ポエトリー:
『さよならソレイユ』
あいつは町一番の娘に手を出した
僕たちはみんなあいつの勇気を讃えた
その娘は何処からともなく現れた
親の仕事の関係だとか前の学校で事を起こしたとか
でも僕たちはどれも信用していなかった
本当のことは誰も知らなかったが
そんなことがなくても娘は神秘的だった
けれど僕たちはすぐに打ち解けた
僕たちと言ってもそれは‘僕たち’のことで僕のことではなかったが
僕たちの輪の中に彼女がいた
それは僕を満足させていた
僕は一度だけ彼女と二人きりで言葉を交わしたことがある
暑い日に偶然、町に一軒しかない郵便屋で
彼女は僕に尋ねた
「‘さん’がいいのかな‘様’がいいのかな」
僕は自分でそれは相手によるんじゃないかと言ってすぐに慌てた
宛先を詮索しているように思われる、そしてその狼狽ぶりを悟られるって
けれど彼女は何も気付かないふりをして
「相手は大人だからやっぱ‘様’はいるよね」と答えてくれた
いや違うんだ、
僕は君が誰に手紙を送るのかを詮索するっていういやらしい気持ちが働いたわけじゃないんだ
けれど次に僕がしたことと言えば自分がやるべき動作、
つまり自分の手紙に封をするってことだけに集中したいと、ただそれだけで
僕たち二人にはそんなようなことしか起きなかった
彼女はそんなようなことには慣れていた
あいつはそういうところが無かった
聞きたいことはずけずけと聞いた
顔が赤くなるようなことまで平気で聞いた
後で知ったことだけど彼女も言いたいことを言う人だ
僕たちはみんなあいつの勇気を讃えたが
あいつは無造作に言った
「俺は彼女が好きなんだよ」
あいつと娘は僕たちの輪から徐々に離れた
二人はよく似合っていた
僕たちの輪の中に二人がいなくても何も変わらなかった
ある日あいつが一人で戻ってきてもどうってことはないだろう
けれどあいつが一人で戻ってくる前に
娘は町からいなくなった
結局、あいつを除いて僕たちには何ひとつ分からなかった
僕が知っていることはひとつだけ
今年の夏の一番暑い日に彼女が大人に手紙を出した
それだけだ
僕が郵便屋へ行くのは自分が書いた書き物を雑誌社へ送るため
このことはまだ誰にも言ってないけど多分彼女はそれを知っても驚かないだろう
彼女はきっとはそういう人だ
僕は今日も郵便屋へ行く
自分が書いた書き物を出すためだけじゃなく
さようなら!瞬きをして一瞬で何処かへ行った僕のソレイユ
僕はやっぱり 君のことが好きなんだ
2017年6月