く歌おうなんて気はさらさらない男前な声も相まって、聴いていてホントに心地よい。甘い#5『Honey & I』だろうが、リズムが内から突いて出てくるもんだから跳ねちゃってしょうがない。メロディとリリックが完全に一体化しています。

コンマ何秒かのタッチでメロディに乗っけてく声はリズム・マシーンが体に内包されているかのようで、そのメイド・イン・ハイム家とも言うべきリズム・マシーンは3姉妹それぞれに埋め込まれているもんだから完全に同期している。長女エスティのベースと3女アラナのギター、そしてコーラスまでもが折り重なる阿吽の呼吸感は姉妹ならではだ。

勿論、キャッチーな曲を書くっていうソングライティングの部分が基本にはあるけれど、曲もリズムに導かれている感じ。だからゆったりした曲でも走っている。単にスピードではない走ってく感覚が心地良い。洗練されたサウンドの2ndアルバムも大好きだけど、3姉妹だけで演奏しているかのような極力詰め込まないサウンドのこのデビュー・アルバムも素敵だ。

モデルみたいにスラッとしてグッド・ルッキンな3姉妹だけど、ガールズ・バンドと一括りにしちゃいけない。男前で小気味よく、ガッツリ恰好いいロック・バンドだ。

 

Track List:
1. Falling
2. Forever
3. The Wire
4. If I Could Change Your Mind
5. Honey & I
6. Don’t Save Me
7. Days Are Gone
8. My Song 5
9. Go Slow
10. Let Me Go
11. Running If You Call My Name

Modern Vampires of the City/Vampire Weekend 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Modern Vampires of the City』(2013)Vampire Weekend
(モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ/ヴァンパイア・ウィークエンド)

 

エズラによるとこのアルバムはアメリカについてのアルバムだそうで、アルバムジャケットもマンハッタン。けれどそのマンハッタンは数十年前のマンハッタンのようで、色もモノクロで雲がちょうどよい具合にかかっているから、それこそ中世のヴァンパイア城のようだ。ヴァンパイア・ウィークエンドの新作がようやく出るってんで久しぶりにこのアルバムを聴き直してみたら、古いアメリカというより古いヨーロッパに近い印象を受けた。

そもそもアメリカはヨーロッパからの移民が多くを占めている訳だから、古いアメリカを描こうとすると古いヨーロッパ的なるというのは当然かもしれないが、つまりそういうところまで意識してヴァンパイア・ウィークエンドはこのアルバムを作ったということだろうか。にしても2019年になってその意味が響いてくるとは。恐るべし、ヴァンパイア・ウィークエンド。

このアルバムはエズラの声から始まるように、彼の声を大々的にフィーチャーしている。実際しているかどうかは分からないが、決して軽くない歌詞が彼の声があることにより、全体としての明るいトーンに繋がっている。やはりエズラの声のアルバムと言っていいだろう。

歌詞は至る所に皮肉っぽいところがあってサリンジャーみたいで僕は好きだけど、多分エズラはインテリだからサリンジャーのようにへこたれない。いや実際には大変な事とか嫌な事ばかりなんだと思うけど、そういうのにマトモにぶつかっていかないというか、インテリだからちょっと経路が普通とは違うんだろう。

やたらインテリって言葉で片付けてしまって申し訳ないけど、ただ不思議とそのインテリが作った音楽が何故か凄く風通しがよくって、それは今回は彼ら流のアメリカのロックということらしいが、多分今までがアフロビートだったり欧米主体の音楽じゃないところを経由してきたからかもしれないし、そういう部分も含め改めてインテリだなって思わざるを得ないけど、やっぱり軽やかなのは面白い。

それに彼の声はやたらめったらよく通るから、ジャケットがモノクロだろうが、歌詞が皮肉めいていようがお構いなしに突き抜けてしまう。陽性だから「Diane Young」(=Dying Youngという意味か?)なんて歌っても全然平気なのだ。実験的で批評的(芸術というものは全てそうかもしれないが)であってもその陽性さは崩さない。要するに、難しい顔をしても何も解決しないということか。

 

Track List:
1. Obvious Bicycle
2. Unbelievers
3. Step
4. Diane Young
5. Don’t Lie
6. Hannah Hunt
7. Everlasting Arms
8. Finger Back
9. Worship You
10. Ya Hey
11. Hudson
12. Young Lion

国内盤ボーナストラック:
13. YA HEY (‘PARANOID STYLES’ MIX)
14. UNBELIEVERS (‘SEEBURG DRUM MACHINE’ MIX)

ChapterⅡ-EPⅠ/Vintage Trouble 感想レビュー

洋楽レビュー:

ChapterⅡ-EPⅠ(2018)Vintage Trouble
(チャプターII – EP I/ヴィンテージ・トラブル)

 

ヴィンテージ・トラブルが2枚組の新作を出しました。2枚組と言っても各5曲入りのEPです。2枚組と言っても2枚目は1枚目のアンプラグドです。なんでまたそんなリリース形態なの?と思いましたが、しばらく聴いてるとちゃんと2枚合わせて一つの作品という気がしてきましたね。

