予感

ポエトリー:

『予感』

 

昨夜用意していた服は朝になって気が変わった

時間もないのにクローゼットから出てこれない

朝のバスの時間、しっかり守ってほしい

雨の予感、五月、クレマチスの匂い

 

あの人が呉れた芥子粒ほどの期待を掌に載せて

生ぬるい息を吹きかければ一閃

飛び跳ねて草叢に消えていった生き物

あの人のもとへ抜け駆けする気ね

 

バスを降りて駅へ向かう広い歩道橋

耳元で歌うアル・グリーンと

優しいオルガンと新しい駅舎を背景に

しとしと歩く人々と私

 

あんなに晴れていたのに今はもう雨

アスファルトが濡れているよ

 

2016年5月

アオイノシシの生態

ポエトリー:

『アオイノシシの生態』

アオイノシシはこじる

地面をこじる

何が埋まってあるのかは知れず

アオイノシシ

懸命にこじる

隣の奥さんの午睡などつゆ知らず

アオイノシシ

懸命にこじる

時限爆弾を掘るような勢いで

明日の事でも書いてあるのか

 

前に向かってひたすら

飯を食うために生きてきた

お前への手向け

ひとつも揺れもしない地面

一向にすり減らない地面

ただ一様にひたすら地面

地面


2017年5月

花びらのロンド

ポエトリー:

『花びらのロンド』

 

家族で醍醐寺に花見に行った。境内にある霊宝館の傍には大きな枝垂桜があり、満開の花を咲かせていた。眺めていると数枚の花びらがゆらゆらと落ちてゆくのがよく見える。花びらは「先に往くよ」って言っているみたいだった。だんだん僕は花びらに見られている気がしてきた。すると花以外にも木や土やお堂や漆喰にも見られている気がしてきた。

知り合いに赤ん坊が生まれた。よく子は親を選んでくると言うが正にそんな感じ。過去のどこかで一緒にいた。「はじめまして」というより「久しぶり」。そんな気さえしてくる。うちの子は8才と4才だが、そういう気持ちは年々強くなってくるから不思議だ。

僕の方が先に地面に現れたに過ぎない。お先ってね。それから僕が先にこの世界から出てったとして、また別のどこかで落ち合う。家族や友人や、好きな人や嫌いな人や、よく知っている人や名前さえも知らない人。いずれみんな、どっかの見えるものや見えないものになって落ち合う。例えば桜の木の下に舞い降りたとして。やがて木の一部となり、花びらとなり、しまいにゃ、じゃあまたねってまた別の場所へ。出会っては別れ、別れてはまた集う。それは時間のない営み。絶え間のない命の旅。僕らにはその記憶が残っている。古い太古の地層のように。

 2013年4月

詩想

ポエトリー:
『詩想』

 

世界大会のやり投げで

アメリカを飛び越え

アフリカを飛び越え

地球を飛び出した

 

君の詩想はコズミック

自然の摂理のハルカカナタ

何処へ行く?

何をする?

 

スカーフの結び目を解いてあからさま

風がヒュッと空を跨いだ

我儘は頭から消え去って煙と化す

 

その吹き出しもコズミック

宇宙から確認できるはずだ


2015年8月