リリース形態も今までと違いますが、中身の方も今までと全然違う。何が違うって曲ですよ。曲の練度がメチャクチャ上がってるじゃないですか。もしかして今流行のソングライター・チームによる共作かと思いましたが、クレジットを見るとこれまで通りボーカルのタイ・テイラーを中心としたバンド内でのソングライティングでした。

そういやタイ・テイラーは今回のEP盤のインタビューで、「ライブの躍動感をパッケージしたかった」みたいなこと言ってますね。確かにこのバンドのスキルは相当なもんですから、ついついボーカルを含めたバンド・サウンドで押し切ってしまうところがあったのかもしれない。それじゃいかんだろう、ということで今回は曲作りにかなり注力したのかもしれませんな。

それにしても。ヴィンテージ・トラブルどうしちゃったの?っていうポップさ。思惑通り、曲の力で持っていく感じが凄くしますね。従来のどストレートなロックンロールはないですが、その分複雑な曲も増えて曲の練度はすっごく上がってる。リリックも手が込んでいて洗練されたライミングやアクセントに動きがあって気持ちいい。あれ、ヴィンテージ・トラブルってこんなことも出来るんや、ってちょっと驚きです。

で、このEPのツボは2枚目ですよ。なぁ~んだ、よくあるアコースティック・バージョンでお茶を濁したのかなんて思っているそこのあなた。確かに私も最初はそう思いましたよ。ところが曲重視の1枚目がここで活きてくるわけです。

先ずバンドの演奏が的確なんですね。しかもトレンドであるラテン音楽の要素を取り入れてくる。パーカッション主体でドライブし、ラストの曲はレゲエのリズムやね。この辺はもう抜群の安定感。しかもアレンジがシンプルですから曲の良さが更に際立つのです。なのでまた1枚目を聴きたくなる。そして1枚目を聴いているとまた2枚目を聴きたくなる。どーです、この幸福な2枚組スパイラル。曲重視の1枚目があっての2枚目のアコースティック・バージョン。なんだかこの2枚組の意図がちゃんと伝わってきたような気がしてきました。

彼らはその名のとおりヴィンテージなソウル、ロックンロール音楽のみをする方かと思っていましたが、跳ねたポップソングでも勝負できるんですね。どーもおみそれしやした。もうこうなりゃヴィンテージ・トラブルは無敵ですな。じゃ次はいつもどおりのロックンロールでぶっ放しますか。

 

Tracklist:
Disc 1
1. Do Me Right
2. Can’t Stop Rollin’
3. My Whole World Stopped Without You
4. Crystal Clarity
5. The Battle’s End

Disc 2
1. Do Me Right (Acoustic)
2. Can’t Stop Rollin’ (Acoustic)
3. My Whole World Stopped Without You (Acoustic)
4. Crystal Clarity (Acoustic)
5. The Battle’s End (Acoustic)

Warm/Jeff Tweedy 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Warm』(2018)Jeff Tweedy
(ウォーム/ジェフ・トゥイーディー)

 

そう言えばウィルコの『Schmilco』アルバムが2016年だから、そろそろウィルコの新しいアルバムが出るんじゃないかとネットでウィルコの新譜を探していたら、ウィルコじゃなくてジェフ・トゥイーディーの新作を発見しました。

なんでもウィルコは現在活動休止中だそうで、その理由はドラマーのグレン・コッチェの奥さんがフルブライト奨学金とかいう学者や研究者といった各種専門家を対象とした国際交流プログラムを受けることとなり、夫婦そろって暫く北欧に滞在することになったためということらしいが、このいかにもウィルコっぽい真っ当な理由の前では、よく分からないながらも納得してしまうしかないわけで。とは言いつつそれはそれでウィルコの新しい音楽は聴けないのかと、僕としてはちょっと困った気持ちになったりもしている。

その埋め合わせってわけでもないでしょうが、ジェフが初のソロでのオリジナル・アルバム『Warm』をリリースした。でもこのアルバムには件のグレン・コッチェが参加しているようなので、ウィルコが活動休止しているのにはもっと他の理由があるのかもしれないとそれはそれで心配になるが、とりあえず今はこのアルバムを聴いてぼんやりしておこう。ちなみに2017年にもソロで自作を含めたアコースティック・カバー・アルバム『Together At Last』ってのを出していたらしいけど、それも僕は全く知らなかった。どっちにしてもジェフのソロが初ってのは意外だな。

音楽の方はいつものウィルコ節がいつものジェフのぼそぼそっとした声で歌われている。サウンドはアコースティック・ギター主体の穏やかなサウンドに時折エレキ・ギターが印象的なフレーズを挟んでくる。曲によっては2本のエレキ・ギターの別のフレーズが両耳から流れてきて(イヤホンで聴くことが多いので)気持ちいいったらありゃしない。穏やかなメロディに穏やかなサウンド。耳障りはタイトルどおりの穏やかなアルバムだけど、ジェフのことだからやっぱ歌詞は穏やかじゃない。和訳がないから正確には分かってないけど。

こういう心地よい音楽はぼんやり聴くに限る。僕はウィルコの、ボーカルに全く寄り添おうとしないバンドの演奏が醸し出す微妙な違和感が好きなんだけど、勿論ジェフのいつものウィルコ節とぼそぼそっとした声が好きだから、今はこれで満足している。ていうか今回もあんまり寄り添ってないか。だから心地よいのだろう。ジェフさん、間を開けずにちゃんとアルバムを出してくれてありがとう。ウィルコのアルバムもそのうち出してね。

 

Tracklist:
1. Bombs Above
2. Some Birds
3. Don’t Forget
4. How Hard It Is for a Desert to Die
5. Let’s Go Rain
6. From Far Away
7. I Know What It’s Like
8. Having Been Is No Way to Be
9. The Red Brick
10. Warm (When the Sun Has Died)
11. How Will I Find You?

A Brief Inquiry Into Online Relationships/The 1975 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018)The 1975
(ネット上の人間関係についての簡単な調査/The 1975)

 

The 1975、およそ2年半ぶりの3rdアルバム。全英全米ともにNo.1になった2ndアルバムで一躍若手ロック・バントの筆頭株となった彼らだか、3枚目ともなると『OK コンピューター』のようなアルバムを作らないといけないと、フロント・マンのマット・ヒーリーはかのレディオヘッドの名盤の名を持ち出した。とはいえ彼らはThe 1975。確かにシリアスな一面もあるが、自身のアイドル性を敢えて持ち出すしなやかさが売りだ。『OK コンピューター』と言われてもなと、半ば冗談として受け止めた我々を尻目に The 1975 は本当に『OK コンピューター』のような強大なアルバムを作り上げた。しかもそれは『Music For The Cars』というシリーズ2部作の1作目になるという。もう一山来るというのは本当だろうか。

オープニングはいつもの『The 1975』のテーマ。オートチューンにゴスペルクワイアと近年のトレンドを恥ずがしげもなく採用しているが、いつもの如くその違和感の無さは、確か前からそんな感じだったよなと我々に思わせてしまう器用さと屈託のなさ。しかし今回はこれまで披露してきたテーマ曲とは異なり才気走っている。これはロック音楽にとってとても重要な事だ。

確かに The 1975 はデビュー・アルバムからジャンルを横断する一筋縄ではいかない存在だった。例えば、誰かに The 1975 とはどのようなバンドかと聞かれれば答えに窮してしまう、悪く言えば無節操で、よく言えばこれまでのジャンルでは形容しがたい新しい魅力を備えていた。しかし今後我々はもう躊躇する必要は無いだろう。彼らは古き良きギター・バンドであり、アンビエントな音階を奏でるエレクトロニカであり、心地よくも煌びやかな80’sであり、首筋に直に接続してくるネオソウルであり、そのいずれもが The 1975 という1個の音像として誰もに納得してもらえるだけのサウンドを確立したのだから。

本作の特徴を歌詞の面で見ていくと、マット・ヒーリーによる一人称の語り口調が目立つ。これまでも実体験を元に新たな物語を作り上げていたヒーリーだが、今回は特に個人的な側面が強くなっている。それは自身のドラッグの問題であったり、いつもの痴話話だったり。とはいえここにいるのは稀代のストーリー・テラーだ。個人的側面が強くなったところで間口が狭くなることはない。まるで他人事のように話し、極限の感情を押し込める本作におけるヒーリーの詩作は恐ろしく切れている。

そう。幾分キャラ先行であったマット・ヒーリーはこのアルバムで堂々と新しい世代のフロント・マンとしての覚悟を示したと言ってもよいのではないか。過剰さに重みが加わったヒーリーの声はありとあらゆる場所へ節操なく飛び移る多種多様なサウンドやストーリーを統べている。彼のボーカリストとしての新たな深みや記名性が The 1975 というバンドに新たなステージをもたらしたと言っていいだろう。

ロック・バンドにはバンドを決定づけるアルバムがある。そういう意味で本作は The 1975 というバンドを決定づけるアルバムと言えるのかもしれないが、先にも言ったようにこの後バンドは『Music For The Cars』という2部作のもう一枚(既にタイトルは『Notes on a Conditional Form』と決まっている)を今年の早い段階でリリースする予定だという。ここまでのアルバムを作り上げしまった以上、この後は『KID A』のような幽玄の彼方に行くしかないのか。それとも彼らには別の頂が見えているのか。いずれにせよ彼らが選んだ道は長く険しい。しかし彼らは持ち前の器用さ不真面目さでそれを乗り越えてゆくだろう。いつもの如く我々に確か前からそんな感じだったと思わせながら。

 

Tracklist:
1. The 1975
2. Give Yourself a Try
3. TOOTIMETOOTIMETOOTIME
4. How to Draw / Petrichor
5. Love It If We Made It
6. Be My Mistake
7. Sincerity Is Scary
8. I Like America & America Likes Me
9. The Man Who Married a Robot / Love Theme
10. Inside Your Mind
11. It’s Not Living (If It’s Not with You)
12. Surrounded by Heads and Bodies
13. Mine
14. I Couldn’t Be More in Love
15. I Always Wanna Die (Sometimes)

日本盤ボーナストラック
16. 102